俺の彼女が人として終わっているんだが 作:Melolololon
俺が病院に運ばれてから数ヶ月後。
十二月の朝。
季節はすっかり冬になり、寒い日が続いていた。
退院した俺は、通常通り大学に通い始めた。
そして、燐華さんと登下校する日々も続いている。
俺は、燐華さんの部屋のドアをノックする。
「今行くね」
燐華さんの声が聞こえてきた。
寒い空気の中、俺はぼーっとしながら待つ。
冬の冷たい風が、頬を撫でる。
今日はいつもより寒く、凍えてしまいそうな日だった。
そんな中、しばらく待つと燐華さんがドアを開けた。
「寒い中待たせてごめんね。じゃあ、行こうか」
俺は、燐華さんと手を繋ぎ大学へ向かった。
「......こんな寒い日だと、お酒を飲んだら温まってちょうどよさそうですね......」
俺がぼそりと呟くが、燐華さんは反応を示さない。
以前なら、じゃあお酒でも飲みながら通学するか、とでも言ってたと思う。
あの明るくて、陽気で、人として終わっていた彼女は、もうこの世にはいないのだ。
大学では、もうじき行われる学園祭の準備で、生徒たちが張り切っていた。
俺たちも例外ではなく、みんなが盛り上げようと放課後まで残り、準備をしていた。
「燐華さん! ここの飾りつけどうしましょう!」
燐華さんは、友人に飾りつけをどうするか聞かれていた。
「ここは、こうしたほうがいいかな......」
冷静に適切な案を出す燐華さん。
「なるほど! ありがとうございます!」
女子生徒はお礼を言うと、飾りつけの準備を始めた。
「燐華さんってすごいねー。頼りがいがあってかっこいいし」
「ねー」
生徒たちから、燐華さんを褒める会話が聞こえてくる。
俺たちは、講義室を利用し、休憩スペース兼喫茶店の運営をすることになっていた。
そして、燐華さんがリーダーというわけでもないが、頼りになると判断されたのか、場を仕切る存在となっていた。
夜八時くらいまで準備をすると、本日は解散となった。
外は朝と同じくらい寒く、俺たちは速足で駅まで向かった。
「燐華さん。明日はお休みですし、よかったら......」
俺は、家で飲まないかと誘おうとした。
「......志永くん。もう、そういうのはやめてほしい......」
悲しそうな顔をしながら燐華さんが言う。
そんな表情を見て、俺は黙ってしまった。
それから、特に会話は無かった。
その後、燐華さんを家まで送り、一人で帰ることになった。
暗く寒い道を、一人で歩く。
「どうしたら燐華さんが戻ってくれるんだ......」
俺が告白する前だったら、今の燐華さんこそ理想の彼女だった。
クールで美しい女性。
そんな彼女に惚れて告白したのだから。
だが、今は違う。
人として問題があるが、明るくて、優しい燐華さんこそが、俺が求めている本来の燐華さんだ。
燐華さんも、自分を押し殺しており、辛いはずだ。
だからこそ、お互いのためにもこの現状をどうにかしたかった。
水と言い張って酒を飲ませ、本心が出かけたところで説得をしようとも考えたが、そんな荒々しい方法は流石に良くないと思い、断念した。
退院してから元に戻るきっかけを探っているが、今のところ何もなかった。
あの彼女は、完全にこの世から消えてしまった。
もう、元には戻らない。
諦めた俺は、過去の燐華さんを忘れ、前へ進もうとした。
だが、俺の頭から陽気な燐華さんが消えることはなかった。
次の登校日。
朝の二人での登校。
「燐華さん......」
「......何?」
「こんな寒い日は......。......暖かいカフェオレとか飲みたくなりますね」
「......そうだね」
燐華さんは少し笑った。
「帰りにでもカフェに寄って飲みませんか?」
「......いいね。約束だよ」
燐華さんは小指を立て、俺の前に持ってきた。
俺も同じ様に小指を立て、指切りげんまんをした。
この指切りげんまんは、おそらくカフェに寄る約束を破るなという意味だけではないと思う。
二度と酒の話を、過去の話をするな。
そういう意味も含まれていたのかもしれない。
放課後。
俺たちは、近所のカフェへ来ていた。
朝に飲もうと話していた温かいカフェオレを注文し、席に着く。
「そういえば、もうそろそろ学園祭の準備も終わりそうですね」
「そうだね。みんなが頑張ってくれたおかげだよ」
「いやいや。みんなだけじゃなくて、燐華さんがリーダーとなってみんなを引っ張ってくれたからですよ」
