今回のお話は、前回始まったネプ姉妹の姉妹喧嘩にネプテューヌは…?
そして、再登場したキリトと本郷さん。
二人の前に現れた謎のモンスターとは…。
それではお楽しみ下さい、どうぞ…。
サイクロン号のシートの後ろで背中の愛剣に手を掛けたキリト、彼はそっと両足を
シートの上に置くと、本郷の肩に手を置き切羽詰る勢いで言った。
「本郷さん、俺があのモンスターのタゲを取る、あんたはその隙に倒れてる人を!」
「………わかった!」
キリトの指示を受け、本郷はサイクロン号のアクセルを回し、一気にスピードを上げる。
激しく唸るサイクロン号のエンジン、ユニコーンの様なモンスターは自分に迫ってくる謎の音に反応し、意識をこちらに向けた。
その瞬間、本郷とキリトが乗るサイクロン号はモンスターの前をすれ違うように通過、同時にキリトは自分が足をかけていたシートを思い切り蹴り、高くジャンプしてユニコーンの目前に躍り出た。
「はぁぁぁああああ!!」
アバターとしてのキリト、黒の剣士としてのキリト、本来の“桐ケ谷和人”なら疾走するバイクからジャンプするなんて芸当は早々にできやしないだろう。
だが、今の彼は浮遊城の中に幽閉されていた時の、剣士としての姿。
ヒーローメモリーとして選ばれた彼は、その“剣士キリト”としてのステータスをこの場でも十分発揮できる。
彼は強く柄を握りしめたエリュシデータを振り上げ、そのままジャンプした後に来る落下の速度を加えた縦の斬撃を黒いユニコーンに向けて振り下ろした。
黒いコートをばさりと翻しつつ、体の回転も加えて速度を上げた斬撃は黒いユニコーンが反射的に後ろの後退したことで首筋をかすめるだけに終わった。
だが、キリトにとってはそれだけで十分だった。
地面に身を翻しながら着地したキリトはちらりと目線を後ろに向ける。
「大丈夫か、しっかりしろ!」
「うっ……」
注意がそれたおかげで、本郷が赤毛の女性を助け出すまでの隙を作ることはできた。
後は、モンスターが再び赤毛の女性を襲わないように、自分がひきつけ続け何とか撃退、あるいは倒すのみ。
キリトはそっと立ち上がると、腰を落し、エリュシデータを斜め下に下げるように構える。
相手は未知のモンスター、油断はできない…。
ぴりりとした緊張感が、キリトの肌を刺激する。
この感覚はアインクラッドにいたときも味わったか……と、自分のオリジナルの体験がヒーローメモリーとしての彼の脳裏に浮かび上がる。
そんなことを考えていると、黒いユニコーンは普通の馬よりも低いいななきを上げて、キリトに向かって猛然と突進してきた。
対してキリトはそれをぎりぎりまで引きつけるべく、その場に留まり、タイミングを見計らう…。
今横に跳び退って黒いユニコーンの攻撃を回避してしまえば、後ろにいる二人にそのまま向かって行ってしまう恐れがある。
ならここは、下手に動かず、タイミングを待つだけ………。
大きく息を吸ったキリトはエリュシデータを肩に担ぐように構え、己の使える力が起動するのを確認する。
エリュシデータの刃に赤いライトエフェクトが灯り、体全身にじわじわとなにかが広がるのを感じながら……。
「………ここだ!!」
黒いユニコーンが十分に近づいた瞬間、キリトは己の体に溜まっていた力を思い切り解き放った。
ジェットエンジンの様な音と共に、凄まじい勢いで彼は地面を駆け抜け、黒いユニコーンの体をすれ違いざまに切り付けた。
赤い光に包まれた黒い刃はユニコーンの右前脚を捉え、ユニコーンはそれにより体勢を崩し、その場に倒れ伏した。
片手剣単発ソードスキル、ヴォーパル・ストライク。
彼がよく使用していた技の一つである。
「舐めるなよ、俺は確かにオリジナルの俺じゃないが……今ここにいる俺も、俺自身なんだよ」
振り返りながら、黒いユニコーンにはわかるはずもない言葉を投げかけたキリト。
例え、オリジナルのデータをコピーして生成されたヒーローメモリーが構成した己自身の体と意識だとしても、今いる自分もまた、キリト、桐ケ谷和人なのだ。
その中に眠る経験も、思考も、性格も、オリジナルと変わりはしない。
故に、また立ち上がりこちらを睨みつける黒いユニコーンに負けるつもりはない。
再び身構えるキリト、黒いユニコーンは再びいななきを上げて、キリトに向かって突進を仕掛ける。
ヴォーパル・ストライクを発動したことによる影響か、まだ体にかかる硬直状態が解けない。
オリジナルの再現とはいえ、ここまで再現されるのは難点だとキリトは常々思っていた。
こうなれば、ぎりぎりまで引きつけて今度はパリィするかガードで耐えるか……どちらを選択するか迷っていると…。
