短編やら何やらでこっちの更新も遅れてしまいましたが……ここ最近学校のレポートが忙しい時期に入りまして、一気に書くのではなくちょくちょくと書くことしかできませんでした(汗
それに短編の方はPCではなくスマホで書いていたのですが、いかんせんモチベーションが……。
まあそんなことより!
今回は残されたイストワールが出会った魔戒騎士の鋼牙とコラボ先の主人公の稜牙くん!
彼女たちはどのような物語を生むのか、そして宗谷はどうなったのか!
それではおたのしみください、どうぞ!
―――魔獣、“ホラー”……。
魔界に潜み、深く、世に強く根付く闇とされている“陰我”に寄生し、それを媒介にして生まれる“ゲート”を通じて現れる悪しき者達。
人間は古来より闇を恐れ、魔を嫌った。
ホラーもまた、人間にとっては闇そのもの、畏怖の対象である。 何故なら、ホラーは……人を喰うのだから……。
己の空腹を満たすために生きている人を喰らい続けるホラー…。
しかし、闇ある所に光あり……人を喰らい続ける魔獣達を狩る者も存在していた……。
人知れず、闇と共に現れるホラーを狩る者、強き志を胸に闇に蔓延る魔獣を狩り続ける“狩人”たち、その身に輝かしい“鎧”を纏い、人の未来をその輝きで照らし続けた者達。
彼らは………“魔戒騎士”。
そして、その魔戒騎士の中でも、“黄金の狼の鎧”を纏った者は“黄金騎士”と呼ばれ………この名を与えられた。
―――“牙狼”。
「………つまり、あなたたちはそのホラーという怪物を倒すという役割を持った、魔戒騎士、という方々なのですね?」
目の前にいる二人の人物から聞いた話を纏めたイストワール、彼女の言葉に二人の内の片方、黒のコートに身を包んだ青年、稜牙が首肯して返答した。
「ああ、そして俺はこことは違う世界から来た……この世界に紛れ込んだホラーを狩るために」
暗がりの中でそう言った凌牙の目つきは鋭く、強い意志を込めたものだった。
長い間暗がりにいたおかげでイストワールも大分目が慣れてきたようだ、彼は視線を魔卿館の中に巡らせると強く拳を握り、再度イストワールと向き直った。
「話を聞く限り、この世界ではホラーは存在そのものがないものとされている、ということで合ってるんだな?」
「ええ、少なくともそのような者の存在は確認されていません」
「なら、間違いない……この屋敷に住み着いているのはおそらく俺の世界からこちらに逃げ込んだホラーだろうな」
微弱に感じるホラーの気配を追って、この屋敷に足を踏み入れた稜牙はそう断言した。
彼の言う、異界の魔獣がこの屋敷に……。
イストワールは危機感を感じて辺りを見回すが、今のところは何も怪しい存在は確認できない。
「………今はここにはいない、おそらくどこかに隠れているんだ」
彼女の様子を見て警戒しているのだろうと感じた稜牙がそう言うとイストワールは少しだけ警戒を解いて周りを見回すのをやめた。
そして再度稜牙と向かい合う。
「それにしても、驚きました……こことは違う別のゲイムギョウ界にはそのような方々がいたなんて」
「いや、それは俺も同じだ、なにせこっちのゲイムギョウ界のイストワールが普通の人間と変わりない大きさになっているんだからな」
互いに世界観の違いを目の当たりにして驚いたことを話し合うイストワールと稜牙、やはり別の世界の自分は以前までの自分と変わらないサイズの様だ。
やはり自分だけが特別なのだろうか?
