春先の緑にあふれる荒野で延々と馬車を走らせる。
空は高く青く、フワフワの雲がどこまでも白い。
のどかだ……
「子供たちを預けてきてよかったわね」
「それな。久しぶりにのんびりできるよ」
「……そういえば二人きりの旅行ってこれがはじめてじゃない?」
「そういえばそうだった……いいもんだなあ」
「まあ、悪くないわね」
春の穏やかな風景の中で、自然と俺たちの距離は近くなる。
イチャイチャしながら馬車を走らせていたら100哩はあっという間だった。
まあ、一日30哩はいくしね。
「グリーングリム村へようこそぉ!さあ交易会だ交易会だ!セールだよ~!」
宣伝の芸人がアコーディオンを鳴らしながら陽気に声をかける。
交易会のある村は広いオアシスの中で、森に畑に緑が多い。
池まである……
は~、この村の人はいい土地を買ったもんだなあ。
「すごい場所ね。人も多いし。楽しそうだわ」
「儲かったらなんか食べたり遊んでいこうか。せっかくだし」
「いいわね」
俺たちは停車場に馬車を止め、ソウザブロウ特製の防犯符を張っておく。
これがあれば盗人から見えないらしい。
さて、まず行くべき場所はサルーンだ。だいたい顔役がそこにいるだろうし。
■
グリーングリム村のサルーンはすごかった。なにしろ3階建てだ。
荒野では調達が難しい材木をふんだんに使い、屋上には雨水の貯水桶まである。
豊かだな~。
「あ~、どうも。最近この辺りにできた新しい開拓村の村長です。オウレアトレイル沿いでアワビ岩のあたりの。村名?スリー・ジョリー・フェローズ村です」
受付っぽい場所があったので記名しておく。
こう言うの便利だよね。
「あー。お主らひょっとしてあの温泉にはいってしもうたのか」
受付のえらいさんらしき人は美しく巨大なアラクネだった。
蜘蛛の下半身で上半身が女体のやつだ。
ちょっと目つきがきついが、これはこれで味のある美人だった。
「あー、そっちもですか?」
「うむ……なんというか、難儀な土地に入植してしまったのう。それで、売りたいものがあればそちらの掲示板に書いておくがよい。紙は1枚10セントじゃ」
「たすかります。この村の偉い人ですか?」
「村長じゃよ……おぬしも大変そうじゃな」
「ハハハ、まあ……」
道理でなんか女が多いなって思ったよ!
このへんの人ら結構な割合であの温泉入っちゃったんだな!?
まあ、荒野にちょうどいい温泉あったら入るよね。暑いし。
「さてと……農作物はとっておこう。あとで現金の代わりに使う。掲示板には輸出品だなここは」
物々交換用の農作物があることを示しつつ、呪符や二重壺などの輸出品があることを書いておいて買い物に向かう。
「先に買うの?」
「だってそこまで売るものないからね。持ってきた商品は物々交換用なんだよ」
「そうなの。でも楽しみね。買い物は」
「色々ありそうだよね」
実際いろいろあった。
まず服に布、紙は大事だ。作れなくはないが面倒だからな。
そして砂糖にスパイス、コーヒーに酒。これらの嗜好品的な食べ物は常に大事だ。
こういうのは通貨の代わりにすらなるからな。
うちでももっと酒作れればな……
まあ、必須品は金と作物を合わせて支払った。
おかげでスリー・ジョリー・フェローズ村がそこそこ農作物を作れるといい宣伝になった。
「とりあえず絶対要るものは買えたわね」
「じゃあまあ、あとは欲しいもの買おう!」
「小さくてもキッチンストーブは欲しいし、残りは本とか子供たちのオモチャとかね」
「そうなるなあ」
まずはストーブ!
