いやぁ……勢い余ってこんな時間まで書いていた…。
けどまあ、いいか(笑)
さて、今回はアニメ本編に行く前にとある二人の夜の風景をお見せ致しましょう。
それではお楽しみください、どうぞ!
stage,72 俺と、わたしと、夜の出会い
本来の次元から外れた異空間とも呼べる空間、ここにはかつてこのゲイムギョウ界で魔神と呼ばれた存在、ヴィクトリオン・ハートとかつてこのゲイムギョウ界の国を治めていた古代女神達の拠点が存在している。
その拠点の中にある会議室、とも呼ばれている大広間にヴィクトリオン・ハート、ライラ、ヤエ、ステラの四人が集まっていた。
「……ということで、今回の試練を終えて無事に彼は勇者への“ランクアップ”を完了して、違う世界の紫の子のエンディングをバッドからハッピーに変えることが出来た」
ヴィクトリオン・ハートが微笑ましいと言わんばかりの笑みを浮かべて長机に座る三人にそう言うと、その場の三人はそれぞれ満足げな笑みを浮かべてこくりと頷いた。
紆余曲折あり、クロワールの妨害、さらには予想外の変身を宗谷達が遂げるという事態もあったものの、こうして軌道修正できたことが何よりも一安心なのだ。
「それにしても、まさか彼にオリジナルのヒーローをぶつけて覚醒へと至らせるなんて……無茶にもほどがありますねぇ」
ライラが質問したこと、それはヴィクトリオン・ハートが仕掛けた宗谷への最大の試練の事だった。
彼を覚醒へと導くための手段、それは同じ“特異点”の力を持つ本物のヒーローと戦うことでそれぞれの力を共鳴させ覚醒へと導くという手段だったのだが、このことはヴィクトリオン・ハート以外には伝えていなかった。
「いやぁ、ごめんごめん、たぶん無茶だって止められるかなって思ったものだから…」
「止めましたね絶対……その方法を実行して少年くんが無事である保証なんてないですから」
「でもまあ、結果オーライやったから良かったんちゃう? こうしてこっちの予定通りの道を進むことが出来たんやし」
ヤエが隣に座るライラの肩を叩いてそう言うが、ライラは一つため息をついてその場に頬杖をついた。
「まあ、確かに少年くんがランクアップしたのは大きな成果でしたよ……しかしですねぇ、まだ安心できたわけじゃないんですよ?」
「え? どういうことや…?」
「………まだ、“犯罪神の片割れ”が残っている」
ヴィクトリオン・ハートがライラの言葉に付け加える様にそう言うと、ヤエは、はっと息を飲んだ。
そう、今回の騒動を引き起こした存在、“新・犯罪神騒動”の発端ともいえる物、“犯罪神の片割れ”ともいえる存在が残っているのだ。
それは、“新・犯罪神四天王”……自分たちが呼び寄せた四天王の魂をこの世界の肉体となる者に憑依させることで転生へと至らせた者達、あの事件以来彼らの姿は忽然と消息を絶ってしまったのだ。
「………たぶん、あの四人は……まだこの世界、にいる……」
「彼ら自身には次元を超える手段はない、ということはまだこのゲイムギョウ界のどこかに潜伏して活動する機会を待っているはずだ……安心するのはまだ早いってことだよ」
ヴィクトリオン・ハートはそう言うと、ヤエをはじめ、ライラ、ステラと順に目を向けていく。
その眼差しは真剣そのもので、それを向けられた彼女たちは反射的に表情を真剣なものにする。
「厄介なことになる前に、これからは彼らの監視と共に、行方をくらました新・犯罪神四天王を探し出すことも僕たちのこれからの予定に加えることにする………ってことで、いいかな?」
当初の予定である、“宗谷の育成”。
さらにそれに加えて、“不安要素である新・犯罪神四天王の捜索”も加わったと言うことに、真剣な表情を浮かべながらもライラは内心、憂鬱を感じざるを得なかった。
また仕事が増えたと心の内で毒を吐きつつも、彼女はこれも仕方がないことだと割り切ることにした。