「私は別に、リーダーになったつもりはないけどね......」
少し照れる燐華さん。
「そういえば、準備終了記念にみんなで食事に行くって言ってましたけど、断ってましたよね」
「うん......」
おそらく、酒を勧められて飲むのが嫌なのだろう。
飲んでしまえば、今の自分を維持するのが難しくなってしまう。
燐華さんは、それを恐れているのだと思われる。
「......俺も行くのやめます。燐華さんと一緒に居たいですから」
「そう......。ありがと」
「そうだ。料理を用意するので、二人で楽しみませんか?」
「......うん」
燐華さんは笑顔で頷いた。
それから数日後。
休日に偶然、美湖さんと出会った。
近くのレストランで昼食を取りつつ、燐華さんの現状について伝えることにした。
「そうですか......。燐華さん、戻らなそうなんですね......」
美湖さんが落ち込む。
当然だ。
美湖さんにとって大学外での燐華さんは、自分を助けてくれた憧れの存在でもあり、大切な酒飲み仲間なのだ。
そんな人物が消えてしまっては、落ち込んで当然だ。
「はい......。なので、俺ももう諦めて、今の燐華さんを受け入れるつもりです......。忘れられるかは、わかりませんが......」
正直、忘れられるはずがない。
忘れたくもない。
だが、忘れなければ前には進めないのだ。
本能が拒もうと、忘れるしかない。
「......寂しくなりますね。今までは一緒にお酒を飲んで楽しめていたのですが、最近は一人でお酒を飲んでばかりで......。私ですらこんなの辛いのですから、志永さんからしたら......」
「......でも、もう仕方がないと思います。燐華さんが選んだ道なので......」
「そう、ですよね......」
そこから、燐華さんについての話が進むことはなかった。
更に数日後。
学園祭の準備の最終日の夜七時。
「みんな。お疲れ様でした」
燐華さんが教卓黒板の前に立ち、みんなに言う。
次の瞬間、全員が拍手をした。
文化祭の準備が全て終わったのだ。
「遅くまで残ってよく頑張ったね。明日は本番。お店の経営を頑張りつつ、思い出に残るように楽しもう」
燐華さんはそう言うと、黒板の前から移動した。
その後、燐華さんは友達と話していた。
「燐華さん......。本当に来ないんですか?」
「うん。ごめんね......」
燐華さんは申し訳なさそうに言う。
「志永くんもこないんだよねー......」
「はい。すみません......」
「いいよいいよ。二人は付き合ってるし、私たちが邪魔しちゃ悪いもんね」
「ははは......」
「それじゃ、帰ろうか」
「そうですね」
燐華さんと俺は、みんなにさよならを言い、教室を出た。
寒い冬の空の下、二人で並んで帰る。
これから俺の家で食事だというのに、気持ちの盛り上がりはなかった。
昔の燐華さんと飲むのだったら、こんなことにはなっていなかっただろう。
酒を飲み、しょうもない会話をし、燐華さんの介抱をする。
今までがどれだけ楽しくて、幸せだったのかを痛感する。
「ねぇ志永くん。お料理は何にする予定なの?」
「えーっと......。チキンとか、色々用意しましたよ。まぁ、冷凍ですけど......」
「いいね。二人きりだし、ゆっくり食べながら楽しもうよ」
昔の燐華さんだったら、お酒は何か聞いてきたり、焼き鳥やおつまみも欲しいと駄々をこねただろう。
そんな少しだけ子どもらしくて、可愛らしい燐華さんを思い出す。
「......あれ?」
気が付くと、涙が出ていた。
燐華さん気が付かれないようにコッソリと拭う。
「......どうしたの?」
俺の声に反応し、こちらの顔を覗き込む。
「いや、なんでもないですよ」
俺は笑って誤魔化した。
俺の家に着いた頃には、既に午後九時頃になっていた。
部屋に上がり、すぐさまエアコンの電源を入れる。
ソファでくつろいで数分ほど経過すると、部屋が暖まってきた。
「それじゃ、料理の準備をしますね」
「うん。よろしくね」
俺は立ち上がり、冷蔵庫を開けた。
冷凍のフライドチキンを始めとする様々な料理を取り出す。
そして、レンジに入れて温め始めた。
その間に、飲み物を用意することにした。
(前の燐華さんだったら、これからお酒を飲んで、騒いで吐いたんだろうなあ......)
