転生した異世界が主人公が産まれる2000年前だった   作:yumui

5 / 33
王庭グオネラ

仮王都の玉座に立つ男は、今や全部族の王――ヴェルギリウスであった。

 

その瞳は黄金に輝き、赤髪は焔のごとく揺れる。

彼の血は、紫の龍アンジェラとの契約により、人を超えた力を宿している。

 

そしてその血は、ある重大な意味を持つことが判明した。

 

――分け与えられるのだ。

 

◇

 

「……俺の血を飲んだ者は、人を超える力を得る。

だが同時に、俺の意志と責任をも受け継ぐことになる」

 

21の部族長たちは沈黙の中、王の言葉に耳を傾けていた。

ここに集った者たちは、ただの族長ではない。

大地を歩む狩人、空を翔ける大鳥を駆る民、火山に住まう炎の血族……

それぞれが、部族を支える誇り高き長達である。

 

「この力は、お前たちの子孫にも伝わる。代償も祝福も――すべて」

 

「ヴェルギリウス様。なぜ、そこまでして我らに?」

 

年老いたの族長が問う。

彼は80年を生きた賢者だ。

 

ヴェルギリウスは短く息を吐いた。

 

「一人では世界を変えられない。だが、俺たちが血を交わせば――それは《誓い》となる」

 

そして、彼は右手に短剣を持ち、指を裂いた。

黄金に近い赤色の血が聖杯に落ちてゆく。

 

「この血を、力ではなく、絆として受け取ってくれ」

 

それは、力と忠誠の契約ではなかった。

命を未来へ繋ぐ覚悟の儀式だった。

 

やがて、21人全員が、杯を口にした。

 

その瞬間――空に雷鳴が響き、神秘の力が彼らの身体に宿る。

彼らの魔力は膨れ上がり、肉体は輝きを帯び、眼差しは王に近づいた。

 

こうして、彼らは《血誓の戦士》となった。

 

◇

 

その一年後、ヴェルギリウスは王命を発した。

 

「21の部族より最強の戦士を選び、王国戦士団『ギャラルホルン』を創設する」

 

その名は、伝説に語られる、世界の終わりを告げる角笛の名。

だがヴェルギリウスは、それを新たな始まりを告げる者たちとして掲げた。

 

各部族から選ばれた精鋭たちは、部族の枠を越えて訓練を重ね、団結していった。

剣、斧、槍、魔法――彼らの力は、人の域を遥かに超えていた。

 

隊長には、最も指揮に優れた青年グルンディルが任命された。

全身に溶岩のような紋様を持ち、炎を操る猛者である。

 

彼の号令とともに、ギャラルホルンは進軍を始めた。

 

◇

 

最初の標的は、北の山岳地帯を拠点とする巨人族の砦フルグナ。

 

巨人族は王を失った混乱の中にあったが、それでもなお強靭で、粗暴で、そして容赦がなかった。

 

「……来たか、チビどもが……!」

 

立ちはだかるのは、かつて王の副官だった巨人グォズ。

 

彼の身長は15メートル。

だがその体格以上に、邪悪な魔力を漂わせていた。

 

「焼き尽くせ!」

 

グルンディルの号令で、火と雷の魔術が一斉に放たれる。

 

地面が焼け、空が割れ、巨人たちが呻き声を上げて倒れてゆく。

 

「……恐ろしい連中だ……!」

 

グォズは斧を振るい応戦するも、ついに戦士団副長、氷の一族リューザの氷結の剣に討たれた。

 

砦は陥落。

巨人族の根拠地の一つが崩壊した。

 

◇

 

戦いは続いた。

 

ギャラルホルンは南へ、西へ、各地で巨人を討ち、部族を救っていった。

その名は雷のごとく広がり、ついに巨人たちがこう呼ぶようになった。

 

「ヴェルギリウスの剣たち」

 

ギャラルホルンの兵は、戦うだけではなかった。

戦後の村の復興を助け、子どもたちに武芸を教え、魔法の基本を伝えた。

 

王の意志――「ただ倒すのではなく、世界を変える者たちであれ」

その信念は確かに部族の未来に芽吹いていた。

 

◇

 

仮王都。

 

ヴェルギリウスは玉座に座りながら、ギャラルホルンの戦況を見守っていた。

 

「彼らは、俺の血だけじゃない。意志を継いでくれている」

 

傍らに立つアンジェラが微笑む。

 

「そうよ、あんたの想いは、ちゃんと生きてるわ」

 

「……俺の力は有限だ。だが、21の血統と、その子孫が未来に続けば――」

 

「永遠の王国になるってことね」

 

#

 

王都は、もはやかつての威厳を失っていた。

 

かつては21部族の技と魔術が集う栄光の中心だったこの場所も、今では巨人の奴隷都市と成り果てている。

 

空を突く巨人の足音が響くたび、民たちは膝をつき、地面に顔を伏せて祈る。

願いはただ一つ――「早く、この地獄が終わりますように」。

 

その巨人たちの頂点に立つのが、50メートルの体躯を誇る巨人王グオネラだった。

 

だがその王は――とんでもなく、愚かだった。

 

 

大量の飯が、大鍋で炊かれていく。

香辛料が混ぜられ、蜂蜜で甘くされ、動物の脂で照りが与えられる。

炊事係となった民たちは、一日中、ひたすら巨人の食事を作らされていた。

 

その中には、王都の兵士も、巫女も、魔術師もいた。

 

「……どうして、俺たちが、あんなバカに……」

 

そう呟いた若き料理係の男の耳に、仲間がささやく。

 

