今回はシリアス重視、宗谷の過去も少し出てきます。
それでは、どうぞ…
「皆さん、お待たせいたしましたわね、我が家のホームパーティーにようこそですわ!」
そう言って俺達に笑顔を向けるベールの後ろには豪華絢爛なさまざまな食べ物が並べられたテーブルが置かれている。
部屋も一目でわかる通りここに来た時よりもきれいに掃除されていて塵ひとつ見当たらない。
当然だ、紆余曲折あったがみんなで頑張って掃除したんだぞこの野郎。
「ベールはほとんど何もしていない……」
「やめましょう、言っても虚しいだけよ…」
ノワールが若干うんざりした感じで答えるも、これはほぼブランの言う通りだ。
ベールは俺たちが準備を終えるまでゲーム部屋に閉じこもってたんだからな……。
まあ、こうして無事にホームパーティーを開けたから良しとしておくべきなのか……。
いや、やっぱりどこかで見返りを要求するべきか……。
「そういえば、立ち眩みしたんだって? 大丈夫?」
「え? ……うん、もう平気だよ」
俺がそんなことを考えていると隣にいたネプテューヌがネプギアのことを心配して彼女の体を気遣っていた。
俺もいーすんに聞いたんだが、突然ネプギアは立ち眩みに襲われたらしい。
なんやかんやで疲れが溜まってるのか?
「無理せず、しんどかったら言えよ? ネプギア」
「はい、わかりました……そういう宗谷さんは大丈夫なんですか? ほっぺた…」
「気にしないでくれ、名誉の負傷だ……」
「宗谷さん、一体何が……?」
「聞かないでくれ、いーすん……」
自分の体よりも他人の体を気遣うネプギアの誠心といーすんの心遣いは感謝するけど、これにはあまり触れてほしくない…。
掃除の時に現れた奴は何とか退治することができたが、その代償として俺の頬に真っ赤な手形マークがきれいに浮かび上がることになった。
原因は、言わずもがな……
「ふん……当然よ、あんなことしたんだから……」
「正直すまんかった、でも後悔はしていない」
「もう一発いっとく?」
「ごめんなさい!」
さっきよりも明らかに不機嫌になったノワールに今度は半殺しにされそうなのでこれ以上は自重しておくことにしよう。
いやぁ、しかし……なかなかできない体験をしたぜ……。
「この際細かいことは水に流して、皆さん今日は遠慮なく食べて、飲んで、騒ぎましょう! 今日のために特別なゲームも用意してありますわ♪」
あの時のことを思い出そうとする俺の思考を遮るように、ベールが突然そう切り出した。
特別なゲーム? いったい何だろうか、少し興味があるぜ。
「お~! なになに!?」
「説明するより、見せた方が早いですわね……ネプテューヌとノワール、それと宗谷の三人は少し後ろに立ってくださいな?」
「ほいな!」
「え、なに?」
「俺もか? ラッキー♪」
俺と同様、いや明らかに俺以上に興味津々なネプテューヌに急かされ、ベールは早速ゲームの準備に入った。
ゲームってだけで本当に目の色を変えるなぁ、ネプテューヌは……、まあ、俺も好きなんだけどさ。
しかし、俺も呼ばれたがいったい何が始まるんだ?
俺達三人はベールに言われた通り、みんなより少し離れた後ろの方に移動する。
すると、ベールは俺たち三人が並ぶ場所の前にカメラのようなものを内蔵した特殊な機械を置いた。
なんかこの機械フォルム、俺の世界のどこかで見た気がするぞ?
「では、華麗に戦ってくださいまし♪」
そう言ってベールは間髪入れず手に持っていたコントローラーの中央にあるスイッチを押した。
すると、コントローラーの信号をキャッチした機械から光が投射されはじめ、俺達を包みこみ周りの風景も光に包まれる。
次に周りの景色を見た時、そこはまさに別世界だった。
一瞬、俺はヒーローメモリーの修業を始めたのかと勘違いするほどだ。
「わぁ~! すごーい!」
なんと周りの景色が森の中の風景に変わってしまったのだ。
しかも、それは本物と見間違うくらいにリアルでSAOの世界にでも来たかのような感じだった。
これが所謂、ヴァーチャルリアリティというやつなのか?