俺は、コップを取り出しつつそう思っていた。
だが、もうそんな彼女はいない。
必死に昔の燐華さんを忘れようとする。
しかし、頭から離れることはない。
昔の燐華さんのことを考えながら、俺は冷蔵庫から瓶を取り出し、開封する。
その中身をコップに注ぎ、燐華さんに差し出した。
「燐華さん。先に飲み物どうぞ」
「ありがとう」
燐華さんが透明の液体が入ったコップを手に取る。
(ん? 透明の液体......?)
俺は、何を入れたんだ。
何を燐華さんに飲ませようとしたんだ。
急いで瓶のラベルを確認する。
ラベルには、日本酒と書かれていた。
燐華さんは、躊躇いもなく日本酒を口に入れようとしていた。
おそらくアルコールに慣れており、臭いが分からないのだろう。
だから、日本酒が入っているとも知らずに、飲み物を口に入れる。
「ぶふっ......! ごほっ......!」
燐華さんは口に含んだ日本酒を吐き出す。
そして、思い切り咳き込んだ。
燐華さんは、テーブルにコップを勢いよく置き、立ち上がる。
「志永くん! 何で日本酒なんて出したの!?」
燐華さんが怒り、俺に詰め寄ってくる。
「す、すみません! 昔の燐華さんのことを考えてたら、無意識で......!」
「......っ!」
俺は、思っていたことを正直に言い、謝る。
それを聞いた燐華さんは、一瞬だけ悲しそうな顔をした。
そして、すぐにまた怒る。
「昔の私は忘れてっていったでしょ!」
「ご、ごめんなさい!」
本気で謝る俺。
「お酒を飲んだら......! 抑えてたのに、抑えられなくなって......!」
アルコールが回ってきたのか、燐華さんの顔が赤くなってきた。
それと同時に、燐華さんの目から涙が零れ始める。
もしかしたら、酔いで本来の性格が表に出てこようとしているのかもしれない。
出したいと思っているのかもしれない。
しかし、それを拒んでいる自分もいる。
感情がぐちゃぐちゃになり、混乱してしまっているのかもしれない。
燐華さんには、酒の話はするなと言われた。
それを約束するかのような、指切りもした。
燐華さんは、誰も傷つけたくないというその一心で自分を犠牲することを選んだ。
そうすれば、みんなが幸せになれると。
だが、本当にそうだろうか。
現に俺は、美湖さんは幸せではない。
そして、燐華さん自身も。
周囲の理想を演じ、自分を抑えている燐華さんは、幸せなのだろうか。
そんな疑問と諦めきれない気持ちが、無意識に俺を突き動かした。
その結果、日本酒を飲ませてしまった。
無意識の俺が。
本当の彼女を望んでいる俺が生み出した、おそらく最後の説得のチャンス。
(燐華さん......! ごめんなさい......!)