「ライダーキィィィック!!」
勇ましい声と共に、流星の如き勢いで横から何かが飛んできた。
黒のボディスーツに淡い緑と、輝く赤い複眼がよく目立つバッタを模した仮面と、首の深紅のマフラー。
本郷猛が変身した改造人間としての姿、仮面ライダー1号だ。
得意技の必殺キックが、こちらに迫っていた黒いユニコーンの横っ面に直撃し、ユニコーンは再び横倒しに倒れた。
空中でくるりと体を後ろに回転させながら地面に着地した1号は硬直状態が解けたキリトの前に立つ。
「すまない、遅くなった」
「それほどかかってないぜ? それよりさっきの倒れてた人は?」
「ああ、大丈夫だ、気を失っているだけで怪我もそれほどひどいものではなかった、今は離れた場所で休ませてある」
「そうか……なら思い切りやれるな」
キリトがそう言った瞬間、1号のライダーキックを受けて倒れた黒いユニコーンが再び起き上った。
数十トンはあると言われている彼の蹴りを受けてなお立ち上がるとは、相当に厄介な相手の様だ。
「キリト、油断するな、最初から本気で行くぞ!」
「ああ……見せてやろうぜ、異色のクロスオーバータッグの実力を!」
二人は気合を入れるように力強く構えると、先程よりもさらに甲高いいななきを上げる黒いユニコーンに向かっていった。
「………はぁ」
薄暗く、夜の闇に包まれた一室、その部屋の中央に置かれている大きなベッドの上でネプテューヌは一人で座り込み、ため息を漏らしていた。
原因は今日起きた、些細な出来事、最愛の妹としていたネプギアとの、本当に些細な理由での喧嘩。
あれから数時間が立ち、いつもならネプギアが部屋を訪れてきてもおかしくない頃なのに、今日はあんなことがあったせいかネプギアは部屋を訪ねてこない。
「う~ん………やっぱり、言いすぎちゃったのかなぁ」
時間が経って落ち着いて考えてみると、あの時に発したネプギアへの言葉はあまりにも無責任な物だったのではないかとネプテューヌは思えてならなかった。
実際に非があるのはネプテューヌの方なのだが………。
「……いやでも、ネプギアだって勝手にゲームしたわけだし……勝手にボス倒しちゃったわけだし、勝手にイベント終わらせちゃったわけなんだし……それに、私のことダ女神とか言ったし……」
それでも、意地を張ってしまうのは姉としての物なのか、単に彼女が子供っぽいだけなのか…。
姉妹喧嘩など、身近な人物との喧嘩において当事者はまず自分の非を認めようとしない傾向がある、だが同時に後になって罪悪感に蝕まれる物で…。
―――もう知らないもん!!
最後に見たネプギアの涙を浮かべたあの言葉が、ネプテューヌの心をチクチクと突く様に浮かび上がる。
その度に、ネプテューヌは罪悪感と意地の板挟みにあってしまい、もやもやと心の内が曇って行った。
現に今も胸のあたりがもやもやと何かが詰まっているような嫌悪感に襲われている。
「む~……あ~~~!! も~~~~~!!」
やけくそ気味に声をだし、ベッドの上をごろごろと転げまわるネプテューヌ。
しばらく二往復、三往復と続けていたが、やがてぴたりと突然動きを止めると顔をゆっくりと上げた。
「………そうだ、お風呂入ろ」
もやもやした気持ちを今日流した汗と一緒に湯船でサッパリさせてしまえば、自然と楽になるだろう。
そうだ、そうに違いないと強引に自分を納得させたネプテューヌは早速近くのクローゼットからお気に入りのパジャマと替えの下着を取り出し、さっさとお風呂場に向かった。
既に時間も時間なせいか廊下には誰もいない、当たり前の光景だが、なぜか今日の居住スペースの夜はネプテューヌには特に静かに思えた。
いつもなら、今日はお泊りすることにしたアイエフやコンパ、もともとここに住み着いている宗谷とイストワール。
そして、ネプギアも一緒に夜中まで騒いで……。
「って、なんでネプギアのことを考えてるのかな私!?」
無意識のうちに絶賛喧嘩中のネプギアのことを思い浮かべてしまった自分にツッコミを入れて、ネプテューヌはそれを振り払うかのようにぶんぶんと頭を振る。
「い、いいもんね~、別にネプギアがいなくても、私は私でうまくやって行くもんね~!」
言い聞かせるように独り言を出しながら、ネプテューヌは一人浴場へと向かう。
そして、しばらく歩いて浴場に繋がる脱衣所がある部屋の前に到着したネプテューヌは気を紛らわせるためにワザとらしい鼻歌を歌いながら、ガラリと脱衣所のドアを開けた。
「ひゃっ……って、ネプテューヌさん?」
「おおっと!? びっくりした! なんだいーすんか……」
何気なく脱衣所のドアを開けたネプテューヌ、すると既にその中にはイストワールがいた。