「なんだいあんた、キッチンストーブが欲しいのかい?」
「サルーンに欲しくて……アワビ岩のあたりで新しくできた村でスリー・ジョリー・フェローズって言います」
「ふうん……何年目だい?」
ストーブを売ってるのは家具や機械類を売ってる店だった。
ドワーフのおかみさんと熊の獣人の用心棒が立っている。
「まだ1年なんですけど、ようやく畑とかできて……」
「なるほどね。言っておくがこいつは100ドルだ。払えるのかい?物々交換でもいいよ」
「あっ、それじゃあうちの商品でなんかいいものあったら交換しましょうよ」
それで馬車まで連れてって説明よ。
防犯符でまず見えないようになってるので説得力は出た。
二重壺はそもそもすでに冷えてるので説得力があった。
「なるほどね。シンプルだけど効果的だ。いいだろう。壺全部と交換でいいよ」
「マジすか!じゃあ取引成立で!」
「今後ともスミス工房をごひいきにね。私らはあの山……あの山脈のふもと。スチームレッド村だよ。もう20年になるさね」
「あの山から!?いや~はるばるとまあ……」
すんげえ遠くに霞む超高い山脈をドワーフのばあさんが指さしていた。
ふもとに森、山頂には雪だ。あの雪解け水が俺たちの井戸に流れ込んでる。
そんなところからよくもまあ来たもんだ……
「遠かったでしょう?」
「なあに、こうして売れるんだから来るさ。出会いは奇貨。縁は結んでおくにこしたことはない」
「そう言ってくれると嬉しいですね」
ストーブは二重壺全部と交換できた。
いい取引だ。俺たちは住所を交換し合って別れた。
こういう出会いは貴重だ。お互い頼れる先が増えるわけだからな。
「あとはおもちゃや本ね。ようやく仕事じゃなくて買い物できそう」
「あー、仕事感はあったね」
サルーンの掲示板の情報をもとに本屋に行く。
本屋は特徴的だった……看板にデカく「文化」と書いてあるんだもん。
店主らしき人はドレスを着た女の子が一人。
でも誰もナンパしねえ。なぜなら古龍人だからだ。
古龍人。それは絶対強者。
人の顔と体に、角と手足や背中、頬に鱗を持ち、しっぽがある。時々翼もあるやつもいる。
こいつら本当に強くって、素手で熊を殴り倒すくらい楽勝だし、魔法がヤバイ。
軽く街一個焼けるんだ。
「ひえっ……!」
魔法の素養が身についたおかげか、サニーもその莫大な魔力量に気おされる。
もう量と勢いがハンパねえんだ。
たとえるなら山に流れる大河の滝だ。とんでもねえよ。
「……お客さん?買うなら見てっていいよ。盗むなら死ぬけど」
「あっはい……」
俺たちは神妙に本を選んだ。
できるだけ長いのがいい。読み飽きないように。
「キョウ・ゴクドーの本?良いのを選ぶね。それはシリーズだからこれもおすすめだよ」
「あっはい買います」
「あの、絵本とか……あるかしら。その、子供が……」
古龍人の少女は少し微笑むと指先で軽く魔法を使って絵本コーナーごと持ってきた。
「そうだね、文字を学ばせるならこれ。もう読めるならこのへんとこのへんかな……」
意外とセレクションはまともで、実際子供が楽しく文字を学べそうなやつと、明るくて善という物が何かを教えるにはよさそうな話だった。
顔がパンの英雄って何?でもまあ話は良いか……
「あっ、全部買います」
「太っ腹だね。おまけでオモチャもつけちゃうね」
意外と良心的な値段だった……オモチャも人形とかボールとかで意外といい人なのかもしれない……
まあ、そんなこんなでたっぷり買い物して、サルーンでマジでうまい都会飯食ってごきげんで村に帰ったんだ。
「おーい色々買ってきたぞ!」
「おゥそりゃあよかった。けどよォ……」
「少しばかり、厄介なことになるかもしれぬ」
なんか……大学の刻印がされたキャラバンが村に横付けされてて、なんならテント村ができてた。
ソウザブロウ~!お前な~!