今回のネプおばは前回の騒動でベールが重傷を負い、リーンボックスの命運が揺るぎ始める。
しかし、そんな中である真実が明かされ、そして一つの宣告が…!
それではお楽しみください、どうぞ!
はじめてあの子とであったのは、丁度私がリーンボックスの新たな女神となって半年くらいが過ぎた頃でしたわ。
ゲイムギョウ界の中ではラステイションが新たに誕生するまではルウィーと共にこの大陸の派遣を争っていましたわね。
それで、当時は私も多忙なため、一人ではうまく首が回せず……大好きなネトゲもそんなにできていなくて、若干のストレスを感じていましたわ。
リーンボックスは他の大陸よりも南に位置する雄大な緑の大地、私一人で切り盛りするには少し手を余してしまいますわ。
それに女神として生まれて、女神としての仕事をして半年、最初は慣れていなくて苦労もありましたが時間が経つにつれて慣れてきたからこそ……私はこの仕事の大変さが身に染みてわかったのですわ。
指導者というのは大変な物……すべてを纏め上げ、先頭に立つ者だからこそ持っている疲労、悩み、苦悩、自分でいうのもなんだとは思いますが………私一人では抱えきれない物でした。
だからこそ………あの日………私は嬉しかったのですわ………。
一緒に頑張れる、“仲間”が出来たことが………。
「あ、あの………」
あどけなく、すこしおろおろとしている様子で私の前に現れた彼女は私の事を見つめながら深く会釈をして言いましたわ。
「きょ、今日からこの教会の教祖としてベール様のお手伝いをさせていただきます! チカです! よ、よろしくお願いします!」
緊張しているか、少し硬い印象を受ける彼女……でも、それが逆に私は可愛いと思ったのでした……そして、なによりも………嬉しかった。
これからは……一人じゃないということが……。
「ベール様! ベール様!! しっかりしてください!」
「ベールさま~! 死んじゃダメだよ~!」
「決めつけるのは早いだろう……! それよりも医療班! この深く天命が削れた体を癒すのが専門だろう!」
教会に辿り着くや否や、担架に乗せられて教会内に教会職員と共に急いで運ばれて行くベール……変身が解けたその体は、思っていたよりも深刻な状態だった。
彼女の着ていた服はボロボロになり、体のあちこちから血は流れていて、意識も完全に失っている……普通の人間ならいつ手遅れになってもおかしくはない傷だった。
運ばれて行く担架の横で彼女の事を心配する、ケイブさん、鉄拳ちゃん、MAGES.の三人が彼女を心配して声を掛け続けている。
その後ろをついていっている俺といーすんも内心は彼女たちと一緒だった。
「なあ、あんた! ベールは! ベールは助かるのか!?」
「我々も全力を尽くします! 我らのために命を賭してくれている女神様をみすみす死なせたりなどしません!」
近場にいた医療班の人に俺は問いかけると、その人もかなり焦っているのか、動揺の色を表情に浮かべながら忙しなく今のベールの状態を観察しながら専門用語を交えた指示を付き添いで来ていた同じ医療班の人に出していた。
「急げ! 事態は一刻を争う!」
「ベール! ベール!!」
忙しなく指示を飛ばし続け、そのまま医療班の人達は廊下の先にあるベールを乗せた担架と共に重厚に作られた扉の奥へと入って行った。
時間差で閉まる扉をじっと見つめながら、その場に居合わせていた俺達はただ茫然とッチ尽くすことしかできない。
………だって………目の前であんな怪我をしていて、心配にならないわけがないだろ……。
それに、今は状況が状況なだけあって尚更だ……。
「……まさか、チカがあんなことに……」
悲痛な面持ちでそう呟くケイブさん……彼女の言うように現に今の俺も全く整理がついていない。
あのベールの事を一番に思っていて、気高かったチカさんが……ベールにあそこまでの仕打ちをするなんて思いもしていなかったから……。
「………いったい、彼女に何があったのでしょうか………あの姿と言い、なにが」