俺は、決意した。
燐華さんを取り戻すと。
「燐華さん!」
俺は大きな声で燐華さんの名前を呼ぶ。
突然の大声に、燐華さんは驚く。
「な、何......?」
「お願いです! 燐華さん! 元の......! 元の燐華さんに戻ってください!」
俺は、本気で思いを伝えるために土下座までした。
「し、志永くん......!?」
「俺は、燐華さんのためなら、燐華さんがありのままで生きる為なら、刺されようが構いません! お願いです! 戻ってください!」
燐華さんの目をじっと見つめ、宣言する。
「そ、そんなこと言われても......! 私は嫌だよ! 志永くんが......! みんなが傷つくなんて!」
「お願いします!」
勢いよく頭を下げる。
床に頭が衝突し、鈍い音が聞こえる。
額が痛もうが関係ない。
俺の中には、元に戻ってほしいという思いしかなかったのだから。
「俺は覚悟ができてます! 燐華さんが怪我をしたあの日から! ずっと支えていくって!」
「そ、そんな......。私は......!」
燐華さんが膝から崩れ落ちる。
そして、袖で涙を拭う。
「私だって戻りたいよ......! でも......。でも......! 怖いの! 傷つくのが......! もうあんな目に合うのは......!」
俺は、頭を上げた。
燐華さんの目はこすったせいで充血し、真っ赤になっていた。
幼い子どものように泣きじゃくる燐華さんを、俺は優しく抱きしめた。
「俺のことは大丈夫ですよ......。燐華さんを支えるって誓ったんですから......。お願いです......。俺のためにも、自分のためにも......」
「志永くん......! 志永くん! ひぐっ......。うわあああああぁぁぁぁぁん!」
燐華さんは、大人気もなく大泣きしてしまった。
そんな燐華さんの背中を優しく撫でる。
そして、長い間泣き続けた。
長い間泣き続けると、泣き疲れたのか、泣くのをやめた。
そして、突然立ち上がった。
テーブルの方に歩いていき、コップに入った日本酒を一気飲みする。
「燐華さん......!」
空になったコップを、テーブルに置く。
「......仕方ないなぁ。せっかく、本来の自分を捨てようとしてたのに......」
燐華さんが涙を流しながら俺のことを見る。
「私を戻した責任......。絶対、最後まで取ってね.....!」
真っ赤な顔をし、涙を流した燐華さんの顔は、久しぶりに見た満面の笑みだった。
その笑顔を見て、俺まで涙を流してしまった。
学園祭当日の朝。
いつも通り、燐華さんを迎えに行った。
家のドアをノックし、しばらく待つと燐華さんが出てきた。
「行こうか」
「はい。行きましょう」
俺と燐華さんは、手を繋いだ。
その瞬間、冷たい風が俺たちを通過する。
「ふふ、こんな寒い日は、お酒が飲みたくなるね」
小さな声で燐華さんが呟いた。
「......そうですね!」
そんな些細な呟きをしたことが、とても嬉しかった。
それから、大学に着いた俺たちは、自分たちの店がある部屋の前まで来ていた。
「おはようございます」
部屋のドアを開けながら、挨拶した。
そして、俺は部屋に入った。
それに続き、燐華さんも教室に入った。
「お......。おはよーみんな!」
燐華さんは、手を大きく振りながら挨拶をする。
俺は驚いた。
燐華さんの挨拶は、偽りの自分の挨拶ではない。
本来の燐華さんの挨拶だ。
当然、本来の燐華さんを知らないみんなは、呆然としていた。
「り、燐華さん......! どうしたんですか......!」
「だ、だって......! 昨日支えてくれるって言ったから、勇気を出して本来の自分を出してみたんだけど......!」
俺と燐華さんがコソコソと話し合う。
その間、俺たち以外が喋ることはなかった。
俺と燐華さんは緊張していた。
もしかして、受け入れてもらえないのではないかと。
だが、一人の生徒が、沈黙を破った。
「っぷ......! 燐華さん、テンション高すぎ......!」
金髪の生徒が、笑い始めた。
「というか、そんな一面もあったんですね。いいじゃないですか。そんな一面もあって、可愛いと思いますよ。私は」
「わ、私もです! クールな燐華さんもいいですけど、明るい燐華さんもいいと思います!」
茶髪の生徒がそう言った。
そして、二人に続き、周りの生徒たちも同じように燐華さんのことを受け入れていった。
俺と燐華さんは、安心して大きなため息が出た。
「よ、よかったですね......!」
「本当。焦ったよ......!」
俺と燐華さんは笑いあった。
この燐華さんの挨拶により、本日の学園祭が幕を開けた。
時刻は午後一時。
「燐華さーん! こっち手伝ってー!」
「はーい! 今行くよー!」
助けを呼ばれた燐華さんは、急いで向かった。
もう完全に偽りの燐華さんではなく、本来の燐華さんになっていた。
