転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった 作:yumui
仮王都の玉座に立つ男は、今や全部族の王――ヴェルギリウスであった。
その瞳は黄金に輝き、赤髪は焔のごとく揺れる。
彼の血は、紫の龍アンジェラとの契約により、人を超えた力を宿している。
そしてその血は、ある重大な意味を持つことが判明した。
――分け与えられるのだ。
◇
「……俺の血を飲んだ者は、人を超える力を得る。
だが同時に、俺の意志と責任をも受け継ぐことになる」
21の部族長たちは沈黙の中、王の言葉に耳を傾けていた。
ここに集った者たちは、ただの族長ではない。
大地を歩む狩人、空を翔ける大鳥を駆る民、火山に住まう炎の血族……
それぞれが、部族を支える誇り高き長達である。
「この力は、お前たちの子孫にも伝わる。代償も祝福も――すべて」
「ヴェルギリウス様。なぜ、そこまでして我らに?」
年老いたの族長が問う。
彼は80年を生きた賢者だ。
ヴェルギリウスは短く息を吐いた。
「一人では世界を変えられない。だが、俺たちが血を交わせば――それは《誓い》となる」
そして、彼は右手に短剣を持ち、指を裂いた。
黄金に近い赤色の血が聖杯に落ちてゆく。
「この血を、力ではなく、絆として受け取ってくれ」
それは、力と忠誠の契約ではなかった。
命を未来へ繋ぐ覚悟の儀式だった。
やがて、21人全員が、杯を口にした。
その瞬間――空に雷鳴が響き、神秘の力が彼らの身体に宿る。
彼らの魔力は膨れ上がり、肉体は輝きを帯び、眼差しは王に近づいた。
こうして、彼らは《血誓の戦士》となった。
◇
その一年後、ヴェルギリウスは王命を発した。
「21の部族より最強の戦士を選び、王国戦士団『ギャラルホルン』を創設する」
その名は、伝説に語られる、世界の終わりを告げる角笛の名。
だがヴェルギリウスは、それを新たな始まりを告げる者たちとして掲げた。
各部族から選ばれた精鋭たちは、部族の枠を越えて訓練を重ね、団結していった。
剣、斧、槍、魔法――彼らの力は、人の域を遥かに超えていた。
隊長には、最も指揮に優れた青年グルンディルが任命された。
全身に溶岩のような紋様を持ち、炎を操る猛者である。
彼の号令とともに、ギャラルホルンは進軍を始めた。
◇
最初の標的は、北の山岳地帯を拠点とする巨人族の砦フルグナ。
巨人族は王を失った混乱の中にあったが、それでもなお強靭で、粗暴で、そして容赦がなかった。
「……来たか、チビどもが……!」
立ちはだかるのは、かつて王の副官だった巨人グォズ。
彼の身長は15メートル。
だがその体格以上に、邪悪な魔力を漂わせていた。
「焼き尽くせ!」
グルンディルの号令で、火と雷の魔術が一斉に放たれる。
地面が焼け、空が割れ、巨人たちが呻き声を上げて倒れてゆく。
「……恐ろしい連中だ……!」
グォズは斧を振るい応戦するも、ついに戦士団副長、氷の一族リューザの氷結の剣に討たれた。
砦は陥落。
巨人族の根拠地の一つが崩壊した。
◇
戦いは続いた。
ギャラルホルンは南へ、西へ、各地で巨人を討ち、部族を救っていった。
その名は雷のごとく広がり、ついに巨人たちがこう呼ぶようになった。
「ヴェルギリウスの剣たち」
ギャラルホルンの兵は、戦うだけではなかった。
戦後の村の復興を助け、子どもたちに武芸を教え、魔法の基本を伝えた。
王の意志――「ただ倒すのではなく、世界を変える者たちであれ」
その信念は確かに部族の未来に芽吹いていた。
◇
仮王都。
ヴェルギリウスは玉座に座りながら、ギャラルホルンの戦況を見守っていた。
「彼らは、俺の血だけじゃない。意志を継いでくれている」
傍らに立つアンジェラが微笑む。
「そうよ、あんたの想いは、ちゃんと生きてるわ」
「……俺の力は有限だ。だが、21の血統と、その子孫が未来に続けば――」
「永遠の王国になるってことね」
#
王都は、もはやかつての威厳を失っていた。
かつては21部族の技と魔術が集う栄光の中心だったこの場所も、今では巨人の奴隷都市と成り果てている。
空を突く巨人の足音が響くたび、民たちは膝をつき、地面に顔を伏せて祈る。
願いはただ一つ――「早く、この地獄が終わりますように」。
その巨人たちの頂点に立つのが、50メートルの体躯を誇る巨人王グオネラだった。
だがその王は――とんでもなく、愚かだった。
大量の飯が、大鍋で炊かれていく。
香辛料が混ぜられ、蜂蜜で甘くされ、動物の脂で照りが与えられる。
炊事係となった民たちは、一日中、ひたすら巨人の食事を作らされていた。
その中には、王都の兵士も、巫女も、魔術師もいた。