不意に彼の言葉を聞いてそのようなことを思ったイストワール。
すると、稜牙はなぜか首を傾げながら目の前にいる彼女を見つめ顎に手を当てるような動作をしながら、何かを考えるような仕草をみせた。
「そう言えば……特に驚きはしないんだな」
「……え? 何がですか?」
「こことは違う別世界の存在の事だ、普通なら驚くのも無理はないはずだが、なぜか落ち着いている様だから気になってな」
稜牙の言う通り、イストワールは彼の口から聞かされたホラーや魔戒騎士という存在については驚きこそしたが別の世界という言葉には特に驚くような様子を見せなかった、疑うような素振りも見せずなるほどと首を振っていた彼女に稜牙は違和感を感じていた。
これに関してはちゃんと理由は存在する。
それは、彼女が以前にも似たような出来事に遭遇していたからだ。
「ああ、それに関しては前にもあなたと同じように異世界の方とお会いしたことがあるからです、それに私自身も別のゲイムギョウ界に迷い込んでしまった経験がありますから」
「……なるほどな、俺以外にも異世界の人間には会ったことがあるから慣れてたって訳か」
別の次元のゲイムギョウ界から訪れた、“クエストハンターの名を持つ勇者であり、宗谷の同志である青年”。
そして、彼女と宗谷が迷い込んだまた別のゲイムギョウ界で出あった、“音速”、“漆黒の騎士団”、“白銀の嵐”の異名を持つ三人の“仮面の勇士”達との出会い。
それらを出会いを経験したイストワールは既に異世界というものは無数に存在しているということを認知していた。
そのため、稜牙が言っていたことに対しても特に違和感を感じることはなかったのだ。
「………それに、驚くと言えばだ」
稜牙はそういうと、今度は視線を鋼牙の方へと向けた。
「まさか、あんたがあの有名な魔戒騎士……冴島鋼牙だったなんてな」
「………俺を知っているのか?」
「ああ、あんたのことは俺のザルバと……師匠から聞いていたからな」
稜牙は左手に嵌っている己のザルバを鋼牙に見せる様に向ける。
鋼牙は差し出された彼の左手のザルバに目を向けると稜牙のザルバはカチカチと顎を鳴らして話し始めた。
『冴島鋼牙……歴代の黄金騎士、牙狼の称号を持つ者の中でも特に秀でた実力を持った魔戒騎士……ホラー喰いの魔戒騎士“暗黒魔戒騎士 呀”、ホラーの始祖である“メシア”……数々の強大な敵を狩ってきた、お前の事を俺は知っているぜ? なにせお前と共に戦ってきた記憶を持ってるからな』
稜牙のザルバがそう言うと、鋼牙は表情を変えず、特に興味を示すような素振りも見せない。
『なるほどな、つまりはそっちの俺は俺とそんなに変わらないって訳か』
その代わりに鋼牙の左手の中指に嵌っているザルバが同じように顎を鳴らして答えた。
「でも、なんにせよこうして会えるなんて思ってなかったからな……会えて光栄だ鋼牙さん」
「………」
握手を求めてか、稜牙は右手を差し出す。
だが、鋼牙はその手を握り返すような動作を見せず、彼の手を一瞥しただけで終わり、鋭い眼差しを稜牙に向けた。
「今はそれどころじゃないんじゃないのか?」
「……っと、そう、だな……呑気に話している場合じゃないか…なんせ、俺にはあまり時間もないし……」
愛想のない鋼牙の発言に戸惑いつつ稜牙は出した右手を引っ込ませながら自分の本来の目的を思い出し、再度表情を真剣なものにした。
稜牙はイストワールの方に再度視線を向ける。
「話を戻すがさっきも言っていたが……この屋敷では妙な神隠しの噂が流れてるんだよな?」
「……はい、ここ最近で行方不明者が何人も……」
彼の問いかけにイストワールが答えると、稜牙は、そうか、と答えて辺りを見回してから腕を組み、考える仕草をする。
「……ということは、原因は……」
「十中八九、その紛れ込んだホラーの仕業だろう……」
自分の中で纏めていた考えが、別の人物の口から言いだされた。
答えたのは、鋼牙だ。
彼はそう言うと、足を踏み出し稜牙とイストワールの隣を通り過ぎると丁度、さっきまで宗谷がいたはずの場所に立ち天井の方を見上げた。
そこには既になにも存在せず、古びた木の板で覆われた薄暗い空間が広がっているだけだ。
しかし、彼には何かが見えているかのようにそこから視線を離さず、じっとその場所を睨み付けている。
「……お前が言う宗谷という男はここで何かを見たようだと言っていたな?」
