いやぁ……なかなか難産でした(汗
こういうシリアスな話って、本当に難しい……
学校に通うために慣れない6時起きの毎日でモチベーションもなかなか上がらなかったりでしたが、苦難の末にようやく書きあがりました!
それでは、どうぞ…
俺がこの世界に迷い込む、1年前だった。
知っての通り、俺は孤児だったために施設で育ち、生活し、今まで生きてきた。
だから、自然とその施設で出会って同じ境遇の子供たちや年上の先輩たちとは自然と仲良くなっていつの間にか家族のような関係になっていた。
ほかの施設ではどんなものなのかは知らないけど、たぶん家は特別なのかな? そう思えるくらいに……。
高校二年になった俺は、特に差し当たりなく、ごくごく平凡な、普通の毎日を送っていた。
学校の友達と遊んで、施設の奴らと助け合って、バイトして、たまに些細なことで喧嘩して、そんな平和な毎日がずっと続くと思っていた。
『宗谷、今日バイトは?』
当時、俺には同い年で同じ高校にも通うことになった、同じ施設で俺と同じで孤児の幼馴染がいた。
活発な印象を与えるショートの茶髪と、すらっとした体つきに整った顔立ちで当時の学校でも人気者だった彼女。
名前は“兵藤 恵理”。
俺とは違って、物心つく前に両親が他界して引き取られる当てもなく施設に流れ着いたという、孤児になった理由がはっきりわかっている奴だった。
ただ、そいつはそんなことを気にさせないぐらい明るく振る舞って、誰にでも優しくて、同じ孤児という境遇の俺とはなんか妙にウマが合って、俺と同じでヒーロー好きな奴だった。
こいつとは兄弟姉妹のようにも、友達のようにも思える関係だった。
いつもいると楽しくて、退屈しなくて、いつも一緒にいた…。
俺の最初の“大切な人”だった……。
『今日は……ないはずだけど?』
『なら付き合ってよ、今日はあれだよ? 初回限定版のあれを買いに行くから』
『あ、そうだっけ!? やっべぇ……俺の分の金、部屋に置いてきた』
『そういうと思って、ほら、持ってきといたよ?』
『おっ!! さっすが恵理……って、お前また人の部屋に勝手に入ったな!?』
『あんたま~たエロゲー買ってたでしょ? 机の引き出しに入れたくらいで隠せると思ってんの?』
『だぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!! 言うなバカ!!』
そして、恵理のほかにも施設には数人の仲間がいた。
この時施設にいたのは俺と恵理の一個下が三人、小学生が一人と、最年長の一個上が一人。
そしてそんな俺たちの面倒を見てくれる施設のおっちゃん。
それが、この時の俺の“大切な人たち”だった……。
『ただいま~』
『お、帰ってきたな?』
『お帰り、恵理姉さん、宗兄さん』
『兄ちゃん、それなに~?』
『こらこら、兄貴と姉貴のもんに触れると後が怖いからやめとけやめとけ』
『おっちゃん、今日の夕飯当番誰だっけ?』
『恵理だぞ?』
『あっ……やっぱり……』
『俺も手伝うから、さっさと作るぞ…腹減って仕方ないんだ……』
『宗谷、カップ麺とかじゃダメ?』
『育ちざかりの奴もいんのに何を言うか!』
こんな風な日常が、長く、そしてずっと続くと思ってた。
俺と恵理が施設を出ていく日が来ても、この施設はこんな風に仲良くやっていくんだろうなって…。
そう思っていた…。
なのに……。
それは、“あいつ”のせいで全部壊れた……。
それは、突然の出来事だった。
いつものように、俺が恵理と一緒に学校を終えて、施設に帰った時だった。
施設のドアの前に置かれた、一枚の貼紙……。
それがすべての始まりだった。
『おめでとうございます、あなたたちは最高に楽しいゲームのプレイヤーに選ばれました。 ゲームが始まるのは本日午後5時、スタートの合図は折り入って連絡いたします。』
