下の階のウルトラマン   作:鳩胸な鴨

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やべーフラグが立ったよ


帰ってきたぞ、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ(帰ってください)

「トールさんたちの世界も地球と似た環境なんだね。ちょっと調査したい」

「聖さん、目的忘れないでよ…」

「あ、ごめんね。悪い癖」

 

眼下に広がる大自然。これが、トールさんたちの世界。

才川さんの様子を見ると残ったイルルちゃんを除くメンバーがあたりを見ると、ドラゴンがやけに集っている光景が見える。

どうやら一触即発の状態らしい。

しかし、人里に危険が及ばない場所で対峙している以上、やはりオーブダークの線は薄いか。

私がそう判断しかけたその時、張り巡らせていたセンサーに反応がひっかかった。

 

「オーブダークの反応があるね。隠せてない。

光の国相手の隠蔽は初めてなのかな」

「えっ、どこ?」

「あっちの方」

『向こう…、キムンカムイがいる場所ですね』

 

暫しの沈黙。キムンカムイのそばにいる人間は、アーザードだけ。

前にアーザードがやってきた時には、私は気づけなかった。

私が気まずさに視線を右往左往させていることに気づいてか、小林さんが呆れを向ける。

 

「…………なんで前にアーザードが来た時に気づかなかったの?」

「い、言い訳にしかならないけど、うまく隠した…、いや、『隠せてた』んだと思う。詳しいことはわからないけど…、だいたいどんな仕組みかは予想が…。

ごめん、ちょっとタンマ。上見て」

 

過去の事例も交えて説明しようとした矢先、視界にあるものを見つける。

小林さんたちが私の視線に沿うように頭上を見上げると、そこには。

 

私たちが先ほど通ってきたものよりもはるかに大きい次元ゲートが鎮座していた。

 

「…アレさ、地球に繋がってるやつだよね」

『やつですね』

「下さ、ドラゴンめっちゃいるよね」

『いますね』

「…………龍玉ってさ、ドラゴンを操るとかベタな機能、ないよね?」

『あった…と思います。詳しく覚えてませんが』

 

一瞬の沈黙が漂う。

全員がダラダラと冷や汗を垂らし、その焦りを噴出させた。

 

「どどどどどどどうすんの聖さん!?」

「トールさん、これ閉じられる!?」

『やって…みたんですけど、不可思議な力で押さえ込まれてるというか…』

「ちょい待ち!調べてみ…………」

 

マーブル模様の穴を解析し始めてすぐ、私はあることに気づく。

データ上でしか見たことがないが、間違いない。あまりにも厄介な状況を前に、私は思わず声を張り上げた。

 

「は!?ウソでしょ!?

あのバカ、ブルトン使ってやがる!!!!」

 

ブルトン。空間を操る能力を持つ、宇宙の不条理を引き受けているとされる怪獣。

私の反応が気になったのだろう、小林さんは恐る恐る私に問いかけた。

 

「な、なにそれ…?」

「…四次元怪獣って呼ばれてる生物でね。

空間を操る性質を持ってて、オーブダークはそれを応用してあの穴を開けてるんだと思う」

「飼い慣らせるもんなの、それ…?」

「メダルみたいに、怪獣の力を持ってるアイテムもあるからね…」

 

あいつが持っていたのは、「クリスタル」と呼ばれるアイテム。

恐らくは持っていたものをインナースペースに入れたまま別世界に飛ばされたんだろう。

しかし、なんでよりによってブルトンの力なんか使うんだ。普通に転送装置とかでいいだろうに。

誰にも邪魔をさせないと言う意思表示なのか、それともシンプルにバカなのか。

多分後者だろうな。「一回使ったらしまうからいいや」みたいな感覚で使った光景がありありと目に浮かぶ。

 

『聖さんの力でなんとかなりませんか?』

「やろうと思えばできるけど、この世界どころか地球も消し飛ぶよ」

「なんで!?」

「ブルトンという穴を無理矢理に塞ぐと、その分、別の穴が開く。

その穴がまた別のブルトンならいいんだけど、結構な確率で『グリーザ』ってのが出てくる」

「…………それ、やばいの?」

「はちゃめちゃにやばい。ルコアさんが逆立ちしても勝てない」

「ルコアさんでも…!?」

 

