流浪人の世界巡り   作:増えることに飽きたプラナリア

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始まりの地、北の不死院 その3

 気がつくと、彼はあの灰の小山の前で膝を抱えて座っていた

 

 慌ててその場で体を隅々まで見回し、触って自分の体が無事であることを確かめる。その結果わかったのはジャージも、その下の体にも傷らしき傷はなく。彼は困惑を深めるばかりだった

 

 確かに自分が死んだと言う感触を覚えながら、今こうして五体満足でいると言う事実に恐怖と困惑を抱きながらしばらくその場に座り込んだままだった彼であるが。しかしそのままでいたとしても自体が何一つ好転することはないだろうと結論づけ、必死に勇気を振り絞り、開いたままの大扉へ向かおうと立ち上がる

 

 大扉の先にあの怪物はおらず、彼は一度状況の再確認を行うこととした

 

 死ぬ直前にあの怪物が現れた時、その直前に天地がひっくり返ったかと思えるほどの揺れと衝撃が起こったことから、それを起こした要因は怪物にしかないだろうと当たりをつける。そこから彼はでは怪物はどこからやってきて、どうやってあの揺れと衝撃を起こしたのか、と言う疑問をもとに思考し、一つの仮説を立てると、それがただしいかを知るために上を見る

 

 すると大部分の屋根が壊れて空が覗けるようになった……おそらくは何かしらの宗教施設だったらしい建物の屋根に、さっき自分を殺したあの化け物がいた

 

 彼はその怪物の姿に息を呑んだ。感情らしきものが一切わからず、何も感じることのできないその怪物が自分を殺すために振り下ろした大槌が視界を埋め尽くす瞬間がフラッシュバックする

 

 彼は恐怖から逃げ出そうと反射的に大扉に背を向けて走り出す。そして灰の小山の元まで走ったあたりで我に帰る。逃げたところで他にはどこにも逃げ場などと言うものがない、ということに

 

 その時彼が感じた絶望は筆舌に尽くし難いものだったろう。灰の小山の前で膝を降り、唖然とその場に立ち尽くすことしかできない彼の胸中を絶望が支配していく

 

 そのまま無為に時間を消費した後、彼は悟る。最早自分に残された道はこのまま朽ち果てるか、あの怪物に立ち向かうかしかないことを

 

 死の感触が彼の体を駆け巡る。音が聞こえてきそうなほどにその身を恐怖で震わせながら、しかし彼は立ち上がることを選ぶ

 

 死を待つだけなら、せめて未来に繋がる選択をして死のうと、彼はそう覚悟を決めて再び開いた大扉へと向かい、その扉に手をかけると、ゆっくりと顔だけを中に入れて中の様子を再度確認する

 

 中は天井を支えていた柱があるのと、端の方に樽などが置かれている以外は何もない広間のような空間になっており、身を隠せるようなものはほとんどないと言っていいだろう

 

 正面奥には今自分が体を密着させている大扉と同じものがあり、あれが出口だと考えていいだろう。他にも何かないかと注意深く探すも、柱が邪魔になって見えない場所があるため、彼は少しの間悩んだ後、意を決して広間の中に足を踏み入れ、怪物が降りてこないことを確認する

 

 そこから壁伝いに端まで移動して柱で見えない場所を確認していく。すると左手の壁には開いた鉄格子が設置されているのが見えた。彼はそこと出入り口と思われる多扉のどちらに向かうべきかを悩み、怪物に襲われる可能性の低そうな鉄格子の方を選ぶ

 

 怪物の様子を注意深く観察しながら、彼は壁伝いにゆっくりと進んでいく。しかし半分ほど進んだところで怪物の体が揺れた

 

 ぴたりと動きを止めた彼は怪物を凝視し、それに気づいているのか怪物の醜い顔が彼を捉えたまま、その巨大な体に不釣り合いな小さな翼が怪物の興奮を表すように動いている

 

 その様子を見て彼は確信する、あの怪物はこれ以上近づけば確実に降りてくると。しかし開いた鉄格子まではまだ少し距離があり、鉄格子の元まで向かえば怪物が降りてくることが予想できた

 

 彼は悩んだ末に、怪物が降りて体制を整えるまでの時間を使い、鉄格子に飛び込むことを選択し、意を決して走り出す

 

 それを見た怪物は大きく翼を羽ばたかせて宙に浮かぶと、そのまま広間の中心へと落下を開始する

 

 タッチの差で彼が鉄格子の前に到着し、怪物が着地した際の衝撃に煽られながら、彼は飛び込むようにして鉄格子の向こう側へと落下していった

 

 

 

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