俺の彼女が人として終わっているんだが   作:Melolololon

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2章 俺の彼女は壊れかけ 前半

 午前の講義にて。

 

「えーでは、レポートは一ヶ月後に提出となりますので、遅れることのないように......」

 

 教授が荷物をまとめると、講義室から出て行った。

 

「燐華さん、レポートの内容どうするか考えてるんですか?」

 

 俺は隣に座っている燐華さんに聞く。

 

「うん。どういう風に進めていくかは全部考えてあるよ。あとはサボらずにしっかりと進めていけば、全然余裕だよ」

 

「流石ですね......」

 

 燐華さんはこんなことを言っているが、それは大学にいるからである。

 どうせこの後は演じるのをやめて、タバコを吸いながら教授の文句を言い続けるに違いない。

 

「あ、燐華じゃーん! 彼氏さんもこんちわー!」

 

 背後から最近聞いた声が俺たちにかけられた。

 振り向くと、この前会った女性、夏鈴さんが立っていた。

 俺はそっと燐華さんの方を向いた。

 

「あ、ああ夏鈴さん。どうも......」

 

 キャラを維持し続けているが、明らかに嫌そうだ。

 燐華さんもこちらをチラチラ見て助けを求めている。

 

「いやーせっかくだしどうですか? お昼一緒に行きましょうよ!」

 

 夏鈴さんはそう提案するが、正直俺は乗り気ではなかった。

 普段キャラ作りをしてストレスが溜まっている燐華さんは、いつも昼休みは一駅隣まで移動し、タバコを吸いまくりながら昼食を取っているのだ。

 それなのにも関わらず、タバコは吸えず、苦手な人とも一緒となれば、燐華さんの気が狂ってしまうかもしれない。

 

「......いいよ。行こうか」

 

 しかし、燐華さんは断らなかった。

 

「よーし、じゃあおすすめのお店紹介するから、ついてきてー!」

 

 夏鈴さんは俺たちの前を歩き始めた。

 

「燐華さん......大丈夫なんですか......?」

 

 俺は耳元でささやく様の聞く。

 

「無理......。助けて......」

 

「はぁ......。断れば良かったのに......」

 

「だって、そんなことしたら私の印象が......」

 

「おーい早くー!」

 

 夏鈴さんが俺たちの方を振り向いて手を振りながら声をかけてくる。

 仕方なく俺たちは歩き始めた。

 

 

 夏鈴さんが選んだお店は、チェーンの喫茶店だった。

 俺と燐華さんは隣同士で座り、対面に夏鈴さんが座った。

 メニューを適当に眺め、俺と燐華さんは、適当にカツサンドを頼んだ。

 夏鈴さんは、ペペロンチーノを頼んでいた。

 

「本当に俺も付いてきちゃって良かったんですかね......?」

 

「いーっていーって! 彼氏さんも燐華ちゃんも一緒に居たいでしょ? むしろ、私が居てもいーのかって感じ?」

 

「ははは......」

 

「いいわけないでしょ......」

 

 俺にしか聞こえないほどの小声で、燐華さんは呟いた。

 

「あ、そーだ。注文した商品が届くまでの間、馴れ初めとか聞いてもいーですか?」

 

「いいですけど、あんまり面白いもんじゃないですよ?」

 

「いーですよ! まず、どっちが先に告ったんですか!?」

 

 それから、夏鈴さんの質問ラッシュは続いた。

 主に俺が回答し、燐華さんがたまに話を振られた際に答えるくらいだ。

 俺は質問に回答しつつ、定期的に燐華さんの様子を確認しているが、時間が経つごとに燐華さんの調子が悪くなっていくのがわかる。

 最初は少し体調が悪そうという感じだったが、今は冷や汗がすごく、手が震えている。

 そして、俺の服をずっと握っている。

 手汗も酷く、握られた部分はびしょびしょだ。

 

「あれ、燐華ちゃんなんか汗凄くない?」

 

「え......。あぁ、ちょっと暑くてね......?」

 

「そう? 店内結構涼しいと思うけど......」

 

「お待たせしましたー」

 

 店員が注文を持ってきた。

 俺と燐華さんの前には、美味しそうなサンドイッチが置かれる。

 

 俺はこのタイミングで携帯を開き、燐華さんにメッセージを送ることにした。

 

(燐華さんは食事中は喋らない人ってことにしておくんで、話を振られても無言でいてください。急いで食べて、用事があると理由で先に退店しましょう)

 

 この内容で燐華さんに送信する。

 燐華さんの携帯にメッセージが届いたのか、燐華さんは確認する。

 俺の服を掴んでいる燐華さんの手は、グーからグッドに変わった。

 そして、燐華さんは、カツサンドを食べ始めた。

 

「あーそれで、燐華ちゃんは、普段何して暇つぶししてるの?」

 

 燐華さんは答えない。

 

「あー、燐華さんって食事になると夢中になっちゃって、あんまりお話しないんですよねー」

 

「へー、燐華さんってクールそうに見えて、食べるの好きってなんかかわいいですね!」

 

(よかった......。うまくごまかせた......)

