超絶次元ゲイムネプテューヌ おーばーどらいぶ!   作:白宇宙

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幕間編 歌姫と白少女と襲撃者
Bonus stage, イベントプレゼンター “白”


 

 

 

「……………おや?」

 

 

 

 

 

「おやおや、これはこれは………」

 

 

 

 

 

「皆様、初めまして……私は“イベントプレゼンター”の“白”(びゃく)、と申します」

 

 

 

 

 

「え? イベントプレゼンターとは何か、ですか? そうですね………簡潔に言うと、皆様が一度は思い描く、甘美で、優雅で、濃厚で、豊潤な夢の様なひと時をご提供することを目的としております」

 

 

 

 

 

「聞くより見る方が早いでしょう………それでは早速、今宵、皆様にはとある青年のとある一日をお見せしましょう…」

 

 

 

 

 

「皆様、特に男性の方なら一度は思った事はありませんか? 自分の憧れの女性、あるいは身近にいる中のいい女性、もっと言えば片思い中の女性………その人を、自分の手でドキドキさせてみたい、と………」

 

 

 

 

 

「今回、皆様に最初に見せるのは、とある青年のとある一日のとある出来事………それでは、皆様、夢の様なひと時を………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せぇりゃ!」

 

天条宗谷は今日も今日とて、教会の仕事をこなしていた。

教会に依頼された仕事のほか、ギルドで溜まっている未消化のクエスト、最新ゲームハードの発売イベントの打ち合わせ、最近のプラネテューヌでのシェアの調査。

イストワール一人では消化しきれないであろう仕事を彼は現在、淡々と消化している最中だった。

今は、二番目のギルドのクエストをこなしている最中である。

 

今日何匹目かの下級モンスターを赤剣で切り裂いた宗谷は、ノルマを達成できたかどうかを依頼書を見て確認する。

 

「えっと、今のを合わせると………うし、丁度ノルマってとこか」

 

今日受注した3つ目のクエストを成功させた所で今日のフィールドワークのお勤めは終了となった。

 

 

 

 

ギルドに戻り、クエスト成功を報告した後、宗谷はネプテューヌに頼まれていた買い物をついでに終わらせて帰路についていた。

頼まれたのは彼女の大好物であるプリン。

 

「切れたんなら買い足しとけよ……」

 

少し愚痴をこぼしつつも、ちゃっかりみんなの分を買ってきているのは彼なりの気づかいだ。

ちなみにこの国の女神である彼女は今日も今日とてゲーム三昧なのは既に予想はついている、そろそろ自分もイストワールを見習ってネプテューヌにもっと強気で当たるべきだろうか?

 

そんな事を考えていると……

 

「ん……なんだ、この香り?」

 

どこからか意識を引かれるようなとてもいい香りが、彼の鼻腔をくすぐったのだ。

彼がいるのはプラネテューヌでも有名な繁華街、様々な店が今日もお客を迎えようとあれやこれやの接客をしている中で、宗谷は何故かこの香りに惹かれてしまった。

食べ物のような食欲をそそる匂いではない、単純に花や果実のような爽やかでそれでいて深みのある、落ち着きのある香り。

 

宗谷はそれに釣られてか、なんとなしにその香りがする方へと足を踏み出していた。

 

そして、歩く事数分………

 

「……この店からか?」

 

辿り着いたのは、とある一軒のお店だった。

 

ピンクと黒と言う怪しげな色合いが特徴的なこのあたりでは珍しい、まるでお屋敷の様な造りをしたこのお店、上には落ち着いた事態で書かれた店の名前と思われる看板が掲げられている。

 

 

「……“ドリーミング・コロン”……香水とか、お香とかの店…みたいだな」

 

 

男の自分には特に接点もないものなのだが、なぜか宗谷はこの香りが気になり、ドアノブに手をかけた。

ノブを回し、店内へ。

 

すると、真昼の繁華街の騒がしくもにぎやかな声や音が一瞬で消え去るようにさえ感じる静かな雰囲気が彼を包み込んだ。

 

 

店内には、無数の商品棚と、その中には様々なビンに入った香水や、アロマキャンドル、線香などと言った予想通りの香りにまつわる商品がずらりと並べられていた。

この時、宗谷は一瞬自分は何か怪しげな店に来てしまったんではないかと思ってしまったのだが、すぐにそれは違うと感じた。

値段がすべて手頃なのだ、一瞬5桁はくだらなそうな商品がズラリとしているのかとも思ったが、どれもこれも良心的な値段で販売されている。

 

 

 

「いらっしゃいませ、なにか…お探しでしょうか?」

 

