流浪人の世界巡り   作:増えることに飽きたプラナリア

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始まりの地、北の不死院 その1

 ぴちゃりと何かが頬に滴り落ちる。その不快感と冷たさに彼は目を覚ます

 

 まず彼が驚いたのは、自分が病室ではなく薄暗く、ジメジメとした牢屋と思われる石造りの部屋の中に閉じ込められていたと言う事実だった

 

 何故、どうしてこんなことになったのか、皆目見当もつかない彼は激しく狼狽えた。具体的に言うも30分は混乱の渦中にあっただろう

 

 しかし幸運なことに変化が一切なかったことで、今自分が置かれた状況を飲み込むことができた彼は、続いて自分の体に起きた変化に目を向けることができた

 

 彼自身が記憶する限り、最後に覚えていた病室の記憶の限り、彼は【指先一つ動かせない状態】であったはずなのに、今の彼はその場で両手をばたつかせながら飛び跳ねれるほどに健常な肉体になっていたのである(ちなみに服装は上下黒ジャージ)

 

 彼は歓喜した。状況は何一つとして分からないままであるが、それでも彼にとって今の状態はとても良いことなのである

 

 ひとしきり喜んだあと、彼は状況を理解するためにはとりあえず行動だ、と考え、唯一の出入り口であろう鉄格子を掴んで誰かいませんか、と声を張り上げる

 

 しかしその声に返ってくるものは何もない。もう一度叫んでみてもそれは変わらない。ただ光源として壁に設置された燭台の火が揺れている

 

 彼は小さくため息を吐き、鉄格子にもたれかかる。とりあえずこのまま人が来てくれるまで待とうかな、と考える彼であったが、その時、外の光が差し込む天井から何かが落ちてくる。その突然のイベントにその場で大きく体を振るわせ驚き、続いて落ちてきたものの正体が死体であることに気づく

 

 彼は絶叫をあげるとその場で飛び上がる。現代日本を生きる人間に、血だるまとなった腐乱死体などと言う刺激物に対する耐性などあるわけがなかったのである。当然ながら、その鼻を引き裂くような刺激臭に耐えきれず、彼はその場の地面に手をつけ大量の吐瀉物を撒き散らすこととなる

 

「貴公、大丈夫か?」

 と、彼が吐き終えるのを待っていたかのように、彼の頭上から声が降ってくる。彼は荒く呼吸しながらその声の方向を見上げる

 

 見上げた先、おそらく鉄格子を開けずに人を入れるために設けられた天井の穴から顔を覗かせている、兜をつけた男と目が合った

 

 彼は状況の理解がまだ追いついておらず、胸を抑えて呼吸と吐き気を抑えようとしているようで、男の言葉に答える余裕はなかった。そんな彼に対して男は

 

「落ち着いたらその死体についている鍵で牢から出るといい。貴公の武運を祈らせてもらう」

 と、それだけを告げ、穴から男の姿が見えなくなる。足跡が遠のいていっていることから、離れていったのだろうと理解した彼は、とりあえず気持ちを落ち着けようとその場から少し離れたところに座り込み、しばらくそのまま気を落ち着けることと、状況の理解に努めることに決めたのだった

 

 

 

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