何せこれは自分たちが蒔いた種であり、後処理をするのも自分たちの本来の役目と言うものだろう。
もし、彼らが再び現れて今後の予定に刺しあたるような妨害をしてもらっては困る、それなら先に厄介な芽を潰しておくのは理にかなったことだ。
しかし、それでもまだ油断はできない……。
彼ら以外にも、邪魔をしてくるであろう存在はまだもう一人いるのだから…。
(そろそろ私達もこっそり動くのは難しくなってきそうですね……)
ライラは今後、自分たちの活動範囲が大きくなるであろうことを予見した。
場合によっては表に立たなければいけない場合も考えられる…。
「そう言えばライラ、“二人目”の方はどんな感じかな?」
今後の事を一人でもんもんと考えていた、ライラにふとヴィクトリオン・ハートがそう聞いてきた。
彼の言う“二人目”、今後の予定に大きく関わることになるであろう、“宗谷と同じ素質を持った者”。
彼女は今回の新・犯罪神騒動である“最初の決戦”の最中にひそかにその存在となりえる人物と接触し、力を与えた。
今後はその人物の行動も重要となってくるのは目に見えて明らかだった。
「ええ、今のところは表立って行動はしていませんが、直に少年くんとも接触するかと……」
「……そうか……二人には仲良くしてもらいたいね」
呑気な笑顔を浮かべるヴィクトリオン・ハートにライラは再び溜息を吐いた。
(だといいんですけどねぇ……)
彼の願いがうまくいくかどうか、本人と直接会った彼女としてはそれがそう簡単にいかないように思えてならなかった。
これはまた今後の予定も苦労が多そうだと思いつつ、ライラはどっかりと座っていた椅子に思い切り体重を預けた。
「……さて、今回のおさらいはこんな所かな」
一通りのまとめを済ませたのを確認したヴィクトリオン・ハートはそう言って座っていた椅子から立ち上がると彼女たちに向けて優しげのある微笑みを浮かべた。
「とりあえずみんな、これで前半戦はひと段落した……この後くる“後半戦”のためにもこれから頑張ってほしい……きっと、今まで以上に激しいことになると思うけど………その前にみんな、お疲れ様………そして、これからもよろしく」
ヴィクトリオン・ハートはここまで付いて来てくれた彼女たちにせめてもの言葉を送った。
それを受けた彼女たちは何を今更と言いたげに微笑みを浮かべる。
「乗り掛かった舟です……こうなったら、最後まで付き合いますよ?」
「そうやな、私らは好きであんたと一緒におるんやから…今更気を使わんでもええよ」
「………同意、パパと一緒、なら……どこまでも、いける」
三者三様の返答にヴィクトリオン・ハートは微笑みながら頷くとその場を後にし、ライラたちの傍に移動した。
その隣にすぐさま近づいてきたステラの頭をヴィクトリオン・ハートは撫でながら両側にいるライラとヤエにも笑みを向ける。
「……よし、そろそろご飯の時間だし、今日は僕が腕を振るわせてもらうよ」
「え~、大丈夫ですか~? ここ最近料理してなかったから腕なまってるんじゃないですか?」
「ゲイムギョウ界の様子を見ながらバイトしてたし、それなりの腕はまだあるよ、ヤエにも負けないさ」
「ほほう、それは私への挑戦ということでええんか?」
自信ありげにそう言ったヴィクトリオン・ハートに挑戦的な目を向けるヤエ、本日の食事はいつもよりもにぎやかになりそうだとライラは感じつつ、隣を歩く仲間たちを順に見ていく。
かつてはいがみ合い、争い合ってきた女神達。
だが、たった一人の人物……彼が自分たち四人と関わったがために、この世界に生まれた自分たちの運命は大きく変わり、こうして今は肩を並べて歩くようになった。
不思議な出会い、不思議なきっかけ、不思議な繋がり。
でもそれは何よりも強く輝き、何よりも強くこの先に輝く道を照らし出している。
繋がりの力を信じる、ヴィクトリオン・ハート。