「は、はい…」
既に自分以外にもう一人、姿を消した宗谷がいるということを伝えていたイストワールに鋼牙が問いかける。
イストワールは彼から感じる言い知れぬ威圧感の様に押されながらも頷いて返事を返す。
確かに、彼の言う通りあの時の宗谷は様子がおかしかった…。
何かに驚いたように目を見開き、じっと天井を見上げたまま体を小刻みに震わせる彼の姿は何かあったとしか説明がつかない有様だった。
「………そいつは、おそらく見たんだろうな……この屋敷に住み着いた紛れ者のホラーの姿を……」
「……じゃあ、宗谷さんは……彼はいったい、どこに行ってしまったんですか?」
その時の彼の様子から予想を立てた鋼牙にイストワールが問いかける。
すると鋼牙は冷たげな眼差しを再び彼女の方に向ける。
「………ホラーにとって人間は食事でしかない、姿を消したということは………」
本当はそれ以上の言葉を、彼女は聞きたくなかった…。
その先の言葉が容易に思い浮かんでしまったからだ…。
まさかと思いたかった、だが聞かずにはいられなかった、どうにかして今の彼の現状を知りたくて仕方がなかった。
例え、予想だったとしてもわからないというのが一番不安だから…。
彼女は無意識の内に彼が姿を消した時に唯一残った彼の愛剣、“赤剣”の柄を強く握りしめる…。
「既に食われたのかもな………」
「っ………そ、んな………そんなこと…!」
まだ決まったわけじゃない、彼女がそう反論しようとするが鋼牙は彼女を鋭い眼差しで睨み付けて威圧する。
「……奴らにとって人間は食い物でしかない……人間も目の前に好物があったら喰うように、ホラーも同じだ……」
「……っ……」
息を飲むイストワール…。
当然の事のように言う鋼牙に嘘偽りを感じさせるような様子は窺えない、いや、考えてみればそれもそうだろう…。
何せ彼はそのホラーという存在と戦ってきた魔戒騎士だ。
ホラーがどんなものか、自分よりもはるかに知っている………だから、こうもはっきりと断言できる。
まさか、本当に彼は………。
胸の動悸が激しくなり、体中の血が逆流するような感覚が彼女を襲い、体から血の気が引いていった。
無意識の内に体から力が抜けていく……立っているのもままならないほどに困惑したイストワールは俯いた状態のままその場に座り込んでしまう。
(………宗谷さん………!)
まさか本当に、もう二度と、彼には会えないのか……。
胸が張り裂けそうに締め付けられ、目に涙が溜まってくるのを感じながら彼女は彼が残した赤剣に目を落した。
まだ、伝えたいことが残っているのに……。
まだ、一緒に居たいのに……。
その願いは、もう届かないのか……。
あまりにも突然の事にイストワールが悲しみに暮れ、表情を曇らせて頬に涙を伝わせる……。
だが、その肩に手を置くものがいた…。
肩に手を置かれ、反射的に顔を上げたイストワールはそれが誰なのかを確認するべく後ろを振り向く。
そこにはじっとイストワールの事を見つめている、稜牙がいた。
静かに涙を流すイストワールに、稜牙はその目を反らさずにまっすぐ向ける。
「まだだ、まだ諦めるのは早い」
「………え?」
稜牙の発言にイストワールは呆気にとられたような表情を浮かべる、すると稜牙は視線をイストワールの前にいる鋼牙に向けた。
「まだ言っていなかったが、この世界に紛れ込んだホラーは“エムープサ”………奴にはちょっと変わった特徴があるんだ」
「………特徴だと?」
「ああ、そいつは獲物を見定めるとすぐに取って食おうとはしないらしい」
既にこの世界に紛れ込んだというホラー、“エムープサ”の事を事前に知っていたらしい稜牙の言葉に、その場に座り込んでいたイストワールは慌てて立ち上がり、詰め寄った。
「それはつまり、まだ宗谷さんが生きているということなんですか!?」
「あ、ああ、とりあえず一旦落ちついてくれ、そのことについてはこれから話すから……」
血気迫る勢いで詰め寄ってくる彼女を稜牙は宥めると、咳払いをしてから気を取り直してとホラー、エムープサについて話し始めた。
「エムープサは気に入った獲物を見つけるとまずそいつを捕まえて、自分の住処となる場所に運んでそこで“下ごしらえ”をするんだ、まだそいつが姿を消してそんなに時間が経っていないことを考えると……おそらく、まだ食われてはいないはずだ」
