ゲラート召喚〜Flight to another world〜 作:大公と愉快な仲間達
海戦から一時間
ロウリア王国軍 ワイバーン隊本陣
「急げー!消火しろー!」
「まだ瓦礫の中に人がいる!」
「おい!こっちにも手を貸してくれ!」
ロウリア王国軍が設置したワイバーン隊の本陣。もはやそこは見る影もなく、壊滅していた。
ワイバーンの航続距離を考慮し、海上と陸上の両方を支援できる位置に設置されたこの本陣には、300騎以上のワイバーンが配備されていた。
だが海戦の前、どこからともなく飛来した謎の飛翔体により、本陣はあちこちが破壊され、無力化されてしまった。
指揮通信施設も壊滅し、連絡は途絶。配備していたワイバーンもほとんどが死亡、または怪我をして飛べなくなっている。まさしく壊滅と言ったところだった。
「何が……何が起こったんだ……?」
かろうじて瓦礫の中から救助されたワイバーン隊の司令官は、出血する右肩を押さえつつ、そんな言葉を漏らした。
本陣が壊滅する前に見えた、謎の飛翔体。あれがこの惨事の元凶だった。
あれは一体なんなのか、どこから飛んできたのか。
まるで見当がつかない。まさか、敵は神龍でも使役しているとでもいうのか。
ロウリア王になんと報告すれば……
そこまで考えて、司令官はこの基地のワイバーンが壊滅したことだけを事実として受け取り、近くの伝令を呼んだ。
「伝令……!」
「はっ」
「今すぐクワ・トイネ領内の先遣隊からワイバーンを呼び戻すよう近くの都市に伝えろ。このままではまずい」
「はっ!」
その言葉を聞き、伝令は即座に走り出した。そして生き残った馬に乗り、瓦礫の山の本陣を後にする。
そうだ、このままではまずい。魔導通信の施設も壊滅した今、頼れるのは人の口と馬の足のみ。頼むから間に合ってくれと願った。
翌日
クワ・トイネ公国 政治部会
「……以上が、ロデニウス沖での海戦の戦果報告になります」
クワ・トイネ公国の首都で行われている政治部会。そこに、海戦から帰還したブルーアイがカナタに向かってロデニウス沖海戦での事実を嘘偽りなく報告した。
その報告を受け、政治部の者達はあっけらかんとなって言葉が出なかった。
それもそうだ。たった数隻の艦隊で一千倍の敵を退けたのだと報告されて、信じられる者は少ない。
「……では何かね?ゲラートの艦隊はわずか数隻の大型艦のみで、4000隻以上いたロウリア艦隊を完全に退けたと?しかもゲラート側に損害はゼロだと?」
「そうなります。詳しい経緯は私のレポートの通りです」
ブルーアイはありのまま、自分が見てきたことをそのまま伝える。その言葉に政治部の者達は手元の資料を改めて見る。
「長距離攻撃能力を持った飛翔体を発射し、敵が混乱している隙に接近戦に持ち込んだ、のか」
「彼らの空中艦隊は、たった少数でこれだけの戦果を上げられるのか……!」
「少数とはいっても、彼らの編成は
ブルーアイの言葉を受け、政治部の面々は少し恐怖を感じた。何かとんでもない者たちを味方につけてしまったのではないかと。
だがそんな雰囲気の政治部の面々に対し、首相のカナタは釘を刺すようにこう言った。
「いずれにせよ、海上侵攻は退けた。まずは彼らに感謝をしよう」
カナタはそう言うと、ブルーアイの方へ向き直る。
「で、彼らの今後の方針は?」
「はっ。彼らは増援を内陸部に集合させているようです。また、すでに大義名分を得ているため、今後はマーク・サヤディ・レムスキー大公が自ら陣頭指揮を取るとのこと」
その言葉を受け、首相のカナタは意外に思った。ゲラートを取りまとめるあのマーク大公が、自ら指揮官として戦場に出向くとは。
「皇帝自らが艦隊を?いやまあ、民を率いる皇帝は軍の指揮官でもある。陣頭指揮だってあり得なくはない話だが……」
「どうやら、彼らには何かしらの考えがあるようです」
ブルーアイはそう言うが、この場に居る者たちの中で、ゲラートの考えに気づく者は誰もいなかった。少なくとも現時点では。
数日後
ゲラート連邦艦隊 総旗艦〈セヴァストポリ〉 艦内
「……以上が、今後の作戦計画だ」
一方、ゲラート連邦艦隊。
そこではマーク・サヤディ・レムスキー大公が艦隊を率いて、自ら作戦を立案してそれをタルカンたちに説明していた。
ブルーアイが政治部会への報告した通り、マーク大公は艦隊を陣頭指揮するつもりだった。
と言うのも、この作戦には多くのタルカンたちが召集されている。それを纏められるのは彼しかいないと判断しての人事である。
