今回は………なんというか、かなりピンチです。
そして、先に言わせてもらいますと…いーすんごめん…。
それでは、何が起こったのか…その目でお確かめください、どうぞ…
「宗谷さんっ!!!」
イストワールが強張った声で彼の名を呼ぶ。
彼女の視線の先には、黒い腕と足を持ったバッタの怪人、そして、怪人に首を締め上げられている宗谷の姿。
苦しそうにもがく宗谷だが、その動きは弱弱しい。
「外から来たという奴も、所詮はこの程度か………」
そう言うと怪人が宗谷を無造作に投げ捨てた。
高く放りあげられた宗谷はイストワールと進ノ介のすぐ近くに落ち、彼女はすぐさま宗谷の元に駆け寄った。
「宗谷さん! しっかりしてください宗谷さん!!」
「…ぁ……はっ………」
駆け寄り、彼の体を抱きあげる。
近くで見ると今の彼の状態がイストワールにはすぐに分かった。
変身状態ではあるが、体中に怪我をしている。
装甲は所々が凹み、装甲の下にある彼の服も所々が破れ、そこから僅かに見える皮膚には痛々しい痣がある。
ヘルメットの口元、クラッシャーから真っ赤な血と思われる液体が内側から流れ出ているように垂れている。 吐血もしているのは明白だ。
「ひどい……こんな……」
宗谷の姿を見て、イストワールは体を震わし目元に涙を浮かべた。
その時、息も絶え絶えになっている宗谷が首を僅かに動かした。
「ぃ……すん……」
「宗谷さん……? 宗谷さん!」
意識がある、それだけでもイストワールは僅かに安心感を感じ、咄嗟に彼の事を強く呼びかける。
だが、宗谷は呼びかけに対し返答ではなく、視線を自分が放り投げられた方向を向けた。
「………」
イストワールも同じように視線を向ける。
「ギッギッギ……」
不気味な笑い声を上げる怪人が静かにこちらに近付いてきていた。
標的はおそらく、自分の腕の中で瀕死の状態になっている宗谷…。 イストワールはその時なんとなくだが、はっきりと理解できた。
再び、イストワールの耳元に彼の弱弱しい声が聞こえてきた。
「逃げ…ろ…あい、つは……やばすぎる」
「嫌です! 宗谷さんを置いてなんていけません!」
首を左右に振り、すぐさま拒んだイストワールに尚も怪人は迫る。
その時…。
―――パァン!
「………うん?」
発砲音と共に怪人の肩から火花が上がった。
「はああああ!!」
進ノ介だ。
拳銃を乱射しながら怪人に迫る。
だが、弾丸を受けても身じろぎひとつしない怪人は進ノ介が迫るのをただ悠々とその場で立ったまま待つ。
拳銃の弾が切れ、間合いが完全に埋まった所で進ノ介が先制攻撃のパンチを繰り出す。
スピードを乗せた拳は怪人の顔面へと吸い寄せられていったが、それが届く事はなく、途中で怪人の左手で軽々と受け止められてしまった。
「変身することも出来ない“紛い物”が、そんな玩具とこんな攻撃で俺を倒せると思ったか?」
「いいや、残念だけど思ってない………それでも、ブレーキ踏んだまま停車するのは割に合わないんでね!」
拳を止められた状態のまま、蹴りを何発か繰り出す進ノ介。
戦闘員達を戦闘不能にしてきた攻撃だが、怪人は痛みすら感じなかった。 それでも諦めず何度も蹴りを打ち込む進ノ介だったが…。
「ふん……むぅん!」
「がはっっ!!」
怪人が止めていた拳を払い、進ノ介の鳩尾めがけて正拳突きを打ち込んだ!