その存在は紛れもなく、ライラ自身の“希望の光”だろう…。
この希望を信じて、自分はこれからも彼についていこう…。
自分が愛した、このゲイムギョウ界を破滅のルートから反らすために……。
決意を新たに、ライラはそう誓いながらヴィクトリオン・ハートの後ろについていく。
その最中、彼女はあることに気付いた。
なぜか、ヴィクトリオン・ハートの後ろにいたステラが忙しなくあたりをきょろきょろと見回しているのだ。
疑問を抱いた、ライラが彼女の目線に合わせて身を屈めて彼女に問いかけた。
「どうしたのですか、ロボティック? あ、ひょっとして~、おトイレですかにゃ? だったらお姉さんが一緒についていってあげましょう! さささ遠慮なさらずに、なんならトイレの中までご一緒しても……!」
「ラーゲリー、に送られたい………?」
「ひっ!? し、司令!! ラーゲリーは! ラーゲリーだけは勘弁してくださぁぁぁい!!」
「誰やねん指令って……あとなんやねんラーゲリーって……うちにそんなんあったか?」
後ろで何やら騒ぎ始めた二人にヤエが冷ややかなツッコミを入れる。
ちなみに、ラーゲリーと言うのは収容所を意味するらしいのだが、実際にそれがこの拠点にあるかどうかは定かではない。
定かではない物でライラを脅したステラは一つ息を吐くと、ヤエの方に向き直ってあることを問いかけた。
「………シンシア、は?」
ヴィクトリオン・ハートたちのいる拠点のある次元の外、月明かりに照らされる深い森のさらに奥にひっそりと存在する湖のほとりで、シンシアは一人夜風に当たっていた。
彼女の白い髪と頭の花飾りが夜の風に当たって揺れる、そして同じように頭につけている髪飾りもゆらゆらと揺れる。
彼女は、たまにここに来てはこうして夜の空を見上げることがある。
これから来るであろう困難は彼女の考えていることよりもかなり大きいだろう。
それでも、この空に輝く星々を見つめている時だけは彼女はどこか安心することが出来た。
暗い夜空の中で必死に頑張って輝こうとしている星々を見ていると、不思議と自分も頑張らなければと思えるようになるからだ。
(………この世界を、滅ぼさせたりしない………みんなと出会った……出会うことが出来たこの世界を……わたしは………)
決意も新たに彼女はふと頭につけている花飾りに触れた。
とある日に、ひょんなきっかけで次元を超えた先に出会った、彼女の“大切な人”、その人からもらった髪飾りを今も彼女は大事に持っている。
あの時の出会いで得た、“絆の証明”だから……。
あの時のことを思い浮かべて僅かに頬を朱に染めて微笑むシンシアは溜まらなくなったのか顔を手で覆って首をぶんぶんと左右に振った。
(………いつかまた、会えるかもしれない……だからその時まで、わたしも頑張らないと……)
そう心で呟いたシンシアは今頭につけている花飾りをくれた、ある人物のことを思い浮かべた。
“プリムラの花”。
これを自分にくれた彼と、いつかまた再開するために、今は自分のできることを頑張らないと…。
その時、ふと彼女の脳裏にその人物との別れ際に自分がしたことを思い出した。
「………メテオ………」
別れ際に、いつかまた再開するという約束と、自分の中に生まれた思いを込めた行動だった。その時のことを思い出した彼女は再び頬を朱に染め、顔を手で覆いぶんぶんと頭を左右に振る。
しかし、それは恥ずかしいという気持ちと一緒に心がほんのりと温かくなるどこか優しげなぬくもりのある感覚だった………。
この気持ちは前にも感じたことのある感情…。
まるで、ヴィクトリオン・ハートやみんなと初めて出会った時のように………。
「絆………繋がり………想い………いつからお前はそう言うのが好きになったんだっけな、シンシア?」
その時、シンシアの背後から声が聞こえシンシアは慌てて背後を振り返った。
