異世界迷宮ちゃんは入り組み惑っている 作:yubeshiski
プロローグとして冒頭に2話挿入しました。
迷宮が討伐されると周囲の迷宮の難易度が下がる、とセリーは説いた。
迷宮が討伐された直後は、その近くの迷宮は現在攻略が進んでいる階層が最終階層となることが多いらしい。同じことをハルツ公とゴスラーも口にしていた。
〝仲間〟
〝共生関係〟
これらの言葉のニュアンスに近い、この異世界でよく知られた方法を皆さんもご存じのはずだ。
そう、〈パーティ〉だ。
この異世界では〈パーティ〉を組むことに、こんな特徴がある。
〈パーティ〉
・探索者などが〈パーティ編成〉を使い、同意した者とパーティを組むことができる。
・パーティメンバーは最大6名。
・〈フィールドウォーク〉などの移動呪文で移動できるのは、パーティメンバーのみ。
・パーティメンバー同士は離れていてもどの辺りにいるか感知できる。
・経験値はパーティメンバーで分割取得する。
・各メンバーのジョブ効果はパーティメンバーにも適用される。
最後のジョブ効果だが、例えば、鍛冶師がいるパーティで鍛冶師がやられてしまった場合、鍛冶師のジョブ効果である〈腕力中上昇〉が効かなくなるはずだ。それを魔物から見た場合、ヒトのパーティの
何が言いたいかお分かりだろうか。
つまり、迷宮も〈パーティ〉を組むのだ。
* * *
1階層のその向こう、黒い揺らぎの先に、迷宮ちゃんは目を進めた。
光。
眩しい。
太陽の日差し、だと思った。
眩しすぎて何も見えないが、はっきりと温かみを感じるこの光は、太陽の日差しだ。
17年振りの陽光は刺激的だった。
徐々に明るさに慣れて、少しずつ周りの色が認識できるようになってきた。
頭上を見ていた。
青く抜けた空。白く流れる雲。
空との稜線、ちらりと残った雪を冠した、灰色の切り立った岩山が周囲を囲む。
目線を下げていくと、緑の草原が谷底に広がって穏やかに波打っているのが見えた。
遠くに、崖の上から落ちる豊富な水量の滝があり、丘を大きく縫い流れる川に注いでいた。
滝の水音が谷に響き、霧のような水しぶきがきらきらと光を反射しながら風に乗って漂う。
草原のあちこちにたたずむ茶色の牛も見える。
ずっと生暖かい穏やかな薄暗闇にいた迷宮ちゃんには、鮮やかな色の刺激が目に痛い。
しかし、その刺激すら喜びや嬉しさに感じる。
青い空は、なんて青いんだ!
緑の草原は、なんて緑なんだ!
滝の水音、川の瀬音、そよぐ風音。なんてリアルなんだ!
あと牛!
……牛?
違うかも。なんかフォルムが牛じゃない。
ミノ Lv1
そうそう、ミノだ。
これは見慣れてた。4階層から出てくる魔物だ。
なるほど、外の世界でも魔物はいるんだな、と迷宮ちゃんはひとりごちた。
ミノってこんな色をしていたんだ。
迷宮の中は仄暗いため、色がはっきりしなかった。外の世界は太陽の日差しの下だから、色が鮮やかだ。
ふと、近くにいるミノと目が合った。
ミノは、迷宮ちゃんが〈境界接合〉で創生した黒い扉を見ていた。だから目が合ったと感じたのだ。
不意に、迷宮ちゃんの頭の中で文字が浮かんだ。
このパーティに加入しますか?
はい いいえ
迷宮ちゃんは驚いた。
パーティ? 加入?
ミノが聞いているのだろうか。
パーティとは、仲間になりましょうということだろうか。
仲間になるとどうなるのだろうか。
ゲームみたいに旅に出たりするのだろうか。
ミノと一緒に敵と戦うのだろうか。
敵って……勇者とか?
わたしは、誰かに迷宮に入ってほしい。見てほしい。それが勇者でも何でも。
迷宮ちゃんは「はい」を選択した。
・・・
・・・
・・・?
何も起こらないような……?
いや、ぼんやりと遠くに白い枠のような物が見える、というか感じる。
崖の上のそれほど遠くないところと、川の流れに沿って渓谷を下ったあたりと、あとは崖の向こうの少し遠めに2つほど。
これがパーティ?仲間?だろうか。
何かわからないかと自身を〈鑑定〉してみた。
名前:設定なし
性別:♀
年齢:17歳
種族:異界
種族特性:ダンジョンウォーク有効
階層:54階層(50階層)
ジョブ1:境界門 Lv1
スキル:境界接合、パーティ編成
効果:精神中上昇、MP小上昇、知力微上昇、階層微増
ジョブ2:迷宮 Lv50
スキル:階層紡ぎ
効果:精神小上昇、MP微上昇
ジョブ3:魔物溜まり Lv14
スキル:魔物湧き、転出
効果:体力中上昇、MP小上昇、知力微上昇
装備:
(装備破壊付与、クリティカル発生)
パーティメンバー:*1
リギの迷宮 境界門 Lv24
リギ手前の迷宮 境界門 Lv1
ブラウゼ湖の迷宮 境界門 Lv8
ニジマスの滝の迷宮 境界門 Lv2
そうみたいだ。
パーティメンバーの欄に、自分と同じく〈境界門〉となっている迷宮の名前を4つ見つけることができた。この白い枠は仲間の迷宮の4人で間違いなさそうだ。
うれしい。すごくうれしい。
そういえば、迷宮ちゃんが高校生のころ、担任が「修学旅行の班分けは5~6人で好きな者と組め」と言い出したことがある。
自分から声を掛けるスキルのクールダウンが久しく明けない迷宮ちゃんは、最後に余ったみそっかすのようになるのを想像して、気が滅入った。
しかし、神現る。
班分けタイムに入った直後、前の席の快活な男子が振り向いて「この6人で班、組まね?」と、迷宮ちゃんも含めたうしろの席の6人に提案してくれたのだった。後光が射してた。
いいよー、と快諾する他のメンバー。もちろん、迷宮ちゃんにも断る理由がない。
こんなラッキーなこともあるんだなあ、とうれしくなったことを思い出した。
ちなみにその男子は、迷宮ちゃんのうしろの席の女子が目当てで、修学旅行中に告白して付き合うことになったのだが、周囲に疎い迷宮ちゃんは気づかずじまいだった。
こうして迷宮ちゃんは、17年ぶりに自分以外の誰かと巡り合うことができたのだった。
スイスに、シュタウビファル(Stäubifall)という滝があるウンターシェヘン(Unterschachen)という、たいそう美しい村がありまして、迷宮ちゃんが生えたところはそのイメージです。
この村の美しさやパノラマ感を文章で表現できない圧倒的力不足……!
よろしければ検索してみてください。