「うぅうう…ん…。
判断に困るような情報しかなぁい…」
オーブダークの情報を得てからしばらく。
私は上井さんに渡された資料に目を通し、頭を抱える。
得られた情報は「人里で暴れ回るドラゴンを倒して回る黒い巨人」で、「目的も正体も不明」ということだけ。
これだけでは介入すべきかどうか判断ができない。
私が悩んでいることに気づいてか、上井さんが申しわけなさそうに縮こまる。
「す、すまない。これでもツテを使って集めた情報なのだが…」
「謝らなくていいよ。上井さんがいなかったらその情報すらなかったし。ありがとうね」
上井さんのツテがなければ、お盆前に1週間ほど有給を使う羽目になっていた。もしそうなれば、次に出勤した時には事情を知る小林さんからも白い目を向けられていただろう。
私は一通りの情報に目を通すと、感じた違和感を上井さんにぶつける。
「…参考までに聞きたいんだけど、ドラゴンってこんなに人里近くで暴れるもんなの?」
「いや、そんなことはないぞ。どの勢力も、人を争いに巻き込むことを嫌っている」
「混沌勢でも?」
「ああ。むしろ、混沌勢の方がその傾向が強い。もしそんなことをすれば、終焉帝が直々に粛清するそうだ」
「…………ノアの影響だろうね」
「おそらくな」
流石はノア。ここでもしっかり爪痕を残しているようだ。
しかし、そうなると尚更解せない。ドラゴンたちは人に危害を加えればウルトラマンがすっ飛んでくるとわかっているはず。それこそ、派閥のトップがわざわざ粛清に乗り出す程度には徹底して取り締まっているのだ。
だというのに、ここ数ヶ月で確認できるだけでも数十件、ドラゴンたちは人を巻き込んで争っている。
となれば、考えられることは一つ。
「争いを煽動してる誰かがいるね。
オーブダークの人間態だと思うんだけど…、アイツ元はガス状の寄生生命体だからなぁ。特定が面倒だぞ…」
「きせーせーめーたい…?」
「誰かの体を乗っ取ってるってこと。
その器に閉じ込められてるような状態じゃなかったら、体から体を渡り歩いてるかも」
「なっ…!?」
前の時は体に閉じ込められていたと聞いたけど、今回もそうである保証はない。
ただ、寄生元の性格を真似るなんてことはしない…というか出来そうにないタチだと聞いたし、それっぽい性格のやつに総当たりを仕掛けるべきか。
思考を巡らせていると、真上に慣れない気配を感知する。
「………ん?」
「どうした?」
「いや、なんか強い力が現れた気配があって」
「ドラゴンか?」
「それっぽい。気配はカンナちゃんに似てる…かな」
エネルギーの総量はかなり多い。たらふく食べて育ったエレキングくらいの強さがある。
上井さんはその気配に心当たりがあったのか、顔を顰め、小さく呟いた。
「………キムンカムイか」
「カンナちゃんのご親族?」
「父にあたる。混沌勢の中でも血の気が多いことで有名だ」
「えぇ…?ここで暴れたりしない?」
「ないと思うぞ。年齢から考えて、キムンカムイもノアを知る者の1人であるはずだ。
向こうとは違い、この世界には人間さんが多い。ノアの逆鱗に触れるのは、キムンカムイも避けたいはずだ」
少なくとも、こちらに迷惑をかけるつもりはないと。
では、どういった要件でこちらに来たのだろうか。私が疑問に思っていると、携帯が鳴り響いた。
「誰からだ?」
「小林さん。…はい、もしもし?」
『聖。お父さんやっつけて』
響いたのは、かつてないほどに怒りに震えるカンナちゃんのおねだり。
恐らくは先ほど消えた気配…キムンカムイと接触し、よほど我慢ならないことを言われたのだろう。
私は複雑な親子関係を持つウルトラマンたちを思い返し、声を絞り出した。
「……………まずは、何があったか教えて?」
『………ん』
♦︎♦︎♦︎♦︎
「怒り心頭!怒髪天の逆鱗ベタ触り!」
「………なるほどねぇ…。ベリアルとジードくんみたいな感じね、うん…」
トールさんがバイトするメイド喫茶にて。
やけ食いをかましながら捲し立てるカンナちゃんを宥め、私は情報を整理する。
どうやらキムンカムイは近々起きる争いに備え、戦力としてカンナちゃんを連れ帰ろうとしたらしい。それもカンナちゃんがメインではなく、彼女に宿る「竜玉」の力を求めて。
心当たりがありすぎる親子関係に頭を抱える私に、小林さんが訝しげに眉を顰める。
「ベリアルって、前に言ってた犯罪者?子供いたの?」
「…今のカンナちゃんと似たような境遇の子でね。多分、カンナちゃんと似た期待を自分の父親に抱いてた」
