転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった   作:yumui

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王庭グオネラ

仮王都の玉座に立つ男は、今や全部族の王――ヴェルギリウスであった。

 

その瞳は黄金に輝き、赤髪は焔のごとく揺れる。

彼の血は、紫の龍アンジェラとの契約により、人を超えた力を宿している。

 

そしてその血は、ある重大な意味を持つことが判明した。

 

――分け与えられるのだ。

 

 

「……俺の血を飲んだ者は、人を超える力を得る。

だが同時に、俺の意志と責任をも受け継ぐことになる」

 

21の部族長たちは沈黙の中、王の言葉に耳を傾けていた。

ここに集った者たちは、ただの族長ではない。

大地を歩む狩人、空を翔ける大鳥を駆る民、火山に住まう炎の血族……

それぞれが、部族を支える誇り高き長達である。

 

「この力は、お前たちの子孫にも伝わる。代償も祝福も――すべて」

 

「ヴェルギリウス様。なぜ、そこまでして我らに?」

 

年老いたの族長が問う。

彼は80年を生きた賢者だ。

 

ヴェルギリウスは短く息を吐いた。

 

「一人では世界を変えられない。だが、俺たちが血を交わせば――それは《誓い》となる」

 

そして、彼は右手に短剣を持ち、指を裂いた。

黄金に近い赤色の血が聖杯に落ちてゆく。

 

「この血を、力ではなく、絆として受け取ってくれ」

 

それは、力と忠誠の契約ではなかった。

命を未来へ繋ぐ覚悟の儀式だった。

 

やがて、21人全員が、杯を口にした。

 

その瞬間――空に雷鳴が響き、神秘の力が彼らの身体に宿る。

彼らの魔力は膨れ上がり、肉体は輝きを帯び、眼差しは王に近づいた。

 

こうして、彼らは《血誓の戦士》となった。

 

 

その一年後、ヴェルギリウスは王命を発した。

 

「21の部族より最強の戦士を選び、王国戦士団『ギャラルホルン』を創設する」

 

その名は、伝説に語られる、世界の終わりを告げる角笛の名。

だがヴェルギリウスは、それを新たな始まりを告げる者たちとして掲げた。

 

各部族から選ばれた精鋭たちは、部族の枠を越えて訓練を重ね、団結していった。

剣、斧、槍、魔法――彼らの力は、人の域を遥かに超えていた。

 

隊長には、最も指揮に優れた青年グルンディルが任命された。

全身に溶岩のような紋様を持ち、炎を操る猛者である。

 

彼の号令とともに、ギャラルホルンは進軍を始めた。

 

 

最初の標的は、北の山岳地帯を拠点とする巨人族の砦フルグナ。

 

巨人族は王を失った混乱の中にあったが、それでもなお強靭で、粗暴で、そして容赦がなかった。

 

「……来たか、チビどもが……!」

 

立ちはだかるのは、かつて王の副官だった巨人グォズ。

 

彼の身長は15メートル。

だがその体格以上に、邪悪な魔力を漂わせていた。

 

「焼き尽くせ!」

 

グルンディルの号令で、火と雷の魔術が一斉に放たれる。

 

地面が焼け、空が割れ、巨人たちが呻き声を上げて倒れてゆく。

 

「……恐ろしい連中だ……!」

 

グォズは斧を振るい応戦するも、ついに戦士団副長、氷の一族リューザの氷結の剣に討たれた。

 

砦は陥落。

巨人族の根拠地の一つが崩壊した。

 

 

戦いは続いた。

 

ギャラルホルンは南へ、西へ、各地で巨人を討ち、部族を救っていった。

その名は雷のごとく広がり、ついに巨人たちがこう呼ぶようになった。

 

「ヴェルギリウスの剣たち」

 

ギャラルホルンの兵は、戦うだけではなかった。

戦後の村の復興を助け、子どもたちに武芸を教え、魔法の基本を伝えた。

 

王の意志――「ただ倒すのではなく、世界を変える者たちであれ」

その信念は確かに部族の未来に芽吹いていた。

 

 

仮王都。

 

ヴェルギリウスは玉座に座りながら、ギャラルホルンの戦況を見守っていた。

 

「彼らは、俺の血だけじゃない。意志を継いでくれている」

 

傍らに立つアンジェラが微笑む。

 

「そうよ、あんたの想いは、ちゃんと生きてるわ」

 

「……俺の力は有限だ。だが、21の血統と、その子孫が未来に続けば――」

 

「永遠の王国になるってことね」

 

#

 

王都は、もはやかつての威厳を失っていた。

 

かつては21部族の技と魔術が集う栄光の中心だったこの場所も、今では巨人の奴隷都市と成り果てている。

 

空を突く巨人の足音が響くたび、民たちは膝をつき、地面に顔を伏せて祈る。

願いはただ一つ――「早く、この地獄が終わりますように」。

 

その巨人たちの頂点に立つのが、50メートルの体躯を誇る巨人王グオネラだった。

 

だがその王は――とんでもなく、愚かだった。

 

 

大量の飯が、大鍋で炊かれていく。

香辛料が混ぜられ、蜂蜜で甘くされ、動物の脂で照りが与えられる。

炊事係となった民たちは、一日中、ひたすら巨人の食事を作らされていた。

 

その中には、王都の兵士も、巫女も、魔術師もいた。

 

「……どうして、俺たちが、あんなバカに……」

 

そう呟いた若き料理係の男の耳に、仲間がささやく。

 

「静かに。もうすぐだ――“王”が帰ってくる」

 