「あ、ねぷねぷが……」
「宗谷さんの姿も……」
そして、驚くことがもう一つ………
「ねぷっ!? スライヌになってる!」
「こ、これ……私なの!?」
「な、なんじゃこりゃ!?」
なんと、俺たちの姿がモンスターの姿に変身していたのだ!
いったいどういう仕組みなんだ!? ていうか、今の俺たちの本当の体はどうなってんだ!?
え、なんか怖いんだけど!?
「三人の動きを特殊なカメラで読み取って、立体投影しているのですわ。 なかなかの技術でしょう?」
驚く俺達にベールはそう言って補足をつけてくれる。
なるほど、つまり俺たちの体はあの機械から投影されている立体映像によってモンスターの姿のように見えているのであり、本当に体がモンスターになったわけではないのか…。
理解したらちょっとほっとしたぜ。
………ほっとしたんだけど………
「なあ、ベール……二人は普通のスライヌなのに、なぜ俺だけヒールスライヌ?」
「あら? 触手系はお嫌いですか?」
「いや、まあ……嫌いじゃないけど、自分でなるのは……ちょっと……」
俺が変身したのは“ヒールスライヌ”。
特徴的には某有名RPGに出てくるホイミが得意なスライムのスライヌ版だ。
極端に言うと頭に相当する部位の下に触手がうねうねついているやつ…。
ていうかベール、なぜ俺が触手プレイがそんなに嫌いじゃないというのが分かった?
ちなみに、ネプテューヌのスライヌ、通称ネプライヌは薄い紫色の体にネプテューヌの髪がついている感じ。
ノワールのスライヌ、通称ノワスライヌは灰色にノワールのツインテールがついている感じだ。
二人ともよく特徴が出ていてわかりやすいし、ちょっとマスコットキャラみたいで愛くるしい。
俺なんか、赤色で頭に黒髪ついた触手スライヌだぜ?
かわいいと言ってくれる人なんかいないよ、きっと……。
神様、これは罰なのか? ノワールの魅惑のスカートの中に顔を突っ込んだ罰なのか?
俺だって息できなくて死にかけたんだぞ神様!
「結構かわいいですわよ、宗谷♪」
「宗谷さん、大丈夫です、どんな姿になっても宗谷さんは宗谷さんですから!」
「………自信をもって、だから泣かなくていいのよ?」
「ベール、いーすん、ブラン……気休めなのかもしれないけど、ありがとう」
畜生! 目から汗が止まらないぜ!!
「要するに、このかっこで私は二人と戦えばいいんだね! よ~し! やいノワスライヌとヒールソウヤライヌ! ねっぷねぷにしてやんよ~!」
「え、なによノワスライヌって?」
「俺の名前語呂悪っ!?」
「てぇい!」
「ひゃあっ!」
「おわっ!」
話を聞いたネプテューヌが言うが早いか、さっそく俺とノワスライヌに連続攻撃を仕掛けてきた。
突然の奇襲に俺たちは対応しきれず、ネプライヌのタックルをまともに貰ってしまった。
「わ~い! ポイント先取~!」
「私を怒らせたわね! 行くわよソウヤイヌ、二人でネプライヌを懲らしめるのよ!」
「あ、ちょっと俺の名前語呂がよくなった!」
そんな感じでノワスライヌと打ち合わせをして、俺たちはタッグを組んでネプライヌに突撃するも、まだうまく体の使い方を理解していないせいか、俺たちの攻撃はあっさりと回避され俺とノワスライヌは派手に転んでしまった。
う~む、なかなか難しいな……。
ていうか、すっかりスライヌの体を使いこなしているネプテューヌ、順応早すぎないか?
「や~い、逆さノワイヌにクラゲソウヤイヌ~!」
く、クラゲ!?
さすがにひどいだろそれは!!
そっちがその気なら、こっちも徹底的にいくぜ!
