ゲラート召喚〜Flight to another world〜 作:大公と愉快な仲間達
二週間後
アドミラル・ワン指揮下 コルモラン級補助型軽巡洋艦〈コルモラン〉 艦内
『快適な気分だ。船旅とはとても思えない快適さの中で、我々はゲラート連邦の首都、ヒヴァという都市へ向かっている。
船の中は精霊魔法でも使っているのか、とても明るく清潔だ。箱のような見た目からは想像できないほど艦内は豊かであり、食事も味付けの濃い肉類を食べることができ、野菜もあった。
そして驚くべきは、このような巨大な船が空を飛んでいるということだ。その速度は速く、ワイバーンほどではないにしろ水上船とは比べ物にならない。この艦隊を統べるワンという提督によると、ヒヴァまでは12000km離れているが、約二週間で着くとのことだ。
その途中、いくつか同じく空中艦と出会った。巨大な箱のような船が接舷し、航行しながら物資を補給していた。ワン提督によれば、同時に船の燃料も補給しているのだという。空中を航行しながら補給とは、凄まじい技術だった。
また、彼らの土地に入ると民間船とも出会った。彼らの船は個性豊かであり、歪な形の船もあれば綺麗な船もあった。まるで船が彼らの個性を象徴しているようだった。
明日はいよいよヒヴァに辿り着く。すでに下に見えている幹線道路がだんだん太く頑丈なものになっている。かの町はどのように大きいのか、またどのような人物がこの国を統べているのか、とても気になる』
──外務卿リンスイ補佐官のヤゴウの日記より
中央暦1639年2月10日
ゲラート連邦暫定首都 ヒヴァ
一行がヒヴァに到着すると、まずマーク大公がファジル王子を出迎えた。マーク大公は王子に労いの言葉を投げかける。
「ご苦労だった、ファジル王子。相手方の首相を連れてくるとは、其方の外交手腕、大したものだった」
マーク大公はおおらかに手を広げそう言うが、少しやつれているように見えた。それを見抜いたファジル王子は、彼の体調を心配してこう言った。
「……大公、最後に休まれたのはいつだ?」
「昨日は寝たさ。まあ、化粧のおかげで隈は目立たないだろう」
「はぁ……仕方ないとはいえ、ほどほどに休んでくれ。貴方に倒れられたら我が連邦は一大事だぞ?」
「分かっている」
ファジル王子は大公に釘を刺すが、大公の仕事は山積みだ。おそらくまた徹夜したりするかもしれない。見張っておこうかとも思った。
そんなファジル王子の心情を感じ取ったマーク大公は、ごほんと咳払いをすると、仕事モードに戻った。
「ではそろそろ、彼らを招き入れてくれないか」
「はい。こちらに」
ファジル王子は配下の者に命令をすると、荘厳な会談室の扉が開かれた。その向こう側から何人かの金髪の人物が出てきて、マーク大公は彼らに歓迎の言葉を述べた。
「ようこそカナタ首相!お会いできて光栄です。私がこの連邦の皇帝、マーク・サヤディ・レムスキーと申します」
「これはこれは……熱烈な歓迎、どうもありがとうございます」
マーク大公はおおらかな笑顔を見せ、クワ・トイネ公国から来た彼らを歓迎し、首相のカナタと握手をする。
マーク大公はまず遠路はるばるやってきた彼らに対し、労いの言葉を投げかける。
「どうでしたかな、我が国の巡洋艦での旅は?」
「快適でしたよ。我が国の船とは大違いです」
「そうですか。疲れていらっしゃるのかと思っていましたが、大丈夫そうですな」
「お陰様でございます」
こうして国家元首同士が握手をした後、二人はお互いの会談の席に座った。他の面々も席に着くと、国交開設のための会談が始まる。
「なるほど……食料をこんなに輸出していただけるのですか」
まずクワ・トイネ側から提示されたのは、大量の食料援助の内容だった。その量はゲラート連邦の民を飢えから救うだけに留まらず、有り余るほどだった。
あまりに多い食料の数字を見て、見かねたピョートルがあることを聞いた。