「本当、ですか……? まだ、宗谷さんは生きてるんですか!?」
「断定はできないが……まだ間に合う可能性はある」
「っ………」
その言葉を聞いた瞬間、イストワールは再度その場に座り込んでしまった。
目の前で彼女が力なくその場に座り込む姿を見た稜牙は慌てて彼女の目線に合わせて身を屈めて彼女の肩に手を置き、様子を窺う。
「おい、大丈夫か?」
「………よかった………まだ……可能性は……!」
さっきの緊迫した表情から安堵したような表情を浮かべ、持っていた赤剣を強く握りしめるイストワール、その姿に稜牙は微笑みを浮かべる。
だが……。
「何を浮かれている」
二人から少し離れた位置にいた鋼牙が二人にそう言った。
彼の言葉に、稜牙とイストワールの二人は反射的に視線を彼の方へと向ける。
二人に対して背を向け、視線だけを向けていた鋼牙はその体制のまま言葉を続ける。
「そいつの言う通り、すぐに食わないという特徴があるとしてもホラーが人間を喰うことに変わりはない……いずれ、そいつは喰われるだけだ」
「……そんな……宗谷さんはそんな簡単に!!」
「武器をなくして、姿を消した……そいつの状況は絶望的なままだということを忘れるな」
念を押すかのように鋼牙はそう告げるとそのまま薄暗い屋敷の奥の方へと歩き始めた。
イストワールは彼の背中を見つめたまま、今言われた言葉を振り返る。
確かに、宗谷は姿を消し、ホラーと呼ばれる魔獣に捕まってしまったのかもしれない、だがそれでも彼女は諦めたくなかったのだ。
彼がまだ生きている、その可能性が少しでもあるのならそれに賭けたい。
なんとしてでも彼を救い出したい、そんな思いが彼女の中で駆け巡る。
「……だからって、諦められるわけないじゃないですか……」
故に、反論せずにはいられなかった。
「……まだ決まったわけじゃないのに……まだいなくなったわけじゃないのに……希望を持っちゃいけないんですか!?」
薄暗い屋敷の中でイストワールが鋼牙に向けて放った叫びが木霊した。
彼女の後ろで事の成り行きを見守っていた稜牙が押し黙った状態のまま、彼女の後姿を見つめる。
華奢で、すぐに壊れてしまいそうな少女の背中……。
だが、そこには確かな“強さ”が見えた。
最後まで諦めない、強い意志を感じる彼女の後姿……揺るぎない、強い思いが彼には見えた気がした。
すると、二人よりも先に動き出した鋼牙が少し離れた位置で足を止めた。
「………なら、なぜそこで立ち止まっている」
「………え?」
予想してなかった彼の言葉を受けて、思わずイストワールは呆気にとられてしまった。
こちらの方を振り向かずに背中を向けたままそう言った鋼牙は尚もこちらを振り向くことなく言葉を続ける。
「……まだ信じたいのなら、立て……救いたいんだろ? そいつを」
「………それって」
「……ここを調べている途中に、妙な場所を見つけた……そのホラーが身を隠しているとしたら、おそらくそこだろう………ついてきたいのなら、好きにしろ……ただし、ホラーを狩るのは俺達魔戒騎士の使命だ………むやみに手を出すな」
そう言うと鋼牙は再び歩き出し、屋敷の奥へと進んでいった。
鋼牙に言われた言葉を受けたイストワールは予想外の言葉に今だに驚いているのか、呆然としたままだった。
そんな彼女の肩に稜牙は手を置き、彼女の意識を現実へと引き戻してやる。
「……あの人も最初から助けるつもりなんだ、きっと」
「……そう、なんですか?」
「ああ、言葉にしなくてもわかる……あの人は、強い決意を持っている……“守りし者”としての強さを……」
稜牙はイストワールの隣に並び立つと先を歩き続ける鋼牙とイストワールを見比べる様に交互に視線を向ける。
「……こっちのイストワールにとって、その宗谷って奴は相当大事なんだな」
「っ!? あ、その………はい」
彼の突然の発言にイストワールは一瞬、頬を赤くするが否定はせずに静かな声で肯定の意志を示した。
すると稜牙はやっぱりと言いたげな微笑みを浮かべる。
一連の彼女の様子から、彼女が宗谷の事をどれだけ思っているのかをなんとなくだが彼は察していたのだ。
よほど大切な人でない限り、あそこまでの反応はしないだろうからだ。
恐らく、彼女から感じたのは彼を思う心、そのものだったのかもしれない。
そして、それ故に重なって見えたのかもしれない……。
目の前を歩く鋼牙と…。
「それと一緒だよ、鋼牙さんも」