「………ディープエナジー」
「え? ……きゃあ!?」
その場にいた全員の言葉を代表するかのように言ったいーすんの言葉、それに答えるようにどこからか幼い印象の残る声が聞こえてきた。
その言葉にいーすんが真っ先に声が聞こえた背後の方へと目を向けると、何やら驚いたような声を上げて咄嗟に俺の方へと飛びついてきた。
一体何事かと戸惑いながら彼女を受け止めた俺は同じように声が聞こえた背後へと目を向ける。
そして、その先にいたのは………。
『………O.K.』
「でかっ!?」
身長が俺達の倍以上はあろうかということが一目でわかる、頑強な装甲を持つ赤い人型ロボットだった、俺達を見下ろす頭部パーツの目を怪しく光らせているそのロボットは低めの電子音声でなぜかOKと言って口からぶしゅう!と水蒸気のような物を噴射した。
いきなりの物々しいロボットの登場に戸惑う俺といーすん、すると………。
「………高い、所、は好き」
今度はそのロボットの上から電子音とは違う、滑らかな声色ではあるが不自然な位置で区切りをつけている特徴的な人間の声が聞こえてきた。
「……って、す、ステラちゃん? なんでそんなとこに……てかそのロボット何!?」
よく見ると、その巨大なロボットの肩の位置にちょこんと座るようにしてステラが俺達の事を見下ろしていた。
彼女はどこか満足げな雰囲気で俺達の事を見下ろしながらそういうと子供にしては背伸びをした印象を与えたいのか、その場で足を組み真っ白な足を強調させる……ちなみにステラちゃん? 俺自身ロリコンではないからそこに異様に反応するわけではないんだけど、その位置からだとスカートの中見えるんだよ? そして若干なんだけど、子どもにしては際どいパンツじゃなかった?
「………ギガントール………わたし、の、相棒」
『………Y.E.S』
「そ、そう……なのか……言葉を理解してるのか?」
「ええ、私も何度か見たから知ってるけど、このロボットそれなりの人工知能を持ち合わせてるようよ」
ステラの言葉に反応を返すような言葉を発したギガントールを見て俺がそう呟くと、ケイブさんがそう教えてくれた。
へえ、この武骨な見た目に人工知能……かなり技術力が高いロボットなのか……。
ていうか、こんな大きなロボットこの教会のどこに今までおかれてたんだ? ステラちゃんの部屋当たりなのか? まだ見たことないけど……。
「……それよりもステラ、さっきあなたが言っていたのはなに?」
「あ、そう言えば……確かに言っていました、ディープエナジーって」
そんなステラちゃんの相棒ロボの登場に話が逸れかけてきたのを見越してか、ケイブさんがステラちゃんに問いかけるとそれと一緒に最初に聞いていたのであろういーすんも彼女に問いかける。
それを聞いて、ステラちゃんはむむ? と言いたげな目を俺達に向けてきた後、ギガントールに座ったままゆっくりと口を開いた。
「………チカ、を、あの姿に変えた、のはシェアエナジーと似て非なる力………人間の信仰を糧、にしたシェア、がプラスなら……人間の奥底にある“欲望”を糧、にしたのが………あの力………とでもいえる………」
「……人間の、欲望の力」
淡々と説明するステラ、彼女が言うのは間違いなくチカさんの体を包み込んでいたあの黒くてもやもやした変なオーラみたいなのだろう……あれは依然に俺達がマジェコンヌとやり合ったときに見た“アンチエナジー”とも、どこか違っていた。
「分析、して得られたのが……これ……仮称、として……人間、の深淵にある、欲望、の……力………“ディープエナジー”、とする」
彼女の言葉に俺達はしんと静まり返った空気を作り出しながら、その話を食い入るようん聞く。
……“ディープエナジー”……それがチカさんをあそこまで変えたっていうのか……。
「じゃ、じゃあ、チカさんが変身したあの姿って? ……パッと見ると、女神さまと似てた気がするんだけど……」
