連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの七海建人と申します。 作:馬鹿め!そっちは本体だ!
穴の開いたビルから風がたなびく音。
破壊されたアスファルトやコンクリートから地面が露出し、細かくなった欠片や土煙が舞っている。
その眼前には、前時代的なスケバンの服装をした不良生徒が各々の武器をぶっ放す様や、その余波で火災が起きる世紀末もさながらの光景が広がっていた。
天気は雲の1つもない忌々しいくらいの快晴。真っ昼間もいいところ、明るい時間帯に起きている分、異常だと認識しずらく、事態に気づくのにも時間がかかりそうだった。
そして銃声、爆発、銃声、爆発、建物や看板が崩れ落ちる音。破壊活動の音が演奏のように重なって空気が大きく震動していた。
「……焼け野原、というのもあながち間違いではなかったようですね。」
ネクタイを緩めながら真っ先に車から降りた七海は惨劇や熱風に顔をしかめて歯を嚙み締めた。
「先生!1人で行かないでください!危ないです!……ってな、なにこれ!?どうなってんのよ!?」
「これは……想定以上ですね。」
「ハスミさん、向こうにいくつか戦車も見えます。トリニティで確認されたのと特徴が一致するのも何台か……」
「ゲヘナの方はヒナ委員長がいますから少しは大丈夫でしょうが、この有様はやはり酷いですね。」
七海に続いて降りてきた5人もこの世の終わりみたいな状況に驚きを隠せないでいた。
「車ではこれ以上は進めそうにありませんね……まだ距離がありますが、致し方ありません。」
「ま、まさか私たちが不良生徒たちと戦わないといけないの!?」
「ユウカ、四の五の言っている場合ではありません。サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すには先生と、シャーレの部室の奪還が必要ですから。」
「それは聞いたけど……!私、これでもうちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が……」
ガキィンッ!!!
キュルキュル……
「お相手は誰がどうこうとか気にする様子は無さそうですよ。」
ユウカの視界は七海がいつの間にか取り出したナタで覆われており、その刀身には潰れてねじ曲がった弾頭が残っていた。
一瞬のその動作にユウカは思わず尻餅をついた。他の3人も同じく驚いているようだ。
「なっ……!なっ……!?なあっ……!?」
「信じられません……!」
「こんなの、委員長でも……」
「先生は、こちらに来られる前は何の仕事をしてたんですか……?」
「驚かせてしまったようですね。銃火器を用いる相手との戦闘経験はありませんが、私も充分戦闘能力は持ち合わせています。」
振り払うようにナタを振ると、地面に鉛玉が音を立てて落ちた。
スーツの中のサスペンダーに武器をしまうと、七海は座り込んだままのユウカに歩み寄った。
「全員を守り切る余裕はありませんが、私は
立てますかと、ユウカの下に膝を付いて右手を差し伸べる。
「ですから今はとりあえず一緒に戦ってくれませんか。言い方は最悪でしたが七神さんの言っていた通り、今の状況の最適化には皆さんの協力が必要不可欠ですので。」
「あっ……はっ、はい!!」
ユウカが慌てたように手を掴むと、七海は左手も使って両の手で彼女の体を引き上げた。
「面倒ですが気張っていきましょう。皆さん、ここからは歩きで向かいます。」
「えっ……あっ、ちょ、ちょっと!待ってください!早いですって!」
ほんの少し頬を赤らめたユウカを気にすることもなく歩き出した七海と、それに追随するように歩き始めた3人を、ユウカを慌てて服の汚れを払いながら追いかけた。
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「……七海先生って本当にキヴォトスの外から来た人なの!?」
物陰に隠れて声を上げながらリロードを行うユウカが見るのは右手にナタを握りしめて、時に銃弾をそれで受け止めながら目で追ってやっとな速さでスケバンたちを蹴散らす七海の姿であった。
七海も銃火器相手に突撃するようなことはしなかったが、それでも物陰で何人かがリロードなどで砲火を止めた瞬間を狙いながら敵の銃を斬り壊しながら戦況を切り開いていた。
『最前線でしかも指揮もある程度取っているなんて、にわかには信じがたいですね。』
インカム越しに聞こえるチナツの声は冷静ではあるが驚きが見て取れた。後方支援役である自分のサポートまでしながら、全員をカバーするその一騎当千の立ち回りは七海に対して畏怖の感情さえ感じさせた。
「先生。閃光弾準備完了です!」
『了解。離れますから合図をしたら集まっているところに投げ入れてください…………今です!』
「閃光弾、行きます!」
ダアンッッッ!!!
