今回のお話は、久々の宗谷の修行と密かに悩みを抱えたいーすんのお話です。
いやぁ、それにしても精神の描写って本当に難しいなぁ…。
それでは、どうぞ…。
stage,34 俺と弾丸 私と閃光
その部屋は、いかにも少女趣味と言うか、可愛らしいぬいぐるみやピンク色の小物に溢れたファンシーとも、メルヘンともいえる内装をしていた。
そのいかにも可愛い物好きな女の子が済んでいそうな部屋に二人の人物が小さな机を挟んで座っていた。
「つまり、ロボティックが呼びだした異世界の何物かは、その後しばらくして反応を消した、と言う事ですね?」
「まあ、そうゆうこっちゃ…」
トランスとエネミーの二人が、その部屋で先日、ロボティックが開発した試作の次元移動装置の事に付いての話しをしているのだ。
内容は以前の試運転でこちらの世界に呼び寄せた二つの反応がどうなったのかについて。
結果的に纏めて言うと、一つの反応は跡形もなく消滅、その後しばらくしてもう一つの反応は無事に本来の世界に戻ったと言う事でこれと言って目立った事はなかったという事なのだが…。
話の内容はいいとして、何故この二人がこの部屋にいるのか。
まあ、これでも一応女の子である二人なのだが、いかんせんこう言う趣味とは無縁の二人がこの部屋の主とは考えにくい。
なら誰の部屋か、それはあの四人のメンバーで唯一の可愛いもの好きと言える彼女である。
「………ぅぅ~」
レヴォリューション、本来の名はシンシア。
そう、ここは彼女の部屋だ。
二人と距離を置くようにベッドの隅で枕を抱き、二人を見つめるシンシア。
その瞳はあまり二人を歓迎しているようには見えない。
「………なあ、ほんまにこの部屋におってええんか? シンシアめっちゃ不満そうやけど?」
「仕方ないんです、彼女一度部屋に入ったらなかなか部屋から出てこないでしょう? いつまた出番があるか分からないんですから、その時のために誰かが部屋に残って彼女の様子を見とかないといけないんです」
「せやかて、めっちゃ不満そうな顔してるで?」
エネミーの言うとおり、今のシンシアは二人を警戒しまくっている眼差しを向けている。
出来る事なら一人にさせて、そんな心の声が聞こえてきそうなくらいである。
そんなことはお構いなしと言いたげに手をひらひらと振るトランスはシンシアをちらりと一瞥しつつ話を続けた。
「少年くんも確実に成長を続け、“リンカー”であるイストワールも徐々に新しい自分の体に慣れてくる時期です、今後の展開次第ではレヴォリュ」
「むっ………」
「……もとい、シンシアの力が必要になって来るんです、もしその時になって彼女が部屋から出てこなかったら全てが水の泡ですからね」
トランスはそう言うと、自分の近くに置かれたウサギのぬいぐるみを手に取り、もふもふといじり始める。
本来の性格上、あまり部屋に誰かを入れたがらないのを知っているエネミーは、シンシアに同情の目を向ける。
「確かに“最初の困難”の時期が迫っているのは確かやけど……ここまでせんでええんちゃう?」
「甘やかしちゃいけませんよ! この子のためになりません! それに、この部屋に閉じこもって何していたかと思ったらすぐに分かりましたよ……まさか、今でもこのようなエロいイラストを描いていようとはねぇ」
そう言ったトランスはどこから取り出したのか、一枚の紙に描かれたイラストをエネミーに手渡した。
反射的にそれを受け取ったエネミーはまたかと言いたげにそのイラストに目を落とした。
「や、だめ見ないでぇ………!」
シンシアが必死になってそのイラストを取り返そうとするのを、トランスが教育的指導とか言いながら抑え込むのを横目に、エネミーはシンシアのイラストから感じる、ある意味のすごさを実感していた。
(今度は触手ものかいな……スケブに描いてある分と言い、この子、何で大半が自分をモデルにしたキャラにしとるんや?)
