超絶次元ゲイムネプテューヌ おーばーどらいぶ!   作:白宇宙

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どうも、白宇宙です!

無事に入学を終えて、時間ができたので最新話をやっとこさ書けました。

今回は、異変が起き始めた宗谷。
いったい、何が起ころうとしているのか…。

それではお楽しみください!

どうぞ……。


stage,40 俺と最初の夜

 

宗谷達がその場に駆け付けた時、パープルハートは不敵な笑みを浮かべてる女性に疑問の目を向け、問いただした。

 

「何者なの……あなたは……」

 

「私の名は“マジェコンヌ”、四人の女神が支配するこの世界に混沌と福音をもたらすものさ……ふふふ…あーーーはっはっは」

 

「そしてオイラは“ワレチュー”、ネズミ界ナンバー3のマスコットっちゅ!」

 

高笑いをあげて自分の名をマジェコンヌと名乗った女性だが、その最中にネズミことワレチューが割って入って説明したのでマジェコンヌは不機嫌そうに眉を曲げた。

 

「ネズミぃ……いいところで邪魔をするな!」

 

「何を言うっちゅか! ラステイションの洞窟と、リーンボックスの海底からあの石を掘り出したのはオイラっちゅよ?」

 

「ふん、そもそもは私がプラネテューヌの森で一つ目を見つけたことから始まったのだ、ルウィーの教会から盗むという大仕事をやったのも私ではないか……それにリーンボックスの最後の一つは、あの小娘からの情報によるものでお前はただ動いただけろうが」

 

自分の手柄だと鼓舞する両者の言い合い、しかしこの内容を聞いていた女神たちは需要な事に気がついた。

 

ルウィーの教会から盗み出され、ラステイションの洞窟で発見されたという二つの石のことである。

 

「ルウィーの教会……ブラン、あの石のこと…」

 

グリーンハートが自分よりも低い位置に縛られたホワイトハートに視線を向けて聞くと、彼女はバツが悪そうな表情を浮かべて口を開いた。

 

「……ああ、知ってる…教会で厳重に保管してたのが、誘拐騒ぎの後行方不明になってた」

 

恐らくは、トリックが起こした誘拐騒ぎに託けてマジェコンヌが盗み出したのだろう。

それを察したグリーンハートはやれやれと言いたげな苦笑を浮かべる。

 

「教えてくださっていれば……」

 

「しょうがねぇだろ! こんなに幾つもあるなんて知らなかったんだよ!」

 

少々声を荒げるホワイトハート、その後ろでブラックハートは以前にラステイションにあるトゥルーネ洞窟でのことを思い出していた。

エンシェントドラゴンと出くわしたあの時、彼女は岸壁に体を叩きつけられた際に力が抜け、女神化が解除された。

幸いにもその時はネプテューヌと宗谷が駆けつけたから助かったが……

 

「まさか……あの時のが……」

 

「ノワール、どうしたの………えっ!?」

 

彼女の考え込むような表情に気づいたパープルハートが彼女に声をかけたとき、突然体が光に包まれ、なんと女神化が強制的に解除され、元の姿に戻ってしまった。

 

「ねぷっ!? 変身が……」

 

そして、ネプテューヌが元の姿になったのを皮切りに、ほかの三人の女神化も次々と解除され始めた。

 

「ふっふっふ……言ったはずだ、結界の中にいる限りお前たちは力を失っていくと…」

 

マジェコンヌの言った言葉の通り、徐々に彼女たちの力は失われているのだ。

女神化が解除されたのも、それ程までにシェアエナジーの力が失われたから…。

 

このままでは四人に勝ち目はない……。

 

 

 

「お姉ちゃーーーーーーーん!!」

 

 

 

不意に聞こえてきた声、それに気づいたネプテューヌが声の聞こえた方角に目を向けると、そこにはいつの間にここに駆け付けてきたのか、ネプギアとアイエフ、さらにはイストワールと変身状態になった宗谷の姿があった。

 

「ネプギア! それに……ソウヤ?」

 