予想だにしない先客がいたことに不意を突かれて驚くネプテューヌに対し、突然ドアを開けられたイストワールも驚いた声を上げるが、すぐにそれがネプテューヌだとわかるとどこか意外そうな表情を見せるが、それはネプテューヌのなんだという発言に対してどこかむっとした表情に変わった。
「なんだとはそう言う意味ですかネプテューヌさん? 私がお風呂に入ってはいけないんですか?」
「いやいやいや、そんなこと言ってないよ!? ちょっとびっくりしただけだってば」
「………そうですか? それにしても、珍しいですねいつもならもう少し早くにネプギアさんとお風呂に入っているはずなのに」
「え? あ、あ~…まあ、うん……なんというか、その、ね?」
イストワールが放った疑問に対し、ネプテューヌは何か気まずそうに目線を反らし、イストワールの言葉をはぐらかす。
と言うのも、これはさっきも言った通り突拍子もなく起きてしまった二人の姉妹喧嘩による影響の一つとしてカウントされる訳で…。
「ま、まあ細かいこと気にしないでさ! せっかくなんだし、いーすんも一緒に入ろうよ!」
「ええっ!? ちょ、ちょっとどうしたんですかネプテューヌさん!?」
「いいからいいから! 商業目的のサービスシーンを待ってる人だっているんだからさ!」
「わ、訳の分からないことを言わないでください! って、ひゃあ!?」
なんとか話を逸らそうと、ネプテューヌはほぼ強引に脱衣所に入ると、イストワールの脱ぎ掛けだった衣服に手をかけて強制的にイストワールを脱衣させていく。
それに合わせて自分が着ていた服も脱ぎはじめ、脱衣所には慌てるイストワールと妙にハイテンションなネプテューヌの声で包み込まれる。
「うぅ……なにもパンツまで無理矢理脱がすことないじゃないですか……」
「いやぁ~、だっていーすんガード固いから、つい……」
イストワールから引っぺがした、衣服や下着類を片手に苦笑いを浮かべるネプテューヌに対して、以前のリーンボックスのトラウマを思い出しかけたイストワールは訝しげな視線を彼女に向けて抗議する。
しかし、互いに一糸纏わぬ姿でいるというのもあまりよろしくない物だと割り切ったイストワールはしかたがないと彼女と一緒に浴場に入ることにした。
「もう…今回だけですからね? 次同じ事をしたら、今度は今日の3倍の量の仕事をしてもらいますから」
「うっ! それはさすがにやだなぁ………」
今後は同じことを繰り返さないように気を付けようと心掛けたネプテューヌはイストワールと共に浴場のスライド式のドアを開け、浴場の中へと入った。
既に溜められていたお湯によって発生している多少の湯気と、独特の湿気が二人の体を包み込む。
ちなみに、プラネテューヌの浴場はシンプルな作りをしているが広さはそれなりにある。
そのため、二人が一緒に入ってもまだ余裕なのだ。
二人はまず、湯船につかる前に体を洗うために、近くのシャワーの前に移動し、プラスチック製の腰掛に腰を下ろした。
「そう言えば、いーすんとお風呂ってあんまり入ったことなかったね?」
「そうですか? ゲイムギョウ界ショウの時に泊まったお風呂では一緒に入った気がするんですが……」
「あれ? そうだっけ?」
「……ああ、そう言えばネプテューヌさんは途中で気絶したんでしたね」
「?」
見覚えのない発言に首を傾げるネプテューヌにイストワールは気にしないでください、とだけ言うと、シャワーを手に取りお湯を出し始める。
シャワーヘッドから出た適度な温かさのお湯が、彼女の色白できめの細かい肌を濡らし、洗い流していく。
それに続いて、ネプテューヌも目の前にあったシャワーからお湯をだし、頭からそれを被る。
心地よい温度のお湯が頭から体へと流れ落ちていくのを感じ、ネプテューヌは一通り体をシャワーで流した後、目の前のシャンプーが入ったボトルに手を伸ばした……。
『お姉ちゃん、痒いところとかない?』
『うん、大丈夫だよ~♪』
すると、いつもなら何気ない光景だったネプギアとのやり取りが不意にネプテューヌの脳裏に浮かび上がった。
「………」
彼女はその瞬間、ボトルに伸ばしていた手を止め、何かを考えるように黙り込んでしまった。
いつもなら、ネプギアと一緒に入って、何気ない会話をしながら体の流し合いをしたりするのに…。
そんな彼女の沈黙に先にシャンプーで頭を洗っていたイストワールはすぐに気づいた。
今までの彼女にはなかった深く悩むような表情、それがあまりにも珍しかったからである。
「………ネプテューヌさん? やはり、なにかあったのでは……」
