下の階のウルトラマン   作:鳩胸な鴨

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なんのために戦いますか?(いろんな理由があります)

「聖さんって、いつもポニテだね。

いや、私が言えた話じゃないんだけどさ」

 

金曜、昼休み。弁当をつつく小林さんが、私の髪を見てふと疑問をこぼす。

実はこのポニテ、理由があるのだ。とは言っても、そんなに重苦しいものでもないけど。

 

「こうしてるのが楽なんだ。

私のこれ、サメの牙みたいな器官だし、無理やり形を変えるとちょっと苦しいというか。

流石にお風呂とかだと変えてるけど」

「もしかして、結構物騒なパーツなの?」

「そ。故郷ではスラッガーって呼んでるんだけど、私の場合はこのポニテが剣になるの」

「着脱可能なんだ…」

「スラッガーがあるウルトラマンのほとんどはトサカみたいな感じで頭についてるんだけど、私の場合は父がスラッガー持ち、母がポニテだったから、その影響じゃないかな」

「へー…」

 

ウルトラウーマンでスラッガー持ちなんて、私くらいしか見たことがない。

…私のこれ、スラッガーって言っていいのかわかんないけど。とりあえず「ルミナスラッガー」とか言ってお茶を濁してたけど、ガッツリ蛇腹剣な上に投げれないからスラッガーって言っていいのか不安なんだよな。「ルミナスラッシャー」とかのが良かったかも。

…もう15万年もそう言ってきたし、今更か。

私がすごくどうでもいいことで悩んでいると、小林さんが上井さんに目を向ける。

 

「エルマが持ってた槍も、体の一部だったりするの?」

「まあ、似たようなものではある…んじゃないか?…すまん。私にもよくわかってない」

「そんなもんか」

 

ほほう。上井さんは槍を出せるのか。ちょっと親近感。

「武器仲間だね」と笑いかけると、上井さんはきょとんとしたのち、同じように笑って見せた。

 

「しかし、ドラゴンに負けず劣らず物騒な生態してるんだね、宇宙人。

戦うことが多い環境だったりするの?」

「うん。私たちは宇宙の警備隊というか、治安維持を生業としてる種族だからさ。

傲慢なことではあると思うけど、私らが率先してやらないとあっという間に宇宙が崩壊することになるから…」

「どんだけ治安悪いの、宇宙…?」

「少なくとも、15万年平和だった記憶はないかな…?」

 

それこそ、キングが若かりし頃は目も当てられないくらいに酷かったらしい。

平和に見えるこの宇宙でも、どこかで私たちが介入すべき争いが起きてるんだろう。…それについては後輩に投げるとする。手負いの私が行っても、足手纏いにしかならないだろうし。

メダルとライザーがあれば戦えるんだろうが、強奪されたっきりなんだよな。いつ返ってくるんだろうか、あれ。件の新人にテレパシーで聞いたらめっちゃ誤魔化されたので、ライザーは確実にぶっ壊れてると思う。

 

「規模は違えど、調和勢と似たようなことをしているのだな」

「まあ…、そう、なのかな?

私たちが戦う理由って、『好きだから守る』くらいしかないから、一緒くたにしていいのかわかんないけど」

「………好きだから、守る…か」

 

平和だったり、人間だったり、大好きなものを守るために戦っているのがウルトラマンだと私は思う。

…私が彼らのように立派な心持ちで戦えるかは、ちょっとわかんないけど。

私の自虐を知ってか知らずか、上井さんが少し哀しそうな笑みを私に向けた。

 

「となると、私たちのように代償を求めたりとかはないんだろうな」

「いや、どうだろ…?うっかり死なせちゃった地球人への償いのため、その人と一体化して力を貸すなんてのはよくあるけど…、それ代償カウントしていいのかなぁ…?」

「い、一体化…?」

「ざっくりいうと、ウルトラマンが死んだ人間と融合することで、その命を救えるんだよ。

ただ、申し訳ないことにその地球人は嫌でもウルトラマンとして戦うことを強いられるからなぁ…」

「顔がすごいことになってるよ?」

「ごめん、想像の罪悪感に耐えられてないだけ」

 

