超絶次元ゲイムネプテューヌ おーばーどらいぶ!   作:白宇宙

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どうも、白宇宙です!

今回のお話は、前回ジャッジ・ザ・ビショップに捕獲されたチカに異変が起きる!

そして、クロス・ヴィクトリーは新たなスキルを発動する!

果たしてこのリーンボックス出張編はどうなるのか……物語は急展開!
それではお楽しみください、どうぞ!


stage,96 俺と深淵の瞳

 

 

 

何かが自分の中に流れ込んでくる…。

まるで荒々しく唸る濁流を前にしているような感覚だ、目の前に迫ってくる圧倒的な猛威、それがこちらに向かって来ているような……。

 

逃げなければ………反射的にチカはそう考え、抵抗しようとした。

 

彼女が思い至ったその咄嗟の抵抗は目の前から迫りくる濁流を押しとどめるに至らず……成すすべなく彼女の意識はその濁流の中に飲み込まれた。

精神そのものをかき混ぜられるかのような異質な感覚、すぐにでも気を失ってしまいそうなその言い知れぬ感覚の中でチカは必死にもがき続ける。

 

―――………こんなの………。

 

だがその中で、彼女は………ある“意識”を感じ取った。

 

―――………こんなの………こんなの………。

 

この意識……このふつふつと湧き上がってくるような感情……。

 

それを求め、そのために何でもするという意識をチカはなぜか感じ取り、意識そのものをかき混ぜられるかのような感覚の中で……それがどんどん自分の中に入ってくるのがわかった。

言い知れず湧き上がってくるその感情、やがて自分自身を飲み込むかのように膨れ上がるそれにチカの意識が飲み込まれる瞬間……チカは知った。

 

―――………こんなの………必要ない。

 

あぁ……そうだ……これは悔しさだ……己が感じた者と同じ、言いようのない、とてつもなく大きな悔しさだ。

自分だって頑張りたかった…必死になりたかった…助けになりたかった…だけど、それら全部がたった一言で無駄になった。

 

―――………必要ない………。

 

その一言が自分がどれだけ矮小で、必要性のない小さな存在なのかを自覚させた。

自分は必要とされない……自分役に立たない……あの人にとって、もう必要のない……小さな存在だ。

 

………なら、もう必要とされないなら………。

 

………もう居場所がないのなら………。

 

 

 

 

 

―――………だから………。

 

 

 

 

 

―――………壊しちゃえばいいんだ………。

 

 

 

 

 

自分の中に流れ込んでくるどす黒く粘着質な意識の濁流、成す術もなくそれに飲み込まれたチカは………いつしか抗うのをやめて………それに、身を任せていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……つぅぅ……くそ、なんてパワーだ……!」

 

ジャッジ・ザ・ビショップが唐突に撃ち出した一撃を受け止めきれずに吹き飛ばされたクロス・ヴィクトリーは建物の壁を壊したことによって自身の上に乗った瓦礫を押しのけながら身を起こした。

変身したことで身体能力が向上していたから良かった物の、生身で受けていれば今頃大怪我を通り越して致命傷だっただろうと内心でぞっとしながら、彼は周囲を見回す。

 

「だから言っているでしょう……奴は以前よりも厄介になっていると……」

 

「ベール……あぁ、そうだな、一度お前はあいつと戦ってるからわかるのか……」

 

彼のすぐそばで遅れて身を起こしたグリーンハートの言葉にクロス・ヴィクトリーは同意すると同時に彼女が警戒を強める理由を再度理解した。

確かにこのパワー、というよりも今のジャッジ・ザ・ビショップの存在は圧倒的な脅威に他ならない。

あのパワーを持ってして街で大暴れでもされたりしたら、それこそこのリーンボックスは壊滅してしまうやもしれない…。

 

だからこそ、そうなる前になんとしてでもジャッジ・ザ・ビショップを止めなければいけない……だからこそベールは自分たちに協力を求めたのかもしれない……。

クロス・ヴィクトリーはグリーンハートの事を見ながらここまでに至る彼女の思惑を考えながら瓦礫の中で再び立ち上がる。

 

彼女にとってもこの国は大切な彼女の守るべき場所、そのために彼女が槍を握る理由も十分にわかる……なら、一度手を貸すと言った手前ここで引くわけにもいかない。

自分一人では難しい相手でも、二人……いや、仲間とならきっとあの敵を倒すこともできるはず……。

 

「………? あれは……」

 

不意にグリーンハートが何かに気付いたのか、自分たちが突き破ってきた建物の穴の方へと目を向けながら呟いた。

 

「え? どうかしたのか………って、なんだ、あれ………?」

 

それにつられるようにしてクロス・ヴィクトリーもまた目を向けると、そこには……異質、それでいて不可解………そして………悪寒を感じずにはいられない光景が写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どういう、ことなの?」

 

ケイブは自身が今見ている光景が信じられずにいた。

チカがジャッジ・ザ・ビショップによって捕縛され、何かをされたのは彼女は何となく理解できていた。

しかし、それで何が起きたのか……その先に起きた“結果”がなんなのかを彼女は理解できずにいたのだ。

 

