俺の彼女が人として終わっているんだが   作:Melolololon

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別サイトで連載していた作品をハーメルン向けに編集したものです。
完結まで書き切っており、毎日投稿していきます。


1章 俺の彼女は終わっている 前半

 二十歳の春。

 人がいない午後八時の大学のラウンジにて。

 俺は勇気を出し、一人残っていた同級生に告白した。

 

 ずっと好きだったけど、声をかけることができなかったあの子に。

 正直今までほとんど話したことなかったからどうせ断られると思ったが、勇気を出して告白した。

 

「……いいよ」

 

 告白は、驚くことに成功した。

 嬉しすぎて泣きそうだった。

 

 次の言葉を聞くまでは。

 彼女は、俺の肩に手をポンと置く。

 

「じゃ、さっそく酒飲みにでも行くかぁ」

 

 彼女の言葉と口から漂ってきた酒とタバコの臭いで嬉しい気持ちは消え去った。

 

 

 告白から一週間後。

 

「うまー。やっぱ学校終わりの酒って最高だよねー。あはははぁ!」

 

 座布団に座り、授業の予習をしている俺の肩に足を乗せ寝ながらパック酒を飲む彼女。

 たまに足でバシバシ肩を叩かれる。

 

「......燐華(りんか)さん。そんなに堕落していたら留年しますよ?」

 

「だいじょーぶ。私やる時はやるから。それに、私には志永(しなが)君がいるし! 万が一困ったら教えてくれるんでしょ?」

 

「......まぁ」

 

 俺、志永翔(しながしょう)は告白し、咲園燐華(さきぞのりんか)さんと付き合っている。

 燐華さんは、黒く長い綺麗な髪で、どのタイミングで見ても美しく、大学での授業は真面目に受けている。

 

 しかし、授業が終わり酒が体に入るとこのように堕落したダメ人間になってしまう。

 

 飲み終わった酒の缶や瓶を俺の部屋に放置し、タバコの臭いを充満させ、カーペットに嘔吐する。

 

「俺の家でも大学にいる時みたいにしていてほしいんですが......」

 

「えーやだぁ。ずっとあんなに真面目でいたら疲れちゃうよー」

 

 そう言いながら、足で俺の体を挟む。

 

「あー眠くなってきちゃったー。寝るねー」

 

 寝ながら酒を飲んでいた彼女は、俺のベッドに寝転んだ。

 

 彼女は実家を追い出され、一人暮らしをしている。

 おそらく毎日酒とタバコの臭いをまき散らされるのに耐えられなかったのだろう。

 しかし、よく俺の家で吐き、寝ている。

 

「ちゃんと横向いて寝てくださいね。嘔吐物が詰まって窒息でもされたら困りますから」

 

「あーい」

 

 言われた通り横になる燐華さん。

 数分後、ぐっすり寝てしまった。

 俺は立ち上がり、布団をかける。

 

 

 正直、俺は告白したことを後悔していた。

 告白した数分後に別れたいと思ったが、こちらから告白しておいてすぐに振るのも失礼だし、もしかしたら燐華さんにもいいところがあるかもしれないと思い、なんだかんだ付き合っている。

 しかし、付き合って一緒にいればいるほどヤバいことしかわからない。

 それでも、良い所があると信じ、付き合い続けているのだ。

 

 

 

 午前九時半。

 物凄い眠気を我慢しながら授業を受けている。

 油断すると今にも意識が飛んでしまいそうだ。

 そんな俺は、なんとなく隣に座っている燐華さんを見た。

 俺の視線に気が付いた燐華さんは、微笑んでくれた。

 燐華さんが夜遅くに部屋に嘔吐物をまき散らし叩き起こされ、床に寝てしまった燐華さんをベッドへと運び込み、嘔吐物まみれになったカーペットの掃除をすることになっていなければ、そんな燐華さんを見て可愛いと思ったり癒されていたと思う。

 

 十時。

 またなんとなく燐華さんを見た。

 何か様子がおかしい。

 貧乏揺すりが酷いような気がする。

 おそらく、タバコが吸えないことによるストレスが原因だろう。

 今日は起きるのが遅くなってしまったため、大学に来る前にタバコを吸うことができなかったのだ。

 

 十時半。

 一限目の授業が終わった。

 

「燐華さん、大丈夫ですか......?」

 

