「………おや?」
「おやおや、どうも皆様、お久しぶりです……イベントプレゼンターの白でございます」
「以前にお見せしたプラネテューヌでの一幕は、いかかでしたでしょうか? お気に召したのでしたら幸いでございます………さて、それでは今宵も皆様に夢の様なひと時をお見せ致しましょう」
「皆様も一度は思ったことはあるでしょう、心と言うものはなんて難しいものなのだと……取り分け、特別な思いを心の内に秘めた人は複雑な思いから、悩み、不安になることはよくあることです……」
「日々の生活の中で、いつの間にか人は大事な思いをひた隠しにしてしまっていることもあるそうです……」
「今宵、皆様に見せるのは……とある少女の、何気ない一日。 何の変哲もない一日の中に秘めた彼女の思いがどのように物語を進めていくのか……」
「それでは皆様、夢の様なひと時を………」
―――キーン、コーン、カーン、コーン……。
何気ない、何の変哲もないこの建物のあらゆる所に設置されたスピーカーから、その建物に足を運んだ者たちに時間を知らせる警鐘の音が鳴り響いた。
それを合図にしたかのように、周りからはざわつきながらもゴトンゴトンと言った何かを動かす音と、扉が開く音、遠からずもあれば近くから、幾重もの数の足音が響き始める。
まだ微睡みの中に身を任せていた彼女はその音が何なのか気になりつつ、徐々に心地よい眠気の中から己の意識を覚醒させ始めた。
(う~ん……もうなんなのよ、騒がしいわね……)
彼女はさっきまでの静かな部屋とは段違いの騒がしさの原因が何なのかを突き止めるべく、そっと突っ伏していた机から頭を離し、妙に重い瞼を開けた。
すると、そこに広がっていたのは……。
「……へ?」
その光景を見た瞬間、彼女の思考は一気に混乱した。
「やっべ、今日の数学の課題のこと忘れてた!」
「マジ眠ぃ……次の授業で寝れるかな?」
「ねぇねぇ、昨日の特番見た?」
「見た見た! めっちゃやばっかったし!」
「あっぶな! ぎりぎりセーフ!!」
「おしい! あと一分遅ければ購買の焼きそばパンをゲットできたのに……!」
「はい、ま~たあたしの勝ち~♪」
「なあ、今日の体育ってなんだっけ?」
そこには嬉々とした笑顔や焦り、そして寝ぼけ眼で机に座る同じ衣服を着た男子と女子の集団の姿。
整列した机の列の中、いつ間にか自分も座っていたこの状況。
そして、何より自分もその集団と同じ服装をしていること……。
「な、なにこれ……?」
黒を基調とした所謂“ブレザー”と呼ばれるタイプの上着、リボンを首に備え、ニーソックスで包んだ自分の足と膝より少し高めの丈に調節したグレーのスカート。
その服装は高校生などの学生が着る所謂、“制服”と言うもの………。
それに身を包んでいる、黒い髪を二つの束を結えたツインテールと呼ばれる髪型をした彼女………。
ラステイションの女神、ノワールは………女子高生になっていた。
(………この制服、結構悪くないかも………ってそうじゃなくて!)
自分が今着ている制服のデザインを気に入りかける彼女だったが、今はそんな場合じゃないとすぐさま首を左右に振る。
今はコスプレ趣味に浸っている場合ではない。
(ど、どういうことなの…? 私はさっきまで執務室で仕事をしていたはず……それなのに、なんでこんな所に!? っていうか、なんで私が制服を!?)
