今回は前回とはまた違い、全体的にシリアス多め。
捕らわれた宗谷たちはその中で何を思うか……そして、ノワールに怪我をさせる原因を作ってしまったユニに、銀時は……。
それではお楽しみください、どうぞ…。
その戦士との戦いは、苦戦を強いられた。
突如として目の前に現れた謎の戦士、ブレイブ。
ギャバンは日本一と共にその戦士との勝負を買って出た。
ギャバンのレーザーブレードと大剣がぶつかり合い、火花を散らす。 鍔迫り合いになる両者の剣、どちらも一歩も引かない。
強烈な気迫と共に感じる、恐ろしいまでの威圧感、一体どれほどの思いをこの剣に乗せているのかギャバンは気になっていた。
そして同時に不思議に感じていたのだ。
犯罪組織に協力し、用心棒をしている彼の剣が、なぜここまでまっすぐなのか……、なぜここまで正々堂々としているのか……。
鍔迫り合いからいったん離れ、レーザーブレードを構えつつブレイブを見据えるギャバン。
「……お前は」
奇妙に感じるほどのまっすぐな剣技に違和感を抱いたギャバンがブレイブに問おうとする。
「隙ありだ!!」
「っ!?」
その一瞬の隙を、ブレイブは見逃さなかった。
戦いと言う世界において、気持ちの一瞬の揺らぎが勝敗を分ける。
その揺らぎをギャバンは見せてしまったのだ。
自分の信念の様なものを剣に乗せているブレイブの心に違和感を、いや、興味を抱いてしまったから………。
自分の目前に十字に揺らぐ炎の斬撃が迫る。
そして………
「っ!」
気が付くとそこはさっきまでの部屋ではなかった。
明らかに狭く、それでいて妙に埃っぽい場所だ。 明かりも少なく薄暗い…。
一体ここはどこなのだろうか、ギャバンはここがどこなのかを確認するために手足を動かそうとするが……。
「………これは」
両手両足の自由がきかない、何かに繋がれて動かすことさえできない。
よく目を凝らしてみれば自分の両手首と両足は十字架の様な磔台に取り付けられた腕輪は足輪に捕らわれている。
目の前には固く、冷たいイメージを感じさせる何本もの黒い鉄の棒が並んでいる。
鉄格子の様だ。
そう、ギャバンは文字通り貼り付けにされて投獄されていたのだ。
「捕まってしまったのか………そうだ、日本一……それにみんなは無事なのか?」
気が付いてすぐ、ギャバンは自分の相棒と、今回行動を共にしたみんなを探した。
周りには人影の様なものは見えない、仮に捕まったとして同じ部屋に入れられたわけではないのだろうか……。
すると、
「おらよっ!」
「あぐっ…!?」
何者かの声、そして遅れて聞こえた鈍い音とこちらは聞き覚えのある声。
その音と声に反応したギャバンは鉄格子の向こう側、ちょうど自分が捕らわれえている部屋の前にあるもう一つの部屋に目を凝らす。
「……日本一ぃ!!」
そこにはこの世界でできた自分の相棒ともいえる仲間が、日本一がいた。
両手を手錠で繋がれ、上からぶら下がるように吊るされた状態になり数人の男に囲まれてサンドバッグのように腹部を殴られている。
その顔は苦痛に歪み、目元は涙を流し、体も震えている。
さっきの戦いで負った傷なのか、それとも自分が目覚める前から既に長い間リンチを受けていたのか所々破れた服の間からは痛々しい痣や傷が見える。
「あん? ……おっと、お仲間がお目覚めの様だぜ」
「お前達! その子に何をしている!!」
怒りに燃えるギャバンが男たちを睨み付ける。
だが、男たちは下品な笑い声を上げて痛ぶられた日本一を見せつける様に立ち位置を変える。
「見てわかるだろ? 素行の悪いクソガキを教育してやってるのさ」
「こいつのせいで俺らの仲間が何人怪我させられたことか知れねぇからなぁ」
そう言いながら日本一の隣にいた男が彼女の鳩尾に膝蹴りを見舞う。
「がはっ……!」
「日本一!!」
「ぎゃ………ばん……」
弱り切った瞳がギャバンを見つめる。
何とか助けに行こうともがくギャバンだが、拘束されている状態では身動きを取ることもできない。
「なあ、そろそろ殴るのも飽きてきたしよ、ここいらでお楽しみといくか?」
「そうだな……女神さまには手を出すなってDr.の命令だしな」