自分の方を見つめ、その場に座り込んでいるネプギアと、対峙する何者か達を睨み付けている状態のままその場に立ち尽くしている宗谷。

そんな二人を見たとき、ネプテューヌは真っ先に宗谷の異変に気付いた。

 

 

 

 

耐えきれず、姉の名を叫んだネプギアの声に反応してかアイエフたちの背後からどこかで待機していたであろうモンスターたちが近づいてきた。

いち早くその気配に気づいたアイエフがネプギアの手を引き、バイクの後ろに乗せようとする。

 

「ネプギア、早く乗って! 宗谷も……っ!」

 

目前に飛び出した宗谷にも声をかけるが、アイエフはその声を途中で詰まらせてしまった。

彼から放たれる異様な威圧感を感じ取ったからである。

隣にいるイストワールも同様に、今の彼の異変を感じ取ったのか彼をじっと見つめている。

 

「宗谷さん……いったい何が……」

 

まるで別人の様な威圧感を放ったまま目の前の四人を睨む宗谷。

彼の威圧に反応して、変装したエネミーの後ろに立つ三人が前に出て構えを取るがエネミーがそれを制止する。

 

(おかしい……こんなの予定にあらへん…なんやねん、この嫌な感じは……)

 

仮面の下で焦りの表情を浮かべるエネミー、自分の持ち前の能力を少し使ったのがいけなかったのだろうか?

敵意を相手に持たせたがためにこの様な異変を起こしたのかと予想するエネミーだがどうにも今はうまく思考が働かない。

 

一方の宗谷は、静かに目の前の四人を睨みながらも、視線だけを動かしてマジェコンヌたちの方を確認する。

 

目前の彼らが雇われた身なら、あれが黒幕か…。

 

そう予想を立てた宗谷は手に持っていた赤剣を地面に突き立てる。

 

「…………ただで済むと思うなよ」

 

突然、彼の背中にある装甲から僅かに光が漏れだした。

 

それは禍々しい濁った赤い光で彼の首の下を根元にまるで翼のような形を形成し始める。

 

 

 

彼の異変が…静かに起ころうとしていた……

 

 

 

その時、

 

 

 

「宗谷さんっ!」

 

 

 

彼の名を呼ぶ声とともに、突然あたりを白い煙のようなものが包み込んだ。

 

いきなり発生した煙幕に動揺したエネミーたちは後ろに下がり距離を取る。

そして、僅かに驚いて煙を見回しながらも思考を怒りで充満させた宗谷の手を誰かが握りしめた。

 

「落ち着いてください宗谷さん!」

 

「…いーすん?」

 

イストワールだった。

 

そう、この煙も彼女の魔法によるものだ。

氷系の魔法と炎系の魔法を組み合わせて発生させたドライアイスのように濃密な白い煙を掻き分けて、彼の手を掴んだイストワールは彼の手を力いっぱい引っ張る。

 

「今はこの場を離れて、状況を整理するのが先決です!」

 

「離せよ……俺は、あいつを……!」

 

「宗谷さんっ!!」

 

それでもマジェコンヌの元に向かおうとする宗谷に彼女は手を引っ張るだけではだめだと判断したのか自分から彼の体にしがみついて彼を引き留める。

 

 

 

「自分を見失わないで………宗谷さん」

 

 

 

その言葉を聞いた途端、彼の怒りに燃えていた思考が水をかぶったかのようにクリアになった。

 

 

(………俺は、今……何を考えてた?)

 

 

冷静になった思考で今さっきまでの自分を振り返った宗谷。

徐々に思い出していくさっきまでの己自身、一心不乱にあることのみに執着した己のことを……

 

 

心の中を支配した、言葉の波を……

 

 

怒りによって引き出された、あの感情を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……―――

 

 

 

 

―――……殺すっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……俺は……また……っ」

 

 

 

途端に変身が解除され、元の状態に戻った宗谷は信じられないと言いたげな驚愕の表情を浮かべて両手を震わせたまま二三歩と後ろに下がった。

頭を抱えその場に座り込む宗谷、そんな彼にイストワールが心配して寄り添う。

 

「俺は……俺はまた………呑まれたのか……あ…あぁぁ……」

 