 

 それから、夏鈴さんの相手は俺がして、燐華さんには黙々と食べてもらった。

 そして、ちょっと用事があると言い、先に退店した。

 窓から夏鈴さんが見えなくなるところまで移動すると、俺と燐華さんはダッシュで喫煙所へ向かった。

 途中で燐華さんが何度も嘔吐しそうになったが無事に到達した。

 

「はぁぁぁぁぁ......。死ぬかと思った......」

 

 タバコを五本ほど無我夢中で吸った後に燐華さんが言った。

 

「お、お疲れ様でした......」

 

「いやーありがとうね。助かったよ、でも......」

 

「でも......?」

 

「食いしん坊設定みたいになっちゃったのはなぁ......」

 

「ま、まぁいいじゃないですか」

 

「まぁね......。しかし、これからどうしようかなぁ。毎回用事があるって言って抜ける訳にはいかないし......」

 

 燐華さんの言う通りだ。

 これからも夏鈴さんは絡んでくるはずだ。

 

「......やっぱ、慣れてもらうしか......」

 

「だよねぇ......」

 

「無理そうですか?」

 

「......わかんない」

 

「......ですよねぇ」

 

 燐華さんが五本目を吸い終わると、流石に満足したのか、これ以上吸わなかった。

 俺と燐華さんは、大学に戻りながら今後のことを考えるのだった。

 

 

 夏鈴さんと昼食を取った日の夜。

 

「いやー! やっぱ酒は最高だー!」

 

「そーですねー......。あははは......」

 

 俺の部屋で、燐華さんと美湖さんが酒を飲みまくっていた。

 美湖さんはいつの間にか燐華さんの立派な酒飲み仲間となっていた。

 

「ほどほどにしといてくださいよ。普段から飲んでる割にお酒にそこまで強くないんですから......」

 

「大丈夫大丈ぶえええええぇぇ!」

 

 大丈夫と言った矢先、床に嘔吐する。

 

「ほーら言わんこっちゃない......」

 

 俺はため息を吐き、いつも通り台所へ雑巾とバケツへ取りに行く。

 今日は苦手な夏鈴さんと一緒にいたせいなのか、いつもより長時間酒を飲んでいる。

 

「いやーしかし、お酒っていいですねー。強くなってる気がしますー......」

 

 美湖さんも燐華さんに負けずに酒を飲む。

 燐華さんと違い、美湖さんは全然吐きそうではない。

 そんな美湖さんに俺は安心していた。

 部屋に吐く人間が二人もいたらたまったもんではない。

 

 俺は二人が酒を楽しんでいる横で、濡らした雑巾で床を拭く。

 

「燐華さーん。腕相撲しましょうよー。私、今ならめちゃくちゃ強いから力試ししたいですー」

 

「おー、やろやろー」

 

 燐華さんと美湖さんはテーブルを挟んで座る。

 美湖さんは左腕をテーブルに置く。

 

「えー私右利きなんだけどー。ずるーい」

 

「燐華さん強そうだから、ハンデくださいよー」

 

 そう言い、美湖さんは無理やり燐華さんの左腕をテーブルに乗せる。

 

「いきましゅよー! ゴー!」

 

 美湖さんは腕を思いっきり傾ける。

 すると、燐華さんはあっさりと負けた。

 思いっきりテーブルに手が叩きつけられ、酒が入ったコップが倒れた。

 

「マイ、ウィーン! イエーイ」

 

 美湖さんはソファーの上に立って万歳をする。

 もうめちゃくちゃだ。

 

「はぁ......。酒なら二人で飲んでてくれればいいのに......」

 

 そう思いながら、テーブルにこぼれた酒もふき取った。

 

 

 そして深夜に二人は酔いつぶれ、朝を迎えた。

 

「すみませんでした!!!」

 

 アルコールが抜けて正常になった美湖さんは、俺の前で土下座をする。

 

「いーっていーって。志永くんなら許してくれるって」

 

 なぜか燐華さんが代わりに許す。

 

「まぁいいですけど......。今度からはほどほどにしてもらえると......」

 

「ほんっとうにすみませんでした!!」

 

 あまりの気迫に驚き、俺は許してしまった。

 

「というか、燐華さんも酒勧めすぎないでくださいよ......」

 

