今回から始まる、ネプおば新章!
ここから始まる新たな物語の始まり、それは宗谷と出会った一人の男の娘との出会いだった……。
新たに始まるネプおばの物語、それではお楽しみください!
どうぞ!
stage,87 俺と男の娘の出会い
プラネテューヌの街中にあるとある一軒のホテル、決して広いというわけではないが最低限の生活が出来る一室には二つのベッドが置かれており、その片方のベッドの上で一人、ある人物がその上に座りながらある物を見つめて何か悩んでいるように考え込んでいた。
「………うーん」
彼の名は、ハルキ・ラピスリー。
とある事情から以前よりこのゲイムギョウ界に現れた異界の女神、アイリスハートことプルルートの打倒を狙いながらも“正義の勇者”の名を持つ戦士、“クロス・ジャスティス”に変身する少年である。
彼は一見すると男とは思えないような顔立ちの眉間を寄せて先程からずっとこのように唸っている。
なぜ彼がこんなに悩んでいるのか、その原因は彼が今手に持っている一枚の紙が大きく関係している。
「どうですか? 今の君の目的と、私達が君にしてもらいたい行動を踏まえて考えれば、これが一番妥当な考えだとは思うのですが?」
そんな彼の様子を見ながら彼が座るベッドの隣に置かれているもう一つのベッドの上に座り彼にそう説明するのはなんともグラマラスな体なのだが来ている服装が白のジャージなのがなんともアンバランスながらも妙に似合っているかのような雰囲気を感じさせる女性、ライラだった。
「……まあ、確かにこれなら怪しまれることもないけど……同時にちょっと動きづらくなる気がするんだよねぇ……」
「そこはあなたの努力しかありません、あなたには今の所熟してほしい役割とあなたの持つ目的、この二つが同時進行されているんですから」
「分かってるよ、それくらいあなたから力を貰った時から理解してる」
そう言うとハルキは空いている方の手でパーカーのポケットの中に仕舞っていた彼の変身用アイテムである“Jデバイザー”を取り出してみせる。
ハルキはそれをライラに見せる様に手で持つと、再確認するようにため息交じりにあることを話し始めた。
「あなた達にとって必要な“二人目の戦士”になる代わりに、“この力をボクの目的のためにも活用させてもらう”……そう契約したのはちゃんと覚えてるよ」
それは彼が正義の勇者としての力を手に入れた時に、目の前の古代女神……ライラと交わした契約でもあった。
女神であるとはいえ、ただでさえ強いことで名の知れている女神、アイリスハート……それを相手取って戦う以上、かなり苦戦するのは当然目に見えている。
だが、この力さえあれば彼女と互角に渡り合える、この力はハルキにとって重要な武器となったのだ。
「なら、後は何も言わなくてもわかりますよね? このまま手を拱いているのもまどろっこしいですし、ここは手っ取り早くこうした方が話が早いのです」
「………はぁ………まあ、仕方ないか」
「ふふっ、素直な子はお姉さん好きですよ?」
その契約内容を守るという意味合いでも、ライラが提案したこのプランは彼自身の今後の行動が制限されるものの、確かに“プルルートを倒すチャンスがある”とも言える。
まだ完全に納得いったような様子ではない物の、渋々と言った感じで了承したハルキにライラは満足げにそう言うとベッドから立ち上がり、ハルキの座るベッドに近づくと彼の隣に座る。
すると、何やら妖艶な仕草でハルキにすり寄ると彼の耳元に顔を近づけながら自身のジャージのファスナーに手を掛ける。
「それじゃあ、後はあなた次第で頑張れるように………お姉さんが応援しちゃいましょうか?」
「そう言う相手は選んだ方がいいよー、ボクそう言う気分じゃないし、あとあまりにも積極すぎると正直言って萎えるから」
「うぐ………ステラに辛らつな言葉を浴びせられるのはむしろウェルカムなのですが………うぅ、こんな風に冷たくあしらわれると寂しくなります………はぁ、また少年くんの初々しい反応が恋しい……」