赤い油性ペンで殴り書きされたその紙に、俺たちは不信感と妙な不安感を覚えた。
ゲームとはいったい何なのか、プレイヤーとはどういう意味なのか、どちらにしてもこんな悪戯はされたこともないし、今までにないことだったから俺たちはその時、ただ張り紙を見つめてボーっとするだけだった。
『なんだ……これ?』
おっちゃんや、ほかのみんなも呼んでこれが何の意味を示しているのか話し合うことにしたその日の夕方。
俺と恵理はあることに気づいた。
高校一年になる三人のうちの二人が、まだ帰ってきていないことに……。
『……ねえ、そういえば二人はどこ行ったの?』
『普段なら、この時間は帰ってるはずだよな……知ってるか?』
『僕もわかんない、さっきから連絡してるけど繋がらないんだ……』
俺はこの時、いやな予感を感じていた……。
そして……それは現実となってしまった……。
ちょうど、時間が午後5時になった時だった…。
『あ、兄さんからだ!』
高校一年の三人の末っ子の携帯に帰ってきていない二人の家の一番上からのメールが届いた。
そこに書かれていたのは、ただ単に場所を記した文章だけ。
ここからそんなに離れていない河川敷に行けと記されただけのメールだった。
俺と恵理は嫌な予感が的中したと、顔を見合わせてすぐにそこに向かった……。
そして、そこで見た光景を目にした俺と恵理は、一気に顔が青ざめたはずだ……。
『………うそだろ』
『なんで……どうして、こんな……』
俺たちが駆けつけた時、メールの送り主であるそいつは体を鋭利な刃物か何かで滅多切りにされて血まみれになって倒れていたのだから。
俺と恵理はすぐにそいつに駆け寄って、救急車を呼んだ。
必死に呼びかけてみたけど、すでに虫の息でいつ死ぬかもわからない状況だった…。
(誰が……一体誰がこんなことを…!)
これが、あの最悪のゲームの始まりだったんだ……。
そいつは病院に運ばれ、何とか一命を取りとめはしたものの……。
特に酷かった背中の傷が脊髄にまで達していたせいで…そいつは二度と歩けない体になってしまった……。
運動が得意で、陸上で世界大会に出るのが夢だと言っていたそいつの夢は、もう叶わなくなってしまったんだ……。
俺の家族を傷つけた何者か、そいつが張り紙の犯人のであることにもこの時みんな気付いた。
血まみれになって倒れていたそいつの傍らに、一枚のメモ用紙があったからだ。
そこに書かれていたのは、このゲームのルール。
思い出しただけでも虫唾が走る内容のゲームの、ルールだった…。
『このゲームはゲームマスターである僕と、君たちプレイヤーたちの命を懸けたゲームだ。 ルールは簡単、僕が君たちの大切なものをすべて壊せたらゲームマスターである僕の勝ち、そしてプレイヤーで君たちはどんな手を使ってもいい、僕を捕まえれば勝ちだ。 簡単すぎるこのゲームはまだ始まったばかり、次のステージを楽しみにしてくれたまえ』
狂ってる……。
そうとしか考えられなかった……。
犯人はあの惨劇を自分でやっておいて、それをゲームだと記しやがったんだ! しかも、このゲームはまだ続くようなことを仄めかしている。
俺達全員をゲームという建前で殺そうとしているんだ。 正気の沙汰じゃない…。
一体、何のためにこんなことを考え、実行したのか……犯人の意図は全く分からないままだったが、このままじゃいけないというのは自然とその場にいたみんなが理解したことだった。
すぐに警察に連絡して対策を考えた、こっちは人が殺されかけたんだ、しかも脅迫文まである。 警察もそこから犯人の足取りを追うと言ってくれて俺たちはひとまずは安心した。
でも、そんな警察の協力を得ても、俺たちの不安は消えなかった。
行方不明になったもう一人のことだ。
高一三人組の真ん中の女の子は恵理と仲が良かった。
その娘は恵理に勝るとも劣らない元気な妹分だった。