「………チカさん?」

 

イストワールがチカを呼ぶ、だがチカは返答を返そうとはしない。

ジャッジ・ザ・ビショップが彼女を絡め取るのに使ったモーニングスターの鉄球を繋ぐ鎖で体の自由を封じられた彼女は最初こそ抵抗するように体を動かしてはいたものの……抵抗の意志すら見せず、体の自由を奪われた状態のままその場に立ち尽くしているままになっている。

恐怖に身を駆られ、怯えているのとはまた違う……もっと別な……まるで何かに“見入らされているかのような”……そんな状態に近い物を感じる。

 

故に、これから何が起きるのかわからない……ジャッジ・ザ・ビショップが何のために彼女を捉えたのかわからず、また捕えられた彼女にも何が起きているのかわからない……。

 

ただ感じるのは………言い知れぬ不安………。

 

 

 

「………同期、完了………」

 

 

 

ジャッジ・ザ・ビショップがくぐもった声で何かを呟いた。

 

すると、次の瞬間………彼女たちが予想することも、理解することもできなかった“結果”が形となった……。

 

 

 

突如としてチカの体をどす黒い炎のようなオーラが包み込み、怪しく揺らめき始める……。

 

 

 

彼女の体を拘束していた鎖がじゃらり、と音を立てて外れ彼女の身体が自由になる。

 

 

 

そして、彼女の身体が自由になった瞬間だった。

彼女の身体に纏わりついていた禍々しい揺らめきを放つオーラがしだいに大きくなり、次の瞬間、まるで膨張する風船の如く大きく膨らみ、弾けた。

弾けた炎のようなオーラはまるで一本の流星の如く宙を舞い、夜空の中でも一際目立つ漆黒の輝きとも呼べるような存在感を放ちながら縦横無尽に駆け巡りながらいくつも線を引き、やがてそれは再びチカの元へと目がけて降り注いだ。

 

降り注いだ漆黒のオーラは次々とチカの身体に纏わりついていき、やがてそれは彼女の“装備”とも呼べる形を作り上げた。

 

 

 

両手に装着された分厚い装甲、両足にはまるでジェット機のブースターのような物が踵の位置に取り付けられたシューズ、頭にはSFのような近未来なデザインのゴーグルが装着されてチカの目元を覆っている。

だが、装備はそれだけにとどまらず彼女の背中や腰、果てには彼女の着ている衣服をも変化させた。

背中には巨大な二つの手の形をした機械のアームが現れ、握り拳を作りながら彼女の背後を浮遊し、腰には左右に3つずつ穴が開いた筒状の砲門が装着される。

そして彼女の着ている衣服は機動性を重視したかのようなレオタードのような薄手の生地のように見えるが、所々に機械的な装飾が施され、その材質がただの布ではない特殊な材質で出来ているということを物語っている……いうなればバトルスーツとも呼べるような戦闘特化の服装へと変わった。

 

異変はまだ終わらない、最後の仕上げともいうかのように若草色をしたチカの髪がいつの間にかグリーンハートの物よりも明るいエメラルドグリーンに変化し、その頭頂部に魔機械的な三角形をした二つの突起を備えたカチューシャ型のユニットが装備される。

 

それを最後に、彼女の変化は止まった。

体を機械的で、攻撃性を垣間見えるような黒を基調にし、所々に緑の光のラインを走らせた装備で武装したチカはその変化が起きてしばらくしてからゆっくりと目を開ける。

 

「………」

 

何も言わず、まるで自分に何が起きたのかを確かめる様に両手を二、三回握り、足の先から体へと目線を走らせる。

あまりにも静かな、それでいてあまりにも不気味な静寂……その中で一連の流れを見ていたイストワール達は彼女の姿を見て息を飲んだ。

 

「あれは………あの姿はまるで………!」

 

「こんなこと………ありえません………シェアクリスタルの恩恵を受けることのできない人間が、こんな………でも、あの姿はまさしく………!」

 

驚愕の意志をその目に浮かべた彼女達、それもそうだろう……何せ今のチカの姿は彼女たちのとっても馴染みが深い、ある人物の姿とかなり酷似しているのだから……この国の守護を司る役目を担った、この世界の唯一無二にして、強力無比な存在に……。

 

「………くっ………くふふふふふふふ………きゃははははははははははははははははははっ!」

 

突然、チカが楽し気な……無邪気な子供が上げるような笑い声を上げ始めた。

自分の姿を見て感情をむき出しにしたかのように笑い続けるチカは両手を強く握りしめたあと、まるで何かに感謝するかのように自身の胸の前で手を組み合わせた。

 

「遂に……遂に届いた……届きましたのね、アタクシの想いが……お姉さまを思う気持ちが奇跡を起こしましたのね……!」

 

その目にうっとりとした、まるで願いがかなった純粋な乙女のような雰囲気を浮かべるチカはそう呟くと高揚したかのようにほんのりと赤く染まった頬に手を当てた。

自身の変化を心から嬉しく感じているかのように、満足げな微笑みを浮かべる彼女は………。

 