「…最終的にどうなったの?」
「どうなったんだろうね。
ジードくんがベリアルを倒す形で終わったってのは知ってるけど。
ベリアルのことを今でも父さんって呼んでるから、親子として終われたんだとは思うよ」
前世も今世も親に恵まれ、親になれなかった私にはよくわからない感情だ。
カンナちゃんの話を聞くことはできるけど、気の利いたことなんて何一つ言えない。
私がなんと言葉をかけようかと迷っていると、食べるだけ食べてふてくされたカンナちゃんが唇を尖らせた。
「お父さんは私のこと呼ばない。死ぬ時もいい戦いができたなんて言って死ぬ」
「まあ、そういう父親ではあるだろうね…」
あの小林さんがなんのフォローもしないくらいには酷い父親っぷりを晒したらしい。
…本音を言えば、カンナちゃんにジードくんのような目にはあって欲しくない。こうやって怒っているのだって、少なからず父のことを想っているからだろう。
親に愛されたいという気持ちは、ごくごく普通のことだ。何一つ間違ってない。
でも、それが返されないからと歩み寄ることをやめてはいけない。
「私は直接会ってないからなんとも言えないけど…、少しだけ忠告ね。
歩み寄ることをやめたら、カンナちゃんのお父さんはいつまでも変わらない。
自分の子供にも歩み寄れない奴の末路は、哀しいものだよ」
「……………」
ベリアルも、もう少し誰かに歩み寄っていたらよかったのに。
愚痴くらいは聞いていたし、何度かそういう場も用意していた。それでもアイツは歩み寄ることをやめた。
私はカンナちゃんにも、カンナちゃんのお父さんにも、そうなって欲しくない。
「……………わかった。がんばる」
よかった、伝わったみたいだ。
私が胸を撫で下ろすと、小林さんが問いかける。
「歩み寄るって、具体的には?」
「……………………………」
「もういい、いいから。そんなブラックホールみたいな顔しないで」
「ごめんね、具体的な案も出せないくせに説教くさいこと言うだけのクソババアで…」
「この人もこの人で闇が深いなぁ」
「うん」
♦︎♦︎♦︎♦︎
『くぅう〜ッ!このチェレーザ、一生の不覚!まさかすぐ近くに「地球」があったとは!』
その頃、トールたちの世界にて。
宿主の瞳から得た情報を整理し、ない足で地団駄を踏むガス状の生命体…チェレーザ。
オーブダークの正体たる彼は、これまでの実績を思い返し、うんうんと頷く。
『見たところ怪獣も宇宙人も、はたまたウルトラマンすらもいない!据え膳かぶりつくは私のサガ!
こっちは人間が少ない上に文明の程度が低すぎるから、活躍した実感がまるでないんだよなぁ…』
宿主には届かぬ独り言を並べ、計画を組み立てていく。
チェレーザはこの世界でウルトラマンとして活躍することに、少し飽きていた。…いや、飽きていたというのは違う。彼が抱いていたのは、失望だった。
誰1人、自分のことを噂しない。誰1人、自分のことをウルトラマンと呼ばない。
当たり前だ。この世界に生きる人々は、不確かな日々の噂よりも、目の前の生活を成り立たせるので精一杯。
オーブダークの話は都市伝説にもならない程度にしか広がらず、彼の鬱屈はたまるばかりだった。
その矢先に見つけたのが、異世界…トールたちが日々を送る地球。
文明が発展し、人々がひしめく平和な世界。
まさしく、ウルトラマンが活躍するに相応しい場所。
彼は期待と歓喜に打ち震え、笑い声を漏らした。
『ふっふっふっ…、待っていろよ、地球…!
この私が、お前たちの「ウルトラマン」になってやる…!!』
チェレーザ/ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ…トールたちの世界で活躍することにかなり不満を覚えていた矢先、地球を見つけてしまう。
キムンカムイ…暴れることはしなかったが、カンナとの接触は果たした。しばらく手紙でカンナ、小林から怒涛の罵倒をもらう。ノアを目撃していた1人。
終焉帝…ノアを目撃していた1人。「逆立ちしても勝てねーわあれ」と判断し、「人の居住区で暴れたら粛清」とルールを追加。トールのような若いドラゴンからの反発はあるが、彼をはじめとするノアを知るドラゴンたちがそのほとんどを黙らせている。近頃は暴走するドラゴンが増えて頭を悩ませているとか。
ウルトラマンノア…「人を依代に降臨する」と知られ、ドラゴンたちにめちゃくちゃ警戒されてることを彼は知らない。