「ノワライヌ! 俺は回復役に周るからお前は全力でネプライヌにぶつかれ!」
「……わかったわソウヤイヌ! あなたの仇も打ってくるから!」
「何人たりとも私を止めることはできないよ! 回復なんて無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」
「ちなみにもっと実戦寄りのシュミレーションモードもありますので戦闘用の訓練にも使えますのよ?」
「すごい…」
「面白そう……」(わくわく
「実戦に使えるのなら効率もよさそうですね」
「私もやりたい!」
「ええ、存分に遊んで行ってくださいな♪」
ヒートアップする俺たちの横でそんなやり取りをするベールと女神候補生のみんな+いーすんたち。
こんな感じの騒がしいスタートであるが、今日行われた“楽しい時間”は始まりを迎えた。
ただ、この後……
………この楽しい時間が嘘のように思える、“最悪の時間”が来ることを、俺は……俺たちはまだ知る由もなかった……。
リーンボックスから少し離れた海域にある離れ小島、そこで一人、ローブを体に纏った一人の人物と、ボートに乗ってこの離れ小島にやってきた、あのネズミが合流していた。
女性の方は、切れ長な目つきにローブの下に何やら物々しい服を着ている。
女性はネズミの姿を見つけるや否や、切れ長な目つきをさらに鋭くしてネズミを睨み付けた。
「遅い! 計画を台無しにするつもりか!?」
「ちゅ~…これでも精一杯急いだっちゅよ! 余裕のないスケジュール組んだおばはんがわるいっちゅ!」
「ぐっ……雇い主をおばはん呼ばわりするのはやめろと何度言えば……」
気に食わないと言いたげに眉を曲げる女性、しかし、それ以上怒鳴る様子もなくネズミを見下ろす。
「……まあいい、ネズミ風情にいちいち腹を立ててはいられん。 例のものをよこせ」
「わかってるっちゅよ、ほら」
怒りを鎮めた女性に言われるがまま、ネズミは腰のポーチから出したあの赤い十字型の小石を取り出し、彼女に手渡す。
女性はそれを手に取ると、にやりと口元に笑みを浮かべた。
「ふっ……これで、四つ揃った……おい、お前たちの方も準備はできてるのだろう?」
女性は後ろの方に視線を送りながらそう言うと、後ろに生えていた木の陰から、二人の人物が姿を現した。
エネミーとロボティックの二人である。
二人は女性の前に立ち、頷いて肯定の意思を示す。
「もちろん……既に、用意してある……」
「お誂え向きな選ばれし精鋭部隊を用意したったで? 損はさせんから、安心しとき」
「………一応は期待しておく」
女性はそういうと、遥か彼方に輝く太陽が沈んでいく水平線の方に視線を向ける。
「準備は整った、今夜……世界というゲームのルールが、塗り替わる……」
怪しげに呟いた女性の声、そしてその言葉に続くように日は沈み、やがて………夜が来る。
パーティーで催されたベールの新型体感ゲームにどっぷりはまった俺達、みんながいろんなモンスターに変身してスマブラ並みの大乱闘を繰り広げていた。
ちなみに、あのゲーム人によっては“大乱”とか“スマブラ”って呼び方に分かれてるけど、この場合どっちの方が多いのだろう?
俺の場合は断然スマブラだ、そっち方が語呂がいい。
「さあ、ヒールスライ宗谷さん覚悟してください!」
「いーすんその呼び方の語呂が悪すぎると思うんだけど!?」
「ヒールそうやおにいちゃんイヌかくごー!」
「かくごー♪」
「ロムちゃんとラムちゃんもせめてノワールを見習って!?」
………うん、やっぱり語呂って大事。
と、回復役に徹すると決めた俺はそれを見越して襲い掛かってきたいーすんとロムちゃんとラムちゃんが変身したモンスターと大乱闘を繰り広げていた。
まさか、いーすんまでゲームに参加するのは予想外だったが……楽しそうだし別にいっか。
みんなでわいわいきゃいきゃい騒いでる中、突然部屋のドアがノックされた。
それを聞きつけたベールがドアに近づいてそっとその間から顔を覗かせる。
「なんですの? パーティーの最中に……」
「ベール様、実は……」
「………え?」
………何やら一瞬、ベールの表情が険しいものになった。
どうやら、ただ事じゃない話らしいな……。
「……ノワール」
「ええ、わかってる……」
近場にいたノワールも気づいていたようで、彼女に視線を送るとノワールはゲームのコントローラに近づいてスイッチを押しゲームを終了させた。
それに伴ってモンスターの姿に変身していたみんなの姿は元の姿に戻った。
「何かあったの、ベール?」
元の姿に戻ったノワールがベールに聞くと、ベールは険しいな表情のままドアを閉めて、こちらに振り返った。
「いえ……ズーネ地区にある廃棄物処理場に、多数のモンスターが出現したという知らせがあったのですわ」
ズーネ地区?