「……ディープエナジー、を源として、その身に宿した、姿……原理、は、おそらく女神化、と一緒……だけど、それはたとえ、女神でなくても……その人間、に、同等か……それ以上、の力を与える………いうなればあれは、“欲望によって生まれた化身”……」
ステラちゃんは鉄拳ちゃんの問いかけにそういうと今まで以上に間をしっかりと開けてから、告げる………。
「………“
ディープ……ハード……この世界では女神の意味を示すハードの文字に、深い……この場合は“深淵”を指し示すディープという言葉を合わせたその異様にして異質を放つその名前を聞いた俺はあの時に見た光景を反射的に思い出した。
ベールを完膚なきまでに打ちのめし、反撃の暇を与えずに徹底的にまで彼女を痛めつけたあのチカさんの姿を………。
「………あれ、は、異端の、力……本来、の女神である、ベール……には理解、できたはず」
「ならその異端の力とされるものをなぜチカさんが……」
ステラちゃんの言葉にイストワールがそう問いかける、確かに変身して性格は変身前に近いようにも見えたけど、その後のあの変貌ぶりは明らかに異質だった。
ベールの事を溺愛……とまでは行かないにしろ、慕っていたあのチカさんがあそこまでのことをするほどだ、彼女をあそこまで至らしめたということはそれ程までに危険な力だということくらい俺でも理解できる。
「それ、は恐らく……」
その問いかけに答えようとしてかステラちゃんがそこまでいいかけた時だった、不意に彼女はそれ以上口を開かなくなり、口をつぐんだままベールの運ばれて行った治療室の方へと向けた。
いったいどうしたんだ? 唐突な行動にその場にいた俺を含め、数人が首を傾げる。
「………ともかく、今、は変化した、教祖……を止める、のが優先……あなた、たちは街の方に、集中、するの……ギガントール」
『……O.K.』
ベールがまともに動ける状態じゃなくなり、それを支援する役目を持っていたチカさんもいなくなったからか、ステラちゃんは二人に変わってというかのように俺達にそう言い伝えると巨大な赤い装甲を持つギガントールを引き連れてベールが運ばれて行った治療室へと向かっていった。
「………あの子もベール様をあんな目に合わせて責任を感じているのかしら」
「え? そう……なのか? なんていうか、子どもっぽくない……仕事人間って感じの雰囲気を感じるけど」
「それは天条さんたちが後から来たから、二人が来る前は結構仲良しさんなところわたしたちもみたんだよ?」
「まあ、見方によればベールの方があの娘にあしらわれていたという風にも見えるが……奴はまるで裏表のコインのようにわかりやすく、読みにくい」
「へえ、ベールとステラちゃんが……」
俺はまっすぐに治療室の方へと向かうステラちゃんの背中を見つめる、小さいけど何処かその背中から感じるどこか大きな何かを……俺には知りえないなにかを、感じながら……。
最初見た時はベールをパシリ同然に扱っているようにしか見えなかったんだが……俺といーすんたちも知らない、二人の関係性があるのかもしれないな……。
いや、この場合は………ステラちゃん自身を、俺はまだ知らないから………だな。
リーンボックスの街中で起きた突然の異常事態、そして女神であるグリーンハートの敗走は教会内の対策室内にも動揺を与えることとなった。
この事態を受けて教会内の対策チームに参加している職員は次の行動をどうするべきかと慌てふためいていた。
「街の被害はどうなっているの! 早く報告を!」
「それよりも犯人の動きを! あぁ、くそ……なぜチカさんがあんなことに」
「ベール様はどうなってるのかと国民から問い合わせが来てると保安部隊から連絡が!」
この少しの混乱が徐々に広まっていき、やがてそれは大きな歪みとなっていき、今現在リーンボックスの平穏を守るために設立されたこのチームは司令塔であるベール、そしてベールに異常があった時に変わりを務める役割を担っていたチカを同時に失ったために最優先させるべき行動方針を取れずにいた。