「……どうして、俺たちが、あんなバカに……」
そう呟いた若き料理係の男の耳に、仲間がささやく。
「静かに。もうすぐだ――“王”が帰ってくる」
#
その頃、王都の外れ、地下の廃坑にて。
赤い髪と黄金の瞳を持つ男、ヴェルギリウスは、21人の部族長たちと密談を交わしていた。
「奴らの目は、飯にしか向いていない。だったら――俺たちは飯になってやる」
「……は?」
誰かが呟いた。だが彼は真顔だった。
「食事用の皿の中に姿を紛らわせて侵入し、王の目前で奇襲する。
王を倒せば、巨人たちは混乱する。奪還の糸口になる」
「正気か? グオネラは五十メートルの巨体、すぐに飲み込まれてしまうぞ」
「他に奴を倒す方法はない。それに奴は愚かだ。勝算はある」
◇
作戦当日。
王都中心の玉座広場。
巨人の王"王庭"グオネラは、皿に盛られた大量の飯を嬉々として見下ろしていた。
その中に、ヴェルギリウスと21の部族長たちはいた。
米に紛れ、皿の上に潜伏する。
匂いも残飯を被り消している。
皿の上から見上げる世界は、異様に巨大だった。
大皿。その上に山と盛られた大量の飯。
そして、皿の向こう側には、巨人王グオネラの醜悪な顔。
その顔が、じりじりと近づいてくる。
「ハラ、ヘッタァ……。ハヤク、クワナキャ……」
――その時、白米の中から、光が弾けた。
「今だ――出ろ!!」
金の閃光と共に、22の影が跳ね起きる。
赤髪と金の瞳を持つ男、ヴェルギリウスが部族長達の先頭に立つ。
「王都の民を、食い物にする貴様を、ここで終わらせる!」
驚愕の声をあげるグオネラ。皿の上で暴れだす武装した戦士たち。
魔術が走り、剣が舞い、皿の上はもはや戦場と化した。
21部族の長たちは、ヴェルギリウスの血によって強化され、
風、雷、火、氷――あらゆる魔力が空中にうねり始める。
「グオネラ様! 皿を落としてくだされば!!」
遠く、下に控えていた巨人の副官が叫ぶ。
だが、グオネラの耳には届かない。
「グ、グオォ……!? イタイッ!? オマエラ、ナンダァァァ!!」
その目は、皿の上で動き回る蟻のような戦士たちに釘付けだ。
だが、ふとグオネラの小さな脳に電気が走った。
「……ア、アレ? サラ、オトセバ……イイ?」
ヴェルギリウスはその表情に気づいた。
「……まずい!」
このままでは、皿ごと地面に叩きつけられる。
それだけで自分たちは全滅する。
「アンジェラ!! 奴の気を引いてくれ!! 皿を落とすって発想を消してくれ!!」
その叫びに応じて、空が割れた。
紫の風が巻き起こり、ひときわ大きな影が現れる。
紫鱗の竜、アンジェラ――かつてヴェルギリウスと心臓を交わした竜。
「おっほぉぉぉぉん! ちょっとぉ! アタシを無視するなんて、どんだけよぉぉぉ!!」
グオネラが、目をそらした。
「……ナ、ナンダ、アレ……オイシソウ……?」
「アタシは食べ物じゃなぁぁぁぁいっ!!」
アンジェラは、空中を舞い、グオネラの頭の周囲をぐるぐると飛び回る。
煌びやかな魔力を炸裂させ、鳴り声を響かせる。
完全に、巨人王の注意がそらされた。
その隙を逃さず、ヴェルギリウスが跳躍する。
炎の魔術を剣に纏わせ、ヴェルギリウスは空中で剣を叩き込む。
「オオオオオオオォォォォ!!?」
斬撃が、グオネラの右の目から顎にかけてを切り裂く。
血が滝のように噴き出す。
「ギャアアアアアアアアア!!!!」
絶叫と共に、グオネラの身体がよろけ――
その巨体が、ついに後方へと崩れ落ちた。
地響きが王都全体に轟いた。
#
「今だ――胸を裂け!!」
皿ごと転がり落ち、瓦礫の上に転がったヴェルギリウスと部族長たちは、
倒れた巨人王の胸へと駆け上がる。
「この刃を、全ての民の怒りとして――!」
21の刃が一斉に突き刺さる。
ヴェルギリウスの剣が、最後に心臓を貫く。
50メートルの巨体が完全に沈黙した。
「終わった……のか……?」
王都の民たちは、遠巻きにその光景を見ていた。
かつて家族を殺された者。
空腹で力を失った者。
絶望に膝をついていた者。
そのすべてが、ゆっくりと立ち上がり、
ひとり、またひとりと、膝を折った。
「――王よ……」
「ヴェルギリウス王よ……!」
歓声ではない。
それは、畏敬と祈りと、感謝の言葉。
ヴェルギリウスは剣を収め、赤く血に濡れた皿の上に立ち、叫ぶ。
「この都は、奪われたままでは終わらない。
今日よりここは――我らの王都として、再び立ち上がる!!」
夕日が差し込む瓦礫の中、
ヴェルギリウスと部族長たちは巨人王の亡骸の上に立っていた。
その姿はまるで――
神話の時代の終焉を告げる戦士たちのようだった。