 

 

するとそこへ、店の関係者と思われる人物が現れた。

 

その人物は白の燕尾服を見に纏った、金髪の美系の男性だった、所謂イケメンである。

右の頬にハートマークのスタンプをあしらえ、とても人当たりのよさそうな朗らかな笑顔で自分に会釈する彼に、宗谷も釣られて軽く会釈する。

 

「いや、その…珍しいお店だなって…」

 

「ええ、まあ、私が好きで営業を始めたお店でして……あ、申し遅れました私、この店の店長を務めております“白”と申します」

 

「ああ、これはご丁寧にどうも……」

 

差し出された名刺を受取る宗谷は、目の前の美男子、白が営むこのお店が個人営業の開店したての店だと予想を建てた。

 

「………このお店、香水とか扱ってるんですね?」

 

「ええ、この香りで私は皆様に幸せなひと時をご提供するのが楽しみなんです」

 

「幸せなひと時?」

 

「はい、それこそ夢のような、まるでゲームのようにワクワクするイベントの様なひと時です………試しに一ついかがですか?」

 

そう言って白はどこからか取り出したアロマキャンドルに、ポケットから取り出した独特な形をしたライターで火を灯した。

すると、宗谷の周りにさっきと同じ自分をここまで導いた香しいあの香りが漂い始めた。

 

「あ……この香り」

 

「いい香りでしょう? 私はお客様一人一人に最高の一時をご提供するべくこの商売を始めたんです」

 

「………へぇ」

 

そう答えた宗谷だったが、なぜか思考がすべて香りの事ばかりに回ってしまっていた。

 

濃厚で豊潤な香りを放つはちみつのようでありながら、爽やかで深みのある甘酸っぱい苺の様な香り、それがまるで自分が欲している何かを満たしてくれるようなそんな感覚を感じていた。

 

「おや………どうやらこのアロマキャンドルはあなたに丁度いいみたいですね」

 

白の声が頭の中に反響する、しかし、宗谷は今自分の中で何が起きているのか分からずにいた。

目の前のアロマキャンドルの炎が妙にゆらゆらと揺れているのが分かる。

 

 

「なるほど………どうやらあなたは女性に対して特別な感情があるようだ……簡単に言うと、萌え、と言うものですね?」

 

「なんで…それを…?」

 

「このアロマキャンドルは、そう言う人の思いに強く作用するんですよ……」

 

 

その声が聞こえるとともに、宗谷の体を強い眠気の様な感覚が襲った。

深い眠気に体を沈めていく中、宗谷は彼のこんな言葉を耳にした。

 

 

 

 

「さあ、夢のような“イベント”を………お楽しみください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、プラネテューヌ教会。

 

この日ネプギアは今日も、趣味の機械いじりを終えて手に着いた鉄とオイルの匂いを洗い流すべく洗面台で手を洗っていた。

一通り石鹸で洗い流して、手の匂いは落ちたと思うがまだ油断は出来ない、念のためにお風呂にも入ろうかと考えていると…

 

 

 

―――ただいま

 

 

 

「あ、宗谷さんだ」

 

この教会で住み込みで働いている異世界から来た青年、宗谷がクエストから帰ってきたようだ。

ネプギアはすぐさま濡れた手をタオルで拭いて彼を出迎えようと玄関に向かう。

 

「宗谷さん、おかえりな…さい?」

 

 

 

「ああ、ネプギア……ただいま」

 

 

 

ネプギアが彼を出迎えるが、そこで彼女はある違和感を感じた。

 

なぜか宗谷の雰囲気がいつもと違うように感じてならないのだ。

 

こちらに向けられた笑顔がいつもと違って妙に爽やかで、幻覚かとも思えるような謎のバラの様なエフェクトが彼の背景で見えたような気がした。

 

「……気のせい、かな? 宗谷さんは、いつもの宗谷さん……だよね?」

 

「? どうかしたのかい、ネプギア?」

 

そう言ってこちらを不思議そうな眼で見つめてくる宗谷。

この時の彼の瞳も彼女には妙に綺麗に見えてしまった。

 

「え? …ああ、いえ、別に何も!」

 

「そうか? ……あ、ネプギアちょっとそのまま」

 

「ふえ? あ、ちょ…宗谷さん!?」

 

すると突然、宗谷がこちらに急接近してきた。

突然近づいてきた彼に若干驚きつつも、ネプギアはなんとかその場に踏みとどまる。

 

「な、何ですか急に…?」

 

「ここ、汚れてる」

 

「え? ………あ、本当だ」

 

