流浪人の世界巡り   作:増えることに飽きたプラナリア

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始まりの地、北の不死院 その2

 しばらく休憩したことで漸く動けるようになった彼は、ここが普通の場所ではないと理解し、ここからの脱出を決める

 

 とはいえ、現状牢屋から出る手段はあの穴から男が教えてくれた方法のみ、つまり腐乱死体から鍵を探さなくてはならないのである

 

 これには彼も躊躇してしまう。落ち着いたとはいえ、慣れたわけでもないこの強烈な匂いに耐えるだけでも相当の忍耐を要求されているのに、そこに更に死体に触れなければならないのだ。現代日本人にはあまりにもハードルが高いその行為に、どうしたものかと彼が頭を悩ませていると、不意に死体の中心に白いモヤが現れていることに気づく

 

 なぜかはわからないが、そのモヤに触れるべきだと感じた彼は恐る恐ると言った様子で白いモヤに触れる。するとモヤが消えると同時に脳内に

 

【地下牢の鍵】

 

 という単語が浮かび上がり、同時にモヤに触れた彼の手には、錆びついた鍵が握りしめられていた。突然連鎖的に起こった不可解な事象に少しの恐怖と大きな混乱に見舞われながらも、とにかくこの場所から出ようと湧き出る疑問に蓋をして鉄格子へと向き直る

 

 手にした鍵は見事に鉄格子のものだったようで、差し込めた鍵を捻ると廊下に解錠音が響き渡る。想定よりも大きな音が出たことに少しびっくりしながら、彼は鉄格子に手を置き、その手に力を込める

 

 ずっと手入れがされていないことがよくわかる、耳障りな音を響かせて鉄格子が開き、彼は恐る恐ると言った様子で牢屋を出る。廊下は鉄格子越しに見た通り、なかなかに薄暗い場所であった。彼はその薄暗い一本道を不安げな表情でゆっくりと進んでいく

 

 道中に特に何かが出てくることはなく、彼は道なりに進み続けて梯子まで到着する。外の光が差し込んでいるのか明るい梯子に、彼は安堵の息をつきつつ手をかけ、できるだけ早くここから脱出したい、という気持ちを体現するように勢いよく梯子を登っていく

 

 少しの疲労感を感じながら梯子を登り切った彼の目の前に現れたのは、灰の小山に突き刺さった剣と言うなんとも奇妙な組み合わせの……おそらくは設置物であろうものが中央にある広間と、巨大な扉だった

 

 それらに興味を惹かれながらも彼の胸中に会ったのは薄暗い地下から脱出できたと言う安堵だった。そのまま彼はゆっくりと深呼吸をしながら周囲を見まわし、とりあえず正面の大扉に進むしかないことを理解し、その方向に歩き出す

 

 すると彼はまたとしてもそうした方がいいと感じた彼は、目の前の灰の小山に突き刺さった剣にゆっくりと触れる。すると小山の中から弾けるような火の手が一瞬だけ上がる。そのことに驚いて彼は尻餅をついてしまう。が、あれほど至近距離で起きたにも関わらず服や自分自身に火傷などの被害はなく、そのことに唖然としながら彼は目の前の小山を凝視する

 

【BONFIRE LIT】

 

 頭の中に浮かんだその単語に困惑しながら、彼はゆっくりと立ち上がり、もう一度この小山に刺さった剣に触れる。すると小山の中に燻る炎がかすかにその勢いを増して火の粉を散らす。そして同時に彼の体を、まるで父が抱きしめてくれているかのような安堵感が包み込み、同時にここは安全な場所だという確信をもたらす

 

 彼はゆっくりとその場に座り、しばし休憩を挟んだのち、意を決して大扉へと向かう

 

 大扉はいかにもこの先には何かがあると言わんばかりの重厚さを醸し出しており、この先に待ち受ける何かに対する緊張から生唾を飲み込んだ後、彼は気合をいれ直すように頬を一度叩き、大扉に両手をつけると、力任せに全力で押し出す

 

 彼の力によりゆっくりと扉が開き出す。そうしてあげよう現れたのはまるで教会のような印象を受ける……今は何も残ってはいない廃墟だった

 

 彼はゆっくりと周囲を見まわし、特に何もいないことを確認すると、正面奥に見える、今開けたのと同じ大扉に向かってとりあえず歩き出す。そして廃墟の中を半分ほど進んだ時だった

 

 突如として自分を覆い隠すように現れた影に困惑の声を上げた刹那、凄まじい衝撃と轟音に彼は大地から掬い上げられる

 

 悲鳴をあげた直後には浮力を失って地面に叩きつけられ、頭に彼が呻き声を上げつつ、音がした方向を見上げる。するとそこには見るからにし人ならざるものが立っていた

 

 醜い顔と突き出た立派な双角を持ち、彼の十倍を超える巨体を持った、まさに異形と呼ぶべき未知なる存在が、まるで彼が向かっていた大扉への道を塞ぐように、その手に身の丈十分な大槌を握りしめて彼と対峙していた

 

 突然の事態と、目の前に現れた異形の存在に状況が全く理解できずに固まる彼に対し、企業は躊躇なく手に持つ大槌を両手で振り上げ、それを彼に向かって叩きつける

 

 一切の抵抗すらも許されず。彼はこの世界において最初の死を迎えた

 

 

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