誘ってみたもののハルキに冷たくあしらわれたことに若干のショックを受けたライラは渋々とファスナーのチャックを閉めて、しゅんと肩をすくめる。
こういう妙な誘いを行わなければ誰もが目を引く美人なのだが……。
そんな残念美人であるライラが落ち込んでいる様子を隣に座っているハルキはちらりと視線を彼女に向ける。
「………ところでさ、“あんな事件”があったわけだけど………これからどうするの、あなた達は?」
ハルキの言ったあの事件、それはこのゲイムギョウ界で先日起きた騒動であり、多くの世界を巻き込み、壮絶な戦いがプラネテューヌで巻き起こった事件、数日たってから“天樹事件”と呼ばれることとなった戦いだ。
あの戦いでは彼女たち古代女神も深く関係していたこともあり、彼女がこれからあの戦いを通してどうするつもりなのか、ハルキはそれが気になったのだ。
するとその質問を聞いた瞬間、ライラは表情をどこか真剣な物へと変化させた。
「………そうですねぇ、私達はあの事件の“後片付け”をするためにそれぞれが各国に向かう予定です」
「各国? ……ラステイションとかルウィーとか?」
「えぇ、なのでしばらくは私を含めて四人分かれて行動することになるようです……散らかしたおもちゃがおもちゃなので、ね?」
そう言うとライラはベッドから立ち上がり、部屋の窓から見える外の景色を眺める。
「あれからもう一か月、こちらも早い事片付けてしまわないと面倒ですからね」
外から見えるプラネテューヌの街並みはあの事件で受けた被害が復興によってもち通りになり始め、国も元の楽観とした雰囲気を取り戻していた。
新・犯罪神の時のこともあり、さすがに大きな事件を二回も被っただけあって、修復が早いともいえる。
しかし、あの事件が残した副産物は何もこのプラネテューヌへの被害だけではない…。
彼女はそれを何とかするためにいったん別の国に身を置くつもりなのだ。
そしてそれはライラだけではない、ステラ、ヤエもまた、もう既にそれぞれ行くべき国へと向かった。
早いところライラも行動しない事には始まらないのだ。
「………まあ、こちらの事はこちらに任せて、あなたはあなたのやるべきことをやりなさいな」
「……りょーかい、どっちにしろ他に選択肢もないだろうし」
「そこのお付きの忍者さんも、よろしくお願いしますね?」
ライラがそう言いながら部屋の隅へと目をやると、じっとその場で立ったままでいたハルキのお供である忍、ステマックスが少し間を開けてからこくりと頷いた。
「……相変わらず寡黙ですね……まあ、そういうことで」
黙ったままのステマックスにそう言い残したライラはやれやれと言いたげな表情を浮かべるとハルキの座っているベッドの横を通り過ぎ部屋のドアに手を掛け、部屋を後にした。
残されたハルキは、ライラが出て行ったのを確認すると小さくため息を漏らす。
「………ふぅ、あの人苦手だな………なんか見透かされてるように見えて、ふらふらしてるっていうか落ち着かないっていうか………なんかめんどくさい、そう思わない? ステマックス」
若干の毒を吐きながら部屋の隅にいるステマックスへと話を振るハルキ、すると……。
「………うーむ、なぜライラ殿は金髪ではないのでござろうか」
「………ねえ、もしかしてさっきからそればっかり考えてた?」
彼とはまた違うことをステマックスは考えていたようである。
今に始まったことではないがこのむっつりのコミュ障影薄忍者、何とかならないだろうかとハルキは口には出さない物の訝しげな目を向けてステマックスを見つめる。
「ちょっ! そんなこのコミュ障影薄忍者なんとかならないかなー、見たいな目で見るのはやめてほしいでござるよハル殿!?」
「さりげなく心読まないでよ、君にそんな能力ないでしょ……で、どうする? ステマックス」
「とりあえず、ライラ殿にはぜひ金髪にしてもらいたいでござるな」
「そっちじゃないから」
ぶれないステマックスに冷ややかなツッコミを入れながらハルキは手に持っていた一枚の紙を彼に見せる様に差し出す。
「ちょっと面倒だけど、今はこれしか僕らにできる手はないみたい」