求められる行動を次々と要求されるが故に、どれを進めていけばいいのかという判断を下せずにいるのだ。
そして、そんな混乱の中、あちらこちらに飛び回る言葉を聞きながら、5pb.もまた自分が何をすればいいのかわからずにいた。
このチームの………いつも世話になっているベールや、宗谷達の助けになるのならとケイブを通して頼み込んだのにするべきことを見つけられない。
おろおろと辺りを見回し続けるだけで何も行動を起こせない自分がどうしようもなく無力で、歯痒く感じた。
(どうしよう……ボク……ボクにできることは……)
なにか、なにかないのかと必死になって思考を巡らせる5pb.だが、彼女が本来成すべき仕事は歌を届けること……それしか取りえのない自分にできる事がこの場にあるようには思えないと……彼女は心のどこかで理解していた。
(ボクは……ボクは……また何もできないの? なにもしようとしないで……一人だった、あの時と一緒で……)
かつての自分を思い出し、その場で俯く5pb.……自分から言い出して、何もできずに、一人でその場に立っていることしかできない。
それがあまりにも……悔しかった。
そして、そんな様子の5pb.を見つめる一人の人物が……シンシアである。
この部屋に残った彼女はこの混乱に包まれた対策室の中でシンシアは5pb.のことを気にするように見つめた後モニターに映る街の様子を見て、どこか悲しそうな目を浮かべた。
「………怯えてる………怖がってる………このままじゃ………」
モニターに映る崩壊した街並みの様子、どうすればいいのかを決められず狼狽える人々、そして………つらそうな表情を浮かべる、自分も知っている一人の少女の姿………。
それらを見たシンシアはあることを感じていた……この今のリーンボックスの状態が、彼女がよく知っているある光景とよく似ていたから……。
………今からずっと………ずっと昔に見た………光景と………。
「………だめ………そんなのだめ………絶対に………!」
だからこそ、シンシアはいてもたってもいられなくなっていた。
彼女はこのままではこの国はたくさんの悲しみが生まれるということを感じ取り、悲痛な面持ちでモニターを再度見上げる。
なんとしてでも、この混乱が大きな悲しみを生む前に何とかしないと……。
「………ぅ………ぁ……あの………」
だからこそ………。
「………あの………」
だからこそ………動かなければ………。
「あの………!」
“声”を、上げなければ………。
「あの!!」
何も、伝わらないから………。
シンシアが精いっぱいに上げたその一声に、その場の対策室にいた職員、事の成り行きを見ているステマックス、この事態にイマイチついていけていなかったプルルート、そして、俯いていた5pb.が……一斉に彼女の方へと目を向けた。
慌ただしかった室内に、静寂を作るほどによく通ったその声にシンシア自身も驚きながら、彼女は息を飲みこみそうになりながらも……その続きを口にした。
「………女神さまなら………この国を思ってるあの人なら………と、思って………考え………て………それで………提案が………」
途切れ途切れの言葉……だけど、伝えなければ何も変わらない……シンシアはその思いを糧にして、必死に………必死に声を出した。
「………国民を………はやく……この国の人達を………守って………!」
しばらくの時間が経過した、治療室に運ばれたベールは体のいたるところに包帯などを巻き、ベッドの上で横になっていた。
一応、教会の医療班による治療を施し、致命傷は避けたものの彼女の受けたダメージの大きさはかなりのものでしばらくは安静が必要な状態だ。
気を失った状態のままベッドの上で横になり目を閉じているベール、そんな彼女がいるこの部屋に一人の小柄な人影がそのベッドの傍で膝を曲げた体勢で座っている大きなロボットの膝の上にちょこん、と座っていた、ステラである。
引き連れていたギガントールを椅子代わりにするステラは、じっとベールの事を見つめている……すると……。
