続かない
私の前世と今世を比べると、あまりにも差異が多い。
この出だしで最早語るまでもないだろうが、私には地球で生きた日本人の記憶…いわゆる、「前世の記憶」というものがある。
が、しかし。それは今世においてなんのアドバンテージにもなりはしなかった。
その理由は前述した通り、あまりにも多すぎる差異。
私が生を受けた場所は、なにもかもが前世と隔絶していた。
M78星雲。それが今世の故郷の名前。
もうお分かりだろう。私は宇宙人として生まれてしまったのだ。それも、ウルトラウーマンに。
勘弁してくれ。ウルトラマンなんてセブンの再放送くらいしか見たことがない。
細かい設定もわからないし、これから何が起こるのかも知らない。
カラーリングごとに種族が分かれているなんて、今世で初めて知ったくらいのウルトラマン知らずだ。
しかし、この星に生まれたからにはうじうじしてもいられない。
前世で科学者として生を終えた私は、今世でも同じ道を辿ることにした。
この星の文献を漁るのに明け暮れる日々。
そんな私を今世の両親は、「ブルー族の気質が強く出た子だ」と受け入れてくれた。
その愛が苦しくなって前世のことを洗いざらいぶちまけたときも、「それでも愛する我が子だ」と抱きしめてくれた。
流石はかの有名なウルトラの父を教え導いた世代の2人というべきか。寛大な2人に私は心から感謝した。
その愛に応えるために、私はさまざまな技術開発を手がけた。
かの有名なベーターカプセルに命の固形化。
変身やパワーアップに使われてる技術は、大元を辿れば私が提唱した理論に基づいている。
…流石に
そんなこんなで過ごすこと、15万年。
私はしばらく復帰が困難になるような痛手を負うことになった。
突如、光の国を強襲した凶暴宇宙鮫ゲネガーグ。奴が口から放つ光線と、その口腔に取り込まれた
結果、私は療養を余儀なくされた。
ウルトラの父からは「ルミナス、君は少し休むことを覚えるといい」と苦言を呈され。
ウルトラの母からは「これを機に伴侶探しでもしてみたらどう?」と揶揄われ。
駆り出されることになったゼロの弟子を自称する若手からは「ルミナス博士が休むなんて、隕石でも降るんでございましょうかね!」と悪意ない笑顔を向けられた。
ムカついた。特に最後のが。
ウルトラマンの中でもベリアル、トレギアと肩を並べるくらい卑屈寄りの私は、それはもう盛大に吹っ切れた。
流石にどこぞのアホみたくプラズマスパークに触れるなんてことはしなかったが、「自分探しの旅をします。探さないでください」と実家に書き置きを残して宇宙を巡ることを決める程度には吹っ切れた。
とは言え、行く当てがあるわけでもない。
私は「久々に焼肉食べたい」と思いついた欲求に従い、地球に向かおうとした。
向かおうとして、やめた。
「この世界」の地球は宇宙人やら怪獣やらでごった返し、地球人たちがその対応で追われている。
そんな様を傍観するだけなど、ウルトラマンとして出来るだろうか。いや、出来ない。
ならばどうするか。答えは簡単。
「怪獣や宇宙人が攻めてこない地球」に行く。
この世界の地球の現状をメッセージとして送り、私はマルチバース巡りを始めた。
何回か厄ネタにぶつかったものの、なんとか対処し、続けること数万回。
私はようやく「怪獣や宇宙人が攻めてこない地球」を見つけた。
久々に焼肉でも堪能しようか。それとも鰻重か。
15万年ぶりの地球に感動しながら、私はその地球に降り立った。
結論から言おう。怪獣はいた。
…いや。この表現は正確ではない。
なにせ、私が辿り着いた地球に居たのは「怪獣のようで、怪獣ではなかった」のだから。
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仕事も早く、他者へのフォローも迅速。ハラスメントの権化と揶揄されるハゲ上司が繰り出す攻撃の大半を引き受け、文句ない成果の数々をあげる。
同僚である小林は、彼女に対して「違和感」を覚えていた。
気が合わないと言うわけではない。むしろ、相談事を持ちかける程度には仲もいい。
入ってすぐに戦力になってくれたこともそうだが、何事にも親身になる姿勢には一種の尊敬すら抱く。
なんならデスマーチ終わりにヤケ酒をかまし、悪酔いした自分が放つ怒涛のメイドオタトークを5時間近く受け止めてくれていたこともある。
では、自分が抱くぼんやりとした違和感はなにか。
「完璧美人すぎるんだよなぁ…」
「私のことですか!?」
「違う」
ぐびっ、と冷えたビールを流し込み、こぼす小林。
さりげない褒め言葉に反応したのは、メイド服姿の同居人…トール。
彼女の正体は異世界からやってきたドラゴンであり、
自分に向けられた賛美ではないとにべもなく否定された彼女は、「そんなぁ」と情けない声を絞り出す。
