さて、今回のお話の中心は前回出てきた、“彼”です。
彼がどんな人物なのか、今回のお話で明らかになります。
そして、最後の方には………。
それでは、お楽しみください。
どうぞ……。
かつて、このゲイムギョウ界がまだ世界として成り立ったばかりのころ、生まれたばかりの世界に舞い降りた5人の女神が作り上げた5つの国は……まだ混沌とした関係を築いていた。
どの国がこの世界のすべての覇権を握るに値するか、女神たちは我が国が……我が一番だと競い合い、やがてそれは激しい争いとなって世界を戦乱の渦の中へと巻き込んでいった。
力を持ってして敵を傷つけ、踏みにじり、証明する。
それこそが、世界の理だと………彼女たちは信じて疑わなかった。
だが、その戦乱の中で物語は動き始めた。
“タリの女神”が最初にその力を失ったことを皮切りに、残された四人の女神はあることに気付いた。
……“コンファー”の女神、“ライラ”。
……“メガイブ”の女神、“ヤエ”。
……“ウラノイア”の女神、“ステラ”。
……“セサン”の女神、“シンシア”。
四人の女神が気づいたこと、それは………自分たちがしたことそのものだった。
なぜ、自分たちは争わねばならなかったのか……。
なぜ、競い合わねばならなかったのか……。
なぜ、世界を手に入れようとしたのか……。
本当はそんなことどうでもよかった、ただ気づいたときにはもう遅かった…。
残された四人の女神はシェアエナジーをほとんど失い、争いにばかりに気を取られ国民への信頼をなくした彼女たちはもう女神ではなくなってしまったのだ…。
世界が再び、秩序の混沌に落ちた瞬間だった……。
「っ!」
誰もいない、自分だけしかいない部屋でシンシアは目覚めた。
机に突っ伏すような体制でうたた寝をしてしまっていたらしい彼女は上半身を飛び跳ねさせるようにして目を覚ますと額に滲む冷や汗を手の平で拭った。
「………また、あの時の夢……」
たまに大昔に起きたことがフラッシュバックするかのように夢に出てくるのは、よくあることだった。
自分の犯した過ちの大きさ、世界を混沌の渦へと巻き込んだ罪悪感、そして………
“本当に成すべきことを見失ったこと”に対する罪悪感と、“自分たちが争わねばならなかった理由”に対する怒り……。
それらすべてが夢を見たことが蘇ってしまう……。
「………もう、やだ」
わかっていてもどうしても昔の自分が嫌になる……。
それ程までにシンシアは自分を好きになることはできなかった。
唯一自分らしいことができることと言えば、好きな絵を描いている時だけ……、ふとそう考えたシンシアは机の上に置いてうたた寝する前に書きあげたイラストを見下ろす。
今回のは珍しく純愛がテーマだ、二人の男女が互いを求めるように見つめあって、抱きしめあい、一つになる…。
言葉だけでいえば単純だ、でもその奥には奥深いストーリーがある。
彼女はイラストを描く中でその物語を一人で妄想するのも好きだった。 ちなみに、今回のイラストに使用したモデルは今の黒の女神、ラステイションのノワールだ。
「………でも、そんなの……だれもわかってくれないよね」
ふとそう呟いてイラストをいつも書いた後に保存用に使うバインダータイプのファイルに挟もうとした時だった………。
―――すっげーうまいよ! シンシアのイラスト!」
以前にプラネテューヌの近くの森で彼に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。
この世界の運命を左右するかもしれない力を秘めた彼、宗谷の言葉が………。
「………ほんとうに変わった人だったなぁ………」
初めて会ったときはどんな人か不安に思った、でも実際に会ったらまっすぐできれいな目をしていた。
………自分たちを救ってくれた、彼と一緒の目をしていた。
シンシアはそんなことを思い浮かべながら、ふと壁に賭けられた時計を見る。
「あ、そろそろ帰ってくる………いかないと……!」
時間的にそろそろ“彼”が帰ってくるころだ。
今後のことも相談したいとライラも言っていたし、今回ばかりは自分も行かなければならない……。
最近はそれほど期間を開けずにライラたちと出会っているからそれに対しては緊張しないが、彼と会うのは久しぶりなのでそちらの方では若干の緊張がある。