うわ言のように呟く宗谷の体が小刻みに震えはじめた。

その表情は驚愕から、明確な恐怖に変わってしまっている。

 

「宗谷さん……あなたは……」

 

今までにない宗谷の変わりように驚きを隠せないイストワール、そんな二人の耳にアイエフの威勢のいい声が聞こえてきた。

 

「宗谷! イストワール様! 急いで! ほらネプギアも! 今は逃げるのが先決よ!」

 

それを聞いたイストワールがそっと宗谷の体を揺さぶる。

 

「宗谷さん、しっかり……」

 

「いー……すん……」

 

僅かに震えているが意識はしっかりと保っている様だ。

自分の方を見た宗谷に彼女は優しく声をかける。

 

「今はここを離れましょう……さあ、急いで!」

 

「………っ」

 

彼女に促がされた宗谷は何とか立ち上がり、マシンヴィクトラーに急いでまたがるとアクセルを回して彼女が後ろに乗ったのを確認してから急いでマシンヴィクトラーを発進させる。

 

イストワールが張った煙幕がなくなるころには二台のバイクと四人の姿は既に忽然と消えていた……。

 

 

 

彼らがいることに気づいていたマジェコンヌとワレチューは四人がいた場所を見つめる。

 

「逃げられたっちゅね……」

 

「構わん……まだ変身できぬ女神の妹など、どうということはない。 それに以前に私の邪魔をしたあの小僧がいたとしても、奴らがいれば十分だ」

 

そう言ってマジェコンヌが視線を向ける先には、戦闘態勢を解除しこちらに戻ってくる魔進チェイサー、カオスウルトラマン・カラミティ、アバレキラーの三人がいた。

変装して、加勢に来たエネミーの姿はどこにも見当たらなかったが、そもそも彼女のことを気に入ってはいないマジェコンヌはそれほど気にすることはなく三人の戦士を出迎えた。

 

「次も頼むぞ?」

 

マジェコンヌの言葉に、無言で頷いて答えただけの魔進チェイサーは後ろの二人とともに彼女の後ろに並び立つ。

 

女神を捕らえ、邪魔者を排除する準備も万全な彼女は既に自分の勝利を確信していた。

 

 

 

 

 

「ロボティック! さっきの……」

 

「見てた、だから……慌てないの」

 

慌てて離れた位置で様子を見ながら、コピペロイドの性能をチェックしていたロボティックの元に駆け付けたエネミー。

そんな彼女とは裏腹に落ち着いた様子の彼女は冷静にパッド型の端末を操作する。

 

「リミッターが、強制解除されかけた……予、想外」

 

「やっぱり……ただ事やない思ってたんよ…」

 

端末を覗き込むロボティックは先程の宗谷の異変を冷静に解析した。

これに関しては彼女も予想していなかった事らしく、初めて予想外という言葉を口にするのを聞いたエネミー。

このままでは予定に狂いが生じてしまうやもしれない…。

 

「どないしよか……このままだと、何が起こるかわからへんし……最悪中止ってことも……」

 

「それは出来ません」

 

エネミーの呟きを真っ向から否定するようにレヴォリューションとともにようやく合流したトランスがいつもより強気な口調でそう言った。

 

「な、なんでや!」

 

「たとえ少年くんが何を起こそうとも、それは彼自身の選択……私たちの役目はその結末を監視し、彼を育成することにあります」

 

「なら尚更やろ! このままやと、下手したらあのお兄さんほんまに手遅れになってまうかもしれんで!?」

 

いつもとは違って血気迫った雰囲気でトランスに詰め寄るエネミー、しかし、それを前にしても強気な表情を崩さないトランスは静かに言い放った。

 

 

「もしも、我々が理想とする結末に彼がたどり着かなかったとしても……最悪の事態に陥ったとしても、我々はあくまで彼を育成するだけです。 彼の運命を無理矢理捻じ曲げる訳にはいきません……」

 

「………せやけど……」

 

「………見守りましょう、“ヤエ”……彼の運命を……」

 

 

 

久々に自分の本来の名前を呼ばれたエネミー……“ヤエ”はそれ以上は何も言わずにその場は引き下がる。

ライラは後ろに座るロボティックにも視線を向ける。

 

