「ルミナス…、さっきから彼女たちの視線がなんともいえないのだが、私のことをなんだと紹介していたのだ…?」
「バケモノ筋肉」
「あのなぁ…。私も既に半隠居のような状態だ。君たちも気にしないでくれると助かる」
「半隠居の仕事量じゃないじゃん、お前。
バカみたいに強くなったベリアル相手にジードくんのインターバル丸々20時間補ったのとかさ」
日本酒を呷るケンに呆れを向けると、ドラゴンたちが情報量に困惑を見せる。
ケンが20時間も戦って後に託す選択をするような相手がいることに対する戦慄か、それとも知らない単語に対する興味か。
どれも当てはまるだろうな、と思っていると、上井さんが恐る恐る問いかける。
「それなのに休んでよかったのか…?」
「ゾフィー…後を託した者が『数少ない同期なのだから、なるべく顔は見ておけ』と無理矢理に休暇を押し付けてきてな…」
「トレギアの一件もあったから、出来るだけあなたの顔を見ておこうかしらと」
「…………もしかしてだけどさ、私も闇堕ちしそうとか思われてる?」
二人して「あ」と言い出しそうなほどに間の抜けた顔を見せる。
おうこら。だれが闇堕ち予備軍じゃ。
私が半目で睨むと、二人は揃って目を逸らし、小さく口を開いた。
「……正直、ベリアルの後追いをしなかったことが奇跡だと思ってた」
「おい」
「その、ヒカリの師だし、雰囲気がベリアルやトレギアそっくりだったものだから…」
「泣くぞ。大声で。みっともなく」
確かに私の周り、闇堕ちしてるやつばっかだけどさ。
………あ!だからか!タイガの一件以来、すれ違うみんなが二割増しで優しかったの!!
なんてこったちくしょう。てっきりゼットライザーとかその辺で畏まられてるのかとばかり思ってたわ。
「私はそうなる予定も、そうなるだけのストレスも抱えてません!!」
「そ、そうか…?」
「現役の頃のあなた、そんな心配がよぎるほど黙々と仕事こなしてたわよ」
「仕事中は無口なだけですー!!
そうでしょ、二人とも!?」
「ま、まぁ。言うべきことはしっかり言ってる人なんで、そこは心配しなくても大丈夫かと」
「う、うむ」
「ほら!!」
こう見えてストレスには強いんだぞ。単品で宇宙の危機をどうこうできるアホみたいな存在のせいで。
私の勢いにたじろぎ、「すまない」、「ごめんなさいね」と口々に謝る二人。
…いや、二人の気持ちはわかる。身内が立て続けに闇堕ちしてたら疑心暗鬼にもなるわ。トレギアも弟子ほどではないにしろ、面倒見てたから余計に。
落ち着くために酒をあおると、カンナちゃんが怪訝そうな目をこちらに向けた。
「闇堕ちってなに?」
「悪いやつになるって意味」
「聖も悪いやつになるのか?」
「ならないように頑張ってるよ」
未来のことは知りようがないので断言はしないことにする。少なくとも、能動的に闇堕ちを選ぶことはないが。
そんなことを思っていると、トールさんが意外そうな声を漏らした。
「聖さんと同族でも、力に溺れることがあるんですね」
「ね。意外」
「…私のこと、聖人君子かなんかだと思ってる?」
「違うんですか?」
「違うよ。少なくともコイツらよりはコスいし卑屈だし無責任」
昇進の推薦も適当に理由つけて蹴ったくらいには無責任だ。
弟子が長官の内定を蹴った経緯が公になったせいで、私にもクソ重い理由があるとか勘繰られたけど。
「そう謙遜するな、ルミナス。君は自分にできることを精一杯やっているとも」
「いつか誰かがやってたことをやっただけだよ。誇ることじゃない」
「実際にやったのは聖さんなんでしょ?
なら誇っていいと思うけど」
「小林さんの言うとおりよ、ルミナス。
少しは褒め言葉を素直に受け取りなさい」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
小林さんの言い方はちょっとずるい。
レスバ強いよな、この人。ドラゴン相手にも論争に持ち込んで認めさせるくらいの胆力もあるし、自分を押し通すだけの強さもある。もしこの地球がピンチだったら迷わず彼女との一体化を選んでたと思う。
そんなことを思っていると、ケンが生暖かい目を私に向けた。
「安心した。ルミナスのことだから、てっきり地球人相手にも壁を作ってるものかと」
「いえ、むしろめっちゃ慕われてますよ?