体を大きく曲げた進ノ介はその場に崩れ落ちるが、怪人は容赦なくその首を左手で締め上げた。
「ああぁっ…ぐっ…はぁっ」
「所詮、“失敗作”から生まれた“紛い物”の仮面ライダーなど、完成品である俺にとっては雑魚同然………」
「っ……お、前は……いっ、たい…」
怪人は進ノ介を宗谷と同じように無造作に瓦礫の山へと投げ捨てると、またあの無機質な笑い声を上げる。
「ギッギッギ……教えてやろう、俺は“ショッカーライダー・パーフェクト”、貴様ら紛い物共とは違う…俺こそが仮面ライダーの本来の姿だ!」
漆黒のマフラーが風になびく。
バッタを模した仮面が髑髏のように見え、まるで死神だと、イストワールはこの時感じた。
ショッカーライダー・パーフェクトと名乗った怪人は、進ノ介には目もくれず宗谷の方に目線を向けると再び歩を進める。
反射的にイストワールは宗谷を守るように強く抱きしめた。
「なにしてんだ…早く、逃げろ…いーすん…」
先程より強めの苦闘で言う宗谷だが、イストワールは返事も返さず、彼を離そうとも、その場を動こうともしなかった。
そして遂に目前にまでショッカーライダーが近づいてきた。
見下ろすようにこちらをどす黒い血の赤色をした複眼で見る怪人に、イストワールは恐怖心を抱いた。
だが、それに負けることなく、ただ、宗谷を守りたいがために、イストワールは負けじと怪人の目を睨み返していた。
「……威勢がいいな、だが、目触りだ」
ショッカーライダーが拳を振り上げる。
イストワールは逃げる事は考えなかった……。 せめて、彼を守る盾になろうと咄嗟に彼の体に覆いかぶさる…。
「はぁぁぁぁああああああ!!」
拳が振り下ろされる直前、ショッカーライダーの後ろから激しい気合と共に女神化したベール、グリーンハートが得物の槍を振り上げて飛び出してきた。
「ほう…」
風を纏わせた横薙ぎの斬撃がショッカーライダーに肉薄する。
しかし、その直前にショッカーライダーは身をかがめて高く跳躍する。 槍の刃はショッカーライダーに当たることなく、空を切る。
空中で身を翻したショッカーライダーは大きい瓦礫の上に着地、上からグリーンハートを見下ろす。
「中々しぶといな、中でやり合った時は呆気なかった思っていたが…それは間違いだったようだ」
「生憎と、私も早々に負けるつもりはありませんわ……宗谷の仇、討たせていだきますわ!」
イストワールと宗谷の前に立ち、槍の矛先をショッカーライダーに向けたベールは闘志を滾らせた瞳をショッカーライダーに向ける。
「………いいだろう、精々しぶとく生き残ってみせろ!」
ショッカーライダーが人間離れした脚力に物を言わせた跳躍でグリーンハートに迫る。
しかし、彼女もそれに合わせて飛翔、槍を構えながらショッカーライダーとの距離を埋める。
「はあっ!」
「ふんっ!」
間合いに入ったと同時にグリーンハートが槍の鋭い一閃をショッカーライダーに放つ。
しかし、目前の敵は右手であっさりとその攻撃を弾いた。
女神の攻撃をこうもすんなりと受け流す事の出来るショッカーライダー、モールの中で一戦交えた時から只者ではないという事は既に承知の上…。
(ショッピングモールの中では油断して一撃でやられてしまいましたが………次はそうはいきませんわ!)
すぐさま槍を引いて、防御の姿勢を取るグリーンハート。
ショッカーライダーが反撃で放った左の拳を槍の柄を使って受けとめ、互いに腰を蹴りあって距離を離し、同時に地面に着地。
やはり、攻撃も半端なものではない…。
今の拳も、距離を離す時に使った蹴りも、女神化していなかったら大ダメージは必至だっただろう。
正直、今のでも若干腕が痺れているくらいだ、まともに食らえば今度こそひとたまりもない。
しかし、負けるわけにはいかない理由が彼女にはある。
既にショッカーライダーによって瀕死の状態にまで追い詰められ、気を失っている紘汰と進ノ介、すぐ近くでこちらを心配そうに見ているイストワール、そして、彼女の腕に抱えられている傷だらけの宗谷…。
彼らを守るためにも、自分がここで負けるわけにはいかない…。
「シレットスピアー!!」
守るために、目前の敵を打ち倒すために、彼女は戦う。
エレキボタルを倒した魔力の巨槍が魔法陣から飛び出し、ショッカーライダーへと迫る。
「ギーーーッ!!」
しかし、その攻撃はショッカーライダーが前に出した両手の五本の指、合計十本の指から放たれた小型ミサイルで木っ端微塵に破壊されてしまった。
だが、この程度で止まる彼女ではない。
槍を再び構えたグリーンハートが身を大きく引き、今までで一番のトップスピードで地面すれすれを飛行しながらショッカーライダーへと接近する!