エネミーが見せてもらったシンシアのイラストに描かれていたのは、触手に凌辱されているシンシアらしき少女の絵だった。
しかも、お腹が膨れてるあたり妊娠バッドエンドを感じさせるものだ…。
これに限らず、シンシアのスケッチブックに描かれているイラストのほとんどはシンシアをモデルにした少女の倍率の方が高い、たまに今の女神をモデルにしているのも紛れているが、それでもシンシアをモデルにした場合の方が明らかに多いだろう。
(………まさかあの子、性癖がドМとかちゃうやろな?)
今も尚ベッドの上でわーきゃーと騒いでいる二人を尻目に、エネミーはそっとシンシアのイラスト作業用デスクの上にそっとそのイラストを置いた。
その後、日にちはどんどんと進んで行き、気が付いたら約束のリーンボックスでの5pb.のライブまであと一週間に迫った頃。
俺は異世界から来た友との戦いで手に入れた新たなヒーローメモリーの精神リンクを行う事にした。
一体、今回のメモリーはどんな主人公が相手なのか、俺は期待に胸を躍らせてヒーローメモリーを握りしめ、ベッドの上で横になった。
精神を落ち着かせるように深く深呼吸し、瞼を閉じる……。
そして目を再び開けた時、俺の目の前の景色はがらりと変わっていた。
そして、俺はここで……
今まで以上の大苦戦を強いられることになった………。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
途切れ途切れに息を吸い込んでは吐き続け、俺は変身した状態で近場の壁際に飛び込むように入り、身を隠した。
背中を壁につけ、壁際から顔を少しだけ出して、俺が走って来た方向に視線を向ける。
そこに広がっているのは、広大に広がる人っ子ひとりいない戦場のような殺風景な町並み、辺りの壁は弾痕の跡があったり、爆発により吹き飛んだようにバラバラになっていたりと物々しい雰囲気を放っている。
「くっそ……一体どっから攻撃して来てるんだ?」
俺がこの戦場跡地の様な街並みを走り抜けてきたのは敵の攻撃を斬り抜けるためだ。
現に俺は恐らく、今も狙われている……。
こうしている間にも、俺を狙っている何者かは俺に照準を合わせているかもしれないと思うと、ぞっとする……。
最初に俺が攻撃を受けたのは、この世界に来てそんなに時間が経っていない時だった…。
俺はこの世界に来るなり、すぐさま変身して今回の修行相手がだれなのか半ばワクワクした状態で待っていたのだが…。
「……出てこないな」
いくら待てども相手は出てこない、こうしている間にも時間は無情に過ぎて行くと言うのに、どうしたものかと悩み始めた、その時だった。
「……?」
ふと、俺があたりをきょろきょろと見渡しているとそれは唐突に目の前に落ちてあった…。
「こ、これは………!」
そう、お年頃な健全で思春期な男子には溜まらないであろう、所謂そう言うたぐいの“お宝本”、しかも俺のような三次元の女の人にはなかなか手を出せない部類の人間には溜まらない、漫画形式の二次元好きにはたまらない一品!
健全な18歳以下の少年は見てはいけないと記されたマーク。
だがしかし、俺はもう18歳を超える手前の年頃、もうちょっとすれば19歳一歩手前だからよってセーフなはずだ!
うん、そうだきっと健全だ! 大丈夫だ!