「……一緒、ですか?」
「ああ………あの人も、強い決意を持ってホラーと戦い続けてきた……人々の平穏を守るため……そして、大切な人を守るために……」
ザルバから聞いていた鋼牙の戦い。
その一連を知っている稜牙にはわかっていた、彼は一見無愛想で冷たい男のように見えるがその内なる心には揺るがぬ強い心と決意を持っているのだということを…。
そしてそれを力の源に変えて、彼は長きに渡るホラーとの戦いを勝ち抜いてきたのだ。
人知れずに闇に救う魔を……人の因果を断ち切り、人々を守るために、彼は戦ってきたのだ。
「………それが、黄金騎士 牙狼の名を受け継ぐ者、“守りし者”の強さだ」
「………守りし者………」
二人は先を歩く鋼牙を見据える。
その後姿は、まるで暗闇にいるかのように孤独に見えたが、同時に輝くような芯の強さが垣間見えた。
それが、彼の強さの証明であるかのように……。
二人は互いを見た後、どちらからともなく頷いた後鋼牙の後ろに付いていった。
鋼牙についていくことしばらく、三人はやがて一枚の扉の前に辿り着いた。
「………ここだ」
鋼牙がそう言って示した扉はとても古く、今にも崩れそうなほどに古びた扉だった。
薄暗い屋敷の中で特に不気味な雰囲気を放っているその扉にイストワールは思わず寒気の様な物を感じた。
反射的に本能が告げている様だった。
この先には立ち入るな、と…。
扉を開けた先に何が待っているのかは知らないが、言い知れぬ寒気と悪寒が無意識の内に彼女を拒んでいる様だった。
「一通り調べた屋敷の中で、この部屋だけはまだ調べていない…」
「……ということは、ホラーがここに身を隠している可能性は十分に考えられるってことだな」
「では、ここに宗谷さんも…?」
イストワールが恐る恐ると言った様子で稜牙に聞くと、稜牙は首肯し扉の方に目を向けた。
それと同じく、イストワールも目を向ける。
稜牙の話を聞く限りは、宗谷を攫ったと思われるホラーは人を喰う前に下準備をするという。
その下準備がどのようなものか、どれだけかかるのかは定かではないがこのまま長引かせるわけにはいかない。
事は、一刻を争う。
「……行きましょう……」
イストワールはなぜか感じる寒気や悪寒に屈することなく、きゅっと右手に握る赤剣の柄を握り絞めると扉を見据えてそう呟いた。
彼女の言葉に稜牙も同意するように彼女の前に出ると、目の前の扉についているドアノブを掴むべく手を伸ばした。
しかし、その手がドアノブを掴むことはなかった。
バチン! という激しい音と閃光が稜牙の手を弾き返したのだ。
「っ!」
「稜牙さん! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……でも、今のは……」
「これがこの部屋を調べられなかった理由だ」
困惑する稜牙が視線を再び扉に向ける、そしてよく目を凝らして扉を観察する。
すると、彼はあることに気付いた。
扉の四隅、それぞれに四枚の札が張られているのだ。
怪しげな文様が刻まれたその札を見た稜牙は思わず目を見開いた、その札が何を意味するのか、彼は知っていたからだ。
「これは……結界の札か」
「……しかも、相当に強力な物だ……俺達魔戒騎士には簡単に破ることができない程に」
深刻そうな顔を浮かべる稜牙に表情を変えずに説明を続ける鋼牙。
このままではこの部屋に入ることはできない。
結界と言うのは所謂一種のバリアの様なものであり、その結界を作り出すこの結界札はホラーが魔戒騎士から避けるための手段であり、これがある限り鋼牙や稜牙の様な魔戒騎士は入ることが出来ない。
「参ったな……こういう時、うずめがいてくれれば何かしらの対策が打てたかもしれないのに……これじゃ打つ手がないぞ」
「そんな……!」
時間がないというのに……。
稜牙とイストワールの表情に焦りの色が見える。
何とかしてこの結界を打ち破らない事には手段がない。
このままでは、宗谷は……。
………その時………。
「………?」
突然、イストワールの周囲がほのかに明るくなった。
周囲が僅かに明るくなったことにイストワールは疑問を感じて自分の周囲を見回すが、これと言って発光するようなものは見受けられない。
だが、それがどこから来ている光なのかはすぐに判明した。
自分の手元、赤剣へと視線を落としたイストワールはあることに気付いた。