「レイニーラトナビュラ!!」
間合いに入ったと同時に、槍の高速連撃がショッカーライダーを攻める。
ゲイムギョウ界のモンスターも、改造人間であるエレキボタルでさえ見きれなかった高速の槍撃だ。
この距離まで接近すれば必中のはず…。
しかし、その予想は簡単に裏切られた…。
「なっ!?」
すべて回避している…。
悠々と、まるでゆっくり投げられたボールをいとも簡単に躱すかのように…。
その場に止まったまま、ショッカーライダーを襲う槍の矛先、それらを体を傾けるだけで回避し続けるショッカーライダー・パーフェクト。
驚愕のあまりに、グリーンハートの攻撃の手が一瞬、緩まった。
「とおっ!」
「っ! …ぐっ」
その隙を突き、ショッカーライダーが彼女の鳩尾に拳を打ち付ける。
怯んだグリーンハートは腹部を抑えながら、一度距離を離そうと後ろに後退する。
しかし、ショッカーライダーはそれを許さなかった。
逃がすまいと彼女に迫り、拳を、蹴りを、何度も何度も振るう。
「くっ…っ! ……はっ!」
紙一重で槍を使って防御するグリーンハート、だが表情が徐々に険しいものになっていく。
重い……、まるで巨大な鉄球を休みなく受け止め続けているような感覚だ。
衝撃が槍では吸収しきれない、徐々に攻撃の波は防御に使っている槍を伝って自身へと響いてくる。
やがて、ショッカーライダーの連続攻撃を受けきれなくなり……
「ぬぅん!!」
「あぐっ!?」
痛烈な蹴りによる一撃を脇腹にもろに浴びてしまった。
グリーンハートは地面をとてつもない勢いで引きずられるように吹き飛ばされる。
「う……くぅっ!」
痛む体に鞭を打って、なんとか体制を起き上らせる。
目線を上げるとショッカーライダーが自分を見据えこちらにゆっくりと接近してくるのが見えた。
槍を手に、もう一度応戦しようとするが、痛みで体がうまく動いてくれない…。
「あああああああああああああああああああああ!!」
突然、ショッカーライダーの背後から叫び声にも似た声と共に先程まで倒れていたはずの宗谷が彼の得物、赤剣を手にショッカーライダーに向けて走ってきた。
宗谷の後方では、イストワールが彼の名を呼んで必死に制止を呼び掛けているが、彼は聞いてすらいないようだ。
どうやら、イストワールを押しのけて来たようだが、明らかに無謀な特攻でしかない。
「………バカめ」
振り下ろされた赤剣の刃を、片手で受け止めたショッカーライダー。
尚も宗谷は赤剣に力を込め、押し切ろうとするが明らかにいつもよりも力が入っていない…。
「そんな体で俺に傷をつけられると思ったのか? 中で散々痛めつけられたのを、忘れたのか?」
「……っせーな……目の前で……ヒロインが戦ってるのに、ヒーローが寝てる訳には……いかねぇだろ?」
「………どうやら、足りないらしいな」
そう言うと、ショッカーライダーはいとも容易く赤剣を押し返し、ぐっと大きく拳を引く。
「ショッカーパンチッ!!」
無防備な状態になった宗谷の体に、冷徹で無慈悲な一撃が突き刺さった。
声を上げることもなく、代わりに血反吐をヘルメットのクラッシャーの間から吐きだしながら、宗谷は体を大きくくの字に曲げ、後ろにとてつもないスピードではじき飛ばされた。
「宗谷さんっ!!」
咄嗟にイストワールが立ち上がり、宗谷の体を受けとめるが勢いを殺しきれず彼の二の舞を受け、後ろに飛び瓦礫に強く体を打ちつけられてしまった。
激しい衝撃が二人を襲う、イストワールはそれでも彼を離すまいとしっかり腕で彼の体を支える。
「そう…や、さん………」
やがて、宗谷の変身が解けると同時にイストワールは意識を失った。そして宗谷もまた、完全に意識を失っていた。
「宗谷! イストワール!」
グリーンハートはその瞬間、怒りを込めて槍を握りショッカーライダーに反撃を仕掛けるため、思い切り地を蹴った。
地面が抉れるほど、先程以上のスピードを上げて接近を試みるが…
そこには、既にショッカーライダーの姿がなかった……。
「なっ!?」
