井戸と、本格的なレンガの家ができた。
これで最低限の安全は保障されたと言っていい。
レンガの家は今はまだ木の枝と葉っぱの屋根だが、いずれは瓦を焼いてしっかりした屋根にする予定だ。
前に建てた家はいざという時の備えにしときつつ、一日使って引っ越しする。
……この家も井戸も、オウレアトレイルから見える。
つまり「お客」が来る可能性がある。
まっとうに商売だったら宿や飯を交渉する準備はあるが、まっとうではない客に備えてバリケードや柵も用意し、井戸に蓋を、家にドアを設置する。
どちらも小さいがちゃんと音が鳴るカウベルをつけてある。
そして、女衆にもナイフと笛を渡しておく。
「これって、包丁じゃないですだよ?」
「つまり、強盗がくるかもしれないのね?」
「……マジ?」
女衆は困惑の様子だが、俺たちは真顔でうなずいた。
「いや、そもそも今までこなかったのがおかしいからね?」
「刃を持つという事の意味、そして振るう覚悟をせねばならんのだ」
「まあ、いざとなったら振り回して逃げなァ。真っ先に笛吹けよォ」
神妙になっちゃうよね。
まあ、女衆もうなずいてたけど。
晩飯くいながらそんな話してたら、遠くから馬車の音がする。
近づいてくる……
俺たちは目くばせしあって、そっと武器を取り、女たちは奥に隠れた。
やがて人が歩く音や話し声が聞こえ、いよいよドアがノックされる。
「もし、わしらは旅の者なのじゃが……こちらは開拓村ですかのう?もしできるならば、軒下だけでもお貸しいただきたい」
「確かに俺たちは開拓者だけど……そっちは?」
だいぶ年寄りの爺さんの声だ。つまり、よほどの手練れなのだろう。
「申し遅れましたのう。わしはソウザブロウ・シノダ。セイラム州立大学の魔法使いですじゃ。旅ながら各地の遺跡を調べておりましての。連れは弟子一人と荷役の冒険者二人じゃよ」
俺は魔力の気配を探り、その言葉がおそらくは本当だろうと感じた。
俺がうなずき、ライリーとガレンはすばやく武器を構える。
「……わかった。ドアを開ける。離れてくれるか?」
「わかりましたじゃ」
枝と藁で作ったドアを横によけて、俺の横から二人がさっと外に出る。
「おゥ、爺さん。泊まりたきゃ止まって行きゃあいいぜ。俺らが前に使ってた小屋が近くにある。水は川のを使いなァ」
「よければ、取引せぬか?ご老公。といっても我々は宿と飯のもてなしくらいしかできぬが」
俺もさっとドアを置いて外に出る。たしかに言葉通り白髪の狐人の爺さんに、人間のガキが一人。冒険者らしきやつらが2人だ。
「おお、助かるのじゃ。これ、お主らも武器を下げんか。お嬢さんたちがおびえておる」
そうか……俺たちお嬢さんか。まあそうだな。
「では、世話になりますのじゃ。表のかまどを使わせていただいても?食事がてら、商談とするかのう」
「ああ、いいけど。俺たちあんま金ないよ」
「まあ、そこはおいおい交渉していけばよかろうの」
「OK、じゃああんたらは客人だ。お客さんらしくしてくれよ」
「わきまえておりますのじゃ」
狐人のじいさんがうなずく。この爺さんは人間の体に狐耳と尻尾があるだけのタイプらしい。弟子のガキは男で短い金髪だ。冒険者は……まあ、普通の皮鎧のやつらだ。銅級で立ち居振る舞いからして、やれば勝てるだろう。
「サニー、飯まだなんか残ってる?」
「昼間にライリーたちが捕まえた魚が何匹かとあとは果物に干し肉くらいね」
「外で火を起こすから出てきていいよ。飯作ろう」
「わかったわ」
俺は家の前のかまどに枯草を入れ、家の横に積んである薪を用意する。
枯草の火口に生活魔法の『発火』を唱えて火を起こしていく。
あとは魚を串焼きに、干し肉にハーブを加えて鍋に入れ、スープにしていく。
「開拓の始まりですかのう。お嬢さん方はずいぶん堅実にやっておられるようですじゃ。家一軒に井戸。この段階でこれだけ食料に余裕があるとは驚きですじゃ」
「あー、元冒険者だからな。この村ができたばっかなのはそうだね」
「なるほどのう。すいませぬが、弟子のルパートに小屋を案内していただけますじゃ?」
「わかった。頼むわガレン」
魔法使いご一行は焚火の近くに座って水を飲んだりして休んでいた。
弟子のガキは……16から18ってところかな。
金髪で生意気にも髪伸ばして束ねてやがる。
「うむ、任されよ。こちらだお弟子殿」
「うん、助かるよ」
所作に気品がある……貴族の三男坊ってところか。
魔法は貴族のたしなみだが、しっかり弟子入りしてるのはだいたい次男三男だ。
跡継ぎの長男はざっくり覚えるだけだ。ほかにも覚えることが多いからさ。
「ところでその、お嬢さん方よう。旦那は?」
冒険者の一人がたずねた。まあこう来るよな。
当然カバーストーリーは考えている。
「いや、それがさあ。俺たちが冒険者引退したきっかけが遺跡で変な罠ふんじゃってね?全員ふたなりなっちまったんだわ。だから俺が旦那ってわけ」
「あー、そうか……そうなのか……」
冒険者二人はどうする?と話始めた。
まあ……ここで性欲を解消させておかないと危ないは危ないからな。
俺らもそこは腹をくくるよ……
「その、もしよかったらよぉ……金と避妊剤はあるんだ……」
「あー、わかってるわかってる。誰とやる?ただし、俺たちの嫁とやるなら旦那もまざるぞ」
「へへへ、話がわかる……!誰が旦那なんだ?」
「俺と今お弟子さん案内してるオークのガレンとそこの狼男のライリーが元男だな」
「う~ん、そうか……おいどうする?」
「じゃあこうしようぜ。俺たち二人であんたら二人を相手にする……どうだ?」
「いいよ。サニー、まあそういうことになったわ」
「まあしょうがないわよね……」
爺さんが俺に頭を下げた。
「すみませぬな。連れが……明日また商談を」
「ああ、まあ仕方ないよ」
「かたじけない」
まあ、そこそこ楽しめたとだけ言っておこう。
なんならわりと儲かった。