「えっ!? べ、別に何でもないよ!? そ、それよりもいーすん、頭だけじゃなくって体も洗わないと! ほら、私が洗ってあげるから!」
イストワールに問われたネプテューヌは急にあたふたとしだし、咄嗟に自分がシャンプーボトルを取るために伸ばしていた手で、隣にあるボディーソープをすぐさま手に取ると、イストワールに強引に詰め寄った。
「ちょ、どうしたんですか急に!? やっぱりさっきからネプテューヌさん、どこかおかしいですよ!? それに、体は自分で洗います!!」
「まあまあそう言わずに! ここは裸の付き合いってことでぶれいこーってことで!! いーすんはなにも言わずに私に任せてくれればいいから!!」
「なんでそんなに必死なんですか!?」
「いざっ!!」
「あっ! ちょ、ちょっとネプテューヌさん!? やっ……やだっ、変なところを触らないでください!」
「大丈夫! 優しくするから!! 何も怖くないから!!」
「優しくも何も強引にしてる時点で矛盾してます! って、ちょ、ちょっとどこ触ってるんですか!?」
このままでは、リーンボックスでの二の舞になる。
再びあんなトラウマを掘り起こされるくらいなら……。
イストワールは意を決すると、自分の体に寄り添うようにして両手で体を撫でまわしているネプテューヌに悟られないように右手を上にあげる。
そして、いつもなら宗谷に使っている、“あれ”を呼び出すと思い切りネプテューヌの頭に振り下ろした。
―――ごすんっ!」
「ねぶっ!?」
伝家の宝刀、いーすんの本の角(と言う名の鈍器 by宗谷)。
ネプテューヌの頭に振り下ろされた制裁用のそれは鈍い音を立ててネプテューヌの後頭部に寸分の狂いなく命中した。
「まったくもう……何を考えてるのか知りませんけど、変なことで紛らわせないでください! お願いですから、ちゃんと何があったのか教えてくれませんか?」
それに、後世まで続く一生のトラウマとして残ってしまうであろうあの行為を再びされたのでは、イストワールもたまったものではない。
よってイストワールはこれ以上の悪化を防ぐためと、ネプテューヌから何があったのかを聞き出すために久しぶりにこの手段を取ったのだ。
久々にこのために使ってしまった自分の本が濡れないように、彼女はそれを再び収納用の次元ポケットに本を収納すると、ネプテューヌを諭すようにそう話しかける。
だが、思っていた以上に効いたのか、ネプテューヌは反応を示さない。
「………ちょっと、聞いてるんですかネプテューヌさん? 痛かったのはわかりますけど、これはネプテューヌさんが変なことをするのがいけないんですよ? ………ネプテューヌさん?」
彼女の肌色の背中をゆすりながら声を掛け続ける、だが、なぜかネプテューヌは反応しない。
「………え?」
嫌な予感がしたイストワールが、体の上に乗しかかっている彼女の体をどかし、再度体をゆすってみる。
だが、一向にネプテューヌは反応を示さない…。
顔を数回たたいても、つねっても、プリンお預けと耳元でささやいても一向に目を覚まさない……。
徐々にイストワールの中に不安な気持ちが募っていく………。
「………ま、まさか………わ、私は………!」
「………とりあえず、そろそろ終盤かな? にしても……ミツ子……このあたりから若干様子が……」
一方その頃、宗谷は自室でベールから借りた恋愛ゲームの続きに勤しんでいた。
それほど大きくない、安い手ごろなサイズのテレビに借りたゲームハードを繋ぎ、再び現在攻略中のメインヒロインである、血の繋がった主人公の妹、ミツ子とゲーム内における自分の分身との日々をコントローラー片手に見守っていた。
とりあえず、早めにエンディングを見るために今日は徹夜覚悟だった。
幸いにも明日は彼の仕事が休みの日、ミツ子とのエンディングがどうなるのか存分にみられるというわけだ。
夜食ついでに買っておいたヒーローソーセージを頬張りつつ、宗谷は画面に映るヒロインとの会話をまじまじと見つめる。 ちなみに、ソーセージにはおまけのカードがついていて、宗谷は意外とこれを気に入っている。
後半に入ってきたと思われるあたりから、なにやらミツ子の様子に変化が見られ始めたのだ、明らかに今までのミツ子とは違った雰囲気に宗谷は戸惑いを覚えながらも、二本目のヒーローソーセージを平らげた宗谷は一緒に用意しておいた紙パックの牛乳を手に取り、刺しておいたストローに口をつける。
「………?」
するとその時、なにやら部屋の外が騒がしいことに宗谷は気付いた。
落ち着きのない、慌てた感じの足音が徐々にこちらに近づいてきているようだった。
こんな時間に誰だろうか?