「………起きてる、でしょ?」
不意にステラが目を閉じているベールに向けてそう呟いた。
その言葉がステラの口から出た瞬間、なんとベールの瞼がその声に反応するかのようにしてゆっくりと目を開けたではないか。
まるで彼女の声に答えるかのようにして目を覚ましたベールはその視線をそのままステラの方へと向けると、口元に微笑みを浮かべる。
「………見抜かれて、いましたわね」
「……今、の、女神がこの程度、で昏睡状態……に、なってたら、困る」
「ふふ……まあ、気が付いたのは本当にちょっと前なのですけどね……あなたがいたからつい」
「………理解、できない………」
ステラの事を見つめながらそういうベールにどこか不服そうに目を反らすステラ、しかしベールはその微笑みを保ったまま、まるで彼女の言葉に対してどこか嬉しそうな雰囲気を感じさせる表情を浮かべた。
「当然ですわ……だって、せっかくの“先輩女神”との時間なのですから」
そう、ベールは知っているのだ。
ステラの事を………彼女がどういう経緯を持っているのか………どういう存在なのかを………本当の彼女の事を………。
「………本当、に、理解できない………そんなの、理由、にならない」
「あら、いいではありませんの……せっかくなのですから一緒に居る時間を楽しんでも」
「………なら、せめて、お菓子、とか………もっと、楽しむなら、いろいろ………」
「ふふふ、意外と乗り気ですのね?」
「っ! ………単に小腹、が空いただけ」
ベールの言葉に乗せられたことに気付き、不満げな表情を浮かべながらも目を反らすステラをベールは微笑ましそうに見つめる。
だが、ベールはすぐにその表情をどこか真剣さを感じさせる表情に切り替えるとその視線を治療室の天井へと向けた。
「………それで、あれはやはりあなたが言っていた」
「………おそらく、間違い、はない………」
「………そうですの………それにしても、それをチカがその身に宿すなんて……皮肉な物ですわね」
天井をじっと見つめながらそう呟いたベールはどこか神妙な面持ちを浮かべ、再度ステラの方へと目を向ける。
すると、ステラはじっとベールの事を見つめながらきゅっとその小さな手を自身の衣服の裾を握り絞める。
「………あれ、は……わたし、のせい……わたしの、残した“遺産”………あれ、は、わたしが………なんとか」
ステラはベールを見つめたまま、自分の考えを伝えようとそう呟く、しかし、その言葉を遮るようにベールは包帯を巻いた腕を持ち上げると服の裾を握るステラの小さなその手に優しく添えた。
「………あなたはそうやって誰に頼るでもなく、自分の力で前に進んできた………だから、失敗した………そう教えてくれましたわ………けど、だから失敗したとも言いましたわ」
「………だから………なに」
「………今のままでは、また失敗してしまいますわよ?」
まるで諭すようにそう言ったベールの言葉を受け、ステラはハッと我に返ったような表情を浮かべると何も言い返すこともなくその視線を下へと向けて、俯いた。
ベールは知っている、今この国がこのような異変に巻き込まれる少し前に自分の目の前に現れたこの少女が、自分よりもはるか昔を生きた女神だということを……そして、彼女が犯した、“罪”と“失敗”を………だから、ベールは諭したのだ。
彼女に、二度と同じ過ちを繰り返させないように……。
「………引退したあなたは、大きく構えて………後輩に後を任せてくださればそれでいいのですわ」
「………後輩、のくせに………」
「あら、後輩だからこそできることがあるかもしれませんわよ?」
先輩が出来なかったことを後輩が受け継ぎ、前へとどんどん進んでいく……そのシステムは合理的な物だとベール自身は考えていた。
だが、ステラはそれを合理的とは思わないから……いや、“思う訳にはいかない”からこそ余計にベールは彼女を気に掛けたのだ。
「………後輩、なら、先輩の言うことを聞く………あなた、はもう、余計なことは……」