シンシアは椅子から立ち上がり、ドアの方に向かうとゆっくり深呼吸をしてからドアを開けた。
シンシアたちが住む今現在の拠点、そこには時折今後の予定について話し合うための会議に使う、所謂会議室と言うものが設けられている。
ここ最近使う機会が少なかったこの部屋だが、今日は久々にここで四人の守護女神と彼を交えた会合が開かれるのだ。
議題は今後の宗谷に対する予定を変更するか否かについてである……。
この決定次第で今後のゲイムギョウ界の運命を左右するかもしれない重要な内容なだけあってシンシアの不安も高まる。
重い足取りで会議室までたどり着いたシンシアは大きくため息をつきながらお目の前にある大きな扉を押し開けた……。
「うぃ~………もうやってられませんよほんとにも~……ひっく」
シンシアの中にあったシリアスな空気が一気にぶち壊れた…。
何しろ部屋の中に入った途端、長机に突っ伏した状態で愚痴をこぼすトランス、ライラがいたからだ。
しかも、彼女の周りには空になった酒の空き缶が転がっている。 これは確実に酔っているようだ……。
「………昨日からこんな、状態」
「はわっ! ………ロボちゃん、いたんだ」
奥の方にいるライラとは違って、近場にいたロボティック、ステラがシンシアを横目で見ながら端末をぽちぽちといじる。
「予定が狂ったストレスが、原因………浅はかな、駄肉」
「あ……そうなんだ……」
何気にこの中で体の年齢が一番上のライラはこのようにストレスを溜めこむと酒に溺れるという悪癖があった。 同じような年頃のエネミー、ヤエはそのようなことがないというのに……。
「うぅ~……ん? おんやぁ? 誰かと思えばシンシアではありませんかぁ……♪」
「ひっ……!」
「ほらほら、そんなに離れてないでぇ、こっちに来なさいな……ひっく」
この絡み癖も悪癖の一つだ。
シンシアはその恐ろしさが分かっているので若干後ずさっていつでも逃げる体制に入る。
捕まれば最後、何をされるかわかったものじゃない。
「い、や………わ、わたしは……ここで…」
「ほぉ、私の誘いを断ると……お子様のくせに、生意気ですよーー!!」
「や、やぁぁぁぁぁぁああ!?」
ライラが悪癖を全開にさせてシンシア目がけて飛び掛かってきたので、シンシアは彼女に捕まるまいと会議室から飛び出す。
運動は得意ではないシンシアだが、今回ばかりはそうは言ってられない…。 泥酔した彼女に捕まるよりマシなのだ。
だが、非常にも現実はシンシアを助けてはくれない。
足が極端に遅いうえに、一本道の長い廊下、状況は体力的に劣るシンシアが圧倒的に不利だった。
「シンシア、ゲットです!」
「ひにゃぁぁぁぁぁぁ!?」
早くも捕まったシンシアは後ろからライラに飛びつかれ、地面に前倒しに転倒する。
「ふぇぇ……ひうっ!?」
しかも、いきなりシンシアのエプロンドレスの中にライラの手が侵入してきた。
服の中でシンシアの脇腹からさらに上の胸へとライラの腕が滑るように動き始める。
「シンシアぁ……あなたいつも部屋に籠ってエロいイラスト描いてばかりじゃないですかぁ……そんなに興味があるなら私が手とり足とり教えてあげますよぉ?」
「やぁ…わ、わたし、そんな…つもりで……描いてな…ふにゃっ…!」
「こんなに敏感な体しといて何を言いますか、体は正直ですよ?」
「あうっ、や、め………はにゃっ!?」
ライラの腕の動きに合わせて、シンシアのエプロンドレスの胸にできた無造作な膨らみが不規則に動き続けている、さらに言えば彼女の耳元でライラが吐息を時折吹きかけるので余計にその様子は……なんとも艶めかしい。
片方はまだ幼さを残しながらも体が発育を初めて間もないという少女、そしてもう片方は発育を経た結果、豊満な体を手に入れた大人な女性。 この二人が絡み合う光景は相反する構図の様でありながらも、相乗効果によりかなり刺激の強い光景を生み出してしまっている。
「ふえっ! や、らめ……! らいら、そこは……りゃめぇ……!」
「んふふふ……さあ、あなたの秘密の花園はどんな光景なのか、見せてもらいましょうか?」
暴走したライラの右手がシンシアの太ももから内股へとするりと入り込み、彼女のすらりとした足を隠すロングスカートをめくり上げながら“ある場所”へと入り込もうとしている。
このままではシンシアの貞操と年齢制限がいろいろと危ないことになってしまう!