「……左様でござるか……ならば、拙者はいつでもハル殿のサポートをするだけでござる、ハル殿が火に飛び込むのであれば拙者も火に飛び込む覚悟、常に拙者はハル殿と共にいるでござる」
「……大げさに考えすぎ」
「前からでござる」
もう彼とは長い付き合いになるが、ここまで言ってくれるのは今までにあった人物の中ではステマックスだけだろう、少し対応が面倒くさい時もあるが彼の忠誠心は本物だ、ずっと前から彼はそう言う風にして自分に仕えてきたのだから…。
思えば、彼と出会ったのはまだ自分が10歳の時だったか……いつの間にか本当に永い付き合いになったのだな……。
なんてことを考えながらハルキは口元に微笑みを浮かべる。
「……そろそろお腹減ったね、ステマックス、ご飯にしようか」
「しからば少々お待ちを、拙者が食事を持ってくる故、ハル殿はここで……」
ハルキの言葉にステマックスがそう言いながら部屋を出ようとドアの方へと向かった。
彼がドアを開けようとドアノブへと手を伸ばすと……。
「あ、そうそう言い忘れたのですが」
「なんとっ!?」
突然ドアが開き、そこから部屋を後にしたはずのライラが再び現れた、目標を見失い掴むものを失くしたステマックスは不覚とばかりに体勢を崩し、そのまま前へとよろめき……。
―――ふにゅん…。
という効果音が似合うような柔らかい何かへと、顔面からダイブすることとなった。
「……あら?」
「………あ」
突然目の前に現れた忍者が体勢を崩して自身の胸元へと顔を落としてきたことに若干の驚きを感じたライラ、そしてその様子を目撃し、やばい…、と言いたげな表情を浮かべるハルキ。
その二人の声が聞こえた後、しばらくの間その場に沈黙が訪れる………。
「#$%&‘☓△※=―――――――――!!」
そして、その沈黙はステマックスの声にならない叫びのような物と共に彼が後ろ倒しに倒れたことによって破られることとなった。
盛大に後ろから床に倒れ伏し、気を付けの体制のまま顔の部分を真っ赤にして硬直したまま動かなくなったステマックス。
それをライラが不思議そうに見つめる。
「………えっと、とりあえずどうしましょうか?」
「触れないでください、いろいろややこしくなりそうなんで」
彼女にそう言いながらこれ以上事態をややこしくしないようにとその場を収めたハルキ、その言葉にライラも今だに不思議そうな表情を浮かべるものの納得はしたようで、ステマックスに向けていた視線を外した。
「………で、言い忘れてたことって?」
「ああ、そうでしたそうでした」
本題に戻そうとハルキが質問すると、ライラは思い出したように手を打ち合わせる。
「あなたが行動するにあたって、実は同行させてほしい者が一人いましてね………しばらく預かってほしいのです」
「………?」
突如として、俺が迷い込んだこのゲイムギョウ界のプラネテューヌで巻き起こった壮絶な戦いをきっかけに始まった、あの戦い………あれから一か月が経過しようとしていた。
あの時の事は鮮明に今でも残っている、強大な敵との戦い、異界から来た俺の友達との共闘でやっと乗り越えることが出来た激戦……そして、その戦いを通して分かり合えた新しい仲間……。
俺はあの戦いを通して、様々なことを知って、経験した。
あれから一か月過ぎて、もうすっかりプラネテューヌの街並みは元に戻り、復興もいい目処が立って来ていた。
ただ、あの事件の前に起きた新・犯罪神の事件の事もあって度重なる復興に国の予算が回ったためそのあたりの予算の周りが悪いといーすんは少し頭を悩ませていたのを除けば……今はいたって平和になっていた。
そして、今日の俺はというと…。
「せぇえええ!」
「そぉれっと!」
プラネテューヌの外に出てネプテューヌに相手をしてもらい、模技戦を行っていた。
あの激戦を経験して、まだ上には上がいるということを知った俺はさらに自分自身の力に磨きをかけるために最近こんな感じで改めて特訓を始めることにしたんだ。
俺は刀を片手で構えるネプテューヌに向かっていき、両手で握った赤剣を振り下ろし先制攻撃を仕掛ける。
