前回、その姿を変化させ、変貌を遂げた宗谷。
果たして、彼に何が起こったのか……。
それではお楽しみください!
どうぞ!
「……モード・バーサーク……起動、確認……」
ロボティックが静かに、それでいて驚きを隠せないような感情を目に滲ませて言った。
それはこの場にいる全員が一緒だった。
モード・バーサークの起動、それはトランスを含め、四人が最も恐れた最悪のシナリオだったからだ。
モード・バーサーク、この能力はあまりにも危険すぎる物で、本来は自己防衛……本当に危機的状況に陥った際の保険として組み込まれている能力なのだが、問題はその能力の内容なのだ。
「あれが…起動するなんて……」
トランスは唇を噛みしめながら、自分の目の前でにたにたと子供っぽい無邪気な笑顔を浮かべるクロワールに視線を向けた。
恐らく、その原因を作ったのは彼女なのは確実だ。
「へへっ、案外らくしょーだったぜ? なんせ下準備するためにあいつの部屋に潜り込んだらあいつは精神世界に入ってておねんねだったからな?」
「やっぱり……やっぱり、あんたが何かしよったんやないか!」
それを聞いたエネミーが我慢できなかったのか、ブレードを引き抜いて力任せにクロワールに切りかかった。
だがその刃が当たる直前、クロワールが背中に黒い蝶の翅を展開し、その攻撃を回避した。
そのまま空中に浮かび上がった彼女はその場で胡坐をかいてエネミーを見下ろす。
「おいおい、いいのか? オレを切っちまったらお前らが欲しがってる“ラスボス”の情報が手に入らなくなっちまうぜ?」
「うっ………こんの!」
「やめてください、エネミー」
「けど!」
「ヤエ! ……落ち着いてください」
強めの口調で言ったトランスの言葉に、エネミーはそれ以上は何も言わずその場は大人しく引き下がった。
クロワールは彼女たちを見下ろしながら空中に寝っ転がったりしてにやにやと笑っている。
トランスたちはそれを見上げることしかできなかった…。
すると、トランスが自分たちのいる岩場のすぐそばでシンシアが一人うずくまっているのに気付いた。
「………ぅ……ひぅ」
「シンシア……」
「こわい……ライラぁ……こわいぃ……」
シンシアは何かを感じ取っているのか、さっきまでと打って変わってかなり怯えている様子だった。
やはり、宗谷の中に隠されていた“力の源”に過敏に反応しているのだろう。
それも当然だ、何せあの力は通常の彼とは違い、その大本となった“魔神”の力を色濃く反映させたものなのだから。
しかし、一度は安定したというのに、どうして急に心のバランスが崩れたのか謎が残る…。
「……せめて、教えてくれませんか?」
「あ? 何をだよ?」
「………少年くんがなぜモード・バーサークに至ったのか、どうやって至らしめたのかを」
トランスが思い切って、一番可能性のあるクロワールに一か八か聞いてみる。
すると、
「なっ! い、言えるかよ、そんなこと! 思い出させんじゃねー!」
急にクロワールが頬を赤く染めて取り乱し始めた。
これにはさすがに先程までシリアスモードだった彼女たちも呆気にとられている。
「だ、だって……あいつの部屋に入ったはいいけど、あいつ寝てるし、口に突っ込んでも飲み込ませられねーと思ったから……仕方なくやったんだけどさ……そ、そりゃあオレと白いあいつは似てるから好みも似るのかもしれねーけど、別にそう言うんじゃなくて仕方なくやったんだよ! 悪いか!」
「いや……全く話が見えへんねんけど…?」
「あーもうくそ! と、とにかくこれからおもしろおかしいことになるから、そっちを見とけ!!」
早口になって捲し立てるクロワール、果たして彼女は何をしたというのだろうか?