果たして、どうなるのか………。
「やめんかいこの酔っ払いが!」
「あべしっ!?」
案外、あっさりとその危機は去った。
鋭いツッコミと共にヤエが放ったカーボンブレイドの峰打ちがライラの首筋にクリーンヒットした。
それにより、彼女はその場にがくりと意識を失って倒れた。
「はぁ……はぁ……あ……ヤエ、さん……」
「まったく、これやからほどほどにしとけ言うたのに、ほんまにこのあほんだらは……レヴォ……シンシア、大丈夫か?」
「う、うん………」
上気した顔で息を切らせながら、シンシアは着崩れた衣服を直しヤエにお礼を言うとその場にそっと立ち上がった。
「あはは……まだライラの絡み癖は治ってなかったんだね」
「あ………」
カーボンブレイドをコートの下に収めるヤエの後ろから、“彼”の声が久々に聞こえてきた。
視線を彼女の後ろに向けたシンシア、するとそこには数カ月ぶりに見る苦笑いを顔に浮かべた彼が立っていた。
「あ、シンシア、久しぶりだね?」
「う、うん………久しぶり」
「ちゃんとご飯食べてる? 夜更かししてない? ……あ、前よりも肌が白いんじゃないかな? ……もう、たまには外に出ないとだめだよ?」
「あう……ぅ」(こくり
軽いあいさつの後、いきなりシンシアに質問攻めをする彼に若干押されながらもシンシアは小さく頷いて答えた。
「パパ………!」
すると、シンシアの横を通り過ぎ、久々の再会に耐えられなかったのか、ステラが目の前の彼に飛びついた。
「おわっ、と……ステラも久しぶり、元気だった?」
「……うん、元気」
飛びついてきたステラを抱き留めながら会話する彼と、珍しく笑みを浮かべるステラ。
親子と言うよりか兄妹のように見える二人の再会を見たヤエとシンシアは互いに視線を合わせてにこりと笑顔を浮かべる。
ステラはかつて彼と関わり、共に過ごした経緯から彼のことを“パパ”と慕い、本当の父親のように信頼している。
いつもは冷静でクールな性格が目立つ彼女だが、今はまさに親との再会を喜ぶ子供そのものだった。
ここに、かつてゲイムギョウ界の歴史に記された太古の女神とそれを次元の彼方に送った魔神が揃った……。
「あ~…こほん…ほな、全員がそろった所でさっそく今後の予定についての緊急会議を……」
「あ~あ~、ライラったらこんなに飲んで……あまり飲みすぎると体に毒なんだからほどほどにしときなよって言ったのに……とりあえず、このあたり掃除しないと……ステラ、シンシア、そっちお願い」
「うん………SARUTOBI、手伝って……」
『……御意……』
「あうぅ………お酒くさい……」
ヤエの峰打ちによって伸びてしまったライラに変わって、責任を取ってヤエ本人が議題のついての進行をしようと前に立つ。
だが、部屋に散らかった空き缶の山を見た彼は見てられないとばかりにその掃除を始め、ステラとシンシアの二人もそれを手伝い始めてしまった。
「……あの、今後の予定について……」
「うわっ、缶だけじゃなくてボトルまで空けたの!? あ~もう、これゴミ袋分けないとな……部屋もだいぶ埃が溜まってきてるし、この際本格的に掃除しようかな?」
「パパ、ゴミ袋……持ってきた」
「おお、ありがとう、ステラ、SARUTOBI! じゃあ、SARUTOBIはボトルの方選り分けといてくれる? ステラはシンシアと一緒に空き缶をお願い、あ、ちゃんと缶のプルタブを外して踏んで潰してからね?」