それにしても、なぜこのような物が落ちているのか、俺は暫しその場で考えたのだが……。
(……まあ、まだ誰も来ていないし……)
と言う、浅はかな考えでそれを手に取った…。
俺は常々、この時の俺を殴りたいと思った事はないだろう……。
つい間が差した、そんないい訳では通用しない………。
なんせ、俺がそのお宝本を手に取った時……。
「……ん?」
その本に仕掛けられた糸状の何かが、引っ張られ、その先に取り付けられた手の平大の大きさの無骨なシルエットをした何かのピンを外したのだ……。
あの形状は……確か……。
「手榴弾!?」
それから数秒後、俺のいた辺りはとてつもない爆風で吹き飛ばされた……。
あんな卑劣な罠に引っかかるとは、俺のバカ…。
変身してたからいいものの、下手すれば一撃で爆死だぞ…。
その後はそれをスタートの合図にしたかのように至って普通に攻撃され始めたんだけど、その攻撃方法も問題だった。
相手がどこから攻撃しているのか分からないんだ……。
今までなら、俺の目の前に突然現れてバトルを開始するのが普通だったのに、今回はそれがない。
あの罠によって発生した爆発以降は一つの攻撃方法に絞られたけど、それがより一層厄介だった…。
――――チュンッ!
「いっ!?」
そう、こんな感じ。
つまりは遠距離からの“狙撃”だ。
どこからか飛んで来た弾丸は俺の顔面すれすれを横切って、壁にめり込んだ…。
もしこれがあと数センチずれていたら、俺の頭に直撃してただろう。
当たってもヘルメットはしているから死ぬ事はないにしても、大ダメージは免れないはずだ。
しかも、銃声が聞こえないのが一番厄介だ。
サイレンサーかなにかで音を消しているようで銃声を頼りに探す事も出来ない。
唯一の手掛かりは弾丸が飛んできた方角だけ。
でも、どの程度の距離にいるのかが分からないから探すのも一苦労だ……。
後ろから飛んで来たというのは分かるんだけど……、くそ、ここからじゃ丸見えなのか?
回り込んだにしてもいくらなんでも移動が速すぎるだろ! さっきまで俺を追いかけるように打っていたはずなのに、なんで…。
とにかく、身を隠しながら相手が誰なのか探らないと!
「……また移動を開始したか……しかし、いくら移動しても無駄だ」
彼はそう言うと、宗谷の様子を目で確認しつつ、手に持っている銃に弾丸をもう一発装填、次の銃撃に備えた。
あの様子だと、恐らく自分の位置は分かっていないだろう、まさか自分がこんな所に隠れているとは予想すらしていないはずだ。
「それにしても、あの少年……あんな分かりやすいブービートラップに引っかかるとはな、性欲を持て余しているようだな」
彼は宗谷の最初の失敗を思い出しつつ、そんな事を呟いた。
やれやれと頭を振りつつ、持っているサイレンサーを装着させた銃を構え、照準を合わせる。
狙っているのは、宗谷の足もとだ。
そして、伝説の傭兵と呼ばれたその男は息を殺し、照準をぴたりと合わせ、引き金を引く…。
まるで蛇が狙った獲物のネズミに牙を立てるように……。
宗谷が精神世界で新たな修行に挑んでいるころ、外の世界では…。
「ふむ……やはり、この事例はみっかはかけて処理しないと片付きそうにありませんね……」
体の大きさは変わっても、相変わらず処理速度の遅さは変わらないイストワールが食事用のテーブルの上に広げたモニターを眺めながら今日、教会に届けられた仕事の始末に追われていた。
既に夜遅いが、今日の内に一通り目を通しておかないと気が済まないのが彼女の心情である。
しかし、もう時間も遅いのも確かだ。
コンパとアイエフの二人は今日の仕事を終え既に自宅に帰宅し、ネプテューヌとネプギアの二人は寝る前のお風呂を楽しんでいる頃だろう。
そろそろ自分も明日に備え眠るころだとモニターを閉じたイストワールはぐっと背伸びをした…。
「宗谷さんは……まだメモリーワールドでしょうか?」
ふと、今頃自室で自身の修行に挑んでいるであろう彼の事を思い浮かべつつ、イストワールは以前の自分の事を何気なく思い返し始めた。
それはここ最近で起きた、彼との出来事…。