 心配になった俺は、燐華さんに声をかける。

 

「志永君、ちょっと私用事があるから」

 

 真剣な表情でそれだけ言うと、燐華さんは教室から出ていった。

 数分後、満面の笑みで教室に戻ってきた。

 

「タバコ美味しかったですか?」

 

 なんとなく聞いてみた。

 

「私がタバコ吸ってるのは内緒で、ね?」

 

「あ、そうでした......」

 

 小声でそう言われた俺は謝る。

 家での様子や、酒、タバコを嗜んでいることは周りの人間には知られたくないらしい。

 またうっかり酒やタバコのことを聞かないように気を付けることにした。

 

 

 放課後、酒とタバコを買いたがっていた燐華さんのために最寄り駅の近くのコンビニに寄った。

 

「あのクソ教授地獄に落ちてほしいよー! なぁ、志永君!」

 

 買った酒をコンビニから出てすぐ飲み、ベロンベロンに酔った燐華さんが言う。

 家で酒を飲みたかったのにも関わらず、課題を出されたため怒っているのだ。

 あまりにも酔っていて人や建物に衝突する可能性があるため、手を繋いで歩いている。

 

「クソー......。この瓶で頭ぶん殴ってやりてぇ......」

 

「まぁまぁ......。頑張ってやりましょうよ......」

 

 人目が気になるので、燐華さんを宥めた。

 そうしたら、少し落ち着いた。

 

「うぇ......。気持ち悪い......」

 

 燐華さんが口を押さえる。

 落ち着いた原因は、宥められたからではなく、吐き気を催したからだったらしい。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫ですか......?」

 

「うーん......。無理......」

 

 我慢できなかった燐華さんは、嘔吐してしまった。

 しかも、駐輪場に止めてある自転車のサドルに。

 

「あーっ! 俺の自転車がー!」

 

 背後からそんな声が聞こえてきた。

 振り向くと、自転車の持ち主だと思われる高校生が立っていた。

 

「やばっ......」

 

 男性は、早歩きで近づいてくる。

 

「ねぇ、お水頂戴......」

 

 そんなのを気にもせず水を求め催促してくる燐華さん。

 

「燐華さん......! 吐いちゃったの謝ったほうが良いですよ......!」

 

「おい!」

 

 遂に男性に話しかけられてしまった。

 とりあえず俺は、頭を下げる。

 

「すみません! 燐華さんが自転車に吐いてしまって......! ほら、燐華さんも......!」

 

「うぇぇ......。すみま......おぇ」

 

「危ない!」

 

 とっさに男性の手を引き、燐華さんから離す。

 その後、燐華さんの口から再び嘔吐物が滝のように流れ落ちた。

 離していなかったら、男性はズボンと靴から異臭を放ちながら家に帰る羽目になっていただろう。

 

「人の自転車にゲロぶっかけておいて謝りもせず今度は俺自身にも......。な、なんて女だ......!」

 

 ドン引きする男性。

 

「そ、そんなことよりお前! 俺の自転車に」

 

 男性が喋っている間に、燐華さんは、男性の横に立ち、肩に手を置いた。

 

「な、なんだ? もしかして、体で弁償するってか?」

 

(いや、あれは......)

 

 大体察しが付く。

 あれはそんなんじゃない。

 次の瞬間、男性の口に酒が入った瓶の口を男性の口に突っ込んだ。

 

「まぁまぁ、とりあえず飲めよ」

 

 男性の体内にどんどん酒が入り込んでいく。

 俺は、酒を飲ませている燐華さんを止めた。

 

「ちょ、ちょっと何してるんですか!」

 

「人間の悩みなんて酒飲んだら全部解決するんだから飲ませてやったんだよ」

 

「だからってあんなこと......」

 

「ゴホッ! お、お前急に何してんだ!」

 

 自転車を汚され、衣服を汚されかけた挙句酒を飲まされた男性の怒りは最高潮だった。

 俺たちは地面に正座させられ、こっぴどく怒られた。

 

 

 しかし、三十分ほど経過すると、男性の様子が変わった。

 酔ってきたことにより、怒りは静まっていた。

 

「んーまぁ気分が悪かったなら仕方ねぇわなぁ! はっはっは!」

 

「そうだよねぇ。仕方ないよねぇ......」

 