あまりにも突然の事態に思考が追い付かないノワール。
確かにさっきまで自分はラステイション教会にある自分の仕事部屋でデスクワークをこなしていたはず、それなのに気が付いたら自分はどこにあるのかもわからない名も知らない学校の生徒になっていたのだ。
頭の中が疑問符だらけな彼女は、今の状況が信じられずいやいやと首を振る。
「………いやいやいや、そんなわけないわよ……そうよ、きっとこれは夢、たぶん仕事中についうっかり寝ちゃったのね」
現状が信じられないノワールはそう自分に言い聞かせ、自分の頬を人差し指と親指を使ってつねり、夢かどうかを確かめる。
だが古典的な方法で確かめた結果、自分の頬にはつねられた時特有の痛みが走った。
「………痛い」
隣にいた男子生徒が自分の行動を見て結構本気で心配した目を向けてくる。
呆然とまだ痛む自分の頬を撫でるノワール、すると程なくしてざわめく男子と女子が身を置くこの部屋、教室の正面にあるドアががらりと開け放たれそこから一人の男性が気だるそうな足取りで教室の中に入ってきた。
白衣に身を包み、ぼさぼさの銀髪天然パーマをした男性はずれた眼鏡を直しつつ、眼鏡のレンズ越しでもわかる死んだ魚の様な目で生徒たちを眺めながら、半ば教師にはあるまじき咥え煙草をして気だるそうに口を開いた。
「う~っす、お前ら席つけ~、ワーワーキャーキャー騒ぐな、こっちは二日酔いで頭痛ぇんだよ、そんなに騒いで何が楽しいんだ? 発情期ですかコノヤロー」
「せんせー、朝からいきなりその発言はどうかと思いまーす」
「若いからって調子に乗ると、後で痛い目を見るぞ? これ、次の国語のテスト出るから、お前らメモしとけ」
「せんせー、その内容は国語の授業と関係ないと思いまーす」
本当にこの男性は教師なのかと疑いたくなる言動に的確なツッコミが飛ぶ。
「よし、そんじゃあ早速朝のホームルームを……」
「先生」
男がほぼ強引にホームルームに入ろうとした時、クラスの中にいる一人の男子生徒が立ち上がり担任に声をかけた。
茶髪の男子生徒は担任の口元にある煙草に視線を向けている。
「どうしたヒロム、質問なら三十字以内で簡潔にしろ」
「なんだよそれ……あの、前から思ってたんですけど担任の先生が教室で煙草はどうかと思います」
「これは煙草じゃない、ぺろぺろキャンディだ」
「………ぺろぺろキャンディから煙は出ません」
「それはすごーくぺろぺろしてるからだ」
そう言って担任は煙草と思われる白い棒を指で持つと口から抜いた。
すると、どういう原理で喋っていたのかほぼ男性の口にすっぽり収まるサイズのキャンディが口から出てきたのだ。
さすがにこれにはその場にいた生徒全員が驚きを隠せず、皆三者三様の反応を見せている。
それはノワールも同様だ。
しかし、ほかの生徒とはまた別件の驚きも含んでいるが………。
「一体これは………どういうことなの~~~~~~~!?」
とある学校のとあるクラスの教室でホームルーム中に少女の答えを求める叫びが、木霊した………。
昼休み、それは学生にとって待ちわびた至福の時間であり、学校の友人と語り明かす貴重な時間でもある。
大抵の青春の思い出はこの昼休みの一ページも含まれていると言っても他言ではないだろう。
午前中の授業を乗り越えた学生たちは皆友人たちの元に向かい、どこで食べるかなどを相談しつつ購買に誘ったり、何気なく会話をしながら弁当箱を開けたり、和気あいあいと喋りながら待ちわびた昼食にありつこうとしていた。
「………」
ただ、ノワールには昼食に誘ってくれる友人はいなかった。
(本当、どうしてこうなった!)
あまりにも理不尽な状況にノワールは耐え切れず朝のように再び机に突っ伏した。
(今起こったことをありのままで説明するならいきなり訳の分からない状況に陥って、なぜか私は高校生になってて、朝のホームルームで絶叫して恥ずかしいめに会ったけど、普通に授業をこなして何とかここまで来た………でも、なんで私に声をかけてくれる人がいないのよ!)
この状況こそ、まさにぼっちである。
この場にネプテューヌがいたら絶対ぼっちノワールなどと言って自分をからかっていただろう。
うすうす嫌な感じはしていた、他のクラスメイトはそれぞれでグループを作り授業中も何気なく会話したり10分の休憩時間中も惜しまず世間話をしたりする中………なぜかノワールには声をかけてくる人物がいなかったのだ。
確かに朝の時に絶叫した手前、浮いた存在だったのは認める。
だが、だからと言ってこれはさすがにノワールにとっては屈辱でしかなかった。
(なによ……私だって友達くらいいるはずでしょ、ていうか一人くらいいてもいいじゃない! 自分で言うのもなんだけど、私はラステイションの女神なのよ! だったら一人くらいいてくれたっていいじゃない!)