「静かに。もうすぐだ――“王”が帰ってくる」

 

#

 

その頃、王都の外れ、地下の廃坑にて。

 

赤い髪と黄金の瞳を持つ男、ヴェルギリウスは、21人の部族長たちと密談を交わしていた。

 

「奴らの目は、飯にしか向いていない。だったら――俺たちは飯になってやる」

 

「……は?」

 

誰かが呟いた。だが彼は真顔だった。

 

「食事用の皿の中に姿を紛らわせて侵入し、王の目前で奇襲する。

王を倒せば、巨人たちは混乱する。奪還の糸口になる」

 

「正気か? グオネラは五十メートルの巨体、すぐに飲み込まれてしまうぞ」

 

「他に奴を倒す方法はない。それに奴は愚かだ。勝算はある」

 

◇

 

作戦当日。

 

王都中心の玉座広場。

巨人の王"王庭"グオネラは、皿に盛られた大量の飯を嬉々として見下ろしていた。

 

 

その中に、ヴェルギリウスと21の部族長たちはいた。

 

米に紛れ、皿の上に潜伏する。

匂いも残飯を被り消している。

 

 

皿の上から見上げる世界は、異様に巨大だった。

 

大皿。その上に山と盛られた大量の飯。

そして、皿の向こう側には、巨人王グオネラの醜悪な顔。

 

その顔が、じりじりと近づいてくる。

 

「ハラ、ヘッタァ……。ハヤク、クワナキャ……」

 

――その時、白米の中から、光が弾けた。

 

「今だ――出ろ!!」

 

金の閃光と共に、22の影が跳ね起きる。

赤髪と金の瞳を持つ男、ヴェルギリウスが部族長達の先頭に立つ。

 

「王都の民を、食い物にする貴様を、ここで終わらせる!」

 

驚愕の声をあげるグオネラ。皿の上で暴れだす武装した戦士たち。

魔術が走り、剣が舞い、皿の上はもはや戦場と化した。

 

21部族の長たちは、ヴェルギリウスの血によって強化され、

風、雷、火、氷――あらゆる魔力が空中にうねり始める。

 

「グオネラ様! 皿を落としてくだされば!!」

 

遠く、下に控えていた巨人の副官が叫ぶ。

 

だが、グオネラの耳には届かない。

 

「グ、グオォ……!? イタイッ!? オマエラ、ナンダァァァ!!」

 

その目は、皿の上で動き回る蟻のような戦士たちに釘付けだ。

 

だが、ふとグオネラの小さな脳に電気が走った。

 

「……ア、アレ? サラ、オトセバ……イイ?」

 

ヴェルギリウスはその表情に気づいた。

 

「……まずい!」

 

このままでは、皿ごと地面に叩きつけられる。

それだけで自分たちは全滅する。

 

「アンジェラ!! 奴の気を引いてくれ!! 皿を落とすって発想を消してくれ!!」

 

 

その叫びに応じて、空が割れた。

 

紫の風が巻き起こり、ひときわ大きな影が現れる。

紫鱗の竜、アンジェラ――かつてヴェルギリウスと心臓を交わした竜。

 

「おっほぉぉぉぉん! ちょっとぉ! アタシを無視するなんて、どんだけよぉぉぉ!!」

 

グオネラが、目をそらした。

 

「……ナ、ナンダ、アレ……オイシソウ……?」

 

「アタシは食べ物じゃなぁぁぁぁいっ!!」

 

アンジェラは、空中を舞い、グオネラの頭の周囲をぐるぐると飛び回る。

煌びやかな魔力を炸裂させ、鳴り声を響かせる。

 

完全に、巨人王の注意がそらされた。

 

 

その隙を逃さず、ヴェルギリウスが跳躍する。

 

 

炎の魔術を剣に纏わせ、ヴェルギリウスは空中で剣を叩き込む。

 

「オオオオオオオォォォォ!!?」

 

斬撃が、グオネラの右の目から顎にかけてを切り裂く。

 

血が滝のように噴き出す。

 

「ギャアアアアアアアアア!!!!」

 

絶叫と共に、グオネラの身体がよろけ――

 

その巨体が、ついに後方へと崩れ落ちた。

 

地響きが王都全体に轟いた。

 

#

 

「今だ――胸を裂け!!」

 

皿ごと転がり落ち、瓦礫の上に転がったヴェルギリウスと部族長たちは、

倒れた巨人王の胸へと駆け上がる。

 

「この刃を、全ての民の怒りとして――!」

 

21の刃が一斉に突き刺さる。

 

ヴェルギリウスの剣が、最後に心臓を貫く。

 

 

50メートルの巨体が完全に沈黙した。

 

 

「終わった……のか……?」

 

王都の民たちは、遠巻きにその光景を見ていた。

 

かつて家族を殺された者。

空腹で力を失った者。

絶望に膝をついていた者。

 

そのすべてが、ゆっくりと立ち上がり、

ひとり、またひとりと、膝を折った。

 

「――王よ……」

 

「ヴェルギリウス王よ……!」

 

歓声ではない。

それは、畏敬と祈りと、感謝の言葉。

 

ヴェルギリウスは剣を収め、赤く血に濡れた皿の上に立ち、叫ぶ。

 

「この都は、奪われたままでは終わらない。

今日よりここは――我らの王都として、再び立ち上がる!!」

 

 

夕日が差し込む瓦礫の中、

ヴェルギリウスと部族長たちは巨人王の亡骸の上に立っていた。

 

その姿はまるで――

 

神話の時代の終焉を告げる戦士たちのようだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。