『……御意……』
「ぅ……ちゃんとできるかな……」
「大丈夫……ギガントールが、いる」
「さて、僕は部屋の掃除の方を……」
そろそろ本格的な大掃除が始まりそうだ…。
だが、
「あんたら掃除しとる場合かぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
我慢の限界を超えたヤエが大声と共に鋭いツッコミを入れた。
三人とお付きの二機はその声に驚き、掃除の手をいったん止めて彼女の方に向き直った。
「び、びっくりした……もう、だめじゃないかヤエ、急に大声なんて出したら、シンシアがびっくりしちゃったじゃん」
「ふえぇ……」
「大声も出すわ! これからこのゲイムギョウ界を左右するかもしれん予定について話そうっちゅうてんのにのんきに掃除しとる場合ちゃうやろ!!」
彼の後ろに隠れて涙目になっているシンシアにお構いなしでそう捲し立てるヤエ、しかし彼は特に動じるような仕草を見せず、柔らかな笑みを浮かべて自分の後ろに隠れているシンシアを優しく撫でながらヤエに返事を返した。
「そんなに慌てても何も変わらないよ、何せもう次の試練の準備は整い始めているからね」
「なっ……!」
彼の言った言葉にヤエ、そしてシンシアとステラまでもが驚いた表情を浮かべる。
「そんな……予定ではまだ先になるはずやのに……!」
「たぶん、クロワールだね、この世界に既にヤエたちが“次元転送装置”で呼んでいた“四天王”の魂の器を教えたんだと思う、今日バイトしてたらその器となるモンスターの近くに変な人魂が浮いてたのを見たからね」
淡々と説明する彼。
ちなみにそのモンスターとは遊園地を襲撃したトリックのことである、実際に彼はその現場を見たとき少し離れた位置でトリックの様子を窺う怪しげな人魂を目撃していた。
「……四天王が揃ったとしても……“新・犯罪神”が“あれ”を見つけない限り、行動は、起こさないはず……」
「うん、そうだろうね、でも見つかるのも時間の問題だ」
「どういうことや…?」
「“あれ”の封印は既に解かれている、新・犯罪神がそれを嗅ぎ付けて手に入れるのも時間の問題と言うわけさ」
ヤエは再び目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
予定ではもっと手こずるかと思われていた“あれ”の居場所がこうも早く見つかるかもしれないのなら尚更落ち着いていられない…。
「なら、すぐに奴らの所に行って計画をいったん止めんと!」
「無理ですよ」
部屋から飛び出そうとしたヤエにさっきまで伸びていたはずのライラがそう言って止めた。
彼女は頭を押さえながらむくりと起き上がると、大きくため息をついた。
「あ~…頭いだい……はぁ…実際の所、奴らは相当切羽詰っています、奴らがやろうとしている計画はまさに“新・犯罪神のための計画”です……新・犯罪神がわざわざ世界を飛び越えてきて、大人しく待っているはずがありませんよ」
「ならどうせぇちゅうねん! 下手するとこの試練、失敗するとこのゲイムギョウ界がほんまに破滅するかもしれんのやで!?」
「だから悩んでるんですよ………この試練に打ち勝つために用意した少年くんの“フォーチュンリンク・システム”が思わぬ形で起動してしまった上に、その力の半分も出し切れていない……さらには、少年くんの変身システムにもモード・バーサークと言う危険な爆弾がいつまた爆発するかわからないという危険性もはらんでいます……こんな状態でこの試練を乗り越えられるかどうか……」
