「シィア…ッ!!」
静かな雄叫びが轟く。優しい光が吹き荒れる。
トールと小林を飲み込み生まれた銀の巨人は、その身の丈ほどもある剣を構え、揺れるグリーザを睨む。
と。次の瞬間にはその姿勢が崩れ、狼狽え始めた。
『ぅうぇぇえええっ!?
高い高い高いこわいこわいこわいっ!!』
『落ち着いて、目線がめちゃめちゃ高くなっただけだから』
『無理、無理っ!!』
『私の背中で慣れたのでは?』
『自分が高いのは無理ーーーーっ!!』
『狼狽えてないで。来るよ』
その力を感じ取ったのだろう、いつのまにやらファフニールたちを退けたグリーザがその姿を揺らし、幾重にも触手を伸ばす。
ががが、とそれが巨人を痛めつけるも、彼女は動じることなくその場に佇む。
『……あれ?あんまり効かない』
『私が痛みを肩代わりしてるだけだからきちんと避けて欲しいな』
『ごめんごめん!!避ける避けっ、あ』
『あだぁっ!?』
『マジでごめん!!』
迫る触手を慌てて避けた巨人に、グリーザが放った光線が突き刺さる。
それでもカラータイマーが鳴らないあたり、先ほどまでのルミナスよりも頑丈な体になっていることが窺えた。
しかし、その中身は普通の底辺SE。
運動能力など皆無な小林は申し訳なさそうに眉を顰め、共にインナースペースに立つトールへと視線を向けた。
『わ、私にはちょっと無理かな。
トール、できそう?』
『少々勝手は違いますが…、やってみます!』
『じゃ、任せた』
肉体の制御がトールへと投げられ、巨人の動きにキレが宿る。
光線、触手の嵐を巧みに捌くトールを前に小林が感心していると。
彼女の手に、おもちゃのようなサイズの剣が顕現した。
『小林さん、剣の操作お願い。
………あ、操作わかる?』
『ごめん、こういうの通ってない』
『…使い方教えるから、やってみて。
そこの丸い部分をこう、くいって感じで、ちょっとだけ回してみて。ちょっとだけね』
『こ、こう?』
ルミナスの声に従い、剣の鍔に当たるだろう円を少しばかり動かす。
と。その円の上部に「焔」によく似た字が宿り、赤く輝いた。
『なんか光った!…なんて書いてんのこれ?』
『「焔」だね。次は思いっきり回してみて』
『うん』
小林がおもちゃの剣の円を回すと、それに呼応するように巨人が持つ剣に焔が宿る。
巨人はそれに驚いたものの、すぐさまに斬撃をグリーザに叩き込む。
『喰らいなさい!私と小林さんの愛の焔!!』
『──────!?』
トールのふざけた宣告に反し、先ほどのルミナスよりもはるかに重く、鋭い一撃がグリーザを裂く。
…否。裂いてはいない。「縫っている」のだ。
己が存在の否定となり得る一撃を前に、グリーザが意思を持ったかのように後退った。
『この剣は「ドラグカリバー」…で、さっきの技は「ドラグフレアカリバー」…。うん。こんな感じでシンプルに行こうか』
『あそこで寝っ転がってるオダブツとネーミングまんまだよ』
『オーブくんに言ってよ。私はオーブくんがつけた名前に倣ってるだけなんだから』
小林とルミナスの緊張感に欠ける会話を聞き流し、
このまま攻め込めばいける。
そんな確信と共に肉薄するトールだったが、グリーザはその接近を嫌い、初めて大きい回避を多用し始める。
『───────』
『こんのっ…、ちょこまかと!!』
『ちょっと、聖さん!?これで倒せるったって、すんごい逃げられるんだけど!?』
『自分を殺せる武器見たらどんな奴でも逃げるでしょうよ』
『そ、それはもっともだけど…』
何度か接近して仕掛けるも、グリーザはうまくそれをかわし、巨人に反撃を浴びせる。
決定打を手にしても、勝ったわけでは無い。
トールは剣を強く握り、注意深くグリーザを観察する。
『逃げるなら、拘束するまでです!