「まあ、それほど色気を感じねぇ身体だけど玩具にするには事足りるか……顔も悪くねぇしなぁ?」
男たちがそう言うと日本一を取り囲み始める、一人が彼女の顔を無理矢理上げさせると彼女は最後の抵抗なのか男たちを噛みつかん勢いで睨み付ける。
「ヒーローは………こんな…ことで……」
「……おい、こいつまだヒーローがどうとか言ってやがるぜ?」
「知るかよ、そんなんいいからさっさと剥いて黙らしちまえよ」
「それもそうだな、さてと………せいぜい腰振って、楽しませてくれよ、ヒーローの嬢ちゃん」
男たちの欲望に溢れた手が日本一に迫る。
ギャバンは必死に抵抗し男たちの手を今すぐにでも止めようとするも、現実はそう甘くないということか、ギャバンのパワーを持ってしても拘束具は外れない。
宇宙刑事と言う肩書を持っていながら、何もできない自分に怒りを募らせる。
日本一が反射的に目を閉じ、男たちの手が彼女たちに届く………
「そこまでにしろ」
その瞬間に、何者かの声が男たちを呼び止めた。
その声に反応した男たちはびくりと体を震わせて鉄格子の外側、ちょうどギャバンの死角になっている方角に目を向けた。
すると、しばらくしてそこから見たことのある巨体がゆっくりとギャバンのいる鉄格子の前に姿を現した。
「気が済んだだろう、だったら早くここを出て行け」
「お前は………」
声の主はブレイブだった。
意外な人物の登場に、ギャバンは驚きを隠せない。
ブレイブの言葉を受けた男たちは渋々としながらも檻の中から出てくるが全員不満げな表情をブレイブに向けている。
「……おい用心棒さんよ、こいつらは侵入者だろ? なら捕まえた俺達が何しようが俺達の勝手だろ」
「Dr.トロイの指示だ……こいつらは侮れない戦闘力を保持している、もしもの時のためにこいつらの監視は俺に任せるとな」
ブレイブはそう言うと男たちに詰め寄り、じっと輝く双眸で見下ろす。
「これでわかっただろう、こいつらを好きにするならまず俺の許可を取ることだ……もっとも、動けん相手を嬲り殺しにするような卑怯者に許可を出すつもりなどないがな」
ブレイブはそう一括すると脅しのつもりか腰に刺した大剣に手を当てる。
それを見た男たちは不満そうにしながらもそそくさとその場を後にし始める。
後にはギャバンと日本一、そしてブレイブが残り、その場に沈黙が訪れた。
「………」
ブレイブは男たちがいなくなったのを確認すると、日本一のいる鉄格子の前に立ち、近くにあったボタンを押す。
すると鉄格子がスライド式の自動ドアのように開き、檻が開け放たれた状態になる。
身をかがめて檻の中に入ったブレイブは日本一のいる位置に合わせてしゃがみ込むと何かを取り出し、日本一に手を伸ばす。
「なに……を……!」
「警戒するな……ただの応急手当だ、だが完全に回復できるという期待はするな、あまり馴れていないからな」
そう言うとブレイブは取り出した薬の様なものを日本一の傷口に使い始める。
「………ブレイブ、と言ったな」
その様子を見ていたギャバンはそっと彼に声をかける。
「俺は宇宙刑事ギャバン………本名は、“一条寺 列”だ……」
「………」
何も答えないブレイブにギャバン、列は尚も声をかける。
「ブレイブ……やはりお前は」
「それ以上は言うな…」
ギャバンがその先を言おうとするのを、ブレイブは制止した。
だが日本一を手当てする手は止めずに、顔もギャバンの方を向けずに、ただ背中を向けている状態で…。
「俺とお前たちは敵同士だ………お前が俺に何を言おうと、その事は変わらない」
何を言っても無駄、と言う意味を含んだ言葉を返したブレイブ。
だが、列は確信していた。
ブレイブと言う名に似合う、隠しきれない彼自身の信念の様なものを……。
「……なら、せめてこれは言わせてくれないか……ありがとう、彼女を助けてくれて」
「………おかしな男だ」
ブレイブはそう言うと、手当てを終えたのか手を止めて檻から出ると再びスイッチを押して檻を閉める。
そして、列と日本一のいる檻の間にある通路に腰を下ろす。
「自分を倒した敵に例など言う必要があるのか? 理解できんな……」