気になるところではあるが、今はそれよりも………。
「………宗谷、さん?」
イストワールが見つめる先、そこにはいつもの赤い装甲とは違う、黒い姿に身を包んだ宗谷の姿があった。
今までとは明らかに違う、名状しがたい重苦しい雰囲気。
それが今の彼から放たれている。
宗谷はそっと立ち上がると、ゆっくりと首を動かし、周りを見渡し始める。
フルフェイスのヘルメットの目の輝きもまるで血走っているかのような赤い光に満ちている。
そして、その血のような赤い目がマジェコンヌを捉えた所で止まった…。
「………」
すると、彼が身を低く落とした体制にして身構えた、地上まで降りていたマジェコンヌが宗谷の異変を感じ取りながらも余裕を見せるような笑顔で槍に変質させた武器を構えた。
「……ふん、姿を変えたようだが…所詮はこけおどしの様だな? なんだその構えは? 脱力しきっていて、隙だらけだぞ?」
彼女の言う通り、今の彼の構えは両手をだらんと下げて腰を落としただけの状態で冗談でも構えとは言えない体制だった。
ファイティングポーズとはかけ離れた体制にマジェコンヌはこけおどしと判断したようだ。
確かに、防御に転じるような構えでも攻撃に移せるような構えでもない今の彼の姿はこけおどしと思われても仕方がない。
「そんなに隙を見せているなら……こちらから行かせてもらうぞ! “レイニーラトナビュラ”!」
そんな宗谷にとどめを刺すつもりか、マジェコンヌがベールの得意技を発動させて迫る。
ベールの得意技に匹敵する高速の槍撃が彼に迫る。
だが、
―――ドンッ!
「なっ………がっはっ…」
あまりにも、一瞬の出来事だった……。
瞬きすら間に合わなかったかのような、本当に一瞬の出来事。
マジェコンヌが宗谷を攻撃しようと前に出た瞬間、それよりも早くに地を蹴っていた宗谷が一瞬のうちにマジェコンヌの懐に潜り込み、その鳩尾に強烈な拳を撃ち込んだのだ。
「え……?」
「なに……今、何が起こったの?」
「そうや……お兄ちゃん?」
「早すぎて見えなかった……」
あまりにも突然のことで女神候補生の四人も困惑しているようだった。
彼女達の目でも捕らえられないほどの速さを見せた宗谷の攻撃、それは明らかに今までの彼とは比べ物にならないの……いや、今までの彼にはなかった能力だった。
だが、宗谷の変化はこの速さだけに留まらなかった……。
「………!」
「ぐっ! うおおおおおっ!?」
そのままマジェコンヌの両肩を掴んでさらに鳩尾に膝蹴りを叩きこみ、腹部を抑え怯んだ彼女にアッパーカットを決めて空中へと打ち上げた。
高く打ちあがったマジェコンヌに、宗谷は容赦なく次の追い討ちをかける。
膝を大きく曲げてしゃがみ込み、そのまま大きくジャンプすると、今までの彼では考えられなかったほどの高さまで飛び上がり、一気に打ちあがったマジェコンヌの元まで追いついてしまった。
さらにそこからマジェコンヌの頭部を蹴り上げ、左右の拳を大きく振るい、とどめに体ごと大きく前に回転して勢いをつけた鋭い踵落しを決めてマジェコンヌを地面に叩きつけた。
今までの彼とは似ても似つかない、容赦のない戦い方。
急所を的確に狙った戦い方に、その場にいたイストワールとケイブ、そしてパープルシスターたちは何か恐ろしいものを感じた。
「うぐぅ……なんだ…この、パワー……どこから!」
今までダメージを受けなかったマジェコンヌが明らかにダメージを負った様子で立ち上がった。
空中からそのまま落ちてきた宗谷は難なく地面に着地すると、また構えを取らずにマジェコンヌを見つめる。
「ちぃぃ………舐めるなぁ!!」
激昂したマジェコンヌが武器を焼失させ、腰にシャドームーンのシャドーチャージャーを出現させると素手になった両手を宗谷に向ける。