呪詛の言葉を心中で唱えつつ、ノワールは机に顔を伏せたまま、う~、と唸る。
だが、同時に……
―――ぐぅぅぅぅぅ……
腹の虫も唸った。
こんな状況でも腹の虫は素直である。
「………お弁当食べよ」
ここは自分の状況を呪うより本能に従うことを選んだノワールは机に引っ掛けていた自分のものと思われる肩掛けバックに手をかけ、中身を確認する。
入っているのは、筆箱、数学、国語、化学などのその他もろもろの教科書、通信用と思われる携帯端末、ライトノベルが一冊。
………。
「お弁当がない………!」
死活問題だ。
これはさすがに予想外だった、ノワールはてっきりこの状況下に陥った以上女子高生らしく弁当を持ち寄っているものだと高をくくっていたのだがその予想は大きく外れてしまった。
「………? これって」
するとノワールは鞄の中に閉まっていた通信用端末を取り出した。
(そうだ、これを使えば知り合いに頼んで食べ物を分けてくれるかもしれないわ! いくらなんでも携帯のアドレスに知り合いがいないってことはないわよね! そうよ、きっとそう!)
絶望の中で活路を見つけたノワールはそう信じて端末を起動し、連絡先を調べようとするが……。
ここは確実に連絡を取るために通話履歴を調べた方がいいだろうと判断し、ノワールは通話履歴を調べる。
半ば祈るようにしてその中を確認すると……。
上から……ユニ、自宅、ユニ、ユニ、自宅、ユニ、ユニ、ユニ、自宅、自宅、ユニ(ry
…………。
(………ユニと自宅にしか電話してない!)
もうノワールの心は辛い現実を直視しすぎて折れかかっていた。
さすがに女子高生で端末にある通話履歴が妹と自宅だけと言うのは酷すぎるのではないだろうか、むしろこれは一種のいじめではないのかとすら思えてくる。
(さすがにネプテューヌくらいいてくれてもいいでしょ!? なんなのよ、もう! 私に一人孤独の中死んで行けとでもいうの!?)
涙目になりつつ、持っていた端末を鞄の中に押し込み顔面を鞄にぼふんと沈めたノワール。
果てのない空腹感と、孤独感、そして空虚な気持ちが彼女の思考をどんどんブルーにしていく。
だが、背に腹は代えられない……。
彼女はもうこの際だと割り切り、ユニに電話しようと端末を操作するが……。
『はい、ユニです! でもごめんなさい…今私は電話に出られません、発信音の後にメッセージを残してくださいね♪』
終わった……。
唯一の希望も、絶たれたとノワールはこの時まさに絶望した…。
「ははは……そうよ、私はどうせ仕事ばかりで友達なんて碌にできないぼっちなのよ……リア充なんてみんな滅べばいいんだわ……むしろ私が滅ぼしてやってもいいんだから」
いつもの彼女らしくないブラックな言葉を吐きつつ、ノワールはそっと瞼を閉じる。
(………なんでこんなに寂しいのかしら………)
今まで味わったことのない孤独感の中、ゲイムギョウ界で共に時間を過ごした仲間たちの顔が脳裏に浮かぶ。
ネプテューヌ、ブラン、ベール、ユニ、ネプギア、ロム、ラム………。
そして、宗谷。
だが、今彼らの姿はどこにもない………。
今まで味わったことのない孤独感が、彼女の心を支配する………。
(………夢なら、覚めて………)
涙を目じりに溜めながら、ノワールがそう願ったとき………。
「おう、何してんだよノワール?」
自分を呼ぶ声がした。
そして、その声色が誰の物なのか彼女は直感し、すぐに顔を上げた。
自分と同じ、見慣れない黒いブレザーに身を包んではいるが、見間違うはずもない。
彼は、変わらない笑顔を自分に向けて声をかけてくれたのだ。
「もしかして、昼飯忘れたのか?」
「………宗、谷」
孤独の海の中、ノワールの目前に光が見えた気がした……。
突然の彼の来訪にノワールは唖然としたまま彼を見つめる。
「その顔は図星だな? まあ、妹のユニも今日から学校の合宿だって言ってたから、忘れたのにも気づかなくてもしゃあないか……ほら、購買のメロンパン、余ってるから良かったら………って、どうしたノワール? ………え、なんで泣いてるの!?」
「うっ………ひくっ……ばか……バカ宗谷ーーー!!」