仮面ライダーのメモリーワールドに宗谷とベールと共に飛び込んだ時。
宗谷がボロボロになりながらも必死になって叫んでいる時、自分は敵の手に捕らえられ、なにも出来ず半ば諦めかけた…。
しかし、宗谷はその窮地をも覆し、ヒーローと共に再び立ち上がり、自分を助け、メモリーの危機をも救った…。
謎の戦士と宗谷とネプテューヌ達が戦っている時。
光線が宗谷に向かって放たれた時、自分にできる事はとっさに彼を庇う盾になる事だけだった……。
異世界から来た青年と出会った、あの日もそうだった。
ニャーラトホテプと呼ばれるあのモンスターと戦っている時も、彼は自分の元に駆けつけてピンチから救ってくれた……。
いざという時に駆けつける、“正義のヒーロー”。
まさにそのような表現が似合うであろう彼、しかし、どうにもイストワールにはそれが申し訳なくて仕方なかった。
何故か戦える力を手にしてしまった彼女、しかしそれをまだ完全に使いこなせないまま、未だに彼に頼りきり。
彼女にはそれが歯痒く感じて仕方がなかったのだ……。
(私の中には、今までの私にはなかった“新しい力”、モード・アクティブがある……でも、それを持っていても、私は彼に助けられてばかり……)
誰かを守ろうと必死になる宗谷、その後ろ姿がイストワールの脳裏に浮かび上がる。
やがて、その後ろ姿がどんどん見えないほどに遠くなって行って……。
(なぜ私は……置いて行かれたくないと感じているのでしょう……)
宗谷が誰かのために、矢面に立ち困難に立ち向かっていく。
彼がそう言う人間だと言うのは、もうよく知っている。 でも、彼女にはそれが逆に不安で仕方がなかった。
どんどんと力を増していき、先に進んで行く宗谷、でもそんな彼でも乗り越えられない何かがあった時、自分はただ見ていることしかできないのだろうか?
もし、本当にそういう場面に遭遇した時、自分は見ていることしかできないのだろうか?
「そんな事は絶対に嫌です……そんなの、見たくありません……」
目の前で彼が傷ついてく、そんな光景を目の当たりにしていながら、自分は何もできない…。
彼女は俯きながら、その思考を振り払うように頭を左右に振る。
丁度その時、リビングのドアが開きそこから風呂上がりで髪を湿らせたネプテューヌとネプギアの二人が入って来た。
「ふぅ~、身も心もすっきりさっぱり~♪」
「あ、いーすんさん。 お先です、お風呂開きましたよ?」
「あ……はい、分かりました……それじゃあ私もお風呂、いただきますね」
作り笑いを顔に浮かべて二人の横を通り過ぎたイストワールは、風呂場へと向かった。
「……ねえ、お姉ちゃん、いーすんさん何かあったのかな?」
「ん? なんで?」
脱衣所で手早く衣服を脱ぎ、身につけていた下着を洗濯かごの中に入れたイストワールは風呂場に入るとシャワーの取っ手を捻り、温水を頭からかぶりながら項垂れる。
風呂に入れば自然と心も落ち着くかと思っていたのだが、どうにもそうはいかないらしい。
彼女の中には今も悩みが広がるばかりだった…。
「………私は、どうしたらいいんでしょう」
この靄を振り払うにはどうすればいいのか分からない、彼女はただただ悩み、ただただ呟くばかりだった。
一糸まとわぬ彼女の裸体に適度な温度の水滴が伝う。
しかし、それでも彼女の悩みは流される事はなかった…。
風呂に入り、寝間着に着換えたイストワールはこの後どうするか考えた末、とある一室に足を運んだ。
本来なら、このまま自室に戻って眠るのが妥当なのだろうが、今の思考状態では眠れそうにない。
そのせいか、次第と自分自身の答えを求めた彼女は導かれるようにこの部屋を訪れた。
問題の彼、天条宗谷の部屋だ。
異世界から来たその人物は今、ベッドの上に倒れ込みまるで眠っているかの様に瞳を閉じたまま微動だにしない。
イストワールはそっと、彼の元に近づくとベッドの横に座り彼の顔を見つめる。
「……宗谷さん、あなたは何を見ているんですか?」
そっと、彼の手を自分の手で包み込むようにして握り、呟く。