 

「“ステラ”も構いませんね?」

 

「………元より、そのつもり」

 

 

ロボティック……“ステラ”の返事を聞いたライラは自分にしがみ付き、未だに不安そうな顔を浮かべるシンシアの頭を優しく撫でる。

 

 

 

「………大丈夫です、少年くんは“彼”が選んだ私たちの“救世主”(メシア)ですよ? 何があっても、きっと大丈夫です……」

 

 

 

その言葉にシンシアは小さく頷いて返し、そっと彼女に身を寄せる。

ライラは最後に見た彼らが走り去っていった方向を見ながら、彼女の体を優しく抱きしめる。

 

 

「………信じてますよ、この世界の“新たな英雄”(ルーキー・ヒーロー)くん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか離れ小島から脱出した四人は、すぐさま教会の方に戻ってきた。

浮かない表情で帰ってきた四人を出迎えたユニ、ロム、ラム、そしてコンパに比較的落ち着いているアイエフとイストワールが何があったのかを説明する。

 

女神の四人が捕まったこと…。

 

それがマジェコンヌと呼ばれる何者かによる策略だったこと…。

 

アンチクリスタルのこと…。

 

そして、宗谷の前に現れた謎の協力者の存在…。

 

以上の出来事を報告し、この先をどうするかを考えることにしたイストワールとアイエフは教会のベールの部屋に戻ってくると早速対策について考えを出し始めた。

だが、なにせこちらが不利な状況に変わりはない、これと言って打開策も見つからないまま希望を見出すようなアイデアは出なかった。

 

「………アンチクリスタルのことについては、私が調べればわかると思いますが……みっか掛かってしまいますから今すぐは無理です」

 

「時間もないし、打つ手もない………やっぱり、ここはそれぞれの国に戻って対策を練った方が……」

 

「じょ、冗談じゃないわ!」

 

アイエフの発言に待ったをかけるように、ユニが声を上げその間に割り込んだ。

 

「こんなことになって素直に帰るわけないでしょ!?」

 

「いつものお姉ちゃんなら、悪者なんて一発なのに!」

 

「お姉ちゃん……死んじゃうの?」

 

ユニに触発されたのか、不安そうな表情を浮かべていたロムとラムも立ち上がりそれぞれの心境を吐露する。

大事な姉の危機に、妹たちは居ても立っても居られない様だが、今はどうしようもない状況なのだ。

何をしようにもこちらの戦力では女神の四人を救出することは愚か、満足に戦えるかどうかも怪しい……。

 

「き、きっと大丈夫です!女神さんたちがそう簡単にやられる訳…」

 

「でも、力が奪われたって…!」

 

三人を落ち着けようとするコンパにまだ落ち着くような様子もないユニがそう言い返す。

すると、

 

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

 

戻ってくるなり、椅子に座り込んで意気消沈していたネプギアが弱々しく謝罪の言葉を口にした。

それを聞いた全員は自然と彼女に視線を向ける。

 

「………ギアちゃんが悪いわけじゃ…」

 

「ううん……買い物の時に拾った石、あれがきっとアンチクリスタルだったんです……」

 

「……買い物の時……」

 

その言葉を聞いたイストワールがその時のことを思い出す。

確かにあの時、ネプギアは小さな赤い石を拾った途端に眩暈を起こした。

そのことから考えるに可能性は十分に、いや、もうほぼ確定的な事だ。何せ彼女が手に取った石を奪い取ったのはマジェコンヌと一緒にいたワレチューだったのだから。

 

「……やめましょう、そんな話、いましたって…」

 

「どうして……どうしてあの時、眩暈がしたのかちゃんと考えていれば……お姉ちゃんたちに知らせていれば……」

 

身を振るわせながらぽつぽつと言葉を続けるネプギア、それを聞いていた宗谷もソファに座った体制のまま彼女に顔を向ける。

 

「ネプギア……」

 

「……ネプギアのバカ!」

 

すると、ユニが突然声を荒げた。

 

「お姉ちゃんは……私のお姉ちゃんはすごく強いのに……あんたのせいで……」

 

