連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの七海建人と申します。 作:馬鹿め!そっちは本体だ!
”先生”は多少抜けてるとこも含めて愛されてるけど、ナナミン先生はどうだろう。いつか死にそうな背中をほっとけなくて気づいたら生徒に懐かれるという体で囲まれそう。
「それで先生、ひとまず先生にやっていただきたいことというのは……」
「ちょっと待って!代行、見つけた!待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
2人がエレベーターからロビーに出てきたと同時。
すみれ色の長髪をツーサイドアップにした女子生徒が行く手を阻むように割り込んだ。その腰にはサブマシンガンが2丁ぶら下がっていた。
「(生徒は基本銃火器を携帯しているとは聞いていたが、拳銃どころか短機関銃……アメリカ以上の銃社会だな。)」
「……うん?隣の、その、大人の方は……?」
その生徒は突然現れたその白いスーツの大人に困惑を隠せないようだった。七海も銃を持っていることに顔には出さずとも驚いていた。
「首席行政官。お待ちしておりました。」
七海を見て言葉が止まった女子生徒の後ろにもう1人。七海に迫らんばかり長身の、非常に大きな翼を持った黒セーラーに身を包んだ落ち着いた雰囲気の女子生徒が現れた。
「(羽根……七神さんの言っていた”特徴”というのはこれのことか。)」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が今の状況について納得のいく回答を要求されています。」
その他にもリンと同じような耳を持った赤い眼鏡と手袋の生徒と、グレーのセーラー服に身を包んだ生徒が次々と現れ、リンと七海は囲まれるような状態だった。
「(……それ以前に髪色が変わっている人が多い。ここまで同じ髪色の人間がいない……まるでマンガやアニメのようだな……)」
七海が冷静に努めながら、生徒たちやその銃を一通り見てからふと隣の方に視線を向けると、眉間にしわを寄せているリンが目に入った。
「ああ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね。」
「こんにちは。各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。」
リンは露骨に面倒がってる態度を隠そうともせず、作り笑いで4人の訪問者を一瞥した。
「こんな暇そ……ンン、大事な方々がここを訪ねてきた理由はよく分かっています。」
「今、学園で起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」
「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!そのための連邦生徒会なんでしょ!?」
「(学園が自治体とするならば、連邦生徒会は国……なるほど、連邦生徒会長は首相や大統領のようなものか。)」
その後に4人が話した内容によると、自治区の風力発電所がダウンした、矯正局に収容されていた不良生徒たちが脱走した、スケバンのような不良が自治区の生徒を襲う件数が増えて治安が悪化している、出所不明の不法流通した武器や自走兵器の数が2000%以上増加した、と散々な有様であった。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの!?どうして何週間も姿を見せていないの!?今すぐ会わせて!」
「(彼女1人がいないだけでこうも大混乱が引き起こるか。その連邦生徒会長というのは相当な影響力があった人物らしい。)」
「(それはそれとして
飛行機に乗って南を満喫するはずが、日本どころか治安の悪い他国以上に危険なキヴォトスに連れて来られてしまったことに七海は内心で放心しかけたが、今はとりあえず
「お嬢さん。言いたいことも気持ちも分かりますが、ひとまず落ち着いてください。
七海はリンを庇うように彼女の前に出ると、4人の生徒の視線を集めながら、リンから聞いていた話を話し始めた。
「結論から申し上げますと連邦生徒会長はここにはいません。現在失踪中、行方不明です。」
「ええっ!?」
「なっ……!」
「やはりあの噂は……」
「……先生のおっしゃった通り、連邦生徒会長は現在行方不明……こちらでも捜索中ですが、未だ足取りは掴めていません」
リンは自分の前に出てきた七海に面食らったようだが、すぐに表情を切り替えその事実を肯定した。
「結論から言うと、連邦生徒会長がいなくなったことでサンクトゥムタワーの管理者もいなくなり、現在連邦生徒会は行政制御権を失った状態にあります。」