気だるそうなライラの言葉にヤエも不安を隠しきれないのかその場で顔を伏せて俯いてしまった。
心なしかシンシアとステラの二人も表情が暗い……。
しかし、
「まあまあ、なるようになるよ」
彼だけはそんな表情を見せずに朗らかな笑みを浮かべていた。
「………あんたなぁ、この状況がどれだけ大変な事かっ!」
のんきな態度を貫く彼にヤエが詰め寄ろうとするが、彼は彼女の口元に人差し指を添えて彼女の足を止める。
「遅かれ早かれ、この世界には“滅亡”がやってくる……本来の世界の流れから逸脱したルートを辿ってしまったこの世界にはそういう運命しかない」
「………だからこそ、私たちはそれを止めようと!」
「うん、そうだよね……でも、それを止める役割を持っているのは僕たちじゃない、あの子たちだ……」
そう言われたヤエは、はっ、となって一歩後ろに下がった。
確かにこの世界の運命のカギを握っているのは宗谷と現代の女神達だ、自分たちはあくまでその育成に携わっているだけ…。
「少しでも可能性があるなら、僕はあの子たちを信じるよ……それに、もしこの試練でゲイムギョウ界が本当に危なくなったら、その時は責任を取って僕が何とかする………“ヴィクトリオン・ハート”として………みんながいなくなるより、ましだからね」
彼、ヴィクトリオン・ハートがそう言った瞬間、ステラがすぐさま彼の足元まで近づき、抱き付いた。
彼女の瞳には不安の色が浮かび上がり、今にも泣き出しそうになっている、普段は表情を見せない彼女がここまで感情をあらわにするのは珍しいことだが、彼の言った行為は彼女にとって本当にしてほしくないことなのだ……。
「ダメ……! そんなことしたら、パパ……いなくなる……!」
「……ロボちゃん……」
「やだ………もう、パパと会えなくなるの………やだぁ…!」
次第にステラの目元から涙が溢れ、本格的に泣き出してしまった…。
感情を表にしない、ロボットのような少女の彼女が……本当に嫌がって泣いていた。
ヴィクトリオン・ハートはそんな彼女を見て、そっとその場にしゃがみ込むと彼女を優しく抱きしめ、その背中をぽんぽんと撫でながら彼女を宥める。
「大丈夫、まだそう決まったわけじゃないよ……そうなるかどうかは、あの子たちの頑張り次第だ」
「………パパぁ………!」
「………大丈夫、大丈夫だよ、ステラ……今はまだステラたちのそばにいるから、ね?」
そう言って慰めるヴィクトリオン・ハートの表情は曇りなど一切ない、優しい笑顔そのものだった……。
(………なんでや…なんで、そんなに不安そうにしてないねん……本当にどうなるかわからへんのに、なんで……!)
ヤエはそんな彼の思考が読めず、若干の苛立ちと疑問が募る。
しかし、そんな彼女の思いなど露知らず、ヴィクトリオン・ハートはそっと立ち上がると、またぱっと明るい笑みを浮かべた。
「よし、悩んでても今はしかたないし! 今日はみんなでご飯食べて、一緒にお風呂入ったらみんなで寝ようか!」
「は……はぁぁぁぁぁあああああああ!?」
まさかの発言に驚き、声を上げたヤエ。
屈託のない笑顔で突然何を言い出すかと思えば、彼は男として何か感じることはないのだろうか?