「なんでぇぇぇぇぇええええ!?」
孤独の中で差しのべられた救いの手を、ノワールは思い切り八つ当たりで引っ叩いた。
だが、同時に少し安心したのも事実だった……。
屋上、今となってはラノベや漫画などのワンシーンで必ず使われる学校でお決まりのランチスポット。
普通なら自殺防止だとかいうブラックな理由から解放されていることが少ない学校の屋上だが、この高校では屋上を普通に開けているらしく、ノワールと彼女の前に突然制服姿で現れた宗谷はそこで昼食をとることにした。
フェンスで囲まれた屋上にぽつんと置かれているベンチの上に座った二人は、宗谷が買ってきたという購買のパンを食べはじめた。
その際に、ノワールは今現在の状況を改めて整理した。
何もわからない状態で過ごすより、今がどのような状況なのかを理解しそれに適応していくことがこの場の打開策につながるのではないかと判断したのだ。
結果以下のことが判明した。
まず、自分が最近この学校に転校してきた、転校生であること。
友達らしい人物がいなかったのはこれが由来するらしい、実際宗谷との会話でそれとなく聞き出したときはなぜか納得してしまった。
二つ目に、今目の前にいる宗谷はこの学校に在学している、高校生であること。
ゲイムギョウ界にやってきた異世界の青年、ではなく、平凡な毎日を過ごす。 ごくごく普通な男子高校生になっているのだ。
ネプテューヌたちの名前を出しても……。
「え? ネプテューヌ? ああ、確かお前が向こうの方でできたっていう友達のことか、ビデオレターを送ってきたとき、一緒に写ってたな、ほかにもブランとベールっていう人もいるんだっけか?」
と言う反応を返してきたあたり、自分の知っている宗谷との出会いがまったく違ったものになっているらしい。
三つ目に、自分と宗谷が幼いころに出会った幼馴染と言う設定になっていること。
さすがにこれには驚いた、まさか自分が彼と幼馴染の関係になっているとは思ってもみなかったのだ…。
そして、最後に………自分が女神と言う存在でないこと。
何気に、これが一番驚いたことだった。
試しに女神化しようとしても、プロセッサユニットを身に纏うことはできなかったし宗谷自身も女神が何なのかをわかっていなかった。
自分は今、本当に、完全に、完璧に、何気ないただの女子高校生になっていたのだ…。
以上の点を踏まえて、ノワールは今自分が置かれている状況を整理したものの……。
(そもそもなんで私がこんなことに巻き込まれているのかが分からない……)
宗谷から譲ってもらったメロンパンを齧りながら、ノワールは現状の打開策を見いだせずただただ落ち込んでいた。
それもそうだろう、何せいきなり訳も分からない状況の中に放り込まれたのだ、落ち込みもする。
「………はぁ」
「……なあ、ノワール」
ため息をつく自分に隣で焼きそばパンを手に持っている宗谷が声をかけてきた。
「何よ……」
「いやさ、今日の放課後……空いてる?」
「………別に、何もないけど」
「ならさ、ちょっと付き合ってくれよ、久々に一緒に行きたいところがあるんだ」
そう言ってきた宗谷、一体どこに行くというのだろうか。
放課後になって何をするかまだ決めていなかったノワールは彼の誘いを受けることにした。
「仕方ないわね……どうせ何もないから、暇だし着いていってあげるわ」
そう言うと、宗谷はこちらを見てにこりと笑顔を浮かべる
「そうこなくっちゃな、ほんじゃ、今日の放課後な?」
不覚にも、彼が浮かべたその屈託のない笑みは一人悩んでいたノワールの心にまた少し、安心感を与えた。
慌てて目を反らし、目の前のメロンパンをかじるノワール。 すると、
「……あ、ノワールちょっといいか?」
「え?」
「ここ、食べカスついてるぜ?」
宗谷はそう言って、彼女の口元についていたメロンパンのかけらをつまみ、それを自分の口元に放った。
「なっ……! あ、あなた何してんのよ!?」
「何って、もったいないだろ?」
「だ、だからってこんなっ……急にしないでよ……」
「?」