ようやく面倒な書類仕事から離れ、一番慣れた艦隊勤務に戻れたマーク大公は、顔色の良くなり内心浮き足立っていた。
それは久しぶりに戦えるタルカンたちも同じ想いだった。
「つまり、敵軍を排除した後、我らは首都へ向けて強行軍となるのだな」
「ヒヴァを目指した時と同じであるな」
「そういうことだ」
マーク大公の説明を受け、タルカンたちは昔を思い出してそう言った。また大公の下で戦えるとあって、彼らの士気は高い。
「では諸君、何か質問はあるか?」
マーク大公が配下の者たちに質問を求めると、タルカンの一人が手を挙げた。
「ファジル王子は今どこに?」
「ファジル王子の艦隊は、ロデニウス沖海戦で勝利したが、砲弾を使いすぎたので現在はマイハークに撤退して補給中だ。本来ならこのまま相手の王都に強襲をかけたかったが……この際致し方ない。補給が終わり次第、また出発させる」
マーク大公はそう言って経緯を説明する。実のところ、ロデニウス沖での海戦はマーク大公の想定以上に物資を食い潰してしまった。
ファジル王子の艦隊は巡航ミサイルを撃ち尽くした挙句、砲弾も八割以上を使う羽目になったという。流石のマーク大公も物資の消費量に目を眩ませたほどであったという。
なので艦隊は一度マイハークで補給をしている。幸いにもドックの周りで物資を補給できるよう整えていたので、数日で補給が完了するであろう。
そんな風に説明すると、一人のタルカンが手を挙げた。オマール・カーンだった。
「大公、それについてだが……」
「なんだ、オマール?」
オマールはロデニウス沖での物資消費を鑑みて、あえて大公の作戦に口を出した。
「確かにロデニウス沖では勝利した。だがあれでよかったのか?あの木造の艦隊程度なら、わざわざ無駄弾を使わずとも、核兵器一発で吹き飛ばしてしまえばよかったではないか」
オマールがそう言うのを聞き、マーク大公は目を瞑った。やはりそう言われるかと、内心覚悟していたのである。
彼の中で結論はまとまっているため、すぐに反論した。
「……確かに理にかなった話だ。だが核兵器は使うにしては過剰すぎる。だから使用しない方針とする」
「別に、人工密集地に撃つと言うわけではないだろうに。敵戦力が相手なら戦争犯罪にはならない。今後は使用も視野に入れるべきだ」
「……それでもダメだ」
マーク大公は確かな決意を秘めて、言葉を続ける。
「私は単に、諸侯軍のような愚行を繰り返したくないのだよ。それとも貴殿は、私が脅威に対して核兵器を易々と使う虐殺者に見えるのか?」
「……すまん、そうだったな。大公がそう言うなら仕方ない」
そう言うと、オマールは納得したのか席に着いた。彼はマーク大公の前では素直だった。
その質問が終わると、今度はもう一人のタルカンが手を挙げ、発言を求める。
「大公、集合地のエジェイの方はどうなっている?敵軍が集結しつつあるとのことだが……」
「ああ。そこには現在、イツハク・ラとシュージャ・イ・サーニーを組ませて先遣隊を送った。集合前には敵は掃討されていることだろう」
マーク大公はすでに手を打ってあった。集合地点となっていて、なおかつ敵軍が迫り来るであろうその地点の防衛は、二人の先遣隊に任せていた。
だがその二人の名前を聞いて、何人かのタルカンは嫌な予感がして口を顰めた。中でも特にシュージャの評判は悪かった。
「アイツか……イツハクはともかく、あのダスタム騎士は大丈夫なのか?」
「荒事を起こさないと良いが……」
「…………」
任命したマーク大公自身も、この人事は荒事を呼ぶ可能性はあると警戒していた。
だがエジェイを守備するクワ・トイネ軍の将軍ノウは、少し難癖のある将軍だと聞く。ならばここは、下手に打つよりも荒事が得意な二人に任せるしかあるまい。
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解説
『セヴァストポリ級戦略型重巡洋艦』
ロマニ帝国の旗艦級重巡洋艦。バニラの船の中でも最大の大型艦である。
武装は180mm六連装砲×2と57mm機関砲×6。圧倒的な航続距離と強力な武装を持ち合わせて、単艦でも手強い。
ゲーム内では主に艦隊旗艦として運用されるが、高いし重いし燃費は悪いわで序盤は解体されて部品取りになることもしばしば。かと言って残しておいてもストライク・グループ相手には無力なため不遇枠。
なお劇中の設定では建造途中で引っ張り出してきたため、一部の武装が搭載されていなかったらしい。