「……ユニちゃん、気持ちはわかるけど…ネプギアは……」

 

「宗谷さんも宗谷さんよ!!」

 

ネプギアのことを庇おうと宗谷にユニは続けて怒鳴り声を上げた。

目元には涙を浮かべて、怒りを秘めた表情を彼に向けながら……。

 

「ヒーローを目指してるとか……言ってたくせに……私にあんなこと言ってたくせに……何もできないで帰ってくるなんて………」

 

「……っ」

 

ユニの言葉がぐさりと彼の心に突き刺さる。

 

あの時、自分は何もできなかったわけではない。

行動を起こすわけにはいかなかったのだ…。 もし、あの時、イストワールが止めに来なければ自分は何をしていたのかわからなかったから……。

 

 

 

「ネプギアも……宗谷さんも……二人が捕まれば良かったのよ!!」

 

 

 

最後にそう叫んだユニが二人の間を駆け抜けて、部屋から出ていく。

 

彼女の叩きつけるような言葉を受けたネプギアははっと顔を上げ、瞳から一筋の涙を流し始める。

そして、そのまま静かに泣きはじめたネプギア。

 

そんな彼女に宗谷はそっと手を差し伸べようとするが、すぐにその手を引っ込めると唇を噛みしめ、彼女から目を反らしてしまう。

 

「………俺は……俺は……っ」

 

うわ言のように呟いた宗谷もまたユニが出て行った部屋とは違うドアから部屋を飛び出していってしまった。

 

 

 

この時宗谷は何かを呟いたが、声が小さくその場にいたほとんどの人間は気が付かなかった。

 

ただ一人を除いて…。

 

 

 

「宗谷さん!」

 

 

飛び出していった彼を追いかけようとするイストワール、だが彼女の目に静かに泣き続けるネプギアが止まり、ふと足が止まる。

しかし、宗谷のことを気にして彼が出ていった方に視線を向けるなど落ち着きがない。

 

そんな、イストワールの肩にコンパが手を置いた。

 

「行ってくださいです、いーすんさん」

 

「コンパさん……」

 

「こっちはなんとかするですから、はやく」

 

「………」

 

彼女に促がされたイストワールは静かに嗚咽をあげ、涙を流すネプギアを一瞥する。

今の状態の彼女を放っておくのはいい気分ではない、だが、彼女のそばにいたロムとラムが自分の方を見て小さく頷いたのをイストワールは見た。

 

「ギアちゃんのことを一番にわかってるのは、同じ妹さんです」

 

「………わかりました、お願いします」

 

コンパとロムとラムにお辞儀をしたイストワールはネプギアのことを気に掛けながらも部屋を飛び出していった宗谷の後を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を飛び出した宗谷は特に当てもなく、走り続け教会の外に出て、階段を飛び越えるようなスピードで駆け抜けると教会の前に置かれている豪勢なつくりの噴水の前で立ち止まり息を切らせ、肩を上下させて荒い呼吸を繰り返し、噴水の水で揺らぐ水面を見つめた。

 

「もう………もう俺は怒りに呑まれないって……決めたのに……」

 

以前、ルウィーでの誘拐事件の際にマリオと出会ったとき、マリオはこう言った。

 

 

―――その怒りは“殺意”に変わるかもしれない……

 

 

この時の彼もまた、ロムとラムが誘拐された時に強い怒りを感じていた。

一瞬だが、我を忘れるくらいに…。

 

だが、なんとか自分を見失うことなく自分を保ち、トリックから二人を救い出せた宗谷はもうすでにこのようなことになることはないと思っていた。 そう、信じていた…。

 

だがそれは、今回のことで裏切られた……。

自分はまだ、乗り越えていなかった、己自身が犯した過ちを、その時に嫌った己自身の醜い姿を…。

 

 

 

 

―――だから言っただろう? キミはもうその感覚を忘れられないって…

 

 

 

 

「っ!?」

 

彼が見た水面、そこにそれは突然写った。

赤いパーカーのフードを目深に被り、表情は見えないがその口元がにやりと歯をむき出しにして笑っているその人物を、彼は知っている。

 