「………言いたかったのさ」
そう言ってブレイブを見つめる列、そして反対側にいる日本一も同じようにブレイブを見つめる。
だがブレイブはその視線を気にする様子もなくただその場に座り続ける。
恐らく、見張りのつもりなのだろう。
「………ねえ、宗谷たちは?」
ここで日本一が列も気になっていたことをブレイブに聞いた。
そう言えばとギャバンはさっきの男たちの会話に気になる内容が含まれていたことを思い出した。
女神様には手を出すな、確かに男の中の一人がそう言っていた。
「………お前たちの仲間と女神は別の場所に幽閉してある」
ブレイブはギャバンが薄々感づいていたことをあっさりと答えた。
「命は取っていない……ただ、黒の女神には少し手伝って貰わねばならないことがあるらしいが……」
「手伝ってもらいたいこと……?」
仲間たちの無事は確認できた、だが黒の女神……おそらくはノワールの事だろうが、彼女に手伝って貰わねばならないこととはいったい何なのだろうか…。
列は疑問を感じながら、何処か嫌な予感を感じていた……。
徐々に鮮明になっていく意識、朦朧とする視界が徐々に安定してきたノワールはまず自分がどこにいるのかを確認した。
そこは何か透明な筒状のカプセルの様な物の中だった。
両手両足は拘束具によって自由を奪われ、動くことはできない。
「お目覚めですか? ノワール様」
気付くと自分の目の前、カプセルの向こう側に一人の人物が立っていた。
白衣に身を包み、無造作に伸ばした長髪と右目のモノクルが特徴的なこの男は身動きのできないノワールを見据え粘着質な薄ら笑いを浮かべる。
「………最悪の目覚めね、目の前に変な奴がいたら誰だって寒気を感じるわ」
「体にダメージを負っていてもその強気な性格は揺るぎませんか……なるほど、情報通りですね」
男はそう言うと近くに置いてあったパソコンに指を走らせて何かを入力し始める。
「あなた、何者なの? 私を捕まえたりなんかして……どうなるかわかってるの?」
妙なことをされる前に聞き出せることは聞き出しておこうとノワールが脅し染みた問いかけを男に投げかける。
「ええ、分かっています……ですが、その脅迫は無意味ですよ……ブラックハート様」
しかし、男はその言葉を表情も変えずに答えると再びノワールへと視線を戻し軽く会釈する。
「まずは自己紹介をさせていただきましょう……私はDr.トロイ、科学者をしております」
「科学者、ね……そんな奴がゲームの劣化コピーの流通なんてして、何が目的なの?」
「クックック………なにぶん研究や開発にはやはり費用と言うものが発生しますからね、私は私の実現したい夢のためにここの工場長も務めているのです」
トロイはそう言うと再び口元ににやりと笑みを浮かべる。
その笑みはさっきの粘着質なものとは違った、狂気を感じさせる笑みだった。
「このラステイションに新たな革命を起こすためにね……」
革命、確かにそう言った。
トロイが何を考えているのかはわからないが、ノワールはそれを聞いてそれが絶対に見逃せないことだということは理解した。
「革命、ですって?」
「ノワール様、あなたも当然知っているでしょう……このラステイションがゲイムギョウ界でも屈指の技術国家であることを……ですが、まだ足りないのです……今の状態のラステイションではその技術はまだ、宝の持ち腐れでしかない」
「言ってくれるわね………」
苛立ちを募らせるノワールがトロイを射殺さん勢いの目で睨み付ける。
しかし、トロイはそんなことはお構いなしと言いたげに話を続ける。
「そのためにもノワール様、女神であるあなたにも協力していただきたいのです」
「………私に、ですって?」
自分を指さしてそう言ったトロイはこくりと頷くと再びパソコンを操作し始める。
「そう、女神であるあなたのお力を是非、私の革命のためにお借りしたいのです」
「………そういうことなら答えは決まってるわ………お断りよ!!」
トロイの誘いかけを真っ向から断ったノワールは女神化しようと体に意識を集中させる。