「認証を迂回する方法を探していましたが、そのような方法は一切見つかりませんでした……先ほどまでは。」
「……なるほど。」
七海はなんとなくこの先引き受けることになる面倒ごとに察しがついたようだった。
「それでは、今は方法が見つかったのですか?首席行政官。」
「はい。この”七海建人”先生こそが、フィクサーとなってくれるはずです」
「……それが私にやってほしいことでしたか。要するにこのゴタゴタを何とかする面倒ごとを、その失踪した連邦生徒会長に背負わされた、ということですね?」
「はい、その通りです……この状況下でたびたび申し訳ありませんが」
「いえ、大丈夫です。それも含めてこの仕事を引き受けましたから」
「この人が……ってすごいイヤそうな顔してる!?」
ふと顔を見上げたユウカの目には、不服という表情を浮かべた七海が腕を組んでいる姿が写っていた。ため息をついた姿も合わせると、となりのリンとそっくりに見えるくらいには。
「……まずは挨拶からでしょう。」
さっきまでのダルそうな表情とは打って代わって真面目な表情になり背を伸ばす七海に、他の生徒たちの背中も思わず伸びた。
「はじめまして。七海建人と申します。
「はっ、はじめまして!私はミレニアムサイエンススクールのセミナー所属、会計の……って!今は挨拶とか、それどころじゃなくって!」
それどころという割には七海と同じように腰を曲げて頭を下げていたのに、思い出したかのように頭を振り上げた。
「私はゲヘナ学園風紀委員会所属の1年、火宮チナツです。どうかお見知りおきを」
「トリニティ学園の正義実現委員会3年、羽川ハスミです。副部長を務めています」
「同じくトリニティの守月スズミです。トリニティ自警団で活動しています。よろしくお願いします」
「な、なんでみんな普通に自己紹介してるのよ……?」
「そのうるさい方は気にしなくて結構です。それで先生は……」
「誰がうるさいって!?わ、私はミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカです!覚えておいて下さいね、先生!」
ユウカは1人だけまともに名前も覚えてもらえないのはイヤだったのか、声を張り上げるようにして自己紹介を終えた。
「はい、よろしくお願いします。早瀬さん、皆さん。七神さん、続きを。」
「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」
「連邦捜査部、”S.C.H.A.L.E(シャーレ)”。」
「キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを際限なく加入させることができ……」
「各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」
自治という概念すら超越しているその実態に、4人の生徒は驚きを隠せないでいた。
「七神さんの言う通りに単なる部活ではなく、完全に超法規的機関です」
「その存在自体が戦争を引き起こす火種にもなりかねませんし、なおさら部外者である私をその頭に据える意味も分かりませんが……」
自分を試すつもりか?七海は再び腕を組み、見ていたかどうかも朧気な”夢”を振り返ろうとしながら眉間にしわを寄せた。
「七神さん、それで私は手始めに何をすればいいのですか?多少は対人の戦闘にも心得がありますが。」
「いえ。戦闘の必要はありません。そもそも先生は私たちと違い、銃弾1つで死に至る可能性もありますから……、モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」
『シャーレの部室ぅ?……ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?』
リンが手首の通信機を起動すると、スピーカーからは何とも芯の無い気の抜けた声が聞こえてきた。聞き耳を立てた七海は
「大騒ぎ?」
『矯正局を脱走した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよー?』
脱走した、何らかの因縁がある停学中の生徒・不良を率いている・焼け野原・巡航戦車まで持っている。詳細は聞かずとも、ヘリを使える状況に無いということは明らかだ。巡航戦車まで持っているようであれば、銃器が腕時計感覚で売っているキヴォトスにおいては対戦車ライフルや、ロケットランチャーもある可能性も自ずと浮かんでくる。
『それでどうやら、連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』
『まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな……あっ、先輩!お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!』
お昼ごはんのデリバリー。その言葉を最後に通信は一方的に切られたようで、ユウカたちの目前には通信機を見ながら目と口を開いて固まった七海とリンの姿があった。
「……ッ」
「ここの生徒は有事よりも昼飯の方が大事なんですか。」
まだ姿も知らない生徒相手に怒るを通り越してもはや感心してしまうくらい冷静になってしまった七海だが、リンはむしろ目を細めたアルカイックスマイルの表情で額に青筋を浮かべていた。
「とりあえず状況は最悪の一言に尽きますね。ヘリが使えないとなると車でしょうか……それで、お相手が仰っていたシャーレの建物に何かがあるようですが。」
「ふう……お見苦しいところをお見せしました。シャーレの部室はここから30kmほど離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令でそこの地下に”とある物”を持ち込んでいます」
「とあるもの……確かに。連邦生徒会長による命令で運び出されたものとなると、それが事態の収束の解決に繋がるものと推測できますね。」
「話が早くて助かります。先生、あなたをそこにお連れする手筈なんですが……」
幾分冷静になったのか、固まって2人を見ていたユウカたちにふと視線を向けたリンは口元に薄く笑みを浮かべた。
「……」じーっ
「な、なに……?どうして私たちを見つめるのよ?」
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので私は心強いです。」
「七神さん、彼女たちは……」
「いいんですよ先生。一応ここにいる生徒さんたちは、ユウカさんを除いてそれぞれの学園の治安組織の幹部です。どのみち先生1人だけで向かわせるのは危険ですし、きっと役に立ちますよ」
「ですが……」
4人を巻き込もうとするリンを諌めるように、七海は苦言を呈するがその3人は思いの外やる気だったようだ。
「先生。状況は把握しております。この羽川ハスミ、正義実現委員会の副委員長として必ず先生をお守りします」
「私も同じです。トリニティ自警団として、このような事態のため日々訓練に励んでいますから」
「私は戦闘は不向きですが、先生1人を護衛する分には不足はありません」
巻き込む必要はあるまいと、渋るような表情を浮かべていた七海だったが、ユウカを除いた3人の真剣な眼差しにかつての後輩や同級生の顔を思い出し、根負けしたようにため息をついた。
「……って!私もいるんですけど!?せ、戦闘は苦手ですけど……ああもう!分かりました!私も行きますよ!それでいいですよね先生!?」
「はー……分かりました。ありがとうございます。ですが状況は最悪です。確認できる限り巡航戦車まで出張っているようですので、警告はしておきますよ」
「キヴォトスの正常化のために今、暇を持て余した皆さんの力が切実に必要です。行きましょう。」
「ところで七神さん。状況が状況ですし気が立っているのはお察ししますが、先程から少々暴言が過ぎるかと。代理とはいえ、今はあなたがトップですから余計な混乱や軋轢を生みかねない発言や言動は今後控えるようにお願いします。」
「えっ……あ、その……申し訳ありません。」
意気揚々と玄関まで向かおうとしたリンは、呼び止められていきなり先生らしい説教を受けて思わず反射的に謝罪をして足を止めてしまった。ユウカを含めた4人はその光景に目を見開いた。
「首席行政官相手にも物言いを恐れない姿勢……なるほど、連邦生徒会長が選出しただけのことはあるようですね。」
「そ、そこが基準!?いや確かにあんな首席行政官、見たことないけど……!」
「まあそれは置いといて一先ず現場へ急ぎましょう。5人乗れる車両はありますか?」
「は、はい。今手配します!」
「あの首席行政官が、たじたじに……」
「怒られた後のアコ行政官みたいですね……」
七海に会話のイニシアティブを握られワタワタとするリンに散々な物言いをする4人を尻目に、七海はメガネを手に取り、顔をしかめた。
「……思ったより面倒な
「先生、用意ができました。こちらへどうぞ。」
「分かりました。」
車の用意ができたと声をかけてきたリンに付いていき、それに追随するように後の4人もバンに乗り込んだ。
「……キヴォトスはクソですね。」
道中で起こる爆発や銃声を、スモーク越しに見ながら七海はひとりごちるようにボヤいた。
しれっと罵倒されるゲヘナの横乳行政官とキヴォトスの治安。仕事はできるんですけどね。人間的にできているかというと……イヌ的にはどうかな?
よかったね。ナナミンなら愚痴くらいは聞いてくれるぞ。その性癖にはゴミを視るような目でドン引きされそうだけど。