そして、手の平から湧き出した緑色の電撃が宗谷目がけて襲い掛かろうとするかのように漏れ出し、放たれた。
「………ッ!」
すると、宗谷はまた身を低く落とした。
だが、今度は両手を腰だめに構え、何か力を込めているようだった。
すると、程なくして背中にあったウィングユニットが展開する。
そして、そこから赤黒い光が発生し、それはバランスの取れていないようではあるが翼の様な形を形成した。
「シャドービーム!」
マジェコンヌが宗谷に向けてシャドービームを放つ。
ギザギザと雷のような軌道を描きながらシャドービームが宗谷に迫る。
しかし、
「な………なんだと!?」
マジェコンヌの攻撃が当たることはなかった。
なぜなら………。
光の翼を展開した宗谷は今、残像が見えるほどの速さで移動しているからだ。
シャドービームによる攻撃を、縦横無尽に動き回って次々に回避していく宗谷。
あまりにも早すぎて目で追いつくことも叶わず、残像を目にするのがやっとのマジェコンヌは今宗谷がどの位置にいるのか把握する事すらできなかった。
故に、
「ごはぁっ!?」
すぐ目の前に近づいてきていたことすら気づかなかった。
勢いを乗せた素早い突きがマジェコンヌの顔面、左頬の下あたりにクリーンヒットしマジェコンヌはそのまま後ろに吹き飛ぶ。
だが宗谷は再び残像を引きながらその後を追うと、マジェコンヌの足を片手で掴み、ぐるぐるとハンマー投げよろしく回転し、そのまま彼女を軽々と岸壁まで投げ飛ばしてしまった。
マジェコンヌは岸壁に激突し、岸壁はその衝撃で崩れその場にもうもうと土煙が立ち込める。
スピード、パワー、そして戦闘スタイル。
どれもが今までの宗谷とは、段違いに変化していた。
「あれは……本当に、宗谷さんなの?」
パープルシスターが宗谷の変貌ぶりに驚き、目を見開く。
今までの彼とは違う戦い方を見せた今の宗谷は、彼女たちにはまるで別人のように見えたのだ。
「……なんだか…怖い…」
「そうやお兄ちゃんじゃ、ないみたい……」
ホワイトシスターたちもパープルシスターと同じように今の宗谷が別人のように見えている様だ。
すると、また宗谷がゆっくりと首を動かし始めた…。
そして、パープルシスターたちを見つけるとそこで首を止めると、体をパープルシスターたちに向けて対峙する形を取った。
何を喋るわけでもなく、ただただ、見つめている…。
だが、この時の宗谷は今までの宗谷とは全く違う“別の存在”へと変貌していた。
今の彼にとっては………
「ゥゥゥゥゥ………ウオオオオォォォォォォォォオオオオ!!」
彼女達も“敵”でしかなかった。
排除すべき、敵としか………見えていなかった。
天に向かって獣の如く吠えた宗谷は両手をばっと広げると、両腕の装甲が開き、そこから赤黒いエネルギーブレードが発動した。
手首から肘のあたりまで伸びる赤い刃を構え、宗谷はパープルシスターたちに迫った。
「えっ!? そ、宗谷さん、どうしたんですか!?」
「ガァァァァァァァアアア!!」
一気に残像を引く速さで接近した宗谷はまるで理性のない野獣のような叫びを上げながら腕のブレードをパープルシスターに振り下ろした。
間一髪の所でなんとか銃剣で受け止めたパープルシスターだったが、あまりにも重い攻撃を押し返すことができなかった。
「そうやお兄ちゃん、どうしたの!?」
「私たちのこと……忘れちゃったの!?」
「ッ! ハアアアアアア!!」
「きゃあ!」
ホワイトシスターたちが宗谷に呼びかけるが、それを聞いた彼は開いているもう片方の腕を二人に向けて振るって三日月形の斬撃を飛ばし、二人を攻撃した。
なんとか間一髪で攻撃を回避することはできたが、目標を見失った斬撃はそのまま彼女達の後ろにあった大きめの岩を両断してしまった。