「赤剣が……」
姿を消した宗谷の代わりにその場に置かれてあった宗谷の剣、赤剣の深紅の刃がほのかに赤い光を放っていたのだ。
不思議な光を放つ赤剣にイストワールだけでなく、鋼牙と稜牙の二人も気づき赤剣へと視線を向けた。
「その光は……」
「わかりません、なぜか突然光り出して……」
『これは………おい稜牙、少し俺にその剣の刃を噛ませちゃくれねぇか?』
「え? ………わかった」
ザルバに言われた稜牙は言われた通り左手を赤剣の刃へと近づける。
そして、ザルバは顎を開きほのかな光を放つ赤剣の刃の横腹をカチンと音を立てて噛みついた。
そして、しばらくしてザルバは刃から歯を話す。
『思った通りだ、こいつは僥倖ってやつだな』
「何かわかったのかザルバ?」
『ああ、どうやらこの剣は“破邪の剣”の一種の様だ』
「破邪?」
ザルバが言った言葉に稜牙は首を傾げる。
『破邪の剣っていうのは言わば陽の気を秘めた剣だ、陰と陽、闇と光、この剣の刃はすべての陰の気を滅する力を秘めている』
「………つまり?」
『つまりはこの剣はあらゆる邪な存在を斬ることが出来る剣ってことだ、ソウルメタルと同じようにホラーを斬ることはもちろん、邪な気で貼られたこの結界ですらもな』
それを聞いた瞬間、その場にいた三人は反応を示し一斉にその剣へと視線を向けた。
すべての邪な物を斬る破邪の剣。
それなら、この剣だけが残されていたことにも説明がつくというものだ。
人を喰う魔獣という邪悪な存在がそんなものを持ち込んでしまえばせっかく用意した結界を無駄にしてしまうかもしれないからだ。
「………結界を破る唯一の剣、というわけか………」
鋼牙はそう言うとイストワールを一瞥した後、道を開ける様に彼女の視界から外れた。
「鋼牙さん?」
「……この結界を敗れるのはその剣だけだ……ここまで付いてきたのなら、いちいち説明する必要もないだろう」
そう言うと鋼牙はイストワールが握る赤剣へと目を向けた。
そして、それがどのような意味を持っているのかこの時、彼女は理解した。
宗谷を救いたいと思うならその剣でこの結界を斬れ、ということだ。
鋼牙が言わんとしていることを理解できたイストワールは両手で握る赤剣へと視線を向ける。
宗谷を救うために残された、唯一の光明。
不思議とその時、イストワールにはこの赤剣が自分に語り掛けているような感覚を感じた。
―――使え。
ただ一言、それだけで十分だった。
主人を失った剣が共に主を救うために、主を思う彼女の背中を後押ししているかのように…。
意を決したイストワールは逆さまに握っていた赤剣の柄を順手に握り直して切っ先を扉の方へと向ける。
………重い。
モード・アクティブの状態で使っている細剣とは全く違う重さを両手に感じる。
だが、その重みは苦にはならなかった。
今の彼女にはそれ以上の苦しみがあったから……。
「………絶対に助けたい………だから、お願いします……」
今の彼女にとっての恐怖。
それは、一度守りたいと思っていた彼を失うこと……。
彼ともう二度と会えなくなる……そのことを考えれば、こんな重みなど苦にはならなかった。
赤剣を大上段に振り上げたイストワール。
まるで願いを込める様に瞼を閉じる。
そして………。
「私に……力を貸してください!」
光り輝く赤き刃を、イストワールは振り下ろした。
「………?」
宗谷は暗闇の中で目を覚ました。
瞼を開き辺りを見回すが暗闇に包まれているその空間、部屋なのか外なのかもわからない程だ。
真っ暗な中で自分は今まで何をしていたのかを思い出そうとする宗谷。
だが、頭がぼうっとしてうまく思考を巡らせることができない。
「………あれ?」
ふと宗谷が腕を動かそうとした時、違和感を感じた。
動かすことが出来ないのだ。
まるで何かに繋ぎ留められているかのように微動だに動かすこともできない、しかも腕だけではなく両足もだ。
いったいどうしたことかと視線を自分の腕へと向ける宗谷。
「な、なんだよこれ……!」
暗闇の中でなぜかそれだけははっきりと見えた。
己の両腕に嵌められている枷、そしてそれは両足にも付けられていた。
この異常事態に宗谷ははっきりしなかった自分の思考を急速にクリアにしていき、こうなる前の出来事を思い出すことが出来た。
「………そうだ、俺は確かあの女のゆうれ……スタンドに捕まったのか」
