飲み会が始まって1時間。コップに注いだ酒を啜り、小林さんが怪訝そうに眉を顰める。
「なんか今日酔わないなぁ…。
いつもならふにゃふにゃになって、メイドトークかましてる頃なんだけど」
「多分、日頃のヒーリング光線が原因かも。余波で肝機能が回復してると思う」
「ホント?健康診断でズルし放題じゃん」
「しっかり太るよ」
「ゔっ」
地球帰りのゼロくんが肥えてたから知ってる。
ジードくんの一件で傷を負い、やむなく一体化した人間が家庭持ちだったらしく、温かい家庭料理に感動し、日頃からかなり食べていたらしい。
療養に使ったエネルギーを超えてて、次の診断で怪獣の喉が潰れた時みたいな声出してたっけか。お仲間に揶揄われていた姿が懐かしい。
「ルミナス、日頃ってどれだけ浴びせてるのよ。お酒で酔えないなんて相当よ?」
「いや、小林さんの腰痛がとんでもなくてさ。
マリーも診てやってよ、びっくりするから」
「私の腰をなんだと思ってるの?」
「私レベルの重傷」
「そ、そんなにか…?」
「いやいや、まさかぁ」
ケンが戦慄し、マリーが苦笑する。
私が大袈裟に言っていると思ったのだろう、マリーが笑みを浮かべたまま小林さんの腰を見る。
瞬間。その笑みが消えた。
「………冗談抜きでそのレベルね」
「いや、大袈裟じゃ…」
「マリーは医学の権威だよ」
「そんな人が深刻な顔するレベルなの!?」
そのレベルなんだよなぁ。神でも封じてんのかってくらいガチガチだった。
見ろ。その証拠に酒が回ってるはずのマリーがガチの顔してヒーリング光線浴びせてるぞ。
小林さんの腰が回復すると、マリーは小林さんを問い詰め始めた。
「普段どんな仕事をしているの?」
「いや、ただ座ってシステム組んでるだけですけど…」
「ちょっと特殊な要因が絡まってるのもそうだけど、それを抜きにしても深刻ね。腰痛対策のストレッチをしないと再発するわよ。いえ、もっと酷いことになるわ」
「そ、そうしたいのはやまやまなんですがねぇ…」
忙しさを理由に逃げようとしてる顔だ。
しかし、小林さんの腰のためにも、逃すわけにはいかない。
「トールさん」
「はい!小林さんのストレッチ、私がお手伝いしてあげます!そりゃもうくんずほぐれつのうへへへへ」
「くんずほぐれつとかすると余計に逃げ出しかねないから。普通にしてやって」
「外堀ってこうやって埋められてくんだ…」
欲望に忠実になるなとは言わないけど、小林さんの腰が心配だからやめてね。
そんなことを思っていると、来客を知らせるインターホンが鳴る。
どうやら残業が終わったらしい。
帰ろうとしたタイミングで振られてたもんなぁ、と思いつつ、扉を開く。
そこに立っていたのは、イケメン二人。
二面性の権化こと滝谷くんと、おこもりドラゴンのファフニールさんである。
「いらっしゃい、滝谷くん、ファフニールさん。先始めちゃってるよ」
「どうも、こんばんは。一応、おつまみ持ってきたよ」
「ありがたく受け取れ、光の巨人」
「そう呼ばれるの、やっぱ違和感あるなぁ…」
私、ここで変身した覚えないんだが。
…いや、したわ。「小林さん、怪獣みたいなの飼ってるな」って思って挨拶しに行った時に本来の姿をちょっと見せたわ。
それでもファフニールさんに見せた覚えはないけれど。
オーラでも見えてんのかな、と思いつつ、二人を居間へと案内する。
「ルミナス、そちらは?」
「同僚の滝谷くんに、ドラゴンのファフニールさん」
「どうも、滝谷と申します。聖さんにはお世話になってます」
「……ファフニールだ」
強者であることは伝わったのか、ファフニールさんが珍しく挨拶を交わす。
ケンとマリーが挨拶を返すと、滝谷くんは怪訝そうな顔で小林さんを見た。
「で、小林さんは何やってんの?」