燐華さんは手際よく仕事をしつつ、手伝いまでしていた。
それに加え、明るい性格により、みんなからの好感度は跳ね上がっていた。
「燐華さんありがとう。そうだ。ここからは私たちで回すんで、二人で回ってきていいですよ」
「え? いいの?」
「はい! 燐華さんに頼ってばかりではいられません! 任せてください!」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
燐華さんがそう言うと、俺の方を向いた。
「志永くーん! 一緒に学校回ろ!」
燐華さんが俺の手を掴む。
そして、グイグイ引っ張っていく。
「あ、ちょっと! すみません、俺も行って問題ないですか?」
「いいよいいよ! 行ってきな!」
「大丈夫ですよ! 二人で楽しんできてください!」
二人の生徒がそう言うので、燐華さんと一緒に回ることにした。
「熱々だねぇ。あの二人」
「そうだね。私も、あんな感じでお付き合いできる男性と出会いたいよ......!」
「燐華さんもテンション上がりまくりで楽しそうで、見てるこっちまで嬉しくなってくるね」
二人の女子生徒は、二人の話をしながら見送った。
それから、燐華さんと様々な場所を回った。
燐華さんが射的の出店で景品を落としまくったり、一緒にタコ焼きを食べたりもした。
そして、やっぱり燐華さんと言えば、お酒だ。
ビアガーデンの出店では、大量にビールを頼み、飲んだ。
途中で何度か吐いたが、楽しそうだった。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、気が付いたら時刻は午後六時になっていた。
チャイムが鳴り、学園祭終了の報告が流れる。
「片付けは明日やるから、今日はもう自由だよね?」
「そうですね」
「じゃあさ、お酒。飲みにいかない?」
「え、いいですけど......」
「じゃあ行こうか」
燐華さんは、俺の手を握り、率先する。
たどり着いたのは、燐華さんと初めて出会った大学のラウンジだった。
「どうせみんな打ち上げに行くだろうし、静かなここで二人で楽しもうよ」
燐華さんは、トートバッグから缶チューハイを取り出す。
そして、一気に飲み干した。
「いやー! 最高!」
燐華さんが缶を握りつぶしながら言う。
それと同時に、何かを思い出すかのように、ぼーっとし始めた。
「どうしたんですか?」
「あの日のことを思い出しちゃってね......」
「あの日って、俺が告白した日のことですか......?」
燐華さんは頷いた。
あの日、人がいない午後八時頃のラウンジで、一人座っている燐華さんを見かけ、告白した。
そういえば、何故燐華さんはあんな時間に一人でいたのだろうか。
「燐華さん。あの日って、何があったんですか......?」
「......実はね。志永くんと会う前、夏鈴ちゃんに絡まれてて、ストレスで我慢できずに学校のトイレでこっそりお酒を飲んじゃったんだ......」
燐華さんは、新たな缶チューハイを取り出し、蓋を開ける。
「それでね。ここで眠っちゃって......。起きたらもう暗くなってて......。タバコ吸って、酔いが醒めるまで休んでたんだ。酒とタバコ臭かったのは、そのせい」
「じゃあ、俺が燐華さんに告白できたのって......」
「......夏鈴ちゃんのおかげ。ってことになるね」
夏鈴さんは燐華さんを嫌い、いじめて追い詰めた。
大学生になっても無意識に追い詰め続けた。
だが、そのおかげで燐華さんに出会えた。
そして、燐華さんは俺の告白を受け入れてくれた。
ほとんど会話をしたことがなかったのにも関わらず、俺の告白を受け入れてくれたのは、誰かの助けを求めていたからなのかもしれない。
「その点だけは、夏鈴ちゃんに感謝しないとね......」
燐華さんは、俺に抱き着いた。
「そのおかげで、ずっと一緒に居たいと思える......。運命の人に出会えたんだから......。志永くん......。これからもよろしくね......」
抱き着いている燐華さんの頭を、俺は優しく撫でた。
そして、そのまま燐華さんは酔い潰れ、寝てしまった。
俺は、燐華さんを膝枕し、ゆっくりと寝かせることにした。
「燐華さん。ありがとうございます......。運命の人だと思ってくれて......。そして、こちらこそよろしくお願いします......」
俺も学園祭の疲れが溜まっており、眠気に襲われた。
そして、誰もいないラウンジで一緒に仲良く眠ってしまった。
こうして、俺たちの思い出に刻まれた最高の学園祭は終了した。
本来の燐華さんに戻った状態でこの日を迎えられ、本当に良かった。
それから、燐華さんは大学でも自分らしさを出し、みんなと楽しく過ごすようになった。
燐華さんは、自分の性格のせいで悲劇が起きたと後悔していた。
