下の階のウルトラマン   作:鳩胸な鴨

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誰に需要があるんだ、アーザードの曇らせなんて。


アーザードとチェレーザ(可哀想なことになってます)

「あだ、だだだっ…」

「あんまり動くと変に肉がくっついて余計に痛いから大人しくした方がいいよー」

「わ、わかっだ、だだだだっ!?

ひ、聖!もうちょっと優しく…!」

「かなり無理矢理に再生してるからねー。多少は痛いよー」

「これはいだっ、いだず、いだいぃっ!?」

「うわぁ…」

 

痛みに暴れ散らすイルルちゃんを抑えながら、大きく裂けた彼女の胸元をヒーリング光線で再生させる。

ごめんね、下手くそなヒーリング光線で。マリーをはじめとする銀十字軍や、ウルトラクリニックの医師なら痛みもなく治してくれるんだけど。

内心で言い訳を並べる中、ふとイルルちゃんの一部…それも激しく揺れるものと自分の平坦が過ぎる体を見比べる。

 

………デッカいな。とてつもなく。

 

イルルちゃんといい、トールさんといい、ドラゴンは揃って発育がいいイメージがある。

イデア…自分という概念をそのまま人間の形に出力してると聞いたが、このくらい肉をつけなければ生きられないような身体構造なのだろうか。

そんなことを思いつつ、私は小林さんに問いかける。

 

「で。私を呼んだ理由は?

イルルちゃんの治療だけじゃないよね?」

「うん。実は…」

 

小林さんが私を呼んだ理由は、カンナちゃんを取り巻く問題に進展があったゆえ。

どうやら彼女はニセモノの「父からの手紙」を読み、向こうに帰る決断をしてしまったらしい。

その途中で出会し、あらゆる恥を投げ捨ててカンナちゃんを引き留めようとして失敗した才川さんから事情を聞き、これからトールさんたちの世界に乗り込もうとしたらしい。

泣きすぎてソファで寝てもなお、カンナちゃんを呼びながら更に泣く才川さんを尻目に、私は悶々と唸る。

 

「…事情はだいたいわかった。私に力を貸してほしいわけね」

「どうにかできないかな…?」

「ん、んー…。私みたいなぽっと出が出るとややこしくなるだろうし、あんまりそういう干渉はしたくないんだけど…」

「カンナちゃんのそばに聖さんが探してるっぽい奴がいるとしても?」

「ごめん詳しく」

 

小林さんが語ったのは、アーザードというキムンカムイに仕える人間について。

イルルちゃんが調査に乗り出したところ、彼の目的が意味なきドラゴン同士の争いだと判明。

イルルちゃんの傷は、彼女の尾行に気づいたアーザードと対峙した時にできたものらしい。

そこまで聞いて、私はさらに顔を顰めた。

 

「ドラゴン同士の争いを企て、自滅を狙う人間かぁ…、んー…」

「何をそんなに迷ってるんです?明らかにそいつじゃないですか」

「いやさ、ドラゴンって全員が人間襲いませんってスタンスじゃないんでしょ?

家族だったり故郷だったりを滅ぼしたドラゴン相手にそういう活動に乗り出すって、自然な流れだと思うよ。というか、これまでに何人かいたでしょ、絶対」

「うぐっ」

 

私の指摘に呻き声をあげるトールさん。どうやら図星だったらしい。

判断に困るような情報しか集まらない。が、知ってしまった以上はこのまま放っておくわけにもいかない。

 

「…一応はついてくけど、もし私が言った通りなら、私はなんの手出しもしないからね」

「えっ、なんで?」

「人間とドラゴンがぶつかり合って答えを出すべき問題だから」

 

もしアーザードの過去が私の推測通りなら、私みたいなどっちでもないのが下手に横から口を出すべきじゃない。

彼を変えられるのは、人間かドラゴンかのどちらかだ。

不安げな顔を見せる小林さんに、私は笑みを向けた。

 

「ま、それはアーザードとやらの正体がオーブダークじゃなかったときの話。その正体がわかるまでは手伝うよ」

「聖さん…!」

 

…こうは言ったものの、私が戦力になるかはかなり怪しい。もしアーザードがオーブダークのガワなら直接戦うことになるだろうが、果たして勝てるのだろうか。

そんな不安から目を逸らすように、私は出かける支度を済ませた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ぐ、くっ…」

 

その頃、トールたちの世界にある廃城にて。

カンナをそそのかし、帰還を促した張本人…アーザードが壁にもたれかかり、ずりずりと進む。

その顔色はあまりに優れない。

見るからにやつれ、髪は乱れ、目元にクマが重なるその様は、まさしく幽鬼。

小林たちの前では絶やさなかった笑顔はそこになく、険しい面持ちで周囲を観察する。

と。そんな彼の神経を逆撫でするような、男の猫撫で声が響いた。

 

『そろそろ寝なさいよ〜。寝る子は伸びるって、偉い人も言ってるぞ〜?』

「うる、さい…っ!」

 

微妙に違う格言を指摘する余裕もなく、背後に叫ぶアーザード。

しかし、そこに人影はない。

彼もそれはわかっていた。が、しかし、どうしてもそうせずにはいられなかった。

 

『だーかーらー、私は君の中にいるの。

君がどれだけ暴れても、君が器としてピッタリなせいで私は出ていけないんだよ?』

「知るか、そんなことッ!!」

 