体のダメージは残っているがこの拘束具を破壊するほどにはパワーは出せるはず、そう考えたノワールは一か八か女神化を試みる。
だが、
「クックック………無駄ですよ」
身体に変化は起きなかった。
女神化ができない、その事実にノワールは驚きを隠せずにいた。
「そんな………なんで!?」
このカプセルにはアンチクリスタルが仕込まれているのだろうか、そう考えてカプセルを見回すが特にそのようなものは見当たらないが………代わりにあることに気付いた。
自分の手足を包んでいる拘束具、それが何か機械の様な物に繋がっているのだ。
しかもよく見るとその機会はカプセルを外側から半分ほど包み込むように連結している。
どうやら彼女はカプセルに閉じ込められ、何かの機械に埋め込まれているようだ。
「今のあなたにはシェアクリスタルの恩恵は使えません……代わりにあなたのシェアエナジーは私が有効活用させていただきます」
「シェアエナジーを………?」
「そう、私は完成させたのですよ………“女神に等しい力を手に入れられる技術”を!」
何を言っているのか、ノワールにはわからなかった。
シェアエナジーの恩恵は女神にのみ与えられる力、それをただの人間が手に入れることなど不可能なはずなのに…。
トロイの大げさなまでの動作と言葉にノワールは食って掛かる。
「何を言ってるの!? そんなこと、出来るはずがない!」
「可能なんですよ! いや、出来るようになったんですよ! 私の悲願がそれを可能にしたのです!!」
トロイはそう言うと興奮した様子でパソコンを操作する手のスピードを速める。
「この力を持ってすれば、ラステイションは生まれ変わる!! 私が目指した理想………すべての人間が等しく強大な力を手に入れられる世界が現実となるのです! ………そのためにも、ノワール様………あなたにはこのままそこで大人しくしていてもらいます」
ノワールはこの時、目の前の男がただの科学者ではないことを感じた。
狂気に染まった科学者、まさに……“マッドサイエンティスト”なのだと……。
このままではこの男の好きにさせれば……ラステイションは………
列と日本一、そしてノワールとはまた違った別のエリア、そこには残された三人、宗谷、ユニ、銀時の三人がまとめて幽閉されていた。
こちらは拘束具などないが檻の格子は他と比べると頑丈そうでちょっとやそっとじゃ壊れなさそうに作られている。
さらに念のためか、三人とも武器を纏めて没収されており丸腰の状態になっている。
「………まさかこんなことになるなんてな」
銀時が牢屋の壁に凭れ掛かってそう呟く。
同じように捕らわれている宗谷は牢屋の前で、ユニは牢屋の奥で蹲るようにして意気消沈していた。
「なんとか………なんとかしてここを脱出しないと」
宗谷は諦めず脱出を試みる物の、鍵開けなどに使えそうなお役立ちアイテムはもちろんないし、プラネテューヌ教会に連絡しようにもV.phoneも没収されてしまっている。
打つ手などない……。
「へへへ、諦めるんだな、お前らはここから出られやしねぇさ」
見回りの男が宗谷達のいる牢屋の前に現れて宗谷達をあざ笑うかのように笑みを浮かべる。
「この牢屋の格子はDr.の作った特製でちょっとやそっとじゃ壊れないし、開けるためのカードキーがなけりゃあ脱出も無理だ」
三人に見せつける様にカードキーを取り出した男はそれをズボンのポケットの中にしまい込む。
「たとえそこにいる女神候補生様が変身しても無駄だ。 まあ、もっとも? 女神様を救えなかった半人前にできるはずはねぇだろうがな!」
そして、牢屋の奥で蹲るユニをそう言ってあざ笑う男。
耳障りな笑い声に宗谷は怒りをあらわにし格子の奥から睨み付けるが、それが精いっぱいだ。
もしこの手にV.phoneがあれば……。
悔やんでも悔やみきれない思いが募る。
「おいうるせーよ」
「あだっ!?」
だがその時、格子の間から腕を伸ばし高笑いする男の髪を銀時が掴んだ。
ちなみにこの男、でこが広いため将来的にはハゲるのが目に見えている…。
「こちとら糖分きれてイライラしてんのに騒ぐんじゃねーよ、その頭できらめいてるでこっぱち、さらに後退させて取り返しのつかないことにしてやろうか?」