顔を赤くするノワールを見て、何事かと首を傾げる宗谷。
まあ、その心境は彼には理解できないだろう。
乙女心は複雑とはよく言ったものである。
その後また時間は過ぎて、放課後……。
退屈な授業が終わって、クラスにいた男子と女子たちが一斉に放課後の自由を満喫するためにそれぞれの行きたい場所に向かう。
この放課後こそ、青春時代の代名詞なのだと言っても過言ではないだろう。
そして、このクラスでボッチだったノワールも、宗谷と約束した通り、放課後に彼と合流しある場所へと向かった。
そこは……
「ゲームセンター?」
学校からそれほど離れていない、それなりの大きさのゲームセンターだった。
ビデオゲームからクレーンゲーム、プリクラと、ありとあらゆるゲームが勢ぞろいしているこの空間にノワールは連れられてきたのだ。
「お前とこうしてゲーセンに来るのも、久しぶりだよな?」
「……私、今そう言う気分じゃないんだけど?」
「まあそう言うなって、ほら!」
「あっ、ちょ……!?」
乗り気じゃない表情を浮かべるノワールだったが、宗谷が彼女の手を取って奥の方へと連れていく。
不意打ちで握られた彼の手の暖かさに、ノワールはまたどこか安心する何かを感じていた…。
(私、なんでさっきから宗谷が一緒にいることで安心してるの……?)
不思議な感覚が何なのかわからず、ノワールは宗谷に連れられ、ゲームセンターに足を踏み入れた。
「え、あ、ドン? カツ? ねえ、どっちなのよ! 急に来られてもわからないんだけど!?」
「だからいきなり鬼は無理だって言っただろ、なんで張り合うかな?」
「う、うるさいわね! あなたがそれ選んだのに、私が難易度下げたらなんか悔しいじゃない!」
音ゲーを二人でプレイし………
「おっと、危ねぇ……」
「ほら宗谷、ぼさっとしてないで! 次の敵来るわよ!」
「いや、ノワールさっきからガンガン行きすぎ! 俺ついていくのに精一杯なんだけど!?」
シューティングゲームを協力プレイし………
「この……あ、あー!? ちょっと! 今のずるいわよ!? パターンに嵌めたでしょ!?」
「策士と言ってもらいたいね?」
「むぅぅ……!」
格闘ゲームで対戦し……
「おーしそのままそのまま………おしっ! ゲットぉ!!」
「うそ、一発で!?」
クレーンゲームでお菓子の詰め合わせをゲットし……
「ほら、もっと寄りなさいよ、それだと入らないわよ?」
「お、おお……このくらいか?」
「ちょ……! ち、近いわよ! もうちょっと離れなさい!」
「いや、近づけって言ったのお前じゃん!?」
最後はプリクラを二人で撮って………。
ノワールは、なんやかんやでいつの間にか宗谷とのゲーセンを楽しんでしまった。
いや、いつの間にか自分からノリノリになっていたのだ…。
「ふぅ……いやぁ、満喫したな?」
「そうね、こんなに楽しいって感じたの久しぶりかも…」
ゲーセンを出て、近くの公園に寄り道し、クレーンゲームの戦利品のお菓子を二人で分けあって食べる宗谷とノワール。
香ばしくも甘味がある、コーンポタージュ味の駄菓子を食べつつ、ノワールは宗谷との時間を振り返った。
さっきまでの孤独感が、嘘のようだった。
本当に、さっきまでいたゲームセンターの時間は楽しかった。
「………ようやく笑ったな」
「…え?」
不意に宗谷がそう呟いたのを、ノワールは聞き逃さなかった。
「ノワールさ、なんか今日元気なかったろ? だから、元気づけてやろうって思ってな……だいぶ単純な方法だけど、その方が励ましやすいからさ」
「あ………」
まただ。
また、ノワールの心中になにか温かいものが流れてきた。
一体、これは何なのだろうか? 宗谷といるとたまに生まれる、この安心する感じ。
胸がきゅんと熱くなる、この感覚は………。
誰も理解してくれないだろう、自分の中にある女神としての……ゲイムギョウ界での自分の記憶。
でも、今はその自分はいない。
あるのはただ平凡でなんの変哲もない女子高生になった今の姿…。
突然そんな状況に放り込まれた自分が唯一安心できた理由、それは彼がゲイムギョウ界でも一緒にいた友達だから?
