超絶次元ゲイムネプテューヌ おーばーどらいぶ!   作:白宇宙

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新年、明けましておめでとうございます!


2015年最初の投稿は、ルウィー誘拐事件終息編です。
そして、最後にちょっとした予告が…

それでは、どうぞ…


stage,16 俺、キレてないですよ?

状況が状況なだけに、今目の前で起きていることを理解するのに時間がかかった。

今日、俺の前に突然現れ、俺のことを見ていた黒ローブ……そいつの正体が、あの超有名な配管工、『マリオ』だった。

 

それだけでももう、一体、何がどうなっているのか分からなかった…。

 

今さっき、ベルトが反応したってことは、あのマリオもヒーローメモリーに内蔵されたマリオのデータから作られた存在だ。

それがなぜ今俺の目の前にいるんだ? 少なくとも、キリトも、リュウも、ウルトラマンも、ルフィも、ナルトも、俺の精神世界でしか会わなかったはずだ…。

 

いや、でも、最近現実世界に出てきた人物が、一人いたな…。

 

そうだ、TGSの時のアカレンジャーだ。

もしかしたら、彼がこちら側に出てきたのと同じように、彼らヒーローメモリーに内蔵されている主人公キャラ達は、現実世界にも出てくる術があるのかもしれないな…。

 

俺は頭の中でマリオが俺の目の前にいることを考察していると、マリオは手を一回、ぐっぱ、と握ってから開き、俺のことをじっと見つめた。

 

 

『さて、あまり時間もないだろうから…手短に話すよ?』

 

 

え? マリオって日本語話せるの!?

 

正直、これが一番の驚きだったが…今は細かいことを気にしている場合じゃないか、むしろ英語じゃない分、楽に会話ができるからラッキーだと思っておこう。

 

俺はそう割り切って、マリオが何を言い出すのかしっかり聞き取ろうと耳を澄ます。

 

 

 

『悪いけど、君を犯人に会わせるわけには…行かないんだ』

 

 

 

 

マリオが、とても真剣な顔で言った言葉は、俺に更なる衝撃を与えた。

 

一体どういうつもりなんだ…

 

「……理由を聞かせてくれないか?」

 

俺が少しトーンを落とした声でそう聞くと、マリオは特に表情を変えることなく、ただ俺のことを指差した。

 

『今、君を奴と対峙させるのは危険なんだよ、宗谷君』

 

危険? 一体何が危険だと言うのか、俺の中に浮かぶ疑問が収まらない…

 

確かに、一度俺は奴に攻撃を食らったが、あれはネプギアとユニちゃんを攻撃から守るために受けた…結局二人にも攻撃が当たったけど…

 

でも、今の俺は少なくともそうやすやすとやられるほどではないと思っている。

たとえ奴が何か隠し玉を持っているとしても、トリックに一発くらい食らわしてやることはできると思う。

 

『君は自覚していないだろうけど……僕は分かるんだ、君の中にある“炎”が…』

 

「炎…?」

 

マリオはそう言うと、こくりと頷き自身の胸の中央あたりを親指で指差す。

 

 

『怒りの炎だよ』

 

 

怒り……

 

その感情は、確かに多少なりとも感じている…だけど、あんなことした奴に怒るなと言う方がおかしいと俺は思う。

 

「……それが、どうしたって言うんだ……むしろ怒りを感じない方がどうかしていると思うぜ?」

 

『確かに、誰しもが大切なものを奪われれば怒りを感じるだろう、ただし、君の怒りは少し違う…』

 

マリオはそう言うと、自身を刺していた右手を下し、ぱちんとフィンガースナップを鳴らす。

その瞬間、マリオの指先から炎が一瞬閃いた。 どういう仕組みなのかは分からないが…今のはさっきの言葉の揶揄なのか?

 

『君の怒りは、極めて個人的な……強い憎しみに近い物を、僕は感じたんだ』

 

「っ!」

 

その言葉が一瞬、俺の何かに突き刺さった気がした。

 

……確かにそうかもしれない……俺は奴に対して、怒りを燃やしている。

恐怖を抱いたと同時に、奴に対する、怒りを…

 

でも、だからと言って…

 

「それが憎しみだと、何故決めつける必要があるんだ!」

 

『君が僕を追いかけて来た事だよ』

 

すらっ、と答えたマリオに俺は面を食らった。

 

『君はあの時、どういう感情で僕を追いかけたんだい? 捕まえて、僕の正体を知るため? 僕の目的を知るため? それとも、もし僕が彼らの仲間なら…』

 

