「いや、すまない。
見て回る機会が少ない故、地球の文化は大まかにしか齧っていなくてな…」
「これも今時のファッションというものなのね。勉強になったわ」
「こうも真剣に痴女スタイルを受け止められると地球人としてはもどかしいんだけど」
「でヤンスねぇ」
それな。前世が地球人だからよくわかる。
当の本人はここまでの反応を受けても自分のファッションセンスになんの疑問も抱いてないのか、怪訝そうに首を傾げている。
そういうとこが小学生に毒なんだ。今に初恋を拗らせてとんでもないことになる少年が出るぞ。
「宇宙人って服着るの?」
「んー…、微妙なとこ。
擬態してるときはそれっぽく見せるけど、本来の姿だとマントだけなんてのも珍しくない」
「……聖さんたちも?」
「ノーコメントで」
「私たちの星は…」
「ノーコメントで」
「………ルミナス」
「ノーコメントで」
「……………わ、わかった」
この質問は軽率に答えるべきじゃない。
もしもウルトラウーマンとしてこの星で戦うことになった時、小林さんたちに「全裸なんだな、あれ」とか思われたらどうするんだ。
もしそうなったら軽く寝込むぞ。…怪獣やら悪性宇宙人やらが大暴れしてたら立ち上がるけども。
私の圧に押し負け、答えを飲み込む二人。
小林さんたちも藪蛇だと悟ったのか、それ以上追求することはなく酒を啜る。
と。その空気に耐えかねたのか、それともただ単に気になったのか。
ルコアさんがおもむろに口を開いた。
「そういえば、君たちみたいな光の巨人って基本的には同郷でいいの?」
「いや、結構違うよ。中には出自すらわかってないのもいるし。
皆揃って地球人大好きだし、そのために命張れるから同胞として扱っているけど」
ウルトラマンはなにも光の国がルーツである者だけを指す言葉ではない。誰かを愛し、誰かのために戦う者のことを指す言葉だと、私は思っている。
…まあ、その認識のせいで地獄を見ることが多々あったが。ティガの力なんて弟子共々軽くキレるくらいには再現に苦労した。
「それがどうかしたの?」
「いや、ボクやファフニールが昔見た光の巨人も、もしかすると君たちと同郷だったのかなって」
なるほど。だからファフニールさんが私のことを「光の巨人」と呼んでいるのか。
光の国がトールさんたちの世界を観測した記録はないし、彼らが見たのは光の国に関わらないウルトラマンなのだろうけど。
マリーたちもそれが気になったのだろう、訝しげに眉を顰め、私に問いかける。
「トールさんたちの世界の観測記録なんてあったかしら…?」
「ないよ。あったらマリーたちもドラゴンの存在を把握してるでしょ」
「ルミナスが言うならないんだろうが…、光の国に属さないウルトラマンだろうか?」
「どれだ…?ルコアさん、参考までに聞きたいんだけど、どんなウルトラマンだった?」
ルコアさんもファフニールさんも古いドラゴンだと聞くし、失恋と失意のせいで報告義務をすっぽかし始めた闇堕ち直前のベリアルとか言われても驚かない。…ケンとマリーは驚くかもしれないが。
ルコアさんは記憶を辿り、一つずつ特徴を私たちに伝える。
「胸が赤くて、体は銀色。特徴的な翼があって…、手で表現するとこんな感じ。こっちだとL字っていうのかな」
……胸が赤くて、銀色の肌で、L字の翼?
「ノアじゃん!?!?」
ウルトラマンノア。キングと並ぶ力を持つ、私たちウルトラマンから見ても神の如き存在。
その名を聞き、ケンとマリーも困惑と驚愕を露わにする。
「ま、まさか、ノアが彼女らの世界にも訪れていたとは…」
「ど、どのくらい前…?
どういうシチュエーションで見た…?」
「詳しくは覚えてないが、少なくともトールたちが生まれる前だった」
「神と闘っていたね。あの世界の人間を依代にしていたのは覚えてる」
絶対に邪神の類だ。
どっかの星がノアを再現しようとして盛大にコケたんだろうか。こことは違う地球で確認された時はそんな経緯で介入していたし、あり得ない話ではない。
…ただ単に、ノアが看過できないレベルで碌でもない神がいたのかもしれないけど。
私が考え込んでいると、ケンとマリーがなんとも難しい顔を浮かべる。
「やはり、この宇宙も巡回コースに入れるべきだろうか…?いや、下手に刺激するのも良くないとは思うんだが…」
「ノアが来た世界だものね…」
やはりノアが来たという事実は大きいか。
それだけの厄介ごとがあったということだもんな。一度起きれば連鎖するというのが常。二人が警戒するのも無理はない。
ここで大丈夫だというのは無責任か、と思い、私は二人の議論に混ざる。
「いやいや、ノアが出勤してくるレベルのを隊員に押し付けるのもどうなの?