「あだだだだだ!! 抜ける抜けるマジで抜けるマジで!!」
じたばたと抵抗する男がなんとか銀時の手を振り払い、後ろに下がる。
気に入らなさそうに彼を見る男だが、すぐに余裕を感じさせる笑みを浮かべる。
「へっ、どの道お前らはここから出られねぇさ、せいぜいそこで残りの人生を楽しむんだな」
男はそう言うとげらげらと笑いながらその場を後にする。
残された宗谷はその後姿を睨み付け、銀時は舌打ちをしてその場に座り込む。
「………あいつの言うとおりかもね」
牢屋の奥で所謂体育座りと言う体制で蹲っているユニが唐突に呟いた。
牢屋の中がうす暗いせいか表情は見えないが、その声はいつものはきはきとした感じがない。
「……あたし、お姉ちゃんの足……引っ張っちゃった……お姉ちゃんに怪我させて……こんなことになって………」
「ユニ……」
「私、女神に変身できたから何でもできるって思ってたから………あいつにも勝てなかった……思い上がってたんだわ、あたし……女神失格よね」
実際、先のブレイブとの戦いでも彼女は勝てる気でいた。
自分一人でも、目の前の敵を倒せると、そう信じていた。
だが、現実は彼女の思うほど甘いものではなかった。
実力はブレイブの方が上だった、彼女の攻撃をすべて防ぎ、動きを読み、反撃する技術を持ち合わせていた。
自分はただ突っ込むことしかしなかった。
目の前の敵をがむしゃらに撃ちぬくことしか考えてなかった。
そして、招いた結果がこれだ。
自分がまだ未熟なのに思い上がっていたから、もう誰にも負けないと思っていたから…自分の驕りがこの結果を招いたのだ。
ユニは蹲ったままさらに縮こまるように俯き、静かに泣き始める。
「ユニ………」
その様子を見ていた宗谷はいたたまれない気持ちになっていた。
あの時、結局は何もできなかった自分が恨めしい。
あの時、ユニの制止を聞かずに一緒にブレイブと戦っていたら…。
あの時、もっと早くに自分たちの周りを囲んでいたトロイ達に気付いていれば、このようなことにはならなかったかもしれない。
「……畜生!」
どうすればいいのかわからず、宗谷は目の前の格子に八つ当たりをする。
(俺はまた繰り返すのか………何もできずに……ただ見てることしかできないのか!)
そう思いながら宗谷は八つ当たりの蹴りを格子に何度も何度も叩きつける。
無駄だとわかってるでもこうせずにはいられなかった、無力な自分に腹が立っていたから。
だからこそ、早くここを出なければと焦っていたから。
なんとしてでも早くここを出て、みんなを助けて、ここを潰して、ノワールを捕まえたあの男を……Dr.トロイを捕まえて……そして
徐々に強まる宗谷の蹴り、激しくなる音。
険しくなる宗谷の表情、その瞳には怒りと共に別の何かも見える。
「あいつ……あいつ……あいつ!!」
脳裏に浮かぶトロイに激しい怒りと憎悪を感じつつ何回目かの蹴りを格子に叩きつけようとする。
「はい、それまーでーよー」
だがそれを、銀時が後ろからやる気のない声で止めた。
格子を蹴るのをやめて後ろを振り向く宗谷。
「銀さん………」
「少しは落ち着け、お前またいつかの時みたいに暴れてぇのか」
「暴れ………あ」
この時、宗谷はやっと気づいた。
自分がまた殺意を抱きつつあったことに………。
怒りに紛れて気付かなかったが、宗谷はまた呑まれかけようとしていたのだ。
「俺……また……」
「気づいたんなら頭を冷やせ、でないと周りのもんが見えなくなっちまうぞ」
「銀さん………ごめん」
宗谷は自分がまた暴走しかけた事実に深く反省し、その場で俯く。
同じ過ちを繰り返すのはもうしないと決めたはずなのに…。
ほんの少しのきっかけで怒りがここまで膨れ上がるとは宗谷自身も思ってもみなかった。
「……お前もそこでいつまでもめそめそしてんじゃねぇよ」
銀時が後ろにいるユニに顔もむけずに、背を向けた状態で声をかける。
位置的に銀時の前にいる宗谷は反射的にユニの方に視線を向けるが、彼女には何の反応も見られない。