慣れてきた今でこそ頼りになるが、それでもそそっかしい部分はあまり改善されず、不安が拭えぬ部分が多々ある。
世辞でも完璧美人などとは言えない。
トールに向けて呆れを込めた視線を向けつつ、小林は同僚を想起する。
「いや、私の部署にすごい人がいてね。
なにをやらせても完璧にこなすし、人当たりもいいし、面倒はいの一番に引き受けてくれるしで助かってるなーって話」
「そんな人間がいるもんなんですかね」
「いるもんなんだよ、それが。この真下の部屋に」
「むむ…」
ベタ褒めする小林に、あからさまにヘソを曲げたトール。
小林と聖は同じマンションに住んでいる。
それも何の因果か、ゼット軸を考慮しなければほぼ同じ場所に。
今頃は自分のように晩酌でもしてるんだろうか、と思いを馳せていると、トールが怪訝そうに眉を顰めた。
「………小林さん。下の階に住んでる聖さんと言う方、本当に人間なんですか?」
「そういえば、エルマも似たようなこと聞いてきたね。やっぱドラゴン?」
「いえ、ドラゴンではないです。
どちらかというと、あの忌々しい神々に近いような気配が…」
「神、ねぇ…」
確かに、それっぽい雰囲気はある。
なんでもできる完璧超人。それがドラゴンたちに警戒されてる。
それで呑気に「いやいやまっさかぁ」と流すほど小林は能天気ではない。
しかし、こうしてこの世界の文化に馴染み、生活してる以上は敵意を持たない勢力であることは確実。
藪蛇を突くことはない。牽制しておくべきか。
トールに言葉をかけようとした、まさにその時だった。
ぴんぽん、とインターホンの音が響いたのは。
「トールさま、お客さん」
「私が出ますね」
居候している1人…幼きドラゴン、カンナカムイが知らせると、トールがインターホンのカメラを確認する。
そこに映るのは、絵に描いたような美女。
その美しさに疑問を持ちかねないほどに完成された容姿を見て、トールは怪訝そうに眉を顰めた。
「どちらさまですか?」
『ああ、同居人の方ですか。わたくし、小林さんの同僚の聖と申します。
小林さんに渡すものがあって参りました』
「はい、今出ますね」
噂をすれば何とやら。
タイミングが良すぎないか、と呆れながらも、トールは玄関へと向かい、扉を開いた。
「はい、どうも」
「すみません、こんな時間に。
小林さんの忘れ物を届けにきました」
「ん…?社員証…?」
聖によって差し出されたのは、小林のものらしい社員証。
トールがそれを受け取るや否や、様子を見にきた小林が声を震えさせた。
「え、忘れてた、私?」
「机に置きっぱなしでしたよ。
オフィスに入れなくなりますから、気をつけてください」
「あ、あはは…。面目ない…」
首がかぶれてきたから外して、そのままだったっけか、などと思考を巡らせていると。
聖の鋭い眼光がトールを捉えた。
「小林さん。彼女、人間じゃないよな。
上井さんと同族だろう?」
「なっ…!?」
何故わかった、と問おうとして、やめる。
彼女もまた、勤め先の専務のように魔法使いの一族だったりするのだろうか。
そんなことを思っているうちにも、聖は困惑するトールの肢体を余すことなく見回す。
「ふむ…、ふむ…。もう少し観察させてもらってもいい?」
「聖さん、ドラゴン云々の事情知ってる人?」
「いやまったく。似たようなのは知ってるが」
「ドラゴンを知らないって…、あなた、何者なんですか…?」
ドラゴンを知らない。ということは、魔法云々のことも知らないはず。
トールが問うと、聖は「しまった」と言わんばかりに申し訳なさそうな顔を作った。
「申し訳ない。こちらが首を突っ込んだのに名乗らないのは失礼だった。
現実離れした事情に慣れてる方しかいないと、どうにも羽目を外してしまうな…。
少しだけ、本来の姿を見せるとしよう」
聖が告げると共に、その姿が光に包まれ、大きくシルエットを変える。
青が目立つ体色。神々しくも暖かい、銀の肌に包まれた顔。後ろ結びにした髪のように垂れ下がる銀の飾り。
あまりにも人間離れしたそれを前に、小林はおろか、トールでさえも愕然と目を見開いた。
「私の名はウルトラウーマンルミナス。
M78星雲で科学者をやっていた…、いわゆる宇宙人だ」
ウルトラウーマンルミナス/聖 アカリ…ヒカリの師匠ポジに転生したウルトラウーマン。ブルー族の特徴レベル100みたいな性能をしており、素の戦闘力はかなり低い。カプセルやメダルといった力の圧縮技術の基礎原理や、命の固形化技術の開発に大きく貢献している縁の下の力持ち。不幸な事故が重なった結果、Z1話のゲネガーグにワンパンされ、療養生活に入った。メイドラゴンは履修してない。
ちょろゴンたち…なにあいつ、神にめっちゃ雰囲気似てる。怖っ
小林さん…「とうとう宇宙人出たよ」程度の感想しか抱いてない。
駆り出された新人…あまりに悪気ない顔でとんでもねーこと口走った現場を師匠に目撃され、こっぴどく叱られた。