躊躇なく、しかもあのような危険な攻撃をした彼の行動を見たパープルシスターはあまりのことで動揺してしまった。
その動揺が腕に込めていた力にぶれを生み、宗谷がパープルシスターの銃剣を押し返し、彼女に鋭い蹴り込みを打ち込んだ。
「うっ……あうっ!」
「ネプギア! このっ!」
「やめてユニちゃん! 撃っちゃダメ!」
地面を転がり、倒れたパープルシスターを見てブラックシスターが反射的に銃を構えるが、それをパープルシスターが制止する。
その声を聴いたブラックシスターは今銃口を向けた相手が宗谷であることを今一度確認し、慌てて銃を下ろした。
「ウゥゥゥゥゥァァァァァアアアアアアアア!!」
「くっ……! どうしたら……!」
パープルシスターを襲った宗谷は狙いを今度はブラックシスターに変えて両腕のブレードを振りかざして攻撃し始めた。
鋭い切断力を持ったエネルギーブレードが駆け巡り、ブラックシスターを切り裂かんと迫る。
彼女はその攻撃を銃で防御するか、あるいは回避に専念するかで何とかやり過ごし続ける。
すると、突然宗谷の両腕に氷でできた鎖が巻き付き、彼の動きを止めた。
「そうやお兄ちゃん……!」
「そのままじっとしてて!」
ホワイトシスターの二人が氷魔法を鎖型に生成し、彼の両腕に巻き付けたのだ。
だが、当の宗谷が二人の言葉を聞き入れるような様子は見られず、巻き付いた氷の鎖の呪縛から解放されるべく、暴れ続ける。
かなりの力が氷の鎖にかかっているのか、ぎしぎしと言う音を立てながら氷の鎖は今にも千切れそうだ。
「だめ、ロムちゃん…もう、持たない!」
「諦めちゃ、だめ……! 頑張ってラムちゃん………!」
二人の魔力も限界か、そう思われた時だった。
宗谷の両腕に巻き付いていた氷の鎖に白い光が灯った。
別の何者かの魔力が付与された証だ。
「いーすんさん!」
地面に倒れたパープルシスターが見つめる先、そこにはホワイトシスターの後ろに立って魔力を鎖に流し込むイストワールの姿があった。
「二人とも、頑張ってください…、なんとかして堪えるんです!」
二人を叱咤するイストワール、その言葉を聞いたホワイトシスターの二人もありったけの魔力をつぎ込んで鎖が千切れないように魔法を強化する。
「ウウウゥゥゥ………ウルゥゥゥォォォォオオオオオオオオ!!」
しかし、宗谷が吠え、両腕を勢いよく振った瞬間。
腕のブレードが腕に巻き付いていた魔力によって強化された氷の鎖をいとも容易く切り裂いてしまった。
「「「きゃああああ!?」」」
魔法が強制的に弾かれた反動で、魔力を注いでいた三人はそれぞれの方向に弾き飛ばされてしまった。
そして、両腕の拘束が外れ、自由になった宗谷が次に視界に捉えたのは……。
イストワールだった。
「ウゥゥゥゥ……」
両腕のブレードを構え、イストワールへと近づく宗谷。
地面に倒れたイストワールは、それに対してじりじりと後ろに後退するが逃げれるような距離は持っていない。
まるで別人のように変貌してしまった宗谷、自分の愛する人を目の当たりにしたイストワールの瞳に自然と涙が浮かび上がる。
「一体……一体どうしたんですか宗谷さん! 目を……目を覚ましてください! 元の優しい……元の宗谷さんに戻って!」
感情を高ぶらせた彼女の言葉が宗谷に向けて言い放たれるが、今の宗谷はその言葉を聞いても止まる気配がない。
いや、むしろ聞こえているかどうかすらもわからない。
今の状態の彼を止める者はいないのか……。
いつの間にか、宗谷とイストワールの距離は完全に埋まってしまい、宗谷が腕を振り下ろせば彼女は確実に大けがを負ってしまう間合いまで埋まってしまった。
ゆっくりと宗谷の右腕が振り上げられ………。