そう言って、彼が示したのは自分の服の裾に着いたオイルによる汚れだった。

自分とした事が…気付かなかったと反省しつつ、ネプギアは妙に気恥かしくなってその汚れを手で隠し、咄嗟に彼と距離を離した。

 

「きっと、さっき自作の粒子加速器の調整をしてた時に着いたんだと思います…」

 

「そうか、なるほどね…ところで、何で俺と距離を離したの?」

 

「それは…その、オイルの匂いとかしてたら嫌だなって…」

 

自分だって女神とはいえ一人の女の子なのだ、オイルの匂いが付いているかもしれないのに誰かの前に出るのは極力避けたいのである。

しかし、宗谷はそんな彼女の思いなどお構いなしのように急にこちらに近付いてきた。

 

 

驚くネプギアに構わず、宗谷は彼女の頭にそっと手を置き優しくその頭を撫で始めた。

 

「ふぇっ!? …あの宗谷さん何を!」

 

「別に匂いくらい気にしないよ」

 

そう言って、彼は今までに見せた事もない綺麗な笑顔を自分に向けてきたのである。

そしてさらに距離を詰めて、ついには彼女を壁際まで追い詰めてその顔の近くにやさしく手を置く。

 

「え、あの、宗谷さん近い、近いです…」

 

所謂“壁どん”と言う体制に持ち込まれたネプギアは反射的に彼の顔を見上げる。

 

 

「俺は、楽しそうに機械を造ってるネプギアを見るの、好きだし」

 

「ふぇ………ふぇえええええええ!?」

 

 

突然言われた言葉にネプギアはさらに混乱して壁に背中をつけた状態で顔を真っ赤にし、あわあわと手を意味もなく右往左往させていた。

そして、彼の顔が自分の耳元まで近づき…。

 

 

「………そんなこと気にしなくてもネプギアはいい匂いだから、大丈夫だよ」

 

「あ…」

 

 

耳元で言われたこれが止めの一言になり、ネプギアは自身の心臓が妙に速くなるのを感じた。

この時の彼の笑顔と言葉が心に響いた、と言った方がいいのだろうか。

 

(ど、どうして宗谷さんが急にこんな……それに、なんで? 今日の宗谷さんなんだか別人みたいにキラキラしてる?)

 

今自分の目の前にいる宗谷は、妙に薔薇のエフェクトが似合う美系男子にしか見えなくなってしまっている。

ネプギアは自分の目がおかしくなってしまったのかと思っていたのだが、目をこすっても何も変わらない。

 

「ふふっ…それじゃ、頑張ってね、ネプギア」

 

「は……はい」

 

優しく笑顔を向けて、壁につけていた手を離し、その場を後にする宗谷、その場に残されたネプギアは呆然とその場に立ち尽くし、さっき彼に撫でられたせいで早まった心臓の鼓動を不思議に感じていた。

 

 

 

 

 

「あ、ソウヤお帰り~」

 

一方、リビングではお気に入りのソファでくつろぎながら、ゲームを楽しんでいるネプテューヌがリビングに入って来た宗谷を出迎えた。

 

「ただいま、ネプテューヌ」

 

さっきネプギアに見せた笑顔を彼女に向ける宗谷、しかし、ネプテューヌはネプギアのように宗谷の異変を感じずにゲームに没頭していた。

普段なら宗谷は、そろそろ仕事しとけよ、的な事を彼女に言うのだが今日はそうせずにそっと彼女に近付き、その隣に静かに座った。

 

「あれ? どうかしたのソウヤ? いつものならいーすんみたいに、仕事しろ~とか言ってくるのに…」

 

流石にこれには反応したネプテューヌがゲームをポーズ画面にして宗谷の方を見る。

 

この時、ネプテューヌは初めて宗谷の変わりように気付いた。

 

(あれ? ……この人、ソウヤ…だよね?)

 

妙にキラキラした背景を見に纏っている目の前の美系な雰囲気をむんむんとさせる青年に一瞬違和感を感じたが、何度見てもそれが宗谷に変わりはない。 宗谷以外の何者でもない。

 

気のせいかと思い、それに関してネプテューヌはスルーすることにした。

 

そして、当の宗谷はネプテューヌにされた質問に対して、妙に優しげな笑顔を向けた。

 

 

「うん、その事なんだけど……いつも仕事もしないでゲームばかりなネプテューヌに、今日はちょっとした罰をあげようと思うんだ」

 

「え~、罰~?」

 

 

いかにも嫌そうな声でそう言ったネプテューヌに対して、宗谷は笑顔を崩さず手元のビニール袋からあるものを取り出した。

 