「………一度引き受けたからには、わたくしも引き下がるわけにはいきませんわ………それに、まだ聞きたいこともたくさんありますし」
そういうとベールは再び微笑みを浮かべながらステラの腕を優しく握った。
「………先輩の尻拭いも、後輩の役目ですわ」
「………その、くらい、自分で拭ける………昔、とは違う…トイレも……」
「………もしかして、一人で出来ない時期がありましたの?」
「っ!? ふ、ふける! 一人、で行って……一人で、拭ける!」
「夜中にトイレに行けないのに?」
「っ!? ふ………拭ける………ひくっ……」
先輩らしからぬ子供らしさのある負けず嫌いを見せるステラを前にして少し悪ふざけでからかってみたベールだが、少々やりすぎたようだ。
少し泣きそうになりながら自分は出来ると主張したいらしいステラに、ベールは苦笑いを浮かべる。
「わ、わかりましたわ、そのくらい一緒にお供したわたくしも理解してますから、泣かないでくださいまし」
「……先輩、は、敬う、の……」
「……申し訳ありませんわ」
半べそを書きながらも先輩という立ち位置を譲らない様子のステラ、見れば見るほど先輩という立ち位置には遠い反応なのだが……。
だが、それ故に……彼女という存在が、いや、彼女を含めた古代の女神という存在があまりにも自分達よりも“不安定”だと感じざるを得なかった。
ステラ自身もこのように主張はしているが、それは重々承知してるのだろう、だからこそ彼女はベールがこのリーンボックスを納めるはるか昔に、この地を納めていた古代の女神であると明かしてまで接触してきたのだから。
すべては彼女の残した遺産を取り戻し、悪用を阻止するために………。
「………ステラ、一つよろしいかしら」
不意にベールはステラの方を見ながら再度、問いかける。
目じりの涙をぐしぐしと拭ったステラは少し御機嫌斜めの様子で視線を向ける。
「……この事件の……チカのあの異変の発端になったもの……それについて彼に…宗谷に、真実を伝える気は……」
それを聞いてステラはふてくされた表情を瞬時に切り替えて、再度無表情へと戻るとベールの握る手を見下ろすように視線を動かす。
そして、しばらく沈黙を保った後、彼女は顔を上げた。
「………ない………」
その一言だけで十分だというような何も感じさせない無表情と共に、そう告げたステラはベールの手から自分の手を放すと一度ギガントールから降りてその手をベッドの掛け布団の中へと戻させた。
「………前にも、言った、あれは……まだ、不完全……なのに、真実、を告げるのは……早すぎる……この世界、の歴史、の闇、に埋もれた……“黒歴史”……それ、を、知る、には早い」
そういうとステラは小さな足でベッドから離れ、治療室の出口のドアへと向かう、それを追うようにして座っていたギガントールも立ち上がるとステラの後を追って部屋の出口へと向かう。
それをベールは目で追いながらも、彼女の言葉に対してくらいつくかのように言葉を投げかける。
「しかし……あなたから聞く限り、あの力は強大な物……それを知らずに相手にするのは……!」
「………しつこい、の」
しかし、その言葉を一蹴するようにそう言い放ったステラはベールの方へと振り返り、まるで鉄で作られたような無表情に無機質な、意志を感じさせないような無感情な目を向けた。
「……あれ、は……わたし、が何とかしなければ、意味、ないの……あの力、ディープエナジー、の元は………わたし、の………わたし、が犯した………“業”、だから」
そう告げたステラにベールはそれ以上、何も言えなかった。
あまりにも不安定で、あまりにもわからない……だがそれでも、彼女は自分たちが犯した“過ち”を何とかしようとしている。
その先にある……この世界の“歪んだルート”という物を正すために……。
「……もう少し、寝てる、の……」
彼女なりの気遣いなのか、そういった後ステラは連れていたギガントールと共に部屋を後にした。