「……私には、なにも見えません……本来、史書の役目しか持っていない私には、何も分かりません……なぜ、今あなたを見ていてこんなに苦しいのか……あなたに置いて行かれると考えたら、なぜこんなに怖くなるのか……私には分かりません……私はどうしたらいいんですか?」
目尻に涙を浮かべ、ぽつぽつと呟く彼女の問いに彼が答える事はなかった。
当然のことだとイストワールは理解していた、たとえ彼が起きていてもこんな問いに答えてくれるかどうかも分からないと言うのに…。
ただ何故かそれでも、言わずにはいられなかったのだ…。
溜めこんでいるのはもう、耐えられないのだ…。
本来自分が持つ事のない力を手にしてしまった理由、その答えを見つけられない彼女は苦悩するばかりだった……。
「………宗谷さん」
すると彼女は突然宗谷の眠るベッドの上にゆっくりと身を倒し、宗谷の隣に身を預けた。
そっと彼に寄り添い、右手を彼の胸の中央、丁度心臓のあたりに置く。
「………温かい……それに、ちゃんと動いてるんですね」
呼吸に合わせて上下する彼の胸、僅かに伝わる心臓の鼓動。
彼女は今、すぐそばに彼の存在を認識していた。
それが何故か靄に包まれる彼女の心にほんの少しの安心感を与えてくれた。
これで何かが解決されたわけでもない。
それでも、彼女はもうしばらくこうしていたいと思った。
彼をすぐそばに感じていられる、そこから得られたこの安心感をもっと感じていたいと思ったからだ。
そして、次第にそれに釣られて彼女の思考がまどろみ始め――――――
「………んぅ……?」
不意に違和感を感じたイストワールが身を起こした。
眠気を払うかのように寝ぼけ眼を擦り、瞼を持ち上げてゆっくりと辺りを見渡す。
そして、
「………へ?」
目を疑った。
そこは四方に囲まれた部屋の一室などではなく、だだっ広い野原だったのだ。
遠くには小さい規模だが建物がいくつか見え、自分のすぐ後ろには大きな木があり心地いい木影を作ってくれている。
空も夜ではなく、明るく、昼ごろのように感じた。
その中で一人、ポツンと座りこんでいる彼女は今何が起こっているのか分からないまま、首を傾げるばかりだった。
「これは……一体、どういう……?」
そっと立ち上がった時に気付いたが、いつの間にか服装も寝間着ではなく教会にいる時の教祖としての服装になっている。
ますます訳が分からなくなった彼女は頭を疑問符でいっぱいにする。
「……もしかして、夢?」
むしろそれ以外考えられないのでは、と言う思考から彼女はそのような答えに辿り着いたのだが……
「夢じゃないよ」
唐突に聞こえた自分の答えを否定する声に反応し、振り返ったイストワール。
そこにいたのは、さっきまで自分の側にいた彼と同じように黒い服で身を包み、背中に二本の剣を携えた一人の人物がいた。
「宗谷さ……じゃ、ないですよね?」
「確かに同じ黒い服だけど、残念ながら違うよ……俺はキリト、宗谷にスキルを渡した奴らの一人だ」
「あなたが……?」
突然すぎる出会いに驚くイストワール、こくりと頷いたキリトはトレードマークにもなっている黒いコートを翻して、数歩歩き出した。
「付いて来てくれ、あんたに会いたがってる人がいるんだ」
俺がこの世界に来てどのくらいたっただろうか、未だに肝心の相手は一向に現れず、今も尚、俺はどこからかの狙撃を受け続けている。
止まることなく走り続け、どこかで足を止めて辺りの様子を探ろうとした瞬間、弾丸が飛んでくる。
その繰り返しがもう何時間も続いている…。
一体どこから撃ってきてるんだ……。
もう、訳わかんなくなってきた……。
俺は近くの廃屋の中に避難し、息を整えながら思考を整えようとするがいかんせんうまく頭が回らない。
このままこの状態が続いたら修行事態一向にらちが明かないままだ。
なんとかして相手の正体だけでも見つけないと……。
せめて、居場所さえ掴めれば………。
「居場所さえ……分かれば…………あ、そうだ」
その時、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。
俺の持つスキルリンクの中にある、“あのスキル”を使えばもしかしたら相手の位置が分かるかもしれない!
