留守番してるタイガ「送り出した時点で今更だと思う」
サブタイトルを変えました
「んー…、あの夫婦はこっちのが好みか」
「宇宙人もお酒飲むんだ」
「まあ、たまに。…ごめんね、二人とも付き合わせちゃって」
「聖さんには助けられているからな。お安いご用だ」
迎えた約束の日。
来襲する二人に備え、食料や酒を買い込む。酒に詳しい小林さんに、食に詳しい上井さん。まさしく無敵の布陣だ。
「そっちにも飲み会とかあるの?」
「ない。少なくとも15万年、祝いの席で朝までどんちゃん騒ぎなんてことは一度も」
「嘘だろ…!?宴がないのか…!?」
「ンなことしてる暇あるなら仕事するって星柄だしなぁ。
長く休めるのなんて、私みたく百数年療養が必要なレベルの重傷を負った時くらいじゃないかな?」
それでも状況によっては仕事するけど。
デスマ以上の地獄を想起したのだろう、小林さんと上井さんの顔に辟易が混ざる。
しかも命懸けだからな。ブラックなんてもんじゃない。
弁明しておくと、福利厚生はしっかりしているのだ。休暇だって取ろうと思えば取れる。ただ、立て続けに起きるトラブルが休ませてくれないだけで。
「あの二人だと特に顕著だ。
こうして休暇とって遊びに来るなんて、この先1万年はないと思う」
「やっぱ聖さん偉いんじゃん」
「偉くないって」
そういう立場はそれっぽい理屈こねくり回して後輩に投げたし。
…あ、この銘柄も好きそう。これも買おう。
そんなことを思っていると、テレパシーが頭の中に響く。
『ルミナス。そろそろ座標につくぞ』
『わかった。あ、ちょっと待って。
ツマミ何が欲しい?鮭とば要る?』
『鮭とば…?』
『あ、ケンはじっくり見たことなかったんだっけ。適当に買ってく』
公明正大が過ぎて、自分が抜けてもいい状況になるまで飲まないもんなぁ、アイツ。後進もしっかり育っているし、ちょっとは羽を休めさせてやろう。
…本音を言えば、酔ったところが見たいだけだが。
そんなことを思っていると、ウルトラの母…マリーの声が聞こえた。
『あら。誰かと一緒なの?』
『こっちで世話になってる友達。私の事情も知ってる』
『ふむ。…どうせだから挨拶しておこうか』
『親か』
『そうね、あなた。お土産を買ってから向かいましょう。ルミナス、お友達の好みはわかる?』
『親かて』
お前らの数少ない同期だからな、私。
抗議の意を送ろうとし、あることに気づく。
『………待って。会う気?』
『世話になってるんでしょう?』
『いや、いいって。恥ずかしい』
『そう遠慮しないの。こちらとしても親友が世話になっているんだから』
『………はい』
マリーとは数少ない同期ウーマンということで、かなり距離が近い。
だからこそわかる。「友人が世話になった恩義」なんて名目を手に入れた以上、私の抗議が通じることはない。
私は諦めて高めの酒をカゴに入れ、二人に視線を向けた。
「……二人が小林さん達に会いたいって」
「「……………え???」」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「どうも初めまして、ウルトラウーマンマリーと申します。ルミナスがお世話になってます」
「は、はぁ。ど、どうも…」
「ウルトラマンケンです。こちら、つまらないものですが」
「は、はぁ…」
地球人に擬態した二人を前に、小林さんがヒクヒクと顔を引き攣らせる。
その視線の先は、小林さんの給料一月分の酒。そんなもん持ってくんな。
地球で活動することが少なかった故か、感覚がだいぶズレてる。元は地球暮らしのジードくんとかに相場聞いとけよ。…いや、まずは私に聞け。私に相談しろ。地球の日常に疎い二人だけで土産を選ぶな。
戦慄する小林さんを尻目に、がっちがちに姿勢を正し、ドラゴン娘状態になった上井さんへと目を向ける。
「……上井さん、そんな畏まらなくていいから」
「い、いや、しかしだな…」
「コイツらそういう扱いが一番苦手だから、普通に接してやって」
「む、むぅ…」
一応は納得したのか、いつものスーツ姿に戻る上井さん。ごめんね、めんどくさい立場のヤツらが遊びに来ちゃって。
そんなことを思いつつ、コップを人数分並べる。
マリーの意向で、トールさんとカンナちゃん、そしてつい最近騒動を起こし、紆余曲折を経て小林さんの家に居候することになったイルルちゃんも来てる。
3人はたじろぐ小林さんを前に、怪訝そうに眉を顰めた。
「あれはなにを渡したんだ…?」
「お酒だとは思いますが…」
「めっちゃ高い酒。小林さんの一ヶ月があれ一本で消し飛ぶ」
「感覚ズレ過ぎてません?」
「ラムネとどっちのが美味しい?」
「人によるんじゃないかな」
少なくとも私はラムネ派だ。
そんなことを思っていると、マリーたちの目がドラゴンたちへと向いた。
「どうも初めまして。あなたたちがルミナスが言ってた『ドラゴン』ね」
「地球の営みに歩み寄っている最中と聞く。
互いに学ぶもの同士、よろしく頼む」
「い、いえ、こちらこそよろしく…」
「そう畏まらずともいい。名前は?」
「え、エルマと申します」
「小林さんのメイドをやってます、トールです」
「カンナカムイ」
「イルルだ」
上井さんを皮切りに、軽く自己紹介を交わすドラゴンらと夫婦二人。
それをなんとも気恥ずかしく思いつつ、私はできるだけ平静を保ち、酒やジュースをコップに注いでいく。
「ケンもマリーも、あいさつはその辺にして。
みんなお腹空いてるだろうし」
「む、そうか。失敬した」
出来合いのものだが、皿に移した料理を次々と机に並べていく。
人数分よりもはるかに多いそれを前に、マリーは怪訝そうに首を傾げた。
「………ルミナス、これは多くないかしら?」
「ほとんどそこのでこっぱちが食う分ですよ」
トールさんの悪態に、ケンとマリーが目を丸くして上井さんを見る。びっくりするよな。私もびっくりした。
気恥ずかしそうに縮こまる上井さんの隣に座り、「はいはい、いただきますするよー」と無理矢理に音頭を取った。
小林さん…後日、「ウルトラの父、ウルトラの母からめっちゃ高い酒をもらった地球人」と光の国で恐れられることになる。
ウルトラの父、ウルトラの母…地球での活動経験が少ないため、地球の一般常識にめちゃくちゃ疎い。ので、SE一月分の給料が消し飛ぶ酒を「ちょっといいお土産」感覚で買って渡す。
聖さん/ウルトラウーマンルミナス…同期が親みたいなこと言ってくる。死ぬほど恥ずかしい。