世界が変わっても、彼が変わらず自分に手を差し伸べてくれたから?
………いや、たぶん違う。
そんな単純なものではない、この気持ちはそんな今さっきできたようなものでは、ない気がする……。
多くの謎が残る感情が彼女の中で湧き上がりながらも、ノワールは宗谷に言葉を返すため再び口を開いた。
「………そうね、とりあえず退屈しのぎにはなったわよ?」
「………ツンデレ乙」
「ツンデレ言うな!」
そして、交わされたやり取りはこうなる前の世界でも交わしていた、彼とのお決まりのやり取りで………。
「……ふふ」
「………なんだよ?」
「別に? ……なんでもないわ」
それがまた、安心する。
(………こんな生活も、悪くないかも)
彼がいれば、たとえ世界が変わったとしても楽しめる気がする。
宗谷が、一緒にいるなら………。
「あ、お~い! 宗谷~!」
「お、ヒロムか? どうした、こんなところで」
するとそこへ、自分のクラスにいた茶髪の男子生徒が公園の前を通りがかり、宗谷を見つけこちらに近づいてきた。
どうやら彼は、宗谷の友達らしい。
「たまたま通りがかったらお前を見つけてな、どうだ、せっかくだしよかったらこれからカラオケでも行かないか? ファイナルステージ張りのデュエットで極エスカレーションといこうぜ?」
「お、いいな! 明日は休みだし、まさにここからは俺たちのステージだな!」
なにやら二人はカラオケに行くことになっているらしいが、なにぶん自分が知らない人だ。
そう接していいのかわからず、ノワールはただ二人の会話を眺める。
(……この後は、あの二人でカラオケにでも行くのかしら)
そんなことを考えながら、視線を宗谷に向ける。
彼との楽しい時間もどうやらここまでのようだ……。
「よし、決まりだな! じゃあさっそく……」
なぜか、途中で言葉を切った男子生徒が視線をこちらに向けてきた。
ノワールもそれに気づき、彼と目が合う。
すると、男子は何かを思い出したかのようにズボンのポケットに手を突っ込む。
「………と、その前に宗谷、向こうの自販機でジュース買って来てくれないか?」
「え!? そんなの自分で行けよ……」
「前に購買のパン、奢ったろ? ほれ、ジュース代」
「ちぇ……まさかパシリにされるとは……」
男子からジュース代を受け取った宗谷はしぶしぶ近くに置いてある自販機の方へ駆け出して行った。
彼がそちらに行ったのを見送った男子はまたノワールの方へと視線を向ける。
「その、悪いな……なんか、邪魔しちゃったみたいでさ」
「え………べ、別にそんなんじゃないわよ……」
「いやでもよ……宗谷のこと気にしてただろ?」
「は………はあ!?」
突然話しかけてきて何を言い出すのか、驚いたノワールはすぐさま立ち上がりその茶髪の男子に詰め寄った。
「な、なんでそうなるのよ!? 私と宗谷はただの友達! そう、友達なんだから! 別に好きとかそんなんじゃないし! それ以上でもそれ以下でも!」
「いや、別に好きだろとは言ってないんだけど………」
「………はっ!?」
まさに自爆である。
完全に茶髪の男子の言葉をそう受け取っていたノワールは、自分でやらかした発言に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしてその場に座り込んでしまった。
「うぅ……別にそんなつもりないのに……何言ってんのよ……」
「まあ、俺も野暮なまねはするつもりはないから、安心してくれ」
「だ、だからそう言うわけじゃ…!」
男子の言葉を再び否定しようとするノワール、だが、彼はノワールが何かを言い切る前に親指を立ててそっと、その場から離れる。
「そうだな……ヒロミ風にアドバイスするなら、いざって時には強がらず、素直になるといいと思うよ? なんてな……じゃ、そう言うことで、頑張ってな!」
「だ、だから変な勘違いしないでよ!」
ノワールに謎のアドバイスを残し、彼はにこりと口元に笑顔を浮かべると足早にその場から去って行った。