次の瞬間、こう呟いた………。

 

 

 

「アタクシは………“新たな女神”になれたのですのね………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一連のチカに起きた異変の様子は現場よりも離れた教会でモニタリングしているステラたちにも届いていた。

現場付近に仕掛けていた監視カメラの映像から映し出されたチカの身に起きた想像もつかない変化に、その場にいた一同はそれぞれに驚きの様子を見せていた。

 

ただ一人、別の反応を見せている人物を除いて……。

 

「………」

 

モニターに映るチカの姿を変わらない無表情で見つめ続けるステラ、モニターを見つめるその瞳を通して彼女は今何を思っているのか、それを誰も知ることはできないだろう……表情を見ていては……。

 

「………ロボちゃん」

 

彼女の唯一の心の内の変化に気付いたのは、シンシアだった。

モニターを見て驚き、息を飲んだ後ステラへと目を向けたシンシアは彼女が露わにしてる心の内の異変に気付いたのだ。

……彼女が座る椅子に置いている手が強く握り絞められているのを見て……。

 

「………あれは………」

 

「わかって、いる……そんな、こと、自分が……一番、わかってる……なに、も……言わないで」

 

シンシアが彼女を気にかけてか何かを言おうとした瞬間、ステラはその言葉を遮り握りしめていた手を開き、自身の目の前に置かれているコンソールに備え付けられているキーボードに指を走らせていった、その目をモニターから離すことなく……何か強い意志が込められているかのように、無表情なまま睨み付けるようにして……。

 

 

 

そして、その一連の様子を遠巻きに見ていたハルキもこの異変を目の当たりにして動いた。

周囲に目を向け、教会職員、近場にいる5pb.の視線がモニターにくぎ付けになっているのを確認したハルキは隣にいるステマックスに小声で話しかける。

 

「……ステマックス、ボクも行くよ……ここは任せるから」

 

「……了解したでござる……ハル殿、ご武運を……」

 

ハルキが端的に説明をして足早にその場を後にするのをステマックスは見送る。

その部屋を後にし、教会の廊下に出た途端に走り出したハルキは真っ先にリーンボックス教会の外へと出ると周囲に人がいないのを確認し、パーカーのポケットに仕舞ってあった青色の端末、ハルキがもう一つの姿へと変身するために必要な物、Jデバイザーを取り出して操作した後、胸の前で構えた。

 

『ライバライデント』

 

「Jデバイザー、セット!」

 

『セットアップ、クロス・ジャスティス!』

 

端末から出現したハルキの槍、ライバライデントを握り、先端にJデバイザーをセットしたハルキは電子音と共に眩い澄んだ青の光に包まれる。

そして、そのままハルキを包み込んだ青い光はふわり、と地面から浮かび上がると……普段とは違った異様な空気を纏ったリーンボックスの空を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫の中から何とか出ることが出来たグリーンハート、そして遅れてその後をついてきたクロス・ヴィクトリーは今目の前で起きている光景をすぐに理解することが出来ずにいた。

まわりにいるケイブやイストワール達がそうであったように、二人にとってもそれはあまりにも異質で何よりも、“ありえない光景”だったのだから。

 

「………あれって………」

 

「………チカ、ですの?」

 

自身の体をどこか高揚した様子で見ているチカ、彼女のその姿に警戒するクロス・ヴィクトリーの隣でグリーンハートが恐る恐ると彼女に問いかけた。

すると、その瞬間自身の手へと目を向けていたチカがその声に反応したかのようにぐりん!と目線、というか首を動かしてクロス・ヴィクトリーとグリーンハートの方へと向き直った。

 

「……えぇ……えぇ、えぇ、そうですわ、そうですのよ! お姉さま! アタクシ……アタクシは……チカは手に入れましたの! お姉さまの妹に相応しい、このリーンボックスの守護女神の妹……女神候補生に相応しい、まさに………女神としての力を!!」

 

大きく両腕を広げて自分の存在を鼓舞するようにグリーンハートにそう告げるチカ、その目には明らかな興奮と、手に入れた力の感覚に高ぶっているのであろう彼女の内面がありありと出ていた。

そんな目をチカに向けられ、彼女の言葉を聞いたグリーンハートは、喜びとも、驚愕とも取れない、また別の表情を浮かべていた………それは一言でいうのであれば、“畏怖”………。

チカという身近な存在が、突然得体のしれない力を手にしたことによって彼女が感じた、彼女の心が打ち鳴らす危険信号だった。

 

故にグリーンハートは心底嬉しそうな表情を浮かべているチカをまっすぐに見返しながら、一歩踏み出し……呼びかける。

 

「チカ、落ち着いてくださいまし…その力は明らかに異質な物、あなたが手に入れていい力ではありませんわ」

 

彼女はチカに呼びかける……己の中でなっている危険を知らせる警報を彼女にも知らせるために……。

 

だが………。

 

 

「………何を言っていますの、お姉さま………この力が危険なはずはありませんわ」

 

 

しかし、その警報が彼女には届かなかった……いや、聞いてすらいなかった。

 