マリオはそう言うと、帽子をゆっくりと深くかぶった。

 

 

『犯人の事を聞きだし、完膚なきまでに叩きのめすために…理用する?』

 

「……っ」

 

 

俺は何も言い返せなかった…。

確かに、俺は思っていた。 奴が犯人との関係者なら、洗いざらい知ってることを吐かせるつもりだった。

あわよくば、直接乗り込んで、奴に仕返しの一発くらいはくれてやるつもりだった。

 

『沈黙が答えかな…? 君のその感情の奥には明らかに怒りの炎が燃えたぎっている、それは時に己の力を引き出す動力源にもなるだろうけど…君の場合は火力が強すぎて、君自身を消し炭にしかねない…』

 

 

 

 

『下手をすればその瞬間、その怒りは“殺意”に変わるかもしれない……』

 

 

 

俺はその瞬間、心の奥底がひやりと冷たくなるのを感じた…。

 

殺意…

 

殺す…

 

俺が…誰かを殺す…

 

響きは確かに、誰しもがおぞましいと感じるものだ…

殺すと言うことは、人の命を奪うこと…それは、たとえ悪人でも己の身勝手でやってはいけないこと…

 

それを、人は心の奥底で理解している…理解しているからこそ、ダメなことだと感じるんだ。

 

……ただ、それでも、俺はこのマリオの言葉を鵜呑みにすることはできない……

 

殺意を自覚しているわけではない。

殺意がどんなものか分かりきっているから、俺は鵜呑みにしたくないんだ。

 

 

 

「俺は……殺意には呑まれない……いや、呑まれたくないからこそ、俺は俺を保ってみせる……」

 

 

 

俺は自分の拳を握りしめ、静かに、それでいて強く言い放つ。

 

『……誰でも、口で言うのは簡単だ……しかし、妙に説得力があるのは何でかな?』

 

そう言うと、マリオは一瞬、人当たりのいい笑顔を浮かべた。

 

 

『まるで、“一度殺意を感じたことがある”みたいだね?』

 

 

俺はその言葉を聞いて、また背筋から心の奥底までが凍りつくような感覚に襲われた…

 

俺があの時、あいつに恐怖を抱いた理由…

同時に激しい怒りを秘めている理由…

 

確かに、それは……“ある”……

 

でも、あるからこそ…、俺は呑まれちゃいけないんだ。 己の怒りに、俺の怒りの業火に…

 

 

「…でも、それを理解しているからこそ、俺は揺るがないと決めたんだ」

 

『……そうか、まあ、今の問題は過去に君が何をしたかじゃなくて、今の君がどうなるか、だ…』

 

 

そう言うと、マリオは腰を深く落とし、左手を腰の位置に、右手を軽く開いて俺の方に向ける。

 

『たぶん君は、僕が止めても行くと言うんだろうね?』

 

「…よくご存じで」

 

『なら、話は早いね? 僕に君が怒りに呑まれることなく、奴と戦えるかどうか…抜き打ちテストだ』

 

マリオの俺を見つめる目つきがさっきとは打って変わって鋭くなった。

この感覚は、もう、ヒーローメモリーの修行で何度も経験している…これが彼の闘志なんだ。

 

俺は自然と拳を握りしめ、構える。

 

 

『今、君の持つ覚悟がどれだけ強固な物か…見せてくれるかい?』

 

「……言葉より、行動で示す方が、理解しやすいってことか?」

 

『よくわかったね、その通りだ』

 

 

俺とマリオは最後、そうやり取りした後、同時に地面を蹴った…。

 

 

 

 

 

 

 

距離を一気に詰め、二人の距離が1m半くらいまで縮んだ時、マリオが先手を取った。

宗谷の顔面に攻撃を仕掛けるためにジャンプ、そのまま重い拳を、彼の鼻先目掛けて突き出す。

しかし、宗谷もやすやすと攻撃を受け入れるつもりはない、 変身によって上昇した視力を活かし、身を低くしマリオのパンチを回避する。

 

そのままパンチの勢いを殺せず、マリオは彼の後方に飛んだが、すぐさま地面に着地すると二人同時に振り向き、再びマリオは彼に肉薄する。

 

『Yahooooo!!』

 

掛け声とともに再び跳躍、今度は彼の顔面への回し蹴りだ。

しかし、宗谷はいたって冷静にマリオの攻撃を右腕で受けとめ、押し返した。

 

着地したマリオはすぐさま姿勢を低くし、地面に両手をつきそのまま両足を振り上げ、平行に足を広げた状態で駒の如く回転。

所謂、カポエラと言う格闘技に出てきそうな回し蹴りを宗谷に繰り出した。

 