「今日買って来たこのプリンなんだけど、このプリンをネプテューヌが食べる事を禁止します」

 

「え………え~~~~~~!?」

 

突然言われた宣言にネプテューヌがこの世の終わりの様な表情を浮かべ、声を上げる。

何せ自分の好物を自分は食べるなと言われれば、誰しもこのようなリアクションは取るだろう、しかも、彼女にとってはプリンが超の付くほどの好物なのでさらに二割増しくらいのショックなのだ。

 

「そんなのひどいよぉ! ソウヤのケチ! 鬼! 悪魔! ヒキニート!」

 

「なんとでも言えばいいさ、これはネプテューヌが食べる事は出来ないのに変わりないんだから」

 

ネプテューヌの罵倒をあっさり流した宗谷はネプテューヌの前でこれ見よがしに買って来た彼女のプリンを見せつける。

意地悪く見せつけられるプリンを前にして、ついにネプテューヌが痺れを切らしソウヤに跳びかかった。

 

「いくらソウヤでも私のおやつタイムを邪魔するのは許さないよ! とおぉう!」

 

「おっと」

 

「ねぷ!? 避けられた!」

 

しかし、すんなりと飛びかかって来たネプテューヌをひらりと躱した宗谷、そして彼女の体を優しく左手で抱きとめて…。

 

 

「ふぅ……」

 

「ふひゃっ!?」

 

 

彼女の耳に、優しく吐息を吹きかけた。

自分の耳から感じたこそばゆい感覚に驚き、すぐさま後ずさりして自分の耳を抑えるネプテューヌ。

 

「な、な、な、なにするのさソウヤ! い、いくらなんでもいきなりそう言うのはさすがの私でもびっくりしちゃうよ!」

 

「まあまあ、そう慌てないでよネプテューヌ、なにもプリンを絶対に食べてはいけないとは言ってないんだからさ」

 

「え、でもさっき私は食べちゃいけないって…」

 

彼の言っている事をいまいち理解できないネプテューヌは頭に疑問符を浮かべて首をかしげる。

すると、宗谷はまたあのキラキラした笑顔を浮かべた。

 

「そう、ネプテューヌは自分で食べちゃいけない、けど………ネプテューヌが誰かに食べさせてもらうのはOKってことだよ」

 

「あ~、なるほどね~……って、なんですと?」

 

笑顔であっさり言われた事を要約すると、自分が自分の手でスプーンを持ってプリンを食べてはいけないが、誰かにスプーンを使ってプリンを食べさせてもらうのはOK…と言うことらしい。

 

「えっと………ちなみに、その誰かって?」

 

「もちろん、俺だよ」

 

「え、えっと…どうしたのかなソウヤ、なんだか今日のソウヤ、積極的すぎる気がするよ?」

 

「気のせいだよ、気のせい……それよりも、ほら?」

 

ネプテューヌの目の前でプリンの蓋をゆっくりと開け、見せつけるようにスプーンを取り出した宗谷、その様子を反射的に食い入るように見つめてしまうネプテューヌ。

 

甘く、とろけるような舌触りを約束する黄色い柔らかなプリンに、そっと彼が取り出したプラスチック製のスプーンが刺さる。

 

 

「………」(ごくり

 

 

その様子を見るだけで生唾を飲み込んでしまったネプテューヌ。

すぐ目の前に、自分の好物があるというのにそれが食べれないもどかしさ…。

今すぐにでもスプーンの中に入っているあの一欠片を口に入れてもらいたい…。

 

「ふふっ……いらないの? じゃあ、俺が食べようかな~?」

 

「あ……あ、あ~~~~~~!!」

 

宗谷が意地の悪い笑みを浮かべてスプーンを自分の口元に近づけようとした時、ついに我慢の限界が来たのか慌てて制止しようと彼に追いすがろうとする。

 

「なんてね?」

 

「ねぷっ!?」

 

すると、突然自分の目の前に彼が手にしているスプーンが飛び込んできた。

自分の目の前ギリギリに置かれた好物を目の前に、ネプテューヌは暫くそれを食い入るように見つめた。

彼女はこの時、一瞬迷った、彼の言っていた言葉に素直に従うべきか…。

しかし、それはいくら仲のいい友人でも異性にそうしてもらうのは単純にどうすべきか悩む…。

しかし、そうしないと目の前にある自分の好物が食べられない…。

 

二つの板挟みに葛藤する中、最終的には………。

 

 

「………はむっ」

 

 

そのスプーンに自ら口を近づけて、一口。

 

途端に口の中に、甘く、豊潤な、プリンの優しいクリーミーな味が広がって行く。

そしてなぜか、今食べた一口はいつも食べているプリンよりも、味がさらに濃厚に感じる。

いつも食べてたこのプリンはここまで、美味しかっただろうか? そんな錯覚さえ感じてしまった。

 

 

「…おいしい?」

 

「………うん」

 

 

どこか呆然としているネプテューヌ、なぜか目の前の青年の、いつも仲良くしていた青年の笑顔がこの時妙にいつもと違う何かを彼女に感じさせていた。

見ていると何故か、胸の奥が何かで突かれたように感じる、この感覚は一体何なのか?