確か前にリーンボックスに来た時に調べた地図の情報で、そのあたりのことが書いてあった気がするな……。
俺はすぐさまポケットに入れてあったブイホを取り出し、新しく加わった新アプリを起動する。
その名も“Vマップ”。
あらかじめ入れていた地図情報からその場所に何があるのか、どんな場所なのかを調べることができるアプリだ。 通常の地図に俺の世界でいうWiki先生の機能が合わさったアプリといった方が早いだろうか。
ちなみにこのアプリは以前ブランとベールの共同開発によって作られた衛星写真のシステムを導入して作られたものだ、大まかなプログラミングはベールに頼んで、微調整は俺がブイホで簡単に整えたオリジナルだが、いつでもいーすんと同じで結構使い勝手がいい。
「……ズーネ地区の廃棄物処理場、ここからそう離れてはいない離れ小島だな。 人も処分作業をするとき以外は基本いないほぼ無人島で、人の出入りも少ない場所だ」
「………確か、引き潮の時だけ地続きになると言われているはず」
「おろ、知ってるのかブラン? さすが物知り」
「このくらいは当然の知識よ……褒められるほどでもないわ……」
ブランは俺にそういうけど、文献とかそういうのなしに今すっとその知識が出たのはすごいと思うけどな…。
「モンスターぐらいどこでも普通に出るっしょ?」
「いえ、それはあり得ません。 離れ小島と言っても、その島もリーンボックスの管理を受けていて女神様の恩恵を受けているはずです、モンスターが自ら侵入するというのはあり得ません」
ネプテューヌの疑問に答えたいーすんの言う通り、その島はリーンボックスの管理下にある。
どこからともなくモンスターが入ってくる、なんていうのは普通ないはずなんだが…。
………なんだろうな、妙に胸騒ぎがするぜ。
「その辺に関してはイストワールの言う通りですけど……どうやら事実のようですわね」
ゲーム部屋に入ってノートパソコンを立ち上げたベールが画面を見てそう呟き、確認を終えたためにノートパソコンを閉じて椅子から立ち上がった。
「私、今から行ってきますわ」
「私も行くよ!」
部屋を覗き込んでいたネプテューヌが真っ先に手をあげて自分も着いていくと言い出した、しかし、ベールの方は申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「けど、これは私の国のことですから……」
「こうして私たちもいることだしさ、手伝わせてよ?」
「またお決まりの友好条約を結んだ以上は仲間ってやつ?」
「まあね~」
訝しげなノワールの言葉を笑って流したネプテューヌ。
確かに今はみんな友好条約を結んでいるから、協力関係にある。 ネプテューヌの提案は悪くないものだと俺も思うし、ノワールもああ言っているがおそらく内心はまんざらでもないはずだ。
「私も行く………誘拐事件の恩を返す、いい機会だから………」
「よ~し、じゃあ三人で」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私も行くわよ、あなたたち三人だけじゃ、いつまで待たされるかわからないもの……」
「おお、ソウヤ風に言うと、ツンデレ乙だね」
「なっ……つ、ツンデレ言うな!」
ブランも名乗り出て、案の定ノワールも参加する方針になったな。この流れだと女神四人で行く感じになり、戦力としては申し分ない……申し分ないんだが……
「……わかりました、では四人で」
「ベール、俺も行く」
「え、宗谷もですの?」
俺はベールの言葉を遮るようにして割り込んでそう言った。
すると、それに続くかのように後ろにいたネプギアが一歩前に出た。
「あの、わ、私も行きます!」
「え……あ、あたしも!」
「わたしも!」
「わたしも………」
ネプギアに続くように、女神候補生のみんなが名乗り出て一緒に行こうという意思を示す。
「………あなたたちはダメ、遊びじゃないの」
「え~!」
「ユニも当然留守番よ、あなたまだ変身もできないでしょ?」
「っ………ぅぅ」
ブランとノワールの二人の姉に諭されて、ダメと言われたロムちゃん、ラムちゃん、ユニちゃんの三人は肩を落とす。