でも、これはある意味一か八かの手段だ。
もし間違ったら弾丸が俺の体に雨のように降り注ぐかもしれないと言う危険性もある。
「………だけど、このままの状態より断然マシだ!」
俺は決意を固めると一度仕舞っていた赤剣をベルトから呼び出して握り、廃屋の外に出た。
周りには今出てきた廃屋以外、身を隠すような場所もない。
深く息を吸って、辺りを一度見渡してから、画面をタッチしてスキルを発動する。
『Skill Link! Hidan no ARIA』
発動したスキルは、“スキル 緋弾のアリア”。
このスキルはあまりにも特徴的なため使うタイミングが難しかったスキルだ。
その能力は、“反射神経、思考力、判断力の驚異的な向上”、つまりめちゃくちゃ感覚が鋭くなる能力だ。
この能力が発動すれば、遠山キンジの“ヒステリアモード”のように脳内がクリアになり集中力が研ぎ澄まされて、いろんな事が“視える”ようになる。
それによって普通なら絶対に出来ないことを平然とやってのけるようになる。
そう、例えば……
「っ!」
サイレンサーか何かで抑えられたごく僅かな銃声を元に、それがどこから飛んできているか推理し、回避する事も造作ではない。
そして、はっきりと視えた弾丸の放たれた角度から敵が今どの位置にいるのか割り出す事もできる!
「そこだ!!」
俺はスキル 緋弾のアリアによって割り出す事が出来た弾丸が放たれた位地、俺の“すぐ後ろに無造作に置かれていた段ボール箱”めがけて飛びかかり、赤剣を振り下ろす!
今まで俺は遠距離からの狙撃で攻撃されていると思っていた、でもそれは違う、全くの間違いだった。
相手は遠くじゃない、すぐ近くにいたんだ。
だから俺が移動しても、すぐに追いついて銃撃する事が出来たんだ。
赤剣の刃が当たる瞬間、段ボール箱の上が開き、中から出てきた何者かが俺の赤剣にギラリと光るサバイバルナイフを叩きつけた。
「………いいセンスだ」
「なるほどな、そう言うことだったのか………会えて光栄ですよ、“ソリッド・スネーク”!」
俺はギリギリと刃を合わせながらもダンディズムな口髭を蓄えた口元をにやりと笑わせる伝説の傭兵、“メタルギアソリッドシリーズ”の主人公、“ソリッド・スネーク”にこの時やっと挨拶を交わした。
左手に持っていたナイフで俺の赤剣を押し返しつつ、スネークが右手に持っていたサイレンサー付きの拳銃を至近距離で俺に向けて構えた瞬間、俺はすぐさま後ろに跳んで距離を取り、赤剣を左右に切り払ってから再び刃をスネークに向けた。
「予想してませんでしたよ、まさか今まで段ボールの中に隠れて俺のすぐ近くにいたなんて……しかも使ってた銃はスナイパーライフルじゃなくて、サイレンサー付きの拳銃……すっかり騙されました」
「段ボールを甘く見ない方がいい、俺はこのアイテムと共に数々の戦場を潜り抜けてきたからな」
スネークはそう言うと、拳銃を腰にあるホルスターに押し込み、ナイフも仕舞うと背中に背負っていた何かを両手に構え、銃口をこちらに向けた。
「しかし、見つかった以上は俺も全力で行かせてもらう……」
それは、武骨なシルエットをした黒くて拳銃よりもはるかに長い銃身を持つ武器。
拳銃なんかと比べ物にならないくらいの連射力と威力を誇る、“アサルトライフル”だった。
「ショータイムだ!」
一方その頃、突然見ず知らず場所に来てしまったイストワールはかつて宗谷の修行の相手を務めたと言う黒ずくめの少年、キリトに連れられて心地よい風が吹く森の中を進んでいた。
「あの、ここは一体どこなんですか?」