「腰を治してもらってんの。滝谷くんも診てもらう?」
「滝谷くんは小林さんみたいに特殊な要因がひっからんでるわけでも、ストレッチ欠かしてるわけでもないから、小林さんほどひどくないよ。接骨院で事足りる」
「え、マジ?」
「…確かに、傷んではいるけど、小林さんほど深刻なものではないわ」
「私の腰ってそんなやばかったんだ…」
「え、なになに?小林さん、また腰やったの?」
「そうなんだけど…、ちょっと特殊というかなんというか」
小林さんのはなんらかの呪いの類だと思う。
更迭されたアレが呪いでも試して、たまたま宇宙技術の域に突っ込んだんだろうか。
いや、それにしては邪悪さが見えないんだよな。無垢というかなんというか。
生まれたての寄生生物が住まいとして使ってるんだろうか。
「特殊って…宇宙関連?」
「んー…、少なくとも私は見たことない。
たぶん、この星…、いや、違う?でも、この地球産っぽい特徴はあるんだよなぁ…」
詳しく言うと引かれるので言わない。
怪獣…でもないんだよな。宇宙人とも言えない、初めて見る反応だ。
「…………あっ」
「トール、なにか思い当たる節があるの?」
「おそらくですが、小林さんが私から抜いた神剣の影響かと…」
「…………………あれか!!!!」
神剣と言えば、トールさんがこちらの世界に来るきっかけになった剣だったか。
言われたらウルティメイトブレードみたいな気配してるわ。力の総量は流石にウルティメイトブレードのが大きいが、質はほぼ同等。こんなもんが宿ってたら微妙な不調の一つも出るわ。
「摘出は…しないほうがいいわね」
「おのれ神め…!私の小林さんにマーキングしやがって…!」
「別にトールのじゃないからね?
…これあると腰痛以外になんかまずかったりする?」
「ないけど、今の状態を変えないといつまでも続くわね」
「えぇ…?」
ケンに注がれた高い酒を啜る滝谷くんから、哀れみを向けられる小林さん。
ゲネガーグにワンパンされた直後、病院で目が覚めた時に弟子たちが向けていた視線もこんな感じだったっけか。
「腰がこうなってるってことは、これがそのまま魂に宿ったらキャパオーバーするから仮住まいをここにしてるってことだよね?
一応は小林さんの負担を考えているみたいだけど…、宿る場所がまずいんだよなぁ…。いや、どこに宿っても生活に微妙な支障をきたすのは間違いないんだけど」
「ルミナスが一体化してあげるとかは?
それならなんとかできるんじゃ…」
「そんなの許しませんからね!?!?」
「わ、私も、それはちょっと…。聖さんの分の仕事増えるとか無理なんで…」
そんな理由で断られるウルトラマンなんて、私が史上初だろうな。ちょっと泣きそう。
ゼロあたりだったら「うるせーな」で無理矢理に一体化してたんだろうけど、あいにく私にはそういう詰め方は出来ない。
「トールさんと小林さんがこう言ってるから、一体化はナシ。
何か思いついたら、私が対処しとくから。今はお酒を楽しも」
「むぅ…」
銀十字軍の隊長としての誇りが許さないのだろう、葛藤するマリー。
しかし、これ以上自分が出来ることがないと悟ったのか、おとなしく引き下がった。
「ごめんなさいね、解決できなくて」
「いえ、大丈夫です。デスクワークの宿命ですし」
「……私も頑張れば一体化いけますかね?」
「無理だと思う」
そんな魔法があるんなら話は別だが。
トールさんの願望は、「断固ごめん」とあっさり跳ね除けられた。
滝谷&ファフニール…今回は合流しただけ。次回メイン
小林さん…腰痛がしばらく治らないことにがっかり。
ウルトラの母…解決できなくてちょっぴり落ち込んだ。
聖さん/ウルトラウーマンルミナス…実は小林さんと一体化し、ちょろゴンたちと暮らす世界線があった。