かのウルトラマンもゼットンにやられて帰ってきた時、あまりの心労で体調を崩していたっけか。現在のバケモンみたいな大胸筋はその反動だと思う。多分、あの時のゼットンだったらチョップ一発で倒せる。

うごご、と私が唸っていると、弁当をしまった小林さんが時計を見やった。

 

「そろそろ昼休み終わるよ?」

「なっ!?」

「ごめんね、自分語りを長々と…、上井さん、そんな勢いだと喉詰まるよ」

「ふぉへはひへふへ!ひほひへはへはひほ…んむぐっ!?」

「ああほら、言わんこっちゃない…」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

平日を終え、土曜。私は予定外の来訪者を前に、なんとも言えない顔を晒していた。

アイヌ調の衣装。ぴょこぴょこと下にゆれる特徴的な尻尾。表情筋の動きがおとなしい分、その目は雄弁に「たすけて」と書いてある。

 

現状を一言で言おう。小林さんが面倒を見ているドラゴンの一人、カンナカムイが私の部屋の前に立っていた。

 

「聖、たすけて」

「……えっ、と。小林さんは?」

「才川と遊んでたら、トールさまと『せっこついん』行くって電話来た」

「…もしかして、門限になるから帰ってきたら、鍵を家に忘れたことに気づいて、私を頼りにきたって感じ?」

「すごい。エスパー」

「いや、まあ…、そうだね。じゃ、トールさんが戻るまでウチで待ってようか」

「うん。ありがと」

 

また腰をやったのか、あの人。仕事中はこっそりヒーリング光線をかけてあげよう。

カンナちゃんをリビングへと案内し、冷蔵庫に向かう。

ジュースあったっけか。…いや、こういう場合は勝手に飲ませていいのかな?来客をもてなさないのもどうかと思うし…。

…よし。ダメだったらあとで謝ろう。

私は冷蔵庫から瓶ラムネを取り出し、カンナちゃんに手渡した。

 

「開け方わかる?」

「わかる。才川に教えてもらった」

 

ぽんっ、と慣れた手つきで栓を開け、溢れる炭酸を口で受け止めるカンナちゃん。

風来坊からもらったの取っといてよかった。今度礼を言っておこう。

 

「聖も飲む」

「私は飽きるほど飲んでるからいいや」

「ラムネ、好き?」

「ラムネ好きが友だちなだけだよ」

 

冷蔵庫から紙パックのレモンティーを取り出し、コップに注ぐ。

それが珍しかったのだろう、カンナちゃんはまじまじと私が注ぐレモンティーを見つめた。

 

「……飲む?苦いし酸っぱいよ?」

「飲んでみる」

 

背伸びしたい年頃なんだろうか。

一口飲ませてみると、少しばかり眉を顰め、再びラムネを口にするカンナちゃん。

どうやら口に合わなかったらしい。無糖だもんな、これ。子供は嫌いか。

 

「宇宙人は苦いのが好き?」

「いや、そういうわけではないかな。私が好きってだけ」

「聖は苦いのが好き?」

「苦いのというより、これが好きかな」

 

ゴーヤは無理。チャンプルーでも無理。

私のことが…というより、宇宙人のことが気になるのだろう。矢継ぎ早にさまざまな質問を投げかけるカンナちゃん。

子供がいればこんな感じなのかも。

そんなことを思っていると、カンナちゃんがふと部屋を見て首を傾げる。

 

「宇宙っぽいの、なにもない」

「危ないものがたくさんあるからね。ほとんど持ってきてないんだ。

……あ、待てよ。あれも宇宙由来っちゃ宇宙由来か…」

 