「な、な、な……なんでそうなるねん!」
「え、だってみんなに会うの久しぶりだし、親睦を深めようと……」
「そうやなくて! あんた何とも思わんのか!? だって……ご飯ならまだしも、お風呂と寝るんはあかんやろ!?」
「え? なんで? だってもう僕ら家族みたいなものじゃん」
「確かにそれは認めるけども…! あんたは男としてなんでそんな感情とかが一切ないねん!」
「?」
そうだった、彼はこういう人間だったとヤエは再び学習した。
大昔からいつも変わらなった、彼は女性とか男性とかの壁に関係なく、同等に接するがため特に悪気もなくさらっとそういうことを言える性格だった、と……。
「まあまあ、諦めましょう、ヤエ………彼はもともとこういう人間です」
「せやかてなぁ……!」
「そんなこと言いながら、あなただって昔、彼と一緒に裸の付き合いをした仲じゃないですか、何を今更そんなに恥ずかしがりますか」
「うっ!? あ、あの時はその……お、俺の中のもう一つの人格が……!」
「はいはい、わかりましたわかりました厨二乙です」
半ば既に諦めているライラはヤエを諭すと、視線をステラとシンシアの二人と一緒に話すヴィクトリオン・ハートへと向ける。
「………パパの、隣がいい」
「うん、わかった、じゃあ寝るときはステラは僕の隣ね?」
「あ、あの……また……あたま…洗って、もらっても……」
「あ、そう言えばそれやるのも久しぶりだね? よし、任せといてよ!」
完全に彼になついているステラとシンシア。
そして優しく、誰よりも自分たちの幸せを願っているヴィクトリオン・ハート…。
歴史の裏にある、真実をこのゲイムギョウ界の人間が知ったとき、その人物は驚くことだろう……。
ヴィクトリオン・ハートが世界を救うために自分たちを次元の彼方に飛ばしたのではなく、“自分たちを救うために次元の彼方に飛ばしたのだ”と知ったら……。
「あ、その前にライラはアルコール抜いといてね? 二日酔いになるといけないから」
「仮にも元女神です、この程度酔った内に入りませんよ」
さっきまで悩んでたことがバカらしくなったライラはそう言うと、彼の元に向かう。
その後ろにはまだぶつぶつ何かを言っているヤエがついてきている。
今日は久々に騒がしい夜になりそうだ………。
人気のない、薄暗い石造りの建物の奥深く……。
外界の光すらも届かないほどの深さにあるこの遺跡の奥深くで、“それ”は眠っていた……。
台座にその先端を突き立て、怪しげな色の刃を暗闇の中で輝かせるそれは、一本の剣だった。
一見するとそれは禍々しいの一言に尽きた。
バランスが整っているような見た目をしていながら、その剣が放つ気迫と言うのか、それとも剣気ともいうのか……とにかくそれは常人には近づきがたいオーラを放っていた…。
暗闇の中で怪しく光るその剣。
だが、そこに何者かの影が迫っていた…。
その人物は体を深い紫の機械的な甲冑で包みこみ、背中には鳳凰を思わせるような大きな機械のような見た目の翼を備えている。
胸の中央には割れたハートマークのようなデザインが施されており、おそらくこれがその人物のシンボルマークなのだろう。
顔は上半分を甲冑に合わせたデザインの仮面で覆い、どんな人物なのかはわからない。
その人物はゆっくりと、そして着実に目の前に突き立っている剣に迫り、すぐ目の前までたどり着くとそっとその剣の柄に手を伸ばす。
「………見つけた」
そう呟き、剣の柄を徐に握りしめる。
すると、その瞬間、剣から激しい稲妻のようなエネルギーが放たれその人物を襲った。