 そして、二人は肩を組み、仲良く飲んでいた。

 二人はすっかり仲良くなっていた。

 

「まぁ今回は許してやるかぁ! 次は気をつけろよぉ!」

 

 千鳥足で自転車に向かい、嘔吐物を気にもせずまたがる。

 

「姉ちゃん! 機会があったらまた飲もうや! じゃあな!」

 

 燐華さんは、手を振って男性を見送った。

 その後、携帯を取り出し、画面を数回タップし、耳元に当てる。

 

「もしもし警察ですかぁ? なんか酒飲んで自転車乗ってる人がいてぇ......。はい、木崎商事って会社の近くで......。自転車のサドルはゲロで汚れてて......。はい、お願いしまぁす」

 

 仲良くなった男性を躊躇なく通報する燐華さん。

 俺は、燐華さんのことを呆然と眺めていた。

 

「飲酒運転する悪を通報したことだし、家で酒飲むかぁ!」

 

 燐華さんは、酒を飲みながら家の方へと歩き出した。

 十分後、パトカーの音と男性の助けを求める声が聞こえてきたが、酔っている燐華さんは特に気にしていなかった。

 

 

 男性を通報してから二時間後。

 

「志長くーん疲れたー。おぶってー」

 

「もう少しで家なので我慢してくださいよ……」

 

 飲酒運転した男性を通報した後、酔った燐華さんが野良猫を追いかけ回して夜遅くに帰ることになってしまった。

 そのせいでこんなにも疲れているのだ。

 

「あー疲れでイライラするー……!」

 

 燐華さんは、ポケットからタバコを取り出して火をつけた。

 

「やっ、やめてよ!」

 

 突然女性の声が聞こえてきた。

 

「むっ、事件の予感……」

 

 燐華さんは、スタスタと歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

 早歩きをし始めた燐華さんを俺は追いかける。

 

 

 燐華さんを追いかけると、目の前には男女がいた。

 

「お前俺の言うことを聞けよ……!」

 

「嫌よ……!」

 

 事情はわからないが、揉め事になっている。

 

「クソが……!」

 

 男性が拳を振り上げる。

 

「あっ、危ない!」

 

 俺は、男性を止めようとした。

 だが、間に合いそうにない。

 

「えっ……!」

 

 なんと、燐華さんが身を挺して間に入り込んだ。

 男性は驚き、拳を止める。

 

「な、なんだお前は!」

 

 燐華さんは、無言で睨む。

 そして、口の中のタバコの煙を吹きかけた。

 

「うわくせっ!」

 

 男性は怯む。

 

「そうだ……! 今のうちに逃げましょう!」

 

「は、はいっ!」

 

「燐華さんも早くっ!」

 

 燐華さんは、痛みで額を抑えている男性に唾を吐きかけて逃げる。

 

「あああっ! 臭すぎて死ぬぅ!」

 

 男性が悶えている隙に、俺たちは逃げ出した。

 

 

「あ、ありがとうございます……。彼氏がお金を貸せってしつこくて……」

 

「いいっていいって。さ、飲みな」

 

 リビングで燐華さんと助けた女性が一緒に酒を飲んでいる。

 夜遅いので、一旦俺の家に泊まってもらうことになったのだ。

 

「お酒美味しいですね……」

 

「でしょー? 私のお気に入りー」

 

 キッチンでお酒のつまみを用意しながら二人の会話を聞いていた。

 タバコと酒の臭いを撒き散らす燐華さんのことを嫌がっていないようなので安心した。

 

「できましたよ」

 

 俺は、レンジで温めたゲソ揚げと枝豆をテーブルの上に置いた。

 

「あ、ありがとうございます……。いいんですか? ご馳走になってしまって……」

 

「いーのいーの。自分の家だと思ってくつろいで!」

 

「勝手に住んでるのに何勝手に言ってるんですか……。あ、自由にくつろぐのは全然気にしないので!」

 

「本当にありがとうございます……! あ、そうだ……。私、森塚美湖(もりづかみこ)っていいます」

 

「よろしくねー美湖ちゃん。じゃ、明日はお休みだしぶっ倒れるまで飲もっかー!」

 

「えっ、ぶっ倒れるまで……?」

 

 美湖さんは困惑しながらも、燐華と酒を飲み続けた。

 

 