夜の暗闇に包まれた森の木々、その奥から顔を出したのは見間違うはずのない、彼女たち古代女神にとって因縁深い関係の存在………。
「クロ、ワール……」
「よぉ、久しぶりだな、シンシア」
予想外な再会を果たしたシンシアは警戒しながらも、そっとクロワールと向き合いじっと彼女を見つめる。
「なんで………ここに………?」
「へへっ、そう気張るなよ、肩の力を抜けって……オレは単にお前とこれからのことを話しに来ただけなんだからさ」
「……これからの、こと……?」
「ああ、そうだよ………まあ、さしあたって一番近いものとしては、“超級の試練”についてだな?」
「っ!」
クロワールの言った単語を聞いた瞬間、シンシアは驚きのあまりに目を見開いた。
―――“超級の試練”。
これは宗谷の育成の重要なカギとなるまさに“重要イベント”の事だった。
彼女はシンシアの反応に対してにっと笑みを浮かべる。
「そのイベントは一番大事らしいが、その試練を迎えるには残り3つのヒーローメモリーを集めなくちゃいけねぇ…そうでないと、次の試練を迎え撃つほどの力を手にすることが出来ないらしいからな?」
確かに、彼女の言う通り次の試練となる“超級の試練”を迎え撃つためには宗谷にさらに力を与えるべく、合計で20あるヒーローメモリーをすべて回収する必要があるのだ。
既に、彼の元には17のメモリーが存在している。
残るメモリーの数は、合計で3つ。
次の試練までにそれを揃えるのが今後の課題になると拠点に帰る途中にライラが言っていた…。
「既に“コミックヒーローズ”のメモリーは揃った……残りは3つ……“ノベルヒーローズ”、“ゲームヒーローズ”、“スペシャルヒーローズ”に残った一つずつ……まあ、無事にそいつらを集められるといいな」
漫画の主人公たちの力を記録したヒーローメモリー、“コミックヒーローズ”。
ライトノベルの主人公たちの力を記録したヒーローメモリー、“ノベルヒーローズ”。
ゲームの主人公たちの力を記録したヒーローメモリー、“ゲームヒーローズ”。
特撮ヒーローの力を記録したヒーローメモリー、“スペシャルヒーローズ”。
それぞれのメモリーを指し示すように指を立てたクロワールは最後にその指の数を三本に折り畳んで、残りの数を示すようにシンシアに見えた。
そして挑戦的な笑みを浮かべつつ、クロワールはシンシアを指さすとさらに付け加えるように言葉をつづける。
「今回はお前らの予定通りになっちまったけど、次はそうはいかないぜ?」
「……また、邪魔………するの?」
シンシアの問いかけにクロワールはただ肩を上げて首を小さく左右に振って返答した、しかし、それは否定の意味ではない。
彼女の顔に浮かび上がっていた不敵な笑みが明らかに、なにかを企んでいるということを物語っていたからだ。
「忘れたのか? オレが何でお前たちの邪魔をしてるのか…」
クロワールはそう言うと、シンシアの隣にまで近づきそっと彼女の背後に回り込んだ。
シンシアとは対照的な彼女の褐色の細い手がシンシアの腕の下から肩にかけて滑るように昇ってくる。
警戒し、背後のクロワールに意識を集中させるシンシア、だが下手に動けば何をされるかわからない、その恐怖が彼女の動きを抑制させた。
「お前は、心の内があのころとだいぶ変わっちまったみたいだけどな…」
彼女は静かに、彼女の耳元に顔を近づけて呟いた。
触れるか触れないかの距離でシンシアの腕を下から上へと滑るように移動した彼女の手はシンシアの肩の位置で止まった。
そして…。
「ひにゃっ!?」
完全に不意を突いてクロワールは徐にシンシアの着ているエプロンドレスのボリュームのせいでわかりにくいが、僅かに膨らんでいる胸を背後から両手で鷲掴んだ。
予想外の行動に驚くシンシア、しかし、それに構うことなくクロワールは両手を動かし始める。
「ひぁっ……! あっ…やぁ……な、なんでぇ…」