少なくともゼロと並ぶくらいじゃないと対処できなくない?」
「
「あの子ら今でもいっぱいいっぱいじゃん。仕事増やすのは良くないよ」
「ルミナスがそれを言うのか?」
私たちが物騒な議論を深めていると、小林さんがおずおずと声を上げた。
「あの、そんなまずかったりする?」
「一度出勤したって事実がデカ過ぎるウルトラマンだし、心配しないほうが無理。
もう二度とそういうのが現れない保証があるってなら話は別だけど」
「そこは大丈夫。特殊な状況が重なった結果、偶然生まれたような神だったし。
現れることはもうないんじゃないかな」
「あ、そうなの?」
ルコアさんが言うなら安心か。こんな痴女でも元は神だし、説得力もある。
二人もルコアさんの底知れぬ説得力を感じ取ったのか、「それなら…」と議論をやめる。
よかった、若人たちの仕事が増えなくて。
「さっきも言ったように大丈夫だとは思うけど…、もしまたあんな神が現れるようなことがあったら聖さんに頼もうかな」
「出たら戦うよ。出たらね」
「頼もしいね。流石は光の巨人」
誰かと一体化はしなきゃならないけど。
小林さんだったら快く…とはいかずとも、なんやかんやで引き受けてくれるだろう。
その時が来ないことを祈るが。
そんなことを思っていると、ケンとマリーが微笑ましそうにこちらを見るのが見えた。
「え、なに?なんなのその顔?」
「…やっぱり、ルミナスもウルトラマンね」
「だな」
「ウーマンだよ」
「どちらでもいいじゃないか」
「そうかなぁ」
性別の区分って大事だと思うけど。
釈然としない気持ちを飲み込むように、私は酒をあおった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
夜が更け、日付が変わる少し前。
そろそろ帰ると言うことで、外に出た二人が笑みを向ける。
「ありがとう、楽しかった」
「ええ。いい気分転換になったわ」
「働きすぎなんだって、二人とも。ちょっとは休みなよ」
「何度も言うが、ルミナスが言えたことか?」
私は趣味が8割の仕事だからいいの。
そんな私の抗議の視線など気にせず、二人は小林さんたちに目を向ける。
「皆さん。ルミナスのこと、よろしく頼む」
「親か」
「無茶をしてたら止めてあげて。ほっとくと際限なく突き進むから」
「だから親かて」
そんな頼りなく見えるかなぁ。
踵を返す彼らに手を振りかけると、ふと二人の動きが止まる。
「……あ。あのこと忘れてるわよ、あなた」
「………ああ、あれか。ルミナス」
「え、何?」
ケンが振り返り、どこからか見覚えのあるシルエットを取り出す。
手渡されたものは、従来のものより青が深いゼットライザーに数枚のメダル。
私はそれをまじまじと眺め、眉を顰める。
「私のライザーとメダル…?」
「ヒカリが頑張ってくれてな。
『何が起きるかわからないし、いざという時のために持っておけ』と伝言を預かっている」
「メダルもいくつか渡しておくわ。必要になったら使いなさい」
「くれぐれも盗まれるんじゃないぞ」
「そういうなら持ってこないで…、ああわかった、受け取る、受け取るから。そんな怖い顔しないで」
素直に受け取らないと怒鳴られそうだ。
…ウルトラベルのセキュリティシステムをもう一度作ってみようか。
6兄弟レベルの聖人でなければ突破できない無敵の守りだ。これなら盗み出そうとする奴も出ないだろう。
…まあ、あまりにもセキュリティをキツくし過ぎて回収に苦労することになったんだけど。必要な時、即座に使えないレベルのセキュリティを敷いたあたり、当時の私はバカだったと思う。いや、そのくらいのセキュリティがなきゃ困る代物ではあるんだけど。
「ベルみたいに即座に使えないのは不便」なんて意見が出て、盗まれる前のウルトラキーにあのセキュリティが採用されなかった原因の一つになったし。
…肌身離さず持ち歩くのが1番の防犯か。
「では、改めて…。今日はありがとう。
君たちの幸福を、遥か彼方から祈っている」
「また機会があれば会いましょうね」
「うん。さようなら」
小林さんが別れの挨拶を送ると、二人は光となって空へと飛び立つ。
それが小さくなるまで見送ると、小林さんがため息混じりにつぶやいた。
「すごかったなぁ。聖さん含め」
「ね。あんなに普段のキャラかなぐり捨てた聖さん初めて見た」
「…………ごめん、忘れてほしい」
「無理かなぁ」
「だよね」
久々に同期だけで集まったからってテンション上げ過ぎたのが悪かった。
次の出勤日には噂が広まってそうだなぁ、と思いつつ、小林さんたちを見送った。
聖さん/ウルトラウーマンルミナス…テンションが上がってたせいで取り繕ってた仮面を全部ぶん投げてしまったウルトラウーマン。ライザーと一緒にもらったメダルは6枚。使う時が来ないことを祈ってる。
ウルトラの夫婦…元気で地球人と仲良くやってる同期を見て満足。後日、ルミナスの様子をヒカリに話したところ、「誰の話ですかそれ?」と言われたとか。
ウルトラマンノア…ダークザギレベルの邪神誕生を感知し、トールたちの世界に住まう人間たちの絆を依代に降臨。今やその伝説は薄れ、ルコアさんのような当時を知る古いドラゴンなら知っている程度の存在に収まっている。
ルコアさん…実はノアを直で見たことある勢。妹とヤっちゃう前で、降臨したノアの本質を見抜き、「なにあのやべぇの」と遠巻きに見てた。
ノアに倒された神…一言で言うとダークザギレベルのやべーの。ドラゴンや人々どころか、同じ神々ですらも飲み込むほどの巨悪として君臨。ノアに感知されてなかったらトールたちの世界を滅ぼしてた可能性大。