まあ、確かに三人はまだ戦いなれてはいない……急に実践と言っても危険の方が大きいだろう。
俺がそんなことを考えていると、ベールから俺に予想外な答えが返ってきた。
「宗谷も、今回はここに残っていてくださいな?」
「え、なんで……?」
着いていくことを拒まれた俺は、あまりのことでその場にきょとんと立ち尽くしてしまう。
「でも、5人いればもっと効率も良くなると……」
「それもそうだけど、ここはベールの言う通り残ってなさい、宗谷」
「ノワールまで……」
俺の言葉を遮ったノワールはどこか鋭い、厳しい目つきで俺のことを見ながらそう言った。
なんだよ、そんな素っ気なく言わなくても……
「……心配なんだよ、お前たちが……何かあってからじゃダメなんだ、だから!」
「これは、あくまで私たち女神の問題よ。 あなた、教会では教祖補佐って立ち位置なんでしょ、なら本来ならあなたの出る幕じゃないの」
「っ………だからって」
なおも俺は追い縋ろうと前に出るが、そんな俺にブランが視線を向けた。
俺はそれに気づき、反射的にブランと目を合わせる。
「宗谷………あなたは、私たちの力を信じられないの?」
「ブラン……」
「大丈夫、そう簡単に私たちはやられない………それに、あなたは誘拐事件の時も二人を……私たちを守るために……自分の身を顧みないで助けてくれた、だから今度はこっちが体を張る番………」
「宗谷、あなたはたまには休むことも覚えるべきですわ、あまり走りすぎてたらいつかエンストしてしまいますわよ?」
「ベール……」
尚も渋る俺を諭すように、ブランは静かに、ベールは優しくそういった。
……俺は別にネプテューヌ達の力はただのモンスターにやられるようなものじゃないってのはわかってる。
ただ、それとは別に、なにか感じるんだ……胸がざわつく何かが、さっきからあるんだ。
「ネプギア、ソウヤ! 大丈夫、ここは任せといて! たまにはいいとこ見せないとね?」
そんな俺と不安そうな表情を浮かべるネプギアの心配を無理矢理叩き潰すかのようにいーすんより、下手したらブランと同じくらい小さいと思われる胸をドンとたたいたネプテューヌと、それに続いて浮かべた四人の自信満々な笑みに、俺たちはこれ以上言い寄ることはできなかった。
「………うん」
「…………わかったよ」
「じゃあ、そんなわけで!!」
「変身!」
教会の外に出た俺たちの目の前で、ネプテューヌの掛け声を合図に四人は女神としての姿に変身し始めた。
光に包まれ、変身を完了させる四人は宙に浮かび上がる。
「ではみなさん、参りますわよ?」
女神化したベール、グリーンハートの言葉に頷いて答えた四人は颯爽と飛び立とうとして身をひるがえす。
「ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベール! ………やっぱり俺も」
「くどいわよ宗谷、ここは私たちだけで十分なの。 ……あなたはイストワールと話でもして待ってなさい」
俺の言葉を遮ったノワール、ブラックハートがそう言い放った。 なぜここでイースンが出るのかは謎だったが、俺は反射的にいーすんの方を視線を向けるも、彼女もよくわからないようだった。
そして、俺はその続きを言おうにも、なぜかうまく言葉が出すことができず……。
「……ソウヤ、心配しなくても、すぐに片づけて帰ってくるから……安心して?」
女神化ネプテューヌことパープルハートがクールな声でそういうと、みんなは一筋の光となって夜の空をかけていった。
みんなはああ言っていたけど……。
俺の中にざわつきはまだ取れていないままだ………。
女神化した四人が向かっている離れ小島、そこでは既におびただしい数のモンスターがひしめき合っていた。
丸いボールのような形をしたマシン系モンスター、“ビット”にそれよりも巨大で三対のウィングを搭載した“R-4”。
マシンモンスターを中心にした大群、その上にある丘でローブを脱ぎ捨て魔女を思わせるようなデザインをした露出が多めの服を着た女性とネズミ、そして三人の影を従えたエネミーとロボティックがモンスターの大軍を見下ろしていた。