それに対してネプテューヌは下に垂らすように構えていた刀を跳ね上げるようにして振るい、赤剣の刃にぶつけて俺の先手を防いだ。
そして、それを合図として俺とネプテューヌの攻防が幕を開ける。
言っておくが俺は今まで受けてきたヒーローメモリーの主人公たちとの修行と、今まで遭遇してきた戦いの中で得た経験をもとに独自に剣の振るい方を体に刻み込んできた。
それに対してネプテューヌは女神としての責務を………自分からすることはあまりなかったといーすんが言っていたが、果たす過程で培った独自の戦法を持っており、それを生かした彼女独特の剣技がすでに出来上がっている。
だけど、それは元を辿れば俺と同じように戦いの中で生み出した己の戦い方であり、俺と同じようにネプテューヌは長い戦いの中で経験を積んできたということになり、俺と彼女の戦い方はどこか似ている境遇なんだ。
だが、それでもやはり彼女はこの世界を守護する役割を持った女神であり、純粋な実力でいえば俺よりもまだまだ上だ。
でもだからこそ、燃えるものがあるってもんだぜ……。
甲高い金属質の衝突音が断続的に響く、それは俺の赤剣とネプテューヌの刀が何度も衝突することによって発生する音だった。
ネプテューヌが素早い剣撃を次々と繰り出していき、俺はそれを迎え撃つような形で弾きながら、なんとか反撃を織り交ぜている、そんな状態だ。
だけどネプテューヌは俺の反撃も素早く回避し、さらなる追い打ちを仕掛けてくる。
ここまではいつもと同じ、俺も数回にわたる彼女とのやり取りでなんとか理解はしてきた…。
「ほらほらどんどん行くよ、ソウヤ!」
「そうやってあんまり調子に乗って押し込みすぎると……足元救われるぜ!」
斜め、横、縦、回転を加えながらの大振りな一撃に、小さな動きだが正確な刺突、多種多様な攻撃を次々と繰り出してくる彼女の動きを俺は冷静に見極めながら、チャンスを窺う。
「てぇええええええい!」
よし、ここだ!
ネプテューヌが大きく刀を振りかぶり、跳躍しながら振り下ろしてくるこの一瞬、俺はそれを見逃さなかった。
俺は彼女の攻撃に対して、赤剣を平行に構えて防御の姿勢を取る、それに対してネプテューヌはその防御に打ち込むべくまっすぐに刀の刃を振り下ろしてくる。
だが、それが俺の狙いだ………。
俺は彼女の刀と赤剣の刃がぶつかり合うその前に、地面を蹴って横に跳び退りながら体を捻り、赤剣を刀のリーチの外へと外す。
「ねぷっ!?」
「貰った!!」
目標を見失い、スカぶるような形で振り下ろされたネプテューヌの刀、僅かに動揺を見せたネプテューヌに俺はすかさず反撃を仕掛ける。
俺は体を捻った勢いをそのままに体勢を低くすると彼女の脚に思い切り足払いを掛けて彼女を後ろ倒しに転倒させる。
「きゃん!?」
「今だ………これで!」
お尻からどしん、と盛大に尻餅をついたネプテューヌ。
チャンスは今しかない、俺は赤剣を両手で強く握ると尻餅をついた彼女に向かって思い切り振り下ろす。
もちろん当てはしない、寸止めで止めるつもりだが俺はこの時一切の容赦はなかった、全力で勝負を挑み、全力で勝負を決めに行く、そうでないと相手をしてくれているネプテューヌにも失礼だからだ。
だから、この一撃は俺の全力だった。
けど……。
「なんのぉ!」
その一撃をネプテューヌは防いだ。
俺の振り下ろした一撃を後ろに体重をかけて、転がるようにして回避した彼女はすぐさま体制を立て直すと目標を見失って赤剣で空を切った俺に向かって滑り込むように再び接近し、俺の脚を自身の脚で絡め取るようにして俺をその場に転倒させた。
「うおぉ!?」
「これがシリーズを通しての主人公の栄光を持っている私の実力、早々やられはしないよ!」
そんなことを言いながら仰向けに倒れた俺の脚をがっちりとホールドしながら体勢を起き上がらせたネプテューヌは刀の刃を俺の目の前へと突き出してきた。
「はい、一本……今日も私の勝ちだね!」
「……だ~~~! くそっ! 惜しかったのになぁ……」