だけど、ゲームスタートのあの日を境に、その娘は行方不明となってしまったのだ…。
当然、俺たちは彼女の無事を祈ったし、警察も必死に捜索してくれた…。
でも、それから二日後……。
その娘は俺たちの施設の近くにあるゴミ置き場で発見された……。
同じように体を滅多刺しにされた、瀕死の状態で……。
しかも、その前に体を弄ばれて……、心に深い傷を負わせた上で……。
発見がもう少し遅かったら、彼女も死んでいたかもしれない。
そして、彼女の体には深い傷跡と、心には一生消えない傷が残った…。
………許せなかった。
こんなことをした犯人を、こんな馬鹿げた狂ったゲームを仕掛けた奴を、俺は許せなかった。
俺は早くあいつが捕まることを祈った……だけど、連日の捜査も虚しく犯人の足取りは見つからなかった。
俺はこうしている間にも、あいつがまた誰かにその毒牙を向けるのではないのかと思うと居ても立ってもいられなかった…。
なんとしてでもこれ以上……俺の大切なみんなを……俺の唯一の家族たちを傷つけさせやしない。
そして、俺は一か八かの賭けに出た……。
犯人の狙いが俺達なら、警察のマークが甘くなった隙をついて出てくるかもしれない。
警察には自宅で待機しておけと言われたが、俺はそれを無視して施設を飛び出し奴をおびき出す作戦を考え付いた。
もちろん、無謀な作戦だ。
下手をしたら死ぬかもしれない、でも、それでもこれ以上誰かが傷つくのを見るくらいなら俺はこっちの方が万倍マシだと割り切り、俺は単身施設を飛び出した。
その時に恵理に見つかって口論になり、俺は必死に恵理に止められたが……この時の俺はそれを聞き入れるつもりはなかった。
既に二人も俺の大切な人たちが死にかけ、大切なものをぶち壊された。
命を命とも見ていない、狂った奴の楽しみのためだけに……。
俺はその時、怖さよりも怒りを強く感じていた、なんとしてでも犯人を止めてやるって…どんな手を使ってでも……。
そして、雨が降っていた日……。
俺の予測通り、そいつは現れた……。
『………待ってたよ、君みたいなチャレンジャーを……ふふっ』
人気のない場所にわざと俺は入り、狙い通りに俺の前に現れたそいつは赤いパーカーを着た男だった。
しかも、年は俺とさほど変わらなそうな見た目をしていた…。
皮の手袋で包まれたそいつの手には、雨脚が強くなり、灰色の空の中でも迫力を十分に放つ、ナイフが握られていた。
『お前が……お前が二人をあんな目に合わせたのか……』
『うん、そうだよ?』
俺の問いにあっさりと答えたそいつの顔には、屈託のない無邪気な子供のような笑顔が張り付いていた。
人を二人、殺そうとしたのにだ…。
『惜しかったなぁ、もうちょっとで壊せると思ったんだけど、甘かったかな?』
『………自分が何をしようとしたのか、わかってるのか?』
『わかってなかったらそもそもこんな遊び思いつかないよ』
『遊び……だと……?』
『そう、遊び♪ 楽しい楽しい、スリル満点のデスゲームだよ! 全員殺るか、それとも捕まって一生牢屋の中に入るか、これ以上にないスリルでしょ?』
興奮気味に話すそいつの顔には、一切の後悔も、反省の色もなかった…。
こいつは本心で、殺人という行為をただのゲームのルールのようにしか考えてなかったんだ。
『お前のせいで……お前のせいであいつらは!!』
『でも、逆に生かしといてよかったのかな?』
奴はそういうと、ナイフの腹を舌で舐めた。
まるで、子供が飴を舐めるように……。
『君に出会えたんだからさぁ……ふふふっ』
奴はそういうと同時に、ナイフを俺に向けた…。
でも、俺は逃げるつもりはなかった。
なんとしてでも、こいつを止めるつもりだったから……。
『なんで……なんでこんなことをした! 何が目的なんだ!』
