「しばらくオーブくん来たら追い返せって…、え、なんで?可哀想すぎない?」
『ちゃんとした理由はあるから聞いてくれ』
ケンとマリーが去って数日。
つい先程までいつもと変わらない朝を過ごしていた私は、突然の弟子からの連絡に眉を顰めた。
ウルトラマンオーブ。魔王獣と呼ばれる強大な怪獣の数々を倒してみせた、光の国とは違う出身のウルトラマンである。
その正体はクレナイ・ガイという人型宇宙人。風来坊として各地を巡っており、ここには少し世話した関係でふらっと顔を出してくれる。
好意で様子を見に来てくれるのに、ソレを追い返せとは何事なのだろうか。
『ロッソとブルとグリージョはわかるか?』
「O-50の三兄弟ウルトラマンでしょ?
グリージョちゃんは女の子って話だし、ちょっと奮発して専用武器でも作ってあげようかと思ってたんだ。リボンとかどう?可愛くない?」
『先生。面倒ごとが嫌なのはわかるが、露骨に話をそらないでくれ。悪い癖だぞ』
バレたか。聞かなきゃいけないのはわかってるんだが、それを聞いた途端に巻き込まれるのが確定しそうで嫌なんだよなぁ。
いや、聞かなかったとしても、どうせ巻き込まれるんだろうけど。
「で、その子らがどうしたの?
オーブくんと同じ出身なのは知ってるけど」
『彼らがかつて対峙した「オーブダーク」は知ってるか?』
「あー…、なんか聞いたなぁ。
あれでしょ、ごっこ遊びしてた『頭痛で頭が痛いよ』的な名前の。変なこだわり押し付けてくる変なやつ」
『まあ、それだ』
ウルトラマンのことをいろいろと勘違いして、大迷惑かけたやつってのは知ってる。
データでしか見ていないが、ベリアルの地雷原でコサックどころかブレイクダンス踊ってるようなやつだった。
もし生きていた頃のあいつに見つかっていたら、跡形もなく殺していた可能性のが高い。
そこまで考えてふと、私は弟子が何を言いたいかを悟った。
「………ま、まさか、いるの?この地球に?」
『それなんだが、少し違ってな。
反応から推察するに、ドラゴンたちの世界に居る可能性が高い』
「え、まじで…?」
そりゃオーブくん追い返せって言うわ。
彼が居るとわかれば何をするかわからない。トレギアがタロウにしでかしたみたく、倒錯した共闘関係を強いてくる可能性もある。
いや、オーブくんを抜きにしても面倒なことになることは確実なんだろうけど。
…あれ?ちょっと待てよ?
「ドラゴンたちを操って悪趣味ヒーローショーとかやるつもりじゃないよね…?」
『どう考えてもやるだろうな。いや、もうやってる可能性すらある』
「うっわ最悪」
トールさんたちの親族を相手にする羽目になったらどうしよう。
ドラゴンにそんな情があるのかは知らないけど、カンナちゃんのお母さんあたりを敵に回したら私は泣く。
「わかった、こっちでなんとかする」
『療養中だというのにすまない。助かる』
「いいのいいの。みんなも忙しいだろうし。
ありがとうね、ヒカリ」
『ああ。また何か分かったら連絡する』
本音を言えば応援を要請したいところだが、変に動くと悟られかねない。
私はメダルが入ったホルダーに目を落とし、ため息をついた。
「……トールさんたちと接触してたりするかな」
寄生生命体だと聞くし、下準備としてドラゴンの勢力に紛れ込んでたりするかも。
そんなことを思いつつ、私は出社準備を済ませた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「すみません、心当たりないですね」
「私もない」
「そっかぁ…」
翌日。心当たりを巡り巡って小林さんたちの家に来た私は、がっくりとうなだれた。
まさか影すら踏めないとは。よほど上手く隠れてるのか、それともそもそも動いていないのか。
…いや、暴走したルーゴサイト…わかりやすく言えば宇宙にとっての白血球のような存在が地球を喰らいにやってくると知っていてなお、傍迷惑なごっこ遊びに興じていた変態だ。諦めたとは考え難い。
どうしたもんかな、と悩んでいると、小林さんが怪訝そうに眉を顰めた。
「そんなにまずいの、その…オーブダークってやつ」
「まずいよ。特に小林さんたちにとっては」
「私たち?」
「そいつ、ウルトラマンへの憧れを盛大に拗らせててね。
前の時で言うと…、人体実験を経て力を手に入れただけじゃ飽き足らず、自分から怪獣を呼び込んで自分で倒すなんてマッチポンプかましてたんだ。
今回だと、ドラゴンをあの手この手で操ってこの世界を襲わせ、それを人々の前で倒す…なんてことやるかもね」
「な、なんですかそれ!?」
「最悪だね、ソイツ…」
説明してて思うが、アレがオーブくんの影響を受けたとはとても思えない。
行動の本質じゃなく、その活躍にしか目が行ってなかったんだろう。
小林さんたちが眉を顰めると同時、バイトから帰ったであろうイルルちゃんが姿を見せる。
「ただいまー…って、どうしたんだ?