これは完全に一撃を貰ったな……。
俺はそれを自覚してその場に両手を投げ出しながら空を仰ぎ見る様に倒れ込むと、ネプテューヌが俺の脚のホールドを解いてさっと立ち上がった。
「でも今回は結構やばかったかも、ソウヤもどんどん上達していってるみたいだね」
「……いいや、まだまだだ……スキルを使えない状態での戦いだとまだまだお前の足元にも及ばないって……」
実際にここ数日ネプテューヌとやり合ったが、それら全部はスキルなしで変身もしてない状態でのものだった。
……もっと俺自身の力を向上させるためにはスキルに頼ってばかりいるわけにはいかないと思ったからだ。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、ネプテューヌは得物の刀を仕舞うと、何やら考え込むような表情を浮かべながら大の字に寝転がる俺の隣に座った。
「んー、だけどさー、ソウヤ変身したら私とおんなじくらい強くなるし、あんまり気にしなくてもいいんじゃないかな?」
「………そう言うわけにはいかないんだ………」
彼女の言葉に、俺はそう返答を返した。
………そう、今のままでいるわけにはいかない………俺は………俺はもっと、守るために強くなりたいんだ………。
………今度こそ、失わないために………大切な人達を、守り抜くために………。
「………まあ、ソウヤのそういう妙にストイックで一途なところは今に始まったことじゃないからいいんだけど、あんまり無理しちゃだめだよ?」
そんなことを考えながら空を仰ぎ見る俺に、ネプテューヌが俺の顔を覗き込むようにして見ながらそう言った。
……まあ、あんまり無理しすぎるのもよくないってのはわかってるんだけどな……あんまり度が過ぎると心配かけちまう人もいるし……。
例えば、そう……俺の……大好きな人とか……。
「宗谷さん! ネプテューヌさん!」
そうそう、この耳にキレイに響いてくる澄んだ綺麗な鈴の音みたいな声の………。
「って、いーすん?」
噂をすればなんとやら、というわけでもないけど………ふと、心の中で思い浮かべていたら聞こえてきた声に俺は身を起き上がらせると声が聞こえた方に目を向ける。
すると、その視線の先には背中から半透明な蝶の翅のような形をした飛行用の羽を展開した、このプラネテューヌの教祖を務め、女神 パープルハート……俺の隣で同じく彼女に視線を向けるネプテューヌのサポートをする役目を担い……そして、今では俺の大切な人……俺の恋人になってくれた、司書 イストワール、いーすんが空からゆっくりと降りてきていた。
結構前まではまるで妖精のような大きさだった彼女は、ひょんなことから普通の人間と同じ大きさになったんだけど、大きくなっても彼女が本来持っていた飛行能力は失われていなかったみたいで、たまにだけど移動の時にはこうして背中の翅を展開して空を飛んでくることがある。
そんなたまに使う空中移動を使ってここに来たいーすんはそのままゆっくりと地面に降り立つと、模技戦を終えた俺達の所に近づいてきた。
「やっと見つけましたよ二人とも、さっきから連絡しても応答がなくてあちこち探してたんですから」
「あー、ごめんないーすん……ちょっと夢中になっちまって……」
「そうそう、なんかさーソウヤがいつになく積極的でさ~、私も困っちゃったよ~、やっぱり私って人を引きつけちゃうからかな? 今日のソウヤったら諦めが悪かったし」
「おい、なんか後半の方で変な誤解を生みそうな言い方をするな」
なんで変な尾ひれをつけた説明をするかな、こいつは……
ネプテューヌが余計な説明を入れたせいでいーすんがやけに怖い目をして俺の方を睨んできたので、誤解を生まないように彼女にくぎを刺しておいた俺はとりあえず咳ばらいを一つしてから身を起き上がらせるといーすんの方に向き直る。
「それでいーすん、なんで俺達を?」
「………え? あ、そうでしたね…実はお二人にはすぐに教会に戻っていただきたいのです、紹介したい人がいまして」
「………紹介したい人?」
一体誰だろう?