 

「なぜならこの力はアタクシがお姉さまのお力となるために手にした物! お姉さまのためにある力も同然! さあ、よく見てくださいまし、女神グリーンハートを支える妹となったアタクシのこの姿を!」

 

 

彼女が身に纏う武装、腰に付いた合計6つの砲門、背中のウィングパーツの役割も果たしているのであろう二つの巨大な機械の手、そして彼女の体を覆うグリーンハートの物と似ているコンバットスーツ……。

彼女が見せ付得るそれらすべての装備……それを見てもグリーンハートの警戒は解かれることはなかった。

 

「チカ……よく聞いてくださいまし、そもそも女神はシェアクリスタルを通して集まったシェアを媒介に生まれた存在、普通の人間であったはずのあなたが女神になれるはずが……」

 

「そんな些細なことは関係ありませんわ! 何せアタクシのこの姿が結果! アタクシが答え! この姿を女神と言わずして何と言いますの!?」

 

グリーンハートの呼びかけに一切答えようとはせず己の存在を鼓舞するチカ、その姿はどこか凶器めいたものを感じざるを得なかった。

 

「あ、あの、チカさん、何があったかは知らねぇけど俺も感じる……その姿っつか、その力はなんかやばい気が」

 

その様子にクロス・ヴィクトリーもグリーンハートと共に説得を試みようとするが………。

 

 

 

「お黙りなさいお姉さまに近づくこの小汚い羽虫が!!」

 

 

 

チカは今までに見せたことのない怒りの表情を浮かべながらクロス・ヴィクトリーを睨み付け、そう言い放った。

 

「なっ!?」

 

「少しお姉さまのお気に召したからと言って調子に乗るのも大概になさい……お姉さまのお友達の振りをして媚びを売る小汚い虫風情が口を挟むなど言語道断ですわ! あり得ませんわ! 不愉快ですわ!!」

 

「ち、チカ……!?」

 

唐突なまでの激昂を見せたチカは鋭い眼差しでクロス・ヴィクトリーにまさに怒髪天を突いたかのような怒りの言葉を投げかけた後、わなわなと今度は自身の腕を振るわせる。

だが、その腕の振るえは体の異常を訴えるような震えとは違い……まさに己の感情を表に滲みだしているかのような震えだった。

 

「どいつもこいつも……あなただけではありませんわ……あなたと一緒に居るプラネテューヌの教祖! そしてあのステラというちんちくりんなガキ! お姉さまが少し優しく声を掛け、お近づきに慣れたからと言って周りにたかる小汚い者達ばかり!!」

 

「ち、違う! 俺もいーすんもそんなつもりはないし、純粋に仲間として一緒に助け合おうって!」

 

「黙れと言っているのが聞こえませんの!? これ以上その薄汚い口で耳障りな音を出すなら………」

 

クロス・ヴィクトリーの弁解の言葉に耳を貸す様子のないチカはそういうと、ゆらり、と右腕を動かすとその手の平を宗谷へと向ける。

すると、彼女の背中を浮遊している巨大な機械の手も同じように動き始め、握り拳を解き、その鋼鉄の拳を開いた。

 

そして………その5本の指の先についている、合計5つの怪しげに口を開く丸い穴をクロス・ヴィクトリーへと向ける。

 

「………叩き潰すまでですわ」

 

次の瞬間、彼女の言葉を引き金にしたかのようにその丸い穴が火を噴き、轟音を放ちながら無数の弾丸を一斉に掃射した。

 

「っ!! うぉぉぉぉぉぉおおおおお!?」

 

「や、やめなさい! チカ!!」

 

突然の攻撃に反射的に回避行動をとるクロス・ヴィクトリーとその近くにいたグリーンハート、機械の手の指先から放たれたのは機銃によって打ち出された無数の弾丸、5本の指から撃ちだされたそれは弾幕なぞというレベルではない、まさに一個小隊による一斉射撃だ。

まともに喰らえばさすがに大ダメージは免れないと判断したクロス・ヴィクトリーは慌てて横に跳んで弾丸の雨を躱し、受け身を取り、急いで近くの瓦礫の影へと身を隠す。

 

「小賢しい……逃げしはしませんわ!!」

 

だが、チカは今度は腰に装着されている6つの砲門をクロス・ヴィクトリーが隠れた瓦礫の方へと向けると……先程とは比べ物にならない轟音と共に砲撃を瓦礫に向けて撃ち込んだ。

 

「がぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!?」

 

砲撃は寸分の狂いもなくクロス・ヴィクトリーが隠れた瓦礫へと直撃し、それによって発生した爆発の余波でクロス・ヴィクトリーは吹き飛ばされ、地面に体を強く打ち付けた。

変身して強化されているとはいえ、6つの砲撃を同時に受けたダメージは計り知れない、瓦礫の山の中に再び倒れ込んだクロス・ヴィクトリーは苦しそうにのたうち回る。

 

「ぐぅぅ……うっ……あぁぁぁ……!」

 

「宗谷さん! チカさん、やめてください!! なぜこんなことを!!」

 