「お~、やっぱり変わんねぇなその反応! お前はライラやヤエに比べたら貧層だけど、感度は良かったよな? それに、確かここをこうすると……」
クロワールはそう言うと、悶えるシンシアの髪の間から見えた彼女の右耳に口を近づけ……。
はむっ、と彼女の耳を甘噛みした。
「ひっ! やっ……ぁ……それ……っ…ら…らめぇ……ふにゃぁぁぁぁぁあああ……!」
その途端、シンシアはまるで猫の様な声を上げて体をびくりと震わせた。
頬を高揚させ、息も荒くなり始め、小刻みに彼女の両足が揺れる。
その様子を見て彼女の耳に甘噛みを続けるクロワールはさらなる行動に出た……。
「はぁ……はぁ……ぁ……っ!?」
左の胸を揉みしだいていた左手を離し、彼女のエプロンドレスのスカートをたくし上げたのだ。
それにより、彼女の真珠のように白い太腿と身に着けていた猫柄のパンツが露わになる。
そして、クロワールはそのまま左手をシンシアの太ももを撫でるように這わせ、下から上へとゆっくりと移動していく。
「やっ……ま、まって……お願いぃ……!」
突然の羞恥に涙を浮かべ始めたシンシアに構うことなく、クロワールは左手をその更に上へと滑らせていく。
「だ、め……それだけは………だめぇ………!」
涙目で懇願するシンシアだが、クロワールはやはり止まる気配がない。
シンシア自身、このような状況下のイラストを描くことに抵抗はなく、むしろ趣味にしているのだが、実際に自分が体験するのでは話が違う。
まだ、“初体験”もしていない故に体を駆け巡り、頭の中に流れてくる甘く甘美ながらも恐怖が入り混じったようなその感覚は彼女にとってはまだ知らない感覚であり、彼女の中の嫌悪感を増大させる。
だからこそ、これ以上の行為は許すわけにはいかない。
抵抗の意志を込めてきゅっと目を瞑るシンシア。
しかし、彼女のその抵抗も虚しく、非常にも遂にクロワールの手が、シンシアの誰にも触らせたことのない部分にあともう少しで触れそうなほど近づいた…。
万事休すかと思われた、まさにその時だった………。
「こんなの……やだっ………やだぁっ!!」
振るえるような声から一転、叫ぶようにシンシアがそう言うと、彼女の体が白く光り輝き始めた。
「うわわっ!?」
その光は彼女を後ろから押さえていたクロワールを弾き飛ばし、後ろの湖に叩きつけると彼女の背中に集まり、ある刑場の物へと変化し始めた。
光が集束し、姿を現したのは一対の機械で出来た翼だった…。
白銀に輝くその翼を背に表わしながら、シンシアは息を荒げながら背後に吹き飛ばしたクロワールへと視線を向ける。
湖の水を浴びて水浸しになりながらも立ち上がったクロワールは彼女の背中の翼を見た瞬間、再び口元ににやりと笑みを浮かべた。
「………ふふふっ! あっははははははは!! これでわかったろ? やっぱりどれだけお前も心の内が変わっても、結局変わらない部分もあるんだよ!」
「え………あっ……」
クロワールの言葉にシンシアは無意識の内に己の力の一端を発現させたということに気付き、慌てて背中の翼を消滅させる。
「いくら内面を変えても、お前の体の感じやすい部分やその力みたいに、変わらない物だってある……オレが昔から変わってないのと同じでな?」
クロワールは笑みを顔に浮かべたまま湖から出てくると、口元に笑みを浮かべたままシンシアと再度向かい合う。
「オレは昔から変わらねーよ、今も、そしてこれからもな」
今までクロワールは自分のみたい、という思いに忠実に行動し、彼女たちの邪魔をしてきた。
彼女の本質に忠実な部分、そこは今も昔も変わらないのだ…。
シンシアは彼女の言葉の意味をそう受け取ると、服の乱れを直しつつクロワールと相対する。
「オレはな、見てみたいんだよ……“破滅のルート”を進んでるこの世界がどんな風におもしろおかしいことに巻き込まれていくのか、見たくて見たくて仕方ねぇんだ♪」
