また朝が来る。
ナボク平野の延々と続く荒野。その地平線が明るくなってくる。
赤みがかかった緑。この夜明けの色が俺は好きだ。
そんなことをソウザブロウから分けてもらったコーヒーを飲みながら思う。
ハチミツをわずかに入れたコーヒーはこの荒野において格別の飲み物だ。
香り高い苦みと優しい甘さが脳にバチバチと刺激をくれて、一気に目が覚める。
まさに自然の恵みだ。
ほかのみんなも起き始めて朝食の用意を始めている。
ライリーたちは仕掛けておいた罠の獲物を取りに。
サニーとミラは昨日の飯を温めなおしている。
ライリーたちが戻れば、朝の作戦会議だ。
俺たちは朝飯と夕飯の時にこれからの方針を話し合うことにしている。
これは冒険者時代からの習慣だ。作業進捗の確認は大事だからな……
「できたわよ」
「ああ、ありがと。かまどにかけとこう」
今日も肉のスープだ!一応野草と塩も入れて味を調えてはいるが……
毎日肉と魚と果物だと飽きるよな正直。
「今日もわりとかかってたぜェ。魚が8匹だ。生け簀に入れとくなァ」
「ああ、たのむわ」
俺たちはぼちぼちとそろい、飯を始める。
「じゃあまあ、『自然の恵みに感謝』で……」
『感謝~』
「うむ、いただきます。ああ、これはわしの母国の祈りでな。食物の命をいただくことに感謝するという意味じゃよ。また、つくってくれたお主らへの感謝でもある」
「なるほど、所は違えども祈りは同じか。よきものだな」
「うむ、よきものじゃ」
スプーンとフォークを使い、肉スープを食いながら俺は話を始めた。
「そんで、今日の作業と今後の予定だけど……まず井戸に屋根つけるだろ『つるべ』も。ドアも板でちゃんとしたの作ろう」
「おお、ならばわしの持ってきた交易品に蝶番がありますぞ。釘も!」
「じゃあつけよう。ありがとう」
サニーは相変わらずいい質問するなあ。
「つるべがあれば便利になるわね!」
「便利にしてるんだよ。で、今後の予定だけど……酒場作りたいね。ゲストハウスも。あとソウさんたちの家も作りたい」
「かたじけない」
「うむ、では引き続きレンガと瓦を作ろう。ついでに焼き物を作れるよう窯も作っておこう。いずれピザやパンも焼けよう」
「いいね、ガレンはそれで行こう。ライリーは罠増やしてね」
「わかったぜェ、で、狐ちゃんは何が出来んだァ?」
ソウザブロウは待ってましたというばかりにうなずく。
「うむ、皆さま畑を作りませぬかの?トウモロコシと小豆、ジャガイモがあるのじゃ。この地の野草でも食えるものをご存じならば増やしてみせましょうぞ」
「いいね。でも畑って時間かかるからゆっくりでいいよ」
「そうですのう。余った時間は奥方に魔法を教えるのじゃ。見たところ冒険者をやっていたお三方はそれぞれにある程度の心得はある様子じゃからな。身を守るすべはあって困らないのじゃ」
目線で俺に許可を求めてくるのでうなずいておく。
「OK、それでいこう。それで当面はやってけるんじゃねえの」
「うむ、しばらくはそれでよかろう」
「じゃあ俺ァ、暇になったら畑でも手伝うかァ」
食べ終えたので、食器を洗いにそれぞれが立つ。
「よし……ご安全に!」
『ご安全に!』
■
屋根はそう難しくない。井戸の四隅に杭をトンカン打ってあとはいい感じの枝をを縄で結んで屋根の骨組みを作り、補強で釘打って、あとは木の皮や葉っぱで作った屋根を載せるだけだ。
問題はつるべだ。とにかく頑丈な枝を作るためにできるだけまっすぐでちょうどいい寸法の枝を探す必要がある。
ここでちょうどソウザブロウが畑に使えそうな野草を探したいというのでついでに同行する。
「いやあ、助かりましたぞ。ライリー殿が畑を掘り起こしてくださいましたからのう」
「あいつああ見えて家庭菜園好きなんだよ。クワを扱うのうまくてビビるわ」
なだらかな丘にかなり広い畑が耕されている。
50碼平方……丘1個まるごと畑になった。
「かなり深くまで掘っていただきましたので、あとはほどよく骨灰を撒けばよろしいかと。本来ならば堆肥もあればよいのじゃが……」