 数時間後、二人は酔っていた。

 美湖さんは、ぼーっとしながら天井を見つめており、燐華さんは、相変わらず酒を飲んでいる。

 

「そーだ。この様子あいつに送りつけてやろーっと!」

 

 携帯をテーブルの上に置き、撮影を開始する燐華さん。

 

「うぇーい見てるー? 君の女の子こんなになっちゃったよー」

 

 美湖さんの肩に手を置き、抱き寄せる。

 

「美湖ちゃん、ピースピース」

 

「あはぁー……」

 

 言われるがままピースをする美湖さん。

 撮影を止めると、床に寝転んだ。

 そして、美湖さんは燐華さんのお腹の上に倒れ、寝てしまった。

 

「起きたら美湖ちゃんに頼んで送りつけてやろーふふふ……」

 

 幸せそうな顔をしながら二人は寝てしまった。

 俺は、そんな二人に布団をかけた。

 

 

「す、すみません……! リビングで寝てしまって……!」

 

 美湖さんは、頭を下げる。

 

「謝らなくていいですよ」

 

 それでも頭を下げる美湖さん。

 

「あ、あと泊めて下さってありがとうございます……」

 

「いいんですよ。それより、こちらこそ燐華さんの相手をしてくださってありがとうございます。俺、お酒ダメで……」

 

 寝てる燐華さんを二人で見る。

 

「……いい彼女さんですね」

 

「えっ?」

 

「勇敢で私を助けてくれて……」

 

 付き合って一ヶ月間、燐華さんにはただのやばい人だと思っていた。

 しかし、昨日は殴られるのを恐れずに美湖さんを助けた。

 もしかしたら、本当はいい人なのかもしれない。

 

「うぅーん……。あ、二人ともおは……おぇぇぇ」

 

 燐華さんは、起きてすぐ床に嘔吐物をぶちまけた。

 

「わっ! ビ、ビニール袋とゴム手袋!」

 

「わ、私も手伝います!」

 

 二人で、燐華さんが吐いた嘔吐物を片付け始める。

 

「あ、美湖ちゃん。彼氏の連絡先教えてー。寝取り動画送りつけるから」

 

「えっ、寝取り動画ってなんですか!?」

 

 嘔吐物を片付けながら困惑する美湖さん。

 その後、適当に誤魔化して連絡先を教えてもらった燐華さんは、美湖さんの彼氏に動画を送りつけた。

 

 

 

 燐華さんが女性を助けてから数日後。

 今日は燐華さんに家に呼ばれたため、燐華さんが住んでいるマンションに来ていた。

 燐華さんの部屋のインターホーンを押そうとすると、声をかけられた。

 

「あっ、えっとたしか、志永さん......?」

 

 振り向くと、見覚えのある女性が立っていた。

 

「あ、森塚美湖(もりづかみこ)さんですよね」

 

 燐華さんがこの前助けた森塚美湖さんだった。

 

「美湖でいいですよ」

 

「あ、じゃあ美湖さん。今日はなぜここに......?

 

「実は燐華さんに呼ばれまして......。もしかして、志永さんも燐華さんに呼ばれたんですか?」

 

「は、はい。突然連絡が連絡が来まして......」

 

 今日俺が燐華さんの家に来たのは、朝、突然燐華さんから連絡が来たからだ。

 

「俺もなんですよ。というか美湖さん、燐華さんと連絡先交換していたんですね」

 

「いえ、なんか気が付いたら登録されてて......」

 

「そ、そうなんですね......」

 

 おそらく、燐華さんと美湖さんが飲んでいた時、美湖さんが先に酔い潰れた時に勝手に携帯を触っていたので、その時に勝手に連絡先を登録したのであろう。

 

「志永くーん。美湖ちゃーん」

 

 ドアの向こうから燐華さんの声と足音が聞こえてきた。

 ドアからガチャリという音が聞こえると、ドアが開き、燐華さんの顔が出てきた。

 

「くっさ!」

 

「うぅ......!」

 

 異臭と共に。

 

 

 俺と美湖さんはあの後すぐさま近所のコンビニでマスクと消臭剤を購入し、消臭剤をまき散らしながら燐華さんの部屋へと突入した。

 

「燐華さん。用事ってもしかして......」

 

「うん! 掃除手伝って!」

 