ゼットンすら倒して見せるだろうルコアさんでも、グリーザは無理だ。

こちらもデータでしか確認したことないが、間違いなくどのドラゴンでも倒せない。それがたとえ、トールさんのお父さんだとしても。

 

「べらぼうに強いのもそうなんだけど、グリーザは形になった『無』、いわゆる『宇宙の孔』でね。あらゆる攻撃が通らない上、向こうはこっちを取り込もうとしてくる」

「なにその『ぼくがかんがえたさいきょうのせいぶつ』」

「一応、対処はできるよ。

『無いものを形にする力を取り込ませる』とか、グリーザの中にある『宇宙の穴を縫う針』を取り出して攻撃するとか」

「倒した前例はあるんだ…」

「この二つは専用の武器とか私の10倍くらい強い協力者が必要だから基本的に無理。

少なくとも今の私には絶ッッッッ対無理。天地が大回転しても無理」

『聖さんが無理と言い切るくらいにはとんでもないんですね…』

 

そんな武器もなければ、針を取り出すのに必要な条件も揃ってない。このメンツでグリーザに出てこられたら確実に終わる。

かなり危険な状況だし、救難信号を出しておこう。レベルは最大…と。

こんなラスボス級の爆弾、私みたいなクソ雑魚ナメクジにはどうにもできない。

ブルトン本体が居れば、対処できるだけまだマシだったんだけど。

オーブダークが使ってるのはその力だけ。グリーザのことを完璧に忘れてるのか、そもそも知らないのか。曲がりなりにもオーブくんのファンボーイだし、前者だとは思うけど。

 

「…今の状況をまとめると、あの穴を無理矢理に塞ぐとやばいのが出るから、アレに手を出せないってこと?」

「うん。オーブダークが持ってるアイテムを取り上げる以外に手出しできないね」

『な、なんて周到な…!

そこまでして小林さんたちの世界で英雄ごっこしたいんですか、そいつ!?』

「したいんだろうねぇ」

「本末転倒って言葉が人のガワ着て歩いてるみたいなやつだな…」

 

小林さんが呆れる通りだ。

ウルトラマンになりたいなら、まずは誰かを愛しむ心と、誰かと傷を分かち合うだけの感受性を持て。

…そんなことを言っても、アレには届かないのだろうけど。

 

「とりあえずあの穴はほっとくにして…、どうしたもんかな。あのドラゴンたちを説得しても、操られておしまいなんでしょ?

なら、とっととカンナちゃん助けたほうがいいかな?」

『そうなんでしょうけど…、そもそもアーザードはどのような状態なんでしょう?

寄生されているという話でしたが、聖さんはそんな気配を感じなかったんですよね?』

「それなんだけどね、半端に意識が混ざってるのかも。何かのきっかけで入れ替わって、宿主に知られないままに動く…なんてケースもあるにはあるし。

実際に見ないとなんとも言えないけど…」

 

まずは何をするべきか、と相談を始めたその矢先だった。

 

『デュワッ!!』

 

視界の奥に、巨大な竜と黒い巨人が同時に現れたのは。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ぐ、は、はぁ…っ、はっ…」

「ふらふらしてる。寝不足?」

「ドラゴンが…、一丁前に、人間のフリするんじゃねぇ…!」

 

その頃、廃城にて。ふらふらとおぼつかない足取りのアーザードに連れられ、城を進むカンナ。

カンナを前に繕う余裕もないのだろう、悪態をつくアーザード。

先ほどの理知的な様子がカケラも見られない様を前に、カンナは一歩踏み込んだ。

 

「……おーぶだーくのせい?」

「っ!?」

 

オーブダーク。アーザードの記憶にある、巨人となった自分の名前。

人々を戦禍に巻き込み、自身で呼び込んだドラゴンたちを斃す、アーザードにとっては最も忌むべき存在。

誰にも知られたくなかった正体を看破されたアーザードは、ぎりっ、と歯を軋ませた。

 