彼女の肩を掴み、耳元でささやくように告げられたクロワールの言葉に、シンシアは悪寒にも似たものを感じた。
自分たちが破滅を逃れるために必死でやっていることを、彼女は遊びか何かと思っているかのようにあざ笑っている。
“ゲイムギョウ界創世記、最後の戦いの時と、同じように”……。
彼女はただ、見てみたいだけ、だがそれがどのような結果を生むのか理解しているからこそ、シンシアは反射的にクロワールに詰め寄った。
「あなたは………この世界がどうなってもいいの……!?」
「ああ、構わないぜ? オレはただ記録するだけ、ただそれだけだ……それに世界が滅ぶ瞬間なんてなかなか見れないからなぁ、いやぁ、楽しみで仕方ねぇよ♪」
「………っ」
悪びれる様子もなく、無邪気な子供の様な笑みを浮かべるクロワールにシンシアは戦慄にも似た感情を覚えたと同時に、珍しく怒りを感じた。
きゅっと握りしめた手を胸の前に置き、クロワールを睨み付ける。
しかし、クロワールは顔に浮かべた笑みを崩すこともなく、背中に黒い翅を浮かび上がらせるとふわりと空中に浮かび上がった。
「まあ、そうゆうことだから、オレは今からその試練をよりおもしろおかしいことにするための準備をしてくるぜ」
「………準備?」
「ああ、これからも長い付き合いになりそうだ……またな、シンシア♪」
彼女はそう言うと、右手を上に振り上げた。
すると、星が瞬く夜空の真ん中に、どす黒い穴の様な物が出現した。
彼女はそれを見上げると、にやりと笑みを浮かべてシンシアを見下ろした後、空に開いた穴の中へと飛び込んでいった。
一人残されたシンシアはクロワールが姿を消したと同時に消滅した空間の穴のあった場所を見つめながら不安そうな表情を浮かべた…。
不安そうな表情を浮かべるシンシアの頬を夜風が撫でる。
だがこの時に感じた夜風の感触は、優しさはなくまるで不安を煽るような怪しげな夜風だと、シンシアは感じた…。
所変わって、ゲイムギョウ界を更生する四大国の内の一つ、ラステイション。
ある日の夜の事、ここラステイション教会の執務室にて一人の少女の秘密の夜会が行われようとしていた。
今日もいつものように一日分の仕事を終わらせた彼女、このラステイション教会の主にしてこの国の女神であるノワールは最後の仕事を終わらせるといそいそと自分の執務室に入り、まわりにユニや教会関係者がいないのを確認すると入口のドアを閉めてこっそりと鍵を掛けた。
「……よし……♪ ふ~んふふ~ん♪」
途端に鼻歌交じりに陽気なステップを踏みながら部屋の奥へと向かっていくノワール。
彼女がここまで浮かれるというのも、なかなかないことだ、しかし、今日に限っては浮かれずにはいられない。
それ程までに、彼女は今日という日を待ちわびていたのだ。
最近はいろいろな事件に巻き込まれたり、一度は死にかけたり、借りを返すために国のシェアをつぎ込んだりと苦労が多かったがこの時ばかりはその苦労が報われるというものだ。
「やっと始められるわ♪」
執務室のデスクの傍、そこに立てかけてあった全身を映し出すほどある鏡の前で楽しみと言わんばかりに笑みを浮かべるノワール。
再び機嫌よく鼻歌を歌いながら、彼女は右手で自分の髪を結んでいたリボンをほどいた。
彼女の髪を二つに纏めていたがツインテールがストレートになり、ノワールはそのまま自分の衣服へと手を伸ばそうとしたところではっとその手を止めた。
「おっと……もう少し待っていないといけないわね、着替え中にあいつにまた覗かれでもしたらたまったもんじゃないわ」
そう言うとノワールは視線を鏡から外のテラスの方に向ける。
夜の闇が窓を通してでもわかるくらいに深まり、外は一面の暗闇に包まれている。
「まったく、早くしなさいよね……」
少し機嫌が悪そうに呟いたノワール。
そう、今日のお楽しみは彼女だけの楽しみではない、この時間に待ち合わせをしたある人物の楽しみでもあるのだ。