宗谷が不思議に思い、後ろのドアの方に振り返ると……。
「そ、宗谷さん大変です!! ネプテューヌさんが………ネプテューヌさんが目を覚ましません!! わ、私どうしたら!?」
ドアをぶち壊しかねない勢いでドアを開け放ったのは今ではすっかり頼れる相棒となったイストワールだった。
表情は鬼気迫ったと言わんばかりの物で、ものすごく顔を青ざめている。
一体何があったのかと思った宗谷だが、ここで宗谷はその眼を一気に見開いた。
………一糸纏わぬ姿だったからだ………。
そして、よく見ると彼女は青ざめた顔で同じく全裸の状態のネプテューヌを抱えて出てきている。
さらに、体の所々に泡が付いており、おそらく入浴中だったのが窺える。
幸いにもその泡が二人の大事な部分を隠してくれてはいるものの………逆にそれがあまりにも艶めかしいというか、いやらしいというか……。
そんなあまりにも突然に刺激的なこの姿を見てしまった宗谷は………。
「ぶっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううう!!」
飲んでいた牛乳を思い切り噴き出してしまった。
「きゃっ!? そ、宗谷さん何するんですか! かかっちゃったじゃないですか!」
「ごほっ! ゲホゲホ!? い、いやそれよりも服! いーすん服! あとネプテューヌにも服!! さっきの二人はうまいこと規制が入ったアニメみたいなカッコだったけど、今は下手したら18禁で通用するぞ!!」
「え? ……………っ!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
その後、牛乳がかかったことで、さらに不健全になった二人のその姿を脳裏にしっかりと、不可抗力、で焼き付けた宗谷に久々にイストワールの本の角が直撃したのは、言うまでもない………。
「ぅ………ぅん?」
目が覚めると、そこは見慣れない天井だった。
このセリフだけなら、ラノベか小説とかにありがちな始まりのシーンだなと思いながら、ネプテューヌは目を覚ました。
自分は何で天井を見上げているのだろう……ネプテューヌはまだはっきりと覚醒していない、自称虹色の脳細胞をフル回転させて目を覚ます前後の事を思い出す。
(あ~……そう言えば、いーすんに悪ふざけしたら怒られて本の角で叩かれたんだっけ?)
どうやらその時の当たり所が悪かったらしく、気を失ってしまったようだ。
それで誰かの部屋に運ばれたのだろうか、いつの間にか濡れていたはずの体も乾いてるし、パジャマも着ている。
しかし、気を失った件に関してはついてなかったと言えば簡単に片付くが、これは本格的にイストワールに抗議してもいいのではないだろうか。
そんなことを考えていると………。
「うっ………ぐすっ……なんで、なんでこんなことに………!」
「あの二人が………あんな仲良しだった二人が………なんでこんなことになってしまったんですか……ひぐっ」
突然、ネプテューヌの耳に二人の人物の嗚咽交じりの話し声が聞こえてきた。
この声は、宗谷とイストワールの二人によるものだ。
「あの二人がこんなことになるなんて……宗谷さんはなんで止められなかったんですか!」
「俺に言われてもどうしようもなかったことなんだ! 気づいたら、もう二人は戻れない所まで……」
何やら誰かとの関係についてもめている様だ……。
一体誰だろうか、ネプテューヌは再び考え始めると、ある可能性が浮かび上がってきた。
(もしかして、私とネプギアの事かな?)
今日、ネプテューヌとネプギアが喧嘩したということをイストワールはまだ知らされていなかった。
恐らく、彼女はそのことを事情を知っている宗谷から聞いたのではないか?
だからこんな会話になっているのではないだろうか?
「そんな……もう、あの二人は元の関係には戻れないんですか…?」
「………もう、こんなことになってしまった以上、関係の修復は難しい………」
……ただし、ちょっと話が大げさのように感じるのはなぜだろうか?
姉妹喧嘩を見ていた人たちはそんなに涙ながらになって会話する物なのだろうか?
「俺達にできるのは……見守ることだけだ……あの二人のどちらが生き残るのかを……」
「本当に………本当に何でこんなことに……!」
なんかもう、喧嘩とかのレベルを超えた会話になってきていないだろうか?