すべての元凶、彼が最も憎み、もっとも怒りを覚え………殺してやりたいと思った張本人。

 

 

 

―――あの時の君の目は良かったよ、人間の本性をむき出しにしたいい目だ……やっぱりイイねぇ…それこそが人間の本質なんだよ……

 

 

 

「………うるせぇ」

 

 

 

―――ほら、もっと素直になりなよ……あの時みたいにさ、怒って殴りかかりなよ、そうすれば君はもっとイイものになる……

 

 

 

「黙れ………」

 

 

 

―――キミはヒーローなんか向いてないよ、既にキミはその資格にふさわしくないんだからさ……

 

 

 

「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れぇ!! 消えろ……消えろぉぉぉおおおおお!!」

 

 

 

水面に写るそれを掻き消そうと宗谷は力いっぱい殴りつける、途端に水面が跳ね、あたりに水しぶきが上がり彼の顔が水で濡れるがそれを気にすることなく宗谷は一心不乱に水面を殴り続ける。

 

(俺は……俺は約束したのに、ヒーローになるって約束したのに…! なのに……なのに!!)

 

 

 

「………ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

今までで一番力を込めた拳を咆哮と共に水面に叩きつけた宗谷、気が付くとその体は雨に打たれたかのようにぐしょ濡れになっていた。

そして、同様に水面に写っていた人物の幻の姿も元の自分の姿に戻っていた。

 

「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……」

 

荒く呼吸を繰り返す宗谷、よろりと自分の体を起き上がらせるが途端に彼の目前がぐらりと揺れる。

 

あまりの恐怖と興奮と怒りに彼自身が限界を迎えたのだろう。

 

彼の思考は彼とこの世界との繋がりを断ち切るかのように、ブラックアウトした……。

 

 

 

 

 

「確か、宗谷さんの声がこのあたりから聞こえたような……」

 

彼を追って教会の外に出てきたイストワール、最後に聞こえた彼の僅かな声を頼りに外に出てあたりを見渡す。

しかし、どこにも宗谷らしい人物の影は見当たらない…。

 

「宗谷さん…いったいどこに……?」

 

すると、ふと彼女の目が噴水の上に浮かぶ何かを捕らえた。

月明かりに照らされるそれを見た途端、彼女の顔が一気に青ざめた。

 

 

 

「宗谷さんっ!!」

 

 

 

それは宗谷だった。

 

彼の姿を見つけるや否や、自分の服が濡れるのも気にせず噴水の中に足を入れ水面に浮かぶ彼に近づき、なんとか彼の体を支えて噴水の中から引き上げる。

 

彼は完全に気を失っている状態で、水から引き上げても意識を失ったままだった…。

 

「宗谷さん、しっかりしてください! 目を……目を覚まして、宗谷さん!!」

 

必死に呼びかけるイストワールだが、その声は虚しく響くだけで彼を覚醒には至らしめなかった。

それどころか水面に顔を沈めていたせいか、呼吸も止まってしまっている。

 

このままでは彼の命が危うい…。

 

「宗谷さん………いや……死なないで……死なないでください! 宗谷さん!!」

 

通常、人間が呼吸停止した状態で蘇生させられる確率があるのは2分が限界だと言われている。

果たして彼が水面にどれほどの間顔をつけていたのか不明だが………彼女は最後の希望にかけ、ある決断をした………。

 

「………っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ」

 

朦朧とする意識の中、ゆっくりと目を開けた宗谷が最初に感じたのは体に感じた違和感だった。

柔らかな布のようなもので包まった自分の体、それを肌で直に感じているということはおそらく今の自分は服を着ていないのだろう、唯一下半身には下着を一枚着ているのがわかる。

 

一体自分は今まで何をしていたのか、よく思い出せない宗谷は徐々に意識をはっきりさせながらゆっくりと身を起こした。

 

「俺は……いったい何が……?」

 

そっと身を起き上がらせて周りを見渡す宗谷。

 