「そこで泣いてて何か変わるか? そこで泣いてりゃ、お前の姉ちゃんは助かんのか? もしそれで何とかなるなら苦労なんかしねぇよ」
「………何、説教のつもり?」
蹲った状態のままユニが呟いた、銀時はそこで初めて彼女の方に向き直った。
「あんたに判るわけないわよ………お姉ちゃんの妹なのに………結局は何もできないままのあたしの事なんて……」
「ああ、分からねぇよ……でも、これだけは言える……お前は強くねぇ」
銀時はあっさりと言った。
なにも気にせず、ただ当たり前のことを言うかのように…。
それを聞いたユニはピクリと体を震わせる。
「………うるさい」
「自分で良かれと思って突っ込んで失敗していちいち泣きわめいてたんじゃキリがねぇ、そんなんだからお前は半人前とか言われるんだよ」
「おい、銀さん……!」
「うるさい!!」
彼女を煽るような言葉をつづける銀時を見兼ねた宗谷が止めに入ろうとするが、勢いよく立ち上がり、声を荒げるユニが銀時に詰め寄った。
彼の着物の胸ぐらを両手でつかみ涙を流している目で彼を睨み付ける。
「そんなの、あたしが一番分かってるわよ! あたしはお姉ちゃんみたいに強くない! だからあいつにも負けた!! 私は結局女神に変身できてもお姉ちゃんみたいになれない! 支えることもできない!! ……そんなの……もう、分かってるのよ………!」
心の内をすべて吐き出すように、すべてを叩きつけるように、すべてを叫ぶようにして口に出したユニがその場に崩れ落ちる様にしゃがみ込む。
そんな彼女を銀時は見下ろし、宗谷は彼女の隣によりそおうとするが……
「なら、お前はこのままでいいのか?」
先に銀時の言葉が彼女に投げかけられた。
「このまま何もできないまま、お前の姉ちゃんがあの野郎に好き勝手されるのを、黙ってみておくのか?」
「……いいわけないでしょ……でも、どうすればいいっていうの……強くないあたしに……どうしろっていうのよ!」
「強さと弱さは紙一重だ、世の中は勝った奴が強くて負けた奴が弱いと決めつけてきやがる……でも、本当の強さは見てくれだけの物じゃねぇ……折れねぇ心があれば、そいつはいくらでも強くなれる」
自棄になるユニに銀時はそう言葉を掛けながら背を向けて鉄格子をその手に握りしめる。
「ようは簡単なことだ、この檻抜け出してお前の姉ちゃんを救うために……また、剣を抜けばいんだよ」
この男はなぜこうもあっさりとそんなことを言うのだろう。
ただのその場しのぎの言葉なのだろうか……。
しかし、それにしては彼の背中が異様なまでにまっすぐに見えた。
「守りてぇもんがあるなら、剣を抜きゃあいい……転んじまったんなら、また立ち上がればいい……そこで折れちまったら本当にそこで終いになっちまう。 でも、お前はまだ折れちゃいねぇだろ」
「………折れて、いないって………」
「その涙は見せかけか? 違うだろ、負けて悔しいから流してるんだろ、バカにされて悔しいから流してるんだろ、なら“お前の剣”はまだ折れちゃいねぇ……それだけは、俺が保証してやる、お前は……いや、お前たちはまだ弱い奴と決められたわけじゃねぇ」
この時、宗谷はなぜここまでユニを煽ったのかを悟った。
銀時は試していたのだ、彼女の中に悔しいと思える感情があるかどうかを……。
彼女にまだ、ノワールを救いたいという意志があるのかどうかを……。
「なんで……あんたにそんなことがわかるのよ……」
「………それはきっと、銀さんが“侍”だからだ」
銀時を見上げるユニに宗谷がそう告げる。
「侍………?」
「……この人は一見するとどうしようもないちゃらんぽらんで行き当たりばったりのダメな人かもしれない……でも、この人にはあるんだよ、まっすぐに伸びる剣が……どんな固い檻も、困難も、纏めて叩き斬る………“武士道”が……」
「武士道………」
宗谷の言葉を受けて、ユニは再び彼の背中を見つめる。
そこにはさっきとあまり変わらないような銀髪の天然パーマの男のだらしない後姿が見える、だがはっきりとわかる。
その後姿はまさに、“刀”なのだと。
どんな状況においても屈することなく、困難と言う敵を切り裂こうと燦然と輝き続ける、一振りの刀その物なのだと。