声の出所は、自分の中。

その存在に気づいたのは、つい最近。ドラゴンが存在せず、人の文明が発展した世界に足を踏み入れてからだった。

脳裏に浮かぶ「覚えのない記憶」。そして、それが真実だと裏付ける男の声。

アーザードのストレスは既に限界まで達していた。

 

『じれったいなぁ。君が寝てる間に望むことはしてあげてるんだから、ちょっとくらい私に譲ってくれたってさぁ』

「俺が、望んだ…!?望んだだと!?」

『そうだ。ドラゴンを倒したかったんだろ?昔聞いた神様…ウルトラマンみたいに』

 

かつて降臨し、暴虐の限りを尽くした闇。その手先となったドラゴン含め、人に襲いかかる不条理を打ち破った光の巨人。

確かに、そんなふうに自分の手でドラゴンを倒せたらと思ったことはある。

が。それは叶わなかった。伝説が真実だと思えるような奇跡は、起きなかった。

だからこそ、このような虫唾が走る遠回りな手段でドラゴンを減らしているのだ。

 

「あんなもの、ただの…」

『伝説だって?君もなってるじゃ〜ん。「ウルトラマン」に』

「なんなんだ、『ウルトラマン』ってのは…!」

 

先ほどから男が呼ぶ都合のいい英雄の名を叫び、居ないはずの声の主を幻視するアーザード。

声は待ってましたと言わんばかりに仰々しく語り出した。

 

『ウルトラマン…、それは正義を愛し、悪を砕く唯一無二の存在…!

どんな理不尽を前にしても何度も立ち上がり、絶望する人々を救う英雄なのだー!』

「そうだとしたら、お前の……!

『俺たち』のどこが英雄なんだッ!!」

 

脳裏に焼きつく記憶が頭をよぎり、激昂するアーザード。

認められない。認めたくない。

この記憶は、真実であってはならない。

アーザードが嫌悪に震えるのも気にせず、声は彼に問いかける。

 

『ドラゴンと神々。好き勝手に争い、人々から安寧を奪う存在。

それを打ち砕いている私を「ウルトラマン」と呼ばずして何と呼ぶのかな?かな?』

「『この記憶』が確かなら、俺とお前は許されない罪を犯したクソ野郎だ…ッ!!」

 

眠りについたはずの自分が、ドラゴンたちが人里を中心に争うよう、扇動した記憶。

「光る輪のようななにか」を使って、自分が巨人へと変身した記憶。

人々を巻き込み、ドラゴンたちを打ち倒した自分に酔いしれた記憶。

その全てがアーザードを嘲笑う。

 

『そもそもさぁ、君が望んでたんだよね?

ドラゴンを前に絶望に喘ぐ人々。それを颯爽と助ける英雄。

君が思い描いた都合のいい存在を現実にしてあげたんだから、もっと感謝されてもいいと思うな〜、おじさんは』

「ふざけんな…ッ!!

『俺の過去』を知っているくせに…ッ!!」

 

今も脳裏に焼き付いている。

反抗心から、わざわざ人間の街を踏み潰しにきた若いドラゴン。

そんなつまらない動機で故郷を荒らされたばかりか、最愛の家族まで失った。

それを知っていてなお、自分の体であんな凶行に乗り出した。許せるわけがない。

アーザードの苦悩を知ってか知らずか、声は彼を励まし始めた。

 

『あんまり悩むと、いざという時に力を使えないぞ!細かい犠牲は仕方ない!そう割り切ることも大切だぁ〜!』

「ぅ、ゔ…っ!あ゛ぁぁあああああっ!!

だまれっ、だまれっ…!だまれだまれだまれだまれぇぇぇぇえええ゛っ!!!!」

 

その一言があまりに我慢ならず、髪を振り乱し、半狂乱になるアーザード。

怒りによって意識に入り込む隙がなくなったのだろう、チェレーザの声、気配が消える。

アーザードがそれに安堵していると、騒ぎを聞きつけたのだろう、キムンカムイが顔を見せた。

 

「アーザード、何を騒いでいたんだ?」

「………んんっ。…少し、気合を入れていただけです。あなたの瞑想みたいなものですよ」

「そうか。お前がそんなふうに気合い入れるってこたぁ、もうすぐか」

「そうですね…」

 

どうやらうまく誤魔化せたらしい。

アーザードは調和勢の動向を嘘を交えながら伝え、キムンカムイに続いて廃城の奥へと向かう。

そんな彼の姿を確認するように、ぴょこっ、と柱の影が揺れた。

 

「………お父さんのばか。にぶちん」




アーザード/チェレーザ/ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ…どういうわけか、半端に寄生されてる状態。起きている間はアーザード、寝ている間はチェレーザへと切り替わる。地球に踏み入れてからチェレーザの意識が強まり、今の状態へと変化した。チェレーザの所業もバッチリ記憶としてあるので、死ぬほどトラウマを刺激されてる。今作で最も可哀想な目にあってる。なお、チェレーザはヒーローごっこに夢中でそんな機微を読み取る能力はない模様。

キムンカムイ…「あいつ、気合い入ってんなぁ。こっちも気合い入れるかぁ」程度に思ってる。

カンナカムイ…キムンカムイに顔を出そうとしたタイミングでとんでもねー場面を見ちゃった子。父の鈍さにかなりご立腹。
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