「やめて宗谷さん!!」
勢いよく振り下ろされた瞬間、イストワールと宗谷の間にパープルシスターが割って入り、銃剣のビームサーベルでその刃を受け止めた。
「いーすんさんの言う通りです、あなたは……こんなことをする人じゃないはずです! 思い出してください宗谷さん……あなたが、何のために戦う決意をしたのかを!」
必死になって宗谷に呼びかけるパープルシスター。
だが、その言葉も彼には届かなかったのか、開いている左手で銃剣を押し上げ、パープルシスターに回し蹴りを撃ち込んで蹴り倒すと、とどめを刺すつもりなのかブレードを構え、パープルシスターに狙いを定める。
もう、どうあっても彼は止まらないのか……。
パープルシスターが宗谷の目を見つめ、やがてギュッと目を閉じた。
「ウオォォォォォォォォオオオオオオ!!」
宗谷の咆哮と共に、腕のブレードが振り下ろされた……。
「だめです! 宗谷さん!!」
その瞬間、今度はパープルシスターと宗谷の間に防御をするための武器を持っていない状態のイストワールが割って入った。
危ない、このままでは………。
誰もが危機を感じ、息を飲んだ………。
振り下ろされた彼の腕の赤い刃は、そのままイストワールへと迫り……。
四女神が捕らわれた、アンチクリスタルの結界。
ここでは、アイエフとコンパの二人がこっそりとその場に近づき、女神奪還を成すために奮闘していた。
見張り兼様子見としてその場に残っていたワレチューの注意を引きつけ、なんとかここに辿り着いたアイエフは持っていたハンドガンを至近距離で乱射し、結界を破壊すべく尽力していた。
「このっ……この!」
「あいちゃん、私も手伝うです!」
そこへ、コンパも参戦し持ち前の極太の注射器で結界を突き始める。
「コンパちゃん……悲しいけど、それ無駄なのよねっちゅ?」
「二人とも、急いで!!」
「んぢゅっ!?」
二人の様子を寝転んで傍観していたワレチューを踏みつけながら、遅れて駆け付けたケイブが二人に声をかけた。
「ケイブ? どうしたのそんなに慌てて……宗谷達は?」
「それが……彼の様子がおかしくなってしまったの」
「え? どういうことです?」
「わからないわ……ただ、突然彼の身体から黒い炎みたいのが湧き出したと思ったら、姿が変わって……そしたら敵味方関係なく無差別に攻撃を始めたのよ」
ケイブからの報告を聞いたアイエフとコンパは驚きのあまり、目を見開いた。
あの宗谷がそんな状態になるなんて思ってもみなかったからだ。
いや、ある意味その兆しはあったように思えた……。
アイエフは昨夜ここに来た時に宗谷に起きた異変を見ていたからだ…。 もし、それが暴走の兆しだったのだとしたら。
「宗谷……どうしたってのよ……!」
「ああ! アイちゃん! ねぷねぷが!」
コンパがアイエフを呼び、結界の中の方を指さした。
アイエフが見ると、もうすでに中にある黒い闇はベールとブランの二人を飲み込み、次はノワールとネプテューヌを飲み込もうとしているところだった。
既に全身が黒い腕にからめとられ、体の感覚も完全になくなっていた。
ただ、冷たい…。
その感覚だけが、ノワールとネプテューヌには残っていた……。
咄嗟に掴んだブラン、そしてベールの腕、そして、今やっとやっと掴むことが互いの手の感覚も今はちゃんと握れているかどうかも怪しいほどに感覚は薄れていた。
だが、残された意地だけでその手は離さない、それだけは確かだった。
「いや………ネプ、テュー……ヌ……」
「ノ……ワー……ル………」
互いを見つめ、名前を呼び合うも意識がどんどんと遠のいていく。
そんな彼女たちは最後、結界の外で繰り広げられている戦場の中で………。
―――ウォォォォォォォォォォォオオオオオオ!!