単体ではまるで使い道がないし、使ったところで役に立たないからと持ってきたやつがあった。

私は着ていた上着のポケットの中身を取り出し、カンナちゃんに見せる。

 

「じゃーん。私の力が入ったメダル。作ったはいいけど、弱すぎて使い道がないゴミ」

「そんなことない。すごい力感じる」

「そう言ってもらえると慰めになるよ」

 

私みたいな開発特化紙装甲低火力のクソ雑魚ナメクジウルトラウーマンは、他と交わっても大して要素が出ない。

出たとしても、ポニテスラッガーの斬撃要素くらい。「セブンメダルで事足りる」と弟子に言われた時は3日くらい落ち込んだ。

 

「どう使う?」

「専用の機械にセットしてスキャンするとね、私の力が使えるんだよ。

その機械は持ってきてないけど」

「残念…」

「危ないからね」

 

持ってきたら確実に大惨事に繋がるからな。

寄生生物やジャグラーくんが複製したと聞いた時は椅子から転げ落ちた。

…まあ、このメダルも盗まれたらだいぶヤバいんだけど。

 

「これを使って何と戦ってる?」

「何と、かぁ。難しいこと聞くなぁ」

 

「何のために戦うか」だったらすぐに答えられるのだが。

こてん、と可愛らしく首を傾げるカンナちゃんを前に、暫し考える。

侵略者…、凶暴な怪獣…、どれも相手しているけど、なんかしっくりこないな。悪い奴らなんて一緒くたに言うのもどうかと思うし。

…そういえば先日、上井さんにも似たような話をしたっけか。

 

「……カンナちゃん。小林さんや才川さんのことは好き?」

「うん」

「もし二人が危ない目に遭ってたら、助けたいって思う?」

「思う」

「私はそういう『大切なものが危ないとき』のために、力を作っているんだよ。

だから、誰かを倒そうとして力を作ったことはないかな」

 

あと闇堕ちしたくないってのが8割。力にこだわりすぎると、あっという間に付け込まれて闇堕ちするからな。

特に私みたいな卑屈なんて格好のマト。鴨がネギどころか白菜まで詰まった鍋背負ってるようなもんだ。実際に何度かベリアルに勧誘されたし。

そんな打算を隠していると、どこか遠くを見たカンナちゃんが口を開いた。

 

「…………ドラゴンはそんなこと考えない」

「あはは…」

「でも、わかる気がする」

「…そっか」

 

子供ながらそんなふうに思えるとは、私よりもウルトラウーマンとしての才能があるんじゃなかろうか。

そんなことを思っていると、別れを告げるインターホンが鳴り響いた。




聖さん/ウルトラウーマンルミナス…闇落ち寸前みたいなオーラ出してるくせして中身はバリバリ光の国の強者。ウルトラウーマン生で初めてスラッガーを出した時、「なんだこのクソ使いにくい剣!!」と叫んだ。頑張って使いこなせるようにはなった。メダルを使うと斬撃強化の他、スラッガーなどの斬撃アイテムに蛇腹機能が付くようになる。お察しの通り、スラッガーには意味がない上、斬撃強化もセブンかエースだけで事足りる。あまりの不遇っぷりに弟子は閉口した。

風来坊…世話になったことがあるのでたまにラムネを持参してお見舞いに来る。

件の新人…「やっべ、ライザーぶっ壊したなんてとてもじゃないけど言えない」と誤魔化しに走った。即バレして師匠に怒られた。

カンナカムイ…相手を倒すだけが戦いじゃないと知った。

小林さん…しばらくルミナス式ヒーリング光線のお世話になった。なお、それでも追いつかないほどハードワークなので焼け石に水。

エルマ…「この槍、体のどの部分なんだろ…?」と1週間くらい気になって食欲の制御が出来なくなった。給料日まであと2日の間、社内の皆からのお裾分けでなんとか凌いだ。
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