というわけで、なんかそういう技あります?』
『ドラグカリバーの円をさっきよりもうちょっと回してみて』
『名前、それで確定なんだ』
もう少しマシな名前はなかったのか、と呆れ、小林がドラグカリバーの円を回す。
円の右側に浮かぶのは、「渦」に似た淡い青の文字。
小林はそれを訝しみながら、円を勢いのままに回す。
『「渦」…?』
ドラグカリバーを振るい、その軌跡から渦巻く水流を生み出す巨人。
その渦は竜のようにうねり、グリーザの動きを封じ込めた。
『お、おぉー…。私と小林さんの愛が生み出した愛の渦ですね!』
『ドラグボルテックスカリバー…、でいいのかな?自分で言っててなんだけど、聖さんのネーミングダサいよ、全体的に…』
『だからオーブくんのが元って言ってるじゃん』
渦に囚われたグリーザを前に、小林はドラグカリバーの下部に黄の光を宿す。
浮かぶ文字は、「地」。トールは剣を横薙ぎに振い、グリーザに叩き込む。
『私と小林さんの愛の重みを知れ!!
ドラググラビティカリバー!!』
それは重力を操る一撃。
剣の軌跡に沿って発生した斥力が、グリーザの体を掻っ攫う。
グリーザはそのまま「横に落ちて」いき、岩壁へと叩きつけられた。
『───────!!!』
いいようにやられて怒ったのか、それとも本能による衝動が強まったのか。
グリーザは激しくその身を揺らし、幾重にも魔法陣を展開する。
キムンカムイを消耗させた流れで乗り切ろうとしているのだろう。ルミナスがその結論を出すより先、重なった光線の壁が迫る。
小林はそれを前に剣を操作し、その円の左に緑の光を宿した。
『ほとばしれ、私たちの愛!!
ドラグタイフーンカリバー!!』
浮かんだ文字は「颶」。
空間すらも擦り潰すような暴風が円より放たれ、迫る魔法を打ち砕く。
暴風はそれだけで止まらず、揺れるグリーザの体を穿つ。
『───────!?!?』
困惑なのか、それとも鳴き声なのか。
グリーザは上擦った笑い声を散らし、そこらじゅうに飲み込んだはずのドラゴンを吐き飛ばした。
『魔力だけ消化されてたみたいですね。どいつもこいつも死にかけのみそっかすですが、ギリ生きてるっぽいです』
『えぇ…?「死んでなくてよかった、ラッキー」くらいに思ってくれるかな、それ…?』
『グリーザに取り込まれてその程度って奇跡だよ。本来はその時点で死ぬんだし』
ドラゴンの生命力に感心を漏らし、ふらつくのか揺れているのかわからないグリーザへと目を向ける。
小林はドラグカリバーの円を思いっきり回し、四つの光を宿した。
『お、やっぱり。これが必殺技でしょ』
『うぉわわわわわっ!?
こ、小林さぁん!!こ、これっ、私じゃ制御がむずかしいですっ!!』
『って、めっちゃ荒ぶってる!?
聖さん、ど、どうすれば…』
『制御しなくてもいいよ、別に』
『えっ?』
『これ、元々は「針」だからね。いろんな使い方ができるよ。
例えばこんな…ふうにっ!!』
ルミナスの意識が表に出ると同時、彼女らですら制御し切れないほどの光の嵐を纏う剣を投げる巨人。
強化された膂力により、衝撃が走るほどの速度でグリーザへと向かう。
グリーザはそれを避け切ることができず、胸を貫かれ、磔になった。
『よし、固定完了!』
『あれでもまだ倒れないって、どんだけ規格外な存在なんだろうね…』
普通の生物なら確実に死んでいるのだが、そこにあるのは形を持った『無』。
針によって存在を固定されたとはいえ、致命打には至らず。
グリーザは余力を振り絞るように、なんとかドラグカリバーを抜こうと手を伸ばした。
『合わせて、2人とも』
その声と共に、2人の体が勝手に動き出す。
腕が模るのは、竜の顎門。その腕をLの字へと広げ、力を溜めていく。
巨人は感情の昂りのままに息を吸い、声を張り上げた。
「シィィイーーーーァアアーーーーッ!!!」
手をL字に交差させ、光芒を放つ。
人間、ドラゴン、神、ウルトラマン。
この世界に存在する力が複雑に混ざり合い、一つになった光がドラグカリバーを媒介にしてグリーザを埋めていく。
存在が埋まっていく感覚に満足を覚えたのか、それとも存在し得ない生を終えることを嘆いたのか。
揺れる笑い声を残し、爆炎が立ち上った。
グリーザ…満腹になって消えた。
吐き出されたドラゴンたち…ほぼっほぼ力を消化され、クソ雑魚ナメクジに。生きてるだけマシ。