「ぐあっ!?」

 

予想外の攻撃に、宗谷の左脇腹にマリオの蹴りがヒットする。

 

一瞬よろけた宗谷だったが、大きく後ろにジャンプして距離を取る。

しかし、マリオは更に追いすがり、彼に追い撃ちの三連撃を撃ち込む。

 

パンチ2発と回し蹴りのコンビネーションだ。

パンチはなんとか両腕を交差させて防御はしたものの、回し蹴りは防ぎきれず、宗谷は近場のフェンスに体を叩きつけられた。

 

「くっ…」

 

背たけが宗谷と比べて低い分、マリオはジャンプで彼と高低差のリーチを埋め、それでいて強力な攻撃を繰り出してくる。

それでいて…

 

『Hoo! Yea! Yahoo!』

 

側転からのバック転、そこからひねりを加えたジャンプで宗谷との距離を埋めたマリオは今度はさらに勢いを増して後ろ跳び回し蹴りを宗谷に打ち込む!

 

 

「うおっ!?」

 

 

とっさに宗谷は横に受け身をとって回避、転がりながらもう一度マリオとの間合いを離す。

 

しかし、マリオは着地した瞬間、今度はフェンスに向かってジャンプ、さらにフェンスを足場にして再び跳躍、見事な反転ジャンプを決め宗谷との距離を離そうとはしない。

 

頭上にまで追いついたマリオは上空から拳を振り下ろし追撃する。

 

宗谷はバックステップで後ろに後退し、それを回避するがマリオは地面に拳を撃ちすえた瞬間、後ろにバック転、そして身を低くした姿勢からばねの如く跳び上がり、宗谷目掛けて飛び蹴りを叩きこんだ。

 

 

「ああぁあ!?」

 

 

激しく後ろに蹴り飛ばされた宗谷は地面に倒れ込み、ダメージからか、苦しそうに体を震わす。

しかし、この時、マリオは彼に違和感を感じていた。

 

(……何故彼は反撃しようとしないんだ?)

 

ここまでの拳のやり取りで、彼はまだ一度も攻撃の類を行っていない。 回避するか防御に専念しているようにしか見えない。

 

(……何が狙いなんだ?)

 

マリオは、再び立ちあがった宗谷に疑問を抱きつつ再び駆け出し彼の鳩尾に鋭いアッパーカットを撃ち込む。

 

彼の体が大きく折れ曲がり、浮き上がる。

 

さらに、マリオは再び上に跳躍、浮かび上がった宗谷のマスクに包まれた顎に向けてムーンサルトキックをヒットさせ、彼よりも早く着地し、遅れて宗谷の体が地面をバウンドする。

 

「ぐっ…ぁっはぁっ……」

 

苦しそうに喘ぎながらも、再び立ち上がろうとする宗谷。

若干ふらついてはいるが、まだしっかりと地面の上に立っている。

 

 

『何を考えているのかな? 逆転するタイミングを、待っているのかな?』

 

 

マリオはそう言うが、宗谷は何も言わず、ただその場に立ち上がり、じっとマリオの様子を窺っているだけだ。

しばらく待っても返事を返さない宗谷に痺れを切らしたマリオが、再び地面を蹴り、彼の顔面にストレートパンチを打ち込む。

 

『っ!』

 

しかし、その拳は彼の右手によって受け止められた。

攻撃を止められたことは、隙を生む要因に繋がる、ここから反撃するつもりかと警戒するマリオだったが…

 

 

マリオの足が地面に着地しても、宗谷は何も行動を起こさなかった。

 

 

『……今、僕は君が何のつもりで今みたいに何もしなかったのか、気になって仕方ないんだけど……理由があるなら教えてくれないかい?』

 

 

マリオが聞くと、宗谷は握っていた拳をゆっくりと開き、じっとマリオを見つめる。

 

 

「俺が今やろうとしているのは、あんたと戦うことじゃない……トリックを見つけ出し、叩きのめすわけでもない………俺は、今はロムちゃんとラムちゃんを…助けたいだけだ」

 

 

その言葉に、マリオは陰りを感じなかった、純粋な彼の意思を、感じた気がしたからだ。

もし、彼がトリックの元に駆けつけることを最優先しているなら、自分の持てる力すべてを使ってでも自分を攻撃し、払いのけようとしただろう…

 

しかし、彼はそうしなかった、己の意思を…己が何を思い、何のために今ここにいるのかを貫き通したのだ…

 

マリオは帽子を深くかぶると、一瞬口元に笑顔を浮かべた。

 