「聖からから聞いた。おーぶだーくは『ガスがたのきせーせーめーたい』。

アーザード。私は見てた。お前の体には、おーぶだーくがいる」

「……盗み見とは、趣味が悪い、ガキだな…」

 

首が揺れる。髪が揺れる。

意識がおぼつかないながらに憎まれ口を叩くアーザードに、カンナは目を細めた。

 

「あのときのアーザード、苦しんでた。かなしそうだった。

それは、おーぶだーくがやってることを知ってるから」

「っ……、ドラゴンが、俺を憐れ…、ぅゔっ」

 

アーザードがたたらを踏む。

おそらくは、オーブダークに意識を奪われかけているのだろう。

もうひと押し、カンナは声を張り上げた。

 

「出てこい、おーぶだーく!」

「勝手に略すんじゃなーーーーーいッ!!」

 

カンナの呼び声に呼応してか、アーザードの双眸が一瞬だけ赤く光る。

先ほどとは違う、軽い声。

間違いない。あれが、オーブダークの正体。

アーザード…もといチェレーザはその目をひん剥き、カンナへと詰め寄る。

 

「お嬢ちゃん!あの巨人の名はオーブダークじゃない!『ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ』だ!!

私に続いて!さんはい、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツー!!

…ねえ、なんで復唱しないの!?さんはいって言ったよね私!?」

「ながい。ださい。センスない」

「な、なぬおう!?!?」

 

カンナはまだ幼く、そこまで語学に関する知識がない。

各国の言葉を話すことはできるが、魔法で解することができるだけだ。

故に、「ノワールブラックシュバルツ」の馬鹿馬鹿しい意味もよく分かってはいない。

が、しかし。彼女にも子供としての感性がある。その感性が全力で叫ぶままに、カンナは白い目をチェレーザに向けた。

 

「ぐぬ、ぬぬぬぬっ…!

ま、まだ小さいから、彼の素晴らしいセンスが理解できないんだね、うん…。仕方ない、仕方ない…」

「聖と小林も『頭痛で頭が痛いみたいな名前』ってバカにしてた」

「なに!?どちら様かは知らんが、なんて失礼なやつだ!!人様が一生懸命考えた名前をバカにするなんて!!」

 

バカにされるような名前をつけた方にも問題がある。

カンナはそれを口には出さず、チェレーザの軽いノリを切る。

 

「名前のことはもういい。

おーぶだーく。『ろっそ』と『ぶる』がいる地球でのこと、聖に聞いた。

おまえ、おんなじことしてる。マッチポンプ。違う?」

 

ウルトラマンロッソとウルトラマンブル。

因縁深き2人のウルトラマンの名を聞き、チェレーザはその瞳をさらにかっ開いた。

 

「その聖ってやつ、あンの『もどき』どもの知り合いなのか!?

かーっ、ぺっ!!まったく、憎たらしいったらありゃしない!!」

「なんで、そんなことする…?人間にも、ドラゴンにも、大事なものがあるのに…!」

 

怒りに震え、声を漏らすカンナ。

人間とドラゴン。子供ながら…いや。子供として、どちらの世界も見てきたからこそ、その怒りは並々ならぬものだった。

しかし、チェレーザは彼女の怒りを理解することなく、芝居がかった動きをつけて語り始める。

 

「この世界においてドラゴンとは最強の証。

人類を踏み潰し、焼き尽くす、脅威の権化。

力の差に絶望し、泣き喚く人々。そんな彼らが求める英雄。

私はそれを与えてやってるのだよ、お嬢ちゃん」

「ちがう。お前がやってる遊びで、人間もドラゴンも迷惑してる。

いろんなものがめちゃくちゃになってる…!」

 

もしドラゴンがアパートを壊したら。小学校を踏み潰したら。街を焼き尽くしたら。

ドラゴンであるが故にその力を理解するカンナは、伝わらずとも怒りをぶつける。

無論、そんな機微をチェレーザが理解するわけもなく。

彼は哀れなものを見るような目をカンナに向けた。

 

「今はわからずともいい。

だが、人類がウルトラマンを求めていることには変わりはないのだよ、お嬢ちゃん」

「お前はちがう…!!」

「えぇー?ドラゴンのくせに人の代弁すんの?ないわー」

 