いーすんが俺達に紹介したい人って……偉い人か何かかな? 教会の支援をしてくれてる人とか、あるいは単なるお客さんか……まあ、どっちかは実際に行ってみればわかることなんだろうけどな。
「えー、今すぐいかなきゃダメなのー?」
「文句を言わないでください、余り待たせるわけにもいきませんから」
「確かにな……あんまり待たせるのは失礼だしな、文句を言うなネプテューヌ」
さっきの模技戦での疲れがあるのか、渋っているネプテューヌにそう言い聞かせながら俺達は立ち上がると教会に向かって歩き出した。
………それにしても………いーすんが紹介したい人、一体どんな人なんだろうか……。
いーすんに言われて教会に戻った俺達は早速その人に会おうと思ったのだが……ここで問題が生じた。
あの模技戦を熟したせいで俺はかなり汗をかいてしまっていて、そのせいで正直言うとあんまりいい感じはしない……詳しく言うと匂いとか、第一印象とか……。
なので、その人に会うために俺は一旦汗を流すためにシャワーを浴びることにした。
ちなみにネプテューヌは後からでいいらしい。
「やっぱりお客さんに会うなら第一印象は大事だからな、不潔に思われたら嫌だし……ぱっぱと洗ってサッパリして、爽やかに決めるか」
どんなことでも最初が肝心だ、もしもこれから会う人が偉い人だとするなら悪い印象は与えられないし、ただのお客様だとしてもだらしない姿は見せるわけにはいかない、こういうところからしっかりしなくちゃいけないって昔、施設で暮らしてた時に姉ちゃんから教わったしな。
まあ、それはさておき、とりあえず脱衣所に入ろうと俺が目の前にあるスライド式のドアに手を掛けて横に滑らせるようにドアを開く。
今は中には誰もいないはずだ、丁度頬化のみんなは先に部屋に集まっているらしくシャワーが開いていることは既に確認済みだ、ここ最近なぜか多くなってきたお風呂場でばったり的なシチュエーションは今回はないはずだ、なにせ誰も入って入ないんだからな。
だからこそ、気兼ねなくドアをノックせずに中に入れるってものだ。
「………ん?」
「………え?」
………誰かいた。
誰もいないと思って気兼ねなく脱衣所のドアを開けたら、誰かいたんだけど……。
あれ、どういうこと? 部屋には全員揃ってるはずだよね? いつの間にか瞬間移動とかしたわけじゃないよね?
俺は開けた瞬間に目に入った一人の人物を見て硬直しながらも、いったん思考を落ち着かせながら状況を分析する。
よし、まず状況を整理するとしよう。
確か先程俺は風呂に入ろうとする前にちゃんと確認はしたはずだ、その時点では確かにあの部屋にはいーすんを含め、この教会にいる女の子は全員集まっていた。
それこそ、ネプテューヌ以外の女神である、ネプギアやプルルート、そしてアイエフやコンパさん、そしてぴぃにいーすん……。
まだ子どもであるぴぃを数に入れるかはさておき、確かに全員揃ってたはずだ………あれ? じゃあ、俺の目の前にいるのは誰?
そう思い、俺は目の前にいる人物の姿を観察することにした。
俺が脱衣所のドアを開けて遭遇したその人物は、結構小柄な体系に見合ったとても可愛らしいというか、愛らしい顔立ちをしていた。
まるで息づいた緑の葉のようなグリーンの瞳を持つ目はくりっとしていて、肌も白く、目鼻も整っているがまだ幼さが残っている感じだ……そして、首より下まで伸びているオレンジ色の髪はまるで熟した食べごろの蜜柑の様な鮮やかなオレンジ色は、元気さを表しているかのように目に眩しい。
………こんな美少女、うちの教会に居たっけ?
そして、なんで………見覚えのない女の子は、裸でこっちを見ながら今まさにパンツを履こうとしているんですかね?
………あ、今まで入っていたのか。
「………あの、お兄さんって………」
すると突然、目の前の女の子は俺の方を見て叫ぶでも、罵倒を言うでもなく、俺の事を指さした。
え? なに? 知り合いだっけ? おかしいな、こんなかわいい子を見たら忘れないはずなんだけどな……萌えるキャラはすぐ覚えられる自信があるからな!
