流浪人の世界巡り   作:増えることに飽きたプラナリア

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始まりの地、北の不死院 その4

 鉄格子の向こう側に飛び込み、そのまま階段を転がり落ちた彼は踊り場でようやく止まることができた

 

 全身を打ち付けた痛みに顔を顰めながらも、転がり落ちた階段の先……:すなわち怪物のいる広間へと視線を上げると、開いていた鉄格子は分厚い金属製の壁よって塞がれており、とても怪物が彼に対して危害を加えることができるようには見えなかった

 

 それを見て、安堵の息を吐きながら彼は踊り場に体を横たえると、しばらく動くことはなかった

 

 それほど長い時間を経ずに彼は起き上がる。十分に体を休めれたと判断した彼は自分の体を軽く確認した後、新たに到着した場所をぐるりと見回る

 

 彼がたどり着いたのはいわゆる水路の一部と思われる空間で、彼の隣には広間の手前にあった広場にあったのと同じ、灰の小山に剣を突き立てた不思議なオブジェクトが設置されていた

 

 彼は迷わずそれに手をかざす、再びあの単語が浮かび上がり、続いて灰の小山に火が燻る。彼はそのまま道なりに進み、外の光が差し込む坂道となった通路に差し掛かる

 

 そこで彼は見た

 

 

 局部を隠すことしかできない程度のボロ布を纏った、骨と皮だけの死体……そうとしか形容できない人型の何かが、その両手に持った弓と矢をつがえ、本来は目があるはずの空洞で彼のことを見ていたのだ

 

 彼は刹那のうちに理解した。今目の前にいる人の異常性を、そしてその異常性からくる尋常なものではない恐怖を

 

 彼は弾かれたように通路から外れて壁に背をつけ、激しい嫌悪感と恐怖に支配された胸中を落ち着けようと必死に呼吸を繰り返し、少しの時間をかけて平静を取り戻す

 

 今度は壁からかすかに顔を出して通路を覗き見る。通路はなかなかにひどい荒れようで、あの人……亡者と言った方が良さそうなのでそう呼ぶが、あれがじっと矢を弓につがえたままこちらを向いている

 

 どう考えても穏便に通り抜けることは叶わなさそうなシュチュエーションに、彼は顔を覗かせたまま肩を落とす。そこからさらに周囲を注意深く観察すると、通路の途中に、あの独房の落ちてきた死体にあったものと同じ、白いモヤが見える死体が、通路に空いた穴から上半身を出して横たわっていた

 

 彼は考える。あの白いモヤは、彼の推測通りなら何かしら有益な物があることを示す証であると、もしその推測が正しければそれを取ることは現状を打開しうる鍵になりうるかもしれない。そう判断した彼は朽ちて壊れた壁の一部を床から拾いあげると、大きく深呼吸して気持ちを落ち着ける

 

 そして彼は勢いよく通路に体を晒す。それを見た亡者がつがえた矢を彼に向けるも、身構えていた彼の方が先に動くことができた

 

 渾身の力で投擲した壁の一部は、素人が投げたにしてはやけに綺麗な軌道を描き、亡者の鼻っ柱に正確に直撃し、衝撃で亡者がバランスを崩してのけ反るように倒れる

 

 チャンスは今しかないと、彼は素早く通路を駆け出し、白いモヤの元まで走ると躊躇なくそれに触れる。直後に頭の中に再び単語が浮かび上がってくるのがわかるも、今それを機にする余裕はないため、彼は全速力で片道を引き返し、亡者が体勢を整える前に通路から脱出することに成功する

 

 肩で息をし、うるさいくらいに鳴り響く心臓の音を落ち着かせようと胸に手を当てて深呼吸を数回繰り返して漸く落ち着くことのできた彼は、緊張が解けたのか安堵のため息を吐き出しながらゆっくりとその場にへたり込む

 

 そこで漸く頭の中に浮かんだ単語へと意識を向ける余裕のできた彼は、そちらへと意識を向ける

 

【ブロードソード】

【塔のカイトシールド】

 

 と、いう単語が浮かび上がり、彼の左手に無骨な両刃の剣が、そして右手には特にこれといった装飾のない、厚みが少しある金属製の盾が握りしめられていた

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった彼は驚愕に声をあげる。まさかこんな銃刀法違反確定演出な格好に変わってしまうなどと、そんなような可能性は考えていなかったのだから、これは当然の反応だろう

 

 そんな彼の驚きとは反対に、両手は剣と盾を手放すことはなくしっかりと握りしめていた。まるで自分の意思とは反対に「これが自分が慣れ親しんだ武器だ」とでも言わんばかりの迷いの無さに、彼は別種の恐怖と困惑を抱く

 

 そんな彼の脳内に、再び単語が浮かび上がった

 

【騎士の兜 】

【騎士の鎧 】

【騎士の手甲】

【騎士の足甲】

 

 その単語が浮かぶのと、全く時を同じくして彼の視界の上端が横一線に塞がれ、全身に重圧な重みと、何かを着込む感覚を覚える。それに驚いた彼は咄嗟に挙げた両手には、彼が身に着けていたジャージを隠すようにして、創作の世界でしか見たことのないような鉄の籠手に包まれていた

 

 余りにも突然すぎる事態の連続に、精神的忍耐の限界を超えた彼は、籠手を見つめたまま絶叫を上げた

 

 

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