 

 

―――僕も、冒険する時はクッパを倒すことよりも…ピーチ姫を助けることを優先させてたっけ…

 

 

 

心の中でオリジナルの自分が今まで何のために冒険して来たかを振り返り、再び彼を見つめる。

 

『どうやら…余計な心配だったみたいだね』

 

そう言うと、マリオの体が赤い光に包まれ始めた。

 

『君の意思は、僕の想像以上に強固な物だったみたいだ…君のした覚悟は、相当なものらしいね…』

 

「…いや、そんなことないさ…俺もマリオ、あなたに言われなきゃ…もしかしたら奴を本気で殺しにかかってたかもしれない…」

 

宗谷はそう言うが、マリオは何も言わず、ただただ帽子を深くかぶり自分の姿が薄れて行くのを待つのみだった。

やがて、彼の体がすっと消えて行き、彼の体を構成していた核の、ヒーローメモリーだけが宙にふわふわと浮かんでいた。

 

『これはお詫びだ…この力で、必ず二人を助け出し、奴にお仕置きの一発くらいは喰れてやれ…宗谷』

 

最後に、マリオの言葉が聞こえ、ヒーローメモリーは小さな光になり、彼のポケットの中のブイホの中に吸い込まれるように消えて行った。

 

ポケットの中からブイホを取り出し、確認すると、新たに“スキル マリオ”を示すアプリが画面上に追加されていた。

 

「…ああ、ガツンといいのを喰らわせてやる」

 

宗谷はそう言うと、ブイホを再びポケットの中に戻し、アトラクションの方を見る宗谷。

ベールのほうはうまく行っただろうか、と思いながら…

 

その瞬間、アトラクションから二つ、何かがアトラクションの壁を突き破って上空へと放りだされた。

 

驚いて目を見開く宗谷、片方は明後日の方向に飛んで行ったが、もう片方はこちら側に飛んできたからだ。 宗谷は慌ててその場から離れ、何がこちらに落ちてきているのかを見据える。

 

そして…

 

 

―――ドッシャアアアアン!

 

 

激しい砂埃を上げて地面に着地したそれは、見覚えのある丸っこい巨体…。

 

 

「幼女だけは命に代えても守る、それが紳士の正義!」

 

 

ロムとラムを誘拐した張本人、トリックだ。

どうやら、中で何かしらがあり、外へと弾き飛ばされたらしい…

宗谷が、じっとトリックの様子を窺っていると、トリックが両手を見やり何かを探し始めたのだ。

 

「ん? 幼女は何処?」

 

(っ! 二人も一緒に弾き飛ばされたのか!?)

 

いくらなんでも、せめて救出くらいはしてほしかったとベールに毒づく宗谷は、慌ててあたりを見渡す。

すると、トリックから離れたフェンスに動く小さな二つの影を見つけた。

 

ロムとラムだ、どうやら隙を突いて逃げ出そうとしているらしい。

 

「この生きの良さ! まったく…幼女は最高だぜ!」

 

しかし、トリックも二人の姿を見つけたらしく、手をわきわきと動かしながら持ち前の長い舌を動かし、二人を捕らえようと勢いよく二人へと伸ばす。

 

 

2人がトリックに気付かれたことを悟り、同時に振りかった、刹那…

 

 

トリックと二人の間に何者かが素早く割り込み、トリックの舌に思いっきり上から掌底を振り下ろした!

 

「いってぇぇぇええええ!!」

 

激しい音を立てて、地面に叩きつけられた下を慌てて引っ込めたトリック、そして、自分の舌を攻撃し、己の楽しみを邪魔した者の姿をそこで初めて見た。

 

 

 

「それを言うなら…小学生、だろ? まあ、どっち道お前がロリコンってのに変わりねぇか」

 

 

 

「「お兄ちゃん!」」

 

右手をぷらぷらと振りながらそう言ったのは、紛れもない宗谷だ。

彼の登場に安心したのか、ロムとラムはフェンスを降り、彼の後ろに立ち、注意深くトリックを睨む。

 

「……俺様と幼女の至福の一時を邪魔するとは、いい度胸だ小僧ぉぉぉぉおお!!」

 

トリックが激昂し、再び舌を激しく動かす。

鞭の如くしなり、跳んできた下の攻撃を宗谷はうかつに避けることができなかった。 回避すればロムとラムに直撃してしまうからだ。

防御しようと、腕を交差させ、その場で足を踏みしめる…

 

 

だが、そこへ、今度は巨大なハンマーが飛来し、トリックの舌を再び地面に打ちすえた。

 