「えー? だってみんなで飲んだ方が楽しーじゃーん」

 

「いえ! 勧められて飲んじゃう私が悪いんです!」

 

「はぁ......」

 

 俺はため息をつく。

 今後からは俺が間に入って止められるように準備しておいた方がよさそうだ。

 そう思うのであった。

 

 

 夏鈴との食事をしてから数日後。

 

 

 深夜の私立高校の警備バイトが終了し、退勤する燐華。

 

「あ、あの時の!」

 

 警備員室を出た燐華は、男子生徒に声を掛けられた。

 

「ん? あぁ、あの時の」

 

 声をかけてきた男子生徒は、燐華がバイトしていた時にテストの解答を盗むもうと忍び込み、その後燐華と一緒に勉強した男子生徒だった。

 

「どうだった? テストは?」

 

「なんとか赤点回避」

 

 少年は親指を立てて自分の前に突き出す。

 

「おーおめでとさん」

 

「お姉さんのおかげだよ。ありがとな。それで......」

 

 少年は少し顔を赤らめる。

 

「お礼がしたいから、部活が終わる午後にまた会ってくれねぇか......?」

 

「本当? じゃあ近所の公園で寝て待ってるよ。部活頑張りな」

 

「おう!」

 

 燐華は手を振ると、学校を出た。

 

 

 燐華は高校の正面の公園のベンチで爆睡していた。

 日本酒の瓶を抱きかかえ、気持ちよさそうだった。

 そんな燐華に近づく人が一人。

 

「おい」

 

 その人、高校生は冷たい水入りペットボトルを燐華の額に当てる。

 

「しゅめたっ!」

 

 燐華は飛び起きる。

 ペットボトルを当てられたおでこを撫でつつ、辺りを見渡す。

 

「あー寝てたんだっけ。......お、部活終わったかい?」

 

「はぁ......。午前から酒飲んで寝てるような人に助けられた自分が恥ずかしいよ......」

 

 少年は燐華にペットボトルを手渡す。

 

「これ飲んで酔いを醒ましてくれよ」

 

「じゃ、ありがたくいただきまーす......」

 

 燐華は少年から水をがぶ飲みする。

 冷たい水が体に染み渡り、酔いが醒めていく。

 

「それで、礼なんだけど......。高校生だから、金を使うような礼はできなくて......。なにか、手伝いとかできたらいいんだけど」

 

「手伝いかー」

 

 燐華さんは水を飲みつつ考える。

 

「......君って、女の子の友達とかいる?」

 

「えっ!?」

 

 少年は驚く。

 それと同時に、ドキドキしている。

 

「よかったら......」

 

「お、おう......」

 

 少年の顔はどんどん真っ赤になっていく。

 心拍数は上限突破しそうだ。

 

「......私にギャル耐性をつける方法を教えてくれない?」

 

「......へ?」

 

 少年は唖然とした。

 

「私ギャルが苦手でさぁー。だから、ギャルとも仲良くしてそうなイケイケな君に、ギャルとの接し方を教えてもらいたくて......。って、あれ?」

 

 少年はまだ唖然としていた。

 そんな少年の頬を、燐華は突っつく。

 

「はっ!」

 

 少年は我に返った。

 

「な......」

 

「な?」

 

「なんなんだよぉ! 期待させやがって!!!」

 

「えぇ!!!」

 

 突然の大声に、燐華は驚いた。

 

「で、でも。お姉さんが言うなら、協力してやるよ!」

 

「本当!? じゃ、さっそくよろしくね!」

 

「おう! 任せとけ!」

 

 こうして、少年によるギャル耐性取得特訓が始まるのだった。

 

 

 高校生は燐華の隣に座ると、ギャルについての解説を始めた。

 

「まず、ギャルはテンションが高い。だから、まずはテンションを上げるのが大切」

 

「テンションかぁ。難しそうだなぁ」

 

「え、あんな性格で......?」

 

 高校生は驚いた。

 酒で堕落し、明るい燐華しか知らないのだから当然だ。

 

「まぁテンションを表に出す必要は無いんじゃないか? とにかく、楽しむ気持ちが大切だと思うよ」

 

「楽しむ気持ちかぁ」

 

 燐華は水を飲みながら高校生に返事をする。

 

「よく、余計なこと言ったらどうしようとか、変な行動しちゃったらどうしようとか思ってあがり症みたいになっちゃう人っているけど、そんなのは気にしなくていいと思うぞ。直接罵倒したりとかはしないように気を付けないといけないけど......」

 

「なるほどねぇ......」

 

「あとは、相手に流されてればいいんじゃないか? 楽しみつつ、相手に身をゆだねる。罵倒はしない。これだけでいいと思う」

 

