刀をまた、握れたのなら。 作:無課金勢
楽しみにして頂いた方々に対し、本当に申し訳ないです...ごめんなさい。
今回の話は「縁壱と話す相手が殆どいない&基本無口な性格」のせいで、心のセリフ多めです。
(...かなり暗いな)
縁壱は懐からリンに貰った"懐中電灯"という光源を取り出し、薄暗い建物の地下、その廊下を歩いていた。
夜目は――なぜか思い出せないが、彼が入っていた組織の関係上、それなりに効くほうだった気がする。
だが、この通路には彼の察知できる僅かな光源すらなかった。
(...ここか?)
やがて縁壱は、取っ手のついた扉のようなものを側面の壁に見つける。
多少警戒しながら枠や隙間を光で沿うように照らし、それが確かな"出入り口"であることを確認した。
戸の前面を視線でなぞると、上部には"製造室"と書かれていて、ドアノブにも"関係者以外立ち入り禁止"と念入りに書かれている。
何やら、重要な物を作る場所なのだろうか。
一度、廊下を照らしたが、奥はまだ全く見える気配がない。
リンは確か、彼が地下に入る前に「進んで下さい、寄り道はせずに...ですよ?」と告げていた。
(...今は入るべきではないな)
通路の奥に振り返り、再び歩き始めたその瞬間――
───縁壱先生。
────どうか、入って下さい。
直後、聞き覚えのあるが、どこか優しい声色が縁壱の耳を伝った。
恐らく部屋の中からだった。
(いつから...?)
縁壱は警戒を強め、右手を構えて扉へと歩を進める。
けれど、耳に届いた声からは悪意が感じられず、彼の五感はそれを確かに察知していた。
気づけば、拳は解かれていた。
ふと思う。あの声は確実に何度も聞いたことがある。
なのに、どうしても誰なのかは思い出せない。
まるで眠りつけない幼子が夜中、家内の襖を開けるかのように、彼はそっと扉を開き、中を覗いた。
次の瞬間、目に映った光景に、思わず一歩、後退する。
そこには、青白く淡い光が満ちていた。
自身の影を優しく写し出すが、眩しさは感じない。
更に、懐かしげのある匂いがした。この世界に来た覚えなどないというのに。
そしてその輝きの奥。
奇妙な彫刻が施された石板のようなものが、地面に取り付けられている土台の上で、浮いていた。
(...誰もいないのか?)
縁壱は大事なことを思い出し、気づけば部屋を素早く見渡していた。
先刻の呼び声の主は、この部屋――否、この空間にはいない。
死角はなく、扉自体は部屋にあるが、出入りの痕跡や音もしなかった。
彼は扉の枠に手を置き直し、光の中心へ向かって歩き出す。
本来ならば周囲を警戒すべき状況だ。
だが、なぜか本能が、あるいは、失っていた記憶が...警戒心を押し伏せ、"そこへ行け"と告げていた。
(...?)
数歩進んだところで、足先に何かが当たる。
下を見ると、それは一本の刀だった。
鍔から鞘にかけて黒色で統一されており、灰色の鞘の隙間から見える刀身も、深い漆黒に染まっていた。
(...刀? いや、これは...日輪刀?)
縁壱はさっきから驚きよりも理解を優先していた。
この世界の技術などには予想を超えるものばかりだからだ。
だが、その中に"日輪刀に酷似した刀"がある理由は理解を遥かに超えていた。
刀に目を向けていたせいで気づかなかったが、地面には紙が一枚、重りとして刀の下に敷かれていた。
彼はしゃがみ、刀を鞘ごと拾い上げ、腰に差す。
そして、紙を手に取った。
それは角が整えられた、滑らかな手触りの紙だった。
縁壱のいた時代にも紙は存在したが、これほど精巧に作られたものはなかった。
折り畳まれているそれを静かに開く。
───私...連邦生徒会長からのシャーレ就任祝いです。
────全部終わったら、また一緒に話しましょうね、縁壱先生。
─────責任を、負う者について。
縁壱は暫く黙り込んだ。
ゆっくりと、地面に落ちる"涙で濡れぬよう"、手持ちにあった布で再び折り畳んだ紙をくるんだ。
(...いつだっただろうか、一度前に泣いたのは。)
なぜ彼自身が泣いているのか、なぜ置き手紙を態々包んだかは疑問に浮かばなかった。
ただそこに浮かんでいたのは、自身を淡く照らす石板と、彼の不確かな記憶への問いかけだった。
そんな時――
「フフフッ...貴方がシャーレの先___「っ!?」___ふぇっ...?」
警戒を解いていたせいで扉が開く音、部屋に木霊する声に気づけなかった。
何者だ――そう言いかけ、振り向いた、その瞬間。
「し、し...失礼致しました〜〜っ!!?」
「...は?」
お面のようなものを身につけ、立ち尽くしていた少女が慌てて扉の外に離れる。
制止の声も届かず、人間じゃありえない速度で走り去っていった彼女に、逆に今度は縁壱が立ち尽くす事しか出来なかった。
それから暫く固まっていたが、懐中電灯が緩んだ手から離れ、床に落ちた音で彼は我に返る。
(...どうかしているな、今日の私は)
ふと溜息を零し、上を仰ぐ。
恐らく先程の速度なら、呼吸を使えば難なく追いつける筈だ。
見た所銃を持っていたが、"あの武器の速度なら対応できる"。
尤も、この世界の住民が本当に人間かどうか定かではないが、呼吸を使わず、あの速度で走れる人は見たことがない。興味もあった。
だが、そんな縁壱の"追いかけたい"という欲を、リンとの約束が抑え込んでいた。
「例え追いかけても、その後が...」
そう呟きかけ、身を震わせると同時に止める。
ただ通路の奥に向けて、再び歩き始めた。
今追いかけた暁には、ほぼ確実に約束を破った説教をされるだろう。
...まるで大人とは思えない、そんな情けない理由だった。
いつも見てくれて、本当にありがとうございます。
ワカモに関しては、縁壱のスマートフェイスによりワンパンされました。
次回
シッテムの箱
特に関わらせたいキャラクターの学園(作者の恐らく可能な候補&学園によってはかなり後半になります)
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アビドス高等学校
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ゲヘナ学園
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トリニティ総合学園
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ミレニアムサイエンススクール
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SRT特殊学園
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シッテムの箱(学園じゃないけど一応)