そしてその呟きが届いたかのように、テラスに繋がるガラス戸の内の一つがノックされた。
「来た!」
それを聞いたノワールは、すぐさまそのガラス戸の方に向かい、待っていたと言わんばかりにガラス戸を開け放った。
「よっ、お待たせノワール」
「遅いわよ宗谷、3分遅刻よ」
ガラス戸を開けた先、いつの間にかテラスにいたのは彼女が待ちわびていた人物、天条 宗谷その人だった。
ノワールに遅刻を注意された宗谷は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるとノワールに導かれてそのまま部屋の中へと入った。
「いやぁ、悪い悪い、ちょっと今日は抜け出すのに苦労してな……ブーステッド・フィアンマで急いできたんだが……」
「まったく、こっちは時間が惜しいんだからちゃんと予定通りに来なさいよね、時間にルーズな男は嫌われるわよ?」
「うっ……反省します……」
ノワールに窘められた宗谷は再度申し訳なさそうに肩を落とす。
「でも前は予定よりも早くに来ていたわよね、今日はそんなに忙しかったの?」
「ああ、それはな………最近、うちの教会で保護した子がいるんだよ」
「保護した子? 迷子か何か?」
「一応はそう言うことだ、それでそいつがとんでもないパワフルなやつでな……ここに来る前もプロレスごっこにつき合わされてた………おかげで肩が痛い……ていうか脱臼しかけた………」
そう言って宗谷は肩のあたりを手で揉みながら苦渋の表情を浮かべた。
プロレスごっこというのもあまり穏やかではないが、その子供と言うのはいったいどれほどの元気を持っているのだろうか、子供と言うのは体力が無限にあると錯覚するくらい元気なものだが………19歳の青年の肩を脱臼させかけるのはさすがに尋常ではないように感じる…。
「な、なんだか大変そうね……まあ、いいわ、それよりも早く始めましょう? こっちは待ちくたびれちゃったんだから」
あまりこの話題に触れるのはよそうと判断したノワールはすぐに話題を変えると、宗谷にそう言って自分はデスクの方に向かった。
「ああ、そうだな……あ、そう言えばさノワール」
「ん? どうかしたの?」
唐突に宗谷が彼女を呼び止めたので、ノワールはすぐに足を止めて彼の方に向き直る。
「……いや下ろした髪もきれいだなって思ってさ、いつもツインテールだから新鮮でよ」
「ふえっ!?」
予想だにしていない言葉に、ノワールは目に見えて明らかなほど頬を真っ赤に染めて動揺した。
「な、な、な、何よ突然!?」
「いや、ノワールって黒髪だからさツインテールもいいけどそう言うストレートも似合うなって思ったんだよ、それで浴衣とか来たら萌えポイント高いぜ、絶対」
「………なんか最後のは褒められてるのか微妙だけど……褒めても何も出ないからね、それに……嬉しくなんてないんだから」
「はい、ツンデレ乙」
「ツンデレ言うな!!」
清々しい笑顔でサムズアップをしてくる宗谷のペースに巻き込まれ、いつものやり取りに持っていかれるノワール。
しかし、今はそれでもかまわないように思えてくる。
だって、これから始めるのは二人だけの時間……。
誰にも邪魔されない、ノワールと宗谷だけ時間なのだから……。
「………そんじゃあ、そろそろ始めるか、久々に」
「………ええ、そうね……宗谷……こっちに来て?」
ノワールに誘われて、宗谷は身に着けていた黒のジャケットを脱ぎながらノワールに言われるがままに近づいていった…。
ノワールと宗谷が待ちわびていた時間が、始まりの時を告げる。
今宵もまたこの教会で、誰にも知られていない秘密の夜会が始まる……。
しかし、この時この場にいた二人は知らない。
この二人の秘密の夜会を、こことは違う場所で密かに覗く、何者かの存在がいるということに………。
いかがでしたか?
次回はいよいよあの子が登場します!
それでは、次回でお会いしましょう!