どうやら自分はベッドの上で寝かされていた様だ。

そして、自分がいるこの部屋は彼がリーンボックスに滞在していた時に使っていた自分の部屋である。

来客用にとベールが作った部屋で、テレビや冷蔵庫などの家電はもちろん、シャワールームまでついた豪華仕様、さらにはゲーム機も完備しているという徹底したつくりから、ベールの人柄が見て取れる。

 

なぜ自分がこの部屋にいるのかいまいち理解できない宗谷は首を傾げ、頭に疑問符を浮かべる。

 

すると、どこかで扉が開くような音が聞こえた。

 

 

 

「宗谷……さん?」

 

 

 

ドアが開く音とともに、聞き覚えというよりもう忘れるはずがない彼女の声が聞こえてきた。

イストワールの声だ。

 

それに気づいた宗谷が、部屋の奥にあるもう一つの扉の方に目を向けた。

 

ちなみにそのドアというのはさっきの説明にもあった、シャワールームのドアのことである。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

声に釣られてシャワールームの方を見てしまった宗谷は、驚きのあまり本気で目を見開き咄嗟に口元を抑えた。

 

そこにいたのは体にバスタオルを巻いただけという姿をしたイストワールだった。

 

体からは湯気が立ち上がり、彼女の髪も湿り気を帯びているのが分かる。

 

バスタオルを巻いた姿のままシャワールームから出てきた彼女の姿を見てしまった宗谷は言葉も出せずその場で硬直してしまった。

 

「宗谷さん……気が付いたんですね!」

 

そして、宗谷の姿を見るや否や、自分の今の格好を気にも留めずにイストワールは宗谷に駆け足で近づいた。

 

そしてその際、彼女が体に巻いていたバスタオルが………はらりと、落ちた。

 

 

「なっ!!?」

 

 

驚きのあまりついに声が出た宗谷、何気に彼女の裸を見るのは二回目だが、最初は思考が追い付かないながらも気にはしてそっちに目を向けないようにはしていたが…。

 

今回ははっきりと見てしまった。

 

うっすら明るい月明かりが照らす中で、生まれたままの姿になったイストワールの……すべてを……。

 

 

「宗谷さん!!」

 

「のぉぉぉおおおおおおおおお!?」

 

 

彼に裸を見られたことなど気にも留めず、なんとイストワールはその状態のまま彼に飛びついた。

宗谷は下着を一枚つけているとはいえ、ほぼ裸。

イストワールは先程も言った通り、布を一切身に着けていない生まれたままの姿。

 

ゆえにこれほど密着すれば嫌が応にもその感触をじかに感じることとなる。

 

「よかった……このまま、目が覚めなかったら……私……」

 

(い、いーすんの胸が……ち、小さいながらもしっかりとやわらかい胸が……直にっ!!)

 

彼に抱き付いたことにより、イストワールの体のあの部分やこの部分が直接あたり、宗谷は図らずしも彼女の体を初めて存分に味わってしまった。

風呂上がりの彼女から香るシャンプーの香り、スレンダーなように見えて、女性らしい柔らかさを感じる彼女の体。

そして、彼女の体に布一枚隔てて密着している、己の分身…。

 

「お、おぉぉぉぉぉおおお!?」

 

いくらラノベや漫画のサービスシーンを好み、リアルでも健全なエロを好む宗谷でもこれはあまりにも刺激が強かった。

何せ生まれて初めて実際に裸の女の子の姿を生で見て、抱きしめられたのだ。

三次元の特権を生まれて初めて味わったのだから、パニックにもなる。

 

イストワールから慌てて離れ、即座に臨戦態勢になった分身を隠しながら彼女と距離を取った宗谷、その際にベッドから転げ落ちるが、すぐさま起き上がってさらに距離を取る。

 

「そ、宗谷さん、どうかしましたか?」

 

「そ、それはこっちのセリフ!! は、早く何か着て!! 見えてる、いろんなものが見えてるから!!」

 

「見えて………っ!!」

 

宗谷の必至な呼びかけでようやく今の自分の状態に気づいたイストワールは瞬時に顔を真っ赤にして、左手で胸を、そして右手で腹部の下あたりを隠す。

 

「い、いやぁ!」

 