「よくもまあ、こんなに雑魚モンスターを揃えたものっちゅね~?」
「でなければ、女神を纏めておびき出すことができないからな……ふふふ、早く来るがいい、女神たち……」
不敵な笑みを浮かべる女性、そこにエネミーが近づいてくる。
「かっこつけてるとこ悪いんやけど、ほんまにもう後は任せてええんやな?」
「ああ、そうだ……貴様らはどこへなりとも消えるがいい……」
「………無愛想なおばちゃんやなほんま」
「何か言ったか?」
「いえ、なんも言ってまへんよ?」
「………やはり気に食わんな、貴様らは!
つい口から出た本音を誤魔化すためにエネミーは作り笑いを浮かべるが、女性は気に入らなかったのか突然手の指をそろえてまっすぐに伸ばし、エネミーの顔面に向かって鋭く突き出した。
しかし、エネミーの後ろに仕えていた影のうちの一人がその手を掴んで受け止め、残りの二人はそれぞれの武器を彼女の喉元に突き付けた。
「………まあ、気に食わんのならそれでもええけど………気を付けろよ?」
突然、いつもの柔和な目元を目つきを鋭いものに変えたエネミーは口調の雰囲気も変えて彼女を睨み付けた。
「こいつらは悠久の彼方で激戦を繰り広げた戦士の生き写し、そいつらの意思は俺のツレのあいつが握っている………こっちがその気になればここにいる雑魚の雑兵どもを一瞬で駆逐できるってことを………忘れるな?」
男口調で話すエネミーの言葉にたじろぐ様子も見せない女性だったが、状況が不利と判断したのか手を引いてエネミーとゆっくり距離をとった。
それを見届けた三人の戦士たちも手を下ろし、エネミーの後ろに回る。
「………今回は邪魔な奴が来た時のためにそいつらを借りたんだ、今は貴様らを敵に回すのはこちらとしても不利益だからな」
「………理解してくれて、おおきに」
目つきを元の状態に戻したエネミーは軽く会釈して答える。
だが、女性は不機嫌そうに目線を反らしたままだった。
「だが、貴様らのことはなぜか気に食わん………根本的にお前達のことを受け入れそうにないほどにな」
「………」
それを聞いたエネミーは一瞬、それが自分の敵意を増大させる能力によるものかと思ったが、どうにもそうではないということはすぐに理解した。
今はその能力をレヴォリューションの“ステータス変化”を使って抑え気味にしてあるからそこまで影響はないはずなのだ。
となると、残る可能性は一つ………。
自分たちという存在の起源。
女神としての自分たちの存在を、彼女は感じ取っているのだろうということだ。
今か自分たちに女神としての力はほぼ皆無に等しいが、女神であった、という事実は消えていない。
それは自分たちがいることそのものが決定づけていることだからだ。
ただ、この際そのことを今気にしていてもしょうがない…。
そのことが事実であっても、女神として今この世界にいるわけではないのも、事実なのだから……。
ネプテューヌたちが離れ小島に向かってから、俺とネプギアの二人は何となく部屋の外にあるバルコニーに出てリーンボックスの街並みを眺めていた。
なぜ、こうしているのか…。
理由は特にないが、ただ黙って待つというのも今はもどかしいだけだしな…。
「………なあ、ネプギア……お前もなにか感じてるんだろ? 不安そうな顔してるぜ……?」
「宗谷さんも……なんですよね、さっきの会話を聞いてて何となく感じてましたけど……」
「まあな………どうにも、ざわつきが収まらないんだ……このまま何も起こらないと、いいんだけどな……」
俺とネプギアはそんなやり取りをしながら、しばらくここに留まっていたが、俺はやはりどうにも耐えられなくなって先に中の方に入っておこうとバルコニーの手すりから手を離した。
「先に中に入っとく、夜の風は寒いから風邪ひかないようにな?」
「はい、ありがとうございます……」
ネプギアにそう言い残した俺は、一人部屋の中へと向かう。
その時、バルコニーに出ようとしてかロムちゃんとすれ違った。
「あ、そうやお兄ちゃん……大丈夫?」
ロムちゃんは俺を見つけると心配そうな目で俺のことを見上げてきた。