私、悪酔いするとすごく面倒くさいんですけど、聖さんは私が寝るまで付き合ってくれますし」
「会社でも聖さんが誰かから相談を受けることが多いな」
あ、やめて。バラさないで。
視線による懇願も遅く、ケンとマリーのなんともいえない視線が突き刺さった。
「………光の国にいた頃とは随分と違うな?」
「ヒカリに聞かせたら『誰の話ですか?』とか聞かれるわよ、絶対」
「だって!卑屈が個性として受け入れられてるんだよ!?嬉しくなって張り切るに決まってるじゃん!!」
「卑屈を強く糾弾した覚えはないが…」
「昔から言ってるけどさ!卑屈は半端に理解を示されるのが一番ダメージでかいの!
ケンもタロウも、そーゆーとこが闇トラマン怒らせんだからね!?」
「そ、それを言うのは卑怯だろう!?」
「どんだけ疎外感感じてたんでしょうね」
「この夫婦見てたらなんとなくわかるね」
ベリアルとかトレギアみたいに卑屈が変な方向に拗れてとんでもないことにならないから気が楽なんだ。すごく。
…あれっ?私、闇堕ちの感染源みたいな存在だったりする?
…いやいや、アイツらの卑屈は生来のものだよね?そうだよね?私の卑屈が伝播したとかじゃないよね?ケンやタロウが光の者過ぎて厄介な拗らせ方しただけだよね?
結論。悪いのはコイツら親子の網膜全焼レベルの眩しさ。私何も悪くない。
「闇トラマンってなんだ?」
「前に言ってた『とんでもねー悪さしたウルトラマン』のこと。
その一人が闇堕ちした原因がコイツなの」
「なんだ?親でも殺したのか?」
おおう。イルルちゃん、発想が物騒。
そのくらいの理由がなければ闇堕ちしないと思われてるのは光栄だが、残念ながらアイツの場合は違う。そっち系の闇堕ちは弟子の方だ。
「違う違う。そいつより早く出世して、ちょっと気が立ってる時に訓練で軽く攻撃を跳ね除けて格を見せつけた挙句、BSSをやらかした」
「あー………」
「び、びー、えす、えす…?」
「僕が先に好きだったのにの略ですね」
「えっ!?あいつマリー狙いだったのか!?」
「だからキレたんだよアイツ!!!!」
お前マジかよ!?態度で見え見えだったし、なんなら告白まがいのことまでしてたんだぞアイツ!!その一言であの世から飛び出してお前の首絞めに来るわ!!
見ろ、マリーの顔!!「これは怒るわ」って書いてるぞ!!
数万年越しに伝わった真実に、申し訳なさそうに縮こまるケン。
墓場になんか供えとけよ。多分、「ケンからの施しなんざ要らん」ってあの世でヘソ曲げるだろうけど。
「い、いや、私はてっきり、ルミナスとくっ付くものかと…」
「は?ないない。アイツのマリーに対するアプローチ相談受けてただけだって。
アイツとマリー、どっちとも親しいウーマンなんて私くらいだったし。
マリーの好み的に絶対勝ち目ないって伝えたんだけどなー…」
「そ、そうだったのね…。シフトチェンジしたのかと…」
闇堕ちしてからは知らないが、結婚してからもめちゃくちゃ未練タラタラだったぞ。
その執着がどっか斜めの方向に行ったのか、マリーじゃなくて私を闇方向に勧誘するようになったけど。
この場にベリアルがいたら、悶絶して死んでただろうな。…どうせだから酒でも手向けてやろ。
新しいコップを用意し、近場にあった瓶の中身を注ぐ。
「む?また誰か来るのか?」
「来るけど、これはアイツにやろうかなって。地球の酒、飲んだことないだろうしさ」
「あ、じゃあこれも注ごうかしら?」
「では、私も」
「おう、注げ注げー。あ、小林さんたちも入れたげて」
「い、いいの?亡くなった方に送るものなんでしょ?」
「黒歴史ともども、イジられた方が気が楽でしょ」
「じゃあ、はい」
「私も注ぐ」
おーおー、カオスなことになってきた。
青い顔するかつてのベリアルを想起し、私は笑いを漏らした。
ウルトラの同期…久々の同期だけという状況にテンション上がってる。