なぜ、こうも顔が熱くなってしまっているのか、彼女には理解できなかった。

 

それも相まってだろうか、今彼女は自分の中にある欲望を更に掻きたてていた。

 

目の前の彼がくれるこの甘い味を、もう一度味わいたい…。

 

 

「ねぇ、ソウヤ………もう一口、ちょうだい?」

 

「……いいよ、ほら」

 

 

差し出されたもう一口のプリンに、ネプテューヌはゆっくりとそれをもう一度口の中に入れてもらう。

深く味わうように、舌でその味をしっかりと確かめる…。

 

暫しあって、自分の口の中に入っていたスプーンが優しく引き抜かれる。

 

 

すると、咄嗟にネプテューヌが彼の服の裾をきゅっと掴んだ。

 

 

頬を赤くさせて何かを求めるように熱い視線を彼に送る、そんな彼女の顔を同じくらいに熱い視線でじっと見つめる宗谷。

 

 

「ソウヤ……もっと……もっと、ちょうだい」

 

 

こんなにこのプリンが美味しいと感じるのは初めてかもしれない。

もしかしたらそうしているのは彼かもしれない。

 

そんな事を考え、咄嗟に彼の服の裾を掴んだネプテューヌ。

たとえそれがそうじゃなく、また別の何かだとしても……今はこの一時をもっと楽しみたい……。

 

 

 

 

「これで、最後……」

 

「あむっ………ん」

 

その後しばらく自分でなく、宗谷に食べさせてもらうといういつもと違うおやつタイムを堪能し、ついに最後の一口を味わい終えたネプテューヌ。

一瞬の様な、長いひと時の様な時間が終わりを告げたのに、なぜか心のどこかで口惜しいような思いを感じる。

 

「ネプテューヌ………」

 

「え……あ、ちょ……ソウヤ…」

 

すると、突然宗谷がこちらに顔を近づけてきた。

徐々に近づいてくる彼の顔、どんどんと縮められる距離と連動するように自身の心臓が早くなっていくのを感じる。

 

 

「ちょ……」

 

「……動かないで」

 

 

 

そっと、自分の頬に彼の手が添えられる。

 

 

 

そして、さっきよりももっと彼の顔が近づいて………

 

 

 

「口元、カラメルソースが付いてる」

 

 

 

「………へ?」

 

自分の口元を親指でぬぐわれたネプテューヌは変な声を上げて、目を点にした。

 

そしてそれを合図にネプテューヌの思考が一気に冷静さを取り戻し、いつも以上、というか滅多にないくらいに彼女の脳がフル回転して、さっきの自分の行動を振り返る。

 

(い、今…な、何しようとしてたんだろう私!? キャラもいつもと違ってたよ私!? いや、さっきのは一応ソウヤにプリン食べさせてもらっただけ、そう、だけだよね! 別にやましい気持ちもなんもないよね! でも今の………私、何かを期待してた? ………それって、まさか………)

 

そっと自分の唇に指をあてがうネプテューヌ、途端に彼女の顔が苺以上に赤く染まった。

一体、自分が何を期待してたのかを想像して柄にもなく口数を減らしてしまった自分自身にネプテューヌは言い知れぬ恥ずかしさを感じた。

 

「ねぷぅ~~~~~!! どうしたの、どうすんの、どうしちゃったの私、どうすんの~!!」

 

「続くか続かないかはいいとして、怪我しないようにね~」

 

溜まらずその場で転げ回る彼女を尻目に、当の宗谷は涼しい顔で空になったプリンの用器をゴミ箱に入れ、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……どうして私、体が大きくなったのでしょう?」

 

場所は変わって、ここはイストワールの部屋。

イストワールのと言っても、実は最近用意したばかりのまっさらの新しい部屋だ。

理由はつい先日起きた、彼女の変化。

 

自分のサイズが人間と変わらないサイズになったという出来事。

 

それに合わせて部屋も新しく用意されたのだが、何分まだ家具もそれほど用意されていないためシンプルすぎる部屋で一人ポツンと寂しく座る彼女は今、時間を持て余していた。

 

