新聞が来てからは新聞の回し読みが結構な娯楽になった。
「へー、3つ隣の町で交易会だってさ。いいなあ交易会……」
「いいわね、あなたは何か欲しいものあるの?私はベッドシーツと枕と服がいい加減に欲しいわね……」
「いいねー。俺はキッチンストーブかな。そろそろ冬だしね。とはいえ交易会か……」
キッチンストーブは鉄の薪ストーブで、上に鉄板が敷いてあったりコンロがついてるので調理もできるすぐれものだ。
あればあったかいしね……
「何か問題があるの?」
「こっちからも何かしら品物を出す必要があるんだよね……」
「売れるほど物は余ってないわねー」
「そこなんだよなあ」
サニーは新聞から抜き出したパズルを解きながら返した。
今日も労働とサルーンで駄弁る毎日だ。
あれから家や小屋ももうちょい立って、最初の家、レンガの家、ソウザブロウの家、サルーン、納屋、ちょっとしたゲストハウス……と6件立った。
それはいいんだけど、ちょっと開拓が頭打ちではある。
「それなんじゃがな。2つほど案があってのう」
「おー。さすが爺さんじゃねェか。聞かせてくれよ」
ライリーは連載小説を集めて束ねている。
俺も暇なときは読ませてもらっているので助かるんだよね。
「まず一つはさらに貯水槽を作り、灌漑農法で農業生産をあげることじゃな。雨が降れば枯れ川に水が流れて下流に全部行くじゃろ?もったいないからのう。支流を作ってやり水を引き込み、井戸に蓋をしたような貯水槽に入れてやれば相当持つじゃろう。泥とかは網や構造的にゴミが入りにくい形も知っておる」
なるほど、雨が降った時の貯水池か……まあ、洪水みたいになって流れていくだけだからな。ためておく方が得だ。井戸一つ分くらいは貯めておけるだろう。
「もう一つは……わしの知っている呪符を皆に作ってもらう事だのう」
「あー、虫よけの呪符すごい効くもんね。おかげで害虫が家に入らなくなった」
「ふむ、ならば材料の紙はこれでよかろう?」
ガレンが鉛筆でスケッチをしている新聞の余りを漉き直して作ったわら半紙。
ガレンは最近よくこれに絵を描いている。こいつ絵心あるんだよね。
「うむ……まあ問題ないのじゃ。まあすぐとは言わずとも、来年あたりには交易会に出れるじゃろうな」
「来年か……そろそろ冬だな。雪をためる氷室作らなきゃな……」
真夏の主張が強い太陽は収まり、少しづつ冬の張りつめた空気がやってきた。
そろそろ冬か……雪と冬至祭の時期だな。ロマンチックだ。
「ほんでも、灌漑用の貯水槽ってなると結構大規模だなあ。ポンプも欲しいし」
「ああ、それなら問題ないよ。僕もようやく妖精と契約できた。簡単なゴーレム術ならできるさ」
最近影が薄かったルパートがうなずく。
ルパートがちょいちょいと指を動かすと、コップに入った水がひょいと動き出し、小さな人形になって机の上で踊った。
すごくない?
「ゴーレム作れるの?マジ?」
「今なら4トンゴーレムくらいならいけると思うよ」
それはかなりの工事ができるな……ガチ建設用の重ゴーレムじゃん。
「助かるね……ガレンには悪いけど、レンガまた頼むわ」
「うむ、任されよ。水はあって困ることがない故にな」
「あっ、でもポンプはいるか。通販で買うかな」
「それもすぐにはいらないね。たまった水自体をゴーレムにしてしまえばいい」
「妖精学すごいなー。一気にできるようになるもんなんだね」
ルパートはセンターわけにしたはちみつ色の髪をかき上げながら笑う。
ドヤ顔しやがって……
「契約までと、マメなコミュニケーションが大変なだけで、術の行使は妖精がうまくやってくれるからね。魔導力学や気功学みたいな修行中心の魔法とはまた勝手が違うんだよ」
「ふーん、一長一短なのね。あっ、お守りで力を蓄えるほうのやつって何かしら。クロスワードなのよ」
サニーが素でマジでどうでもよさそうに言ったのでちょっとすっきりした。
こういうバランス感覚良いんだよねサニー。
「タリスマンじゃねえの」
「あっ、あたりっぽいわ。ありがとう」
今日の朝食は昨日捕えて生け簀に放っておいた魚だ。
焼き魚とハーブの匂いが朝にちょうどいい。
今日も働くぞ!という気になる。
そして、雪の季節まで俺たちは貯水槽づくりと農業の収穫に精を出した。
円筒型のレンガ造りの穴を掘っていく。かなりデカい。
人が10人は入れるような筒だ。まあゴーレムのおかげで楽だったけど。
できたらレンガで蓋をして、小川や枯れ川の水を引き込む。
水の入り口には蛇が蛇行するようなゴミが入りにくい構造に水路を整える。
作業が終わったのは雪のちらつくころだった。
長かったよ……
その頃にはジャガイモがポコポコ取れた。
ジャガイモは子だくさんで豊穣の象徴だ。
そんなことを考えていたせいか、俺とキキ、ミラの妊娠が発覚した。
そうか。生まれるのか……この村の子供が……
イモみたいにポコポコ生まれて来いよ……