「ふむふむ......」

 

「......って感じでどうだ? 正直、こんなのでいいのかって思うけど」

 

「うん! 大丈夫かはわからないけど、頑張ってみるよ! ありがとね!」

 

 燐華は高校生の手を握り、お礼を言う。

 少年の顔は少し赤くなり、目をそらす。

 

「......困ったら、俺にまた相談してくれよな」

 

「うん! ......って、あれ?」

 

 携帯の着信音が鳴り響く。

 燐華はポケットから携帯を取り出し、電話に出る。

 

「もしもしー? ......うん、うん。わかった。すぐ行く!」

 

 燐華は電話を切る。

 

「ごめん、彼氏が呼んでるからもう行くね! 相談ありがと! またねー!」

 

 燐華は立ち上がると、走り去っていった。

 取り残された高校生は固まっていた。

 

「え......。彼氏いんの......?」

 

 燐華に彼氏がいたことを知り、ショックで数十分動くことができなかった。

 一人の高校生の初恋が今終わった。

 

 

 

「へーい!」

 

 ガチャりという部屋ドアが開く音とともに、燐華さんは入ってきた。

 

「志永くん! 美湖ちゃんが焼き肉奢ってくれるって本当!?」

 

「本当ですよ。今日の夜は焼き肉です。美湖さんがこの前暴れたお詫びをしたいらしくて。別にいいって断ったんですけどね......」

 

「やったー! 飲むぞー!」

 

 両腕を上げて喜ぶ燐華さん。

 

「いやいや、食べてくださいよ......」

 

 肉より酒、そんな彼女に呆れながら、俺たちは夜を待った。

 

 

 夜になり、俺たちは焼き肉を食べに来ていた。

 俺の対面に、燐華さんと美湖さんが座っている。

 

「今日は私のおごりなんで、ご自由に食べてくださいね」

 

「本当にいいんですか? ご馳走になっちゃって」

 

「いいんですよ! 好きに食べてください!」

 

「ほら、美湖ちゃんもいいって言ってるんだし、遠慮せずに食べよーよ」

 

 燐華さんはメニューを眺めながら言う。

 

「すみませーん! ビール大ジョッキ十杯お願いしまーす!」

 

「あいよー」

 

 店員が返事をする。

 

「ちょ、お肉は頼まないんですか!?」

 

「まずは飲まないと始まらないでしょー! ねー美湖ちゃん?」

 

「いや、私は今日は飲む気は.......」

 

「んー?」

 

「うっ......」

 

 燐華さんの威圧に負ける美湖さん。

 

「ダメですよ。今日は外飲みなんですから。勧めないでください」

 

「うっ......。私、ろくでなしキャラになってる......?」

 

 美湖さんはショックを受けている。

 

「あーひどーい。DVだー。ぶーぶー」

 

「あ......。いや、ろくでなしキャラってわけじゃないですよ! そのー、この前の見すぎましたし! お体に悪いですから! ね!?」

 

「いいですよ......。私はろくでなしですよ......」

 

 完全にいじけてしまう美湖さん。

 

「へい、ビールお待ち!」

 

 店員二人がビールをテーブルに置く。

 

「あざーす。ほら美湖ちゃん。これ飲んで元気だして......」

 

「はい......」

 

「美湖さん! お酒飲まないんじゃ......」

 

 しかし、燐華さんに流された美湖さんはビールを飲んでしまった。

 それからはいつも通りである。

 

 

「いやー美湖ちゃん寝ちゃったねー」

 

 一時間後、美湖さんは燐華さんの膝枕で寝てしまった。

 飲み相手がいなくなった燐華さんは、やっと肉を焼き始めた。

 

「ほーら、お肉焼けたよー美湖ちゃん」

 

 箸で肉を挟み、美湖さんの口へ運ぶ。

 美湖さんの口に肉が入ると、モゴモゴと口が動き始めた。

 

「なんか勝手に食べちゃって申し訳ないな......。肉の料金は後でちゃんとお金払おう......」

 

 焼けた肉を回収し、食べる。

 有名な店なだけあって、肉の味は絶品だった。

 

「お酒も飲んで肉も食べて。嫌なことを忘れられて最高だねー」

 

 箸を置き、大ジョッキのビールを流し込む燐華さん。

 

「嫌なこと......」

 

 食事に行き、仲が深まったと思った夏鈴さんは、これからも燐華さんに絡んでくるだろう。

 

(夏鈴さんがきっかけで、これ以上酒やタバコの頻度が増えないで欲しいな......)

 

 そう思う俺であった。

 そのために、何としてでも夏鈴さんに慣れてほしいと思う俺であった。

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