「悪い宗谷、俺ちょっと急用思い出したわ!」
「え!? 本当に急だなおい……まあ、いいか……ほい、ジュース」
「サンキュー、そんじゃあな! またいつか会おうぜ!」
「おう、じゃあな~!」
宗谷とすれ違いざまにそうやり取りした茶髪の男子はジュース片手に走ってその場から去って行った。
「………なんなのよ、もう」
「どうした、何かあったのか?」
「別に何でもない……」
謎の励ましをもらったノワールが少し不機嫌になりつつ、宗谷と再び合流する。
何があったのか知らない宗谷はただただ不思議そうな顔をするばかりだ。
時間もそろそろ遅い、二人は暗くなる前に家に帰ろうと帰路に就いた。
その際に家まで送っていくと言われ、宗谷はノワールの住む……というか、住んでいるらしいマンションまでついてきた。
「別に気を遣わなくてもいいのに……一人でも平気なんだから……」
「そう言うなよ、俺から誘ったんだし、せめて見送りくらいさせろって」
強がるのワールの言葉に宗谷は変わらない笑みを浮かべてそう言うと、くるりと体を翻して後ろを向いた。
「じゃあな、ノワール」
「え、ええ………それじゃあ………」
手を振り、歩き出した宗谷。
少しづつ距離が離れていくその背中を、ノワールはただ見つめる。
だが、その心境にはどこかさっきまでと違う感情が流れてきていて………
(今度は私……寂しいって思ってる?)
このまま彼とはなれるのが寂しい、また一人になるのが怖い…。
そんな思いが彼女の中に芽生える。
一体、自分はなぜここまで彼を求めているのか……やはり、世界が変わってしまったからなのか?
今までの自分はいったいどこに行ってしまったのだろうか……。
(私ってこんなに弱かったの……?)
女神として、強くなくちゃいけないと思ってた…。
国を纏める者として、たとえ一人でも弱みを見せるつもりなんてなかった…。
だから、寂しいと思うことなんてなかった…。
それなのに、なぜ女神ではなくなり、普通の人間となったしまった途端にこんなに寂しく感じてしまうのか…。
いや、そうじゃない………
それはおそらく、女神としての自分の思い……。
今重要なのは、“ノワール自身の思い”だ。
(私………本当は……本当は……!)
気付いたら、ノワールは駆け出していた…。
そして、
少しづつ離れていく彼に後ろから抱き付いていた。
「うおっ!? お、おいノワール!? 急にどうし」
「行かないで………」
呟くように言った、彼女の言葉。
それは、おそらく今の彼女の素直な気持ち…。
「………お願い、一人にしないで」
「……ノワール」
「私、寂しかった………急に訳の分からないことになって、当たり前のようにいたみんながいなくなって……一人でいるのが怖かった………こんなに寂しいことだなんて、知らなかった………」
自然と目に涙が溜まる、彼を行かせまいとブレザーを掴む手に力が入る。
それは、今までのノワールが見せたことがなかった弱気な姿…。
「………今は、一人になるのが嫌なの………お願い宗谷、もっと一緒にいて……私のそばにいて………あなたまでいなくなったら私………私……どうにかなっちゃいそうで………怖いの……!」
「………お前、やっぱり強がってたんだな」
宗谷はそう言って、ゆっくりとこちらに振り返ると、そっと彼女の体を優しく抱きしめる。
「大丈夫だ………俺はいなくなったりしない、ノワールのそばにいるよ」
「宗谷………」
振るえる小動物を優しく抱きしめるように、宗谷はノワールを抱く腕にぎゅっと力を込める。
それに合わせて、ノワールも彼の体に回した両腕に同じように力を込め、さらに彼と密着する。
彼の温もりが、ノワールの体全身を包み込んでいるようだった……。
こんな弱くて、我儘な自分を彼は受け入れてくれる……。
例え、この世界が自分の知らない世界でも、彼は変わらない……。
そして、自分が抱いたこの思いも……。
(………ありがとう………宗谷………)
―――………大好き。
―――………ちゃん……おねえちゃん……お姉ちゃん!