だが、それと同時に、性格のおかげで幸せな人生を手に入れた。
もしかしたら今までのは、幸せの対価として用意された試練だったのかもしれない。
そして、俺たちは全ての苦難を乗り越え、本当の幸せを手に入れたのだ。
それから数年後。
俺たちは大学を卒業した後も、勿論付き合い続けた。
そして、指輪を買うお金が溜まり、俺は燐華さんにプロポーズした。
それからまたしばらくして、結婚資金が溜まり、結婚式を挙げることになった。
結婚式場にて。
「よし!」
俺は、白いスーツに着替え、最終確認をしていた。
今日は大切な晴れ舞台の日。
服装に問題ないか、厳重にチェックしていた。
途中で式場のスタッフが呼びに来たので、最後にしっかりと確認し、スタッフについて行った。
会場にて、燐華さんを待つ。
会場も大きくなく、呼べる人もあまりいなかったが、きっと思い出になるような素晴らしい式となるだろう。
「それでは、新婦の入場です」
司会がそう言うと、ウエディングドレスを着た燐華さんが入場した。
白いドレスがとても似合っており、見とれてしまった。
それから式は進み、ついに誓いのキスをすることになった。
俺は、緊張しながら燐華さんの顔を見つめる。
そして、キスをした。
そのキスは、少し酒臭いかった。
でも、いい思い出になるキスだった。
それから、参加者と一緒に食事をすることになった。
「翔。おめでとう」
父親がそう言う。
「本当おめでとう。嬉しくて、私、泣きそう......!」
「ちょ、母さん。泣かないでくれよ......!」
俺は、持っていたハンカチで母親の涙を拭う。
「ねぇ、燐華さん。俺も来てよかったんですか?」
「そうだよ。姉ちゃん、友達いっぱいいそうだし......」
「はは、いいんですよ。お世話になりましたし、今日は楽しんでいってください」
燐華さんは、俺より少し若い男性と、四十代くらいの男性と話していた。
どうやら、警備のバイトをしてた頃の知り合いらしい。
お互いある程度話すと、俺と燐華さんは自分の席に戻る。
それを狙い、美湖さんがやってきた。
「志永さん! 燐華さん! おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「美湖ちゃんありがとね。来てくれて」
「いえいえ! こちらこそ、招待していただきありがとうございます!」
「美湖ちゃんもいい人見つかるといいね」
「はい! 私も志永さんのようないい人を見つけられるように頑張ります!」
いい人と言われ、少しだけ恥ずかしくなり、照れてしまった。
そんな俺を、燐華さんは見逃さなかった。
「君の嫁は私だよ......?」
「わ、わかってますよ......!」
「全くもう......!」
少しふてくされた燐華さんが、とんでもなく可愛かった。
「り、燐華さん! おめでとうございます!」
「おめでとうございます。いやー、大学時代から仲がいいなぁとは思ってましたけど、結婚までしちゃうなんて......」
大学時代の友人も招待し、来てもらった。
大学時代の懐かしい話をしつつ、食事を楽しむ。
「ねぇ翔くん......。お酒、飲んでもいい?」
燐華さんが、テーブルの上の赤ワインのボトルを指差す。
「いいですけど......。吐かないでくださいよ......?」
「大丈夫大丈夫!」
燐華さんはそう言いながら、ワインボトルを取る。
俺は、ワインボトルのコルクを抜き、グラスに注ぐ。
そして、燐華さんは一気飲みする。
「いやぁ、このワイン美味しいねぇ」
燐華さんは、我慢できなくなったのか、自分でワインを注ぎ、飲み始めた。
「あ、燐華さん! そんなハイペースで飲んだら......」
「大丈夫だって! ほら、ピンピンしてるで......。うっ......!」
フラグにしかならない前振りの跡に、燐華さんは盛大に吐いた。
白いウエディングドレスがワインで染まっていく。
「うえーん! ごめーん!」
「もう、仕方ないですね......」
俺は、笑顔のままもう一枚持っていたハンカチで、吐いたワインを拭いていく。
周りからは、結婚式でとんでもないことになったと思っただろう。
だが、俺たち二人からしたら、俺たちらしい最高の結婚式となり、心に深く刻まれた。
おわり
この度は最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
短いですが、以上で完結となります。
普段はなろうなどの別サイトで投稿をしており、このくらいの中編をメインに投稿しています。
そのため、ハーメルンの読者様からしたらかなり短い作品となっています。
誠に申し訳ありません。
今後は各サイトでの連載が終わり次第、ハーメルンで投稿する方針で活動していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。