みんな顔が怖いぞ?」
そういえばイルルちゃんとは都合が合わず、まだ聞いてなかったっけか。
ちょうどいいし、ダメ元で聞いてみるか。
「いや、実はさ…」
前置きして、オーブダークについてを軽くイルルちゃんに伝える。
それを聞いたイルルちゃんは難しそうな顔をしたのち、怪訝そうに呟いた。
「もしかして、『黒の巨人』のことか?」
「…………詳しく聞かせて?」
正直、その単語だけでお腹いっぱいなのだが、聞かないわけにもいくまい。
ほかの悪トラマンの可能性もあるし。
…いや、それはそれで問題なんだけど。
「トールたちがこっちに行った後に名をあげた竜殺しの巨人だ。
人里近くで争ってたらすっ飛んできて、その場にいるドラゴンを殺す。
屠竜派の一派なんじゃないかって噂もあったけど、諸共殺されてる。私もまとめて殺されかけた」
「一応は人類の味方っぽく聞こえるけど…」
純粋な人助けだとは思えない。
…もちろん、その可能性も考えて精査はするけど。
そんなことを思いつつ、私はケンに渡されたメダルの一枚を取り出し、イルルちゃんに見せた。
「一応聞きたいんだけどさ。
その巨人って、こんな顔だった?」
「………ああ!コイツだコイツ!」
見せたメダルは、オーブオリジンメダル。
ウルトラマンオーブ本来の姿が描かれたそれを前に、声を張り上げるイルルちゃん。
面倒ごとの予感を前に、私は深いため息をこぼした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
トールたちの世界、そのとある街にて。
懸命に生きる人間らの象徴は現在、業火に包まれていた。
「きゃぁあああああっ!!」
「ひ、ひぃ、ひぃいいいっ!!」
阿鼻叫喚が落ちてきた影によって消える。
その影の正体は、バランスを崩し、地に落ちたドラゴン。
人々を踏み潰したことも厭わず、ドラゴンは対峙するドラゴンへと吠えた。
『おのれ、混沌勢めが…!
ここが調和勢の膝下と知っての狼藉か!?』
『だまれ、神に尾を振る犬どもが!!
貴様らが我らへの強襲を企てていたことは知っているんだぞ!?』
『それは貴様らだろうが!!』
不毛な言い争いを繰り返し、いくつものブレスがぶつかり合う。
人々が築き上げた街並み、歴史、命、その何もかもを飲み込んで。
ドラゴンらによる激突に巻き込まれ、何もかもを失った1人の少女が空に祈る。
「た、助けて…、誰か…、神様…っ」
轟音に飲まれ、消えるであろう祈り。
その祈りを受け取ってか、黒煙の中に星が煌めく。
『デュワーーーーーーーッ!!』
雄叫びが響き、ドラゴンたちを隔てるように星が落ちる。
舞い上がる土煙に、鱗を撫でる衝撃。
ドラゴンたちはそれに戸惑い、落ちてきた星を睨む。
『な、なんだ…!?』
『ぐ、前が……』
土煙が晴れ、星の姿が露わになる。
そこにいたのは、黒の巨人。
彼はその身の丈ほどの剣を軽々と振り上げ、ドラゴンたちの気を引いた。
『銀河の光が我も呼ぶ!
我が名はウルトラマンオーブダーク…ノワールブラックシュバルツゥウ!!』
人間には聞こえないテレパシーが響くと同時、その場にいたドラゴンたちが揃って目を見開く。
それは何に対する驚愕だったのだろうか。
調和勢に属するドラゴンが、その感情のままに声を漏らした。
『黒の巨人…!?い、いや…、その声…!
貴様、もしやぐぇっ!?』
それを妨げるように、オーブダークの蹴りが喉元を貫いた。
『こらーーーーーッ!!
ウルトラマンはイタズラに正体を明かしちゃいかんというルールを知らんのか貴様!!』
『ぐぉおっ…、な、何故だ…、あ…』
『ちがーう!!ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツと呼べーッ!!』
『ぐぉおおおっ!?』
ずばぁっ、と剣がドラゴンの胸を裂く。
オーブダークも殺すつもりはなかったのだろう。しかし、彼が思うよりも、そのドラゴンは若く、弱かった。
ドラゴンは傷口から火花を撒き散らし、やがて爆炎に包まれる。
『ありゃ、やりすぎちゃったか〜…?』
『き、貴様!よくも我らが同胞を!!』
『ふ、ふは、ふははっ!いいぞ、巨人よ!そのまま調和勢の連中を…』
混沌勢の1匹が調子づいたそのとき。
オーブダークはそのドラゴンに斬撃を叩き込んだ。
『ぐがぁっ!?』
『な、なにを…!?』
『私は人々の味方!!混沌だの調和だのとつまらない争いに人々を巻き込む貴様らに味方した覚えなどなーーーい!!』
先程爆散したドラゴンよりも歳を重ねた個体だったのだろう。
斬撃を受けたドラゴンはよろめきながらも、オーブダークへと非難を浴びせる。
『ふ、ふざけるな貴様ッ!この…』
『ダークオリジウム光線ッ!!』
『がぁあああああっ!?!?』
ドラゴンの言葉を遮り、オーブダークが光線を叩き込む。
体を光が如き熱に蹂躙される苦痛の中、ドラゴンは小さく呟いた。
『う、うらぎり、もの、めが………』
その声は自身の断末魔にかき消され、誰にも聞こえなかった。
『はーっはっはっはっ!
私こそ、この世界の「ウルトラマン」だ!!』
ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ…ウルトラマンR/Bに登場する人物。誰が呼んだか「ウルトラマンオダブツ」。彼をわかりやすく言うと「めちゃくちゃタチの悪いウルトラマン厄介にわか」。作中の戦績はイマイチだが、ルミナスの5倍は強い。懲りることなくドラゴンたちの世界でごっこ遊びに興じている。人間態では「あ」から始まる名前のようだ。
聖さん/ウルトラウーマンルミナス…全ウルトラマンの中でも最弱。開発全振りだからね、仕方ないね。
イルル…ちょっと前にオダブツに殺されかけていた。