変わり果てた姿となり、天に向かって吠える、宗谷の姿を見た……。
「そ……う………や……ごめん………ね」
その言葉を最後に、ネプテューヌは………意識を失った。
宗谷が振り下ろした腕が、イストワールに迫る。
赤い刃は彼女の体を切り裂き、その腕を鮮血で染めようとしている……。
誰もが、もう間に合わない……そう思った。
その腕が突然、止まったのだ。
彼女に当たる、その寸前でぴたりとその腕の動きが止まったのだ。
「………?」
咄嗟のことでネプギアを庇うように二人の間に立ったイストワールは急に訪れた静寂に疑問を抱き、閉じていた目をそっと開いた。
そして、目の前にいたのは、自分に腕のブレードを振り下ろそうとした状態で止まっている宗谷の姿。
ただ、その腕は小刻みに震えている。
まるで、何かを堪える様に………。
「グ……グ、ゥゥゥ……!」
「宗谷……さん?」
「ウゥゥ………ウゥゥゥゥウウウウ!!」
突然、宗谷が二人から狙いを外し明後日の方向を向いたと思ったら何もいない空間に腕を振り、やたらめったらに暴れはじめたのだ。
標的がいない空間をうなり声と叫びを上げながらブレードで切り裂く。
一体どうしたのか、あまりのことでその場にいた5人が呆気にとられていると……。
「ハ………ハナれ、テ……くレ……ミんな!」
「え………宗谷さん!」
初めて宗谷がこの状態になって言葉を発した。
声を出すのがやっとのような喋り方だったが、その言葉にははっきりとした意味が込められていた。
「宗谷さん、意識が……戻って……!」
「グゥゥゥ……ウゥゥゥゥウウアアアアアアアア!!」
だが、すぐに宗谷はまた暴れ出してしまった。
果たして今の彼には宗谷自身の意思があるのかどうか……。
パープルシスターとイストワールが立ち上がり、宗谷に駆け寄ろうとするが宗谷はすぐに二人の気配に気づいて両腕のブレードを振りかざし、身構える。
やはり、まだ彼は暴走した状態なのか……。
反射的に二人は再び身構えるが、
「ウゥゥゥゥ………ウッグゥゥゥゥウウウ……!!」
今度は腕を無理矢理抑え込むように宗谷はその場に蹲った。
二人はその様子を見て宗谷がまた別の戦いを始めたことに気付いた。
暴走した己自身を抑え込むために、彼は己自身を必死に抑え込もうとしているのだ…。
しかし、あれほどのパワーを引き出した今の状態の彼を無理矢理にも止めるのは至難の業だ。
例えそれが宗谷自身であっても、意識を無理矢理に繋いだとしても、今の状態の彼を見るにそれがかなりの負担をかけているのは容易く見て取れる。
「宗谷さん………」
イストワールは祈った。
彼が何とか意識を、自分を取り戻してくれることを…。
だが、
「ウォォォォォオオオオオオオオオオ!!」
宗谷は再び方向を上げ、二人へと襲い掛かった。
両腕のブレードが彼女たちに迫るが、イストワールの隣にいたパープルシスターがブレードが二人に当たる前に銃剣で受け止める。
「負けないで……ください! 宗谷さん!」
今の状態になった宗谷ではなく、その奥にいるであろう宗谷自身に呼びかけながらなんとか宗谷のブレードを押し返すパープルシスター。
だが、宗谷はそれで止まることなく、再び彼女に襲い掛かろうと両出を振るい、パープルシスターを責めたてた。
どんどんと彼女を押していく宗谷。
すると、
「宗谷さん、お願いです……元に、戻って……頑張ってください!!」
背中を見せた隙を突き、イストワールが後ろから彼に抱き付いた。
動きを止めるのと、すぐ近くで彼に呼びかけるためだ。
だが、いかんせんイストワールはそれほど力を有していない、故にすぐに宗谷は彼女を振り払おうと暴れまわり始める。
「グゥゥゥゥゥ……ウォォォォオオオオオ!!」
「きゃあ!」
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
彼女を容易く振り払った宗谷は両腕のブレードをめちゃくちゃに振り回し、当たりに斬撃を飛ばして再び暴れはじめた。
