ゲラート召喚〜Flight to another world〜 作:大公と愉快な仲間達
翌日
クワ・トイネ公国 ダイタル平原
「
分厚い装甲を持った最新鋭フリゲート艦──グラディエーター級装甲型フリゲート艦 ──が、平野に設けられたドックに着陸しようとしていた。
装甲の内側から着陸脚を展開し、側面に取り付けられたエンジンを微調節。ゆっくりと地上へ向かう。
『
地上から管制が、船に着陸の指示を送る。
マーク大公に任命されたタルカン、イツハク・ラ指揮下のグラディエーター級は、速度を調節しながら着陸地点にライトを照らした。
「500……」
地上が近くなってきた。高度計を見ている乗員が報告をしながら、適切な速度で着陸を目指す。
「100……総員着陸準備」
着陸に備え、乗組員は手頃な手すりに掴まった。
そしてその数秒後、少しの揺れ。着陸脚が衝撃を吸収し、グラディエーター級は着陸した。
「
「よし、上出来だな」
安全な着陸を確認したのち、イツハク・ラは外に出る準備を始めた。
すると隣のドックに降りてくる一隻のグラディエーター級がいた。かの船は速度をあまり緩めず、荒々しく着地する。その様子を見て、イツハクは幸先が不安で胃がキリキリとした。
クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ
城塞都市エジェイは、そんじょそこらの都市とは比べ物にならない強固な都市だった。
街を堀で囲っただけのギムに対し、エジェイは高さ25mにもなる大きな城壁で囲われており、その内部には数万人の兵が籠城可能な備蓄を備えている。
しかも今回はクワ・トイネ軍の主力が展開しており、その数はワイバーン50騎、騎兵3000人、弓兵7000人、歩兵二万人という大軍勢である。
迫り来るロウリア王国の部隊がどれほどのものかは未だ詳細が掴めていないが、主力が合流する前なら簡単に叩き出せる程度の戦力はあった。
「ノウ将軍、ゲラート艦隊の方々が来られました」
エジェイ防衛を任された将軍ノウは、政府から協力するよう伝えられているゲラートの者たちがいけ好かないと思っていた。
ゲラートは我が国の領空を侵犯して砲艦外交で接触してきた国だ。力を見せつけてから外交とは、よからぬことを企んでいる気がしてならない。
極め付けは排煙を撒き散らすあの空飛ぶ船だ。ゲラートは各地の街にその船のドックを作っている。自分達の国に他人が土足で入ってきている気がして気に入らない。
「わかった。ここに通せ」
「はっ」
とはいえ将軍という立場上、社交辞令は大事だとも思った。ノウ将軍は不愉快さをなるべく隠しつつ、部下にここに連れて行くよう伝える。
しばらくすると、ドアがノックされてゲラートの者達がやってきた。
「失礼する。我はマーク・サヤディ・レムスキー大公より先遣隊を任命された、イツハク・ラと申す」
「同じく先遣隊、ダスタムの騎士シュージャ・イ・サーニーだ」
現れた二人の男を見てノウ将軍は少し顔を顰めた。
彼らはノウ視点から見ればかなり見窄らしい、と言うよりも野蛮と言うべき格好をしていた。
イツハクと名乗った者は顔をマスクで隠しており、素顔を見せていない。全身は黒いローブで覆われている。
コイツはまだマシで、もう一人のシュージャと名乗った大男は異質な格好をしていた。マスクで顔を隠しているのは同じだが、全身は鎧に包まれている。重装騎士のようだったが、装飾などの類はなく、野蛮な見た目をしていた。
対するノウの方は、装飾やマントが目立つ美しい鎧に身を包んでいる。これが指揮官たる威厳であり、富と名誉の象徴である。なのにコイツらは野蛮な格好、先遣隊の指揮官だなんて信じられなかった。
「……これはこれは、良くおいで下さいました。私はクワトイネ公国西部方面師団将軍ノウといいます。このたびは、援軍ありがとうございます。感謝いたします」
そんな彼らを前にして、とりあえず不満は飲み込み、まずは社交辞令から入る
「お二方、ロウリア軍はギムを落とし、まもなくこちらエジェイへ向かって来るでしょう。しかし、見てお解かりと思うが、エジェイは鉄壁の城塞都市、これを抜く事はいかに大軍をもってしても無理でしょう」
ノウは続ける。
「我が国は侵略され、ロウリアに一矢報いようと国の存亡をかけ、立ち向かおうと思います。なのでゲラートの方々は、あなた方が作った基地から出ることなく、後方支援に徹していただきたい。ロウリアは我々が退けます」
ノウは「邪魔者は引っ込んでろ」と言う意味合いを込めてそう言った。実際のところ、今すぐコイツらを叩き出したい欲求を抑えた理性的な言葉であった。
「ふむ、承知した。どのみち我々の陸戦隊では手に余る。空中艦による後方支援に徹しよう」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
「では、私は船の準備があるので失礼する……」
イツハクと名乗った男は、そう言ってもう一人の大男を連れて外へ出て行った。彼らが去るのを見送り、扉が閉まったところでノウは陰口を叩いた。
「まったく、どんな奴らがくるかと思えば、舐め腐りやがって……!」
憤慨が治らない。あんな舐め腐った奴らを相手に、政府は何を及び腰になっているのか。
とにかく、この戦で手柄を立てて発言力を高めたら、ゲラートの奴らは追い出してやろう。と、ノウが机に戻って野心を燃やしていたその時だった。