残されたベールはその小さな背中を見送りながら、再びベッドに身を預ける。
そんな時、ふと彼女の脳裏にある光景が浮かんできた……。
『い……一生、尽くしますわ! お姉さま!』
一人でいると、ふと思い出すことがあるというが、こんな事態で思い出すものがこれとは……。
あの時、チカがこの教会に勤めてしばらくして彼女が宣言したこの言葉は今でも覚えている。
だが、彼女があんなことになって……もう、その言葉に対する返答を出す時がいつにするべきなのか……わからなくなってしまった。
………未だに言えていない、あの時のチカの宣言への返答が、あるのに………。
「………チカ………」
ステラちゃんの指示もあり、俺達はリーンボックスにこれ以上の被害を出さないためにもらたな対策を練るべく各自で動くことを決めた。
ケイブさんは対策室へと戻って状況の把握、鉄拳ちゃんとMEGES.はそのサポート、いーすんと俺は何か姿を消したチカさんとジャッジ・ザ・ビショップを捜索するべく再び街に繰り出した。
一度いーすんと別れて俺はマシンヴィクトラーに乗って街の中を駆け回る。
普段は活気づいているこの街だが、今の様子は……さながら戦場の跡地みたいだ……そこら中に戦いの傷跡が残っている……それと同時に人の賑わいも、気配もない……それはまるでこの国そのものが怯えているようで、俺には耐えがたい空気だった。
早く何とかしないと……そんな思いが俺の中に募っていく……。
「………?」
そんな中、バイクを走らせる途中、俺の視界の先に一人の人影が立っていることに気付いた。
よく目を凝らしてみると、それは見覚えのある青い仮面とボディースーツに身を包んだ姿をしていた。
「………ジャスティスか?」
そう言えば、あの時ジャッジと戦ったときにあいつもどっからか飛んできたな…あいつも奴を探してるのか?
そう思った俺が彼の近くでバイクを止めようとすると、それに気づいたのか……いや、この場合は先に気付いていたのか、クロス・ジャスティスは俺の事をじっと見つめてきた。
俺は彼の近くにマシンヴィクトラーを止めると安全のために被っていたヘルメットを外す。
「まさか、あんたもこっちに来てたなんてな……さすが正義の味方は、悪者の匂いには敏感ってか?」
少し皮肉を交えた言葉を彼に投げかけると、クロス・ジャスティスはそれに対して陽気に答える様子はなく、というか性格的にそんなことはないと理解はしてるんだが……ジャスティスは仮面越しに俺へと目を向けてきた。
「………お前もわかっているだろう、奴が……四天王のあいつが以前よりもはるかに力をつけたということを……」
「……ああ……ってお前、その言い方だと前のあいつらを知ってるみたいだけど……」
「なら話は早い」
「………無視かよ」
よっぽどクールな性格らしい青い勇者はそういうと、仮面越しに俺を見つめながら今度はリーンボックスの街並みへと目を向けた。
「……このまま奴らを放置しておけば、この国は今よりひどいことになる……」
「………ああ、だから早く奴を見つけて………チカさんも助けないと」
この街の事を思ってるのは俺達だけじゃない、ベールだってそうだ……そして、何よりも彼女をしたtぅていたチカさん自身も……だからきっと、彼女もこんなことは望んでないはずだ……。
だからこそ、早く助けないと……。
「………そんな悠長なことは言っていられない」
………え?
「………どういうことだよ」
俺は今クロス・ジャスティスが言ったことを理解できずに再び彼に問いかける、するとジャスティスはじっと俺を見つめながら右腕を上げて俺に向かって親指を立てたかと思うと、それを横薙ぎに……まるで何かを切る動作をするかのように動かし……こう告げた。
「………奴と共に、あの教祖の女も………排除するべきだ」
………冷徹な、宣告を………。
いかがでしたか?
次回はジャスティスに宣告された宗谷、リーンボックスの行く末を握るのは……そして、チカはどうなってしまったのか!
次回もお楽しみに!