『人ってさ、誰かが死んだら悲しむよね? 特に、血の繋がった仲良し家族なら……でも、君たちには血の繋がりなんかないじゃないか、だからそんな君たちの内の誰かが死んだらどうなるのかな? どんな顔をするのかな? どんな気持ちになるのかな? ……そう思って、試したくなったんだよ』
『そんな……そんな興味本位で……』
『君たちは幸運だよ、仲良しな仲間が揃ってたからこそ、僕は君たちを選んだんだ……おかげで予想以上にいい顔を……今……たった今、見れてるんだからさぁ♪』
こいつは、恨みつらみとかそんなもので刃を握っているわけじゃなかった…。
ただ単に、親や家族といった、身寄りのいないという関係で集まった俺達。
その中の誰かが死んだときの俺達の反応を見るために、こんなことを始めたんだ…。
『その顔……めちゃくちゃいいよぉ♪ 怒って今にも飛び掛かりそうなその顔……最高ぉ……僕、そっちの趣味はないんだけど惚れちゃいそうだよ…』
『………黙れ』
『………さぁて、名残惜しいけど君を壊した次は、誰を壊そうかな? ………君といつも一緒にいる、あの茶髪の子に……しようかなぁ?』
『………てめぇぇええええええええええ!!』
そこから先は……無我夢中だった……。
気づいたときには走り出して、奴に掴み掛ってた。
そこからは互いに揉みくちゃに取っ組み合いになって、殴る、蹴る、掴む、投げる、そして刺すの攻防戦だった……。
奴はこんなゲームを仕掛けただけあって、驚くほど腕に自信があったらしい。
実際にやりあってわかったのは、あいつが何かしらの格闘術に優れていたこと、そして人としての抑制が外れているがために人を殺すかもしれない攻撃に躊躇がなかったこと…。
その差が仇となり、俺は奴のナイフで体にいくつもの切り傷を負わされた…。
ただその分、がむしゃらになって突っ込んだ俺もナイフを体に抉りこまされながらも反撃を加えた。
息も絶え絶え、互いの体力も限界になった頃には、俺は腕や足、脇腹をナイフで切られて出血した状態に……向こうは俺が殴ったり蹴ったりしたことで顔に痣を作りながら、息を切らした状態で俺を笑って見つめていた。
こんな状況であっても、そいつはその時のことを楽しんでたんだ…。
『宗谷もうやめて! もういいよ! これ以上やったら!』
気が付くと、恵理がすぐそばまで来ていた。
俺は恵理に気を取られた、そしてその隙を突かれた。
奴は持っていたナイフを構えて、俺に向かって突っ込んできたんだ。
『っ!』
咄嗟に気づいた俺は、奴がナイフを突き出す寸前に横に跳んで躱してそいつの鼻に切り傷で痛む腕に鞭打って、力を込めた横薙ぎの拳を撃ち込んだ。
鈍い音を響かせ、鼻血を出しながらよろけたそいつがナイフを落とした瞬間、俺は勝ちを確信した…。
これで、すべてが終わった。 そう思ってた……。
でも、終わりじゃなかった……。
『………っハハハハハハハハ!!』
『なっ、ぐぅっ!!』
よろけながらも身を持ち直したそいつは、笑いながら俺の首を両手で締め上げてきた。
地面に押さえつけられ、首を絞められているせいで呼吸ができなくなり、次第に意識が霞んでいく中で俺は恵理が今にも泣きだしそうな顔をして何かを叫んでいるのを見た。
(……俺がここで死んだら、次は……)
恵理が、こいつの……狂ったこいつのゲームでせいで死ぬ…。
(……させない……絶対に、そんなことさせてたまるか!!)
薄れていく意識の中、俺はもがく様に動かした手に当たった何かを掴んでそれを振るった。
それは奴が落したナイフだった……。
危険を感じた奴が逃げたのを、俺は見逃さなかった。
見逃すつもりはなかった。
その時の俺はあまりの怒りのせいで周りが見えていなかった……。
見えていたのは、目の前にい奴だけ……。
これ以上、こいつの好きにさせない。
これ以上、誰も傷つけさせない。
こいつだけは、絶対に許せない。
自分の楽しみのためだけにみんなを殺そうとしているこいつだけは………こいつだけは!!
