異世界迷宮ちゃんは入り組み惑っている   作:yubeshiski

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 この作品は、原作である書籍版の『異世界迷宮でハーレムを』(執筆時点で最新13巻)を丁寧に下地にしているつもりですが、その上に妄想過多の独自解釈ルールをてんこ盛りで乗っけています。また、独自解釈ルールであっても強めに断定する、という芸風で書かれています。



<プロローグ>
彼女の終わり、迷宮の始まり


 

 ギルド神殿で〈固定〉という祝福を受けることができる、とセリーは言った。

 

 

 〈固定〉という祝福を受けたヒトは、他のジョブに転職することはできなくなる代わりに強くなる、とされている。

 ヒトによっては強くなるのみならず、装備品が現れることがあるらしい。ギルド守護神からの贈り物だとか。その装備品には必ずスキルが付くという。〈固定〉で出てくる装備品やどの能力が強くなるかは、運まかせだと考えられている。

 

 だが、それは少し異なる。

 

 実のところ、〈固定〉の儀式の間、そのヒトには〝再キャラクター設定〟の画面が提示されている。操作をすれば、装備や能力を自分で選ぶことが可能なのだ。

 

 操作できれば、だが。

 

 その画面は()()()()()()()()()()()()になっている者だけに、閲覧権限と操作権限がある。〈再キャラクター設定〉がなければ見えないし、操作することもできないということだ。

 当然、〈再キャラクター設定〉がオンの者など、ミチオ君以外にはいない。

 結局のところ、普通は儀式のあいだ、せいぜい「良い物をください」と祈って待つ以外ない。

 

 待つとどうなるか。

 

 〈固定〉による再キャラクター設定には、儀式の間だけしか操作できないというタイムリミットがあり、儀式が終わった時に何も変更していないと〝()()()()()()()〟が選択される。

 

 

 〈固定のデフォルト設定〉

  ・ボーナス装備やボーナス呪文などを含むキャラクター設定をランダムに1つ選択し、

  ・残分を能力値にランダムに割り振る

 

 

 ここまで来るとランダムなので、一般的な認識通り運まかせだ。

 

 タイムリミットが来てデフォルト設定が適用された結果、〈アクセサリー2〉である〈決意の指輪〉を得て、伝世の品として子孫に残すエルフもいた。

 〈クリティカル率20パーセント上昇〉を得て、〈固定〉による強化をより大きく体現する竜騎士もいるだろう。

 〈ボーナス武器6〉を引き当てるも、Lvによるボーナスポイントが足りないため得られず、能力値の上昇だけに留まる者もいるかもしれない。惜しい。

 〈ガンマ線バースト〉を得る者もいるだろうが、日常で「ガンマ線バースト」というワードを思い浮かべる機会はないので、ボーナス呪文を得たことに気づくこともなく一生を終えるだろう。哀悼の意を表すしかない。

 

 これが、〈固定〉の裏側で起こっている事象である。

 

 

* * *

 

 

 話は変わる。

 

 

 自殺の決意をする前に、と例のサイトには書かれていた。

 

 自殺への誘惑を絶ち、異世界で生きることを選んだ者は、異世界迷宮の世界へ降り立ち冒険を始めることができる。

 

 では、誘惑を絶ち切れなかった者は?

 

 それが彼女だった。

 基本的にのんきで鈍感な彼女だったが、ここのところずっと逃げ場がなく追い込まれていた。

 呼吸は浅く、しなくてはいけないことがいっぱいあるのに、頭がぼうっとして身体が思うように動かせずに時間だけが過ぎていく。

 夜もあまり眠れない。窓の外が白んでくるのを見て、ああ、また眠れなかったと落ち込む。

 

 もう、しんどいな。

 

 ふっとマンションのベランダから下を覗き込んだ。

 

 何なら飛び降りてしまおうかなという心持ちだったが、それなりに高いマンションからしっかりと真下を見下ろすと、その高さにぞわっと肌が粟立った。

 首筋に悪寒が走り、少し遅れて足がぶるぶる震えた。

 足がすくむとはこういうことかと実感した。

 

 そろそろと、もう一度下を覗き込んでみた。

 さっきほどではなかったが、じわじわと悪寒は大きくなる。

 