「……失礼ですが、貴国の食料自給率はいかほどで?」
「統計が取れているだけで、320%になりますね」
「なんと……!」
ピョートルは彼らの言葉に驚いた。320%と言う数字は、あまりにも大きい。
これでもまだ統計が取れていない数値があるらしい。この国の食糧のポテンシャルは計り知れないだろう。
その言葉を聞き、国の経済に詳しいイシ一族をまとめる女性タルカン、イシ公爵夫人がマーク大公に耳うちをして来た。
「大公、ゲラートの地は今後不作が続くと言われております。あの雨のせいです。しかし彼らの食糧を輸入できるとなれば……」
「話は変わってくるな。しかも、この砂漠で取れない作物なども輸出してくれるそうだが……」
マーク大公はすでに、彼らがこの輸出品に求める条件を悟っており、彼らよりも先にその件について繰り出した。
「……つまり、食糧援助の代わりに軍事支援の要請を、というわけですな?」
「はい。苦しいことに、我が国ではロウリア王国に太刀打ちできないのです」
やはりというべきか、彼らはゲラートに対して軍事的な支援を求めていた。
ゲラートの空中艦隊を見て、自国の防衛のため、支援を欲したのだろう。
「大公、助けてやれなくもないが……どうする?」
「食料のためとは言え、無用な争いに巻き込まれる必要はないでしょう。慎重に考えるべきです」
ゲラート側はこの辺りの事情は詳しくないが、軍事的にはおいそれと支援できるわけではない。
ゲラートは今は復興途中なのだ。内戦が終わったばかりなので戦力はあるが、見知らぬ世界に来て、すぐに無用な争いをするのは避けるべきだ。
かと言って、彼らの申し出を断れば食糧援助は断られるかもしれない。マーク大公はそれらも加味し、結論を出した。
「……先ほどの食糧輸送の件と結ぶのですが、空中艦の輸送には護衛が必要です。それらと駐留部隊程度であれば、派遣することは可能です」
「おお、助かります……!その程度でも心強いです……!」
こうしてマーク大公は妥協案を出したことで、この問題はひとまず先送りにし、今後詳しい駐留部隊の編成を決めることにした。
輸送艦隊の護衛程度であれば、戦力が余ってる今ならちょうどいいガス抜きになる。今燻ってる他の諸侯やタルカン達にも仕事を与えなければならないのだ。
ともかく、他の各々の調整を終わらせた後、その日の夜は夕食会となった。
上質なカーペットにあぐらを掻いて座り、低いテーブルに並べられた食事を囲み、クワ・トイネ公国の面々とゲラートの面々が夕食会を開始した。
「では、クワ・トイネ公国の皆様を迎え──」
「乾杯!」
乾杯の甘い酒を囲み、食事に手をつけ始めた。
なお、ゲラートの食事はあぐらを掻いて手で食べる文化圏である。クワ・トイネ側から見ると珍しい食事の仕方なので、ガイドがきちんと作法を教えている。
「しかし、ここから見る都市の景色は明るいですな……」
「ヒヴァは暫定首都と聞きましたが、これほど発展してるとは……」
カナタ達は首都のヒヴァの発展具合を見て、この国の国力を垣間見た。そこにマーク大公が隣にやってきて、同じくあぐらを掻いて座った。
「いかがですかな、ヒヴァの夜景は」
「夜も美しいとは恐れ入りました……しかし、これほどのエネルギー、一体どこから湧いて出ているのでしょう?」
「何処で魔導士達を動員しているので?」
彼らは好奇心からそう聞いたのだろう。これほどまでに夜景を彩るエネルギー、魔法にしろ機械にしろ、どこから調達しているのか気になったのだ。
だがマーク大公は顔だけで笑顔を作ると、彼らの好奇心に釘を刺す。
「……好奇心は猫を死に至らしめると言います。知らなくてもいいことですよ」
「?」
マーク大公が言う意味深な言葉を受け、カナタ達は少し首を傾げるが、彼はそれ以上何も言わなかった。
ヒヴァには原子炉がある……
というか海外の考察では原子炉と核濃縮施設の周りに町があるとされていたので……あとは分かるよね?