「ああ、そう言えばまだ説明してなかったな……ここはオリジナルの俺のいた世界“ソードアート・オンライン”の世界を元に作られたメモリーワールドだ」
「ここも……メモリーワールド……」
キリトが簡潔に説明聞いたイストワールは周りを見渡しながら歩を進める。
湖のほとりに沿って作られたと思われる足場を歩く二人、風に吹かれて木の葉を揺らめかせる木々達と、同じように風に揺られて湖面を揺らす綺麗な湖。
一瞬見とれてしまうような風景を見ながら、イストワールは前を歩くキリトにまた声をかける。
「私に会いたいがっている人と言うのは?」
「あー……まあ、その人とは実際に会って話してくれ……実を言うと、俺も何を考えているのか分からない」
キリトは悩ましげに頭を掻きながら答えると、親指であるものを指した。
その先にあったのは木で造られた一軒の家だった。
大きすぎず、小さすぎず、丁度家族一世帯分くらいが余裕で暮らせそうな大きさの家にたどり着いたイストワールはキリトに導かれ、おずおずとその玄関口にまで足を進める。
遠慮がちに渋るイストワールに変わって、キリトがその家のドアノブを回しその中に足を踏み入れる。
「お~い、“アスナ”~、連れてきたぞ~?」
その声に反応したのか、家の奥の方から急ぎ足の足音が聞こえてきた。
ややあって玄関からすぐ近くに見えるドアが開き、その奥から一人の女性が出てきた。
「おかえりキリト君、本当に連れてきてくれたんだね!」
「タイミング良くて助かったよ、本当なら外に出て彼女をあいつの部屋に連れて来ようかと思ってたんだけどな」
アスナと呼ばれた茶髪の女性は嬉しそうな笑顔を浮かべながらキリトを出迎えた。
整った顔立ちに、スタイルもいいその女性は白のタートルネックに赤いスカートと言うシンプルな服装をしている。
どうやらこのアスナと言う女性に呼ばれたらしいと理解したイストワールは、キリトの後ろからちょっと顔を出してぺこりと頭を下げる。
「あの……初めまして、私は……」
「イストワールさんですね、いらっしゃい! さあ、立ち話もなんだから入って入って!」
「え? 何故私の名前を………わわっ、ちょ、ちょっと待ってください!」
彼女を見るや否や、アスナはイストワールの手を引いて奥の部屋へと連れて行ってしまった。
一人置いてけぼりにされたキリトは小さくため息をつくと、右手を振ってSAOの世界ではやたらにお世話になっていたメニューウィンドウを開くと、装備をいったん解除して軽装に着替える。
「まったく……何を考えてるんだ?」
一体アスナが何を考えているのか分からないキリトは自宅へと足を踏み入れ、二人に続く形で部屋の中へと足を踏み入れた。
アスナに連れられ、部屋の中へと案内されたイストワール。
部屋の中は家の外装と同じで落ち着きのある木製の壁に囲まれた生活感あふれる温かみのある印象を感じた。
「まずはお茶にしましょうか? 少し待ってて、今用意するから」
「あ、あの、それよりも、何故私が呼ばれたのかを……」
「ママ、お手伝いします!」
「………ママ?」
部屋の奥から聞こえた声に導かれ、イストワールが視線をそちらの方に向けるとそこには黒い髪を後ろに流した小さな少女がいた。
少女はイストワールに礼儀正しくお辞儀をしてからアスナの側に歩み寄る。
「ありがとうユイちゃん、でもすぐにできるから気持ちだけで十分よ?」
「そうですか……残念です」
「でも、私とイストワールさんがお話している間、ユイちゃんはキリト君を外に連れて行ってくれないかな?」
「お外、ですか……」
“ユイ”と呼ばれた少女はイストワールとアスナを交互に見た後、すぐに笑顔を浮かべてしっかりと頷いた。