感情を露わにしてクロス・ヴィクトリーに襲い掛かるチカ、それを止めようとイストワールが呼び掛ける。

 

「あなたも………お黙りなさい!!」

 

しかし、チカはそれすらも聞き入れず今度はその砲門をイストワール達のいる方向へと向ける。

先程の攻撃を見てその威力を十分に理解しているイストワール、そしてケイブたちは咄嗟に身構えるが回避できたとしても無事では済まされないだろう……。

 

それを理解したうえでチカはその場でぐっと足を踏みしめ、砲門の一撃を撃ちだそうと………。

 

 

 

『ライバルカード! リード! 家庭教師ヒットマン REBORN! 古里 炎真!』

 

 

 

した瞬間、どこからか電子音声が響き渡り、チカの目の前の空間に渦上の巨大な穴が突然発生した。

直後、イストワールに向けられて6つの砲撃が放たれるが、その間に発生した空間の渦の中にまるで吸い込まれるように砲撃が吸収され、音もなく、そして跡形もないとはまさにこのことか……そのまま消滅してしまった。

 

そして、一瞬の合間に起きたこの出来事の後、空からどこからか青い流星の如き光が先程できた空間の渦があった場所に舞い降りた。

光はまるで球体のような形をしており、淡い青色をしている……ゆらゆらと揺らめくようにその場に舞い降りた光は、少しの間を置いた後……周囲に光の粒子をまき散らしながら、拡散し、その中から一人の人物が姿を現した。

 

 

「………女のヒステリックはみっともないな………」

 

「あれは……宗谷の姿と似てる……?」

 

「クロス・ジャスティスさん! あなたも来ていたのですか!?」

 

 

青い近未来の装甲に、右手に握る三叉の矛先を持つ槍、首に巻いた青いマフラーをなびかせるのは正義の名を持つ勇者、クロス・ジャスティスだ。

彼の登場にまだ彼の存在を知らなかったケイブは警戒を見せるが、既に彼と出会っているイストワールは彼がリーンボックスに来ていたことに驚く。

それに対してクロス・ジャスティスは返答する様子も見せることなく彼の得物、ライバライデントを片手で振り回したのち、槍先をチカとその後ろにいるジャッジ・ザ・ビショップに向けた。

 

「これ以上厄介なことになる前に、そこにいる二人……まとめて倒させてもらうぞ」

 

「……また余計なお邪魔虫が……気に入りませんわ……不愉快ですわ……」

 

「気に入らないのはこっちだ……仕事を増やさないでもらいたい!」

 

チカにそう言い放ったクロス・ジャスティスはライバライデントを振り回して構えると、彼女に向かって一気に走り出す。

その時、一連の動きを見ていたグリーンハートがハッとなってクロス・ジャスティスに向き直る。

 

「なっ! お待ちなさい! その子は私の…!」

 

「身内だからと言って手加減しろと? お前はこいつに何をされているのかまだわかっていないのか、緑の女神!!」

 

グリーンハートの待ったの声をそう言って一蹴したクロス・ジャスティスは勢いを殺すことなくチカに向かっていく。

 

「……小汚い羽虫が、近づくのもおこがましいですわ!!」

 

自身に接近してくる新たな存在を敵と認識したのか、チカはそういうと再び背中の機械の拳を動かし、指先にある機銃の銃口を向けクロス・ジャスティスへと向けて一斉掃射する。

けたたましい銃声と共に一定の短い間を開けて放たれる弾丸の雨、だがクロス・ジャスティスは腰に備えているカードホルダーから新たに一枚、カードを取り出すとライバライデントに連結してあるJデバイザーにセットする。

 

『ライバルカード! リード! インフィニット・ストラトス! ラウラ・ボーデヴィッヒ!』

 

電子音が鳴り響くと同時にクロス・ジャスティスが左手を前に突き出し、その手を開きカードによって発動することが出来る、己のスキルを自分の目前へと、広範囲に発動する。

見えざる障壁とでも呼ぶのか、直後クロス・ジャスティスに殺到する弾丸の雨がクロス・ジャスティスに直撃することなく空中でまるで時間が止まったかのように制止する。

 

「ふっ……はぁ!」

 

そして、失速した弾丸はそのまま重力に従うように地面へと乾いた音を立てて落下し、それと同時にクロス・ジャスティスは再び足に力を込め、強く地面を蹴りだす。

次の一斉射撃を受ければ、回避しきれるかどうかは怪しい……ならば一気に距離を縮め、先手を打つのが得策と判断したのだろう。

チカとの開いている距離を一気に埋めたクロス・ジャスティスは体を捻りながらライバライデントを振り回し、遠心力を加えた鋭い横薙ぎの一閃をチカに打ち込む!

 

 

 

―――ガキィィィィィィン!