『………うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!』
ナイフを片手に持った俺は、走り出した……。
徐々に奴との間合いが縮まっていき………。
そして、
俺と奴の間に、誰かが割り込んだことに………俺は気づかなかった……。
『………え…………り……?』
恵理が、俺の前に立っていた……。
その胸の中央には、俺が握るナイフの刃が………深々と突き刺さった状態で……。
『そう………や……』
力なく、その場に崩れ落ちる恵理の体を俺は必死で抱き留めた……。
『恵理……恵理ぃ!! なんで……どうして……!?』
『だめ……だよ、そう…や………あんたが……あんたがそんなことしたら……だめ』
『喋るな恵理! 待ってろ、すぐ病院に!』
『宗谷………小さかった頃の夢……あんたなんて言ったか覚えてる……?』
『……なんだよ、どうして今そんなこと聞くんだよ! 今はそんな話してる場合じゃないだろ!』
『………正義の味方……ヒーローになるって………言ってたよね』
恵理は、かすれていく声でそう言って、俺の手を握った……。
胸からはおびただしい量の血が流れ、徐々に体温も低くなってきていた……。
『私ね………あんたなら、なれるって信じてる………だって、宗谷……誰よりも……やさ、しいの……知ってる、から……』
『恵理………もういい、もういいから! 頼むからそれ以上話すな……でないと……お前……!』
『宗谷………負けないで……ヒーローに………なって? みんなを守れる……宗谷だけに変身できる………優しくて……強い……正義の味方に……』
『………ああ、わかった………約束する……絶対になってやるよ、ヒーローに! 正義の味方に! だから、恵理……死ぬなよ……なあ、恵理ぃ!!』
俺がそう言って恵理の手を強く握った瞬間、彼女はうっすらと笑みを浮かべた……。
そして、俺の握っていた彼女の手の力が………まるで氷が解けるように、なくなった……。
『………恵理? なあ、恵理………恵理ぃ! しっかりしろよ恵理!! おい!! 目を開けろよ!!』
どれだけ体を揺さぶっても、どれだけ声をかけても、どれだけ名前を呼んでも、どれだけ強く抱きしめても、どれだけ願っても、どれだけ祈っても、どれだけ泣いても、どれだけ後悔しても………。
恵理は戻ってこなかった……。
『ああ………ぁぁあ……あ……っぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!』
俺は……怒りに呑まれて、奴を殺そうとした……
でも、そのせいで………俺が怒りに我を忘れたせいで………
恵理は………死んだ……。
俺が………恵理を殺したんだ………。
俯きながらぽつりぽつりと彼自身が口にし、露わになった宗谷の過去……。
それを聞いていたイストワールの目には、宗谷に対する強い驚きの意思が色濃く映っていた。
あれだけ明るく振る舞っていた彼が、何事もないようにこの世界で笑っていた宗谷からは考えられないほどの壮絶な過去を知った以上、彼女がどういう反応を示すか……彼には予想できていた。
「………その後、そいつは恵理が呼んでいた警察に確保されて……俺も事情聴取を受けた……しばらくして、俺の方は正当防衛とその際に起きた過失致死ということで処理された。 奴は殺人未遂と誘拐、傷害、暴行で逮捕された………その後恵理を殺したという事実がある以上、施設にはいられなくなり、俺は自分から施設を出ていった………そして、それからなんとかやりくりして生活保護も受けて……一年後、この世界に来た」
その後の自分がどのように処分されたのかを簡潔に話した宗谷は、すっと顔を上げてイストワールに今まで辛い時も、周りに心配させないように見せてきた笑顔を彼女に向けた。
「これが……俺の過去だ」
幻滅、あるいは怖がられるか……。
どちらにせよ、宗谷はそう覚悟した。 目の前にいるのは紛れもない人殺しに他ならないのだ、どんな経緯があったにせよ彼はその手を一度、血で染めてしまったのだから。
次に来るであろう自分に対する糾弾に備え、宗谷はそっと下に顔を向けて俯いた。
罵声、敬遠の眼差し、嫌悪、どれが来てもいいように覚悟はした…。
そして、返ってきたのは………
「宗谷さん………」
自分を優しく包み込む、イストワールの細く、それでいて暖かな抱擁だった。
「………どう、して?」
「……ごめんなさい、もっと……もっと早くに気付くべきでした……あなたが無理して笑っていることに……」
そっと彼の耳元で、囁くように呟いた彼女の言葉を宗谷は理解できなかった。
なぜ、彼女が謝る必要がるのか…。
それが、彼には理解できなかった……。
「ずっと前から気になっていました………なぜ、あなたのことを見ていると放っておけなかったのか……あなたは辛くても、そう感じさせないように偽りの笑顔を作っていたんですね……」
「違っ……そんなこと……」
「違いません……さっきの笑顔だって、作り笑顔だったじゃないですか」