#

 

その頃、王都の外れ、地下の廃坑にて。

 

赤い髪と黄金の瞳を持つ男、ヴェルギリウスは、21人の部族長たちと密談を交わしていた。

 

「奴らの目は、飯にしか向いていない。だったら――俺たちは飯になってやる」

 

「……は?」

 

誰かが呟いた。だが彼は真顔だった。

 

「食事用の皿の中に姿を紛らわせて侵入し、王の目前で奇襲する。

王を倒せば、巨人たちは混乱する。奪還の糸口になる」

 

「正気か? グオネラは五十メートルの巨体、すぐに飲み込まれてしまうぞ」

 

「他に奴を倒す方法はない。それに奴は愚かだ。勝算はある」

 

 

作戦当日。

 

王都中心の玉座広場。

巨人の王"王庭"グオネラは、皿に盛られた大量の飯を嬉々として見下ろしていた。

 

 

その中に、ヴェルギリウスと21の部族長たちはいた。

 

米に紛れ、皿の上に潜伏する。

匂いも残飯を被り消している。

 

 

皿の上から見上げる世界は、異様に巨大だった。

 

大皿。その上に山と盛られた大量の飯。

そして、皿の向こう側には、巨人王グオネラの醜悪な顔。

 

その顔が、じりじりと近づいてくる。

 

「ハラ、ヘッタァ……。ハヤク、クワナキャ……」

 

――その時、白米の中から、光が弾けた。

 

「今だ――出ろ!!」

 

金の閃光と共に、22の影が跳ね起きる。

赤髪と金の瞳を持つ男、ヴェルギリウスが部族長達の先頭に立つ。

 

「王都の民を、食い物にする貴様を、ここで終わらせる!」

 

驚愕の声をあげるグオネラ。皿の上で暴れだす武装した戦士たち。

魔術が走り、剣が舞い、皿の上はもはや戦場と化した。

 

21部族の長たちは、ヴェルギリウスの血によって強化され、

風、雷、火、氷――あらゆる魔力が空中にうねり始める。

 

「グオネラ様! 皿を落としてくだされば!!」

 

遠く、下に控えていた巨人の副官が叫ぶ。

 

だが、グオネラの耳には届かない。

 

「グ、グオォ……!? イタイッ!? オマエラ、ナンダァァァ!!」

 

その目は、皿の上で動き回る蟻のような戦士たちに釘付けだ。

 

だが、ふとグオネラの小さな脳に電気が走った。

 

「……ア、アレ? サラ、オトセバ……イイ?」

 

ヴェルギリウスはその表情に気づいた。

 

「……まずい!」

 

このままでは、皿ごと地面に叩きつけられる。

それだけで自分たちは全滅する。

 

「アンジェラ!! 奴の気を引いてくれ!! 皿を落とすって発想を消してくれ!!」

 

 

その叫びに応じて、空が割れた。

 

紫の風が巻き起こり、ひときわ大きな影が現れる。

紫鱗の竜、アンジェラ――かつてヴェルギリウスと心臓を交わした竜。

 

「おっほぉぉぉぉん! ちょっとぉ! アタシを無視するなんて、どんだけよぉぉぉ!!」

 

グオネラが、目をそらした。

 

「……ナ、ナンダ、アレ……オイシソウ……?」

 

「アタシは食べ物じゃなぁぁぁぁいっ!!」

 

アンジェラは、空中を舞い、グオネラの頭の周囲をぐるぐると飛び回る。

煌びやかな魔力を炸裂させ、鳴り声を響かせる。

 

完全に、巨人王の注意がそらされた。

 

 

その隙を逃さず、ヴェルギリウスが跳躍する。

 

 

炎の魔術を剣に纏わせ、ヴェルギリウスは空中で剣を叩き込む。

 

「オオオオオオオォォォォ!!?」

 

斬撃が、グオネラの右の目から顎にかけてを切り裂く。

 

血が滝のように噴き出す。

 

「ギャアアアアアアアアア!!!!」

 

絶叫と共に、グオネラの身体がよろけ――

 

その巨体が、ついに後方へと崩れ落ちた。

 

地響きが王都全体に轟いた。

 

#

 

「今だ――胸を裂け!!」

 

皿ごと転がり落ち、瓦礫の上に転がったヴェルギリウスと部族長たちは、

倒れた巨人王の胸へと駆け上がる。

 

「この刃を、全ての民の怒りとして――!」

 

21の刃が一斉に突き刺さる。

 

ヴェルギリウスの剣が、最後に心臓を貫く。

 

 

50メートルの巨体が完全に沈黙した。

 

 

「終わった……のか……?」

 

王都の民たちは、遠巻きにその光景を見ていた。

 

かつて家族を殺された者。

空腹で力を失った者。

絶望に膝をついていた者。

 

そのすべてが、ゆっくりと立ち上がり、

ひとり、またひとりと、膝を折った。

 

「――王よ……」

 

「ヴェルギリウス王よ……!」

 

歓声ではない。

それは、畏敬と祈りと、感謝の言葉。

 

ヴェルギリウスは剣を収め、赤く血に濡れた皿の上に立ち、叫ぶ。

 

「この都は、奪われたままでは終わらない。

今日よりここは――我らの王都として、再び立ち上がる!!」

 

 

夕日が差し込む瓦礫の中、

ヴェルギリウスと部族長たちは巨人王の亡骸の上に立っていた。

 

その姿はまるで――

 

神話の時代の終焉を告げる戦士たちのようだった。

 

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