幸い、誰にもあたることはなかったがその勢いはどんどん増しているようにも見える。
「ウッ……ウァァ……ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
やがて、暴れるのをやめて今度はもがく様に腕を振りまわし始めた。
もはやその姿は、奮闘しているというよりも苦しんでいるようだった。
そして、右腕のブレードを天に向かって掲げ、吠える宗谷の姿はヘルメットの下の顔が泣いているように見えた。
この叫びは、宗谷の心からの悲しみの叫びだ……。
「宗谷さん………!」
彼の苦しさ、辛い過去、それらを理解しているイストワールは今の彼の悲しみが理解できた。
本当はこんなことをしたいわけじゃない、今すぐに止めようにも止め方が分からない。
そんな彼の心境を体現したかのような、心からの叫び……。
気付けば、イストワールの目からも涙が溢れていた。
「アアアアアアアアアァァァァァァ……! ウッ……ウオォォォォ……!」
やがて宗谷の動きが再びぎりぎりと少しづつ動き始めた。
右腕がぶるぶると震えながら、また戦闘態勢に入ろうとしている。
そして、右腕のブレードが180度回転し、前の方に伸びた形態に変形した。
よりリーチが長くなったその武装を宗谷はイストワールに向ける。
辺りにアンチクリスタルから発生した、アンチエナジーが立ち込める中、宗谷は再びイストワールにじりじりと迫る。
そして、
「ウォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
咆哮と共に、そのブレードが振り上げられ………
―――ザシュッ……!
深々と突き刺さった………。
「ア……アガ………ガフッ!」
「………うそ」
宗谷の腹部に……。
彼は自分で、自分を貫いたのだ……。
右腕のブレードが装甲を貫き、深々と宗谷の腹部に突き立っている。
そして、そこから赤い液体が滲み始め、地面に滴り落ち、血だまりを作り始める。
「……ご……めん……な………これしか……止める、方法……思い……つかなかった……」
自分で自分を貫いた宗谷が静かにそう呟いたのを、イストワールは聞き逃さなかった。
そして、致命傷を負った影響で彼女の目の前で変身を強制解除させた宗谷がその場に静かに倒れ伏した。
「そんな………宗谷……さん………」
徐々に広がっていく血だまりの上に倒れた宗谷、イストワールはゆっくりと…そして、ふらふらと彼に近づいてそっと彼に手を回し、抱き上げた。
アンチクリスタルの結界も、気づけば黒く染まっていた。
イストワールだけじゃない、周りにいた女神候補生の四人もその瞬間を見ていた。
「お姉、ちゃん………宗谷さん……そんな……いや……こんなの…!」
パープルシスターがその場に崩れ落ち、顔を伏せる。
そして、イストワールは膝の上に宗谷の頭を乗せて、顔にかかっている前髪をそっと除けて彼の顔を見る。
その顔には、もう生気が感じられるような色はなかった……。
暴走で体力を使い、あまつさえこんな大けがを負ったのだ……当然と言えば、当然だ。
「宗谷さん……? 目を……開けてください……宗谷さん……お願いですから……目を開けてください………起きてください! 宗谷さん!!」
必死になって宗谷に、愛する人に呼びかけるイストワール。
しかし、どれだけ体をゆすっても、どれだけ強く呼びかけても、どれだけ涙を流しても、彼の意識は戻らなかった………。
「いや………いや………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
暴走の果てにあったのは………真っ暗な絶望の闇だった………。
いかがでしたでしょう…?
……まあ、はい、言いたいことは山ほどあるでしょうけど、これでいいのです。
すべては次回!
vsマジェコンヌ編、ラスト!
生死不明の状態になった宗谷の運命はいかに!!
次回でお会いしましょう!!
それでは!!