雷がその場で発生したかのような強烈な衝撃と眩いばかりのエネルギーの閃光、常人がこれを受ければひとたまりもないはずだ。
「………っ!」
だが、剣から放たれるエネルギーによる妨害を物ともせず、歯を噛みしめ力を腕に込めると、無声の気合いと共に甲冑に身を包んだ何者かは一思いにその剣を、台座から引き抜いた。
その瞬間、剣から放たれていたエネルギーは嘘のように静かになり、その刃に再び怪しげな光を灯した。
「………これで、計画が動き出す………この世界の“魔剣”があれば……!」
魔剣と呼んだその剣を見つめ、そう呟いた甲冑の人物。
計画とは、いったい何のことなのだろうか……いったい、何をするつもりなのだろうか……。
そして、………“女神殺し”の魔剣、“ゲハバーン”を手に入れた、意味とは……。
誕生日パーティーも盛大に盛り上がり、今まで悩んでいたのが嘘のように今日を楽しんだ俺は、まだパーティーゲームの熱気が収まる気配のない部屋からいったん離れ、バルコニーに出た。
まさか、こっちに来て19歳の誕生日を祝ってもらうことになるとは……正直、思ってもみなかったことだ。
「………本当、こっちに来て大切なものが増えちまったな」
俺は後ろの方から聞こえる賑やかな声を耳にしながら、星空がきらめく夜空を見上げる。
………今度こそ、俺は守るんだ……もう、あんな過ちを繰り返さないために……たとえ何があっても、あいつらを守ってみせる………絶対に。
俺はそう誓いながらポケットの中から引っ張り出したブイフォを見つめる。
すると、なにやら俺の方に近づいてくる足音が聞こえてきた。
気になって後ろを振り向くと……
「宗谷さん、どうですか? 今日の誕生日パーティーは」
「ネプギアか……ああ、すっごく楽しいぜ?」
俺は後ろに来ていたネプギアにそう返すと、彼女は笑顔を浮かべてから俺の隣にくると一緒にバルコニーの策に凭れ掛かった。
「よかった、お姉ちゃんが必死になって考えたパーティーだからうまくいってくれたみたいで何よりです」
「まあ、その前にいろいろ変なことがあったけどな?」
「あははは………あ、そうだ! 宗谷さんに渡したいものがあるんです」
申し訳なさそうに笑うネプギアに俺は同じように苦笑いを浮かべる。
すると、ネプギアは何を思ったのか急に服のポケットに手を入れるとそこから何かを取り出した。
彼女がそう言って差し出してきたものは、四つの色のきれいな石がはめ込まれたブレスレットだった。
月明かりに照らされて光るそのブレスレットはすごくきれいで、なんかデザインもかっこいいから俺好みだ。
「あれ? 俺さっきネプギアからプレゼント貰ったよな? お役立ち工具セット」
「誕生日プレゼントはあげましたけど、これは私個人からの気持ちです」
「気持ち?」
「はい、あの時………私に大事なことを気付かせてくれた、お礼です」
俺はそれを聞いて、マジェコンヌとの戦いでの出来事を思い出した。
「諦めるな………強くなれ……私が無意識のうちに目を反らしていたことを、宗谷さんは気づかせてくれました」
そう言えば、あの時ネプギアにそんなことを言った気がするな…。
でも、いいのかな……俺はその後……
「………ネプギア、俺が怖くないか?」
「え?」
「俺はその後………お前を……」
「宗谷さん」
俺がそのことを口にしようとした瞬間、ネプギアが俺の名前を呼んでそれを止めた。
「そのことはもう気にしてませんから」
「……どうして?」
「………例えどんなことがあっても、宗谷さんは宗谷さんだから……優しくて、頼りになる、私の“お兄ちゃん”だから……」
………お兄ちゃん?