 燐華さんは掃除機とゴミ袋を俺たちに手渡そうとしてきた。

 

「ここまで汚いと流石に苦情がね......。えへへ」

 

 燐華さんは照れながら頭をかいた。

 それに対し俺は呆れつつ頭を抱えていた。

 

「それで、俺たちに手伝ってほしいと......。美湖さん、嫌だったら帰ってもらっても......」

 

「いえ! やらせていただきます!」

 

 美湖さんは燐華さんから掃除機を受け取る。

 

「私、燐華さんに助けてもらったので恩返しがしたいんです!」

 

 そう言うと、さっそく掃除機をコンセントに接続し、掃除を始めた。

 

「じゃ、志永くんも!」

 

「わかりましたよ......。俺も手伝います......」

 

 俺は燐華さんからしぶしぶゴミ袋を受け取り、掃除を開始した。

 

 

 燐華さんの部屋はとにかく汚かった。

 

 酒の缶や瓶が散乱しており、食べ終えた弁当の容器もゴミ箱から溢れ、同じように散乱している。

 ベッドの上には服が脱ぎ捨てられている。

 床になんか茶色いシミがある。

 

 これだけ汚れている部屋なのにも関わらず、虫が見つからなかったのは奇跡だろう。

 

(......すごいな)

 

 こんな部屋を目の当たりにしても、文句を発せず黙々と掃除を続ける美湖さんに感心していた。

 

「いやー美湖ちゃん呼んでよかったよー。どんどん部屋が綺麗になってくー」

 

 ゴミ袋の入口を抑えながら酒を飲んでいる燐華さんも関心する。

 

「これくらいお安い御用です!」

 

「いやーだったらこれからも掃除の際は頼っちゃおっかなー、ははははは」

 

「いやいや、自分でやってくださいよ......」

 

「えー。美湖ちゃんやってくれる?」

 

「いいですよ! その代わり、お願いがあるんですが、聞いてくれますか!?」

 

「お願い......?」

 

 燐華さんが聞く。

 

「私を、燐華さんみたいに強い人にしてくれませんか!」

 

「強い人?」

 

「はい! 燐華さんみたいに堂々として人助けをできる強い女性に憧れているんです!」

 

「......私なんか弱っちいけどな......」

 

 燐華さんが小声でそう言った。

 

「え、なんですか?」

 

「わかった! 掃除のあとに美湖ちゃんに教えてあげるね!」

 

「はい! お願いします!」

 

「よーし。じゃあすぐに掃除終わらせよう!」

 

「早く終わらせたいんだったらゴミ袋持ってるだけじゃなくて、ゴミを拾ってくださいよ......」

 

 呆れつつ俺はそう言った。

 

(しかし、先ほどの燐華さん......)

 

 先ほど、弱っちいと発言した際、一瞬だけど燐華さんの表情が曇っていたように思えた。

 あの一瞬の表情が、俺の頭から離れなかった。

 

 

 三時間後、ようやく人間の部屋と呼べるほど片付いた。

 

「いやーありがとねー。みんな疲れたでしょ? 私もう疲れちゃってさー」

 

 掃除の九割は俺と美湖さんがしたので疲れていないと思うのだが、疲れで突っ込む気力がなかった。

 俺と燐華さん、美湖さんでテーブルを囲むように座る。

 

「燐華さん! 先ほどのお話の続きいいですか!」

 

「あー? ......あぁ、強くなる方法?」

 

 美湖さんが真剣な表情なのにも関わらず、燐華さんはヘラヘラと笑っている。

 

 強くなる方法。

 大方予想がつく。

 

「強くなるなんて、これしかないっしょ!」

 

 俺の予想通り、燐華さんはベッドの下から日本酒の瓶を取り出した。

 

「酒を飲めば嫌なことや都合の悪いことなんて忘れる! 相手が強かろうとなんだろうとわかんなくなる! よって最強になれる人類の英知が生み出した魔法のドリンク!」

 

 燐華さんはテーブルに日本酒を叩きつけるように置く。

 そして、同じくベッドの下から蓋を開ける道具を取り出し、開封する。

 

「お酒を飲めばいいんですね! じゃあ、コップを......」

 

 美湖さんは立ち上がってコップを取りに行こうとした。

 そんな美湖さんの手を掴み、引き留める燐華さん。

 