そう言われ、思わず口籠もるカンナ。

チェレーザは暫し唸ったのち、ふと思いついたような顔で指を鳴らす。

 

「じゃ、試してみよっか?お友だちがウルトラマンを必要とするかどうか」

「お父さん…?」

 

いつの間にやらチェレーザの手に握られた龍玉が怪しく光る。

その光に照らされるように、俯いたキムンカムイが闇より姿を見せた。

 

「アーザードの記憶には、龍玉を持つものはドラゴンを操れるとある。

これを使って、君のお友だちに『ウルトラマン』を見せてあげよう」

「………………まさか」

 

カンナが二の句を放つのを待たず、キムンカムイの体が膨れ上がる。

頼もしかった、大好きだった面影はどこにもなく。意思のない巨影がカンナを睥睨する。

 

「刮目せよ!!ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ伝説、その第二章が今始まるのだ〜!!」

 

崩落する瓦礫を避ける中、カンナは見た。

チェレーザの手に、怪しく輝く光輪が握られていたのを。

 

「キズナの力ァ、お借りしまァす!!!!」

 

〈ウルトラマンオーブダーク〉

 

二つの巨体が廃城を吹き飛ばす。

捲れ上がる土煙から覗くのは、カンナにとって最も考えたくない光景だった。

 

『銀河の光が我も呼ぶ!!

我が名はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツゥウッ!!』

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ね、ねぇ、あれ、やばいんじゃ…」

「トールさん、ドラゴンたちを穴に近づけないで!!」

『あ、ちょっ、聖さん!?』

 

オーブダークの出現に合わせ、ドラゴンたちがうめき始める。

どうやら操られ始めたらしい。

私はトールさんの背から飛び降り、ライザーのトリガーを押す。

眼下に展開されたインナースペースへと転がり込み、私はアクセスカードを差し込んだ。

 

〈HIJIRI Access granted〉

 

取り出すメダルは三つ。ウルトラマンタロウ、ウルトラマンタイガ、ウルトラの父の力が封じられたもの。カンナちゃんにあげたものとは違い、本物のウルトラメダルだ。

その三つをスリットに差し込み、スキャンしていく。

 

「頼むよ!タロウ!タイガ!ケン!」

 

〔TARO〕 〔TAIGA〕 〔FATHER OF ULTRA〕

 

その動作が終わると同時、私はライザーを頭上に突き上げる。

今日ばかりは気合い入れるべきか。そう思い、息を吸い込んだ。

 

「滾れッ…!ルミナーーース!!!」

 

〈ULTRAWOMAN LUMINOUS〉

LAMBDA(ラムダ) STRIKER(ストライカー)




ウルトラウーマンルミナス・ラムダストライカー…タロウ一家の力を宿したルミナスの姿。素体があまりにも雑魚すぎるのでこれでようやく一般ウルトラマン並み。キムンカムイには7割方負けるし、オーブダークにいいようにやられるスペックしかない。聖はそれを承知で変身した。

光の国…ルミナスが最大レベルの救難信号を出したことでてんてこまい。

アーザード/チェレーザ/ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ…実はいくつかのクリスタルを持ち逃げしてた。力が戻った理由は、ブルトンクリスタルを悪用し、並行世界から回収しただけ。

ブルトン…ウルトラマン17話で初登場した古参怪獣。生物と呼べるかどうか怪しい姿をしている。四次元空間を操る能力を持つことから、時が経つにつれて設定が盛られていき、今では「下手に倒したらやべーの召喚するやべーやつ」として扱われている。今回は力だけの登場だが、召喚装置としての役割は持ってる。素体ルミナスはメタ持ちなので、理論上は勝てる。

グリーザ…ウルトラマンエックスのラスボス。『存在する無』とかいうやべーやつ。生命を無に返すことをなによりの喜びとする本能があり、それに従って星を滅ぼす。後年の作品であるウルトラマンZにて、「ブルトンを倒したらこいつが出てくる可能性がある」ということが明かされた。ウルトラマン撃破実績あり。
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