 

「ぐぇえええええ!? こ、今度はなんだ!!」

 

 

再び、痛がるトリック。

宗谷は突然飛来したハンマーに驚き、それが飛んできた方向に首を向ける。 それに対し、ロムとラムの表情は先程よりも見て明らかに明るく、笑顔だった。

 

暗い、夜の闇を歩む。 小柄な人影…

 

月明かりに照らされて、やがてぼんやりとその姿が見えるようになった。

 

「てめぇ…私の大事な妹達に何しやがる…許さねぇぞ」

 

その人物は、静かに、だが…確実な怒りを込めた声をトリックに向けて放つ…

実の妹を、身勝手な欲望で蹂躙しようとした者に対する…姉としての怒りを込めて…

 

 

「この変態が…」

 

 

さっきまで教会で寝ていたはずの、ルウィーの女神、ブランである。

 

彼女の登場に、ロムとラムは安堵と嬉しさを込めた表情を浮かべ、宗谷はマスクの下で素直に驚いた顔をしていた。

少なくとも、そう早く起きることはないと思っていたのだが…

 

(……お姉さんパワーって、すごい……)

 

まさか、起きてすぐに駆け付けたのかと思うと素直に驚くしかなかった。

 

宗谷は、ブランに向けて小さくグッドタイミング、と呟き、再びトリックに視線を戻すと、舌を引きもどしたトリックがまた薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

「変態ぃ?…それは褒め言葉だ!!」

 

「……素直に認めたな…変態紳士め…」

 

トリックの言葉に、宗谷は呆れ気味な態度で答えるとポケットに入っていたブイホを取り出し、画面に指を添える。

 

そして、ブランは変わらぬ無表情…それでいて、薄れることのない怒りを滲ませ、一瞬、目尻を鋭く上げ、トリックを睨む。

 

「そうかよ、なら……褒め殺しにしてやるぜ!」

 

その瞬間、ブランの体が神々しい白の光に包まれる!

小柄の体を、プロセッサユニットと呼ばれるコンバットスーツが覆い、背中に角ばった一対の翼が広がる。

茶色の短髪が、シアンブルーに染まり、瞳もルビーの如き深紅に染まると、片手で軽々と呼びだした巨大な戦斧を振り回し、構える。

 

女神、ホワイトハートの姿となったブランは、空へと飛びあがり先程とは打って変わった威圧感溢れる目をトリックに向ける。

 

対して、宗谷は二歩、三歩と前に足を出し、同じように仮面の下でトリックを睨みつける。

 

 

「覚悟しろよ、このド変態っ!!」

 

「さあ、ゲームスタートだ…コンティニューは、効かないぜ?」

 

 

2人の言葉を聞き、トリックはうすら笑いを上げて跳び上がると同時に舌を再び動かし、巨大な鞭の如く二人を襲う。

 

宗谷はとっさに後ろに跳び、ロムとラムを抱え更に遠いところに跳び、二人を安全な物影に移動させる。

その間にブランが持ち前の戦斧を振りかぶり、トリックに肉薄する。

トリックは狙いをブランに定め舌を器用に使い縦横無尽に彼女を攻めるが、ブランは次々と攻撃を回避し、更にトリックとの距離を詰める。

 

そして、戦斧のリーチにまで近づくと…

 

「この、超絶変態!!」

 

罵倒と共に刃を振り下ろし、とてつもなく重い一撃をトリックの脳天へと打ちこむ!

 

「ぐぇっ!?」

 

一撃で止めることなく、再び戦斧をトリックへと叩きこむ!

 

「この、激重変態!!」

 

「お、おがぁっ!?」

 

堪らず、地面へと叩きつけられたトリック、ブランは更に追撃しようとしたが…

トリックの落ちた地点、そのすぐ近くにいつの間にか立っていた宗谷の姿を見て、とっさに押しとどまった。

 

宗谷は頭を左右に振るトリックを見たまま、ブイホに当てている指を動かし、今先程獲得したアプリ、マリオとの誓いの証を軽く叩く。

 

 

(……こいつの事は、絶対に許せねぇ…許せねぇけど……自分の怒りに飲まれることは……もっと許せねぇと思う…)

 

『Skill Link! MARIO』

 

(だから…俺が俺の意思で戦えるように…一緒に戦ってくれ、マリオ!!)