慌ててその場で急停止し、辺りを見渡してどこに行ったかを探すグリーンハート。
だが、それが命取りとなった…。
「っ! 上―――」
咄嗟に感じた殺気をたどり、顔を上に上げると、そこには既にこちらを仕留める準備にかかっているショッカーライダーの姿があった。
大きく右足を引き、そして、こちらに向けて急降下―――――
「ショッカーキック!!」
まるで隕石の如きキックが彼女の咄嗟の防御を突き破って炸裂。
「きゃああああああああああああ!?」
爆風を至近距離で受けたかのような衝撃を受け、グリーンハートは地面を数回バウンドし、再びショッピングモールの中に突っ込んだ。
完全に失速したころには、女神化も強制的に解除され、他の仲間と同様に気を失っていた………。
「ギッギッギッギッギ……女神も恐るるに足らず、俺は最強、俺こそが無敵のショッカー怪人! 俺が真の仮面ライダーなのだ!!」
天を仰ぎみて勝利の味に浸るショッカーライダー・パーフェクト、自分が仕留めた獲物を順に見て行く。
全員まだ死んではいない、だがそれでいい、ここにいる5人には“1号消滅計画”のための礎になってもらわなければいけない。
やがて、宗谷とイストワールの二人にショッカーライダーは目を止める。
気を失ってもなお、彼を離そうとしないイストワール…それを見て、彼の脳裏にはあまりに無慈悲で、恐ろしく、しかし、彼にとっては豊潤で至福にも似た考えが浮かんだ。
「小僧………もう少しだけ、俺を楽しませて貰おうか…ギッギッギ……ギーッギッギッギ!」
ショッカーライダー・パーフェクトの不敵な高笑いが辺りに響き渡り、やがて到着した戦闘員の軍団が宗谷達の身柄を拘束した………。
彼らがショッカーライダー・パーフェクトと遭遇した同時刻。
別の地点では、激しい爆発の中を二人の男が走り抜けていた。
白いパーカーを着た一人が、走りながら右手に持ったバイクの前輪を無理やり銃にデザインしたような武器を後方に向けて発射する。
「無駄な抵抗はやめろ、貴様らはここで死ぬのだ!」
そう言って、丸いサボテンの形をした爆弾を二人に投げつけるのは、かつて仮面ライダー2号と日本で初めて戦ったショッカー怪人、サボテン型改造人間の“サボテグロン”だ。
そして上空には、蛾の様な姿をした改造人間、“ドクガンダー”の姿もあった。
二人の改造人間は逃亡する二人の男に向かって、それぞれの武器を放つ。
サボテグロンは“メキシコの花”と呼ばれる強力なサボテン型爆弾を、ドクガンダーは指から放つ高威力の小型ミサイルを尚も抵抗しようとする二人に向ける。
一方、逃げる二人はまだ諦めてはいなかった。
走るスピードを緩めず、なんとか逃げ出す策を考える。
「進兄さん、たぶんそろそろこっちの世界に来てるはずの宗谷って奴と合流したはずだ! 後は俺達が1号の居場所を突き止めればいい!」
「ああ、そのためにもここはなんとしても逃げ延びるんだ!」
前輪型の銃を乱射しつつ瓦礫の間を縫って逃げる二人。
彼らは進ノ介や紘汰と同じ、唯一起動できたライダーの二人だ。
変身能力はないが持ち前の根性と諦めの悪さはオリジナルと変わりはない。
だからこそ、かつて共に戦った戦友のためにも、もう一人の男はここで死ぬわけにはいかなかった。
「待っていろよ、本郷…!」
しかし、無情にも彼らに向けられる攻撃の手は緩まる事はなく…
「っ! やばっ!」
「!」
彼らのすぐ近くで爆発が起き、二人の姿は爆炎の中に消えた………。
「流石の奴らも、この爆発をもろに食らってはただでは済むまい…」
「手こずらせよって……貴様ら、奴らの死体を捜せ!」
「「「イイ――!」」」
ドクガンダーが地面に降り立ち、待機していた戦闘員に指示を出す。
二人のいたすぐそばは爆発による炎が辺りでちらついており、その地面には片方の男が持っていた前輪型の銃が無造作に転がっていた……。
「………ぅ」
まだはっきりとしない意識の闇の中、俺はうっすらとだが目を覚ました…。
辺りはやけに静かで、それにやけに暗い…。
ここはどこだ?