意地でも幽霊と認めたくないのか、言いかけた言葉を無理矢理別の物に変えた宗谷はその時の事を思い出した。
自分の目の前に現れた不気味な女。
その時にその女が何かを言っていたような気もするのだが、あまりの恐怖で何を言っていたのかはよく覚えていない。
気付いたらこんな状態になっていた、それだけははっきりと言えることだった。
「……ていうか、なんだよこの展開……勘弁してくれよ……」
自分が最も苦手とする存在によって捕まってしまったという最悪の事態から宗谷はどうにか抜け出そうと両腕と両足を力づくで動かして枷から外そうと試みる。
しかし、当然枷は固くちょっとやそっとじゃ抜け出せそうにない。
せめて変身できれば、と宗谷が思っていた時……。
「宗谷さん!!」
聞き覚えのある声が自分の名を呼んだ。
「この声………いーすんか!?」
「良かった! 無事だったんですね宗谷さん!」
自分が最も頼りにしている存在、イストワールの声に宗谷は安堵の息を漏らした。
声が聞こえたから少しして、自分を覗き込むようにしてイストワールが視界の端から現れた。
どうやら自分は寝かされている状態らしい、今気づいたが背中にはどことなく柔らかい感触を感じるあたり自分は今ベッドか何かに寝かされている様だ。
「助かった……てんきゅないーすん」
「……もう安心してください、後は私に任せて」
イストワールはそう言うと優しげな微笑みを浮かべてベッドの上に乗ってきた。
僅かにベッドの布団が沈む感触を感じる。
何とかして彼女に枷を外して貰えば後はどうにかなる、こんな目に合ったお返しにあの不気味な女の正体を暴いてやろうと宗谷は胸に誓う。
……しかし……。
「………いっ!?」
宗谷は反射的に目を見開いた。
突然彼女が自分の身体の上に跨るようにして乗ってきたのである。
宗谷の下腹部を両足で挟むようにして跨るイストワールは宗谷の事を見下ろすように視線を向けてくる。
その表情には先程と変わらない優しげな微笑みを浮かべたままだ。
「あの………いーすん? なぜ、そこに座っているのか、説明してほしいんだけど?」
「……説明なんかしなくても、すぐに……わかりますよ」
彼女は静かに言うと、口元に微笑を浮かべたまま両手を動かし始め………。
「なっ!?」
徐に自分の衣服に手を掛けた。
しゅるりと音を立てて解いた首元のネクタイ、そしてそれに続くように彼女は上着を宗谷の目の前で躊躇なく脱ぎ捨てた。
宗谷の視界に彼女の控えめな胸を包む白色のブラが目に入り、咄嗟に彼は首を横に向けて目を反らした。
「い、いーすん! な、なにをしてるんだよこんな時に!?」
「なにって………言わなくてもわかるでしょう? 宗谷さん」
「言わなくてもって…!」
目線を反らそうと首を横に向けたまま言葉をつづける宗谷だが、尚も自分の耳には布が擦れるような音が聞こえてくる。
一体何故彼女は自分が身に着けている衣服を脱ぎ始めたのか、突然の事態に訳の分からない宗谷は頭が混乱しそうになるのをどうにか抑えようとする。
しかし、その思考は目の前に飛び込んできた物を目の当たりにした瞬間に一気に吹き飛んだ。
首を横に向けていた宗谷の目の前に見覚えのある白い、三角の布が置かれたのだ。
これは確か、さっきも見たことがある物だ……。
そう、確か彼女と一緒に階段から落ちた時に不可抗力で目の当たりにしてしまった彼女が履いていた………。
………。
「いやいやいやいやいやいや!!」
宗谷が慌てて視界からその三角の布を外そうと首を動かす。
だが、それが仇となった。
「っ!!」
首を真正面の方に向けてしまったために、彼は目の当たりにしてしまったのだ。
さっきまで着ていた衣服を脱ぎ去って、一糸まとわぬ姿となったイストワールの姿を…。
「あ……い、いーすん……こ、こ、ここれはさすがに……刺激が…!」
一瞬見てしまった彼女の真っ白な肌とスレンダーで女性らしい体つき、小ぶりで僅かな膨らみしかないが女性の象徴を物語っている胸、自分の下腹部に乗っている柔らかな尻の感触。
それらの感触に戸惑い目を泳がせる宗谷に、イストワールは今までに見せたことのないような妖艶な笑みを浮かべる。
「うふふ……恥ずかしがらなくてもいいんですよ? だって、宗谷さんも……好きなんでしょう? こういうこと…」
「こういうことって!?」