 

 

心の中で自分に呼び掛けてくれた、彼の名を呼び、新スキル、“スキル マリオ”を発動させる。

その瞬間、宗谷の体を熱く、それでいて漲る何かが広がるのを感じた。

この感覚を、既に宗谷は感じたことがあった。

 

この独特の感覚は、自分に新たな能力が加わった証明…

 

―――“スキルアップ”の感覚だ、と…

 

「うぅ…ん? 貴様っ」

 

「ふんっ!!」

 

「ごぉぉぉおおおおっ!?」

 

トリックが宗谷に気付いた瞬間、宗谷は一気に距離を詰め、トリックの丸い風船の様な腹に拳を打ち込んだ。

とてつもなく鈍い音が響き、トリックは後ろにゴロゴロと転がる。

 

「今のは、俺の極めて個人的な…お前に対するむかつきの分だ……後二回……二回だけ殴るから覚悟しろよ?」

 

拳を突き出した体制のまま、静かに言い放った宗谷はゆっくりと体制を戻し、右手をスナップさせると再びトリックを睨む。

 

「ぬぐぐっ……小僧ぉぉぉぉおおお!!」

 

そして、トリックが再び立ち上がり、反撃を宗谷に打ち込むべく舌を動かす。

だが、宗谷は慌てる様子もなくすっとその場に身を低くしてしゃがみこむと、前へと体重をかけて地面を転がる。 横なぎに振るわれたトリックの舌が彼の頭上を越える、受け身を取って回避した宗谷はそのまま姿勢を低くした状態のまま駈け出し、距離をさらに縮める。

 

再びトリックの舌が宗谷の頭上に振り下ろされようとするが、宗谷は直撃するよりも早く立ち止まり、左に側宙を切り、躱す。

 

さらに、前転宙返りをしながら跳びトリックの頭上へと一気に接近し、全体重をかけてトリックの頭を踏みつける!

 

「ごべぇっ!?」

 

「これは、ロムちゃんとラムちゃんを怖がらせた分……」

 

言い放ちながら、後方へと回転しながら着地した宗谷。

 

「うぐぐっ……レロレロレロレェー!」

 

痛がりながらもトリックは宗谷に反撃するために舌をすぐさま引き、一直線に放つ。

 

しかし……

 

「…っ!」

 

再び体勢を低くした宗谷は自分の両手を自分の体重を支えるように地面に付き、そのままブレイクダンスの如く両足を広げ、体を軸に回転しながら足を振り回し、トリックの攻撃をいなす。

 

このような動きはもちろん、今までなら側宙や前転宙返りも宗谷にはやすやすと出来なかった。

だが、“今”の宗谷ならそれが当たり前のように出来る…

 

 

そう、この動き、このアクロバットを利用したトリッキーな動きこそ、スキル マリオの能力なのだ。

 

 

トリックの舌攻撃を防御した宗谷は、再び走り出した。

 

しかし、トリックもこれ以上近づけまいと舌で応戦、連続攻撃を浴びせかけるがそれら全てを宗谷は側宙、バク宙と跳んで回避し、さらにバタフライロールと呼ばれるアクロバットジャンプで躱しながら、トリックの懐の真ん前に着地…

 

「そして、これが……」

 

両足を広げ、右拳を思い切り引き、握りしめた拳をぱっと開く…

 

 

「お前のせいで辛い思いをした……ブランの分だ!!」

 

「ぎゃっぱぁああああああああ!?」

 

 

叫び、トリックの懐へと、掌底一発!

直撃した瞬間、掌から小さな爆発が起き、その衝撃でトリックが三度地面を転がった。

もう既にボロボロの状態となったトリック、宗谷はそれ以上追撃する意思はないと言いたげに変身を解除した。

 

だが、しかし…

 

 

「こいつで終いだ! テンツェリントロンペッ!!」

 

 

そこに、ブランの止めの一撃が振り下ろされた。

激しい音と共に、トリックの丸っこい体が宙を舞った。

 

「幼女ばんざぁぁぁぁぁぁぁああああああああいっ!!」

 

とても、似つかわしくない…いや、トリックの代名詞と言わざるを得ない叫びを上げながら、トリックは空の彼方へと、吹き飛んでしまった。

 

「女神に喧嘩売ったんだ……文句はねぇよな?」

 

トリックが飛んで行った方角を睨みつけつつ、ブランは言い放ち、変身を解除した。

宗谷は安堵の息を吐くブランの元に歩み寄る。

 

「大丈夫ですか? ブランさん」

 

「……宗谷」

 

教会で最後にブランに呼び掛けたように、呼び捨てでなく、今は敬語で話す宗谷、そんな彼に少し、むっとした表情を見せたブランだったが、すぐさま申し訳なさそうな顔に戻ってしまった。