「堆肥もねえ、トイレと合わせて作らなきゃだな……」
ソウザブロウはそのへんに落ちてる骨や皮を袋に入れていく。
死んだシカやらバッファローは腐りそうな内臓と肉はだいたいそのへんの動物に食われる。結果として骨と皮が残るのだ。
「まあ、その分は毛皮を焼いて養分がとれるのじゃ。それよりも、食える野草を教えていただければ増やしてみせましょうぞ」
「ああ、それじゃああれがいいわ。アローウコン。別名ビスケットウコンだ。こういうごつごつした岩場に生えて……とくにワラに覆われてると育ちやすい。根っこが食えて、乾燥させた粉はデンプンとして使える。ほぼ芋だね」
見た目には緑が鮮やかな膝より低いモコモコした植物が石ころの隙間から生えてる感じなんだよね。
「おお、これがアローウコンとは……聞いたことがあるのじゃ。かつて、この大陸にいた者たちはこのように石を並べてアロアロという植物を育てたと。たしかそれも根を粉にしてパンのようなものを作ったとか」
「あー、それかも。寒さに弱いけど、それ以外はメチャクチャ強い植物で……こういう水はけがいい砂利によく生えるし、藁とかで保温してやればめちゃくちゃ増える。ただ、土を時々休ませる必要があるんだよね」
「うむ、それもアロアロと一致しますな。あとはわしの魔法でなんとかなりましょうぞ」
「じゃあ、根っこを半分残して掘り起こして持ってくわ。今日の分は食べて、残りは種芋だね」
「うむ」
俺は『巨人の腕』を使って岩場を掘り起こしてアローウコンの根っこを取って、ソウザブロウの持つズタ袋に入れていく。
念のためちょっとは残して取らないでおく。
アローウコンの根っこはデカくて白いイモムシみたいな形で、そのまま食ってもあんまうまくない。
皮を剥いて2度ほど煮るとデンプン粉がとれるわけよ。
「これがレッドアガベ。このトゲトゲの葉っぱを切り落とすと丸い幹が出てきて、絞るとシロップがすげーとれる。酒の材料にもなるしな。でも育つのに8年はかかるからあんま取らないほうがいい」
これもハリネズミみたいに鋭くて硬い葉っぱが生えてる木だ。
背丈よりちょっと低いくらいでかなりデカい。
「こっちのメスカ豆の木は豆は毎年とれるんだけど、木が育つのに同じくらいかかるし、何ならどっちも畑に水をひかないとダメ。小豆の方が現実的だな」
このメスカ豆はソラマメによく似てるし、実際たくさん実がなるのでよく食卓にあがる。
けどバカほど水が必要だから育てるのには向いてないんだ。
「なるほど、いずれは……というわけじゃな。じゃが、今の人数では自然に生えている苗木を守った方がよかろう」
「できるの?」
「うむ、虫よけ獣よけくらいはすぐにできる」
「たのむわ」
ソウザブロウはなにやら藁のロープに赤と白のリボンがくっついたものを取り出して呪文と共に木に結わえる。手で何か印を結んでパンパンと手を叩く。
あんなんで魔法になるのかと思うが、実際かなり強い魔力が木に宿ってるのがわかる。
あれで虫よけになるんだ……
「しかしそうなるとアロアロしか育たんのう。もう少し種類があればいいんじゃが」
「あー、これもあったな。アマランノヨ草。この種が小麦の代わりに使える」
背の高い草で、てっぺんになってる赤いふさふさが花で、そのまま種穂になるんだよ。
「あー、赤ヒユじゃな。ここではここまででかくなるんじゃなあ。たしか雨の後に種をまけば……まあ今は種を取っておくべきじゃな」
「雨季っていうかこのへんだと夏の夕方のにわか雨が多いんだよ。もうちょいあつくなってからじゃないとだな」
「まあ、その頃には畑を耕せておろう。今日は助かったのじゃ。野草は赤ヒユとアロアロを中心に育ててみるのじゃ。芋や小豆やらは折を見て撒くのじゃ」
「たのんますわ」
まあ、サバイバル知識を話せて楽しかったよ。
釣瓶に使うはずの木は見つからなかったけど。
雨がぽつぽつ降りだした。
やがて叩きつけるようなにわか雨に。
季節風が吹きだしたんだ。これから本格的な夏が来ることを俺は予感した。