ツクツクボウシの哀愁漂う鳴き声が、夏の終わりを告げていた。
線路の外側、駅の方を見ると丁度電車が止まったところだろうか。
電車の乗客の多くは汗に濡れたシャツを着ていて、黒い営業鞄を片手に提げていた。
彼らを横目にスマホを見ながら、いつも通りの帰路に着く。
いつも通りの道、いつも通りの街並み。
けれど、いつもと違う裏路地に目が行った。
通りから抜けてくるのは、食欲を唆るどこか懐かしい揚げ物の香り。
そしてじゅうじゅうと油の弾ける音。
その香りと音の場所を辿り目を向けると、そこには精肉店があった。
こんな所にそんな店、あっただろうか。
匂いと好奇心に釣られて、足が店の方へ向いた。
「おや、いらっしゃい」
店の前に行くと、黒い髪が腰まで伸びた長身の若いお姉さんが出迎えてくれた。
赤いエプロンを付けていて、にこやかな笑顔はどこかミステリアスな雰囲気が漂っている。
やたらと真新しいショーケースの中には大きな肉ブロックが幾つかあり、切り分けて売るのだろう。
その上の小さなホットショーケースにはコロッケやメンチカツ、ハムカツといった揚げ物類が湯気を立てている。
……丁度小腹が空いできたところだ。
買い食いしていっても誰も叱らないだろう。
「……あの、コロッケを、1つ」
「ふふ、コロッケだね。じゃぁ、お代。150円ね?」
「あっ、はい」
慌てて財布を取り出し、きっかり150円を彼女に手渡す。
「まいど〜。すぐに用意するから少し待っててね」
若い店員さんはそう言うと、レジのあるカウンター越しにコロッケの用意を始めた。
店の中には、どうやら彼女以外はいないようだ。
一人で店を切り盛りしているのだろうか?
「はい、コロッケどうぞ」
「っす……」
そんなことを考えているうちに、目の前には揚げたてのコロッケが出された。
見た感じはごく普通のコロッケだ。
「いただきます……」
一欠片を口に運んだ。
ザクっとした歯切りの良い衣の食感。
ホクホクとした中身は、絶妙な加減で潰された人参やじゃがいも。
それらは仄かな甘味は肉の旨みを引きたててくれる。
……美味しい。
「……あのっ、何の肉……」
「ん〜?」
「何のお肉……なんですか?」
「……ふふ、なぁに? 気になるの?」
そう尋ねるお姉さんは、何処か妖艶さを感じさせる笑みを此方に向けてくる。
思わず体が固まってしまい、呆然とそれを見つめたまま何も言えなかった。
「……」
「ふふ、合い挽き肉かな」
「……っ」
そんな此方を見てか、彼女は小さく笑ってそう言う。
……からかわれたのだろうか? いや、そんなはずは……ない……はずだ。多分。
「……また来てね?」
「……っ」
そんな此方を見送るように彼女は言った。
……また来るかは、分からない。けれど、きっとこの味は忘れられないだろう。
そう思いながら裏路地を出た。
◇◇◇
残業で未だ帰って来ない母親から連絡が来た。
何やら地元で行方不明者が出たらしい。
情報によれば長身の人物がさらったとか……。
危ないな……これからは気を付けて帰らないとな。
見た人の食欲を促進する為に頭空っぽで書いてた。