その表情の変化にさすがに気付いた宗谷は首を傾げるが、その答えを知るよりも早く、ブランが物陰から出てきたロムとラムの方を見つめる。

 

「ロム……ラム……ごめんなさい、こんな目に遭わせてしまって……」

 

静かにそう言ったブランはまた顔を下に向けて俯いてしまう。

 

「私……姉失格ね」

 

そんな彼女の表情を、見ていられなくなったのか、宗谷は一瞬ロムとラムの二人を見てから、彼女に目線を戻す。

 

「……ブランさ……ああ、もうめんどい…やっぱ、普通に話そう」

 

宗谷は頭を掻きながらそう言うと、深呼吸をしてからじっと彼女を見つめる。

口調が変わった彼に気付き、ブランも反射的に宗谷の方を見る。

 

二人の視線が重なった。

 

「ブラン、そんなこと言うなよ……お前は間違いなく、二人の姉ちゃんなんだからさ」

 

「でも、私は……」

 

「お姉ちゃん…」

 

ブランの言葉をさえぎるように、ロムがブランを呼ぶ。

ブランが振りかえると、そこには二人がこのテーマパークに浮かんでいるレア物のコインを両手に持っていた。

誘拐される前に、ちゃっかり手に入れていたようだ。

 

「これ…お土産」

 

「宗谷お兄ちゃんにも!」

 

ラムが宗谷の方を見ながら言うと、予想外のプレゼントに宗谷もびっくりした表情になるが、すぐに笑顔になった。

 

「……ブランのこと…姉ちゃんの事を好きでなきゃ、お土産なんて用意してくれないよ…それに、ブランは二人を助けに来た、それだけでブランは立派な姉ちゃんだよ」

 

宗谷の言葉を聞き、ブランは沈んだ表情から柔らかな頬笑みへと表情を変えると、側に寄ってきたロムとラムを両手でしっかりと、抱き締めた。

その姿は確かに、女神ということと関係なく、ただ一人の…妹を大事に抱き締める、一人の姉としての姿だった。

 

その後ろ姿を見つめながら、宗谷は空に浮かぶ三日月を一瞥し、こちらも安堵の頬笑みを浮かべた。

 

 

 

こうして、ルウィーの誘拐事件は幕を閉じたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…

 

「寝不足ぅ!?」

 

「それが原因であの時倒れた、てのか?」

 

俺とネプテューヌの言葉に、こくりと頷いたブラン。

予想外すぎる答えに、俺はついつい苦笑いを浮かべてしまった。

 

なるほど、それが原因でこっち来た時も元気がなくて、一緒にも遊びに行かなかったってわけか…

 

ちなみにここはルウィー教会のブランの部屋、丸テーブルを囲むように座るネプテューヌ達四女神、俺はネプテューヌの隣に立っている。

 

「ここの所、ずっと徹夜続きであなたたちに向き合う余裕がなくて…そのなのに、ロムとラムを助けてくれて…本当にありがとう、ベール、ノワール……ネプテューヌも…そして…」

 

そう言ってすっと、視線を俺の方に向けたブラン、その表情はここに来た時よりも明らかにやさしい笑顔だ。

 

……やばい、癒される……

 

「ありがとう、宗谷……」

 

「え!? お、おぉ……」

 

急にお礼を言われたもんで、ついたどたどしい言葉で返してしまった。

でも、悪い気はしないな。 俺が勝手にやって、勝手に約束した会見とか無駄にならなかったらいいけどな…

 

「お姉ちゃん、宗谷お兄ちゃん…」

 

そこへ、あの事件以来俺の呼び方が、ただのお兄ちゃんから宗谷お兄ちゃんにランクアップしたロムちゃんが何かを手に持ってやってきた。

どうやら、薄い本の様なものらしいが…

 

「これ、見て…?」

 

そこには青いクレヨンで描かれたブランと思われる絵と、その隣に赤いヘルメット姿の何者かの絵が描かれていた。

あれ? これって…

 

「隣の赤いのって……変身した俺?」

 

「うん……お姉ちゃんと宗谷お兄ちゃん♪」

 

「……よく描けてるわ」

 

ブランが笑顔でロムちゃんの絵を褒める。

俺からしても、とても特徴をうまく捉えられてるし、うまいと思うから、それに便乗して頷く。

けど、何で変身した俺なんだ? ちょっと気になるんだが……

 

ていうか、その前に…何で絵を描いている場所が本の表紙なんだ?

黒い表紙だからちょっと見にくいのが残念なんだが…

 

「?…っ!」

 

ん? ブランが何かに気付いた?