……どうやら、今の俺はロムちゃんに変な心配をかけてしまってるようだな。
俺は彼女の不安感を払うべく、笑顔を浮かべてその頭に手を置いて優しく数回撫でてやる。
「俺は大丈夫だ……ありがとうな、ロムちゃん?」
「………おにいちゃん、なんだか辛そうだったから」
「………そうか」
俺はそっと彼女の頭から手を離して、そっとネプギアの方に視線を向ける。
「ネプギアの所に行くのか?」
「うん………」
「………あまり長く外に出るなよ? 風邪、ひいちゃうからな?」
俺はロムちゃんにそう注意するとロムちゃんは小さく頷いて、とててとネプギアの方にかけていった。
俺はそれを見送り、一人部屋の方へと足を運ぶ。
辛そう、か……。
まだ何も起ってないけど、確かにそうかもしれない……。
俺は昔、今と似たようなもどかしさと、胸のざわめきを感じたことがあるからだ……。
この世界に来る前、俺が高校生二年のころだ……。
―――このままこうしてても、どうしようもないだろ!!
―――だからって、あなたに何かあったらどうするのよ!!
―――施設のみんながどうなるよりも断然いいだろ! こうしてても何も変わらない、ならこっちから動かないといけないだろ!!
―――今起きてるのは普通のことじゃないのよ! 本当に死ぬかもしれないのに、ヒーローぶって、あんたはそうやってて楽しいの!?
―――楽しいわけないだろ!! 現にもう二人も死にかけたんだ!!
――—だからこそ警察に任せろって言ってるの! 下手したらあんたも死ぬかもしれないのに、バカなことしないで!!
―――こんなことされて黙ってるお前の方こそバカだろ!? これ以上何かされる前に俺が何とかしてやる!!
―――宗谷! あなたは普通の高校生なのよ? 漫画やアニメや特撮やゲームの主人公なんかじゃないの! 何もしなくていい、こんなことしたってあんたが危ないだけよ!!
―――っ! わかってるよそんなこと!! でも、こうして何もしないのは、俺個人として許せないんだ!!
―――宗谷! 待ちなさいよ、宗谷ぁ!!
………この後、あいつは……恵理は………
俺は昔のことが脳裏にフラッシュバックし、反射的に頭を左右に振った。
俺の中で、未だに残ってる辛い記憶………俺が施設を出ていく決断をした、決定的な出来事の数十分前のことだ。
……あの時、俺が恵理の言う通り施設に留まったままでいたら恵理は死なずに済んだかもしれない……。
俺が怒りに身を任せたから……。
一度、殺意まで覚えてしまったがために起きた……俺の悔やんでも悔やみきれない過ち……。
………だからこそ、俺はもう誰かを失いたくないと思えたんだ。
………もう失いたくない……大切な人を……
だからこそ俺は、この世界で手に入れたこの力を、守るために使うと決めたんだ。
「宗谷さん……」
突然いーすんに呼ばれたことで部屋に入ってくるなりその場に立ち尽くしていた俺は現実に引き戻された。
「あ、ああ、いーすんか……どうかした?」
「……いえ、何か思いつめたような顔をされていたので……」
どうやら、表情に出ていたらしい俺の思考はいーすんにばれていた様だ。
俺は誤魔化すように作り笑いを浮かべると、そっとロムちゃんにしたように反射的に彼女の頭に手を置いてそっと撫でた。
「はわ……!」
その途端、いーすんが急激に頬を赤く染めて体をぴくんと震わせた。
しまった…何も言葉が思い浮かばないから反射的にやってしまった……。
「あ、ごめん……つい……いやだった?」
「い、いえその……そう言うわけじゃなくて…ちょっとびっくりして…」
「……ごめん、なんか反射的に……言葉が思い浮かばなくて……」
「………あの、宗谷さん」
いーすんが何かを言おうとした、その時、俺の耳にアイエフが電話越しに誰かと会話しているのが聞こえてきた。
「そう……わかったわ、ありがとうオトメちゃん」
彼女がそう言って電話を切ったのと同時に、バルコニーに出ていたネプギアとロムちゃんも部屋の中に戻ってきた。
「やっぱり、思った通りだったわ」
「何かわかったんですか?」
部屋に入ってきたネプギアにそう告げたアイエフ、一体何を調べていたのだろうか?