今日の分の仕事はアイエフ、コンパ、宗谷の三人が手分けしてなんとかするという事で自分は大事を取って休めという事を言い渡されたのだ。

先日高熱を出して倒れていたから、仕方がないと言えば仕方がないのだが今は特にこれと言った不調もない、むしろいつもと変わりない。

そのため、イストワールはこう言う時、一人で何をすればいいのか分からないので、ただ一人、部屋で時間が過ぎゆくのを待っているしかないのだ。

 

――――コンコン

 

すると、ドアの方からノックの音が聞こえた。

 

「……いーすん、入ってもいいか?」

 

「あ、宗谷さん! えっと……… どうぞ」

 

ドアの向こう側から聞こえた聞き覚えのある声に、イストワールはベッドの上に座りながら、さっと自分の身だしなみを整える。

髪が跳ねていないか、新しく用意してもらった服にしわはないか、部屋が散らかってないかなどをさっと確認したイストワールは、彼を部屋に迎え入れる。

 

「具合、大丈夫かい?」

 

「はい、特に異常はありま…せん?」

 

 

入って来た宗谷を見て、イストワールはすぐに違和感を感じた。

 

 

普段とは違った雰囲気を見に纏わせた彼を不思議そうに見つめるイストワール。

 

何が変と言うと、特に目立つようなものでもない気がするようなしないような、そんなとても微妙なラインの違和感であるがゆえにうまく表現が出来なかった。

 

そっと、宗谷が自分の座るベッドの隣に座った。

 

「なら、いいんだけど……」

 

「はい…そう言う宗谷さんの方こそ、何かお変わりありませんか?」

 

「ああ、大丈夫、別に変わりないよ?」

 

さりげなく彼に聞いてみるが、帰って来たのはキラキラと輝く背景が似合う爽やかな笑顔だった。

 

「そ、そうですか…」

 

その笑顔を見た瞬間、イストワールの心臓が大きく動いた気がした。

いつも彼の笑顔は見てきた気がするのだが、今回の彼の笑顔は違う…。 掴んだ物を離さない、そんな魅力の様なものがあった。

 

「でも、驚いたよ…急にいーすんの体が大きくなるし…」

 

「…はい、私もまだ慣れていない感じです」

 

途端に心配そうな顔で自分を見つめる宗谷に、イストワールは申し訳なさそうに答えた。

 

自分の体に起きたことぐらい、自分で理解するのが当たり前なのだが、なにしろ予想外の事なのだ、未だに理解するのも難しいのが現実である…。

 

「………やっぱり、一度詳しく調べた方がいいのかな?」

 

「…かもしれませんね、なにが起きているのか分からない以上、綿密に調べるのが得策かもしれません」

 

「やっぱり、そうだよな……うん、それがいいと思う」

 

そう言うと、宗谷が自分の手を彼女の手の甲にそっと乗せた。

突然の行動にイストワールは若干驚きつつも、そっと彼の方を見る。

 

「…なあ、いーすん」

 

自分を見つめてくる彼の表情は、汚れなど一切ないようなまっすぐな瞳だった。

瞳が自分の顔を映しているかのように、綺麗でとても純粋な感情をイストワールは感じた。

 

「………一度、俺にいーすんの事を調べさせてくれないか?」

 

「え?」

 

「………俺、今いーすんに本当に異常がないか、この目で確かめたいんだ……だから」

 

自分の手の甲に乗っている彼の手の力が強くなった気がした。

こちらをじっと見つめる宗谷の表情は真剣そのもの、イストワールは一度唸るように考えてから、すぐに答えを出した。

 

「…分かりました、宗谷さんならいい意味でも悪い意味でも素直なので、信頼できるかもしれませんしね」

 

「…ありがとう、いーすん」

 

出された返事に満足そうにほほ笑む、宗谷。

イストワールも笑顔を浮かべる。

 

そうと決まれば有言実行、一体彼はどうやって調べるのかが気になる所ではあるが手伝えるなら自分も手伝う事にしよう、そう思っていたイストワールだが…。

 

「それじゃ、早速………」

 

「え……あの、宗谷さ、ひゃっ」

 

急に宗谷が自分をベッドの上に押し倒してきた。

 

自分が今置かれている状況が、あまりにも突然なため理解できないイストワールはなすすべなく、ベッドの上に倒れ込む。

その上に宗谷が覆いかぶさるようにして、彼女を自身の体とベッドの間に挟むように両手をベッドに着く。

 

「あの……宗谷さん、これは一体……」

 

「まずは、いーすんの体に異常がないか……チェックする事から始めようか?」

 