「私と美湖ちゃんの仲じゃん。回し飲みでいいっしょ」

 

 そう言うと燐華さんは開封したお酒を飲んだ。

 

「わ、わかりました!」

 

 美湖さんは座り、お酒を受け取る。

 そして、がぶがぶと飲んだ。

 

「み、美湖さん......。お酒弱いのにそんなに飲んじゃ......」

 

 しかし。聞く耳を持たない。

 燐華さんは飲みっぷりに感動し、拍手している。

 

「......ごふっ!」

 

 変なところにお酒が入ってしまったのか、口からお酒が吹き出た。

 

「ちょ。大丈夫ですか!」

 

「ゴホっ......。だ、大丈夫です......。......ふぅ」

 

 お酒を飲んだ美湖さんの顔は既に真っ赤で、とろんとしていた。

 

「よーし飲んだね。美湖ちゃんは今、最強なんだよ」

 

「ふぁたしがさいひょー?」

 

 もう既に酔いが回っており、呂律が回っていない。

 

「そう、最強! 志永くんにも勝てるよ!」

 

 真っ赤な顔で美湖さんが見つめてくる。

 

「力を試してみよっか。いけ美湖ちゃん! 志永くんをやっつけちゃえー!」

 

「ふぉー!」

 

 美湖さんは拳を突き上げ、俺に向かって突進してきた。

 美湖さんは俺にぶつかり、倒れる。

 俺は美湖さんが床に頭をぶつけないように全力で頭を守った。

 

「あ、危なかった......」

 

 倒れ込んだ美湖さんは、そのまま寝てしまった。

 

「り、燐華さん! 危ないじゃないですか!」

 

「いやーごめんごめん。まさかこんなことになるとは思わなくて......」

 

「とりあえず美湖さんをベッドに寝かせてあげたいんで、燐華さん運んでくださいよ」

 

 あまりベタベタ触るのもよくないと思った俺は、燐華さんに助けを求める。

 燐華さんは立ち上がり、美湖さんをベッドに運ぼうとした。

 

「うーん無理!」

 

「......ですよねぇ」

 

 仕方なく、二人で協力して美湖さんをベッドに寝かせた。

 一時間後、起きた美湖さんは酔ってた時の記憶が残っていたのか、土下座で俺に謝り続けた。

 

 

 美湖さんが目覚めてからしばらく経過すると、外が夕焼けで赤くなってきた。

 

「あ、私そろそろ帰りますね」

 

「じゃあ俺も帰ろうかな」

 

「えー、泊まっていってよー......。せっかく掃除したんだしー」

 

 燐華さんがあぐらをかいて体をユラユラ揺らしながら言う。

 

「泊まるっつったって、寝る場所がないじゃないですか」

 

「んーじゃあせめてご飯だけでも作ってよー」

 

「もしかしてそれ目的なんじゃ......」

 

「あ、バレた?」

 

 照れながら頭をかく燐華さん。

 

「私は明日の準備がありますし......すみません。先に帰らせていただきます」

 

「うん、じゃあねー」

 

「美湖さん、さようなら」

 

 美湖さんはペコリと頭を下げると、先に帰った。

 

「......そういえば燐華さん。もし言うのが嫌だったらいいんですが......」

 

「ん? なぁーに?」

 

「......さっき、私なんか弱っちいって言った時、そのー......」

 

 なんであんな悲しそうな顔をしたのか。

 そう聞こうとした。

 

「......あぁ! あれ? いやだって実際弱っちいでしょ? 美湖ちゃんも持ち上げられないし!」

 

 一瞬困ったような顔をした後に、いつも通り笑って回答した。

 

「......まぁ確かに非力ですね。筋トレでもしたらどうですか?」

 

「えーやだー」

 

 燐華さんは酒を飲み、寝っ転がってしまった。

 そして、しばらくするとそのまま寝てしまった。

 

「やれやれ......」

 

 俺は立ち上がり、燐華さんをベッドに寝かせる。

 布団をかぶして部屋の電気を消し、俺は家の外に出た。

 合鍵で部屋の鍵を閉め、マンションから立ち去る。

 

(......なにがあったんだろう)

 

 過去に何かしらあって一人で抱え込んでしまっているような気もするが、俺はこれ以上聞かないようにすることにした。

 燐華さんが心を完全に開き、自ら話すその時まで。

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