俺はさっきまで1号を探してショッピングモールの中にいたはず…。
それで……そうだ、確かショッカーライダー・パーフェクトとか言う奴が襲いかかって来たんだ!
突然の奇襲でベールも紘汰さんもやられて、俺も変身して戦ったけど全く敵わなかった………
それで、俺は奴と戦ってて…気を失って……もしかしなくても、このパターン捕まってるよな、たぶん…
「お目覚めかね?」
どこからか、不気味な声が響いてきた。
俺が視線を上げ、立ち上がろうとするが体の自由が効かない。 誰かが俺の体を座らせた体勢で押さえつけているようだ。 それに両手も縄か何かで縛られているみたいで全く動かせない。
やがて、暗闇に包まれていた空間が急に明るくなり、俺は眩しさで目を瞑る。
しばらくして、ゆっくりと瞼を持ち上げると…
「………あんたらは、ショッカーの………」
そこには、かつて仮面ライダーを何度も窮地に陥れたショッカーの大幹部が俺よりも離れた所にある階段の上で悠然と俺の事を見下ろしていた。
鞭を持った眼帯をしている軍人の姿をした奴は、ゾル大佐…。
体を真っ黒なマントで覆っている男は、死神博士…。
エジプトかどっかの王様がつけていそうな頭飾りをして、ゾル大佐よりも長い鞭を持っているのは、地獄大使…。
ゾル大佐とはまた違ったタイプの黒い軍服を着ているのは、ゲルショッカーの大幹部、ブラック将軍…。
ショッカー大幹部勢ぞろいかよ…。
「ほお、私達を前にして驚かないとは……大したものだな」
「………生憎、大方の予想はついてたんでね」
よし、さっきよりか口も回るようになってきた…。
俺の事を見て、不敵な笑みを浮かべているのは地獄大使だ。
俺はせめてもの反撃のつもりで口元を上げて、皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「まあ、いい…これから起きる事を前にしてそう同じような顔をしていられるかな?」
ゾル大佐がそう言って、鞭を勢いよく振り上げる。
すると、彼らの後ろがライトで照らされ、暗くて見えなかった何かが浮かび上がってきた。
それは十字架の形をした何かの機械のようだった。
丁度、十字架の内側がガラス張りになっていて中に何かが入っているのが見える…。
中に入っているのは………
「1号!! なんでっ!」
紛れもない、仮面ライダー1号そのものだった。
貼り付けの如く十字架型のマシンに閉じ込められた1号は力なく、まるで死んでいるかのように首を下に向けたままピクリとも動かない。
「ふっふっふ…安心しろ、ライダーはまだ死んでない…だが、これから奴はこのメモリーごと消えることになるがな?」
「なんだと…?」
ブラック大佐が不敵な笑顔を浮かべて言った言葉を俺は聞き逃さなかった。
こいつらは1号を捕まえて、何をするつもりなんだ…。
「ライダーは、我らがこのメモリーワールドに侵攻した際には既に身動き一つ取れないほどに弱っていた……だが、まだこいつの意識…魂とでも言うべき物はまだ完全には消えていなかった……」
「奴の魂がある限り、このメモリーの中に広がるライダーの世界は消えない……そのためには、こいつの魂を完全に闇に沈める必要があるのだ!」
死神博士とゾル大佐が交互に言って、俺の方へと視線を向けた。
いや、正確には俺達…か?