「………チェック、ですか?」

 

「そう、チェック」

 

反復するように答えると、宗谷は片手で彼女の服の胸元にあるネクタイをそっと緩めた。

これにはさすがのイストワールも反応して、すぐさま彼の手を慌てて抑える。

 

「ちょ、ちょっと宗谷さんどうしたんですか!?」

 

「どうしたも何も、服…脱がさないと見えないから」

 

何を言っているの、と言いたげな陰りのない至極単純で純粋な子供の様な表情で返ってきた返事にイストワールは顔を急激に赤く染めた。

流石にこれは予想だにしていない、よりにもよって彼がこのような行動に出ることなど考えてもいなかったからだ。

 

「そ、そんなっ……服を脱ぐ必要なんて…!」

 

「チェックなんだし、しょうがないよ」

 

「だからって…こんな、急に言われても…私どうしたらいいか」

 

「大丈夫、全部俺に任せてくれればいいから…」

 

「や、やっぱり変ですよ、今日の宗谷さん…いつもならこんなこと言わないし、しません…」

 

そう、この時、彼女の中では彼の変化がしっかりと理解できた。

 

あまりにも積極的すぎるのだ。

 

それこそ、このような行為は“不健全”と言って躊躇するのがいつもの宗谷のパターンのはずだ。

それなのに、今はこうして積極的な態度を見せてこのような行動を起こしている。

しかも、妙な欲望などではなく純粋な感情のままに、いつもの宗谷ならそう言う事を考えればすぐに表情に出やすいので彼女にも理解できた。

 

しかし、ここまで女性に対して、積極的になった宗谷は今まで見た事がなかった。

それがイストワールをより混乱させる。

 

しかし、

 

 

 

「………イストワール」

 

 

「あっ……」

 

熱い、曇りのない瞳が彼女をまっすぐに見つめ、自分の名を呼んだ。

呼ばれ慣れたあだ名ではない、自分の名前を…。

 

その瞬間、再びイストワールの胸の鼓動が高鳴り始めた。

 

「……不安なのは分かる、でも俺も同じくらいイストワールの事が心配なんだ……だから、俺はこの目で確かめたい………もう二度と、イストワールにあんな辛い目を見せたくないから…」

 

彼の表情は今までにない程に真剣そのものだった。

 

この時、彼女は思った。

 

(…今の宗谷さんなら、身を委ねても…いいのかもしれない…)

 

今の宗谷の言動からして、やらしい感情も感じ取ることはなかった。

こう言ってはなんだが、イストワールはおそらくこの教会で一番宗谷と距離が近い。

そのために、今の彼の心情に汚れはないとすぐに理解する事が出来た。

 

暫し考えてから、イストワールはゆっくり自分で胸元のネクタイを緩める。

 

これは、そう言う事ではない。 あくまで自分の今の状況をチェックするための重要な事なのだ、だから変な意味は全くない、そう言い聞かせながら…。

 

「…宗谷さん、お願いです」

 

じっと、朱に染まった頬と上気した瞳で彼を見つめるイストワール。

ネクタイを完全にほどき、両手を自分の体の両側に投げだす。

 

 

「自分の体を見られるなんて、まったく経験がないんです………だから、その……」

 

 

徐々に小さくなっていく声を宗谷は変わらぬ真剣な表情で受け止める。

 

 

 

「………優しく、お願いします……」

 

 

 

恥ずかしそうに言った一言に、宗谷はゆっくりと頷いて答えた。

 

 

言った、言ってしまった、これでもう逃げ場はなくなった…。

今から自分は、親しい彼に己を隅から隅まで見られてしまう、そう思うと彼女の心臓の鼓動は早鐘の如く激しくなった。

 

宗谷の手が、ゆっくりと自分の服に手をかける。

上から順に上着のボタンが外されていく。

 

その間から覗き始めた白い肌はまるで真珠のように美しく、艶めかしく彼女の吐息に合わせて動き続ける。

 

3つ目のボタンが外されて、もう上半身の半分ほどが露わになり始めた。

 

服の隙間から感じる、空気が異様に冷たく感じる。

しかし、もう今更逃げられない…。

 

自分はこうなる事を認めてしまったのだから…彼に自分を見せる事を許したのだから…。

 

「あっ…」

 

遂に全てのボタンが外されて、彼女の上着の前が完全に開いた状態になった。

彼の手が自分の体をなぞるようにして上へと上がって来る。

 

「んっ…はぁ………」

 

それだけで、イストワールの体に妙な感覚が駆け巡った。

甘く、それでいて刺激が強い、“腹部の下あたりが熱くなるような感覚”…。

 