「わかりました、二人だけのお話ですからね」
「うん、だからお願いね?」
「はい!」
そう言われたユイは、すぐさま玄関に通じるドアの方に向かうと、丁度同じタイミングで入って来たキリトの手を取り、外へと引っ張って行った。
「パパ、ちょっとついて来てください!」
「え? お、おいどうしたんだよユイ!?」
ドアが閉められて二人の声がどんどんと小さくなっていくのを、イストワールはただその場に立ち尽くしたまま見つめるしかなかった。
「パパ……ママ……それってどういう……」
「あの子は、私とキリト君の娘なの」
「お、お子さんですか!? ………と言う事は、お二人は……」
「はい、夫婦です♪」
薬指にはめてある指輪を見せながらそう言ったアスナに、イストワールは驚きの表情を隠せなかった。
下手をすると二人は見た目的に考えて宗谷より下の可能性もある、それなのに既に子持ちとなれば驚くのも無理はないだろう。
「でも、ちょっと特殊な関係で本当はユイちゃんとは血の繋がりはないんだけど…」
「そ、そうなんですか……」
そう説明されたものの、それでも二人が夫婦と言う事実にはまだ驚いたままの彼女。
動揺する、イストワールに優しげな笑みを浮かべつつアスナがティーポットと二つのカップを持って彼女の横を通りすぎた。
それらをテーブルの上に並べた彼女はそっとソファの上に腰かけ、イストワールも座るように手の平を上に向けてソファを指す。
それに誘われてイストワールがソファの上に座ると、アスナは慣れた手つきでティーカップの中にお茶を注ぎ始めた。
その姿は何とも絵になると言うのだろうか、一瞬の間、イストワールは彼女の姿に見入ってしまった。
(素敵な人、ですね……)
こんな人物がこの若さで結婚、しかも血縁関係はないが子持ちという事実には驚いたが、その姿はまさにその風格があるようにすら感じる。
お茶が注がれたカップがイストワールの前に差し出され、イストワールはそっとそれを手に取った。
「………いただきます」
そう言って、一口飲むと、口の中に爽やかでほのかな甘みと紅茶の様な優しい香りが広がった。
「おいしいですね、この紅茶……」
「紅茶とは少し違うんだけど、自慢のブレンドですから。 口に合ってよかった♪」
イストワールの感想を聞いて嬉しそうに笑みをこぼすアスナに釣られて、イストワールも頬笑みを浮かべた。
おいしさのあまり無意識にもう一口を飲んだ時、イストワールははっと思い出したようにティーカップをテーブルの上に置いた。
「って、和んでる場合じゃなくて! ……あの、教えてください、何故私がメモリーワールドに呼ばれたんですか?」
イストワールの問いかけにアスナは表情を真剣な物に帰ると、同じようにティーカップをテーブルの上に置いた。
「……実は私、前からあなたの事をこの世界から見ていたんです」
「私の事を……ですか?」
帰って来た返答にイストワールは謎を深めるばかりだった。
既に役目を終えたヒーローメモリーの中にいた彼女が、何故自分の事を見ていたのか?
なぜ、宗谷でなく自分が呼ばれたのだろうか…。
その謎に答えるように、アスナは静かに、しかしはっきりと通る澄んだ声で言葉を続けた。
「イストワールさん、私と
剣の刃の如く鋭い眼光がイストワールを捕らえ、イストワールはこの時の彼女に今までにない迫力を感じた。
これが、宗谷と伝説の傭兵の出会い………。
そして、イストワールと閃光のアスナの出会い………。
いかがでしたか?
次回、宗谷とスネークの戦いは激化!
さらに、イストワールの剣とアスナの剣がぶつかる!
それではまた次回で、お会いしましょう…。