話の内容から察するに、自分かネプギアのどちらかが死ぬような内容になっていることに、ネプテューヌは動揺する。
「いやいやいや! さすがにそんなレベルで私とネプギアは仲が悪くなったわけじゃないよ!?」
あまりにも飛躍しすぎた会話に、ネプテューヌが待ったをかけるように飛び起きて二人にそう言った。
「本当に……なんで……なんでお前と戦うことになっちまったんだよ……ミツ子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
「………へ? ミツ子? 誰?」
しかし、彼女の声を掻き消すくらいの声量で聞き覚えのない名前を宗谷は泣き叫んだ。
宗谷の隣にいたイストワールはハンカチで目を抑えて静かに泣き崩れている。
一体どういうことなのかとネプテューヌが困惑していると、ふと彼女の視界にある物が映った。
それは二人の目の前にあるそれほど大きくないサイズのテレビ、その画面に映し出された二人の人物が対峙しているイラストと画面の下半分に表示されている文字列だった。
『お兄ちゃん………私があんたの影だっていうなら、私はあなたを消さない限り表には出られないじゃない!』
『ミツ子、俺はお前を守る役目がある……しかし、お前がこれ以上過ちを犯すというなら………俺は!』
互いの武器を構えて、同時に哀愁漂うBGMが激しい戦闘シーンに見合ったロックテイストな曲となった。
そして、それを前にして泣き崩れる宗谷とイストワール、宗谷の手元にはテレビと繋がるハードに繋げられたコントローラー。
これらの物を見た、ネプテューヌは今までの会話の内容が自分とネプギアに対しての物ではなく………。
「なんだ、ゲームの話か………」
すべて、ゲームの内容に対する感想だったのだと悟り、がっかりしたような安堵したような複雑な気持ちに包まれた…。
「ぐすっ……あ、なんだ、ネプテューヌ起きたのか?」
「………ソウヤ、私なんだかすごい複雑な気分で目が覚めちゃったよ」
「すまん、今はそれに対してのツッコミはできない……ちょっと、この二人の関係を見ていっぱいいっぱいで………」
「ソウヤといーすんがそれだけ号泣するって……ゲームの中の二人に何があったの?」
ここまでの反応を示す宗谷がプレイしているゲームの主人公とヒロインにどのようなことがあったのか、何気に気になったネプテューヌはさりげなく聞いてみることにした。
「いやな……この二人、実の兄妹でな……こんなことになる前は仲のいい、羨ましいことこの上ない兄弟だったんだよ」
「でも……私がネプテューヌさんの様子を見るついでに、宗谷さんと一緒に見ていた辺りから……妹さんの方が、なぜかお兄さんを憎しみ初めて……性格が、歪み始めて……!」
「ついには、“守られてばかりの役立たずで終わるのは嫌!”とか言ったと思ったら、最終的には“私の思い通りにならないお兄ちゃんなんて必要ない! 私は権力を持ってして、守りたい物を守って見せる”って、行き違いになっちまって……それで今、その二人が命を賭した最終決戦に……!」
「………話を聞いた限りだと、どこに泣き所があったのかはわからないや………でも、まあ、だいたいなにがあったのかはわかった気がするよ」
大まかな経緯を知ったネプテューヌは苦笑いを浮かべながら涙ながらに泣き崩れる宗谷の肩を叩く。
そして、ふと画面の中で壮絶な兄妹喧嘩を行っている二人のキャラクターを見つめる。
今、物語は主人公のモノローグでいっぱいになっている。
その内容は、なぜこんなことになってしまったのかと言う後悔の念と、もし二人の関係を戻せたらと言う切なる願いが大半だった。
その内容を見たネプテューヌの胸の内が、またちくりと痛んだ。
………なんで、あんな些細なことで喧嘩してしまったのだろう………。
「……この二人も、何かきっかけがあれば仲直りできるのかな?」
二人の姿と今の自分たちが重なったのか、ネプテューヌは何となしにそんなことを呟いた。
この二人の様な凄まじいレベルの喧嘩ではない、本当に他人から見ればしょうもない、些細な喧嘩。
だが、当人にとってはその些細なことがとても重要な物なのだ…。
どんな顔をして、明日からネプギアに会えばいいのだろう…。
どんなことをネプギアに話せばいいのだろう…。
どうすれば、ネプギアに許してもらえるのだろう…。
悩みを込めた瞳を画面に向けるネプテューヌ。
「……ああ、きっと大丈夫だ……」
そんな彼女に向かって宗谷が言った。
ティッシュで目から溢れ出る涙をぬぐい、鼻をかんでそのままゴミ箱にスローインした宗谷はまだ若干鼻をすすりながらも、言葉を続ける。
「どんな関係にしろ、仲がいい奴との間にできた関係はそう簡単に壊れやしない……きっと、こいつらだって今はこんな風に揉めてるけど、何かのきっかけを自分で見つければすぐに仲直りできるはずだ……俺も実際そうだったしな」