「………宗谷さん、あたしにもあるかな………あたしの剣って」
「ああ、きっとある………必ずな」
ユニはしばらく俯き、何かを考えるように黙り込む。
だが、すぐに立ち上がると目に溜まっていた涙をぬぐって再び銀時の後姿を見据える。
「……言っとくけど、勘違いしないでよね? あたしはただお姉ちゃんを助けるのをまだ諦めてないだけ……別にあんたに励まされたからってわけじゃないから」
「………やっぱ、ノワールの妹だな」
目を腫らしながらではあるが、その口から出た言葉に宗谷はノワールと似たものを感じた。
そんな彼女に感化されてか、宗谷も大きく息を吐くと銀時を見据える。
「………そうかい、じゃあ……行くとするかね」
銀時はそう言うと、二人の方に振り向いて口元に微笑を浮かべた。
右腕を着物の袂に入れながら、にやりとした笑みを………。
宗谷たちが閉じ込められている牢屋の近くにある管理室、そこに先程宗谷達をあざ笑った男が椅子に座り漫画雑誌を開いて時間を持て余していた。
近くには宗谷たちから没収した武器などの類が置かれている、交代制でここに入り、宗谷たちの牢屋に怪しい動きがないかを確認するのだ。
まあ、もっとも、鍵は自分が所有しているし彼らにできることは何もないと信じ切っている男はここまで余裕を出して漫画雑誌を読み漁っているのだが。
男が雑誌のページをめくり、目を通す。
すると、管理室のドアが数回ノックされた、後退にはまだ早い時間のはずだがと男は不思議に思いドアの方に視線を向ける。
「あの~、すいません、落し物を拾ったんですけど~」
「落し物? おいおい、ここはそう言う部屋じゃないんだぞ?」
男はめんどくさそうに椅子から立ち上がるとドアの方に向かう。
大方新入りが何か勘違いしてこの部屋を訪れたのだろうと思い、ドアを開けると……。
「ダメですよ~? 大事なもんはちゃ~んと持っておかないとねぇ?」
そこには、牢屋の中に入っているはずの銀髪天然パーマの男、銀時がいた。
「な……な……なんで、お前が!?」
にたりとした意地の悪そうな笑みを浮かべる銀時の後ろには、同じような笑みを浮かべて腕を組む宗谷とユニの姿もある。
なぜこの三人がここにいるのか、なぜ牢屋から脱出できたのか、男は理解できず半ばパニックのような状態に陥る。
そして、男は目線を銀時の手元に向けた。
そこには一枚のきらりと光るカードが握られていた。
それは、宗谷たちの牢屋を開けたり閉めたりするために必要なカードキーだった。
「な、なんでお前がそれを………まさか、あの時!?」
男はそれを見てすべてを悟った。
そう、それは今さっきの出来事。
男が宗谷達の様子を見に牢屋の前に行ったとき、銀時に自分の髪を掴まれたまさにその時に、銀時に盗まれていたのだ。
「ちゃんと管理しなくちゃダメだろ? なんせ、今ここにいる俺達は……」
銀時の後ろにいた宗谷がそう言うと、銀時とユニの二人とタイミングを合わせ、目の前の男に思い切り体重を乗せた蹴り込みを同時に叩きこんだ。
三人分の蹴りを受けた男は大きく吹き飛び、壁に激突そのまま気を失って伸びてしまった。
三人は管理室の部屋の中に入り、それぞれの奪われた武器を手に取り気を失った男を見下ろす。
「白い鬼の誘いを受けた、とんでもない鬼の子だぜ?」
宗谷がそう言い残した後、外に出た三人はそれぞれの武器を構えてその場を後にする。
すると、騒ぎに気付いいたのか工場内を巡回していたあの黒い防護服に身を包んだ武装集団が銃を構えて三人の前に立ちはだかった。
だが三人はたじろぐような様子もなく、それぞれの武器を構えて目の前の集団を見据える。
「さぁて、万事屋銀ちゃんゲイムギョウ界支部……大暴れと行かせてもらおうか」
俺達はこの時、“万事屋銀ちゃんゲイムギョウ界支部”を結成しました。
「反撃開始だ、行くぞユニ!!」
「うん……今度は負けない……絶対に!!」
いかがでしたか?
次回は脱出した宗谷達、万事屋銀ちゃんゲイムギョウ界支部が大暴れ!
果たして、ギャバン、日本一、そしてノワールを救い出せるのか!!
それでは次回でお会いしましょう、それでは……。