 

 

 

……響いたのは金属同士がぶつかり合う音、それはライバライデントの槍先がチカに直撃する前に遮られたことによって発生したものだった。

 

 

チカを庇うようにして前に立ちはだかった、ジャッジ・ザ・ビショップのモーニングスターによって……。

 

 

「………守った、だと?」

 

「………」

 

 

ジャッジ・ザ・ビショップが見せたこの行動にクロス・ジャスティスは疑問を抱きながらもライバライデントに力を込め、押し込もうとする。

だが対するジャッジ・ザ・ビショップもまた自身が握る武器を握る腕に力を込めて、ライバライデントを押し返そうとしている。

 

「……妨害……」

 

「……ほう、つまりはあいつをやらせたくはない、そういうことか……」

 

ジャッジ・ザ・ビショップと鍔迫り合いをするクロス・ジャスティス、ふと目の前の黒鋼の巨体が漏らした言葉にジャッジ・ザ・ビショップが何かしらの理由で今のチカを倒されるのは良く思っていないということをクロス・ジャスティスは理解する。

 

ならばどうするか……クロス・ジャスティスの中で答えはすぐに出た。

 

「それなら、先にお前を潰させてもらおうか……!」

 

どちらにせよ、自分が排除するべき障害であることに間違いはない、ならば先に倒しても後に倒しても同じ、故にクロス・ジャスティスはターゲットをジャッジ・ザ・ビショップへと移したのだ。

鍔迫り合いをしていた両者の得物がほぼ同時にタイミングで離れ、再度ぶつかり合い、火花を上げる。

 

鋭く、隙を見せない流れるような動きで巧みにライバライデントを操るクロス・ジャスティスの連続攻撃、そしてそれに対し、まるで鋼鉄の壁の如く撃ちだされるその攻撃をモーニングスターで受け止め、びくともしないという言葉の通り、その場で踏みとどまり続ける。

 

まさに一進一退の攻防、攻めるクロス・ジャスティスとそれを微動だにすることなく受けるジャッジ・ザ・ビショップ……どちらが先を行ってもおかしくない……。

 

 

 

「……ふん、そこで遊んでいるといいですわ……さて……」

 

一方、クロス・ジャスティスとジャッジ・ザ・ビショップが攻防を繰り広げる中チカは再び狙いをイストワール達の方へと向けた……いや、正確にはその中にいるイストワールただ一人に向けると言った方が正しいだろう……なにせ、視線が彼女を貫かん勢いで向けられているのだから。

 

「……アタクシですらお姉さまと激しく体を合わせたことがありませんのに……その代償を払っていただきますわ」

 

「なっ!? こ、ここにきて出て来る話題がそれなのですか!? というか、あれは私が好き好んでしたわけじゃ!」

 

「問答無用! お姉さまの柔肌を独占など……万死に値しますわ!!」

 

極めて個人的な恨みつらみのような気もするが、チカは己の中に秘めていた感情をあらわにしたままイストワールへと向けて機械の腕を向けようとする………。

 

 

しかし………。

 

 

それは彼女の首筋に一本の槍の矛先が横合いから向けられたことによって遮られることとなった。

 

 

 

「………これ以上はやめなさい、チカ………これ以上暴挙に出るというのなら、私も……あなたと言えど、容赦は出来なくなりますわ」

 

 

 

静かな声色と共に、その中に秘められた迫力を滾らせるのは……グリーンハートだった。

自身の手で握る槍の先でしっかりとチカを狙いながら、彼女がこれ以上の暴走を起こすことがないように静止を促す。

それに対し、チカは視線を自分に向けられている槍先へと向けた後、その槍を握るグリーンハートへと向けた………信じられないという驚きの感情を目に浮かべながら。

 

 

「………なぜ、ですの………お姉さま、なぜ止めるんですの?」

 

「………チカ、あなたのしていることはお世辞にもいい事とは言えませんわ………間違いを犯そうとしている身内を止めるのも、一軍を率いてる将の務め………オンラインゲームでのギルドリーダーの務めでもありますわ」

 

彼女なりの表現なのか、そう言ってグリーンハートは鋭い眼差しをチカに向ける。

その言葉にチカはイストワールへと向けていた己を腕を下ろすと、顔を下に向けて俯く……。

 

……グリーンハートにとって彼女に槍を向けるということはどういう心境なのか、複雑そうな表情を浮かべるグリーンハートは固唾をのんで彼女がこれ以上の暴挙に出ないことを祈った。

 

 

 

………そして、チカはゆっくりと顔を上げるとそのままその目をベールへと向け………。

 

 

 

「………なぜ、わかってくれませんの?」

 

 

 

疑問の声をベールに投げかけた……。

その目に……深い……とても深い、空虚な瞳を……そこのない“深淵”を露わにしたような瞳を向けながら、そう口にした。

 

「ち、チカ………?」

 

彼女が向けた今まで見せたことのないようなその瞳にグリーンハートは動揺する、しかしそれでもたじろいではいけないとすぐに己を律して槍先は下ろすことなく彼女へと向け続ける。

だが、そんなことはお構いなしとでもいうかのようにチカは向けられている槍先を驚くことに手で握り、強引に下ろしたのだ。

槍先を強く握ったことにより、チカの手から血が流れる……その行動にさすがのグリーンハートも一度は隠そうとしていた動揺を露わにしてしまう。

 