見透かされていた。
今まで誰にもそう感じさせないように、無意識のうちに手に入れていた自分の笑顔の仮面が、初めて彼女に見透かされたのだ。
「あなたは……本当はそのことを今でも後悔している……そして、怖がっていたんですね……同じことを繰り返すのを……また失うことを……」
「………」
言い返せなかった。
確かに彼は再び殺意に呑まれることを恐れ、大切な存在を失うのを恐れた。
あの時、彼が呑まれかけたのは彼女たちの“死”を直感したから……。
あの状況で、ネプテューヌたちが捕まっているあの場所を見て、彼はすぐに感じ取ったのだ。
このままでは危ない、と……。
それが皮切りとなり、怒りに変わって、彼の思考を暴走させたのだ……。
「………でも、宗谷さん……今のあなたは一人じゃないんですよ?」
「………いーすん」
「みんな……みんなあなたの味方で、家族です……あなたが過去にどんなことをしていたとしても、みんなあなたのことを信じています……」
イストワールはそういうと、彼を包む腕の力をさらに強めた。
彼女の白く、やわらか肌が彼の体に密着するが全然いやらしさは感じなかった。 むしろ感じたのは、優しい、太陽のような暖かな安心感だった……。
「だからもう、無理して笑わないでください………あなたのことは、私が支えますから……」
その言葉を聞いた瞬間、宗谷の中の何かが溢れだした。
それは無意識のうちに目から涙となって流れだし、彼の頬を伝う…。
「………俺は………俺は……」
徐々に震えだした彼の体を、イストワールは再びやさしく抱きしめる。
「……約束したのに……繰り返そうとした………もう、あんな思いはしたくなかったのに………でも、みんなが……みんなが危ないって思ったから……俺……俺……」
「………やっと……やっと自分のことを言ってくれましたね、宗谷さん……」
夜の闇の中で、二人の影は互いに抱き合ったまま、静かな嗚咽の声が止むまで離れることはなかった…。
今まで自分の弱さを隠し、過ちを一人で乗り越えようとした彼が見せた、初めての弱音と自責の念の辛さを、彼女はずっと、ずっと受け続けた…。
彼の涙が枯れる、その時まで……。
「ごめんな、いーすん……あんなかっこで、長いこと……」
「いえ……その、今になって恥ずかしくもありますが……気にしてません」
しばらくして、宗谷が泣き止む頃には二人の服が渇いたので宗谷が落ち着いたのを見計らって二人はそれぞれの衣服に手を通した。
まだ若干晴れている目元を照れくさそうに隠しながらジャケットに袖を通した宗谷は、部屋の窓から外を眺めた。
「………俺は、たぶんこれからもずっとあの時のことを後悔すると思うし……現に今だってまた殺意に呑まれるのが怖い………」
「宗谷さん………」
「………だから」
彼はそういうと、そっとイストワールの方を向く。
「………いざって時は、頼ってもいいか……イストワール」
「………はい、もちろんです!」
夜が明け、朝焼けが部屋の中に差し込み始める。
その日を浴びながら、宗谷は昨日の夜から久方ぶりに強い安心感を得た。
今の自分は一人じゃない、すぐそばには、イストワールと……仲間たちがいる……
(………待ってろよ、みんな……絶対に、助けてやるからな!)
心強いパートナーを手に入れた宗谷は、朝焼けの向こうにある離れ小島に捕らわれた四人に誓った…。
弱さを見せず、強がっていた彼が、初めて心から誰かを頼り、立ち上がった瞬間だった……。
「あ~、あ~、なんだよこの展開! せっかく面白くなってきたってのに……オレは別にこんな茶番見たくねーんだっつーの!」
リーンボックス教会の庭にある一本の木の上、そこに身を隠していた謎の影が気に入らないと言いたげにふてくされ、盛大に舌打ちをした。
「………さぁて、どうすっかなぁ…どうすれば面白くなっかなぁ? このままあいつがお仲間と手を取り合って大勝利ってのは見てて面白くねーしなぁ……」
太い木の枝に寝っ転がるその人物は、小麦色の肌に金色のベリーショートの髪が特徴的な少女だった。
服は黒いワンピースで、背中には黒光りする“蝶のような光の翅”。
「………いや、待てよ……ひょっとしたら……うんうん……うん…おー! いいじゃんいいじゃん! こうすれば面白くなりそうじゃねぇか!」
無邪気な子供のように笑うその少女はなにかいい悪戯を思いついたときのようにわくわくとした笑顔を浮かべた。
そして、その笑顔が浮かぶ彼女の顔……。
「さぁて、面白くなってきたぞ?」
その顔は、イストワールと全くの瓜二つだった……。
いかがでしたか?
……宗谷の過去、重いなぁ……前からこの設定は考えていたものの、いざ本格的に描くとめちゃくちゃ重いと改めて実感しました。
さてと、それでは次回!
再びネプテューヌたちを助ける決意を固めた宗谷、そして、そんな中ネプギアたちはある決心を固め、女神奪還に向けての奮闘が始まる!
そして、新たなヒーローメモリーが……!?
それでは、またお会いしましょう!