顔を赤くしたままベッドの上で自分の体を必死に隠すイストワールはさっきまで彼がかぶっていたベッドの掛け布団を手に取り体を隠す。

それを横目で確かめた宗谷は目線を反らしながらも少し落ち着いて息を吐く。

ちなみに分身の方はまだ隠したままで…。

 

「うぅ………宗谷さんのえっち……」

 

「いや、俺悪くないよね!? ねえ!」

 

イストワールの呟きに必死になってつっこむ宗谷。

確かにこの場合は彼というより自分の状況に気が付かなかったイストワールに否があるように見える。

 

「はあ……まったく、どうなってんだ? 気が付いたらリーンボックスの教会の部屋だし……」

 

「……覚えてないんですか?」

 

宗谷の溢した呟きを聞いていたイストワールが彼にそう聞くと、宗谷はわからないと言いたげに首を縦に振った。

 

 

「宗谷さん、部屋を飛び出したと思ったら教会の外の噴水で溺れてたんですよ? 何があったのかは知りませんが……呼吸も止まってて、本当に死んじゃうかと思ったんですよ?」

 

 

イストワールが分かりやすくまとめた説明を言うと、宗谷はしばらく考えた後ついさっきまでの自分の行動をすべて思い出した。

 

怒りに呑まれた自分に恐怖を抱き、見てしまった幻。

それを掻き消そうと暴れた挙句、気を失って溺れたのだろう…自分で言うのもなんだがなんとも言えない事故である。

 

「………そうか、俺は気を失って……」

 

「だから……その……あなたを噴水から引き上げて、手当てをしたんです。 服を着てないのはその時に濡れたからで、今は乾燥機で乾かしてます……」

 

ほのかに頬を染めて言いにくそうにしながらもイストワールはここまでの経緯を話した。

 

 

「………そうだったのか、ありがとうないーすん」

 

「……いえ、その………は、はい」

 

「ん?」

 

 

顔を真っ赤にしたままなぜか口元を抑えて黙り込んでしまった彼女を見た宗谷はどうしたのかわからずただただ首を傾げるだけだった。

 

だが気を失い、死の淵に立った宗谷が生還したのはイストワールの人力であるのは事実である。

彼女が以前に記録していた応急処置をしなければ、今頃宗谷は溺死していたであろう。

 

 

 

「………~~~!」

 

 

 

その時のことを思い出したイストワールは両頬に手を添え、恥ずかしさのあまり頭を左右に振る。

 

 

それもそうだろう、人命救助とはいえ、自分の“初めて”を意中の相手に捧げたのだから…。

 

 

そんな彼女の心境を理解していない当の宗谷は、さっきまでの自分を振り返り始めた。

 

「………やっぱり、俺には無理なのかな……」

 

不意に口から出た彼の弱音を、イストワールは聞き逃さなかった。

両頬に添えていた手を放し、再び項垂れる宗谷に視線を向ける。

 

「………宗谷さん」

 

諭すような静かな声で呼ばれた宗谷はゆっくりと顔を上げる。

 

「部屋を出る前、宗谷さんこう言いましたよね?」

 

 

 

 

―――本当は、ヒーローになる資格なんかない……

 

 

 

 

「……どういうことなんですか? あなたはヒーローを目指していたんじゃないんですか?」

 

聞かれていないと思っていた呟きを聞かれたことを知った宗谷は、大きくため息をついて三度項垂れた。

 

「………聞かれてたのか」

 

「どういうことなんですか? ……いったい、あなたに何があったんですか?」

 

問いただすイストワールの目に押され、宗谷はこれ以上隠しても無駄だと直感的に察した。

ここで何も言わなくても、きっと彼女は聞き続けると思ったからだ。

それなら、隠し続けていてもしょうがない……。

 

 

 

「………俺がこの世界に来る前のことだ……」

 

 

 

そして、この日の夜……。

 

宗谷の過去が明らかとなる……。

 




いかがでしたか?

とてつもないシリアスな場面なのに、エロいシーンを思いついてしまう僕って……。

まあ、それはそれとして…

次回、宗谷を苦しめた過去の出来事が明らかとなる…。

それでは、次回でお会いしましょう…。
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