「ショッピングモールで見かけたあのネズミ、見覚えある気がして諜報部の同僚に調べてもらったの、そしたら案の定、各国のブラックリストに載ってたわ……要注意人物、というか、要注意ネズミとしてね」
「やっぱり、そうでしたか……」
「ええっ!? あのネズミさん悪い人だったです!? ……悲しいです」
アイエフの話を聞いたいーすんはどこか真剣な表情になり、コンパさんの方は悲しそうな表情を浮かべる。
どうやら、四人は買い出しに行ったときにその要注意ネズミなる何者かと出会っていた様だ。
「しかも、数時間前にズーネ地区に船で向っていることが分かったの」
「………それってつまり」
「………裏があるってことだな、アイエフ」
「……かもしれないわ」
……どうやら一連のこの出来事も、偶然起きたアクシデントってわけじゃなさそうだな。
俺の中の嫌な予感が的中した気がする。
この事件、このままあっさり解決ってわけにいきそうにないな……。
「それに……気になることがもう一つ……」
アイエフはそういうと、今度は俺といーすんの方に視線を向けた。
「そのネズミが船でズーネ地区に渡る一時間ほど前に、“白い髪をした女性と女の子の二人組”が変な三人組を連れて同じように船でズーネ地区に向かったそうよ……」
「っ!?」
「……それって……まさか」
俺はその話を聞いたとき、ある人物の姿が脳裏に浮かんだ。
隣で話を聞いていたいーすんも同様に驚いている様子だった。
まさか………今回のモンスター騒ぎに、ライラさんとシンシアが関わってるってのか?
……いや、そんなまさか…あの二人はいーすんを助けてくれたんだ。 あの二人に限ってそんなことするはずない……。
そうだ、きっと誰かの見間違いだ。
そう、信じたいのに……。
「今ならまだ引き潮に間に合う……私、ちょっと様子を見てくる」
アイエフが着ている青い上着を翻して、部屋を出ていこうとした時だった。
「あの! 私も連れて行ってください!」
ネプギアがさっきよりも明らかに強い口調で告げた。
いてもたってもいられなくなったのだろう、その眼からは強い意志が見て取れた。
まあ、俺も同じだけどな…?
「え? ダメよ、ネプギアまで危険に晒すわけには……」
「アイエフ……俺からも頼む」
「な、宗谷まで……?」
俺はじっと彼女の目を見て、強く頼んだ。
「あんなこと聞いた以上、気になって仕方ないんだ、それにネプギアが危ない目に合ったら俺がなんとかする……だから頼む、アイエフ!」
「私も、どうしても気になるんです! お願いします、アイエフさん!」
俺とネプギア、二人の言葉が部屋の中に響き、その場に沈黙が走った……。
俺はもう、失いたくないんだ。
だから、俺はみんなの所に行く決意を固めた…。
いかがでしたか?
次回から本格バトルに突入!
コピペロイドがコピーした強敵が、女神の四人と宗谷の前に現れる…。
次回でお会いしましょう、それでは…