それと、先日ハーメルンの日間総合ランキングで
まさかの最高20位になりました!めちゃくちゃ嬉しいです!
まだまだ稚拙な内容ではありますが、今後も応援よろしくお願いします!
第ニ章 1話 精霊の優しさ
「……知らない天井だ」
目を覚ましたナツキ・スバルの視界に入ったのは、人工的な白い光だった。天井に埋め込まれた結晶が淡い輝きを放ち、室内を照らしている。
シーツからは、どこか懐かしい“太陽の匂い”が漂った。もっともそれが、死んだダニの匂いであるという無駄な知識もスバルにはあったのだが。
「パンドラは……?」
ゆっくりと上体を起こした途端、ナツキ・スバルの胸を占めたのは不安と焦燥だった。広い部屋を見回すが、彼女の姿はない。
それを知った衝動に駆られ、ベッドから飛び出し、大切な名を叫んだ。
「パンドラ!」
勢いのまま扉を開くと、目の前に広がったのはホテルを思わせるほど長い長い廊下。そこからくる絶望がスバルの背中を押すかに思われた。だが――
「大丈夫……多分、ここはエミリアちゃんの家だ」
だからパンドラも安全なはずだと自分に言い聞かせ、深呼吸。そうして冷静を取り戻したスバルは、まず、エルザによる攻撃の記憶が新しい腹部に手を当てる。
「……傷跡すらねぇのかよ。こっちの医者、優秀すぎんだろ」
まったくの無傷。ならば、ただ気を失ってただけなはずの彼女も、きっと助かっているはず。そう信じて、無闇に駆け出すのはやめた。
――右も左も分からない状況で、無駄に走っても仕方ないからな…――
そう半ば無理に結論づけて、廊下を進む。しかし、どれほど歩いても景色は変わらない。
「いやマジですげーな…エミリアちゃん、どんだけお嬢様なんだよ…」
などと最初はその大きさに感嘆していたスバルだったが、30秒ほど歩いた所で、流石に違和感に気づく。
「いやいやいや、いくら広いからっておかしすぎんだろ!絶対これカラクリあるやつじゃん…」
ゲームで鍛えた勘を働かせるが、出口の正解は見えなかった。結局、最初の扉へと手を伸ばす。
「まあこういうのは最初が正解ってパターンだろ……おっじゃましまーす!」
勢いで起きた部屋の隣の扉を開くと――。
「ベティになんの用かしら、人間」
そこに座っていたのは、装飾過剰なドリルツインテールという、およそ現実で見たことないような髪型をした小柄な少女だった。
「第一村人発見!てかなんかツンツンしてるけど、もしかして俺が一発で正解引き当てたから怒ってんの?スマイル、スマイル、笑顔、笑顔!」
「お前に見せる笑顔なんて嘲笑で十分かしら。さっさとその口を閉じるがいいのよ」
典型的なツンデレロリ――いや、ツンしかないツンロリか…などと思ったスバルは表情を真剣な物へと切り替えると、要件を口にした。
「とにかく…さっきの廊下の仕業はお前だろ?早く解いてくれ」
「どうしてベティが犯人だと思うのよ?」
「いや、怪しげな現象の先にドリルロリが座ってたら、それが犯人ってのは当たり前だろ」
「意味が分からないかしら……でも馬鹿にされたことだけは伝わったのよ。それで?もしベティが術を解いたとして、お前の目的はなんなのかしら?」
「パンドラを探す」
「……やっぱり、お前はあの魔女の連れなのかしら…。ワタシハカアサマトモウアエナイノニ…」
最後の小声は聞き取れず、途中の言葉の意味も分からなかった。ただ、この幼女がパンドラを知っていることだけは確かだ。
「魔女……?とにかく知ってるんなら、パンドラの無事を確かめさせてくれ。だから頼――ぐぁっ!」
スバルの口から出ようとした懇願の言葉は、言おうとしたその瞬間に激痛にかき消された。ベティが腹に触れた途端、体の中に信じがたい痛みが走る。
「おっ…、お前、なにを…しやがった…!」
「大げさかしら。ちょっとマナを徴収しただけなのよ」
「……人間じゃ…ねぇな、お前…主に種族的に…」
「気づくのが遅いかしら」
意地の悪い笑み。
だがスバルも負けじと、荒い息のまま吐き捨てる。
「訂正…。性格も…人間じゃ、ねぇな…」
その言葉を聞いたからなのか、直後にはベティの魔法?が風となって吹き荒れ、スバルの体を弾き飛ばした。無様に床を転がり、扉の外へ追い出され、体が廊下の壁へと叩きつけられる。
――やべぇ……まともに動けねぇ……。ごめんな、パンドラ…――
胸中で謝罪を呟きながらもベットに戻るべく、ふらつきつつも隣の扉を開く。そこには、さっき寝ていた部屋が広がっているはずだった…だが
「なっ……なんだ、これ……」
開いた扉の先…そこは先ほどの部屋と似ていながら、家具や装飾の配置がまったく違う空間だった。
そして、その一角に――。
「……パンドラ…?パンドラ、だよな……」
スバルが寝ていた物と比べて一回りは小さなベッドに、白く儚い少女が横たわっていた。
「…っ!パンドラ…!パンドラ…!」
掠れ声ながらその名を呼び、ふらつきながら傍に歩み寄る。そうして頬に触れる指先。その場で耳を澄ませば、かすかな寝息が聞こえるような気がした。
それが本当に彼女のものか、スバルにとって都合の良い幻聴だったかは分からない。だがそれは、スバルの胸を押し潰していた不安を払うには十分だった。
「……生きてるんだな…。本当に……本当に、良かった…」
繰り返す言葉は歓喜で震えていた。
大都での終わらない苦しは、この瞬間にようやく報われたのだ。
そして同時に押し寄せてきた安堵に膝から力が抜けたスバルは、ベットの傍らにあった看病用らしき椅子に腰を下ろす。
そうして大切なパンドラの細く、儚げな手を握った。そしていつの間にか頰を伝っていた涙が零れようとした、その瞬間――ここまで無理を押して歩いてきたスバルの意識はゆっくりと閉じていき、またしても暗闇へと沈んでいくのだった。
今回短くてすみません…