「なにをして……あなたは……!」

 

「………どうして………どうしてですの、お姉さま………チカは………アタクシはあなたのことをこんなにもお慕いしているのに………なぜ………なぜ?」

 

チカは空虚な瞳を向け、首を傾げながらグリーンハートに問いかけ続ける……その姿はグリーンハートでも、明らかな異常を感じ……寒気を感じさせる何かを秘めていた……。

まるで今自分は、彼女の“見てはいけない何か”を見ているかのような……そんな感覚に襲われたグリーンハートの背筋に凍り付くような寒気が走る……。

 

 

 

「これはすべてあなたのため……“あなたとの約束”のためにと、チカは一生懸命になっていますのに……なぜ……なぜお姉さまに近づく害虫たちの肩を持ちますの……? ……アタクシの事は必要ないとでも言いますの?」

 

「ちがっ……私はそんなことは!」

 

「ならなぜ!! あなたはアタクシのことを見てくれませんの!! なぜアタクシの事を頼ってくれませんの!! なぜ!! なぜアタクシの気持ちをわかってくれませんの!!」

 

激昂し、グリーンハートにそう言い放つチカ……それは彼女の本音なのか……それとも、彼女が表に出すことのなかった、もっと暗い……何かなのか……。

感情を露わにして、叫ぶように捲し立てるチカは血を流す手で握り絞めた槍先を払いのけて、体と体が触れ合いそうな距離まで肉薄する。

 

「あの時の約束はどうしたのです!! もうアタクシは必要ないのですか!!だからあんな羽虫どもに手を出すのですか!!」

 

「チカ、それは違いますわ! 私はあなたの事を思って!」

 

「思っていません!! お姉さまはなにも……何もわかっていませんわ!! なにもかも!!」

 

己の内に溜まっていた何かをすべて吐き出すかのようにすべてを言い放つチカ………怒り、悲しみ、妬み、どれとも当てはまらないような、それでいて決して明るくはない何処か暗い感情をあらわにする彼女はその感情の赴くままにグリーンハートの首を左手で乱暴に掴みかかった。

 

「ぐぅっ…!くっ……!」

 

「………あぁ、そうか………そうですのね、そうだったのですわね………アタクシ、理解しましたわ………お姉さま………」

 

深く、空虚な瞳を浮かべながらそう呟き始めたチカは苦しそうにするグリーンハートの首を締めあげながらその瞳で彼女を見据える。

 

「……お姉さまは既に毒されているのですわね……あの時のアタクシの知るお姉さまではない、あの害虫たちによって既に毒されて……あぁ……あぁ、なんて……なんてひどい!!」

 

「ち………かぁ……あぐっ……!」

 

「お姉さま、安心してくださいまし……もう苦しまなくて済みますわ……だって、もうその必要はないんですもの………全部全部、アタクシに任せてくださいまし………」

 

チカはそう言ってグリーンハートを無造作に放り投げると………背中の機械の腕が再び動き出し、その指先がグリーンハートへと向いた………。

 

 

 

 

 

「すべてを壊し……もう一度、やり直しましょう……お姉さまぁ♡」

 

 

 

 

 

そして、その指先の機銃が小さな駆動音を上げ始め、次の瞬間無数の弾丸の雨がグリーンハートに向けて掃射される。

 

嵐のように銃声が鳴り響き、5本の指に備えられた銃の弾丸が一斉にグリーンハートに襲い掛かる。

地面に叩きつけられ、体勢を立て直しきれなかったグリーンハートはそのまま回避行動をとる暇もなく、その弾丸の雨をその体に受けてしまう。

一発、二発、三発………十発、二十発、三十発………気付けば数えきれないほどに………。

 

「っ! チカやめなさい!! あなた何をしているのかわかっているの!?」

 

「いくらベール様が女神さまでもそんなことしたら!!」

 

女神である彼女は女神化することで肉体的強化の他、通常兵器では通ることのないほどの防御力を手に入れることもできる。

そのため、銃弾を一発や数十発撃ち込まれたところでは多少の痛みこそ感じさえすれど、致命的なダメージにはならない……だが、それを何百、何千と撃ち込まれたらどうなるか……小さなダメージでも積もり積もれば大きなものとなる……それは女神でないケイブたちにもわかりきっていることだった。

 

無抵抗なまま弾丸の雨を受けるグリーンハート、発生した粉塵によって土煙が漂うなかで彼女が今どのような状態になっているのかは想像もつかない……。

下手をすればすでに文字通りのハチの巣になっているのかもしれない……そう考えた時、ケイブは寒気を感じずにはいられなかった。

 

必死にチカに制止を呼び掛けるケイブと鉄拳………しかし、当のチカはその言葉を聞く様子もなく弾丸を撃ち込み続けている。

 

「お姉さま、苦しいのは少しの間だけですわ………あともう少し、あともう少ししたらアタクシがもう一度、お姉さまをあの時のお姉さまに戻して差し上げますから……!」

 

そこにあるのは………もはや一種の“狂気”そのものだった。

 