「………ソウヤ」
かつて施設で暮らしていたという宗谷、何かを思い出すような彼の言葉にはどこか重みが含まれているようにネプテューヌは感じた。
何かのきっかけ、それは自分で見つける物……。
「意地を張るのはいけませんよ、ネプテューヌさん…」
「……いーすん」
「あなたはこの国の女神であると共に、ネプギアさんのお姉さんなんです……そのお姉さんがいざと言うときに悩んでいては、妹さんも答えてくれませんよ?」
姉と妹、生まれた順が違うというだけで差が着けられる存在。
だが、二人もまた何か特別な関係で結ばれている存在であることも事実、故に彼女はここまでネプギアのことを思っている…。
ネプギアとまた普通に会話が出来るだろうか……。
ネプギアとまたゲームが出来るだろうか……。
ネプギアとまた仲良くできるだろうか……。
(………やっぱり、ネプギアと喧嘩したままなんて、やだなぁ……)
明日は、何かきっかけを見つけてネプギアに謝ろう。
そして、またいつもの様な関係に戻ろう、そう考えながらネプテューヌは画面に再び視線を戻す。
『グサッ!!』
「「「あ……」」」
ちなみにその瞬間、画面の中では妹とされていたミツ子と言うヒロインが、一寸の油断を見せた兄である主人公に武器を突き立てた瞬間が映し出された…。
「「「………ミツ子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
せめて、こんなことにならないようにしないと、とネプテューヌは心に決めるのだった…。
二人の異世界の戦士と、黒いユニコーンの戦いは熾烈を極めた。
縦横無尽に閃き黒いユニコーンを切り付けるキリトのソードスキルによる剣閃、改造人間の体と多くの戦いによって培ってきた仮面ライダー1号の格闘技。
二人の攻撃を受け続けながらも、黒いユニコーンは反撃を繰り返し、二人と一体の戦いはどちらが優勢とは行かず、数十分が経過しようとしていた。
「……これだけ攻撃してまだ倒れないなんて……どんなパラメーターしてるんだよ」
「これほど手強いモンスターがゲイムギョウ界にいたというのか…?」
互いに並び立ち、黒いユニコーンを睨み付けるキリトと1号。
二人もこの数十分に体力と集中力を使ったためか、疲弊の色を見せ始めている。
対する黒いユニコーンは最初と比べるとだいぶダメージを与えたせいか、少しこちらの様子を窺っているような仕草がよく見えるようになった。
だが、油断はできない、少しの隙が命取りとなるのは勝負の世界の定石…。
互いの武器、剣と拳を握りしめる二人。
すると、ここで黒いユニコーンが動いた…。
頭を大きく振り上げたと思ったら、眉間に生えている剣先の様な鋭い角をこちらに向けたのだ。
「突進来るぞ!」
咄嗟にそれが突進攻撃のパターンだと見切ったキリトは1号にそう呼びかけ、二人は身構える
ぎりぎりまで引きつけて回避し、反撃する算段だ。
そして予想通り、黒いユニコーンは蹄で地面を抉りながら、二人に向かって真っすぐに駆け込んできた。
タイミングを計るために、じっと腰を落とす二人。
しかし、ここで予想外の事が起きた。
急にばっと黒いユニコーンが顔を上げたと思ったら、その口からどす黒い煙を広範囲に吐き出したのだ。
完全に予想外の不意打ちに、1号とキリトは反応が遅れてしまった。
「しまった……!」
「まずい、これでは回避するタイミングも、どこから来るのかすらもわからない…」
口元を抑えるキリトと煙幕の中でも必死に目を凝らそうとする1号、だが二人の懸命な警戒とは裏腹に、煙幕は二人の視界を黒く染め上げるだけ…。
そして気づいたときには………。
「っ!」
「キリト!!」
黒いユニコーンはキリトのすぐ目の前まで迫っていた、ここまで近づかれては回避も防御も間に合わない…。
判断を見誤った……。
歯を食いしばったキリトが、咄嗟に苦し紛れでエリュシデータを構えるが、これでは防御にはならない。
黒いユニコーンの角が、キリトをまっすぐに………。
「かぁ………めぇ………はぁ………めぇ………」
だが、それよりも先に、どこからかそんな声が聞こえてきた。
宗谷が暮らす世界よりも少し未来の世界で生まれたキリトでもよく知っている、この言葉の繋がり……。
そして、次に来るのは……。
「波ぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」
裂帛の気合いと共に、横合いから飛んできた青白い光の束が黒いユニコーンの胴体に直撃し、大きくその巨体を吹き飛ばした。
光の束が駆け抜けた影響で一気に晴れ渡ったあたりの煙幕、その中で呆然とするキリトの目の前をさらに、赤い小柄な影が駆け抜けた。
「Yahooooooooo!!」