今気付いたが、俺の後ろには他のみんなも同じような体勢で掴まっていた。
ショッカー戦闘員が体を押さえつけて、身動きを取らせないようにして…。
まだ、みんな意識が回復していないようだけど…あれ? でも、待てよ…
「いーすん………おい、いーすんはどうした!! おい!!」
いーすんの姿が見当たらない、いるのはベールと進ノ介さんと紘汰さんだけ。
俺の脳裏に嫌な予感が過り、俺は目前にいる奴らを噛みつかん勢いで怒鳴りつける。
「あの人に指一本でも触れてみろ! ただじゃおかねぇぞ!!」
「まあ、そう焦るな小僧……」
横合いから急に聞こえてきた、あの無機質な冷たい声…。
奴だ、間違いない…、俺はすぐさま顔を左の方に向けると暗闇の奥から二人の戦闘員をひきつれて、奴が………ショッカーライダー・パーフェクトが現れた。
そして、引き連れている戦闘員が誰かを捕まえている……
「いーすん!!」
「宗谷さん…っ」
今にも泣き出しそうに目尻に涙を浮かべたいーすんが俺を見た途端、一筋の涙を流した。
「ごめんなさい…宗谷さん…私……なにも……」
俺はその瞬間、頭の中を怒りでいっぱいにして、思い切りショッカーライダーを睨みつけた。
体に走っていた痛みも忘れて、ただ目の前にいる奴を睨む。 出来る事なら拘束を解いて奴に飛びかかりたい…しかし、それが出来たら今すぐにでもやっている…。
「てめぇ………その人に指一本でも触れてみろ………今度はガチでぶっ飛ばすからな!」
「…ふん、保障はしない」
あっさりと言い放ったショッカーライダーを俺は尚も睨み続ける。
すると、奴は俺の目前に立ち、ちらりと1号が閉じ込められた十字架型マシンを見た。
「冥土の土産だ、俺達ショッカーのゲイムギョウ界最初の計画を聞かせてやろう…」
「ゲイムギョウ界、最初の計画だと…?」
こいつは何を言っているのだろうか…。
俺は正直訳が分からなかった、ゲイムギョウ界といえども、今俺達がいるのはメモリーワールドとも呼ばれる別の独立した世界。
こことゲイムギョウ界、違う世界にいるに等しいのにこいつらはなぜゲイムギョウ界での計画なんかを建てたんだ?
俺の意思を悟ったのかそうじゃないのか、ショッカーライダーは1号を指差した。
「“失敗作”こと1号はこのメモリーワールドの中枢ともいえる存在………それが、機能を完全に停止すると、どうなると思う?」
そう言われるが、怒りで頭がいっぱいだと頭が回らないのか答えが見つからない俺は表情を変えることなく目の前に立つ奴を睨み続ける。
しばらくするとショッカーライダーは大げさに両手を広げ、天を仰ぎ見るように上を向いた。
「それは、“仮面ライダーのメモリーワールドの完全停止”………つまり、“仮面ライダーのヒーローメモリーの完全な機能停止”だ!」
「!」
そう言うと、ショッカーライダーは踵を返し、俺に背を向ける。
「そしてその瞬間、仮面ライダーになり変り………我らショッカーがこのメモリーを支配する! 悪のメモリー、“ショッカーメモリー”の誕生だ!」
ショッカーライダーが無機質な声であの笑い声を響かせる。
なんてことだ………。
でも、そんなことが可能なのか? 世界が止まればこいつらも機能を停止するなんて事はないのか?
いや、でも待て…奴らは外部から来たバグと進ノ介さんは言っていた。
つまり、奴らは元よりこの世界を侵略………パソコンで言う“ハッキング”に近い事をしようとしているってことなのか?
奴らの計画を聞いてか、少し回るようになった頭が俺にそんな仮説を建たせた。
「そして、ショッカーメモリーを媒介にすれば我らは外の世界にも侵攻する事が出来る………」
「っ!? まさか………ゲイムギョウ界最初の計画って………」
その時、こちらを見たショッカーライダーの仮面に包まれた顔が一瞬、笑ったような気がした…。
そう思えるほど、奴が不敵な雰囲気を醸し出していたから………。
「そう、ショッカーメモリーを媒介にして、俺が持つすべてのショッカー改造人間の記憶から無限の改造人間軍団を創りだし、外のゲイムギョウ界を侵略するのだ!!」
――――――イィーーーーー!!
その場にいた戦闘員達が右手を斜め上に上げて高らかに声を上げる。
そんな事を考えていたなんて…このままじゃ、この世界だけじゃなくてゲイムギョウ界も危ない…!
ブラン達も、ノワール達も、ネプテューヌ達も……!
そんなこと………させて堪るかよ!!