彼女らしからぬ不健全な発言に戸惑いを隠せない宗谷、そんな彼の反論を許す隙を与えず彼の上に跨る全裸のイストワールが彼の体に両手を這わせる。
胸に置かれた彼女の両手がゆっくりと動き始め、上から下へと動いていく。
腹、横腹、腰、そのあたりまで両手が来た瞬間、彼女は途惑うことなく彼が来ていた上着をまくり上げた。
「さっきだって宗谷さん、私にあんなことしたじゃないですか……私の胸をもんだり、あんな恥ずかしい格好をさせたり………」
彼女はそう言うと、人差し指を彼の体をなぞるように動かしていく。
体に感じるこそばゆい感覚に宗谷は僅かに反応してぴくりと体を震わせる。
そんな彼の反応を楽しむように、イストワールは笑みを浮かべて宗谷の身体に直に密着するように自分の身体を押し当てる。
「んっ……あぁ……はぁ、ん……っぁ……」
「お、おい……いーすん……なんで、こんな…!」
彼女が動くたびにスレンダーだが、しっかりとやわらかく女性らしい肉付きの感覚が宗谷の全身に駆け巡る。
彼女の肌の柔らかで滑らかな感触、体温、そして彼女が動くために押し当てられる“胸の先端の感触”…。
それらすべてが宗谷の思考を焼き切らんばかりに刺激してくる。
「…いいんですよ? もっと私の事を触っても……胸も、お尻も……もっと恥ずかしい所も……全部……あなたになら、何をされても構いません……もっともっと、えっちなことでも」
「………っ」
匂いが、声が、感触が、姿が、すべてが宗谷の思考を溶かさんばかりに刺激してくる。
「さあ、宗谷さん………もう何も、感じなくてもいいくらいに………愛し合いましょう?」
彼女の声が、宗谷の耳に溶けていくかのように……深く、広く、響いていく……。
次第に彼の思考が熱に侵されるようにぼやけていく。
彼にとってこの刺激は未体験の領域、この雰囲気そのものが初めての経験だった。
自分の事を見下ろすイストワールの顔が少しずつ近づいてくる。
その目にはいつもの彼女とは違う、底なしの闇のような雰囲気を感じた
明らかな違和感を感じる、これは一体どうなっているのか……。
抵抗しようにも、うまく体が動かせず、その上なぜかこの時彼は抵抗しようとしなかった……。
甘く、甘美な声と体に直接押し当てられる彼女の体の柔らかな感触に、次第に意識が奪われていくような……。
(……いー……すん………どうして………)
ぼやけていく意識に中で体に走る感覚だけが残されていくような感覚に陥るのを感じる中、宗谷の視界に映る彼女の顔が次第に近づいてきていた……。
鼻と鼻と、額と額、……唇と唇が触れ合いそうな程の距離まで………。
ベッドの上で拘束され、まさに自分のされるがままの状態になっている宗谷の姿を女は見ていた。
長く伸びた髪、顔すらも見えない程に延びたその髪の隙間から覗くぎょろりとした目でベッドの上で“一人で”寝ている宗谷を見つめる不気味な女。
体を真黒なドレスで包み込んだその女は髪の間から僅かに覗く口元に微笑を浮かべる。
「………きれい………」
彼女には、見えていた。
今彼が体験しようとしている、“愛の営み”を…。
彼女にとってその行為を見せるということは最高に美しい芸術を見るに等しいと同時に、これ以上にない甘美な隠し味となるものだった。
この行為が終わるころには彼はもっと“素晴らしい味”となる…。
「……もっと見せて……愛を……そして、もっとおいしくなって……味合わせて……“愛の味”を……!」
細々とやせ細った腕をベッドで眠る宗谷へと向ける女…。
あと少し、あと少しで、“下ごしらえ”が完了する……。
「そこまでだ」
突然の制止を促す声、それは女の後ろに付きつけられた二振りの剣を持つ者が発した言葉だった。
背後から聞こえてきた声に女は振り返ることなく口元に浮かべていた笑みを消す。
なにせ、自分の背後に立つ人物は………自分の最大の天敵だったからだ。
「これ以上、お前の好きにはさせない……」
「今度こそ、決着をつけようぜ? ………エムープサ!」
女に向けてソウルメタルと呼ばれる特殊な金属で作られた剣を向ける、鋼牙と稜牙。
その後ろでは宗谷を攫ったホラー、エムープサを睨み付けるモード・アクティブとなった状態のイストワールがいた。
―――世界を越えた狩りが、始まろうとしていた。
いかがでしたか?
次回はホラー、エムープサと対決!
果たして彼女たちは宗谷を救い出せるのか!
次回でお会いしましょう、それでは…。