更にその赤い影は空中に浮かび上がった黒いユニコーンの下に滑り込むようにして、立ち止まると両手から燃え盛る二つの炎の玉を思い切り投げつけてさらにユニコーンを上空へと打ち上げる。
「キリト! 1号! 今だ!!」
後ろから呼びかけられ、呆然としていたキリトと1号が互いに頷くと勢いよく駆け出す。
黒いユニコーンは空中で体勢をうまく補助できない、大ダメージを与えるなら今しかない。
まずは1号が先に跳躍し、空中で体をきりもみ上に回転させながら高く、高く飛び上がり、黒いユニコーンよりもさらに上へと到達すると、右足を突き出しそのまま急降下する。
「ライダースクリュー、キック!!」
回転による勢いも付けた、強力な蹴りを受けて、黒いユニコーンはそのまま下へと落下する。
キリトは意を決して身を低くかがめると、再び思い切り跳躍し、さらにヴォーパル・ストライクへの体制につなげる。
そして、目前へと迫る黒いユニコーンの体に、すべての勢いを乗せた必殺の一撃としてエリュシデータの黒い刃を迷いなく振り抜いた。
深く抉りこんだエリュシデータの刃が、キリトとユニコーンの体がすれ違う動作に合わせて前へ、前へとその刃を押し進めていった。
すれ違いざまに鋭い斬撃を受けた黒いユニコーンは空中で一つ、か細いいななきを上げると、そのまま粒子のような光となって消滅した。
なんとか危機を脱却したキリトはうまいこと地面に受け身を取って着地すると、いつものように愛剣を切り払う動作をして、それを背中の鞘に納めた。
そして、視線を逆転のチャンスにつなげてくれた乱入者の二人に向ける。
「……あんたらも来てたんだな」
「へへへ、まあな、二人が血相変えて外に出たもんだから気になってよぉ、来てみたら危ねぇところだったから間に合ってよかったぞ」
「確かに僕たちはそれなりに実力を持ち合わせているとはいえ、油断は禁物だよ? 女神様みたいに、僕たちはこの世界のモンスターと相性がいいわけじゃないんだから」
「ああ、すまない……だが、おかげで助かった、悟空、マリオ」
二人の乱入者、同じヒーローメモリーとしてこの世界に存在する仲間、悟空とマリオにお礼を言った1号、だが二人は気にするなと言いたげに笑みを浮かべる。
だが、二人はすぐさまさっきの黒いユニコーンがいたあたりに目線を向けて真剣な表情へと変わった。
「それよりも、さっきのは何だったんだろう……あんなモンスター、今までいなかったよね?」
「ああ、オラも見たことがねぇ……それに、なんか気味の悪ぃ気を感じたぞ……」
やはり、二人もあのモンスターが気になったようだ。
この森と同じように、突然現れた謎のモンスター…。
一体、何が起ころうとしているのか……キリトは一抹の不安を感じ始める。
「………うっ……くぅ……」
すると、突然自分たちから離れた位置にある大きめの木の後ろから、先程倒れていた赤毛の女性が自力で出てきた。
怪我をしているのに、とキリトはすぐさま気づくと慌ててその女性の下に向かう。
よろける女性の体を咄嗟に支えたキリト、後に続いて1号も加わる。
「おいあんた、無茶するな…それほどひどくないとはいえ、気絶するほどのダメージを受けてるんだぞ?」
「あ、あの………モンスター……は?」
「それなら、何とか倒したよ、だから気にする必要はない」
黒いユニコーンを倒したことを伝えると、女性は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐにまた動き出そうとする。
だが、ダメージが大きいのかすぐにその場に座り込んでしまった。
「だから、無茶するなって……」
「い……かなくちゃ……」
「え?」
「………きょう、かいに……ネプギア……たちに、伝えないと……」
うわ言のように呟く女性、その言葉にキリトは耳を傾ける。
どうやら彼女はプラネテューヌ教会にいる女神候補生の知り合いらしい、キリトはそう判断すると、そっと彼女に語り掛ける。
「おいあんた、名前は?」
「…あたし……は、ファル……コム」
「………ファルコム、あんたは俺達が教会に連れていく、だから今は休め、このまま無茶してもあんたが危ないだけだ、だから今は体を休めてくれ」
キリトが諭すように呼びかけると、ファルコムは遂に限界が来たのか再び気を失ってしまった。
何やらただ事ではないことを伝えようとしていたファルコムと言う名の彼女、キリトたち四人は彼女を教会に送り届けようと決めると、すぐさま彼女の体を抱えて教会を目指すことにした。
果たして、ファルコムは何を伝えようとしているのか………。
いかがでしたか?
次回、何かを伝えようとするファルコムを送り届けることにしたヒーローメモリーの四人。
そして、それは異変の序曲となる……。
それでは、次回でお会いしましょう…。