扉がノックされた。
「失礼、ノウと言ったか?」
「ん、なんですかな。貴殿はシュージャとか言う騎士でしたか」
こちらの返答も聞かずに、彼は入ってきた。あの大男だったが、何か忘れ物でもしたのだろうか。
見窄らしいから早く消えてほしいと思っていたノウに対し、彼は胸を張ってこう言った。
「ひとつ言わせてもらうぜ。テメェ、俺らを舐めてるだろ」
「は?」
ノウは自分の考えを見透かされ、思わず本音が出た。
「バレバレなんだよ、テメェの不機嫌な態度が。大方俺たちのことを邪魔もんだと思ってんなら、無礼にも程があるぜ。クワ・トイネの連中は礼儀も知らない野蛮人なのか?」
「何を言う!無礼なのは貴様らの方であろう!見窄らしい格好で土足で入りやがって!」
途端、ノウとシュージャの言い争いが始まった。怒号と罵声が部屋の中に飛び交う。扉を固めている衛兵達も、思わず冷や汗を流していた。
「ハッ、キラッキラのダサい装飾つけてるだけで、実力も士気も大したことないだろう」
「貴様!私を誰だと思って!」
「おっ、やんのか?」
ノウはついに限界に達し、机を拳で勢いよく叩いて立ち上がった。
「なら騎士らしく決闘と行こうぜ。どっちが軍の指揮権を持つに相応しいか、勝負してやろう」
「ほう!いいだろう、乗った!」
ノウは頭に血が上ったまま決闘を了承した。あまりの単純っぷりに、シュージャはマスクの下でニヤリと笑った。
「先に剣が当たった方が負けだ。それでいいだろう?」
「面白い!私もここで引き下がる男ではない!待ってろ、すぐに準備して貴様を叩きのめして──」
と、ノウが机から離れて横を向いたその時だった。
──シュージャが剣を抜いて切り掛かった。
咄嗟のことに、横を向いていたノウは対応が遅れた。剣はそのまま彼の面へと振り下ろされ、ノウは頭を切りつけられた。
そのままその場に倒れ伏し、彼の煌びやかな兜に大きな傷が入り、頭から出血した。
「がっ!」
「ははっ!俺の勝ちだ!」
すかさず衛兵がノウに駆け寄る。ノウは切り付けられて痛む頭を抑えつつ、尻餅をついたままシュージャを睨んだ。
「き、貴様……何をする……!」
「おいおい、決闘をするとは言ったが、"いちにのさん"で始まると思ったら大間違いだぜ!」
「こ、この……卑怯者!衛兵!コイツを捕らえよ!」
ノウは衛兵を呼ぶ。結果としてシュージャは扉の向こう側から入ってきた衛兵に囲まれるが、彼は腰から拳銃を取り出すとそれを天井へ向けて発砲した。
乾いた銃声が、部屋の衛兵達を固まらせた。その大男が放つ恐ろしい言葉に、衛兵達は恐怖した。
「っ……」
「そこから一歩も動くんじゃねえぞ。戦う前にテメェの兵がバッタバッタと死んじまうからな!」
そう言って場がシュージャの独壇場になりつつあった時、開かれた扉の向こう側から騒ぎを聞きつけたイツハクがやってきた。
「おいシュージャ!お前何をしている!」
「おっと、真面目さんのお出ましだ」
イツハクは自分より背の高いシュージャを前にしても屈せず、づかづかと歩み寄った。
「トイレに行くとか言うから単独行動させてみれば……なっ!貴様、ノウ将軍を切りつけたのか!?」
「決闘を申し込んだら了承してくれた。フェアな戦いだったさ」
この光景を見て、どの口がそれをほざくんだ!?とノウ将軍は怒鳴りたかったが、途端に頭が痛んだ。
それを見計らい、シュージャは勝ち誇ったようにこう言った。
「とにかく、決闘は俺の勝ちな。約束通り指揮権は貰っていくぜ」
「こ、こんな卑怯な方法で……!」
「おっと、それとも猛将ノウともあろうお方が、男同士の約束を破るのか?ああ"?」
「くっ…………」
そこまで言われてしまい、ノウは何も言い返せなかった。
そこにイツハクがシュージャの胸ぐらを掴み、怒鳴り散らかす。
「シュージャ!貴様、これは国際問題だぞ!大公殿下から預かった艦隊の名誉を──」
「申し上げます!エジェイの西にロウリア王国軍が現れました!」
と、イツハクが彼を叱りつけ処罰しようとしたその時、伝令が駆け込んできた。
その報告を聞き、その場にいる全員がハッとして伝令を見た。そうだった、今はロウリア王国軍を迎え討つのだった。
「くそっ……艦隊は戦闘準備にかかれ!出撃し敵部隊を叩き出す!ノウ将軍、それでよろしいですね!?」
「あ、ああ……」
「総員、第一種戦闘配置!おいシュージャ、お前も来い!」
「へいへい」
そう言ってイツハクは、いつのまにか周りにある全員に向けて指示を飛ばすと、部屋を飛び出して行った。
その間ノウは、痛む頭を抑えるのに必死で指揮権のことなど考えられなくなっていた。
同時にしてやられたと、悔しさを滲ませいた。
解説
『イツハク・ラ』
タルカンの一人。コイツと出会うイベントではなんと部下が暴走して勝手にこちらに発砲してくる。それを撃ち返して威嚇し合って収集すると、コイツが出てきて謝ってくる。個人的にはファジルに次ぐ苦労人だと解釈してる。
『シュージャ・イ・サーニー』
ダスタムの騎士を名乗る大男。Steamのパッケージにもなっているキャラ。
コイツと出会うイベントでは茶屋にいるのだが、そこで侮辱されたからと言って人を切りつけている。しかも相手が剣を抜く前に切り付けているのに「フェアな戦いだった」とか抜かす。はっきり言ってタルカンの中で一番ヤベェやつ。