「俺はすべての改造人間の記憶を持っている、俺がこの世界の中枢になり変れば………無限怪人軍団も夢ではない」
「だからって…お前らの好きにさせるかよ!」
俺は抵抗しようと体を動かすが、俺の体を押さえていた戦闘員がそれを許そうとしない。
ショッカーライダー・パーフェクトは再び1号の方を向く。
「そのためにも、奴には完全に機能を……魂を消してもらわないとな?」
奴はそう言うと、ゆっくりと俺の方に振り返り、悠然とこちらに近づいてきた。
「目の前で、自分の信じた仲間とお前たちが死ねば……流石の奴も呪うだろうな、己の無力さを……」
俺の顔を覗き込むようにしてショッカーライダーはそう言った、あの赤い複眼がこれ以上に無いくらいに不気味に光り、俺の事を見据えている…。
俺達をこの場で殺す、そう語りかけているように……。
「よぉ、見えているだろう? 聞こえているだろう? “失敗作”の兄弟! 今、ここにいるこいつらはお前があまりにも無力なために死ぬ………その様子をその目でよく見ておけ、そして絶望しろ、正義と言う浅はかな感情に身を任せ、同族を殺してきた自分が何もできない事を呪いながらな!!」
ちらりと後ろの方に視線を向けて、わざとらしく声を張り上げるショッカーライダー。
それに対して、1号は何の反応も示さない…。
いや、本当は…本当は、聞こえているはずだ…。
まだ完全にその魂を、仮面ライダーとしての正義の心が消えていないのなら…今も諦めずにその魂を繋ぎ止めているのなら、聞こえているはずだ…。
なら、尚更諦めてやるものか…。
こんなとこで、こいつらにやすやすと殺されてなるものかよ!
しかし、俺の感情とは裏腹に拘束が解ける事はない…。
俺は虚しく体を動かすことしかできなかった。
「そう、焦らなくてもいいだろ?」
唐突に後ろから声が聞こえた、この声は進ノ介さんだ、どうやら目を覚ましたらしい。
首だけを横に向けて後ろの方を目で確認すると、進ノ介さんはまだ諦めているようには見えない瞳でショッカーライダーを睨んでいた。
「まだ俺達には、仲間がいる…そいつらがきっと逆転のチャンス…最後の追い上げになってくれるはずだ」
「そうだ……まだ俺達のステージは終わってねぇ!」
進ノ介さんの言葉に続くように、同じく目を覚ましていたらしい紘汰さんも奴の事を睨んでいた。
そうだ、まだ俺達にはあと二人の仲間がいるはず…。
「それは………これのことか?」
ショッカーライダーが何者かに指示を出す。
すると、暗闇の中から二人の怪人が現れた。
「サボテグロンとドクガンダー………」
サボテンの怪人サボテグロンと蛾の怪人ドクガンダー、二人の改造人間が現れるとそのうちの片方、サボテグロンが手に持っていた何かを俺達の前に無造作に放り投げた。
「……それは!」
進ノ介さんが反応を示したそれはバイクの前輪を模した銃の様なものだった。
あれは……?
「ゼンリンシューター……まさかお前ら、剛を!」
「ああ、呆気なかったらしいぞ? 二人ともな……」
「………てめぇっ!!」
紘汰さんが声を荒げる、どうやらあれは進ノ介さんの仲間の物だったようだ。
俺が見て分からないという事は、おそらく俺がこの世界に来た後に登場したライダーの武器と言う事なのだろう、誰かは分からないが仲間の物というのは確実らしい…。
それがここにあるという事は、恐らく………。
その先は考えたくもなかった…。
サボテグロンとドクガンダーが再び闇の中に消え、ショッカーライダーが再び俺達を見下ろす。
「さて、最後の希望も潰えた所で、お楽しみと行こうか?」
奴はそう言うと、一人の戦闘員を呼ぶ。
その手にはショッカー戦闘員が共通して持っている短刀が握られており、ショッカーライダーにそれを手渡す。
奴はちらつかせるようにそれを俺達に見せつけた後、ゆっくりといーすんの方に近付いて行った。
「小僧………こいつの事を余程大切に思っているようだな?」
奴は俺の方を見ることもなく、淡々と言うと………
「ふんっ!」
「―――――っ!」
右手に持っていた短刀を、いーすんに振り下ろした。
それによっていーすんの体、ではなく、“身に纏っていた衣服”が縦に切り裂かれる。