素早く離れる足音と張り上げた声による合図を聞いた瞬間、オーダーメイド閃光弾が投げ出され、脳を震わせるほどの轟音と震動が空気を叩いた。
それを最後に、この領域での戦闘の騒音は鳴り止んだ。
『ここらはこれで片付いたようですね。一度集合しましょう。火宮さん、治療の準備を。恐らく早瀬さんが一番被弾しています。』
『はい、先生。』
「わ、私は大丈夫ですよ!」
「いえ、ここまで随分と進んできましたから、ここから先はより過酷な戦場になります。」
「せ、先生!?」
無線越しの通話を聞いたユウカは思わず足を止めることに異を唱えたが、それはいつの間にか戻ってきた七海に否決された。
「とりあえず武器の調整も含めて少し足を止めましょう。かなりいいペースで進んでいますからそれくらいの余裕はあります。ほら、シャーレの部室も見えてきましたよ。」
七海はユウカの近くに屈むと、土煙に揺れるシャーレの部室を指さした。
「あ……ホントだ。結構進んでたのね……」
「そういうことです。立てますか?」
「だ、大丈夫です!」
今度は七海の手を借りずに立ち上がったユウカは、スカートの埃を払って七海の前に立った。
「せ、先生こそ休まないと!一番危ないのは先生なのに、ずうーっと前線にいるんですから!」
「私は特に負傷していませんが……」
「そういう問題じゃありません!ほら!早く行きますよ!」
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「大きな怪我は無いようですね。安心しました」
「か、過保護すぎませんか?あと、ち、近いような……」
「それはすみません。」
膝を折って、座り込んでいるユウカの様子を確認していた七海は近いという発言にすぐさま立ち上がって数歩下がった。
「あなたには何度もヘイト役を買わせてしまっていたので少し気にかけてたんです。早瀬さん。」
「いえ……って、それを言うなら先生もですよね!?なんで戦闘に参加するどころか最前線張ってるんですか!?」
「先生には驚かされるばかりですね。首席行政官へのお説教も去ることながら……」
「一応は社会経験のある大人ですから。上に立つものとして毅然とした態度も確かに必要ですが、毅然であることと不躾なのとは違います。」
ユウカの隣で壁に寄りかかり腕を組みながら、ハスミに答える七海の顔はどこか遠い目をしていた。*1
「まあ七神さんも余裕の無い立場です。あまり悪く言わないであげてやってください。」
「これが大人の余裕……」
「大人の余裕というか、これはある程度の良識の範囲内ですよ。」
大人オブ大人。スマートオブスマート。七海建人の大人としての在り方は既に4人からの尊敬の視線を強めていた。*2
「とりあえずはシャーレの奪還も目前に入ってきました。ここからは更に気を引き締めて行きましょう。」
「そうですね。ですが先生、尚更あまり前線を張りすぎないでくださいね……?私たちとは違い、先生はそこまで肉体的な強度も私たちのようには行かないのですから……傷を負ったらおしまいなんですからね?」
「もちろんそれは気を付けますよ火宮さん。自分が無敵であると驕るつもりはありませんから。」
「それでも先生はすごいですよ。戦闘能力もですが、指揮も素晴らしくていつも以上にやりやすいです。」
「確かに……普段より戦いやすかったかも?」
「買いかぶりすぎですよ。私に指揮官の経験はありませんから。専ら私は現場の人間です。」
「謙遜なさるのは大人として素晴らしいことだと思いますが……ご謙遜以上に先生の能力は高いですよ?」
最前線を張り、呪術界を牽引していた1級呪術師の一員であり、事実に即して己を律するをモットーとしていた七海。実力を過信しない慎重さを持ち、何より呪術師には珍しいかなりの人格者であるからこそ、生徒の安全を確保するため簡単に(本人談)指揮も取りながら戦っているだけである(本人談)。
「失礼……はい。七海です」
『先生。この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました』
小休止を挟んで会話していた中、七海たちにリンからの通信が入った。
『狐坂ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です』
『似たような前科がいくつもある危険人物です、気を付けてください』
「分かりました。シャーレももうすぐ奪還できそうなので、早いとこ片付けておきます。」
『了解です……その、先生が戦えるのは分かりましたがくれぐれも無理をなさらないようにしてください。ワカモはかなりの手練れですので。』
「肝に銘じます。」
「狐坂ワカモ……SRTに逮捕されたとは聞いていましたが、よりによって彼女でしたか。」
「先生、今回ばかりはあまり前に出すぎないことを強く推奨します。」
「一応はそのつもりです。まあそもそもでヒットアンドアウェイに徹してはいますが……」
「その割には明らかにヒットの方が多いですよね!?」
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「どうやら連邦生徒会は来ていないようですが……1人、かなり強い何者かがいるようですね。」
「まあそれはいいでしょう。それよりもあの建物に何やら連邦生徒会が大事にしているものがあるのは確か……フフ、壊してしまわないと気が済みませんね……」
場所は変わり、シャーレの部室近く。狐の面をつけて和服を基調とした制服に身を包んだ女子生徒が不敵な笑みを浮かべて嗤っていた。
「何はともあれ、久しぶりに楽しめそうです。ウフフ♡♡」
おまけ
ハナコとコハルとナナミン
「うふふ♡コハルちゃん、昨日私が押収されたアレ……見てくれました?」
「バッ……馬鹿じゃないの!?押収した雑誌を読むなんて、正義実現委員会のこの私がするわけないでしょ!?それになんでこんな所でまで水着でうろついてるのよ!?」
「あら?水着はお外で着るものでしょう?もしかして……コハルちゃんはお外では何も着ない派ですか?」
「そそそそんなこと一言も言ってないじゃない!エッチなのはダメ!しけぇ!」
「執行猶予くらい付けてあげなさい。ハナコさん、水着でいることは法律に反したりしませんが、TPOと公序良俗には配慮してください。あと、そもそも私を挟んで会話しないでください。私はお2人の仲介役や窓口では無いのですが」
「2人で挟むなんて、そんな大胆な……///♡」
「つくづく良い性格してますよねアナタ」
「それとコハルちゃん、私は押収されたものについては雑誌なんて一言も言ってないのですが……もしかして、読んじゃったんですか♡」
「あ、あわわ……」
「その辺にしておやりなさいあとコハルさん。セクハラになるのでとやかくは言いませんが、押収されたものを検閲という名目で勝手に見るのはシンプルにモラルが無いですよ」
「あ、あうう……ごめんなさい」
「私もからかいすぎましたね……そうだコハルちゃん♡おわびに先生を私の蛇口で水浸しにして水の滴るイイ男にしちゃいますね♡」
「え、エッチなのはダメェ!死刑ェ!!」
「本当になんなんですかアナタたち……」
こんなやり取りをしてほしい。
ハナコの暴投じみた変化球をキャッチして剛速球火の玉ストレート(大人なりのオブラート包み)で返すナナミンがみたい。