「ん………う、ん?」
聞き覚えのある声と揺さぶられるような感覚に促がされ、ノワールは再び目を開けた。
すると、目の前には自分を抱きしめているはずの宗谷ではなく…。
「あら……ユニ?」
さっき電話しても連絡がつかなかったはずのユニがいたのだ。
「あ、やっと起きた! 珍しいわね、お姉ちゃんが仕事中に居眠りなんて」
「………居眠り?」
ノワールはユニに言われていることが何なのか理解できず、寝ぼけ眼のまま周りを見渡す。
そこはさっきまでいたはずのマンションの前ではなく、いつも自分が女神としての務めを果たしていたラステイション教会にあるノワールの仕事部屋………。
………仕事部屋。
………居眠り。
なら、さっきまでのは………
徐々に鮮明になっていく思考が、パズルのように組み合わさっていく。
そして、彼女はすべてを理解した……理解してしまったのだ。
「全部、夢………?」
すべてを悟った途端、ノワールの顔は一気にリンゴのように赤く染まった。
それこそまさに今まで以上に、しかもそのスピードも尋常じゃなかった。
「じゃ、じゃあ、さっきまでのって……え、そんな、嘘……でも、じゃあ……え? だったら、これって………!!」
顔を赤くしたままノワールはうわ言のように何かを呟き続ける。
夢だとは理解した、ただそれでも自分の胸の高鳴りがさっきから一向に収まらない、そしてなぜか彼女の脳裏には鮮明に彼の顔が浮かんでしまっている。
(じゃあ、この前リーンボックスに行ったときの船でブランを挑発したのも、イストワールと話す宗谷が気になったのも、つまり………そう言うことなの!?)
もしこの思いがそうだとするなら、“自分は自分に都合のいい世界”、夢の中でそれを自覚したことになる。
「そ、そんな………そんなの……認めないんだからぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」
「お、お姉ちゃん!?」
顔を真っ赤にした状態でどこかに逃げ去るように走り出したノワール。
未だに引かない顔のほてりと、胸の高鳴りがさらに彼女に拍車をかけ、部屋を飛び出したノワールは全力疾走で廊下を走る。
(私………宗谷のことを………好きになってた……)
夢の世界で彼女が知ったのは、彼女自身の心にできた素直な気持ちだった……。
「どうしたんだろう、お姉ちゃん……」
仕事部屋に取り残されたユニは走り去っていったノワールを心配しつつ、ふと視線を彼女のデスクへと向ける。
「あれ? これって確か、お姉ちゃんが買ってきてた……」
すると、デスクの上になにか瓶の中に建てられた少し太めの線香の様なものがあることに気付いた。
既にすべてが灰になり、役目を終えた線香の残り香なのか、当たりには心地よい香りが広がっていた。
そして、デスクの上には………一枚のカードが置かれていた。
―――夢の様なひと時を、あなたに………
「………どうやら彼女は、夢の中で素直な気持ちを知ったようですね」
「青春時代と言うのは一日一日が一瞬であり、そのために後悔することが多いものです……彼女はその前に大切な気持ちに気付けたようですね」
「え? あの夢の世界は本当に彼女の夢なのか? ………そうですねぇ、夢だとは思うのですが………もしかしたら、あれはどこかの世界のもう一つの彼女の姿、なのかもしれません」
「さて、それはさておき、本日の営業はここまでにしましょう………今宵の彼女の夢、皆様はどのように感じましたか?」
「本日はご利用、誠にありがとうございました………お題は皆さまの楽しむ心で、十分です」
「それでは、皆様………またどこかで、お会いしましょう」
ということで、番外編、いかがでしたでしょう。
やはり、こういうラブコメは難しいなぁ……。
あ、ちなみに今回、宗谷の友達として再びpixivで活動中のドラグアローさんの所のヒロム君に再び友情出演していただきました!
本当に、ありがとうございます!
え? それ以外に誰かいなかったかって?
………まあ、そんなことよりも次回!
また平凡な生活に戻ってきた宗谷、そんなある日、教会に突然ある人物がやってくる…。
果たしてその人物とは?