「ラステイションでボクにぶつかった女の子と一緒に居たお兄さん、ですよね?」
「………え? ラステイションで?」
目の前の女の子が言った言葉に、俺は首を傾げる。
でも、なんだろう? その言葉のフレーズにどこか覚えがあるような………女の子、ラステイション、ぶつかって………。
ふーむ………。
………ん? 待てよ、確か前にラステイションで盗撮騒ぎがあった時に、ぴぃが誰かとぶつかってたような………あれは確か………。
「………あ! ま、まさか! あの時ぴぃがぶつかって尻餅着いてて! 一か月前の天樹騒ぎの時に森でヒロミちゃんと一緒に居たあのボーイッシュツインテールの子か!?」
「変わった覚え方してるみたいですけど、そうだと思いますよ? ほら」
俺の中の記憶の歯車が噛みあって出た答えに対して、目の前の子はシャワーを浴びたことによって湿っているオレンジの髪を掴むとそれを両側で手で纏めると簡単なツインテールを作って見せた。
うん、確かにあのボーイッシュツインテールの子だ、間違いない!
「いやー、それにしても偶然ですね? まさかこんな所で会うなんて」
「あぁ、確かにな……この前もあんな形でまた会って、今もこうして風呂場の脱衣所で……」
納得の言った答えが出て和みながらボーイッシュツインテールの子とそんなやり取りをしていると………俺はあることを思い出した。
目の前のボーイッシュツインテールの子は、今パンツを履いている以外は完全に“裸”なのだということを……。
「………失礼しました!!」
俺は慌てて脱衣所のドアを閉めると、ドアに背を向けて気を落ち着かせる……。
……なんてこった……またやっちまった……。
ここ最近、こういうラッキースケベに遭遇する回数がめちゃくちゃ多くなってる気がしてならないんだよな……まあ、嫌ではないんだけど、その度に制裁とか与えられるから……。
今回もたぶんあの子が着替え終わったら何かしらの制裁が与えられるんだろうなぁ……。
俺は罪悪感あのか、純粋に嫌に感じることによる後悔なのかわからない複雑な心境を抱きながらその場でため息をつく。
だが、そんな心境とは裏腹に俺の脳裏にはバッチリとあの子の裸が記録されているわけで……。
………勘違いはしないでほしい、これは不可抗力だ、不可抗力で記憶しただけで他に何もやましい意味はないからな?
………胸は膨らんでなかったな………完全な絶壁、あれこそがまな板というのだろうか………。
でも、腰はしっかりと引き締まっていたな……それに腕とかも細いけど、しっかりとした肉付きが付いてて……。
太腿とかも白かったし、大事な部分を隠してくれていたパンツも彼女にぴったりな青のチェックだったなー……ていうか、最近の女の子のセンスって変わってるんだな、あのパンツのデザインまるで男物のパンツなんだもん……。
………いやちょっと待て………なんかおかしかったぞ………?
俺は脳裏にバッチリ記憶されてたあのボーイッシュツインテールの子の体つきを思い出していると、ある違和感を感じた。
確か、思い出せる限りでは彼女は完璧なまな板で、腹部もいい感じに引き締まっていた……そこまではいい、そう言う子も確かにいるし、何よりいーすんやネプテューヌもそれに近い……実際に不可抗力で何回か見たこともあったし……。
………まあ、それはこの際いいとして………問題は、その後だ………彼女が履いていたパンツのガラは何だった?
……確か、青いチェックのガラだったよな……そんで形は……逆三角形じゃ、なかった……。
あれは言うなら………“男物のトランクス”………。
「………あれ? 女の子がトランクス履いてるって、おかしくね?」
ここにきて俺の中の違和感がはっきりとした……。
そう、おかしいんだ、女の子がトランクスを履いてるなんて!
な、なんであの子はトランクスを履いてたんだ? 最近のボーイッシュってそんな感じなのか? もはや男装の領域なのか!?