「綺麗だ、イストワール…」

 

「や……やぁ…」

 

まだ服を脱いでいないのに、隙間から見える肌を見られたと感じただけで彼女の頬がこれ以上に無いくらい赤くなった。

そして耳に響く、甘く優しい彼の声…。

それがより一層彼女の心拍数を上昇させる。

 

そして、ついに彼の手がゆっくりと、下半身の方へと移動し始める…。

 

触るか触らないかの間を保ちながら腹部のあたりから、へそ、そしてスカートのさらに下へと………

 

(私……宗谷さんに……全部……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり………だめぇ!!」

 

 

 

使い慣れた敬語を使うのも忘れ、イストワールはすぐさま前を隠し、そして一番問題の下半身を防御するべく勢い良く膝を上げる。

 

ちなみに、今彼女の上には宗谷が覆いかぶさっている状態でいるわけで、その状態でもし勢い良く足なんかを上げられたらどうなるだろうか?

 

宗谷が今、両足を開いた状態で彼女の上にいる状態で、そんな事をすればどうなるか……。

 

それは男にとって想像もしたくない、“あの痛みが襲う絶好の位置”に膝がクリーンヒットするという、想像を絶する痛みの要因を作り出す。

 

 

 

「っ………のぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

 

反射的に跳ね上がったイストワールの膝が、宗谷の、いや、男なら誰しもが急所であろう足の付け根の間に吸い込まれるようにクリーンヒットした事で、宗谷は絶叫を上げて後ろに倒れ、轟枕した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにがあったか覚えてない?」

 

「………そう」

 

その後、イストワールの部屋で気を失った状態の宗谷を、仕事から帰宅したアイエフとコンパが発見、場所を移し何が何だか分からないまま彼を介抱し、目を覚まして何があったのか事情を聞くと覚えてないというのだ。

 

「クエストが終わって…教会に帰ろうとした所は覚えてるんだ…でもその後の記憶が曖昧で………」

 

「じゃあ、皆さんがあんな状態なのは何でなのかも分からないですか?」

 

コンパが指差す先には…

 

 

 

「………宗谷さん……あれは、本当に宗谷さん……?」

 

「……私、こう言うこと考えるキャラじゃないのに……どうしちゃったのかな……」

 

「ダメです………そう言う関係でもないのに、こんな事……でも………ああ! ダメ! ダメです!! まだこんな…こんな事いけません!」

 

 

 

顔を赤くしたまま、ぼ~っとして呆けているネプギア。

 

クッションに顔をうずめながら何かをぶつぶつと呟くネプテューヌ。

 

その場に座り込んで、何かを呟いては顔を真っ赤にして首を左右に勢い良く振るイストワール。

 

それぞれが謎の行動を取っている、ある意味混沌とした状況が広がっていた。

 

時折ピンク色のオーラを放つ三人を若干引き気味の表情で見つめるアイエフ、ガチで心配そうな顔をするコンパ、不思議そう見つめる宗谷。

 

こちらも三者三様の反応を見せ、そして、一番真相に近しいであろう宗谷は……

 

「………さぁ?」

 

そう言って首を傾げた。

 

果たして、彼女たちの前でいつもと違う行動を見せていた宗谷は一体何だったのか?

 

後日しばらく、彼の事を三人が妙に警戒するようになったのは言うまでもない…。

 

 

 

そんな、不思議を残しつつ、一番答えに近しいであろう人物の名刺が彼の服のポケットにある事をその場にいる全員は知らない。

 

しかし、その名刺は既に名刺ではなくなっていた。

 

ポケットの中には入っている名刺には名前ではなく、こう記されていた…。

 

 

 

―――最高のひと時を、あなたに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…彼はどうやら、なかなか積極的な行動を示せたようですね」

 

 

 

 

 

「時に、人を引き付けるためには積極的な態度を見せる必要があります………でも、度を超すと、痛い目を見てしまうやもしれません……」

 

 

 

 

 

「今宵の彼の夢、皆様はどう感じましたか?」

 

 

 

 

 

「さて、それではそろそろ………お別れの時間のようです」

 

 

 

 

 

 

「本日はご利用、ありがとうございました、お代は………皆さまの楽しむ心を見れれば十分です」

 

 

 

 

 

 

「それでは、皆様………またどこかでお会いしましょう」

 




と言うわけで、番外編、いかがでしたでしょうか?

見る分には楽しいですけど、これ書くのに回るとなかなか難しいですね、うまく表現できたか心配です。


さて、それはいいとして、次回からはちゃんとリーンボックスでのお話が始まりますよ!
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