まさかの発言に俺は呆気にとられて、目を点にすると、自分の発言に気付いたネプギアが取り乱してその場であわあわと手を右往左往させ始めた。
「あ、いや! その、お、お兄ちゃんっていうのはもののたとえみたいなもので! 決して変な気持ちとかはなくて! だから、その……」
何を言いたいのかはわからないが、必死に何かを訴えるネプギア。
その様子はなんだか、慌てている小動物みたいで可愛げがあって……なんだか、見てて面白いな。
「ははっ…別にいいぜ? お兄ちゃんでも」
「ふえっ!? あ、いえその……だから、これは……」
「ネプギアみたいな妹ができるなら、俺もうれしい限りだよ、なんだか施設にいたころを思い出すからな」
「え? 施設?」
あ、そう言えばネプギアにはまだ話してなかったんだっけか、俺が孤児だってこと……。
俺はそのことを思い出すと、ネプギアに自分の生い立ちについて簡潔に聞かせた。
その時に、少しだけ、俺が犯した過ちについても………簡潔にな。
案の定、ネプギアの表情はさっきと違って暗いものになってしまった……。
「そう、だったんですか……宗谷さんに、そんなことが……」
「まあな……だからこそ、俺はもう失いたくなかった……だからもう、あんな暴走はこりごりなんだ……」
そう言った俺をネプギアが何も言わずに見つめる。
俺はそれに気づくと彼女を心配させないために、なるべく明るい笑みを浮かべる。
「でも、だからこそ俺はもう迷わないって決めたんだ、今度こそ………守ってみせる、必ずな?」
俺がそう言うと、ネプギアは俺を見つめながら、微笑んだ。
「……じゃあ、私もその手伝いをしてもいいですか?」
「え? ……でも、それじゃあ俺の立場が……」
「私だってもう、守られてばかりは嫌なんです、だから私にも守らせてください、全部宗谷さんが背負い込んじゃったら、宗谷さん本当に潰れちゃいますよ?」
諭すようにそう言われた俺は、この時彼女の姿と以前にいーすんに言われた言葉が重なった見えた。
……そうか、みんな大切なものを守りたいって気持ちは同じか……。
なら、それでもいいか……。
「………なら、一緒に頑張るか……ネプギア」
「……はい!」
俺がそう言って差し出した拳にネプギアは返事をしてから軽く自分の拳を打ち付けた。
それから俺たちは互いに笑みを浮かべてバルコニーから見えるプラネテューヌの街を眺める。
「もし、ネプギアが危なくなったらそん時は俺が全力で助けに行くぜ? お兄ちゃんに任せとけ」
「あうぅ……お兄ちゃんのことをいじらないで下さいよぉ……」
「でも、そう思ってんだろ? だったら、俺はオールオッケーだ、妹萌えどんと来いってな!」
「………そうですか? ………じゃあ」
ネプギアはそう言うと、若干もじもじしながら俺の方に向き直った。
その顔はどこか赤く、なんだか目も落ち着きなく泳ぎまくっている。
両手の指をつんつんしながら、彼女は目線を下に落し……。
「そ……宗谷、お兄ちゃん……」
上目づかいで俺のことをそう呼んだ。
こ、これは……なんとも……!
「こ、これが……妹萌え………恐るべし!」
「う~……やっぱり恥ずかしいですよぉ! もう、宗谷さんのバカぁ!」
あまりの破壊力に悶える俺を見て恥ずかしさが限界になったのか、ネプギアは顔を真っ赤にしてその場を走り去って行ってしまった。
あちゃ~……ちょっと、からかいすぎたかな?
………ネプギアが妹、か………。
宗谷にお兄ちゃんと言ったことに対する恥ずかしさから、つい反射的にその場を逃げ出したネプギア、リビングに戻り、高鳴る心臓の鼓動を落ち着かせるために深呼吸をしてからふと、さっきのことを思い出す……。
「お兄ちゃん……か……」
その表情はやはり、どこかまんざらでもないようで……。
「あ、ネプギアどこ行ってたの? 次ネプギアの番だよ?」
「う、うん、ごめんねお姉ちゃん!」
これが、一人の妹が異世界の青年を意識し始めた瞬間………。
いかがでしたか?
彼、ヴィクトリオン・ハートはこのゲイムギョウ界の運命を左右するなにかを見据えています。
己の犠牲も視野に入れるほどの覚悟で…。
それと、性格の方ですが……本当に如何わしい気持ちはありません、本心です、マジで。
さて、次回からは新展k………あれ? なんだ? また、部屋が暗く……
「皆様、お久しぶりです、私のことを覚えていらっしゃいますでしょうか? さて、次回に行く前に今回は私、ラステイションにお店を出すことになりました……おや? どうやらさっそく夢をお望みのお客さんが来たようです……それでは、皆様……夢のようなひと時でお会いしましょう」