俺が半ばパニックを起こしながら頭を抱えていると………俺が背にしていた脱所のドアがゆっくりと開いた。
「あの、なんでそんなに慌てて閉めたんですか?」
そう言いながら俺の事を見てるボーイッシュツインテールの子は、今も尚パンツ一丁だった……。
特に恥ずかしがるような様子も見せずに、俺の事を見つめるこの子の目には恥辱の色とかそんなの全く見えなくて……。
代わりに見えたのは、その子がしっかりと腰にはいている青のチェックのトランクスで……。
「別にそんなに慌てて閉めることもないでしょう? ……ひょっとして、お兄さん……」
そして、俺は次の言葉を聞いた瞬間……頭の中にあった違和感を、全部吹っ飛ばすこととなった……。
「……“男”の裸を見て興奮する感じの人ですか……?」
………嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
「すみません、まさか先に彼がシャワーを借りているなんて思ってもいませんでした……」
「まあ、同じ男だから別に言わなくても大丈夫かなって思ったんだけどね?」
「………それでも先に行ってほしかったぜ、アイエフ」
まさかの出会いを経て、まさかの事実を知って数分後、俺は戸惑いながらも空いた風呂場でシャワーを浴びた後みんなが集まる部屋へと戻って、困惑しながらも一連の事情を聴いた。
どうやら“ボーイッシュツインテールの彼女”は“ボーイッシュツインテールの彼”だったらしく、彼をアイエフが先に連れて来たらしいのだがちょっと汗を流したいと先にシャワーを貸したようなのだ。
そして、そこへ俺が来て、偶然ばったりと出会い、同時に衝撃の事実にばったりと出くわすこととなったというわけだ……。
「………まさか“男の娘”が本当に存在していたなんて………」
「えっと……なんだかわかりませんけど、困らせたみたいでごめんなさい」
「い、いや、気にするなよ……変な勘違いしてた俺が悪いんだ」
戸惑う俺を見て申し訳なさそうに頭を下げるボーイッシュツインテールの彼に、俺はそう言いながら謝る。
まあ、一見すると完全に女の子にしか見えないんだけどな……髪型も相まって……なんでこいつ、男なのにツインテールなんだろう?
「………えっと、それじゃあ、改めまして………宗谷さん、ご紹介しますね? 彼は、“ハルキ・ラピスリー”さんと言ってこの方があなたとネプテューヌさんにご紹介したい人なのです」
「……ハルキ、か……」
「へぇ~……でも、なんで?」
ハルキという名前の彼を紹介された俺達だけど、なんで紹介されたのか理由がわからず首を傾げる。
すると、それに対して目の前にいたハルキはいーすんの紹介の後に続くように前へと出ると、ぺこりと頭を下げる。
「初めまして、僕はハルキ・ラピスリーと言います、後……」
自己紹介を簡潔にしたハルキはなぜか右手を上げるとその場でぱちん、とフィンガースナップを鳴らす。
すると、突然ハルキの後ろにどこからかシャープなシルエットをした人影が現れた。
「なっ!? なんだいきなり!?」
「ど、どこから出てきたの!? ま、まるで忍者だよ!?」
ネプテューヌの言ったことは割かし間違いではなかった、ハルキの後ろに現れたその人影はよく見るとまさに、“忍者”と言えるような見た目をしていた。
ただ、見た感じは無骨ながらもシャープな装甲に身を包んだ、忍者型のロボットって感じだ……人なのか? ロボットなのか? どっちなんだろう…….
とにかく、突然出てきた謎の忍者に驚く俺とネプテューヌを他所に、ハルキは背後の忍者を一瞥する。
「こっちは“ステマックス”、ボクの……頼れる相棒って感じです」
ステマックス、という名前らしいその忍者を紹介したハルキに続くようにステマックスは俺達に一礼するとハルキの横に並び立つ。
「……今日からボクたちは、この教会に“教祖補佐見習い”として勤めることになりました」
「………教祖補佐、見習い?」
「はい、そう言うことなんで………よろしくお願いしますね、“天条 宗谷先輩”」
屈託のない笑顔で俺の事を、“先輩”と呼んだハルキに……俺はきょとんとするばかりだった。
………でも、どうやら………。
この日、俺に“後輩”が出来たみたいです………。
いかがでしたか?
今回、ようやく教会組に加わることとなったハルキ……教祖補佐見習いとは何か?
次回をお楽しみに!
それでは、またお会いしましょう……