何かにとりつかれたかのように微笑みながら機銃を撃ち続けるチカ……そこには、もうケイブたちの知るチカの姿はない……。

 

 

 

どうすれば………いったい、どうすればいいのか………。

 

 

 

 

 

『Skill Link! GARO!』

 

 

 

 

 

その時だった……聞き覚えのある電子音声と共に、何かが高速でチカに体当たりを仕掛けた。

 

 

「ぐっ!? ………また、お邪魔虫ですの?」

 

 

突然の不意打ちに機銃の掃射をやめて、そちらの方へと目を向けるチカ……それと同様に何がチカを止めるために割って入ったのか、その場にいたケイブたちもそちらの方へと目を向ける。

 

………その視線の先にいたのは、一匹の“狼”だった。

 

だが、それはただの狼ではない……金色の装甲の体に赤いラインを走らせ、目に位置する部分には赤い光を宿した……まさに“狼型のロボット”ともいえるような物だった。

 

 

 

―――……ウォォォォォォォォォオオオオオオオオオン!

 

 

 

鉄のあぎとを開き、夜空に向けて吠える金色のロボット狼、予想だにしない乱入者……いや、乱入ロボットにチカは怪訝そうな顔を浮かべると狙いをそのロボットへと向けた。

 

「犬畜生の分際でアタクシの邪魔をするなんて……いい度胸ですわ!!」

 

そのまま機械の腕の機銃の照準を狼ロボットに向けたチカは再び弾丸の雨を発射する。

しかし、狼ロボットは人ではできないけもの独特の俊敏な動きを、機械の身体とは思えないほどの滑らかさで再現し、その射撃をすべて回避し続ける。

 

「なんですの!! いったいどこからこんなものが!!」

 

「そいつは俺の相棒だよ……新しいな!」

 

その俊敏な動きにいら立ちを隠せない様子のチカにどこからともなく何者かがそう告げる、その声に反応してチカが声が聞こえた方向を向くと………。

 

 

 

「そいつは“イェーガー・ハウンド”、牙狼のスキルで出てきた頼れるサポーターだ……名前は“ソウガ”、よろしく!」

 

―――ガウ!!

 

 

 

そこにはグリーンハートを肩を貸すようにして担いでいる、クロス・ヴィクトリーの姿があった。

彼の説明と紹介に答えるように、闇に潜む間を駆る狩人の戦士の力…“スキル牙狼”によって生み出された金色の狼型ロボット、“ソウガ”が吠える。

 

「宗谷! あなた無事だったのね!」

 

「さすがにしばらく動けなかったけどな……ベールは何とか無事だ! でも早く手当しないと……」

 

彼の言うようにグリーンハートは意識を失っているのかピクリとも反応していない、よく見ると出血もしているのか彼の足元に赤い液体が数滴滴り落ちている……このまま放置しておくのはまずい……かといってこの状況ではどうすることもできない……。

 

一度体勢を立て直す必要がある……そう判断したのは……。

 

「宗谷さん、そのままベールさんをお願いします! ここは一旦撤退しましょう!」

 

イストワールだった。

 

彼女はそういうと、自身が手に入れた魔法を発動させるべく、モード・アクティブへと変化すると本を開き、右手で握った細剣を天へと掲げる。

すると、彼女の剣の周りに水と炎が交わる様に集まり始め………。

 

 

 

「“霧隠しの奇跡”! はあ!!」

 

 

 

それはあたりを包み込むような濃密な水蒸気となり、さながら濃霧の如くあたりを包み込んだ。

それは近場にいたチカだけでなく、少し離れた場所で戦っていたクロス・ジャスティスやジャッジ・ザ・ビショップをも包み込む。

 

「目隠し………!? ちっ……イストワール……小賢しい手を使いましたわね……!」

 

自身の視界を奪う白い霧にチカは鋭く舌打ちをすると背中に浮かぶ二つの機械の腕を操作し始め……大きく半円を描くように二つの腕を振るい、強力な風圧を発生させてあたりに立ち込める霧を吹き飛ばした。

 

だが、次の瞬間にはそこには誰もおらず……残ったのはチカとジャッジ・ザ・ビショップの二人だけだった。

 

「………ことごとく………ことごとく邪魔をしますのね………許さない……許しませんわ………!」

 

怒りに身を震わせ、チカは拳を強く握りしめる………。

 

 

 

「………天条宗谷………イストワール………!! あのステラという子供も!! こうなったら………みんなまとめて………アタクシが壊して差し上げますわ!!」

 

 

 

己の中から湧き出す感情に従順に従うチカ……そして、その様子をジャッジ・ザ・ビショップは静かに見つめる。

 

 

 

「………予定、順調………」

 

 

 

怪しげなつぶやきと共に……黒鋼の装甲を持つ彼は目を輝かせる……。

 

 

 

………この時、リーンボックスは………新たな危機に直面しようとしていた………。

 




いかがでしたか?

間が開いてきましたが、これからもちょくちょくと書いていきますよ!

そして次回は、チカに起きた異変は何なのか……負傷したベールはどうなったのか!
それでは次回もお楽しみに!
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