上半身の服の襟首からへそのあたりまでぱっくりと切り裂かれ、彼女の胸から腹部までの白い肌が晒される。
突然の事にいーすんが羞恥で頬を赤く染め、目をきゅっと瞑るのを見た俺の脳裏が再び怒りで燃えたぎる。
「お前ぇぇぇぇええええええええええ!!」
「その反応、やはり相当こいつが大事と見える………」
奴はそう言うと、今度はいーすんの事をじっと見つめる。
それに対し、いーすんは反抗の眼差しで奴の事を睨み返していた。
「叫び声の一つも上げないとは、やはり威勢がいいな……?」
「………こんな辱めを受けた所で、私は屈しません」
いーすんはそう言って奴の事を睨んではいるものの、頬は赤いままだし、声は震え体が小刻みに震えているのが見て取れた。
ショッカーライダーはこの程度では足りないとでも思ったのか今度は切り裂かれた所よりも下の方、下半身に短刀を突きつけ、ゆっくりと下に下ろす…。
ナイフの切っ先がスカートの上の方を僅かに切り裂いた所で、いーすんの体がびくりと大きく震えた……。
「てめぇ、それ以上その人に何かしてみろ、本当に許さねぇぞ!!」
無駄だと分かっていても、体を拘束を振り払おうと動かし奴に詰め寄ろうとするが、戦闘員が床に俺の体を押さえつけてより身動きを取りにくくさせる。
「……ふん、安心しろ……別にこいつを剥く事が目的ではない……」
奴はそう言うと、持っていた短刀を別の戦闘員を呼びそいつに持たせると自分は大幹部の集合する階段の一番下の方に歩いて行き、どっかりとその場に座った。
そして、いーすんと俺を交互に見ると、不敵な笑い声を三度辺りに響かせる。
「ギッギッギ………余程大切なその女が目の前で殺された時、お前はどんな表情をするのだろうな?」
「っ!!」
最悪の光景が、俺の目の前に浮かんだ気がした。
その瞬間、いーすんがその場に身を低くした体制で押さえつけられ、彼女の目の前に短刀を持った戦闘員歩いてきた。
「やめろ!! その人には手を出すな!! 殺すなら俺を殺せ!!」
自分でもありがちなセリフだと思ってる。 でもそれ以外に言う言葉が思いつかなかった。
「いいぞ、その顔……目の前で大切なものが壊される瞬間の表情は、俺にとって最高の至福だ……精々足掻け、そして……よく見ておけ、小僧…1号…」
俺は必死に拘束を解こうと試みるが、戦闘員がそれを全力で邪魔してくる。
このまま、何もできずに、目の前でなんて………そんなこと……そんなこと!!
「宗谷さん…目を瞑っていてください」
いーすんの静かな、それでもはっきりと聞こえる声が俺の鼓膜を震わせた。
俺は反射的に抵抗を止めて、いーすんの方を見る。
その表情は、どこか申し訳なさそうで、どこか悲しげに見えた…。
「………ごめんなさい宗谷さん、結局……私は守れませんでした」
「いーすん………」
「せめて、この瞬間だけはあなたに見せたくありません………だから、目を閉じていてください………お願いです、宗谷さん」
「なに諦めてんだよ! なんでそんな顔してんだよ!! 前みたいに諦めないでって言ってくれよ! なあ、いーすん………イストワール!!」
俺の必死の呼びかけを聞いて、彼女は俺の方をあのきれいな目で見ると、あの優しげな笑顔を、いつも俺に何かをくれたあの笑顔を見せた………。
こんな状況で、そんな笑顔見せるなよ……作り笑顔だってバレバレなんだよ!
本当は怖いはずだ、体は震えてるし、涙目だし、声も震えてた…。
それでも、彼女は何で俺に笑顔を向けるんだ…。
「殺れ」
奴の口から冷徹な命令が下され……。
「さようなら………宗谷さん………」
非情な刃が振り下ろされた………。
「やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
あの時と同じだ………
俺は………
俺は………また………
俺は、“また”、何も出来ないのか………?
いかがでしたか?
かなり下種な事になっていますが…。
このピンチを乗り越えられるか、宗谷…。
さて、次回、果たしていーすんと宗谷の運命は!
それでは、またお会いしましょう…。