…あれ、よく見るとこの本の表紙…TGSの時に俺がブランのところで買った同人誌と似ているような…

 

俺がそう思った瞬間、ブランは椅子から立ち上がりどこかへと走り出していた。

 

 

 

辿り着いたのはさっきの部屋とは別の部屋、ブランに付いて行き俺達もその部屋に入ると、そこには絵を描くラムちゃんとその隣で何やら読書中のネプギア、ユニちゃんが既に居て、三人の背中には段ボールマウンテンが形成されている。

 

一体何でこんなに段ボールが積まれてるんだ? コミケ前の同人作家じゃあるまいし……

 

「ラム! 落書きやめて!」

 

ブランが慌ててお絵描き中のラムちゃんを止めるがラムちゃんはやめる気配なし。

 

「どうして? こんなに同じ本がいっぱいあるんだからいいでしょ~?」

 

「だ、ダメ!」

 

譲る気配のないブラン、余程大事な物のようだ。

俺はそれが何なのかを知るべく、ロムちゃんの肩をトントンと叩く。

 

「ちょっとロムちゃん、その本、貸してくれる?」

 

「うん、いいよ…?」

 

俺はロムちゃんから借りた本の最初のページをめくり、内容を確認する。

幸い中身は無事だったようで読むことはできた、中に書かれていたのはびっしりと書き込まれた文字。

どうやら、これは同人小説の様だ…。

 

あれ? この内容…

 

「これ…前にブランが俺に勧めてくれた同人誌の続きじゃないか?」

 

「っ! ……そ、そうだよ…それは…」

 

俺がブランに聞くと、ブランはわなわなと身を震わせていつもの無表情をなくして、珍しく取り乱した表情を浮かべ、頬も真っ赤に染めている。

 

 

「わ、私が徹夜して書いた小説なんだっ!!」

 

 

ブランのカミングアウトに、俺はついその場でこけっと、軽くずっこけてしまった。

いやいや、徹夜の理由ってそれかよ……いくらなんでも、それは……なんというか深刻に考えすぎてた俺がバカみたいに思えてくるわ~。

 

ん~…まあ、俺もよく録り貯めたアニメとか一気に見て徹夜したりしたから、いいか、好きなことをしてると時間を忘れるよね?

 

要するに、今俺達の目の前にある段ボールの山のことを踏まえて考えると…

 

「つまり、これを含めて俺がTGSで買った本も…ブランの書いた同人小説だったわけか」

 

「それってどんな内容なの? ユニ、宗谷」

 

「俺の読んだのは、主人公の前世が黒炎を放つ魔龍、暗炎竜を自分の身に封印し、自分の生まれ変わりへと伝えたとこで終わった」

 

「私が今読んでるのは、空から落ちてきた少女と生まれつき特殊能力を持った少年が世界を救うお話……」

 

俺達が内容を出来る範囲で説明すると、ブランはまた恥ずかしそうに顔を更に赤く染めた。

まあ、内容が完全に中二全開だからな…俺は大丈夫だけど、書いた本人にとっては知り合いに読まれるのは相当恥ずかしいのかな?

 

……お、でも、やっぱ面白いなこれ……

 

 

「すごい、主人公が新しい力に目覚めた! かっこいい!」

 

「よ、読むなぁぁぁあああああ!!」

 

「闇の炎に抱かれて消えろっ!!」

 

「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」

 

 

 

雪降る日、教会からブランの叫びがこだましたこの日、俺はこの後ブランにお願いして寝床を手に入れた、ルウィーのヒーローメモリー探しの拠点となるのは……

 

まあ、前と同じルウィー教会なわけで…

 

ブランは二人を助けてくれたせめてものお礼って言ってたけど、年頃の女の子が年頃の男の子を泊めるってのはいかがなものかと思うんだよね、俺…

プラネテューヌ教会で居候している時点でそんなの言えた義理じゃないけどさ!

 

 

 

まあ、それはそれとして…問題はこの後、俺が気づいたことだ。

 

ブイホに記録していた、俺がこの世界に来た日数を暇だったから改めて確認したら……

 

 

「あれ? 俺の世界……年明けてんじゃん」

 

 

 

 

俺はこの日、この瞬間に……ある意味やる気をなくした……そうか、お正月なんだな…

 




いかがでしたか?

次回、自分の世界がお正月と知った宗谷は・・・?

いつの投稿になるかは分かりませんが、1月中なのは確実です。
幸い、今日のうちに親戚へのあいさつ回りなど、やるべきことやったので・・・

それでは、次回でお会いしましょう!
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