 それでも気を強く持って、汗ばむ手で手すりをしっかり掴み、上半身を外に乗り出してみた。

 風が吹いたわけでもないのに、運動音痴の彼女はバランスが上手く取れず、身体がぐらついた。

 落ちる、と思った。

 

 一気に青ざめた。

 気が遠くなるようなめまいを感じた。

 慌ててばたばたとあがいた結果、偶然だが体勢が戻り、無様にベランダに尻もちをついた。

 

 呼吸は荒く、心臓の音がはっきりと聞こえる。

 べっとりと冷や汗をかいていた。

 

 これは無理だなと思った。

 彼女は賢くもなく小心者だった。

 

 

 しかし、次の機会では恐怖を感じる余裕などなかった。

 

 

 絶望、

 嘆き、

 憤り。

 

 かき乱された心で、飛ぶように手すりを越えた。

 全部消えろと強く呪った。

 

 見慣れたベランダが加速度をつけて離れていく。

 スピードに比例するように恐怖心のメーターもぷつんと振り切れた。

 もう無理だ、全部嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 

 誰かが凄まじい叫び声を上げているのが聴こえた。

 それが自分の口から出ていることに気付かなかった。

 

 彼女は何も考えない世界に逃げ込むのが得意だった。

 私は関係ない、私は何ともない。

 何が起ころうとも、私は知らない。

 全身全霊で現実から目をそらす。

 

 しかし、当然地面からは逃げられない。

 強い衝撃、途切れた意識。

 それが彼女の人間としての最期だった。

 ()()()()()()()()()()、表示。

 

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 

 ん? 最後の?

 

 見間違えじゃないよ、最後のは。

 死んですぐに〈キャラクター設定画面〉が表示されたってこと。

 ほらアレだ、いわゆる転生前に聞かれるヤツだ。

 「次どんなんにする?」って。

 

 余韻ゼロ?

 まあ、タイパ時代だからね、ノータイムくらいがちょうどいいでしょ。

 

 

 ミチオ君がパソコンで見た〈キャラクター設定画面〉は、こんな風に自殺者が転生する際にも脳裏に表示されるし、選ぶことができる。

 しかし、恐慌の最果てで何もかも拒絶した上で意識がない者の前に〈キャラクター設定画面〉が現れたところで、どうなる?

 脳波のレスポンスは皆無なので、当然何もできないままタイムリミットが来て、そして〝()()()()()()()()()()()〟が採用される。

 

 

 〈自殺者のデフォルト設定〉

  ・〈ブラヒム語〉を選択し、

  ・〈ボーナス武器2〉〈サードジョブ〉〈鑑定〉〈詠唱省略〉を選択し、

  ・残分を能力値にランダムに割り振る

 

 

 そして自殺者は、()()()()()()()()()となる。

 具体的には彼女はこうだった。

 

 

 〈キャラクター設定〉

  ボーナス武器2:3pt、サードジョブ:7pt、鑑定:1pt、詠唱省略:1pt

  腕力上昇:2pt、体力上昇:4pt、知力上昇:3pt

  精神上昇:1pt、器用上昇:1pt、敏捷上昇:2pt

 

  名前:設定なし

  性別:♀

  年齢:0歳

  種族:()()

   種族特性:ダンジョンウォーク有効

  階層:1階層(1階層)

  ジョブ1:()()

   スキル:階層紡ぎ

   効果:精神小上昇、MP微上昇

  ジョブ2:設定なし

  ジョブ3:設定なし

  装備:損壊(そんかい)奇魂(くしみたま)(装備破壊付与、クリティカル発生)

 

 

 

* * *

 

 

 迷宮は生き物だと考えられている、とロクサーヌは説明した。

 

 50階層に至ると地上に入り口を開き、近辺に魔物を放ち、ヒトを迷宮内に招き入れる。

 迷宮内でヒトが魔物に倒されると、吸い込まれるように消えてしまう。迷宮が消化吸収しているといわれている。

 迷宮の中は魔物であふれているが、退治すると価値のあるドロップ品を落とすため、一攫千金を狙う者は後を絶たない。

 苦難を乗り越え迷宮の最奥ボスを討伐すると、迷宮を殺すことができ、また、ギルド神殿と呼ばれるアイテムを得ることができる。貴族になり領地運営をするためには、不可欠となる重要な装置である。

 

 これは、後に〝ヒイラギ村の迷宮〟と呼ばれ、そして討伐される、迷宮それ自身の話。

 

 

 

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